第十話:歴史は繰り返す
シリルたちの曲が終わり、俺とクーナの番だ。
この場で、クーナと婚約したことを伝え、俺の自己紹介をする予定になっている。
だが、そこで少しいたずらをする。
かなり、常識はずれだが、幸いエルシエには前例があるいたずらだ。
「クーナ……アンネ、行こうか」
「はい、ソージくん」
「本当にいいのかしら?」
クーナが満面の笑み、アンネが微苦笑を浮かべた。
「いいんですよ。キツネの子はキツネです」
その言葉はクーナのもち、いたずらっ子な面が現れていた。
そうして、俺たちは壇上にあがる。
途中、シリルたちとすれ違った。
彼らは目を一瞬丸くして、それから声をあげて笑った。
たぶん、こちらの意図に気がついているのだろう。
◇
「みんな、お久しぶりです。不詳の家出娘、クーナ。無事、エルシエに帰ってきました!」
舞台があがるなり、クーナが大きな声をあげる。
すると、エルシエの民は、うおぉぉぉぉぉと歓声をあげる。
一部では、クーナコールまで。
……クーナは、アイドルか何かか。
「みなさんに紹介したい人がいます! 家出先の封印都市エリンで出会った私の大事な仲間です。彼らが居たから、こうして笑顔で戻ってくることができました」
クーナの言葉で視線が俺とアンネに集まる。
かなり好意的な視線が多い。
「まずは、クールビューティの美少女、アンネ。彼女は剣の達人です! 剣技なら私を上回る、頼れる仲間です!」
「どっ、どうも、アンネロッタ・オークレールです。よろしくおねがいします」
再び歓声が広がる。
ドレス姿のアンネは可愛らしく、恥じらう姿も男心にぐっと来るものがある。
「そして、もう一人はソージくん。凄腕の魔術士です。どれぐらいすごいのかと言うと、父様に勝ちました! きれいな右ストレートを顔面にぶち込んだみたいです!」
エルシエのみんなが、驚いた顔をして俺を見たあと、曲が終わってから舞台を降りていたシリルのところに視線が一気にあつまる。
シリルは苦笑してから、頷いた。
アンネのとき以上の大歓声があたりに広がった。
それほど、シリルが負けるというのは異常なことなのだろう。
「大事な仲間を紹介させていただきましたが、もう一つ、大事なことがあります。もう、聞いたかたもいるかもしれませんが、私、婚約しました。お相手は、ソージくんです!」
クーナが俺の右腕に抱きつきVサイン。
おめでとうと言う言葉が幾重にも響く。
クーナ親衛隊の連中を始めとした男どもは、血涙を流しながら、必死に奥歯を噛み締め、それでも拍手し、おめでとうと言った。
……もう、ここまで来ると尊敬に値する。
「そして、もうひとつ発表があります。実は、もう一件、婚約発表があります」
エルシエのみんながざわつきはじめる。
そんな中、アンネが一歩前に踏み出した。
「私、アンネロッタ・オークレールも、ソージと婚約したの。その、ごめんなさい」
そして、クーナとは逆の左腕に抱きついた。
エルシエの民たちは呆然としている。
それもそうだ。エルシエの国の姫であるクーナと婚約発表をしたその場で別の女性との婚約発表。
非常識にもほどがある。
だが、三人で話し合ってこうすることにした。隠れてこそこそ付き合うぐらいなら、はじめっから全てを話したほうがいい。
「クーナ、そしてアンネの婚約者になったソージだ。クーナと婚約したのに、別の女性とも婚約と聞いて、眉をしかめるものも居るかもしれない。だけど、俺はこの場で誓わせてもらう。クーナも、アンネも二人共幸せにしてみせる。シリルさんがルシエさんとクウさんを幸せにしたように」
かつて、シリルはルシエとクウ。二人との婚約を、こう言った場で盛大に発表した。
今回の婚約発表はそれを再現した。
エルシエの民たちは、一瞬呆然とした表情を浮かべたあと、ぽつぽつと拍手をし始めた。
それは、シリルをだしにされたら、否定しにくいし、何よりクーナが幸せそうな顔をしているからだろう。
エルシエの民たちから、さまざまな言葉が届き始める。二人共、幸せにしろだの、クーナ様を泣かしたら殺すだの。二人の美少女を独占なんてふざけるな殺すだの。さまざまだ。
きつい言葉を放ったものも、その口調は穏やかだ。
俺は二人を強く抱き寄せて、順番にキスをした。