第十二話:実技試験
教官に連れられて実技の会場に到着する。
設備が充実しており、剣を打ち合うためのコロセウムや、弓の練習をするための的など様々なものが用意されていた。
「はい、みんな注目。今からあなたたちの【格】をはかるわ。この学園が求めているのは才能。現時点の強さじゃないのよね。よって引き上げられている【格】によって、試験結果をマイナスするからよろしく」
今度の教官はさきほどの大男と違って、まるで少女のように見えるかわいらしい人だった。学生と言っても信じてしまいそうになぐらいだ。
彼女が言っているのは、平性を保つために魔石を喰らって得た力を試験結果から差し引くと言うことだ。
ランクが違うと、まったく生き物としての次元が変わるが、同じランクでも【格】によって強さが変わってくる。
「じゃあ、並んで、並んで」
指示に従い受験者たちが並ぶ。
総勢で九十八人。俺の予想よりもずいぶんと合格者が少ない
座学の時点で総受験者の八割が失格になっている。
列に並んでいると、すぐに順番が回ってきた。
「では、名前を言って」
「ソージ。姓はない」
「ソージっと。じゃあ行くよ【格測定】」
教官が目を閉じ集中する。
頭に、魔術式を浮かべている。魔術師は一言一句間違えずに魔術言語を頭に浮かべることで魔術を発動させることができる。
実はある程度のこつと知識があると、他人の浮かべている式が見える。
五十工程ほどの中級魔術。俺なら、同じ魔術でも二十工程ほど削れるのにと惜しくなる。
三十秒程度たってから、教官の魔術が完成した。
「ソージは、生まれたときのままだね。魔石を食べたことがないんだ」
「ええ、そういう経験はないですね」
「逆に珍しいかも。今だと、最低位の魔石は買えるのに」
「まあ、自給自足と言ったやつです。他人がとってきた魔石を食べるつもりはないですよ」
魔石はこの町の主要な輸出品だ。
とくに最低ランクの魔石はだれが使っても効果を発揮する。強い魔石は、【格】が低いうちに使うと、死んでしまう危険性があるが、最低ランクなら安心して使える。
親が子供を少しでも強くするために最低ランクの魔石を買い求めることも多い。
さらにある程度の貴族になってくると、専属の鑑定士がいて、ありとあらゆる魔石を買い集め、鑑定士に自分の子供の器を鑑定させながら、徐々に強くしていく。
それにより、一度も魔物と戦わずにランク1の上位の力を手に入れることもある。
もっとも、ランク2に到達は不可能だ。魔石だけではランク1の壁を越えられない。
「変わった子ね。まあいいわ。マイナス補正はなしっと……あっ、ちょっと待って、そのポシェットの中に、魔石の気配があるわね。それ、試験が終わるまで預かっておくわね。鑑定が終わったあとに、魔石を使ってズルする子がたまにいるの」
俺は素直に、シカの化け物を倒したときの魔石を渡す。
「うわっ、すごい魔石、これランク1でも上位の魔石じゃない。こんなのどこで手に入れたの」
「たまたま、魔物に遭遇したときに倒して手に入れたんですよ」
「あはは、冗談が好きな子ね。こんな、ほとんどランク2に近いようなの、君が倒せるわけないじゃん。これなら預かる必要ないかもね。君が使うと死んじゃうもん」
「なら、返していただけますか?」
「うん、いいよー。これ使える子、受験者には絶対に居ないし。でも不思議な魔石、全然濁ってなくて、透き通って、こんなの初めて。すっごくおいしそう」
当然だ。俺が料理した特別な魔石なのだから。
俺に言わせれば、魔石をそのまま食うなんて、毒を食っているようなものだ。
「後ろ、つかえてますよ」
「ああ、やばい、じゃあ行って、行って」
そして俺は列から離れた
◇
各種測定が終わった。
走力、ジャンプ力、柔軟性、持久力、反射神経。
そういったものを様々な手段で測っていく。
試験は十二項目あり、それを受験者全員がやり遂げた。
掲示板に受験者全員の測定値と、それに対するマイナス補正をかけられた数字、午前の座学の結果も合わせてかかれる。
そして、それらを総合的にとらえた。トータルポイントまで張り出された。
その結果は、俺が一位。クーナが二位。アンネが三位といった様子だ。
驚くことに三人とも、格をまったくあげておらず、補正が0。それでいてほとんどの項目で三人のうち誰かが一位だった。
三人で抱き合って喜びをわかちあう。
「二人とも、格を上げてなかったんだな」
「父様が、自分の力で魔物を狩らずに魔石を使ったら、弱くなるって言ってたんです」
「クーナのところも? 私のところも一緒よ」
「とにかく、ここまででトップおめでとう」
魔物を狩らずに魔石を使用すると弱くなるという認識は半分間違いで半分正しい。金で魔石を買って【格】をあげるのと、戦いの経験を積みながら【格】を上げるのでは後者のほうが圧倒的に強い。
周りの視線が痛い。
純粋に最高点をたたき出した俺たちに対する妬み、そして俺にはとびきりの美少女二人と抱き合っていることに対する妬みまである。
「教官! 【格】をまったく上げずに、この数値はおかしい。不正をしている可能性がある」
四位の生徒が抗議の声をあげた。この中でもっとも【格】を上げている少年だ。
測定の際に要注意人物として見ていたが、金の力ではなく、鍛錬を積んでおり確かな実力を感じる。
身長は高く、長い髪を一本に束ねており、整った顔立ちをしていた。
「私も、ライルの意見に賛成です。すみやかに【格】の再測定をお願いいたします」
「兄さん!」
試験の補助を行っていた上級生の一人が声を上げた。
たしか、試験が始まる前に紹介を受けている。ここの学園の二年で、二年生で唯一のランク2。現状、在学中にランク3へ到達することを期待されており、模範生としてここに連れてこられた少年だ。
四位のライル以上に身長が高く、ランク2という強者としての自信が見てとれる。
「それはないわね。この子たちは、魔力の使い方がうまい。淀みなく魔力で身体能力を強化しているのよ。この結果にはその精度の差が、如実に出ているだけよ。とくに、ソージくん。彼の技術は芸術ね。将来が楽しみだわ。クーナちゃんはかなり、癖があるけど、すごくセンスがあるわ。アイネちゃんは純粋に努力の成果ね。研鑽の量の桁が違う。そういうの教官やっているとよくわかるの」
「教官!!」
「しつこいなー。なら自分で見ればいいじゃん。使えるでしょ。君なら」
「わかりました。では遠慮なく」
にやりとした笑みを浮かべて、ランク2の先輩が俺たちのところに歩いてくる。
「先輩、やるだけ時間の無駄ですよ」
「黙れ、無駄かどうかは俺が決める。【格測定】」
教官の二倍ほど……一分もかけて測定魔術を発動する。術式自体は教官と同じだが演算スピードが遅いうえに、頭に魔術式の構成が拙い印象を受けた。
「上昇0、ほんとうに、なにも強化されていない」
「先輩、だから言ったじゃないですか」
「くっ、次だ」
そして、クーナとアンネも見るが結果は格の上昇ゼロ。
「こんな、ありえない」
「兄さん!」
四位の受験者が駆け寄ってくる。
「ほらー言ったじゃない。この業界にいると天才とか、ぼろぼろ出てくるからね。こういうの素直に受け入れないとだめよ。……とは言っても一度に三人も現れるのは意外ね。私に言わせれば君も天才だけどね」
やれやれとため息をついた。
「四位の君!」
「はっ、はい」
冤罪をかけた後ろめたさから四位の男は大げさな反応をする。
「君の気持ちもわかるから問題にしないよー。でも、こういうの時間の無駄だからやめてほしいな」
「わっ、わかりました」
「あと、最後の試験は本当の意味での実技だよ。これは【格】が上のほうが有利だ。そこで存分にアピールするといいよ」
「努力します!」
「じゃあ、みんな、三十分、いや、今ので時間を食ったから十五分の休憩。そこからが本番の試験。試合形式で実戦を行う。こころの準備をしておいてね。あと、実戦にはうちの国の王様が見に来るから、そのつもりで」
この場に居るだれもが息をのむ。
毎年王が試験に来ているのは有名だ。だが、実際にそのことを聞かされると身構える。下手なところは見せられないとこぶしを握りしめた。
そして、この実戦形式の試合さえ無事こなせば、晴れて俺たち三人は特待生となれるのだ。
「アンネ、緊張しすぎだ」
「そういうわけじゃないのだけれど」
隣でアンネが表情を固くしているので声をかけた。
そうか、彼女は実戦に対する不安ではなく。王が来ることに対して緊張をしているのか。オークレール家の没落には少なからず王が関係しているのだから。