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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:ソージが呼ばれた意味
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第六話:火山エリアへの突入

 久しぶりに封印都市のダンジョンに足を踏み入れた。

 偽物の太陽が空に輝いている。

 ダンジョン内だというのに空は青く、風が吹く。


「やっぱり、地下一階はいいよな。ピクニックしたくなる」

「いいですね。今度、お弁当を持ってきてゆっくりしましょう」

「そういう緊張感がなくなることをいきなり言わないでくれるかしら」


 ついつい、素直な感想を言ってしまった。

 エルシエでも地下迷宮には入っていたが、やはり封印都市の地下迷宮にくると懐かしさを感じる。

 エルシエの地下迷宮との最大の違いはやはり、人通りの多さだ。


 エルシエの地下迷宮は、地下一階から強い魔物が多く、未熟なものが近づかないように隠蔽されている。

 その代わり、定期的にイラクサなどの精鋭部隊が派遣されて、大規模な討伐が行われている。


 それに対して封印都市の地下迷宮は免許を得るか、騎士学校に入るなどをして許可を得れば誰でも挑める自由さがあるので、常に大量の探索者に溢れている。

 ……その代わり、犠牲者が毎日のように出ているが。


「おっ、【魔剣の尻尾】じゃねえか」


 足を踏み出そうとしたら、なじみの顔に出会った。

 四人組のランク2の探索者たちに、荷物もちの編成。

【群青の鷹】というベテランのチームだ。


 かつて、食料と水が尽きて全滅しかけたところを助けたことがある。

 逆に俺たちも満身創痍の状況で彼らに護衛してもらい、地上にたどり着けたことがある。

 そういうこともあり、割と良好な関係を気付けていた。


「久しぶりだな、【群青の鷹】。元気にしていたか?」

「ソージこそ、調子が良さそうじゃねえか。どうせ、深く潜るんだろ。途中まで一緒にどうだ?」

「いや、遠慮しておこう。俺たちについてこれないだろうし」

「おっ、言うねえ。まあ、荷物持ちなしのおまえらのが足は速いだろうよ」


 荷物持ちというのは、魔物の素材や水、食料を運ぶ役目の探索者だ。

 地下迷宮では泊りがけの探索なんて珍しくない。当然、水や食料も大量に必要になる。


 俺のように【浄化】を使えない限りは、地下迷宮の水も果物も、魔物の肉も瘴気に侵されているため、頼ることができない。


 もっともランク3を超えたあたりで、瘴気に耐性ができ、腹痛と異物感さえ我慢すれば接種できる。……ただ、耐えられるだけでダメージは負うし、動きは鈍ってしまう。


 少しでも長時間滞在するために、専用の荷物持ちを用意するのが鉄則となっている。


「それだけじゃないけどな。そういうわけで先に行く。後で会ったらよろしく」

「おうよ、また魔物ステーキを売ってくれ! おまえの魔物ステーキ、ずっと喰いたいと思ってたんだ!」

「野営で一緒になればな」


 行きは圧倒的に引き離してしまうだろうが、帰りにもどこかで一泊する必要がある。

 そのときに鉢合わせれば魔物ステーキを振舞おうと決める。

 話は終わりだ。

 先を急ぐとしよう。


「クーナ、アンネ行くぞ。全力でだ。もたもたしていると目的の地下二十一階なんてたどり着けないからな」

「任せてください。ふふふ、修行で警戒しながら全力疾走できるようになりましたよ!」

「クーナ、あなたは加減しなさい。全力のあなたには誰も追いつけないわ」


 クーナはランク3になると同時に、もともとの圧倒的な敏捷性に磨きをかけていた。

 俺ですら、限界を超えて自身の体を痛めつける【身体能力強化・きわめ】を使わないと追いつけない。


「そういえば、ソージ。あなた、その新しい槍に装備を変えたのに、オリハルコンリングは身に着けているのね」

「ああ、いろいろと使い道があるからな」


 主武装の座は、機械魔槍に譲ったと言っても、オリハルコンリングがあると戦術に幅がでる。

 糸や弓。サポートに使えるのだ。


 ただ、重量の問題があって、今までは両手両足にリングをつけていたが、今は両足だけにしている。


 三人で頷きあってあい、一歩目から全力で走る。

【群青の鷹】の面々がぽかんとした顔をしていた。

 彼らは、ランク3の速さをまだ知らないのだろう。


 さて、今までは日が暮れる前に、地下五階までしかいけなかった。

 今の俺たちならどこまでいけるのだろうか?


 ◇


「まさか、日が暮れるまでに地下十四階まで来れるとは思わなかったわね」

「ここは暑くてしんどいです」


 クーナが岩場の影で垂れキツネ状態になっていた。

 地下迷宮は十階層ごとに大きく姿を変える。

 十階まではジャングルや湖を中心にしていたが、十一階以降は火山地帯になる。幸い十四階はマグマなどがなく、比較的涼しい。


 俺たちは、昼間は全力で駆け抜けた。

 魔物などもなるべく避けて距離を稼ぐことを第一に考えての移動だ。

 そのおかげで、ほとんど稼ぎはなかったが、十四階までこれてしまった。

 十階以降で野営をするなら、涼しい上に魔物が少ない、地下十二階、十四階あたりが候補になる。


「これがランク3の力だよ。驚いだただろ」

「はい! 前回すっごく苦労したマングローブの嘘つきフロアも、まったく苦になりませんでした!」


 クーナの言っている嘘つきフロアというのは、やたら狡猾な魔物がいるうえに、足場は水面に浮かぶマングローブしかなく、そのマングローブに擬態している魔物がいて、足場だと思って飛び乗ったら最後、足に絡みつかれて瘴気まみれの水の中に沈められるという、地下十階までで一番の難所のことだ。

 初回は、いろいろと騙されて痛い目にあった。


「この調子だと、明日には地下二十一階にたどり着くな。そこまで行くと、ランク3の魔物が出てくる。この十四階が、火山地帯だと安全だから、明日と明後日は二十一階で狩りをしてここに戻ってこよう。そして四日目は早朝から、地上を目指すことになる」

「ふふふ、今まで我慢したぶん、たっぷりとランク3の魔物を狩りますよ!」

「クーナ、調子に乗らないでね。三人がかりでもランク3の魔物はかなり怖いわ」


 魔物のランク3は人間のランク3より強い。

 ただ、クーナには【精霊化】、アンネには【第二段階解放】があり、俺にも【精霊化】と【紋章外装】、それに最終手段として【蒼銀火狐】がある。


 制御しきれない真の切り札を使わずとも、三人ならミスをしない限りは無難に戦えるはずだ。


 将来的には、ランク3のままランク4と戦う必要もあるが、それはまだ先だ。

 なにせ、俺たちの真の切り札は消耗が激しすぎる。

 こんな深い階層で、すべての力を使いきれば地上に戻れずに力尽きるだろう。


 ほとんどの探索者は十階付近までしかこない。

 十階から先は、他人に助けてもらえるなんて甘い考えはすべて捨てないと生きていけない。


 ……今思えば、ライナという圧倒的な強者という保険がある状態での狩りはおそろしく恵まれていた。


「クーナとアンネは、テントの用意を頼む。俺はさっき倒した魔物を料理するよ」


 ちなみに、最小限の戦いで速度を優先していたが、すべての戦いを回避できたわけじゃない。

 このフロアで、カメを一匹狩っていた。


 フレア・タートル。

 その名のとおり、炎を操るカメの魔物で、溶岩をすいすいと泳ぐ猛者だ。

 クーナぐらいのサイズがあり、鋼の高度を持つ甲羅に引きこもるとたいていの攻撃を受け付けない恐ろしい魔物だ。


 もっとも、その甲羅ごとアンネが両断したのだが。

【暴食】を纏う魔剣クヴァル・ベステの前に、鋼の硬度など意味をなさない。


「カメなんて食べられるんですか?」

「これが意外といい味を出すんだ。コメを持ってきたから、カメ雑炊にするぞ」


 さきほどからお湯を沸かしており、ぐつぐつとカメのエンペラと呼ばれる甲羅のまわりにくっついている部分を煮込んでいた。

 このフレア・タートルはすっぽん並みにうまい。


 エンペラという部分はすっぽんでは量が少なく甲羅にしゃぶりついて食べるのだが、これだけ巨大だと切り取ってスライスをしても三人分以上ある。


 ほかにも、首の肉をたっぷり入れいてた。ここはうま味が強いところだ。

 もったいないが、エンペラと首の肉以外は使わない。

 この人数だと、エンペラと首の肉だけでお腹いっぱいだ。


 ある程度煮込んだ段階で、お湯を捨てて新たなお湯を入れる。

 かなり灰汁と雑味がつよいので、これぐらい大胆でちょうどいい。

 テントの設置が終わったアンネとクーナが戻ってきた。


「ソージ、出汁をとらないのね」

「フレア・タートルだけで十分だ。一度お湯を出汁ごと捨てても、それでちょうどいいぐらいに濃厚な出汁がでる」


 お湯を注ぎなおして、煮立ったところに大量の匂い消しのハーブ類を突っ込む。

 そこに調味料で味を調えて、コメを入れる。辛めの味付けにした。


 コメが煮立ってくるとできあがり、フレア・タートル雑炊が完成。

 ゼラチン質のエンペラはぷるぷるで、首の肉は歯ごたえがあってジューシー。

 これほどうまい雑炊はなかなか食べれない。


「うわあ、カメさんなのにすごい美味しそうな匂い」

「すごいわ。匂いだけで旨味の強さが伝わってくる」


 二人はもうカメを食べることに対する恐れなんて忘れて、雑炊に夢中だ。

 なにせ、いろいろとゲテモノも食べさせてきたからな。

 今更、カメぐらいではおびえない。


「じゃあ、食べようか。今日のは一段と美味しいよ」


 楽しい夕食の時間だ。

 娯楽の少ない探索中に美味しい食事というのは最大の休息になる。


 ◇


 焚火を囲みながら、食事が始まった。


「ソージの言った通りね。すっごく旨味が強いわ。こんな美味しいスープ初めてかも」

「はむ、もぐもぐ、お米との相性が最高です!」


 いつも以上に二人の箸が進んでいる。

 すっぽん並みにいい出汁がとれるフレア・タートルの破壊力を味わっているのだろう。


「この、噛み応えがあるお肉も素敵です。噛めば噛むほど味がでます!」

「私は、このぷるぷるのお肉が好きね。甘みがあって、とろとろで、くせになりそうよ」

「俺は両方好きだな。だけど、一番は出汁を吸ったコメだろ。パンじゃなくて、コメじゃないとこの感動は味わえない……お代わりはいるか?」

「もちろんです! 大盛で!」

「私も大盛で頼むわ」


 二人とも、すっかりフレア・タートル雑炊を気に入ってくれたようだ。

 鍋いっぱいのフレア・タートル雑炊があっという間に空になっていく。


「ふう、お腹いっぱいです。さっきから、妙に暑いですね」

「そうね、体の内側からぽかぽかしてるわ」

「まあ、当然だな。フレア・タートルは精力剤としての効能も高いからな。明日からの探索もはかどるだろう」


 そういう俺も体が熱くなっている。

 精力剤としても使えると思っていたが、思った以上に効果が強い。


「ううう、ソージくんのエッチ」

「いきなり何を言い出すんだ?」

「えっ? ……ううう、なんでもないです」


 クーナが顔を逸らしている。耳が赤くなっている。

 なぜだろう?

 少し考えてようやくわかった。


「なるほど、そういう意味での精力だと思ったのか。たしかに、その効果もあるな」

「言わないでください!」


 相変わらず、クーナはエロギツネのくせに純情だ。

 こういう話を振られると取り乱す。


「ソージ、今日はたっぷり可愛がってほしいわね。悪気はなかったのだろうけど、この雑炊のせいで、火照ってしょうがないわ」

「アンネ、抜け駆けはずるいです!」

「……ふふ、冗談よ。クーナも一緒にね」


 うるんだ目でクーナとアンネが俺のほうを見てくる。

 娯楽の少ない地下迷宮の探索中。

 食事は数少ない娯楽だが、恋人と同伴なら夜も最高の娯楽が待っている。


「結界を張ったら、テントに行こうか。今日は楽しもう」


 ほほを染めた二人とともにテントに向かう。

 フレア・タートル雑炊で、いつもよりいろいろと元気だ。

 今日はいつも以上に楽しめるだろう。

 

 

 

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[一言] スッポン食ったことないんや
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