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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:エルシエからの旅立ち
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第十五話:紅と蒼の双刀

 新たに作った俺の武器、機械魔槍ヴァジュラの性能実験を行った。

 その結果は成功だと言えるだろう。

 三形態、すべてが実用に耐えうる。


 第一形態はバーニアで超加速して突撃する巨大な馬上槍。圧倒的な質量と速度によってとてつもない破壊力を誇る。

 第二形態はオーソドックスな両手槍。取り回しが良く対応力が非常に高い。それでいて先端部に施された魔術付与エンチャントの【穿孔】により攻撃力も確保している。

 第三形態は直刀。斬撃を強化する【溶断】により切れ味が抜群の剣。槍の間合いより内側のクロスレンジで威力を発揮する。


 三形態すべてを使いこなせればいかなる距離でも対応できるだろう。

 だが、弱点は存在する。

 第一形態から第二形態、第二形態から第三形態とパーツを分離していくのは一瞬だが、その逆は時間がかかる。パーツを拾って組み立てないといけないのだ。

 考えて立ち回らないといけないだろう。


「これで、だいぶ強くなれたな」


 今まではオリハルコンの塊を持ち歩き、変形させて戦っていた。

 だが、今日からは違う。きっちり造り上げた正式な装備。大幅なパワーアップだ。

 俺のほうは問題がなかったが、クーナのほうは新しい武器を使いこなせるだろうか?

 それは今から試される。


「ソージくん、次は私の番ですからね」

「横槍は入れない。クーナがとちらない限りな」

「そんな必要はないですよ。ソージくんが作ってくれた短刀を装備した私は無敵ですから!」


 満面の微笑みを浮かべるクーナが可愛すぎて、地下迷宮の中だというのにどきりとしてしまった。


 ◇


 クーナがキツネ耳をぴくぴくと動かす。

 表情が険しくなった。


 敵を見つけた時の仕草だ。

 彼女が走り出す。クーナの疾走には音がない。火狐族特有のしなやかな動き。

 あれは真似しようと思ってできるものではない。


 クーナのキツネ尻尾がたなびく。その姿を気に入っている。

 クーナの疾走した先には敵の魔物がいた。


「あれなら、問題ないな」


 クーナの今回の敵はリザードランス。

 身長がクーナと同じぐらいの二本足のトカゲで、その特徴は両手が槍のような形状になっていること。槍の長さは一般的な剣と同じ程度。

 鉄ぐらいなら貫くし、かえしがついていて一度刺さると抜けない。


 あれで突き刺して捕らえた獲物をゆっくりと食べる習性を持っている。

 動きは早く、魔物なかでは技量を持っているほうで普通の探索者たちからすれば厄介な相手だ。

 しかし、普段から俺やアンネと技を磨いているうえ、戦闘の天才であるクーナなら恐れることはない。


「グガアアアアアア」


 リザードランスが咆哮を上げ、槍のような両手を二本構えての全力疾走。それだけで強力な突撃ランスチャージになる。

 それに呼応するようにクーナが二本の短刀を引き抜いた。


 緋色の刀身と、空色の刀身がきらめく。

 残りの距離は五メートル程度、あの速さならあってないようなものだ。

 二人がすれ違う。

 キンと甲高い音がなる。


「ソージくん、これ思ったより切れません!」


 クーナは槍を見切り、紙一重に交わしながらすれ違いざまに首筋を撫ぜた。

 リザードランスの首の動脈を狙ったのだろう。

 だが、浅い。

 血がちょろちょろと流れているだけだ。


「いや、やつが固いだけだ。リザードランスのうろこの硬さは竜種並みだ。魔力を流し込まずに傷つけられるだけでも、その武器の性能の良さがわかる」


 さすがは俺の造り上げた剣。

 魔術付与エンチャント抜きでも十二分に強い。


 クーナは感心したように息をもらす。

 その間にもリザードランスは攻撃の手を休めない。

 何度か突撃を繰り返し、通用しないと思ったら足を止めて両手の槍の連続突き。


「ふう、わりと早いですね」


 クーナはあえてそれを正面から受ける。

 紙一重でかわし、かわし切れないものは両手の短刀で受け流す。

【精霊化】をしていない今のクーナは筋力で劣っている。真正面から受けたら態勢を崩す。だからこその受け流し。

 変化が現れ始めた。


「グガァ!?」


 リーザードランスが悲鳴をあげて後退する。

 両手の槍がボロボロだった。


「音と手ごたえでわかります。ソージくんの言う通り竜種のうろこぐらい硬い。それでも切れる。本当にいい武器です」


 空気が変わった。

 今までのクーナは遊びだ。

 だが、これからは殺すつもりでやる。リザードランスはついに理解した。


 目の前にいるのは獲物ではなく捕食者。自分こそが獲物だったと。

 奴はゆっくりと後退していく。

 知能の低い魔物なら背を向けて逃げていただろう。

 だが、リザードランスは無防備な背を晒せば、その瞬間に殺されると理解している。だから警戒は怠らず視線をクーナから外さない。


「次は魔力付与エンチャントを試します」


 そう告げるとクーナが飛び出した。

 ちょっとずつリザードランナーが確保していた距離がゼロになる。

 クーナには魔力付与エンチャントの詳細は教えていない。


 ただ、火のマナを注ぎ込めば使えると言うことだけを教えてある。

 右手の緋色の刀身がさらに赤くなる。深紅の燐光を放った。

 深紅の剣がの袈裟切り。リザードランスは槍でそれを受ける。


「グギャアアアア」


 一瞬の停滞もなく槍が切断された。

 緋色の剣に施されていたのは俺の直刀と同じく、高振動により対象の分子行動を突き崩す【溶断】。

 ……ではなくそれを進化させた【紅断】。剣自体を高振動させるのではなく触れた瞬間に強制的に対象の分子を強制加速させて分子構造を崩壊させる。

 圧倒的な熱量がないと発動すらできないが、火のマナに誰よりも愛されたクーナなら【溶断】よりもさらに強力な斬撃になる。あれに切れないものはない。


「次!」


 振り切った姿勢のまま、左手の空色の短刀で突く。火のマナが注がれ蒼の光が刀身を包む。

 リザードランスはそれを槍で受けようとしていた。槍が魔力の光を放つ。


「魔物にあれができるのか」


 思わず感心してしまった。

 竜種などのうろこが硬いのは素材としての優秀さもあるが魔力を帯びているということが大きい。


 リザードランスも同じだ。

 だが、やつは全身を覆う魔力をすべて槍だけに集めた。

 ただでさえ、もっとも硬い槍にすべての力が集まり手が付けれなくなる。

 きっと、極限の状況で進化したのだろう。

 だが、残念だ。……相手がクーナでなければそれで対応できただろうが彼女には通用しない。

 空色の刀身が槍に触れる。

 魔力の光が消え、一瞬で槍が凍り付き、さらにクーナが槍を押し込むと砕けた。


 空色の刀身に施した魔術付与エンチャントの力が働いたのだ。

 緋色は分子の強制加速だが、空色は分子・魔力の強制停止である【蒼絶】。槍が凍り付いたのはおまけに過ぎず本質は魔術殺しだ。


 魔力を魔術として成立させるためには魔力の循環が不可欠。魔術回路に魔力を流すことで魔術が成立するのだ。

 竜種のうろことはある意味、【硬化】のエンチャントがかかった防具のようなもの。魔力を注ぎ込むだけで【硬化】が発動する。

 その魔力の流れを止められればいかなる魔術も成立しない。……もっとも一度、炎などの別の形を生み出されてしまえばあとから止められないが。


 つまり、クーナに渡した二本の短刀の正体は、すべてを物理的に断ち切る紅と、すべての魔術を崩壊させる蒼の姉妹刀。

 クーナが左手の空色の短刀を引き戻す。

 そして、両方の剣に火のマナを込める。


 放つのは左右の同時攻撃、上からと横から十字を描く斬撃がリザードランスを切りさいた。

 インパクトの瞬間、リザードランスの体が消滅する。

 分子の強制加速と、分子の強制停止。

 その両方がぶつかり、打ち消しあうのではなく絡み合い高次の何かに変化した。その結果が消滅だ。


「……あれ、同時にぶつけたらああなるのか。どういう理屈だろう」


 作った俺にもわからない。そういえば昔何かの漫画で炎の魔法と氷の魔法を組み合わせると消滅魔法になっていた。同じ理屈かもしれない。

 これは想定していなかった使い方だ。まあ、強そうだし深く考えるのは止めよう。


「ソージくん、見ていてくれましたか!? この短刀すごいです! 赤い子も青い子も、両方ともすごくて、一緒に使うともっとすごいなんて、最高です」

「俺の自信作だからな。よくぞ使いこなした」


 両方を叩き込んだ場合の効果は偶然の産物だというのは黙っておこう。


「そういえば、ソージくん。この子たちの名前は何ですか? すっかり聞くのを忘れていました」

「……悩みに悩んだんだけど、いまいち決まらなくてね。クーナと一緒にあとで考えようかなって思っていたんだ」


 自分の武器なら適当に決めてしまうが、クーナの武器だ。

 適当には決められない。


「じゃあ、そうですね。こういうのって二人で考えてもあれなので、一人一本決めましょう。じゃあ、蒼いほうは私が決めますね」

「その言い方、いい名前が思いついたのか」

「はい、この子にぴったりの名前がびびってきました」


 先を越されてすごく悔しい。

 だけど、断る理由はない。


「わかった。赤いほうは俺が決めるよ。青いほうの名前を聞かせてくれないか」

「ふふふ、聞いて驚かないでくださいよ。この子の名前はソージです」

「……ちょっと待て」


 俺の名前なのは気のせいか。


「待ちません。だって、私にとって青はソージくんの色ですから。それにこの子の力もいろんな意味で、ソージくんらしいです」


 青は俺の色か。

 その意図を知りたいが、きっとクーナは教えてくれないだろうな。

 なら、俺も意趣返しをするしかない。


「じゃあ、決めた。赤いほうはクーナだ。俺にとって赤はクーナの色だからな。温かくて、ほっとして、命の色。それに、青いほうがソージなら共にあるのはクーナしかないだろ」


 俺がそう言うと、クーナが目を丸くしてそれから声を出して笑った。


「ソージくんのロマンチックがまた出ました。ちょっと臭いです」

「……クーナが先に振ってきたんだろう」


 ひどい言いがかりだ。

 俺は乗っただけなのに。


「でも、嬉しいです。ソージはクーナと一緒がいいですね。ふふ、ソージくん、私たちはずっと一緒ですよ」


 クーナは剣を鞘にしまうと俺の腕に抱き付いてきた。

 男は単純だ。たったこれだけですべてのことを許してしまいそうになる。


「クーナ、鞘を貸してくれ。銘を掘る」

「お願いします」


 魔術でそれぞれの鞘に名前を刻む。

 クーナには紅那。ソージには蒼慈。


「それ、見たことがない文字ですね」

「かっこいいだろう。漢字っていう文字だ。それぞれクーナとソージって書いてあるやっぱり刀にはこれが一番似合う」

「確かに、かっこいいです! ますます気に入っちゃいました」


 実はそれぞれの感じに意味は込めているが、照れくさいので言わない。

 クーナは気に入ってくれたようで愛おしそうに指で鞘をなぞった。


「じゃあ、戻ろうか。武器の性能も試したしね」

「はい! 今から帰れば夕食に間に合います。地下迷宮に行っていたことはバレません。ばれたら、ライナ兄様とソラ姉様におしおきされちゃいます」


 クーナの尻尾がぶるりと震えた。

 よほど、兄と姉が怖いのだろう。


「そうだ、クーナ。今日は夕食のあと久しぶりにあれをやるぞ」

「あれ、ですか」

「うん、アンネも呼んで魔石の吸収タイムだ。たぶんだけど今回の魔石でランク3に届くよ。楽しみだね」

「ランク3の魔物の魔石たっぷり溜まってますからね。あんな大きいのたっぷり注がれたら。おかしくなっちゃいそうです」


 クーナは口ではそういいつつ、よほど楽しみなのか頬が紅潮して目がとろんとしている。

 やっぱり、クーナはエロ狐だ。そこが可愛いところでもある。


 そうして、二人でライナの家に戻った。

 当然のように二人だけで地下迷宮に行ったことはばれて、いろいろとお仕置きされた。

 自業自得なので甘んじて受け入れる。

 そして、とうとうこの時が来た。

 魔石タイム。

 さあ、ランク3への扉を開けよう。

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