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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:ソージが呼ばれた意味
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第三話:ランク測定と面倒ごとの予感

 久しぶりに学園で授業を受けていた。

 早速、クーナとアンネが婚約をばらしたり、クーナに恋をしていたライルが燃え尽きたり、いろいろあった。

 当然のように休憩が始まった瞬間、質問攻めにあった。


 ごまかすのも面倒なので、ありのままを話した。クーナの故郷に行き、そこでクーナとアンネと結ばれた経緯をだ。

 クーナとアンネは若干照れながら、俺の話を補足をしてくれた。

 それはどう見てものろけだった。


 男子生徒には妬まれ、悔し涙を流され、女子生徒にはたっぷりとからかわれたり、祝福されたり、実は好きだったと告白されたり、あと一人どうかなんて言われた。


 クーナとアンネのような最高の女性と結ばれておいて他の女性に手を出すと罰があたる。丁重に断った。


 そして、今は昼休憩だ。

 昼食を済ませると訓練場に向かい、そして午後から訓練を受ける。

 かるい実技の訓練を終えればランク測定だ。


 クラスメイトたちの成長ぶりを見せてもらおう。

 学園の底辺のベンチで、寮の食堂で包んでもらった弁当を食べている。

 昼食は弁当組と街に降りてランチを楽しむ学生の両方がいる。

 昼休憩の時間はそう長くないので、俺たちは弁当に頼ることが多い。


「んー、やっぱりおばちゃんはすごいです。冷めてもちゃんと美味しい」

「一度、聞いたことあるわね。実は、朝のバイキングの余りを詰めてるだけじゃなくて、冷めてから食べることを考慮して、詰める前にミートソースを煮詰めたり、塩を振り足したり工夫しているらしいわ」

「すごいです! 今度、コツを教えてもらわないと。お弁当はずっと作ってみたかったので参考にしたいです」


 クーナが目を輝かす。

 クーナは料理が好きだ。それも創作とつくようなものが。


 まともな料理のほうもばっちり作れるし、シリルさん仕込みの保存食、クルミとラードとハチミツをたっぷり練り込んだクッキーは味だけでなく栄養も抜群で緊急時には役にたつ。あれは一枚で一食分の栄養がバランスよく取れる上に、カロリーも十分だ。


 それとは別に、趣味でいろいろとチャレンジングなメニューを作るのが好きなのだ。

 俺は食材では冒険するが調理は堅実だ。だがクーナの場合は食材は無難だが調理で冒険する。


 頻度が少ないことが救いだ。寮では食事が用意されている、地下迷宮に潜っている間は魔物料理なのでクーナの専門外で調理は俺に一任される。


 今まで滅多に料理をする機会がなかった。

 だが、クーナは今、弁当に目をつけたのだ。

 弁当なら、地下迷宮に持ち込める。


「クーナ、弁当で冒険をするなよ? 地下迷宮で食材を無駄にしたら死が見えるぞ。持ち運べる量に限界があるし、食べられる魔物が毎回都合よく現れるとは限らないからな」


 クーナの料理は、当たりはずれが非常に大きい。

 当たりのときは、まったく新しくなおかつ本当に美味しい料理を楽しめるが……外れのときは食べるのが苦痛なレベルだ。


「うっ、ちゃんと味見しますよ」


 クーナは馬鹿じゃないのでちゃんと味見をする。

 味見をしたうえで、とびっきりまずい料理が出来たときも面白がって食べさせようとする。


「わかった。次潜るときはクーナのお弁当を楽しみにしておくよ」

「はい、任せてください! だれも見たことがないものを作りますよ!」

「いや、無難で美味しいのがいいな」

「あっはっは、そんなの面白くないじゃないですか」


 引きつった笑みになってしまう。

 たまに出る大当たりを、また作ってくれるとうれしいのだが、クーナいわく人生で料理を作れる回数は限られている。なら、同じ料理を繰り返すより、毎回違う料理を作って冒険したいという実にロックな心意気だ。


 あたりが出ることを祈っておこう。

 ……怖さはあるがクーナの愛妻弁当は楽しみだしな。


「クーナ、保存食のイラクサクッキー。多めに作っておいてほしいわ」

「いいですよ。アンネ、あれ好きだったんですね」

「ええ」


 アンネは小声で保険と言っていた。

 まあ、とんでもないものが出来たときでも、保存食が多めなら安心だろう。


 ◇


 楽しい昼食の時間が終わった。

 その後、訓練場に向かった。俺たちが訓練場に到着したのは、休憩終了の五分前だった。


 更衣室で運動着に着替えている。騎士学校は制服も運動着も可愛い。

 クーナやアンネのような美少女が着ると本当に絵になる。制服時にもスパッツをはいているが、運動着姿だとスカートがなくなって独特のシルエットを楽しめる。

 クーナたちには隠しているが、俺はスパッツフェチだ。

 なので、こうしてクーナとアンネを見れて非常に喜んでいる。

 

 もうすでにクラスメイトたちもいる。

 そのなかには、朝燃え尽きていたライルの姿も。

 おっ、こっちに来た。


「我が姫君」


 ライルはまだ立ち直っていない様子だが、なんとか笑ってみせた。

 クーナは俺の後ろに隠れてぷいっと顔を逸らした。


「返事は要りません。ですが、聞いてください。……朝、祝福の言葉を伝えられずに申し訳ございません。クーナ様の幸せこそが我が幸せ。心の底から申し上げます。ご婚約おめでとうございます」


 なんとか、絞り出すようにして祝福の言葉をライルは吐き出した。


「あなたを手に入れることは私にはかないませんでした。ですが、これからもあなたを陰ながら守らせていただく思います。見返りは要りません。それが私の選んだ道です。それでは」


 そう言うと去っていった。

 ライル、彼の愛はあるいは本物かもしれない。


「ソージくん、気持ち悪い人ですけど、悪い人じゃないかもしれません」

「そのセリフ、ライルに聞かせてやりたかったよ」


 そう言って、俺は苦笑した。


 ◇


 いよいよ午後の訓練が始まった。


「全員揃ったね! じゃあ早速、走れ! 外周を二周、二〇キロだ。制限時間は四十分。遅れたら罰ゲームだからね!」


 ナキータ教官の号令で、生徒たちが一斉に走り出す。

 今日のメニューは、ランニングと筋トレと体術だ。


 魔術をメインにする生徒たちも、同じメニュー。

 遠距離戦を得意にしていても、体力がなければ迷宮での垂れ死ぬ。最後まで生き残るのは、最後まで走れる奴だ。


 さらに前衛に守ってもらうからといって、脇道や背後から襲撃される危険性は常に付きまとう。ある程度の自衛能力がなければ生き残ることができない。

 だから、体作りと護衛術を騎士学校の生徒は全員学ぶ。


「ソージくん、エルシエでの特訓よりずっと楽ですね」

「エルシエでは、もっと厳しかったからな」


 エルシエではそれぞれの必殺技の特訓のほかにも、基本的な身体能力の強化にも主眼を置いていた。

 それに比べるとこの訓練は温すぎるぐらいだ。


「そもそも、私たちを基準にするほうがおかしいわ。ランクが二つ使うもの」

「それもそうだな」


 ランクが上がれば体力も筋力も跳ね上がる。

 俺たちが辛い訓練なら、他の生徒たちは耐えきれないだろう。


「ランク測定が終わったら、ナキータ教官に頼んでみよう。こんなメニューだと肩慣らしにもならない。時間の無駄だ」


 ランニング一つとっても距離を二倍、制限時間を半分にしてもらうべきだな。

 ぬるま湯で楽をするより、強くなることを優先したい。


 そうして、メニューが次々に消化されていく。

 夏休み前のクラスメイトたちはメニューが終わったあとぐったりしていたのに、今でもそれなりに余裕がある。

 たしかに成長している。

 ナキータ教官もうんうんと頷いて満足そうに口を開く。


「ほう、みんな余裕って感じだね。次はランク測定だ。先生、ちゃんと夏休み前のデータを持ってるからね。夏休みの間、サボってた子はわかるよ。そういう子はお仕置きだ!」


 ナキータ教官の前に生徒たちが列をなす。みんな、ランク測定が楽しみといった様子だ。

 ランクの測定というのは高度な魔術だ。工程数が多い複雑な魔術。外で受けようとすると高額な料金を請求される。


 一流探索者の知り合いや、一部の優秀な上級生のコネがあれば別だが、基本的にはこういうタイミングでないと己のランクを知れない。楽しみにするのも無理はない。


 俺とクーナとアンネは最後尾に並ぶ。

 俺たちがランク3だと知れば、大騒ぎになってナキータ教官もランク測定どころじゃなくなる。それはランク測定を楽しみにしているクラスメイトたちに悪い。


 ナキータ教官のランク測定はどんどん進んでいき、生徒たちは一喜一憂する。

 そして、クラスメイトたちと情報を共有し合い、騒いでいる。


 いつもならナキータ教官も静かにしろと怒るが、今日ぐらいは羽目を外しても仕方ないと見逃してくれている。

 ライルの番だ。


「へえ、すごい。まさか夏休み終了時点でランク1の最上位……これ、もしかしなくても一年生のうちにランク2になれるよ。はは、すごいね。卒業時のランク3も夢じゃない。君って、本当にすごいね」


 ほう、俺たちのような反則を使わずにそこまで。

 生半可な努力では届かない。

 クーナのために命を賭けて修練を積んだというのは嘘じゃなかったようだ。視線を何度もくぐり続けてきたのだろう。


「もちろん、そのつもりです。僕は我が姫君にふさわしい剣にならなければいけませんから」


 彼は薄く微笑んで列からどいていく。

 測定が終わったクラスメイトたちが駆け寄り、大騒ぎする。

 それだけ、一年の間にランク2に届きそうというのはすさまじいことなのだ。

 そして、いよいよ俺の番だ。


「さて、ソージ。君さ、もしかしてもうランク2の上位に届いてたりしないかな? ははっ、まさかね」

「それは見ればわかると思いますよ」


 ランク1最上位のライルのことでさえ、あれだけ驚いたのだ。

 ランク3に届いたと気が付けばどんな反応をするだろう。


「はっは、生意気だね。落第させちゃうぞ♪」

「スゴート教官に今のセリフを伝えましょうか?」

「げっ、先輩、教育主任になっちゃって減給すらできちゃうんだよ!?」


 それはいいことを聞いた。

 あの人なら公正な判断をしてくれるだろう。

 こんなやり取りをすると、ナキータ教官とユーリ先輩の同一人物説が、どんどん気の迷いな気がしてきた。


「なら、行くよ」


 ナキータ教官が術式をくみ上げていく。

 術が完成する。

 そして……。


「うっ、そ、ランク3。一年……どころじゃなくて半年で、ランク3? そんなの聞いたことがないよ。ぜったい、こんなの、ありえない。まさか、クーナとアンネも」


 ナキータ教官が目を見開く。

 それを聞いた、クラスメイトたちも嫉妬や羨望、そんな感情を通り越して、あまりの驚きに言葉をなくしている。


 俺は無言で列を離れるとクーナがやってきた。その後ろにはアンネがいる。


「まさか、クーナもってことはないよね。うん、見るよ」


 そうして、またしても驚きのリアクションをした。

 アンネのときもそうだ。

 クラスメイトたちはよやく正気を取り戻して、目の色を変えて俺を取り囲む。


 ……このクラスは平民出身で成り上がりを夢見る生徒たちばかり。

 俺たちがどうやって、歴代最速でのランク3、それも圧倒的すら生ぬるい速度で到達したかを知りたいと思って当然だ。


 俺は豆なので今まで倒した魔物の種類とランクをすべて覚えている。

 おおまかに話すと、次第にクラスメイトたちの眼から光が消えていき、うつむき出した。

 そんな戦い、ただの自殺行為だと誰もが思っている。

 珍しくナキータ教官も真剣な顔で何かを考え込んでいた。


「えっと、みんな今日の授業はこれでおしまい。ソージ、アンネ、クーナ。この騎士学校だとランク3に到達した生徒は、まず校長と面談。それから、街の領主に挨拶することになってるの。というわけで、あとで先生の部屋に来て。校長と話す前にいろいろと注意事項を説明するから」

「わかりました。後で向かいます」

「うん、そうして……はあ、いろいろと面倒なことなりそうだけど、がんばってね」


 ナキータ教官がうんざりした顔でつぶやいた。

 きっと仕事が増えたとでも思っているのだろう。


 そして、面倒なことになりそうだという忠告は、当然だろう。

 ランク2のときもそういう話になりかけたが、ランク3ともなればもっとややこしくなる。根堀、葉掘り、ランクアップの秘密を聞かれるだろう。

 面倒そうになれば、最悪、貸しを作っておいた王の力を借りたり、シリルに助けてもらおう。

 そんなことを考えて、俺は午後からのスケジュールを変更していた。

  

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