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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:エルシエからの旅立ち
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プロローグ:ユーリ先輩の忠告

 エルシエで二か月近く過ごした俺たちは、久しぶりに封印都市に帰ってきていた。

 封印都市にたどりついたのは夕暮れ、帰って来たお祝いにパーッと酒場で騒いで、寮でぐっすりと眠っている。


 二か月ぶりの特待生用の寮の自室を懐かしく感じる。

 あっという間に過ぎてしまったエルシエの二か月の日々は非情に濃密な時間だった。

 俺がゲームで体験した168年を含めてもこれほどの濃密な時間は記憶にない。


 起きれば、また学園生活が始まる。

 ランク2になったときですら大騒ぎになった。ランク3に俺たちが至ったと聞けば、クラスメイトや教官たちはどんな顔をするか、それがちょっと楽しみだ。

 そして、エルシエに行く前と大きな変化が一つあった。


「むにゃむにゃ、ソージくん、尻尾、いじめちゃだめです」


 隣でクーナが眠っていた。

 それも裸で左腕に抱き着いている。


 エルシエで気持ちを確かめ合って結ばれた俺たちは遠慮をすることをやめて体を重ねる関係になった。

 クーナだけでなくアンネとも結ばれており、右となりにはアンネがいた。もちろん生まれたままの姿だ。


 クーナとはちがい寝相がよく、すやすやと寝息を立てている。

 三日間の馬車生活では御者もいて、しばらくご無沙汰久だったので、ついつい昨晩は盛り上がってしまった。

 三人で情熱的な夜を過ごしている。


 三人でするのも悪くはないが、二人きりでいちゃいちゃするのも捨てがたいので、夜は三人の日、クーナの日、アンネの日と、ローテーションをまわすことに決まっていた。


 目がさえてしまったので、眠っている二人の体を楽しむ。

 起きているときは違った良さがある。


 アンネの小さくてかわいい胸を撫でてから、クーナの胸に顔をうずめていると、寝ぼけたクーナに抱きしめられた。胸が押しつけらえる。やわらかく顔が沈み込んむ、息苦しいが、これはこれで最高だ。


「ソージはえろえろだねー。お姉さんちょっとびっくりだよ」


 久しぶりに聞く声。

 目的が不明のトリックスターにして神出鬼没の少女。

 相変わらず、気配を感じ取れない。彼女と接していると武芸者としての自信がなくなってくる。


「ユーリ先輩、こんな時間に男の部屋に来るなんて夜這いのつもりか?」

「まっさか、あたしのタイプはソージとは違うもん。あたしは一途な人が好きなんだ」


 からからからと少女は笑う。

 薄茶色の髪、明るいしぐさと表情、幼くも見える先輩。

 ユーリ先輩。


 この人がただの先輩でないことは知っている。

 地下迷宮で、人為的にスタンピードを引き起こしたのを見ているし、俺たちをエルシエに導いたのも彼女だ。

 さらに、あのシリルと知り合いでもあり、シリルはユーリ先輩のことは話せないと言い切った。

 そんな相手がただの学生であるはずがない。


 第一、今この場でも異常なことが起きている。

 クーナとアンネが起きない。

 彼女たちは無数の戦いを経て、一流の冒険者になっている。【魔剣の尻尾】のメンバー以外が近づけば飛び起きるのが普通だ。

 そうならないのは、ユーリ先輩が俺と二人きり話したかったかであり、”なにか”をしているからだ。


「なら、帰ってくれ。俺のささやかな幸せを奪わないでくれ」

「うわあ、ソージって恩知らずなんだね。あたしがエルシエに行けっていったから、瘴気焼けもひどい火傷も治ったんじゃないか。そのうえ、君たちが留年しないように、手配したのもあたしなんだよ? これだけしてあげたのに、警戒されるなんて、お姉さん悲しいよ。しくしく」


 今の言葉も本当だ。。

 ユーリ先輩は学校側にもいろいろと手をまわしてくれていた。

 アンネがクヴァル・ベステの授与式に出るために欠席した授業を公欠扱いにしてくれて、夏休みに入るまでの授業も課題の提出で出席扱いにするように交渉してくれている。

 ユーリ先輩の力がなければ俺たちは留年がとっくに決定していて、アンネの貴族になるという夢は絶たれていた。


「ユーリ先輩には感謝してるよ。だけど、恩着せがましく言うのは違うだろう。ユーリ先輩は言っていたよな。自分は味方でも敵でもない。ただ、ユーリ先輩の目的のために行動する。……俺たちを助けたのもその目的のためだろ」


 ユーリ先輩に救われたこともあるが、逆に彼女のせいで死にかけたこともある。

 うかつに信用はできない。


「まあね。君たちはあたしの望んだとおり、いや、想像以上に力を得てくれた。でも、まだ足りないな。はやくランク4になってもらわないとね。そうじゃないと困る。あたしも君たちもね。あんまりもたもたしてると、また試練いたずらしちゃうぞー」


 そういって怪しく微笑み、近づいてくる。

 緩慢に見える動作、なのに反応すらできずに距離を詰められて、胸板を指でなぞられる。


「ふふ、美味しそう。お姉さんがかわいがってあげようか」

「……余計なお世話だ。俺もユーリ先輩はタイプじゃない。一つ教えてくれ。ユーリ先輩はシリルより強いのか?」


 ふとそんな疑問がわいてきた。

 この人には底知れなさがある。

 あるいは、あのシリルより強いかもしれない。


「まっさか。あの生物最強の魔人に勝てるわけないじゃん。それどころか、君に勝てるかも怪しい。しょせん、あたしはその程度だよ。その程度に制限されてる」


 気になる言葉の使い方だ。

 それだとまるで、俺やシリルを圧倒する力を持ちながら、なにかしらの手段で力を抑えられていると言っているようなものだ。

 おそらく、それは間違ってはいない。


「答えは期待しないが、あえて問おう。ユーリ先輩。おまえはいったいなんなんだ?」


 ユーリ先輩は微笑む。

 幼い外見には似合わない色気。


「さぁてね。あたしはあたしだよ。みんなに愛されるかわくて頼りになる先輩だよ♪」


 そう言うと俺から離れていく。

 そして扉の前で振り向いた。


「あっ、君が変なことを言うからここに来た目的を忘れていたよ。危ない、危ない。ねえ、ソージ。そろそろ【破滅】が始まるよ。君がこの世界に呼ばれた理由、忘れないでね」


 それで話は終わりと立ち去ろうとする。

 その背中に俺は声をかける。


「待ってくれ、ユーリ先輩」

「言っておくけど、あたしはこれ以上、君の質問には答えないよ。それは、”ルール違反”だ」

「そうじゃない。ただ、俺も用事を済ませようと思ってね」


 俺にも大事な用事がある。

 ここでないと果たせないことだ。

 ベッドから抜け出し、鞄から細長い木箱を取り出す。


「土産だ。ユーリ先輩にはいろいろと世話になったから土産を買ってきた。ユキナが作ったエルシエワインの上物を特別に譲ってもらった。ぜひ、楽しんでくれ。ユーリ先輩は気まぐれだから、今を逃したら次にいつ会えるかわかったものじゃない」


 目的はどうあれ、世話になったことには変わらない。

 ちゃんと、筋は通さないといけない。


「ぷっ、あははははは、ソージって意外にお茶目だな。うん、ありがとう。エルシエワインはあたしも大好物なんだよ。そっか、ユキナか。おしめを替えてあげたあの子が、酒蔵を任せられるようになったのか。月日が経つのは早いな」

「ユーリ先輩はいったいいくつなんだ……」


 たしか、ユキナはクーナの一つ上のはず。

 そこから逆算すると……。


「あたしは、ぴちぴちの十七歳だよ。今までも、これからもね。ソージのお土産に免じて、一つだけアドバイスをしてあげるよ」


 大事そうに木箱を抱えたユーリ先輩は、いたずらっぽい笑みで俺のほうを向く。


「ソージはシリルにまた負けたみたいだけどさ、なんで負けたかわかる?」

「それは、ハイ・エルフの持つ圧倒的な【風】の力と技量の差があったからだ」


 ハンデをつけて、ランク3相当までシリルには力を絞ってもらった。

 その状況で全力で戦い俺は撒けた。つまり、ランク差ではなく純粋な強さで俺はまだシリルに劣る。


「そうじゃないんだよな。もっと根本的なところに差がある。まあ、少年よ。悩むがよい。その答えが君が強くなるために必要なものだよ。君のスキルも、君の技量もシリルにそう劣っているわけじゃない。むしろ、そこだけなら上回ってる」


 今度こそ、ユーリ先輩は去っていった。

 まったく、いつもながら勝手な人だ。


【破滅】はすぐそこまで来ているか。

【破滅】から世界を救うために、俺はこの世界に呼ばれた。

 世界を守ると言ってもしっくりこないが、大事な人を守るためというなら俺のすべてをかけられる。


「クーナ、アンネ。俺はこの世界を守るよ」


 眠っている二人に口づけをする。

 たとえ、何があっても二人を守ろう。

 そう決意し、再び横になる。

 明日から学園生活再開だ。しっかりと体を休ませよう。何より、久々の学園服のアンネとクーナが楽しみだ。

 そうだ、明日の夜は学園服を着てもらって……そんなことを考えながら俺は再び眠りについた。

 

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[一言] ユーリ先輩は17歳教の人だったか
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