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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第六章:ソージが呼ばれた意味
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第二話:久しぶりの授業と級友たちの再会

 食堂で俺を逆恨みした先輩と一悶着あった。

 あの人が俺のことを逆恨みしようが、できることはたかが知れている。

 気になるのは学園最強で特待生寮のリーダーのような人物が帰って来ることだ。


 先輩は、あの人が帰って来る以上、好き勝手はさせないとは言っていたが、群れのボスを気取るような人物なのだろうか?

 直接的な暴力であれば、ただのランク3ごときに遅れは取らない。対応は楽だ。

 だが、間接的な手段に出られるといろいろと面倒になる。


 どっちみち、戻って来ないとどうしようもないので後で考える。

 今はそれより……。


「ソージくん、アンネ、急いで。時間がぎりぎりです」


 目の前をキツネ尻尾を揺らしながらクーナが走っている。

 クーナの言う通り、かなりぎりぎりの時間だ。


「クーナのせいだろう」

「そうね……、朝ごはんを食べたら直接学園に行くつもりだったのにリボンを忘れるなんて」


 騎士学校の制服にはリボンが巻き付けられている。

 一年、二年、三年でそれぞれ色が違うのだ。

 それをクーナは忘れてきた。


「ううう、ごめんなさい。久しぶりだったんでうっかりしてました!」


 やれやれ。

 まあ、クーナらしいと言えばクーナらしい。

 俺とアンネは苦笑した顔で頷き合って足を早めた。


 ◇


「ぎりぎり間に合ったな」

「ふう、以前の私たちなら間に合いませんでした」

「こういうことのために鍛えたわけではないのだけど」


 全力疾走したおかげで、ホームルームが始まる一分前には教室にたどり着いた。

 タイミングがタイミングだけあって、みんなの注目が集まっていた。

 そこに一人の男がやってくる。


「麗しの我が姫君、クーナ様。ようやく、ようやく、会うことができました。このライル、この日をどれだけ待ち望んだことか! あなたがいない日々は、まるでウインナーの入っていないホットドックのように味気ない日々でした。これで再び、輝きの日々が始まるのですね!」


 ライル。クーナの兄であるライナと似た名前をもった青年。

 端正な顔立ちと、芝居がかった動作をする男。


 入学試験では俺たちと特待生の座を争った実力者だ。

 このクラスでも俺たちの次に優秀な生徒で、将来を期待されている。

 だが、何を間違ったのかクーナに惚れてしまい。クーナにふさわしい騎士になるため、兄のコネを使って、一年生にも拘らず先輩たちと一緒に危険な階層まで潜っている。

 荷物持ちとしか期待されていなかったが、クーナへの愛と執念により、信じられないほどの成長を遂げて、今では立派な戦力の一人となったと本人に何度も自慢された。


「私は別に会いたくありませんでした。アンネの悪口を言ったあなたは嫌いです。……それに、ちょっと怖いです」


 しかし、ライルの想いは届かない。

 第一印象が最悪だったせいだ。入学試験で俺たちはあまりにも優秀な結果を出してしまった。それを見た彼は、妬んで不正をしたと喚いたあげく、アンネの家のことを持ち出して彼女を罵倒した。友達を大事にするクーナにはその時点で敵認定されている。


 その後も、ことあるごとにクーナにしつこく求愛していて、クーナはうざがっているのもマイナスだ。


「そうは言わずに、我が姫君。私はあなたの騎士として生涯の忠誠を」


 クーナは冷たい目で見降ろしている。

 たぶん、そろそろ我慢の限界なんだろうな。手がでそうだ。


 とある事件があるまでは、クーナはもう少し優しい対応をしていた。

 だが、ある日、クーナのあとをつけ回していたライルが、偶然抜け落ちたクーナの尻尾の毛を拾って、匂いを嗅いで舐めるところを見て以来、クーナの嫌悪感が一気に高まった。

 ……ライルがそうした気持ちはわからないこともないが、そんなところを見られたら、もうどうしようもないと思うんだ。


「騎士になってもらう必要がありません。だって……」


 そう言って、クーナが俺のほうを向く。いたずらっぽい目の輝きがあった。

 こいつ、何かやらかす気だ。


「私はもうソージくんのものですから」


 クーナは俺に抱き着いてきた、尻尾を足にからめる本気仕様の抱き付き。


「なっ、なっ、なっ、貴様、我が姫君に手を出したのか!」

「出されちゃいました♪ ソージくんに全部捧げちゃってます」


 すりすりと頬ずりまでしてくる。

 俺のほうはどんどん気まずくなってきた。


「ふっ、不純な。学生としての本分を」

「いいんです。ソージくんは婚約者です。ちゃんと責任はとってもらうので、好きにして構いません」


 あっ、ライルが灰になった。

 そして崩れ落ちる。


「うっ、嘘だ。嘘だ。我が姫君が、クーナ様が」

「ソージくん、アンネ、行きましょう。先生が来ちゃいます」


 鼻歌を奏でながら、クーナが俺の手を引っ張る。

 クラス中の注目が集まっている。


「クーナ、いくらなんでもこれはない」


 隠すつもりはないが、少し恥ずかしいじゃないか。

 もう少し時と場所を選んで少しずつ話すつもりだったのに。


「そうよ、クーナ。これはないわ」

「ううう、ごめんなさい」


 おっ、アンネが助け船を出してくれた。

 ……いや、なにかおかしい。

 いつも冷静なアンネの頬が若干赤くしているし、挙動不審だ。

 アンネが腕に自分の腕を絡ませて級友たちのほうを向いた。


「クーナ、反省しなさい。抜け駆けはずるいわ。みんなに話すなら私も一緒よ。ということで、私もソージと婚約したの」


 っと言って、級友たちのほうにVサイン。

 アンネのVサインなんて初めて見たな。

 級友たちがあまりの驚きに言葉をなくす。

 そして、数秒経ってから。


「「「ええええええええええええええええ」」」


 一斉に驚きの声をあがった。

 それは驚くだろうな。

 学生結婚、それも二人同時に、さらには二人ともとびっきりの美少女。

 質問攻めにあうのは確実だ。

 面倒だから、すべてありのままを話そうとあきらめの境地になる。


「みんなー、おっはよう。ごめんねー、遅刻しちゃった。先生、夏休みぼけかな。あははははは。うん、夏休み早めにとっちゃったから、夏休みボケがいつもよりひどいや」


 朗らかな声で、このクラスの担当のナキータ教官が現れた。遅いと思ったら遅刻したのか。

 ナキータ教官は年齢不詳の童顔教師。見た目は頼りないが優秀な人であることは、このクラスの全員が知っている。

 よし、とりあえず救われた。質問攻めは回避できそうだ。


 この学校は騎士学校。

 どれだけ大事件があっても、ナキータ教官という上司の前で私語を話す奴はいない。

 ちゃんと俺たちは席について、ナキータ教官のほうを向いて傾注していた。

 とは言っても、みんな興味はあるようで俺に意識が集まっているを感じる。休憩時間は面倒なことになりそうだ。


「みんな久しぶりだね。まずは課題の提出をしてね。課題を出さないと単位あげられないよ。それと、あんまり手抜きしてても、やっぱり単位をあげない。みんな、ちゃんとやったかなー」


 クーナのほうを見るとぷいっと顔を逸らされた。

 先生、ここにやってなかった奴が一人います。


「それと、今日は初日だから課題を集めて連絡事項の共有だけで午前は終わり。午後は簡単な訓練と……みんな大好きランク測定だよ! 夏休み、一か月も自由な時間があって成長していない、向上心のない子は要らないから。あっ、これ私の個人的な感想とかじゃなくて、騎士学校の総意だからね。先生信じてるぞ、先生のクラスには、そんな子がいないって」


 生徒たちのほうを見る。

 ほう、ちゃんとみんな自信があるようだ。顔にそれが現れている。

 夏休みの間に腕を磨いたのだろう。


 少し、楽しみになった。

 ただ、不安もある。俺たちがランク3になったことが初日にして隠せなくなってしまった。


 下手をしたら学園中が騒ぎになるだろう。

 すべてを正直に話そう。どんな敵と戦い、どう成長してきたかを。

 幸い、今はいろいろと後ろ盾ができたから変なことにはならないだろう。

 それからもホームルームはつつがなく進んだ。


「んっと、課題の回収は終わり、連絡事項も全部伝えたねっと。午後からは訓練場だよ。遅れないでね! じゃあ、ちょっと早いけど休憩だ」


 そうして、風のようにナキータ教官が去っていった。


 たまに思っていたが……この人、微妙にテンションや話し方がユーリ先輩に似てないか? そういえば、二人が同時に並んでいるところを見たことがない気がする。

 そして、早めに夏休みをとったという発言。ユーリ先輩のいなくなった時期と一致する。

 さらに言えば、妙に学園で融通を利かせられるユーリ先輩の謎も、解消できてしまう。


「……まさかな」


 さすがにこのレベルの変装は不可能だろう。

 それはさておき。

 級友たちの視線が俺に集まった。視線だけじゃなく一気に駆け寄ってきた。

 ここをどう切り抜けるか。

 それが一番大事だろう。

 引きつった笑みを浮かべながら、俺はそんなことを考えていた。

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