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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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92話 ルゥとシルヴァ

 俺を見上げる金髪の幼女。シルヴァネールははっきりと言った。

「自分はダークドラゴンを葬るために生まれた」と。

 ルゥシールに守られるように、その腕に抱かれながら……


「つまり、お前はルゥシールを殺そうとしているわけか?」


 大人げないとは思う。

 けれど、俺の体から、少しだけ殺気が漏れてしまった。

 こんな幼女相手に……と、思わなくもない。

 反面、こいつはあのゴールドドラゴンなのだという事実も頭に刻み込まれている。


 やりづらい。

 これなら、今の姿など見なければよかった。


「……違う」


 ぽつりと、シルヴァネールが否定の言葉を漏らす。

 表情に乏しい少女の顔には、何かを訴えるような、そんな必死さが浮かんでいた。


「私はルゥを…………助けたい」


 ルゥシールの顔が歪む。

 苦しそうに、今にも泣き出しそうな表情を見せる。


「私がダークドラゴンから、ルゥを守って見せる……」

「ダークドラゴンから?」


 シルヴァネールの言った言葉の意味が分からずに、俺はルゥシールを見る。

 俯き、こちらを見ないルゥシールの横顔を見ると何も言えなくなりそうだ。けれど、知らぬフリは出来ない。

 こいつらのことを知らなければ、きっと最悪の状況が訪れる。

 それだけはハッキリ分かった。


「……【搾乳】。一度テントを張りましょう」


 重く滞留した空気を、フランカの声が打開する。

 そうだな。

 とにかく、休める場所を確保しなくては。

 またいつゴーレムが襲ってこないとも限らない。


 四天王たちが、谷底に落ちた俺たちの荷物を集めてきてくれたようで、なんとか野営が出来そうだった。

 とはいえ、すべての荷物が戻ったわけではなく、テントも簡易的なものとなりそうだが。


「……とにかく、火を起こしましょう。あなたもその子も、体を温める必要がある」


 そう言って、フランカは四天王に焚火の準備をさせた。

 テオドラは、食事の準備を始める。


「おなかが落ち着けば、心も落ち着くさ。もう少し話しやすくもなるだろう」


 そんなことを言い、カタナを片手に川へと向かっていった。

 ……あれで魚を獲るつもりか?


「ご主人さん……」


 準備を始めた面々を見て、俺も何か手伝うかと思い始めた頃、ルゥシールがぽつりと俺を呼ぶ。

 振り向くと、ルゥシールは膝をつき、俺にジッと視線を向けるシルヴァネールを抱きしめるような格好で俺を見つめていた。

 なぜか、ルゥシールは泣きそうな顔をしていた。


「この娘を…………救ってあげてくれませんか……」


 悩みに悩んで、それで、堪らずに口をついて出た言葉。……そんな風に感じた。

 なぜだ?

 こいつはお前の命を奪おうとしたんじゃないのか?

 お前は、こいつに怯え、苦しめられていたんじゃないのか?


「……わたしの首に、この魔法陣を刻み込んだのは、このシルヴァネールです」


 ルゥシールはかつて、それを施したのは『宿敵』だと言っていた。

 では、やはりシルヴァネールは敵なのではないのか?


「けれど、そうさせたのは…………わたしの中に眠る闇……わたしの『宿敵』なのです」


 ルゥシールの中に眠る宿敵……闇?


「……私は、闇を葬るためにこの世界に誕生した」


 シルヴァネールが静かな声で言う。


「ルゥシールを殺すために、ってことか?」


 俺の問いに、シルヴァネールは首を思いきり横に振る。

 全力の否定……じゃあ、さっきの攻撃は何だったんだ?


「ルゥを殺したくない…………だから、ダークドラゴンを殺す……私の光で」


 要領を得ない。

 こいつは何を言っているんだ?


「ご主人さん」


 ルゥシールが俺を呼び、寂しげな笑みを浮かべる。


「……少し、話を聞いていただけますか?」

「…………あぁ」


 俺は、ゆっくりと二人に近付き、ルゥシールの向かいへ腰を下ろした。手頃なサイズの岩があったので、椅子代わりにする。

 膝の上に肘を乗せ、やや前傾姿勢で、ルゥシールに話を促す視線を向ける。

 ルゥシールは一度静かに頷くと、ゆっくりと口を開いた。


「わたしたち龍族――ドラゴンのことです――は、命の象徴とも呼べる力を体内へ宿しています。それは、魔力とよく似ていて……少しだけ違います」


 龍族は、魔力とは別に個体別に特定の力を有しているのだという。

 レッドドラゴンは炎の、ブルードラゴンは水の力という具合に、その個体別に生命を司る力が体内に眠っているのだそうだ。

 その力は【ゼーレ】と呼ばれ、魔力と融合することでドラゴン特有の強大な力へと変換されるらしい。

 ルゥシールたちのブレスは、魔力とこの【ゼーレ】を融合させたものなのだ。


「【ゼーレ】の強弱は個体により千差万別で、ドラゴンの中にも弱い者はいます。それこそ、素手の人間に負けてしまうような脆弱な者も……」


 ドラゴンがみんな強大な力を有しているというわけではないことに、俺は正直驚いた。

 まぁ、人間にも俺みたいに魔力を持たない例外がいるわけだし、当たり前と言えば当たり前だが。


「人間の中には、【ドラゴンスレイヤー】と呼ばれる、ドラゴン討伐を生業とする剣士がいますよね……脆弱なドラゴンは、彼らの恰好の餌食となるのです」


【ドラゴンスレイヤー】は、数は少ないがブレンドレルにも何人かいるはずだ。

 身も蓋もない言い方をすれば、ドラゴンは金になるのだ。

 鱗も牙も爪も皮も、目玉や心臓でさえ高値で取引される。

 そして、ドラゴンを倒せる剣士は勇者として崇められる。

 ギルドでの序列も高く、様々な意見が通りやすい。


 人類にとって、ドラゴンは非常に『おいしい』商売になるのだ。


 そんなわけで、これまでの歴史の中で、ドラゴンは非常に多くの数が狩られている。


「それでも、わたしたち龍族が数千年もの間途絶えることなく種族を維持し続けていられるのは、ひとえに龍族が仲間を大切にする種族だからなのです」


『ドラゴンに手を出せば、街が無くなる』という言葉が、古くから語り継がれている。

 ドラゴン討伐を企てた街は、ドラゴンの怒りを買い殲滅されてしまうというのだ。


 史実によれば、大規模なドラゴン狩りを行った王国が、数千匹のドラゴンに襲われて一晩で焼き尽くされたことがあるらしい。

 焼け野原となったその場所には、生存者はもちろん、死者の躯すら残っていなかったのだそうだ。


「ドラゴンの逆鱗に触れると恐ろしいって話だな」

「…………逆鱗なら、もう触れられた」


 俺の言葉に、シルヴァネールが首の後ろを押さえてぷぅっと頬を膨らませた。

 なんだ? 急に可愛らしいじゃねぇか。

 あぁ、そう言えば首の後ろの『他とは少し質感の違う鱗』って『逆鱗』って言うんだっけ?

 あれ、あの『逆鱗』か?

 触るとドラゴンが怒り狂う?

 いやいや。

 俺の知っている『逆鱗』は、触れるとドラゴンが「にゃあ」と鳴く面白ポイントだ。


「………………もう、お嫁にいけない」

「まぁまぁ、シルヴァ。相手はあのご主人さんですし……それは無効ということで……」


「あの」ご主人さんってなんだよ、ルゥシール。

 なにかバカにされた気がするんだがなぁ。


「それで、話を戻しますが……」


 ルゥシールが咳払いを挟み、再び真剣な表情で語り出す。


「龍族は、一族存亡を何よりも警戒しています。有能な【ドラゴンスレイヤー】が誕生した時。環境に影響を与えるような大規模戦争が勃発した時。――そして」


 ルゥシールの真紅の瞳が、ゆらりと揺らめく。

 真紅の上に、深い闇が流れ込んでいく……


「……仲間殺しのドラゴンが誕生した時」


 ルゥシールが瞼を伏せる。

 眉間にシワが寄り、しばらくの間、沈痛な面持ちで口を閉ざした。


「…………私たち龍族の【ゼーレ】は絶対数が決まっていると言われている」


 口を閉ざしたルゥシールに変わり、シルヴァネールが口を開く。

 驚いた顔をするルゥシールに対し、シルヴァネールはこくりと頷いてみせる。それで、ルゥシールは納得したようで、肩の力をふっと抜いた。


「炎の【ゼーレ】を持つドラゴンが死ねば、新たに別のドラゴンの体の中に炎の【ゼーレ】が目覚める。龍族は、【ゼーレ】をもって生まれるのではなく、生まれてから【ゼーレ】に選ばれる。選ばれるまでの間、【ゼーレ】を持たないドラゴンは【ニヒツドラゴン】と呼ばれ一所に集められ保護対象とされている」


【ニヒツドラゴン】?

 炎や氷といった特性を持たないドラゴンなんてのが存在していたのか。

 そいつらは一箇所で守られていて、人間に見つからないように保護されている……ってわけか。

【ドラゴンスレイヤー】が聞いたら、一も二もなく狩りに行くことだろう。

 ブレスを吐かないドラゴンは、恰好の獲物だ。


「私とルゥは、【ニヒツ】の時、ずっと一緒に過ごした。ルゥが少しだけお姉さんで、私は、ルゥが…………大好きだった」


 シルヴァネールがルゥシールを見つめてそう言うと、ルゥシールの瞳に見る見る涙が溜まっていく。


「わた…………わたしも…………シルヴァが…………大好きです……っ」


 そして、ギュッとシルヴァネールを抱きしめ、嗚咽を漏らし始める。

 シルヴァネールがルゥシールの頭をポフポフと撫でる。と、ルゥシールが一層強い力でシルヴァネールを抱きしめた。

 ……こいつらの関係性がますます分からなくなってきた。


「【ニヒツ】は、ずっと待機している。自分の中に【ゼーレ】が目覚めるのを」


 ……しかし。


「どの【ゼーレ】が目覚めるかは分からない。一生目覚めない者もいる」


 ……シルヴァネールの言葉を聞いて、俺は…………


「…………目覚めたくなくても、目覚めてしまうことも…………あるけれど」


 ようやく理解した。


「つまり、ルゥシールの中に目覚めたダークドラゴン――闇の【ゼーレ】が事の発端なわけだな」


 俺の問いに、シルヴァネールはこくりと頷く。

 明確な、肯定。


 ルゥシールはシルヴァネールにしがみつくようにして、俯いている。

 嗚咽は収まっているが、時折鼻を啜る音が聞こえてくる。


「……龍族は、【ニヒツ】の時に幼名を授かる。私はシルヴァ、ルゥはルゥと……そして、【ゼーレ】が目覚めた時に龍名を…………押しつけられる」


 初めて、シルヴァネールに明確な嫌悪感が現れた。

 おそらく、その龍名を押しつけられた時に、この二人の関係はおかしくなってしまったのだろう。


「『シール』というのは、『滅ぼす者』という意味……ダークドラゴンに与えられる龍名。そして、『ネール』は………………『闇を払う者』……ゴールドドラゴンに押しつけられる、忌わしい名……」


『滅ぼす者』に、『闇を払う者』…………

 この二人は、その名を決して喜んではいないのだろう。


「ぐす…………すみません…………ここからは、わたしがお話します……」


 鼻を啜り、ルゥシールが顔を上げる。

 目が真っ赤に染まっている。

 涙で濡れた頬が、少し艶めかしく見える。

 その表情は、どうしようもなく俺の心をざわつかせた。


「龍族の【ゼーレ】には二つの天敵がいます。ひとつは【ドラゴンスレイヤー】で、彼らの生み出した剣技は龍族の【ゼーレ】を魔力から切り離し消滅させてしまうのです。けれど、その剣を究めた者は多くなく、こちらはさほど脅威ではありません。問題は……」

「……ダークドラゴンの闇の【ゼーレ】、か?」

「…………はい」


 俺の考えは正しかったようで、ルゥシールは静かに首肯する。


「ダークドラゴンの闇のブレスは、龍族の【ゼーレ】ですら飲み込んでしまうのです」


 ルゥシールの闇のブレスは魔力を飲み込む。

 古の遺跡の地下で、神器サルグハルバの魔力を吸い尽くしたように。

 あの闇のブレスは、魔力だけでなく【ゼーレ】まで飲み込んでしまうのだという。


「つまり、ドラゴンどもにとって一番の脅威は、仲間であるはずのダークドラゴンってわけだ」

「はい。……彼らがダークドラゴンを仲間と認識しているのであれば、ですが」


 ルゥシールの発言は、半ば捨て鉢に聞こえた。


「そこで、『闇を払う者』の出番ってわけだ」

「…………はい」


 これで、シルヴァネールがルゥシールを追いかけているわけが分かった。

 だが、「ルゥシールをダークドラゴンから守りたい」という言葉の意味が分からん。

 ……ん? まてよ。


「何らかの方法をとれば、ダークドラゴン――闇の【ゼーレ】をルゥシールの体から取り除けるってことか?」


 その問いには、シルヴァネールが明確に肯定の意を示した。


「そう。ゴールドドラゴンの力を使えば、可能」

「じゃあ、それで問題解決なんじゃ……」

「そんなことはないんです」


 楽観的に言いかけた俺の言葉を、ルゥシールが遮る。

 まぁ、そんなことが出来れば、きっと今頃ルゥシールはダークドラゴンではなくなっているのだろうが。


「闇と光の【ゼーレ】は相反する力を持ち、ぶつけることで相殺されます」

「同じ力なら、な」

「はい。ですが、もしどちらかが大きかった場合、勝った方の【ゼーレ】が残り、劣る【ゼーレ】は消失します」

「その際、肉体はどうなるんだ?」

「ほとんどの場合……、【ゼーレ】を体外に取り出すことは出来ませんので……肉体ごと消失します」

「ほとんどの場合ってことは、例外があるんだな?」

「…………」

「どうなんだ、シルヴァネール」

「ある」

「シルヴァ……」


 どうもルゥシールは言いたくなさそうなので、シルヴァネールに話を振る。

 俺は、この話をきちんと聞かなければいけない。そう確信している。


「【ゼーレ】に楔を打ち込み、互いの楔を魔力で繋げば、【ゼーレ】同士を融合することが可能」

「肉体に影響は?」

「ない」

「嘘です!」


 シルヴァネールの言葉を、ルゥシールが否定する。

 喉を鳴らし、叫ぶような声で。


「確かに、わたしの肉体には影響はありません! わたしは『闇』だから! 『闇』は、何があろうとなくなりません。夜が明けようと光に照らされようと、見えなくなることはあってもなくなることはありません…………けど、光は…………」


 ルゥシールは険しい表情で空を見上げる。

 雲と霧で空は見えないが、ぼんやりと太陽の輪郭が見て取れる。


「……ご主人さんは、世界を照らすあの太陽がどうやって光を放っているかご存知ですか?」

「ん? 書物によれば、デカい星が燃えているらしいな」

「そうです。太陽は己の身体を燃やし、光を発しているのです…………では、太陽があのまま自分の身体を燃やし続ければどうなるかは、ご存知ですか?」

「…………いや。どうなるんだ?」

「……太陽の最期は決まっています。それは、消失です」


 長きに渡る龍族の記録に、焼失した太陽の話があるらしい。

 今の太陽が誕生する何万年も前に、この世界を照らしていた別の太陽がある日突然消失したのだとか。暗黒に包まれた世界は危うく滅亡する直前にまで追いやられる。

 その時新たな光を生み出したのが、今の太陽なのだと、ルゥシールは言う。


「これほど眩い光に満ちていても、火が消えればそこには『闇』が広がります。『闇』は、決して消えることはないのです……」


 夜が明けると、闇が消えたように感じる。

 しかし、瞼を閉じれば、地下に潜れば、たちまち『闇』はその姿を現す。


「光の【ゼーレ】は闇の【ゼーレ】に対抗しうる唯一の力で、しかし……その代償は大きいのです」


 ルゥシールの言葉を聞いても、シルヴァネールは何も答えない。

 つまり、ルゥシールの言葉は正しいのだ。


「光の【ゼーレ】は、使えば使うほど、ゴールドドラゴンの体を削り取っていくんです!」


 視界の中に、あどけなさの残る幼女の姿を捉える。

 シルヴァネールは言った。「ルゥシールの方が『少しだけ』お姉さんだ」と。

 ……少しか?

 ドラゴンの年の取り方がどのようなものかは知らんが、シルヴァネールはあまりにも幼過ぎないだろうか?


「わたしの【ゼーレ】に触れれば、間違いなくシルヴァは消失します。光の【ゼーレ】と共に」


【ゼーレ】を肉体とは切り離してぶつけることが出来る方法がある。しかし、光の【ゼーレ】は強力故に使用するためには制限があり、それは肉体が消失していくことである。

 つまり、いくら切り離したとしても、『ゴールドドラゴンだけが肉体に影響を及ぼしてしまう』

 そういうわけか。


「じゃあよ、ゴールドドラゴンを何頭か集めて、体が消失しないように力を分散させてみたらどうだ?」

「炎や氷の【ゼーレ】は複数存在するのですが、光と闇だけは一人ずつしかいないんです」


 この世界にルゥシールとシルヴァネールだけ。

 お互いに、一人きり。


「本来、闇の【ゼーレ】は、あと数百年間は別のドラゴンが所有するはずだった。けれど、先代のダークドラゴンは強力な【ドラゴンスレイヤー】に倒されて、絶命した。それが、十五年前」


 随分最近だな。

 ってことは、ルゥシールのダークドラゴン歴は十五年ってことか。


「一般的に、成人前のドラゴンは魔力が弱く、【ゼーレ】を得ても大した力は発揮出来ないと言われていた」

「じゃあ、お前らはもう成人してんだな?」

「まだ」

「わたしも、まだです」


 お前ら、もうすでに滅茶苦茶強いじゃねぇか。

 成人のドラゴンって、どんなバケモノなんだよ?


「だから、先代のゴールドドラゴンは、ルゥが成人する前に、未完成なウチに闇の【ゼーレ】を相殺し、ルゥを闇から救おうとした」


 おい……待てよ。


「彼女の名はラミラネールと言い、とても美しく、優しくて、聖母のようなドラゴンだった……」


 ルゥシールの中で闇の【ゼーレ】が目覚めたのが十五年前で、今のゴールドドラゴンがシルヴァネールってことは……


「ラミラネールは、ルゥの母親だった」

「……そうです。わたしは、自分の母親を……」

「待てっ! 言わなくていい!」


 その言葉を、ルゥシールに言わせるのはあまりに酷だ。

 一つしか存在しない光の【ゼーレ】が他のドラゴンに目覚めているということは、つまりそういうことだ。


 ルゥシールの母親は、光と闇の相殺に失敗したのだ。


「ルゥの【ゼーレ】は、龍族の誰が予想したよりも、ずっとずっと、強力だった」


【ゼーレ】には個体差がある。

 そいつが、最悪の方向で現れてしまったのだ。


「ルゥの力を危険視した龍族の長老たちは、ルゥシール討伐を新たに目覚めたゴールドドラゴンに命じた」


 そして、シルヴァネールはルゥシールを追いかけるようになった。

 けれど、命を狙ってのことではないのだろう。

 こいつは、たぶん……


「私は、ルゥの中のダークドラゴンを葬る。そして、ルゥを自由にしてあげるの」


 そのために、ルゥシールに楔を打ち込んだ。

 けれどルゥシールは逃げた。

 母親と同じ結果をたどると思ったから。

 それとも、すでにシルヴァネールの何パーセントかが消失してしまったからか……

 たぶん、そうなのだろう。

 あのグレンガルムの丘でのこと。あれは、シルヴァネールがルゥシールの中の闇を相殺させようとしていた場面ではなかったのだろうか。

 傷だらけのルゥシールは、あの時楔を打ち込まれ、覚悟をしたのだ。

 シルヴァネールの消失を。


 絶望に満ちた表情は、きっとそのせいだったのだ。


 ルゥシールがゴールドドラゴンを見るやブレスを吐いたのは、シルヴァネールに相殺をさせないためだろう。

 そして、また逃げるつもりだったのだ。

 どこまでも、いつまでも、シルヴァネールを消失させないために。


 せめて、シルヴァネールの力がルゥシールを超えるまでは。


「もう少し時間を置いたらどうだ? そうすれば、お前の力だって……」

「それは不可能」


 シルヴァネールはきっぱりとした声で否定する。


「時間はもうない。ルゥシールは間もなく成人する」


 成人。

 未熟なドラゴンの力が開花する時期。


「ルゥシールの【ゼーレ】は、過去誕生したどのダークドラゴンよりも強力。覚醒前ですでに、成人のドラゴンを凌駕している。……もし、成人してしまえば…………」


 シルヴァネールの言葉が、静かな河原に、やけにはっきりと響いた。



「ルゥの命を狙って、数千を超えるドラゴンの軍勢が一斉蜂起するだろう」









ご来訪ありがとうございます。



お久しぶりの、

まとめです!




まとめ


・ドラゴンは龍族って一族だよ!

・龍族には【ゼーレ】って呼ばれる特殊な能力があるよ!

・【ゼーレ】は魔力と融合してちょ~強いブレスになるよ!

・【ゼーレ】の絶対数は決まっていて一人減ると新しい人に誕生するよ!

・同じ【ゼーレ】でも個体によって強さはまちまちだよ!

・【ゼーレ】を持たないドラゴンは【ニヒツ】と呼ばれてるよ!

・ほぼすべての【ゼーレ】が複数ある中で、光と闇の【ゼーレ】は一つずつしかないよ!

・光と闇の【ゼーレ】は相反する力で融合させると相殺するよ!

・闇の【ゼーレ】はすべてを飲み込み光の【ゼーレ】は使うたびに身体が消失するよ!

・新たに生まれた【ゼーレ】は成人と共に覚醒し真価を発揮するよ!

・龍族の天敵は【ドラゴンスレイヤー】と闇の【ゼーレ】だよ!

・ルゥシールはこのまま成人するとドラゴン総出でフルボッコだよ!

・今回はちょっと真面目なお話でアホのルゥシールが大人しいけど、仕様だよ!

・大丈夫、『どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです』で間違いないよ!

・本文に一回も「おっぱい」って出てこない回もあるんだよ!

・CTRL+Fで検索しても「おっぱい」は引っかからないよ!

・って思ったら ↑ に引っかかるよ!?

・でも流石に「パイスラ」には引っかからな…………あぁっ、しまった、ここに引っかかる!?

・CTRL+Fは非常に役立つので覚えておくといいよ!




ルゥシールの胸に刺さっている『楔』は、

魔力を抑え【ゼーレ】のみを抽出するためのものであり、

同時に、ルゥシールに魔力を使わせないように封印する結界でもあります。


ルゥシールが魔力を使えば、その分闇が大きくなり、

龍族は一層ルゥシールを危険視する。

また、魔力を使うことで居場所が知られてしまう。

そんな心配をしたシルヴァネールが施した結界なのです。


楔で魔力が抑えられる仕組みは、

大きな氷の上に板を乗せ、その板を上から強力なばねで押さえつけていると思ってください。


===== 天井

  三  バネ

  三

===== 板

 □□□  

 □□□  氷


バネがぎっちぎちで氷はピクリとも動きません。

が、氷を溶かしてやると抵抗を失ったバネは伸び、板と共に床へ落ちます。

そうなった状況で溶けて水になった氷を凍らせれば、


『バネに押さえつけられていない氷』が出来ます。


このバネが『楔』で、板が『結界』、氷が『魔力』です。

ちなみに、天井が『【ゼーレ】』といったところでしょうか。



と、まぁ、小難しく説明を試みてみましたが、

要は、



おっぱい揉んでチューするための仕組みです!



本文には一切出てこなかったのにあとがきで三回も出て来るとは……やるなおっぱい!(←四回目)


真面目な回でも私は私です!




次回もよろしくお願いいたします。


とまと

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