第三話:コカトリス討伐
【精霊化】しているクーナの力は素晴らしいものがあった。
今、クーナはランク2の魔物二体を同時に相手をしている。少し前のクーナなら絶対絶命の状況だ。
だが、不安はない。”今の”クーナの実力を知っているからだ。
同時に五体も魔物が現れたせいで、彼女が二体、俺とアンネが連携して三体を受け持っている。
クーナの心配をしている場合じゃない。まずは、アンネと共に対応している魔物をなんとかしないと。
俺たちが受け持っている三体は、すべて同じ魔物。
カマキリ型の魔物だ。俺よりも背が高く、体が鉱石で出来ているのか、メタリックな紫色。両手の鎌は生物的なものではなく、刀工が作った日本刀のようだ。
巨大カマキリたちは常に群れで狩りをしているのか妙に連携ができている。
素早く動き、あっという間に三方向から囲まれてしまった。
そして、逃げ場を無くした状態で口から溶解液を吐いてきた。
この見た目で初手に遠距離攻撃とはやってくれる。
俺とアンネは唯一の逃げ場である上へ跳ぶ。
俺は【身体能力強化・極】を使用し、アンネは【第二段階解放】の力で数メートルは飛んだ。
カマキリのほうは首を上に向けた。滞空状態で身動きがとれない俺たちに向かって二発目の溶解液を放つつもりだ。
回避は不可能。
「アンネ、俺が溶解液を防ぐ。俺の後ろに隠れろ。着地したあとは任せる」
「ええ、攻撃は任せて」
今は三方向からの同時攻撃だからこそ、受けずに跳ぶしかなかった。
だが、今は跳んだおかげで回避は不可能だが、敵の攻撃は一方向。つまり下から上に限定される。
それならば、防ぐことが可能。
「【魔鉱錬成:漆ノ型 盾・壁】」
槍に変化していたオリハルコンを盾に変化させる。
さらに体勢を変えて、盾を下向きに。アンネが俺の後ろに隠れる。
そして、落ちる。
溶解液が盾にぶつかる。だが、オリハルコンは溶解液程度で溶けることはありえない。
この盾がミスリルならやばかった。ランク2の魔物の毒ならミスリルをもとかす。
「潰れろ!」
三匹のうち、一匹を着地際に押しつぶした。俺の盾は凶悪なスパイクがついている。深々と刃物が突き刺さった。
「【電撃】!」
そこに強力な電撃を流し込むことで致命傷を与える。
どんな魔物も体内までは鍛えようがない。体に突き刺さった盾のスパイクから電流が流れ、体内を蹂躙し死に至らしめる。
三匹のカマキリのうち一匹を仕留めた。
だが、代償として完全に体勢が崩れてしまった。
残りの二匹のカマキリが鎌を振り上げ襲いかかってきた。
今から反撃をしても間に合わない。
だが、不安はない。俺には彼女がついている。
「アンネ!」
「わかってる!」
着地する際に俺に隠れていたアンネはすでに立ち上がり、動き出している。
カマキリが振り下ろした鎌を避けるのではなく、クヴァル・ベステで迎え撃つ。
その結果は……。
「停滞なく切り裂くか」
驚いたことに、クヴァル・ベステはあっさりとカマキリの鎌を切り裂いた。
絶対の武器である自慢の鎌を切り裂かれて、カマキリは取り乱す。
カマキリの魔物はアンネを見くびった。
クヴァル・ベステの真の力が解放された今、これぐらいの芸当は可能だ。
「その足、いただくわ」
アンネは動揺により致命的な隙を晒したカマキリの魔物の足を切り落とし、体勢が崩れ下がった頭を切り落とす。
まだ、動きはぎこちないが速い。
今の俺が全力で戦っても、十回に二回は負けるだろう。
だが……。
「ソージ、助かったわ」
アンネが微笑み、構えを解く。
俺は苦笑する。
「まだ、戦いは終わっていない。集中力が散漫になってるぞ」
俺は再び槍に変化させたオリハルコンでアンネの後ろから彼女に襲い掛かった最後の一匹のカマキリ、その頭を貫いた。
彼女は一匹を倒したところで気を抜いていた。
クヴァル・ベステはたしかに力を与えてくれる。
だが、持ち主を攻撃的に、そして嗜虐性を増す。
ようするに戦いに酔ってしまう。そのせいで、周囲への注意がおろそかになりやすい。
敵が全滅していないにも拘らず、構えを解くのは今までのアンネでは考えられない。
力を得たとはいえ、まだまだアンネを一人にはできない。そう再確認した。
自分たちの魔物が片付いた俺は、クーナのほうを向く。
クーナが相手にしている魔物は、二匹の巨大なニワトリ。しかも尾が蛇になっている。
おそらくあれはコカトリス。
石化のブレスを持つ厄介な魔物だ。
一匹のコカトリスが必死に鳴き声をあげてクーナを威嚇している。
もう一匹はというと、首から上が消滅していた。傷口が炭化している。
そのことからクーナの得意技、炎の塊を槍に変えて打ち出す【剛炎槍】で殺されたことが容易にわかる。
恐ろしい威力だ。
コカトリスは、魔術に対する耐性があるランク2の魔物。
並大抵の魔術で致命傷は与えられない。
そんなコカトリスを魔術で葬った。
【剛炎槍】は見慣れた魔術だが、威力が【精霊化】により跳ね上がっている。
「次はあなたですね」
どこかぞっとする笑みをクーナは浮かべる。
そして、それに恐怖をしたコカトリスが大きく口を開く。
放たれたのは、コカトリスの必殺技。石化のブレス。
クーナは微笑み手を前に突き出す。
「【炎の嵐】」
次の瞬間、その名の通り炎の嵐が吹き荒れた。クーナの炎は、石化のブレスごとコカトリスを焼き尽くす。
すさまじいまでの火力。
炎が止むとコカトリスは黒い炭になり果てていた。
「どうですか、ソージくん。すっごく調子がいいんです!」
クーナがすごく気持ちよさそうな顔をしてこちらを向く。
俺はあきれるしかない。
「とてつもないなクーナは」
おそらく、これが本来のクーナの戦い方なのだろう。
圧倒的な炎の適性を生かした蹂躙。
封印都市にいたころは、シリルによって九尾化の進行を遅らせるために、魔力回路をズタボロにされて力が発揮できず、俺が魔力回路を直したあとは変質魔力に侵されて力を発揮できなかった。
ようやく、ここで彼女の本当の実力が発揮された。
これが本当の、火狐……それも最高位である金の火狐にして、エルシエの姫君の力。
頼もしいが恐ろしくもある。
「この調子で、どんどん行きますよ」
クーナがキツネ尻尾を振りながら、せかしてくる。
「その前に、ちょっとそのコカトリスをさばかせてくれ。魔石もそうだが、そいつの肉が欲しい」
「まさか、ソージくん」
「クーナ、まさかなんて表現はいらないわ。ソージなら、そうしてあたりまえよ」
俺は、鼻歌を鳴らしながらてきぱきとコカトリスをさばいていく。
見た目がニワトリだけあって、なかなかうまい。
ゲーム時代でも何度か食ったが、魔物の中でも上位の素材だ。
鶏の部分だけではなく、尻尾の蛇の部分もたまらない。
「クーナ、ソージは何をやっているんだ」
俺がコカトリスをさばいていると、俺たちを見守っていたライナが口を開いた。
「兄様、ソージくんは……、料理が得意なんです……。それも魔物の料理が」
「魔物なんて食えるのか? 瘴気で腹を壊すぞ」
「ソージくんの場合、瘴気を浄化できちゃうのですよ。その、気持ち的にはあれですが、美味しいですよ。兄様。ようこそ、こちら側の世界へ。ふふふ、もう戻れないですよ」
クーナが微妙に目が笑ってない笑顔になった。
失礼な言い方だ。
保存食しか食べられない迷宮内の食生活を豊かにするために頑張っているのに。
そういえば、クーナの兄に料理を振る舞うのは初めてだ。
今までずっとライナにはご馳走になりっぱなしだ。
是非、俺の魔物料理を楽しんでもらおう。
腕がなる。
そして、余裕があればユキナにも俺の特製魔物料理をお土産にもって帰ろう。
きっと喜んでもらえるはずだ。
さあ、ソージお得意の魔物料理が次回炸裂! お楽しみに