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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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9話 舞い込むトラブル 二つ名を持つ男

「ご主人さん、魔物ですっ!」


 と、遅れて入ってきたルゥシールが慌てるのも無理はない。


 武器屋の中にいたのは、2メートルを優に超える大男だった。中途半端に長い頭髪をツンツンに尖らせて、顔の下半分にこれまた触れると刺さりそうな髭を蓄えている。子供の胴体ほどもある太い腕に、その倍はありそうな極太の足。胸板も腹も巨木のようにどっしりとしていて、そのどれもがはち切れそうに膨れ上がった筋肉で覆われている。


 そんな熊みたいな巨漢が、額に血管を浮き上がらせて邪悪な顔をしているのだから……なるほど。どっからどう見ても魔物にしか見えない。


「なんだテメェは、って聞いてんだよ!?」


 野太い声が発せられ、武器屋に陳列された武具たちが共鳴を起こすように振動する。

 腹の底に響く声だ。

 大男がのそりと体を反転させ、地響きのような足音を響かせて俺の目の前に立つ。

 毛で覆われた顔の中で、ぎょろっとした目玉が俺を見下ろしている。


「名乗れ。殺すぞ?」

「あ?」


 思わず喉から短い音が漏れてしまう。

 この「あ?」という短い音には「誰に物言ってんだ、すり身にして村の特産品コーナーに並べるぞコラ」という思いが含まれている。

 が、まぁ、俺も大人だ。相手が無礼だからと言って、こちらまで礼を欠くことなどしない。相手のレベルに墜ちてやる謂れもないからな。俺は、大人だから。


「誰に物言ってんだ、すり身にして村の特……」

「はい、ご主人さん、ストップです!」


 突如割って入ってきたルゥシール。俺の腕を引いて後ろを向かせると、ヒソヒソと、俺を諌めるように強い口調で言う。


「また心の声洩れてますからね! もうちょっと我慢してください!」


 また洩れてたのか。

 う~ん…………独り言の癖、治らないもんだなぁ。


「ああいう人には関わっちゃダメなんです。村で問題を起こすのは避けてください」

「それは分かっているのだが……」

「それに、分が悪いですよ。三人を同時に相手にするのは得策ではありません」

「三人?」


 他に誰かいただろうか……と、俺は武器屋の中を見渡してみる。

 なるほど。ルゥシールの言う通り、店の奥に女がいた。


 カウンターに腰を掛けている女は、スリットの深いロングスカートを穿いており、その体勢のせいで、白い足の大部分が露出している。適度に張りのある太ももは瑞々しく、得も言われぬむっちり感が視覚から伝わってくる。組んだ腕の上にふたつのふくらみがどっしりと乗っかっているのもポイントが高い。


 もう一人は、反対側の壁際に佇む地味な女だ。姿勢よく背筋を伸ばしているにもかかわらず、驚くほどに胸元に起伏がない。長いブロンドが目を引くが、露出を限りなく抑えた服装は教会のシスターを彷彿とさせる。ただ、服の色が真っ黒であるため、とてもシスターには見えないが。


「向こうの巨乳が魔導士で、あっちの乳の無いのはシスターってとこか」

「黒いシスターさんに失礼ですよ!?」


 そんなことはないだろうと視線を向けてみると、全身真っ黒のシスターは頬を引き攣らせてこちらを睨んでいた。

 冷淡な瞳にゾクリとする。よく見るとあのシスター、割と美人だな。あの蔑んだような目、……癖になりそうだ。


「だいたい、なんで真っ先に胸に目が行ってるんですか!? そういうとこ、直してください!」

「馬鹿者! 真っ先に目が行ったのはあのむっちりした太ももだ!」

「威張って言うことですか!?」


 俺の発言を受けて、カウンターに腰を掛けていたむっちり太もも魔導士がカウンターから飛び降り、露出していた太ももを隠すようにスカートを押さえる。……照れるならそんな格好しなきゃいいのに。……とは、思っても口にしない。当然、そんな格好をしていてほしいからだ。



「太ももから巨乳へ行って、太ももに戻ってからあっちの貧乳に行って、またすぐ太ももに」

「太もも見過ぎですし、もうちょっと黒いシスターさんにも興味持ってあげてください! 気の毒です!」


 真っ黒シスターの額に青筋が浮かぶ。

 ほぅ、怒りに歪む美女の顔というのもなかなか色気があっていいものだな。


「ふざけてんのか、テメェら!?」


 汚い声をぶちまけたのは筋肉まみれのデカい男だ。こんなヒゲ面のオッサンの怒り顔など楽しくもなんともない。見る価値がない。


「つまんねぇ顔だな、お前は」

「ご主人さん!? なんで口を開く度に喧嘩を売るんですか!?」


 そんなつもりはないのだが、俺は生まれながらに素直な性分なのだ。

 そんな俺の素直な心が告げている。

『オッサンと絡んでいても面白くないから無視してしまおう』と。


「店主。俺の武器は修理出来てるか? 約束の金は用意したぞ。どうだ、凄いだろう!」


 俺は得意げに胸を張りながら、ヒゲ面の筋肉だるまを無視してカウンターへ歩み寄る。

 見ると、カウンターの向こうで店主が俺の剣を抱きかかえて立っていた。

 それはもう、大切そうに両腕で抱え、ギュッと抱きしめ、軽く頬摺りするくらいの勢いでだ。


「……人の剣に欲情してんなよ、この剣マニア」

「あ、いえ、違います! これは……」


 店主が慌てて俺へ説明をしようとしたのだが、空気を読まないヒゲだるまが横から口を挟んでくる。


「ほぉ、それはテメェの武器だったのか!」


 嬉しそうな声を上げて、カウンターと俺の間に体を割り込ませてくる。

 無視されたのが気に障ったのか、随分強引に割り込んできやがった。

 暑苦しさが尋常ではなかったので、思わず後ろへ下がる。


「丁度いい。テメェ、俺と決闘をしろ。そして、その武器を破壊させろ!」


 言っている意味と、こいつの存在意義が分からない。

 事情を知っていそうな店主へと視線を向けると、店主は俺の意思を汲み取ったのか、おどおどと説明をしてくれた。


「こ、この店で一番いい武器を破壊させろと言われて……それで、もちろん断ったんですが、この剣を見つけるや『これがいい、これを破壊させろ』と……」


 そう言って俺の剣を軽く持ち上げる。が、ヒゲだるまの視線を感じると、抱きかかえその視線から隠すように身を縮める。

 たしかに、このド田舎の武器屋にはろくな武器が置いていない。クレイモアも、不幸な事故で壊れたしな。

 そこへ行くと俺の剣は特別性だからな。ここで一番いい武器と言えば俺の剣になるだろう。


「で、なんで破壊されなきゃいけないんだよ?」


 修理したばかりだってのに、冗談じゃないぞ。

 そんな俺の質問には、嬉しそうな笑みを浮かべたヒゲだるまが答えた。


「それは、俺が【破砕の闘士】デリック様だからだ!」


 絵に描いたようなドヤ顔でヒゲだるまが言う。

 相当自慢なのであろう、その【二つ名】が。


 冒険者ギルドに加入すると、戦績や功績が勝手に発表されることがある。というか、ほとんどの情報が筒抜けだ。

 そんな風に戦績や功績が知れ渡る環境だから、有名な冒険者には二つ名が付けられるようになる。

 二つ名は知名度の表れであり、また畏怖の対象にもなっている。

『二つ名を持つ者には逆らわず、出来れば近付くな』それが、冒険者たちの中の常識なのだ。


 まぁ、大抵の場合、こういう輩が自慢げに語るという使われ方しかしないが……


「は、破砕の闘士デリック……っ!」


 カウンターの向こうで、店主が震えた声を漏らす。店主はこのヒゲだるまを知っているようだ。

 視線を向けると興奮と恐怖に顔を引き攣らせながら詳細を教えてくれた。


「破砕の闘士デリックといえば、名のある冒険者に決闘を挑み、その冒険者の愛用する武器を破壊して回っている厄介者として有名なんですよ」

「ほぅ、よく知っているな店主。いやまぁ、俺ほどの有名人になれば当然か。ガハハハ!」


 馬鹿笑いをするヒゲだるま……えっと、デリックだっけ?……なのだが、何がそんなにおかしいのやら。

 ようするに、いろんな人から寄ってたかって嫌われているということだろうに。

 自己顕示欲の塊みたいなヤツなのだろうな、しょうもない。

 まぁ、ともあれだ。


「聞かない名前だな。初耳だ」

「ぐっ!」


 豪胆に笑っていたデリックの顔が引き攣る。

 いつの間にか隣に来ていたルゥシールが俺の袖を軽く引く。


「挑発しないでください」

「してないだろう。こいつが勝手に興奮しているだけだ」


 俺たちの会話を聞いてか、またしても無視されたことに怒っているのか、デリックの顔がみるみる赤く茹で上がっていく。

 と、そこへ、店の外から幼い少女の声が飛んでくる。


「何やってんの!? 大丈夫なのアシノウラ!?」


 エイミーが入り口から中を覗き込んでいた。

 デリックがそちらを向くと、視線が合ったのかエイミーが体をビクンと震わせ、ドアの陰に身を隠してしまった。

 ゆっくりとこちらへ向き直るデリック。その顔は堪えきれない笑みを浮かべていた。


「そうか、テメェの名前はアシノウラってのか……」


 そんな名前があるわけないだろうに……が、面倒臭いのでそういうことにしておこう。


「あぁ。俺の名前はアシノウラ・ナンカカユイーナだ」


 人生において最も適当に言葉を発した瞬間だ。

 ついでに、隣でポカーンと口を開けているこいつも道連れにしておくか。


「ちなみにこっちは、連れのワキノアセ・メチャヒドインデスだ」

「酷くないですよ!?」

「先祖代々メチャヒドインデスだ」

「なんですか、その可哀想な家系は!?」

「子々孫々までメチャヒドインデス!」

「そこまで来ると、もはや呪いの類ですよ!」


 いちいち反応するルゥシールを面白がって言葉を連ねていると、目の前でデリックが肩を震わせていた。……お、ツボったか?


「そうか。アシノウラにワキノアセか……ふふふ」

「ほら、破砕の闘士さんに笑われてるじゃないですか!」

「ヌワハハッ! いい名だ!」

「「えっ!?」」


 気の毒になるほど感性のトチ狂った男だ。

 もし俺が本当にアシノウラやワキノアセなんて名前を付けられていたら、迷わず一族を滅ぼしていただろう。

 だが、デリックはそんなことには興味がないようで、ただただ嬉しそうな顔をしていた。


「お互いが名乗りを上げたのだ……さぁ、決闘といこうじゃねぇか!」


 戦士が共に名乗りを上げるということは、決闘を承諾したということと同義だ。

 このデリックという男は、心底決闘が好きなのだろう。決闘で相手の武器を破壊するのが。そう出来ることが嬉しくて仕方ないと、不気味な笑顔にはっきり書いてある。

 が、俺にはそんなもん関係ない。

 決闘?

 冗談じゃない、面倒臭い。


「めんどくさ……」

「面倒臭そうな顔をするな!」


 デリックが唾を飛ばしながら喚き散らす。

 その際、俺の顔にちょっと息がかかる。不愉快なので鼻を摘まんでやった。


「臭そうな顔もするな!」


 軽く傷付いたような顔をして、デリックはさらに激昂する。


「ご主人さん……相手の神経を逆撫でするのが絶妙に上手過ぎます……」


 隣ではルゥシールがハラハラした表情を見せている。

 こいつは心配性なんだな。


「とにかく決闘を受けろ!」

「……あぁ、もう。分かった分かった」


 いくら言っても無駄なのだろう。

 なら、さっさと終わらせる方を選択しよう。


「よぉし。ならば表に出ろ! なぁに、心配するな。お前の武器を粉々に出来れば、命までは取ったりしねぇよ」


 勝ち誇ったように馬鹿笑いをした後、デリックはルゥシールへと視線を向ける。


「テメェらは二人がかりで構わねぇぜ。こっちは当然俺一人だ。ジェナとフランカには手を出させねぇ」


 デリックの背後に控える女二人。

 巨乳魔導士がジェナで、貧乳シスターがフランカらしい。


「でもデリック! 私もあの男をぶちのめしたいよ! あいつ、さっき私のこといやらしい目で見てたし!」


 ジェナが俺を指さし非難している。

 さっきいやらしい目で見ていたって……何を言っているんだ、この女は。


「今もいやらしい目で見ているが?」

「ひっ!」


 ジェナが堪らずという風にデリックの背中に身を隠す。

 俺の隣ではルゥシールが「ご主人さん……自重してください」とため息を吐いていた。


「ふん。こんなひょろっちいヤツ、俺一人で十分過ぎる。お釣りがくらぁ」

「まぁ、そう強がんな。一緒に戦ってもらえよ。折角ボインちゃんが手伝いたいって言ってるんだからさ」

「誰がボインちゃんよっ!?」


 ジェナが胸を隠して牙を剥く。……褒めてるのに。


「ご主人さん……誰彼かまわずセクハラするのはやめてください……」


 と、ウチのボインちゃんことルゥシールが言ってくる。……褒めてるのに。


「とにかく、こっちは手っ取り早く済ませて行きたい場所があるんだ。意地張ってないで、ボインちゃんとナインちゃんに手伝ってもらえよ」

「ご主人さんっ、さっきからあのシスターさんに失礼過ぎますよ!」


 視線を向けると、フランカは自分の胸を両手で押さえながら「…………ナインちゃん?」と、どす黒いオーラを背後に立ち上らせていた。


「っていうか、ナインちゃんで即フランカのことだって分かったお前もなかなか酷いと思うぞ」

「えっ!? あ、いえ、わたしは、そんなつもりは…………ご、ごめんなさい!」

「…………謝られた…………っ」


 フランカを覆う怒りのオーラが濃さを増していく。

 とどめ刺しちゃったな、これは。


「あ~ぁ。怒らせた」

「わたしがですかっ!?」


 俺たちのやり取りを見て、再びジェナが声を上げる。


「やっぱりみんなでこいつをぶちのめそうよ!」

「……先ほどの無礼……耐え難い屈辱…………呪い殺してやる……」


 ジェナの声に追従するようにフランカも参戦の意を告げる。淀んだ湖の底みたいな色をした目でこちらを睨んでいた。

 すげぇ、怖い目をしている。背後に凄まじい怨念を立ち上らせ、それに引き寄せられた怨霊がフランカの周りをグルグル旋回している様子まで幻視してしまうほどだ。


「メッチャやる気なんだが、その二人?」

「心配するな。俺一人でやる。おい、お前らは大人しく見てろ」

「え~っ!?」

「……恨めしぃ」


 デリックの言葉を聞き、ジェナとフランカが不満そうな表情を見せる。


「そんな顔するんじゃねぇよ」


 デリックが宥めるように言い、そして、獲物を見るような目を俺に向ける。


「だがもし、ヤツが逃げるような素振りを見せたら……構わねぇ。好きなようにヤっちまいな」

「あぁ、そゆこと」

「……了解…………くくく」


 薄気味悪い笑顔がみっつ、俺の方へと向けられる。

 怖気を誘う気味の悪い笑みに、ルゥシールが思わず俺に縋りつく。


 決闘を受ければ、デリックという二つ名持ちの凄腕冒険者と戦うことになり、それを回避しようとすれば魔法の餌食になると、そう言いたいのだろう。

 要するに、『逃げ場はないぞ』と。

 デリックの言った命の保証も、どこまで信用出来るのやら……


 嫌な予想は当たるもんだと、武器屋に入る前に感じた予感を思い出して肩をすくめる。


「とりあえず、武器を受け取らせてもらうぞ」

「あぁ。間もなくお別れするんだ。しっかり感触を味わっておけよ」


 よく分かんないことを言うデリックを無視して、俺は店主に料金を支払う。

 本当に俺が一日で50000Rbを集めてきたことに驚きの表情を見せた店主は、すぐに心配そうな顔をする。

 そして、名残惜しそうに俺の剣を手渡してきた。

 破壊されてしまうと思っているのだろうか……いや、違うな。こいつはただ単にいい武器が手元から離れていくのが寂しいんだ。

 ある意味で、デリックと近しい危険人物である。


 店主から剣を受け取ると、「もめるなら外でしてくれ」と、懇願するような視線を向けられた。……小動物みたいなうるうるした目だった。

 気の毒になり、俺は率先して武器屋を出る。

 ルゥシールは縋るように、デリックたちは嬉々として、俺の後に続く。


 表に出ると、人垣が出来ていた。

 デリックがその姿を現すと、蜘蛛の子を散らすように人垣が遠くへ離れていく。

 武器屋の前に広いスペースが生まれ、俺はそこでデリックと向かい合うように立つ。


「ご主人さん!」

「お前はそこで見てろ。すぐに終わらせるから」

「でも……」

「食い過ぎで満足に動けないだろう?」

「そ、そんなことないですよぉ!」


 不満げに両手の拳を上下させるルゥシール。

 けれど、この戦いに参加させるわけにはいかない。


「お前じゃ、うまく手加減出来ないだろう?」

「え…………それは」


 ルゥシールの速攻を活かせば、勝負はすぐに決するだろう。

 だが、あのデカい大男を、それも二つ名を持つような冒険者を、ルゥシールの細腕でどう止めるというのか。出来るとすれば、速攻からの一撃必殺。ナイフで頸動脈でも掻き切り、一瞬で死に至らしめるくらいだ。

 こんなくだらない決闘で、ルゥシールにそんなことをさせるまでもない。


「まぁ、適当にあしらってくるさ」

「ご主人さん……。分かりました」


 何とか了承を取りつけ、ルゥシールを武器屋のそばに待機させる。

 その隣にエイミーが駆けてくる。


「大丈夫なの、アシノウラ? あんな大きな男に勝てるの!?」

「ん? あぁ、まぁ…………大丈夫だろう」

「なによ、その気のない返事はっ! こっちは本気で心配してあげてるってのに!」

「なんだ、心配してくれてんのか?」

「っ!?…………………………別に」


 うわぁ~……素直じゃないな、この小娘。


「か、狩りに行く約束を破られるのが嫌なだけよ!」

「へいへい。分かったよ」


 なんだか、色々面倒臭いことに巻き込まれちゃったなぁ。

 ちゃんと遺跡探索出来るんだろうか……折角剣が返ってきたってのに。

 俺は、腰に差した剣に軽く触れる。


「アシノウラッ!」


 気持ちを切り替えようかとしたのだが、再びエイミーに呼び止められる。

 振り返ると、エイミーは不機嫌そうな顔でそっぽを向いていた。

 ……なんだよ?


「…………大怪我なんかしたら、ゆ、許さないからね!」


 目に涙をため、俺を睨みつけると大声で叫ぶ。

 エイミー、お前…………


 ……どんだけ、狩りに行きたいんだよ?

 まぁ、生活かかってるっつってたしな。


「へいへい」


 おざなりに答え、息を吐き、エイミーの隣に立つルゥシールへと視線を向ける。

 と、ルゥシールは神妙な顔で手を組み、祈るような格好で短く呟いた。


「……信じています」


 そんな短い言葉が、なんとなく胸の中にスッと浸透してきて…………なんでかな……思わず頬が緩んだ。


「じゃあ、まぁ。ご期待に添わないとな」


 まるで言い訳でもするように、俺は誰にともなく呟いた。にやける頬が気恥ずかしい。

 短く、勢いよく息を吐き、再び気持ちを切り替える。

 俺の準備が整ったとみると、デリックは不敵な笑みを浮かべ、背中に腕を回す。

 背中に括りつけられていた己の獲物を引き剥がすようにむしり取ると、勢いに任せてそれを振りかざす。

 一度地面に叩きつけられ、派手に土を抉ったその獲物は、巨体のデリックの身長ほどもある、とんでもなく巨大な鉄槌――ウォーハンマーだった。


「んじゃあ、盛大に始めるか!」


 デリックの目が獰猛にギラつき、嬉しそうに大声で吠える。


「あぁ、さっさと終わらせようぜ」


 さもやる気のない声で返事をしてみた俺なのだが……

 背中にルゥシールの視線を感じて、『ちょっとくらいなら頑張ってみてもいいかもしれないな』なんて、そんなことを考えてしまったのだった。










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