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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第五章:エルシエからの旅立ち
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第一話:明かされた真実とクーナの決意

 俺たちのパーティ【魔剣の尻尾】の特訓は、それぞれに分かれて行われる。

 昼からシリルのところに行って話を聞くので、朝のうちにそれぞれの特訓を行う。


 クーナは、姉であるソラ、兄であるライナと共に【九尾の火狐化】の訓練。

 アンネはシリルと共にクヴァル・ベステの【第二段階解放】を鍛える。

 そして、俺はクーナ親衛隊と共に【精霊化】のさらなる精度の向上。


 全員、自分の意志で切り札を使えるようになったが、まだまだ未熟な点が多い。

 それぞれに、新たな力への慣らしをしていく。こういったものは、積み重ねていくしかない。


 新しい力は体にとって異物だ。その違和感をなくすためには訓練あるのみ。

 それがあってあたり前の境地までいきついてこそ実戦で通用するようになる。


 それぞれ技を磨き、昼食を食べてから三人そろってシリル・エルシエの屋敷に向かう。


「父様、いったい何を話すつもりなんでしょう」

「私たちを襲った人たちのことでしょうね」


 二人が、身構えながらつぶやく。

 俺も気になっている。本当にあの人が味方かどうか。

 こうして、エルシエですごしながら何度か話して悪い人でないことはわかっている。


 だが、彼は目的のために冷徹になる一面があることも間違いない。そのことを過去の世界でいやとなるほど知っている。

 その真意を確かめる機会。

 それは非常に重要だ。


「気にしていても仕方ない。まずは話してみよう。すべてはそれからだ」

「そうですね」

「ええ、行きましょう」


 そうして、俺たち三人はシリルの屋敷の扉をノックした。


 ◇


 シリルの屋敷についた俺たちは、居間に案内された。

 それは、この前クーナの姉のソラに案内された和室ではなく普通の洋室だ。


 シリルの妻であるエルフのルシエが、お茶を運んでくる。去り際俺たちに手を振っていった。


「わざわざ、来てもらって悪かったね」


 シリルが、明るい口調で第一声を放った。

 裏表のない様子に見える。


「いえ、俺たちも気になっていましたから」

「そうだな。気にして当然だ」


 シリルはお茶をすする。

 それから、話を始めた。


「まず、神聖騎士団という連中についてだが、彼らの目的は世界平和だ」


 神聖薔薇騎士団の襲撃者が言った言葉とシリルの言葉が一致する。

 そのことに若干の驚きがある。


「とは言っても、イメージがつかないだろうね。具体的に何をしているかというと、地下迷宮の管理と戦争のコントロールが主な業務だ。後者は置いておくとして、前者を話そう」

「地下迷宮の管理ですか?」

「ああ、そうだ」


 もともと、地下迷宮も、マナと対の関係にあるエルナという魔物のもとを封じ込めるために作られたものだ。

 もし、地下迷宮がなければ世界中にエルナが満ちて、どこであろうが魔物が現れる世界になってしまう。

 そして、地下迷宮を作り上げたのは他でもない……


「シリルさん、あなたが地下迷宮を作り上げたのではないのですか?」

「その通りだよ。だが、俺は作っただけだ。管理は彼らの仕事として引き継いだ。もともと、一人で作ったわけじゃない。俺とアシュノという女性が中心に、何人もの協力者がいた。そして、地下迷宮の規模が大きくなりすぎて、個人ではとても管理しきれなくなってね、組織として運用しようとなったときに、結成されたのが神聖薔薇騎士団というわけだ」


 そんな存在があることを俺は知らなかった。

 いくどとなく、この世界での人生を繰り返してきたが、そういった組織の存在に気付けなかった。


「……なるほど、シリルさんは彼らのことをよく知っているはずだ」

「ああ、設立時に深くかかわっているし、指導者とは同志だ」


 予想していた答えとはいえ、身構えざるをえない。


「彼らが、クーナを狙う理由はなんですか?」

「その前に一つ説明しようか。地・火・風・水。四つのマナの属性があり、ノーム、火狐、エルフ、水精の四種族は、それぞれ各属性のマナとの相性が最上級だ」


 そのことは知っている。

 地、火、風、水の四属性は適性がないと使えない魔術。

 頂点の四種族ともなると、一の魔力で十のマナを扱う規格外の力を持っている。

 その力の強さはクーナを見てよく知っている。


「そして、エルナを閉じ込める仕掛けは四種族の魔石を使っている。頂点の四種族はいずれも心臓を抜き取ると、それが魔石になるんだ。魔物のものとは違って、適応したマナを集め続ける効果、そして身に着けていると属性魔術を使うときに、大きく威力を上昇させる効果がある」


 それも知っていた。

 頂点の四種族の魔石を使えば、人間のようなどのマナとの相性が悪い種族でも、属性魔術を使用できるようになる。

 これらの魔石は超高額で取引されており、それが原因でかつてはこの四種族が人間に狙われていた。


「そんなものを使っていたんですか」

「ああ、永久的にマナを供給し続ける仕組みが必要だったからね。だけど、それにも限界が来た。封印に使用している魔石が限界に来てね。近い将来、エルナの封印ははじけ飛ぶ。特に火の魔石の状態が最悪だ」


 その言葉に驚愕する。

 それはつまり、世界に魔物があふれることを意味する。


「驚かなくていい、あと二十年はもつだろうから」

「たった二十年ですか?」

「ああ。今は俺と、もう一人、アシュノが世界各地を回って応急処置をして延命をしているんだけど、それにも限界がある。一番大事な封印の要が壊れかけているから直すにも材料がない。封印に使用できるのは普通の魔石じゃだめだ。特別に強い魔石がいる」


 そこまで言われれば、すべての謎が解けてしまう。

 つまり、その材料こそが……。


「封印を治せる唯一の材料が、クーナの心臓というわけですか」

「その通りだ。【九尾の火狐】に先祖返りしたクーナの心臓を魔石にすれば、圧倒的な力になる。それは他のどの火狐の心臓でも代用品にならない。たとえ、ランク5のクーナの兄や姉でも」


 俺は生唾を呑む。

 神聖薔薇騎士団が言っていたことは本当だった。彼らは世界を救うためにクーナを捕えようとしていた。


「父様、私が犠牲になれば、封印が維持できて魔物があふれることはないんですね」

「クーナ、そんなことを聞くな!」

「ソージくん、これはちゃんと聞いておかないといけないことです」


 クーナが真剣な顔で俺を見つめ、何も言えなくなった。

 シリルが悲し気な目でクーナを見て口を開く。


「そうだ。クーナの心臓があれば二百年ほど延命ができる。おまえの母さんは言っていたよ。自分が代わってあげられるなら、喜んで心臓を差し出すのにって」


 クーナが、うつむきぎゅっと拳を握りしめる。

 動揺するのも無理はない。

 なにせ、魔物が溢れ始めれば、何百人、何千人と死ぬだろう。それだけで済まない。


 いつ、どこから魔物が出現するかわからない以上、人間の文明そのものが後退しかねない。

 ある日眠っていたら、突然魔物が現れる。一秒たりとも気が抜けない。そんな世界で人間は生きられない。

 それが自分一人の犠牲で避けられる。悩まないはずがない。


「シリルさん、あなたなら別の方法で世界を救うことも」

「俺が、それを考えなかったと思うか? クーナを犠牲にしないために手を尽くして、別の方法を探した。探して、探して、ようやく見つけはした。だが、その方法では間に合わない。封印が壊れるほうがはやい」


 何より家族を大事にするこの男が、クーナのことを諦めるわけがない。

 そして、シリルが探して見つからない以上、本当に別の答えがないのだ。


 おそらく、俺を呼んだ神が言っていた破滅はこの件にかかわっている。

 魔物の無差別な出現は、破滅という言葉がふさわしい。

 いや、待て、間に合わないと言わなかったか。


「なら、俺も知恵を出す。それでもだめなら、同時に封印を少しでも延命させる方法を探す。クーナのためなら命をかける! だから、すべてを話してくれ、あなたが思いついた可能性を。すべてだ!」


 俺には、168年もの経験がある。

 シリルにはかなわないかもしれないが、突破口を見つけられるかもしれない。


「ソージは頼もしいな。元より俺はそれを頼みたかった。君ならあるいは、俺の気付けなかったことに気付けるかもしれない。だが、あいつは、あいつらは待ってくれない。二十年は最大限の猶予を見た期間だ。クーナを犠牲にする方法で確実に対応したいと神聖薔薇騎士団は考えている」


 それは間違いないだろう。

 俺やシリルにとって、クーナは特別な存在だが神聖薔薇騎士団にとっては、たった一人の犠牲にすぎない。

 たった一人の命で世界を救えるなら迷う必要なんてないのだ。


「今も交渉をし続けているが、クーナを無理やりにでも奪うため、このエルシエに彼らは攻めてくる。戦争になるだろう。そのときには君たちが頼りになる」


 シリルの言葉、それが不思議だった。


「なぜですか? このエルシエには十分すぎるほどの戦力が」

「奴らは精霊殺しをもっている。マナへの適応が高い種族ほど、相対するだけでも危険な魔物でね。エルシエの民ではどうしようもない。その相手をソージたちに頼みたい。そいつらをどうにかすれば、あとはエルシエの戦力だけで勝てる……確実に勝つためにはランク4になってもらいたい。そのために協力は惜しまない。命がけだが、いいか?」

「もちろんです。むしろ、シリルさんとエルシエのサポートを受けながらの急激なランクアップ。ありがたいぐらいです」


 俺とシリルはぎゅっと握手をする。

 ランク3どころか、その先。そこにたどり着ければもうクーナを泣かせることはなくなるだろう。


 そのあと、いくつかを確認し、最後にシリルがクーナのほうを向いた。


「クーナ、残酷だが一つ問おう。おまえを犠牲にしないため、俺はもちろん、エルシエのみんなもソージもアンネも命をかける。そのことを受け止められるか? あえて言う。おまえが運命を受け入れれば、戦争は起きない。誰も死ぬことはない」


 優しいクーナだから、そこから目をそらせない。

 それをその場で問うのは、厳しさではなく優しさだ。

 いざ、そのときに直面したときに見動きがとれなくなるのを防ぐために前もって心を決めておく。


「父様、私は生きたいです。ソージくんもアンネもみんなも大好きすぎて、みんなとお別れなんて絶対嫌です。だから、ごめんなさい。みんな、私のために命をかけてください」


 クーナが頭をさげる。

 今の言葉を発するために、どれだけ勇気が必要だろうか……

 その勇気を出して彼女が命をかけてと言った。

 なら、恋人としてすることは一つ。


「ああ、喜んで。俺はクーナのためならなんだってする」

「私も同じよ。私たちは【魔剣の尻尾】なんだから」


 俺たちの覚悟は決まった。

 さっそく夕方になれば、地下迷宮の奥底まで潜りその覚悟を試される。

 クーナのために一秒でもはやく強くなろう。

 そして、俺は実行するのだ。

 いつものように。

 クーナを犠牲にしてこの世界を守るのが運命だと言うのなら、……俺の魔術ちからで運命をねじ伏せる。

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