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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:エルシエからの旅立ち
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エピローグ:さよならエルシエ

 戦争から三日が経っていた。

 戦争が終わってから戦後交渉に入り、エルシエは賠償金を得て、神聖薔薇騎士団の幹部たちはクーナとエルシエに二度と手を出さないという、【誓約ゲッシュ】を結んだらしい。


 そして、すべてが終わるとシリルは倒れ、丸一日目を覚まさなかった。

 精霊喰いによって体内の精霊たちを狂わされてぼろぼろになってしまっており、これまで意識を保っていたほうが不思議なぐらいだと医者は語ったらしい。

 その状況で最後まで仕事をやり遂げたシリルにはすごい男だ。

 昨晩は、シリルが目を覚まし大規模な宴会が開かれた。

 そして今日は……


 ◇


 歓声が響き渡った。

 エルシエの訓練場で決闘が行われており、それを見守る観客たちが声をあげたのだ。

 一つの戦いの決着がついた。

 戦いを称えるように拍手が鳴り響く。


「やっぱり、勝てなかったか」


 俺は大の字になって倒れていた。

 精根尽き果て空を見上げている。


「まだ、負けてやるわけにはいかないな」


 シリルが俺を見下ろしていた。

 目を覚まして、体調がよくなったシリルは俺たちに褒美を出す。ほしいものを教えてくれと言った。


 何から何まで恩を受けっぱなしだから辞退をしようとしたが、シリルは、俺たちには受け取る資格があると言って譲らなかった。

 だから、どうしても前から欲しいと思っていたものを頼んだ。

 それはシリルとの決闘の機会。

 前回は、シリルのもっとも得意とする風の魔術を封印した状態かつ、俺の有利な土俵に引き込んでの戦いだった。

 だが、今回は正真正銘のガチンコの戦い。

 さすがに、ランク差が大きいので、そこだけは拘束具をつけて同等の条件にしてもらった。

 その結果は惨敗。

 シリルの引き出しは無数にあり、すべてにおいて紙一重で俺の上を行く。

 ここまでやられると逆に気持ちいいぐらいだ。

 俺だってただ負けたわけじゃない。

 紙一重で上の世界を学ばせてもらった。なら、そのさらに上に至ってやる。


「今日は負けましたが次は勝つ。また、戦ってください」

「ああ、楽しみにしている。君はずいぶん成長した。クーナが選んだ男が君でよかった」


 シリルが俺に手を差し出してきて、その手をつかみ立ち上がる。


「父様も、ソージくんもすごかったです!」

「ええ、見惚れてしまったわ。これが達人同士の戦いなのね」


 クーナとアンネが駆け寄ってきた。

 二人は褒めてくれたが、彼女たちの前で負けたのはショックだ。

 この悔しさをばねに精進しよう。

 この一戦で俺はさらに強くなった。俺以上に技量をもった相手との戦い。

 それは、今の俺にとって何よりも得難いものだ。

 ランクが上で俺より強いやつはそれなりにいるだろうが、技量で俺に勝る相手なんてシリル以外は存在しない。

 そのシリルと戦って、俺が強くならないわけがない。

 負けたとはいえ、シリルの動きのすべてを脳裏に刻んだ。絶対に自分ものにし、先へ行く。


「三人とも、今日の昼には帰るんだったね」


 俺たちは頷いた。

 明日の馬車で封印都市の騎士学校へ帰る。

 当初の目的である、俺の治療とシリルの鍛冶技術の習得は終わっていた。

 さらに、神聖薔薇騎士団の脅威がなくなった。

 もう、ここにいる意味はない。


「はい、そろそろ戻らないと留年してしまいますから」


 俺たちは夏休みのタイミングでエルシエに来ていた。

 そろそろ夏休みも終わる。これ以上、エルシエに滞在すれば出席日数が足りなくなってしまうのだ。

 そうなれば留年。

 留年すれば、卒業時にランク3に到達していれば、貴族になれるという特典を逃してしまう。

 アンネの夢のためにも、これ以上エルシエにとどまることはできない。


「そうか、残念だ。ソージ、改めて礼を言う。クーナを連れ帰ってくれてありがとう。クーナを守ってくれてありがとう。……クーナを幸せにしてくれてありがとう。これからもクーナを頼む」


 シリルが頭を下げた。

 俺よりも圧倒的な強者であり、立場もあるにも拘わらず真摯な態度。

 これこそが、シリルが民から愛されている理由だろう。


「こちらこそ、ありがとうございました。俺もクーナもアンネもエルシエに来てよかった。たくさんのものを得られました」


 ここでの日々を思い出す。

 一か月と少しという短い時間だったが、とてつもなく密度の高い時間を過ごせた。

 ゲーム時代にも経験したことがない新しい発見がいくつもあった。


「また、遊びに来てくれ。いや、帰ってきてくれ。ここはもう、君の故郷でもある。俺もみんなも待っているから」


 暖かな視線を感じる。

 ライナ、ソラ、ユキナ、クーナ親衛隊の面々、ほかにもお世話になった多数の人たち。

 そうか、ここはもう俺の帰る場所になっていたのか。


「必ず、また帰ってきます。シリル……義父さん」


 シリルがにやりと笑った。

 そして、急に真剣な目になる。


「クーナとアンネ、二人と共にいるならこれからも、君の行き先を困難が待ち受けるだろう。気を抜くな、強くなれ。女神が言った【災厄】が来る日は近い」


 俺がこの世界に呼ばれたとき、女神は世界を救えといった。

 シリルはその日が近いと言い切った。

 面白い。なにが来ても俺はひるまない。


「たとえ、どんな運命が襲ってこようと……俺たちの魔術ちからでねじ伏せていきます」


 これまでそうして来たように。

 クーナとアンネ、三人で。


 ◇


 それから、お世話になった人たちに挨拶をしてお土産を買いこんで、馬車に乗り込む。


「クーナ、顔をふけ」


 馬車の中でクーナは泣いていた。

 きっと、エルシエを出る段階になって名残惜しくなってきたのだろう。


「ありがとうございます。ソージくん、遅くなりましたがありがとう。ソージくんに背中を押してもらわないと帰ってこれませんでした」


 クーナはいじっぱりだ。本当にきっかけがなければ、ずっとエルシエに戻ってこなかっただろう。


「俺も連れてきてもらえてよかった。ここはいい場所だ」

「私も感謝しているわ」


 こんな素敵な場所はほかにないだろう。

 クーナが涙をふく。そして……。


「はい! 私の自慢の故郷です!」


 屈託のない笑顔で言い切った。

 エルシエに来る前では考えられなかった言葉と表情だ。

 馬車が走りだす。

 エルシエの門を出て山道を走り始める。

 窓を見ると、目を丸くする。


「本当に、ここは暖かいな」


 クーナの肩をたたいて窓のほうを指さす。

 クーナは窓を見て、口元を抑えて泣き止んでいたはずなのに、また涙を流し始めた。


「みんな……」


 大勢の、本当に大勢の人たちが見送りに来て、手を振ってくれていた。

 俺たちは手を振り返す。


「ソージくん、アンネ。帰ったら、がんばりましょうね。今までよりずっと、こんなにたくさんの応援をもらったんですから!」

「当然だ」

「ええ、誰よりも強くなるわ」


 エルシエのみんなが見えなくなる。

 ここで得たものを噛みしめ、そして封印都市でさらに強くなることを俺たちは誓っていた。

 

長かった、エルシエ編終了です!

舞台は再び封印都市に、ここまでの評価をいただけるとすごく嬉しいです!


封印都市に戻ってからもソージたちの冒険はまだまだ続きますよ!

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[一言] エルシアはいい国だ
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