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チート魔術で運命をねじ伏せる  作者: 月夜 涙(るい)
第四章:【魔剣の尻尾】の真価と進化
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エピローグ:これから

「あっ、ソージくん。それ、私が育てたお肉じゃないですか!?」

「気にするな。変わりに俺が育てていたキノコをやるから」

「ううう、キツネは肉食なんです! キノコじゃ満足できません!」


 今はシリルの屋敷の中庭で食事に呼ばれていた。

 さきほどの神聖薔薇騎士団については、後日話すとのことで、今日は休めと言われている。

 今日のメニューはバーベキューだ。ここには俺たちだけではなくシリルの家族たちが呼ばれてにぎやかな様相を見せていた。


 巨大な鉄板に、次々に肉が乗せられて焼かれている。

 バーベキューとは言ってもしっかりと手の込んだ料理だ。

 適度な厚さに切られ、きっちり香辛料を練り込んで下味をつけられているものや、タレに漬け込まれたものなど工夫を凝らしてある。


 さすがはルシエさんとクウさんと言ったところだ。

 なにより、肉そのものがすばらしい。しっかり熟成されて食べごろの肉が使われている。ここまでの肉、エリンではそうそうお目にかかれない。


「クーナ、まだまだ肉はあるわ。そんなにがっつかなくても」


 アンネは微苦笑しながら、串にささった玉ねぎを食べていた。


「ただの肉なら、こんなに騒がないです! 一番美味しい、鹿の後ろ足の肉だったのに……いいです。ソージくんのを食べちゃいます」


 そういいつつ、俺の皿にもられていたイノシシのロース肉をかっさらっていく。


「もぐもぐ、柔らかくて美味しいです。さすがは母様特製のタレに漬け込んでいるだけはあります」


 クーナは頬を押さえてうっとりとした表情になった。


「クーナ、鉄板の上はともかく、皿からもっていくのは反則よ」

「そんなの知らないです♪」 


 上機嫌にもふもふの尻尾を揺らしながら、もう一切れ肉をかっさらい。クーナは俺から奪った肉を堪能していた。

 そっちがそこまでやるなら、俺にも考えがある。

 あとで、思い知らせてやる。クーナの更に上を行ってみせよう。


「ソージ、また変なことを考えているわね」

「いったいなんのことやら」

「……ふう、まあいいわ。それより肉が焼けたわよ」


 アンネが甲斐甲斐しく俺の皿に肉を持っていく。

 その心遣いが嬉しい。

 だが、残念なことに料理慣れしている俺やクーナと比べて焼き方があまりうまくない。

 戦いだけじゃなくて、料理も仕込んでいかないとと内心で決意する。

 アンネには冒険者として必要なサバイバル技術が若干欠けているところがある。


「ありがとう、アンネ。そろそろお腹が膨れてきたし、今度は俺が焼くよ」


 俺は肉の奪い合いから離脱し、焼くことに専念する。

 二人に最高の肉を食べてもらうために全神経を肉に集中させる。

 俺が焼いているのは香辛料が塗り込まれた分厚いステーキ肉だ。うまく焼くには技術と時間がかかるが、その苦労に値する味になる。

 鉄板焼きは、中心部と外側で温度が違う。


 その温度差を利用し、うまく火を加えるのが匠のわざというもの。

 まずは中心部の強火で外側を焼き固め、外側の弱火で徐々に火を通していく。

 よし、肉汁を完全に閉じ込めた、理想的なレアな状態にして焼き上げることができた。

 それを一口サイズにカットし、クーナとアンネの皿に肉を盛った。


「いい感じに焼けたよ」

「ありがとうございます。ソージくん」

「美味しそうね」


 二人が、俺の焼いた肉を心底美味しそうに頬ぼる。

 料理人冥利に尽きるというものだ。


「相変わらず、ソージくんってなんでも器用にできちゃいますよね。同い年とは思えないぐらい」


 クーナが何気なく放った言葉。

 その言葉で、俺の秘密を二人に話さないといけないことを思い出し、一瞬表情が引きつる。

 そんなときだった。


「本当に美味しい。お婿さんに欲しいぐらい」


 どこか、無感情な声が隣から聞こえてきた。

 横を見ると、クーナの姉である、銀色の髪とキツネ耳尻尾をもったユキナが居た。


 相変わらずの無表情で俺の皿にもった肉をぱくぱくと食べている。

 半分ほど食べたところで箸がとまる。


「ごちそうさま」

「……やっぱり、これは血筋かな」


 肉に対する執着とためらいのなさ。

 クーナと変なところが似ている。


「ユキナは何をしに来たんだ?」

「お酒を届けに、そろそろこっちのテーブルのお酒がなくなると思って」

「ありがとう。助かるよ」


 今日の晩餐ではエルシエ・ワインが振る舞われてる。

 エリンでは人気のせいで品薄だし高価だ。気軽に飲める酒ではないのでありがたい。そしてエルシエ・ワインは、ここにいるユキナが作っている。


「追加で持ってきたのは実験作。是非感想を聞かせて欲しい」

「いつもと何が違うんだ」

「度数強めの辛口、エルシエ・ワインは美味しいけど、もっと強い酒が欲しいという要望に応えてみた」


 確かに、エルシエ・ワインは口当たりが軽く、後味もいい。

 だが、逆に言えば力強さが足りない。

 俺は一口飲む。


 口の中が熱くなる。強烈な旨みと辛さ。

 舌が痺れる。

 美味い、確かに美味いが、何かが違う。


「これは、悪くはないけどエルシエ・ワインじゃない。別の酒だな」

「やっぱりそう思う? 難しい。エルシエの特産品として売り出すのはやっぱりやめておく。身内で楽しむ分にはいい。飲んであげて」


 そう言うなり、ユキナはこの場を立ち去ろうとする。


「用事はそれだけか」

「うん、お爺さまから素面では話にくいだろうから、酔わせてやれと頼まれただけだから」


 シリルの差し金か、変な気を使わなくてもいいのに。

 だが、助かる。

 今晩、クーナとアンネの二人に全てを話すつもりだ。


 神様の力で、未来に起こるであろうことを何回も経験したこと。

 その中で、クーナともアンネとも出会い、守り切れなかったことも。


 そして何より、今のクーナとアンネを愛していて、絶対に守るということを。

 二人なら話して俺を信じてついて来てくれるという信頼はあるが、それでも不安はある。


「ソージくん、お肉がたりません。じゃんじゃん焼いてください。まだまだ食べたりませんよ!」

「私も……少し食べ足りないかしら」


 俺の葛藤を明るい二人の声が吹き飛ばす。

 二人が無邪気に肉を要求してくる。

 こうやって悩んでいるのが馬鹿らしくなってきた。自然と口が笑みの形になった。


「わかったわかった、どんどん焼いていくから絶対に残すなよ」

「もちろんです。クーナちゃんの胃袋は宇宙です」

「クーナはこうは言ってるけど、ほどほどにしておいて。あとで絶対に泣きついてくるから」

「あっ、アンネ、またそんなことを言って!」


 クーナが頬を膨らまして、アンネが小さく微笑む。

 俺は強めの酒を口に含み、肉を盛大に焼き始めた。

 俺の秘密を話すこと、シリルの隠し事、エルシエと神聖薔薇騎士団の戦争、そしてその戦争の鍵になるのが俺とアンネ。


 考えることは無数にある。

 だが、今だけはすの全てを忘れてこの場を楽しむことだけに集中しよう。

 こんな時間も、きっと大切だから。

 


これで第四章は終了です。五章は伏線を一気に回収して物語を進めていきますのでご期待くださいな

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