プロローグ:真実と前を向く勇気
今日から再開! ひと月分は書き溜めがあるので定期更新ができます! さあ、五章は今まで以上に盛り上げていきますよ
クヴァル・ベステの精神世界での対決。そして、神聖薔薇騎士団の襲撃から一晩開けていた。
夕食のあと、かなり覚悟をして俺の秘密をクーナとアンネに打ち明けた。
俺の体が、神によって作られたホムンクルスであり、生後一年にも満たないこと。
俺の魂は、何度もこの世界の未来を繰り返して経験を積んだこと。
それを話したことで、必然的にオークレールの真相をアンネに話さないといけなくなったし、クーナが死ぬはずだったことも話してしまった。
二人は、俺の突拍子もない話を信じて受け止めてくれた。
前向きな様子を見せてくれて安心したが……。
「アンネか」
「ソージ、奇遇ね」
井戸に顔を洗いに来るとアンネと鉢合わせをした。
アンネは銀色のさらさらした髪が美しいスレンダーな美少女だ。
いつもクールな彼女だが、目が赤い。泣きはらした後のようだ。
無理もない。
昨日話した、アンネの父親の真相が影響しているのだろう。
アンネの父親は、大罪人として処刑された。
国家機密を他国に売り渡そうとして、彼を捕えようとした王子を殺害した後、捕えられたことになっていた。
だが、その真相はまったくの逆で国家機密を他国に売り渡そうとした王子を止め、その際に王子の抵抗が激しく殺してしまったというものだ。
王家の威信を守るため、王子の罪をかぶってアンネの父親は処刑された。
そのことは、王を始めとした国の上層部はすべて知っている。
アンネが目指していた父親の無実を晴らし、オークレールを再建するという夢。
それは、どうあがいても不可能だった。
彼女はしっかりとその事実を受け止めた。だが、一人になったあとに、ずっと一人で泣いたのだろう。悔しくないはずがない、悲しくないはずがない。
「ソージ、そんな顔をしないで。昨日も言ったけど、私は真実を知れて良かったと思っているわ。ちゃんと”私”が父の無実を知れた。父が最後まで誇り高い人だったってわかったの。周りがどう言おうと、その真実があればわたしは大丈夫」
アンネが精いっぱい強がりの笑みを浮かべる。
「アンネは強いな」
「ええ、私は強いわ。だから、安心して。それに、オークレールは、別の方法で盛り返すつもりよ。ソージたちと一緒にね」
アンネが俺に抱き着いてくる。
俺は彼女の好きなようにさせる。俺の存在が少しでも彼女の支えになればいい。
そう願いながら。
「アンネ、そろそろ家にもどろうか。今頃、ユキナが朝食を用意してくれているだろうから」
クーナを守るために俺たち【魔剣の尻尾】の三人は、騎士学校の夏休みを利用して、彼女の故郷であるエルシエに来て、クーナの兄であるライナの家でお世話になっていた。
エルシエ、俺はクーナを助けるときに負った瘴気焼けと重度の火傷を治療してもらっている。
他にも、【精霊化】などと言った新たな力を得た。
とはいえ、まだまだ足りない。
「ええ、いきましょうか。そろそろ食いしん坊のクーナが、いつまでも朝ごはんが食べられないって怒るころね」
俺たちは、お互いに苦笑してそして歩き出した。
クーナたちが待つ食卓へ。
◇
朝食が用意されている食卓へたどりつく。
そこには、クーナの兄である金の火狐ライナ、その娘である銀の火狐ユキナ。そして、俺の恋人で大事な仲間のクーナが居た。
彼女は俺とアンネを見るなり、金色のキツネ耳をぴんと立て頬を膨らませて口を開く。
「ああ、ソージくん、アンネ、遅いです! いつまで経っても朝ごはんが食べられないじゃないですか!」
俺とアンネは思わず笑ってしまう。
なにせ、アンネが予想していた言葉をそのまま言うのだから。
「ああ、ソージくん、なんで笑うんですか」
「いや、あまりにも予想通りなセリフだったから。……それよりはやく食べようか。今日の朝ごはんも美味しそうだ」
食卓を見ると、シカ肉たっぷりのスープに、ベーコンエッグ、サラダ。それにパンが並べられていた。
クーナの兄であるライナの趣味なのか、ここでは朝からがっつりと肉類が用意される。
クーナはまだ何か言いたそうにしていたが、お腹の音が鳴って、顔を赤くして黙りこむ。
「はやく、ごはんにしよう」
俺はそれだけ言って、クーナの隣に座る。
クーナはこくこくと頷き、そして全員で手を合わせて食事がはじまった。
さりげなくクーナはもふもふ尻尾を俺に擦りつけてくる。最近は完全にクーナの習慣になっていた。火狐の自分のものアピール。俺は、温かくて柔らかくて最高に気持ちいい、この仕草が最高に気に入っていた。
◇
朝食は、いつもながら美味しい。
ユキナの料理はワイルドだが、雑ではない。味付けはシンプルながらもきっちりとしている。素材の味が生きている。
ベーコンエッグ一つあげても、イノシシのベーコンは丁寧に作られた自家製。卵は朝の産みたて、適度に振られた塩は、ミネラル豊富な岩塩と隙がない。
食がどんどん進んでいく。
「はむ、ほういへばソージくん」
クーナがパンを頬張りながら話しかけてくる。
「クーナ、行儀が悪い」
クーナの隣にいたユキナがクーナの腕を抓る。
「いっ、いひゃいです。ユキ姉さま」
ユキナは、クーナが小さいときから、彼女の面倒をみていたらしく、クーナからは姉のように慕われている。
そして、面倒を見ているのは今も変わらないらしい。
クーナが慌てて、口の中にあるものを咀嚼してから改めて口を開いた。
「ソージくん、アンネ。父様がみんなに話したいことがあるから、お昼から屋敷に来てくれと言っていました」
「わかった。じゃあ、朝は各自特訓して、昼になったらシリルさんのところに行こう」
「ええ、それがいいわね。今のうちにクヴァル・ベステの【第二段階解放】の感覚を叩き込んでおきたいわ」
アンネがぎゅっと、クヴァル・ベステの柄をぎゅっと握る。
つい昨日、ついにクヴァル・ベステの主としてアンネは認められた。
今までのような仮の主ではなく、真の主として。
おかげで、これからは第二段階解放までなら問題なく行使できるようになっていた。アンネの力は今までとは比較にならないぐらいに向上していた。
そのあとは、雑談を交えながら朝食が進んでいった。食事が終わろうとしていたころ、さきほどまで沈黙していたクーナの兄、ライナがごほんと咳払いをする。
俺たちはそちらに目を向ける。
「ソージ、今日のダンジョン探索は夕方からにする。それと、今日はダンジョン内で一晩を明かす。いつもより深いところを探索するからそのつもりでいろ」
その一言を聞いて、俺は生唾を飲み込む。
エルシエの地下迷宮は浅い階層でも、ランク2の魔物が現れる。
深いところに行けば、当然それ以上もでてくるだろう。ランク2の俺たちでは、普通に戦えば勝てないランク3の魔物。
「わかった。気を引き締めておく」
だが、そのことが楽しみだと思った。
俺たちのパーティ、【魔剣の尻尾】の三人はそれぞれランク以上の力を発揮する切り札をもっている。
クーナは、先祖返りの力。火狐の最高位である金の火狐、そのさらに先に行く【九尾の火狐】になる力を習得しつつある。
アンネは、魔王そのものを剣という形に押し込めたクヴァル・ベステが喰らった力を得る。クヴァル・ベステ【第二段階解放】をものにした。
そして、俺は火のマナを取り込み一体化する【精霊化】、九尾化したクーナの変質魔力を使用して変化する【白銀火狐】。瘴気の力を持つ【紋章外装】を持ち、それらの技術すべてを、一つにした【蒼銀火狐】という奥の手があった。
たぶん、今の俺たちならばランク3ですら倒せる。
そして、自分のランク以上の魔物を倒すことは、ランクをあげるためには最短の手法だ。その効率はどうランクの魔物を相手にするときとは比較にならにあ。
本来ならそれはただの自殺行為だが、奥の手をもつ俺たちだけは許される。
「ソージ、おまえには言うまでもないかもしれないが、あえていう。俺がついているとはいえ、一瞬の油断で死ぬ。その覚悟をしておけ。……本当は、こういう無茶はしたくないんだがな、親父の命令だ」
「危険なのはわかっているよライナ。俺は嬉しい。新しい力を試せる。何より、早く強くなりたい。どんな奥の手を用意しても、最後にはランクがものをいう。これ以上、ランク2でいるのが一番怖い」
そうなのだ。
俺たち三人の切り札は、ランク差を一つ覆す。
だが、どれも非常にリスキーで消耗が激しい。ランクをあげて、ノーリスクで常に強い状態を保てたほうがいいに決まっている。
エルシエの民を除けば、ランク5など、世界に数人しかいない。つまり、ランク3になりさえすれば、一部の例外を除いて、ほぼすべての敵と戦えるようになる。
俺は何よりもランク3になることを望んでいた。
「そうだな。ソージの言う通りだ。なら、俺も覚悟を決める。準備は俺がやる。だから、おまえたちは安心して親父のところに行ってこい」
俺たちは頷く。
エルシエの長にして、クーナの父である世界唯一のランク6、最強のハイ・エルフ。シリル・エルシエ。
彼の話はきっと、先日の神聖薔薇騎士団の襲撃に関するものだろう。
そこで、俺たちは真実を知る。
それがどんなものでも、驚かない。そう、俺は心の中で誓った。
十二月中は、定期更新を必ずするのでご安心を!
二人に秘密を打ち明けたシーンは一月発売の四巻書き下ろしに収録されていたり(宣伝)




