第四話:楽しい魔物料理
夕方から始まったランクアップのための狩りは、完全に夜になる前に終えて野営の準備にとりかかる。
今回は深い階層に潜るため、この地下迷宮で一夜を過ごす。
魔物がはびこるダンジョンで安全に野営をするのは難しく経験がいる。
けっして軽視はできない。しっかりと体を休めないと次の日に響いてしまう。
クーナの兄であるライナは、この地下迷宮を熟知しているので彼の指示に従い野営地を決めた。なかなか初見の地下迷宮で野営はできないので頼りになる。
彼はテントを二つ用意してくれており、男と女でわかれるそうだ。
少々寂しい。いつもならクーナとアンネ、三人で楽しく一夜を過ごせるのに。
さすがの俺も、俺は向こうに行くのでお一人でどうぞなんて言えはしない。
今は、クーナとアンネがテントの設置をしており、俺は夕食の準備をしていた。
ライナも一緒だ。俺の料理が気になるらしい。
「なあ、本当にそれを食っちまうのか?」
「もちろん。案外美味しいぞ」
俺はクーナが倒したコカトリスの肉を取り出す。
本当なら栄養たっぷりかつ、味がいい内臓を使いたいがコカトリスは毒を内臓にため込んでいる。
完全な除去はできないので、肉の中では美味しいモモ肉をさばいてもってきている。
コカトリスは巨大な蛇の尻尾が生えたニワトリのような見た目の魔物。
その見た目のとおり、味は非常にいい。食べられる魔物の中でも、上位に位置する。
そして、もってきたのはもも肉だけではない。尻尾の蛇もきっちりと持ってきている。蛇の肉は避けられがちだがうまい。うまいだけじゃなく滋養強壮に優れていて地下迷宮の探索にはうってつけだ。
これを食えば、疲れが吹き飛び明日の狩りもはかどるだろう。
「ソージ、魔物なんて食って腹を壊さないか?」
「ちゃんと毒のない部位は選んでいるし、瘴気は【浄化】しているから安心してくれ。さあ、始めよう」
ライナの見ている前で調理を始める。
まずはもも肉からだ。
地下迷宮内に自生している薬草の葉を広げる。大きな葉をつけるタイプで、ついさきほど採取したものだ。
そこにぶつ切りにしたもも肉を並べる。
そして、鞄の中から肉と相性のいい乾燥させたハーブ類を砕いてふりかけ、最後に塩をまぶす。
そしてくるりと薬草で包むと、たき火に近づき、灰の中に薬草に包んだもも肉を沈める。
こうすると、薬草とハーブのエキスがもも肉に染み込むし、直接火に触れないので、水分が保持出来てジューシーな仕上がりになる。
お手軽な蒸し焼きだ。
野営をするときはよく使う料理法だ。
「魔物でも、ちゃんとうまそうな匂いがするんだな」
ライナは、たき火のほうを見ながらしみじみともらす。
「味のほうも保証するよ。次は、こっちだ」
蛇肉のほうにとりかかる。
真ん中から包丁を入れて、一気に裂く。
そして、内臓を綺麗に取り除く。さらに肉に無数の切れ目をいれていく。ぎりぎり切れないぐらいに深く。
ハモを骨切りにする要領だ。
蛇肉は固くて噛みきりにくい。こうして骨切りすることで心地よい食感になるし、味が染み込みやすくなる。
骨切りした蛇にスパイスと塩を塗りこんでいく。
それが終わればぶつ切りにする。
たき火のほうを見ると、火にかけていた鍋の水が沸騰しはじめた。
そこに、固形スープを投入。
これは俺が趣味で作っているもので、たっぷりの出汁と調味料で作ったスープを脂で固めたものだ。お湯に溶かすだけで美味しく栄養たっぷりのスープになる便利なものだ。
スープができると、下ごしらえをした蛇肉を半分ほど投入する。
蛇肉から出汁が出てスープがよりいっそううまくなる。
残りの半分は、両面を軽くソテーしてからスープに加えた。
スープをうまくするためには、しっかりと蛇の出汁をとらないといけないが、スープの具材として楽しむなら具材そのものをしっかりと焼いて旨みを閉じ込める必要がある。
最初の半分はいわば出汁がらであり、残りの半分はスープの具となる。こうすれば両方を楽しめるのだ。
スープと蛇肉が馴染んだ頃合いを見計らい、味見をして、塩を少し足して味を調整。
よし、完璧。
薬草に包んだもも肉もいい塩梅だ。
「これで、食事の準備はできた。夕食にしようか」
「おっ、おおう」
「エルシエに来てから、ご馳走になってばかりだったから、俺の料理を振る舞うのを楽しみにしていたんだ。是非、楽しんでくれ」
俺が微笑みかけると、ライナは若干ひきつった笑みを浮かべた。
その彼の背後に現れたクーナがぽんと肩に手を置く。
いつの間にか、テントの準備を終えてこちらに来ていたようだ。
「ライナ兄様、あきらめてください。すでに私が通った道です」
「そうね。最初は驚くけど、そのうち慣れるわ」
アンネもこちらに来た。
ひどい言いようだ。
俺は地下迷宮でも美味しい料理を食べられるように頑張っただけなのに。
まあ、いい。全員揃ったのだ。ご飯にしよう。
◇
たき火をみんなで囲む。
大皿にもも肉の薬草包みを並べて、全員にたっぷりの蛇肉が入ったスープを注ぎ、保存性をよくするためにガチガチに焼いたパンを配った。
「じゃあ、みんな食べようか」
「はい、ソージくん」
「ええ、今日は頑張ったからお腹がすいたわ」
「あっ、ああ」
クーナとアンネは元気よく、ライナは微妙な表情で返事をしてくれた。
全員で食事前の挨拶を済ませ食事が始まる。
「あっ、このスープ美味しいです。蛇って初めてですけど、こんないい味のお出汁がでるんですね」
「お肉のほうもなかなかいけるわね。魚と肉の中間のような味ね。たんぱくだけど、噛みしめたら美味しい肉汁が出てくるわ。これ、好きかも。皮がとくに美味しいわね」
二人は、難易度が高そうな蛇から手につけ、それを見たライナが驚き、口を開く。
「その、なんだ、おまえたちは、いつもこんなものを食べているのか」
「ライナ兄様、地下迷宮に潜ったときはだいたい現地調達ですね。荷物が少なくできるので。今日は、まだマシなほうですよ」
「ええ、たまにものすごいのをソージは作るわよね。今日のは、普通に素敵ね」
ライナが絶句する。
「まあ、ソージくんのはちゃんと美味しいので、もう慣れました」
「そうね。どうみてもやばそうでも、体にはいいし、不思議と美味しいのよね。この前の巨大サソリはさすがに勇気が必要だったわね」
クーナとアンネもだいぶ成長したものだ。
最初は魔物を食べるだけでもかなり抵抗があったのに、今ではなんでも食べてくれる。
これからはもう少し上級者向けのメニューを作ってもいいかもしれない。
俺が本気を出せば、こんなものじゃない。
「そっ、そうか、わかった。俺も覚悟を決めるぞ」
ライナは、そうは言いながらもいきなり蛇に行く勇気はなかったようで、もも肉の香草包みに手を付ける。
彼はもも肉を口に入れ、二、三回噛む。
「悪くない、いや、うまい。それに、こんなに力が湧いてくる鶏肉は初めてだ」
ライナは、肉を咀嚼すると次々に大皿に箸を伸ばし、肉を食べていく。
「ああ、ライナ兄様食べ過ぎです。はやく、とらないと全部食べられちゃいます」
「自分の分を確保しないとまずそうね」
ライナの勢いに驚いた二人が、取り皿にもも肉を確保していく。
俺も慌てて肉を確保する。
「すごいな、魔物ってこんなにうまいのか」
「基本的に、普通の肉と比べて固いけど、味はいいし、栄養価が高い。ただ、あたりはずれは半端なく大きいから、ちゃんとした知識はいる。毒もちも多いから、素人にはおすすめできない」
「ソージ、魔物料理のプロになるぐらいに魔物を食ってるおまえが怖いんだが」
なにせ、この道百年のプロ。
俺ぐらいになると初見の魔物でも、うまい、まずい、栄養がある、栄養がない、食える、食えない、どの部位がいい、相性のいい料理法、そこまでわかる。
解析魔術と長年の経験による勘の複合だ。
「スープも是非、楽しんでくれ」
「そうだな、薬草包みがこれだけうまいんだったら、こっちも……うまい。それに、体が火照るな」
蛇はうまいだけじゃなく、滋養強壮の強化がある。
ましてや、魔物の肉はそういった効果がより強くでる傾向がある。
探索の疲れも吹き飛ぶ。
……問題は下半身も元気になってしまうことだ。つくづく、ライナと一緒なのが悩ましい。
「ソージ、悪かった。こんなにすげえ料理を警戒するなんてどうかしていた」
「いや、それは正しいよ。【浄化】をしない魔物料理なんて、毒の塊だし。さっきも言ったが、正しい知識がないと、魔物の毒にやられる。今食ってるこいつも、部位によっては普通に毒があるしな」
俺は自分のスープをすすりながら答える。
「ソージは面白いな。こんなことをするやつは初めて見た」
「まあ、いろいろとやっているんだ。あと、固いパンはこのスープに浸して食べるとうまいぞ」
保存のためにカチカチにやいたパンでも、旨みたっぷりのスープに浸せば柔らかくすると美味しく食べられる。
「たしかに、これはいいな」
「あっ、ソージくん私もやってみます」
「確かにいいわね」
そうして、みんなあっという間に蛇のスープを食べてしまった。
もも肉の薬草包みもなくなっている。
「蛇肉のスープがまだ残っているけど食べるか」
「もちろんです」
「私も欲しいわね」
クーナとアンネがすぐに返事をする。
そして……。
「俺ももらおう」
ライナも、スープをお代わりした。
こうして、新たに魔物料理ファンを一人増やし、満足したところで食事は終わった。
明日はいよいよ深い層での戦い。ランク3の魔物たちとの戦いになる。恐怖はある。だが、楽しみだ。今の俺たちの力がどこまで通じるか、試してみたかったのだ。
チート魔術四巻の発売が一月に決まりました。ぱふぱふぱふ
ファンの皆様のおかげです
今後もより一層頑張りますよ
そして、下になろうの画像を張らせていただいた、魔王様の街づくり12/15に発売して一週間もたたずに重版の大人気、皆様も一度、なろうのほうから楽しんでみてはいかがでしょうか!