82話 水中戦! 活躍のテオドラ
俺は今、テオドラの太ももの間に頭を挟まれている。
「はっはっはぁーっ! 人間とは、考える葦なのだ! 足場がないなら、作るまで!」
まぁ、つまり、水中で不安定な体を支えるために、俺がテオドラを肩車しているのだ。
俺への指令は至極単純。
水の中で揺れるな。
……無茶言うなよ。
「ほほぅ、面白い。水の中でなければ、僕に勝てるとでも?」
「剣が振るえれば、ワタシは誰にも負けないさ」
テオドラとキザ男の視線が交差する。
その下で、俺は必死に立ち泳ぎ。……俺、すっげぇ地味!
「面白い冗談だ! そこから、どうやって僕に攻撃するつもりだい!?」
キザ男は、俺たちの頭上3メートル超の位置に立っている。
巨大な水柱に乗っているからだ。
イメージとしては、大人しい波がずっとキザ男を持ち上げているような感じか……
確かに、この距離では攻撃する手段がない。
剣のリーチでは届かないし……まさか、剣を投げる? そんなことはしないだろうし……
「知りたいか? なら、教えてあげようじゃないか! こうするのさっ!」
鞘にしまったカタナの柄に手をかけ、テオドラは抜刀の構えをとる。
そして、勢いよくカタナを抜き放つと――
ゴゥッ!
――という風切り音と共に、圧縮された鋭い真空の刃が切っ先から飛び出した。
カマイタチか!?
「なにぃ!?」
キザ男は驚愕に顔を染め、咄嗟に高速詠唱を行う。
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」
瞬間、そびえ立っていた水柱は消失し、キザ男は重力に引かれて落下する。
数瞬前までキザ男がいた場所を、カマイタチが高速で通過していく。……おしいっ!
カマイタチが空に溶けるように消えると、派手に水しぶきが上がる。
「んぶはぁっ!?」
前髪をぺったりと張りつかせ、必死の形相で水から出てきたキザ男。
張りついた前髪を掻き上げると、血走った目をこちらに向けてくる。
「またしても、僕を水の中に…………っ! 許さんぞ、貴様らぁっ!」
相当水に濡れるのが嫌いらしい。……なら、水を操る【魔界蟲】なんか使わなきゃいいのに。
「飛ぶ刃か……面白い! 僕の【魔界蟲】レーブの華麗水流刃と貴様のカマイタチ、どちらの切れ味が上か、思い知らせてくれるぞ!」
「その勝負、受けて立つ!」
と、いうことは、俺はその間ずっとテオドラの土台か? ……地味だなぁ。俺史上、『最地味』な戦闘になるかもしれん。
そして、ほどなくして、水と真空の、姿なき刃が乱れ飛ぶ死闘が開始された。
水の刃を真空の刃が切り裂き、真空の刃を水の刃が弾く。
辺りには空気の圧縮されるような軋みと、水しぶきが上げる音だけが響き渡る。
そして、俺、水しぶきをモロにかぶって地味に辛い……
「むぅ……あの男、力を隠していたのか……」
テオドラがやや押され始める。
キザ男の言動を鑑みるに、実力は隠して、最初は相手が抵抗出来るギリギリのラインを攻めてくるのだろう。
そして、「あれ、これ勝てるんじゃね?」と思わせておいて、実は実力を隠していたと知らしめるのだ。
徐々に攻撃の威力を上げていき、速度も上げ、防御もそつなくこなし……相手の実力を引き出した上で格の違いを見せつける。これは、絶望を生むために重要なプロセスなのだろう。
絶望から愛が生まれる、だっけか?
相当嫌な性格してやがるぜ、まったく。
「どうだ、テオドラ? 愛が生まれちゃいそうか?」
「はっはっはっ、まだまだ余裕そうだな、君は」
余裕そうな声が降ってくるが、時折「くっ!」という息が漏れていることから、テオドラのこれはカラ元気なのだろう。
何か打開策を練らねば……
「余裕があるなら、少し無茶を課しても大丈夫かな?」
「は?」
「すまんが、しばしの間、しっかりと踏ん張っていてくれ!」
「え、いや、踏ん張れって……!?」
「二刀流…………ドイスドラガオンッ!」
足も届かない川の中でどう踏ん張れって言うんだっ!?
そんなツッコミを入れる前に、テオドラが、凄まじい衝撃を発した。
二本の剣とカタナを交差させて、気合いと共に振り抜く。そこから生み出された白刃は濁流の川を切り裂き、二本のつむじ風となりキザ男に襲い掛かる。
が、その反動が半端なく強烈で、俺の体はテオドラの発生させたつむじ風の反発をモロに受けて一気に川底へと沈めこまれた。
「ごぼがぼぉ……っ!」
テオドラが何か叫んでいるようだが……クレームか? おいこら、無茶言うなよ? あんなもん無理だぞ? 耐えられるわけがない。
やはり、足場は必要か……
バランスを崩し、俺の肩の上から離れていったテオドラ。息が限界なのか、大慌てで水面を目指して泳いでいく。
その移動だけで相当体力を消耗するだろうに。
マジで、何か打開策を練らねば……
しかし、そうなると必要になるのは…………魔力。
俺は、俺の頭上を懸命のバタ足で泳ぎ上っていくテオドラを見上げる。
いや、……バタバタと水を掻く、テオドラの足を見上げる。
胸はダメっぽいけど……足なら…………前も一回やってるし………………うん、そうしよう。
決断した俺の行動は早かった。
スゲェ速く泳いだ。
昔、ガウルテリオに「お前は河童か!?」と言われたほどの速度で、俺はぐんぐんテオドラとの距離を詰める。
「ぶはぁっ! ……ごほっごほっ! ……危うく死ぬところだったではないか…………」
水面から顔を出したテオドラは、こちらに向き、非難めいた声を投げかけてくる。
「君ぃ! しっかりと踏ん張っていてくれな……………………ぅわぁぁぁあああっ!?」
しかし、俺の姿を見て非難が悲鳴に変わる。
人類が水中では成し得ないような滑らかかつ驚異的な速度で泳ぐ俺を、テオドラの瞳は捉えていたことだろう。
泳ぎは、得意だ。
「ちょっと気持ち悪い」と言われるくらいに得意なのだ!
一気にテオドラに追いつき、水を掻くテオドラの足首を掴まえる。
「ぎゃああああっ! 河童が、河童がいるっ!?」
暴れるテオドラの足をしっかりと掴み、濡れた上に水中というハンデを克服して脱がしにくい靴をはぎ取る。
そして、川の水を飲み込むのを覚悟の上で、大きく口を開く。
いただきますっ!
「にょわぁぁぁあぁぁああああっ! 噛んだ! 河童が足を噛んでるぅっ!」
口にくわえている足とは、逆の足が俺の頭をガスガス蹴ってくるが、これは片足が押さえられてうまくバランスが取れなくなったせいだろう。仕方のないことだ。泳いでいる時に体の一部の自由が奪われると、人間はパニックになるからな……若干、的確に狙いを定めてクリティカルなダメージを与えようとしている風ではあるが……きっと気のせいだろう。今回は許してやる。
「離せ! 離して! 離してはくれまいかっ!?」
踵がつむじにめり込むのを我慢しつつ、俺はテオドラの足の親指を口に含み、指の腹を中心に指の付け根付近を丹念にまんべんなく舐め回す。
「ひょぁあああああっ!?」
体内に魔力が流れ込んでくる。
テオドラの魔力は力強く、やや無骨で、その分実直で素直だ。
硬質で飾り気のない、鍛錬前の玉鋼のような魔力なのだ。
こいつを磨き上げれば、きっと上質の魔法に変換出来る。
ちゅぽんっ! と、テオドラの足の親指から口を離す。
はぎ取った靴をしっかりと握りしめ、俺は水上へと顔を出す。
「き、君ぃ! 一度ならず二度までもっ!?」
「テオドラ、掴まれ! 時間がない!」
「えっ!? な、何が……っ!?」
「早くっ!」
「あ、あぁ! 心得たっ!」
テオドラが俺に飛びつき、首に両腕を絡める。
「貴様らぁっ! また……またしても、僕に水をぉぉぉおおおおおおっ!?」
水しぶきを上げて水柱が突き出し、その上でキザ男が吠えている。
が、そんなことに構っている暇はない!
魔力が、暴発してしまう!
「ちょっと冷たいぞ、覚悟しとけ!」
「え!? なんだか分からんが、分かった!」
俺は風の魔法で川の中から飛び出し……こうやって小出しに調整するのがスゲェ辛いっ……そして、暴発寸前のテオドラの魔力をすべて濁流の川に叩き込む。
「凍りつけぇっ!」
川の流れが止まり、瞬時に水が凍りついていく。
俺を中心に、半径数百メートルに渡り、巨大な氷が誕生した。
流れ続ける川をすべて凍らせるのは流石に無理なので、範囲を指定し、そこを結界で囲み、その中の水を凍らせたのだ。
なので、氷の向こうからは大量の水が流れてきてはぶつかり、枝分かれして氷を避けるようにして流れていく。
そして、氷ついた場所から後ろ、川下にあった水はそのまま崖の下へと落下していった。
「って、崖ぇっ!?」
驚いた。
背後を振り返ると、すぐ目の前が崖になっていた。
カジャの街近郊は、もともと高低差の激しい山岳地帯なのだ。
平地に突然出現した川の水は低い方へと流れ、最終的には切り立った崖から、奈落と呼んでも差し支えないほど低い位置にある下の大地へと降り注いでいた。
「……断崖絶壁じゃねぇか…………危なかった」
あのまま流されていたら、俺たちはこの崖を真っ逆さまに落ちていたのか。
水に身動きを封じられ、成す術もなく…………怖っ!
「つ、冷たいっ!? き、君! すまないが、靴を早く返してはくれまいか!?」
「ん? あぁ、すまん」
俺は水中で剥ぎ取り、今もなお握りしめていたテオドラの靴を投げ返す。
「うぅ……濡れた靴を履くのは気持ち悪いな……」
その気持ちは分かるのだが……こいつはどうも緊張感というものに欠けるな。
そういう面で言えばルゥシール以上に抜けている。
きっと大切なネジが二桁ほど抜けているのだろう。
「うん。やはり足場がしっかりしているのは落ち着くな」
足もとの氷を踏みつけながらテオドラが満足そうに言う。……走り出したとたんに滑って転びそうな気がするなぁ……
「寒いから、さっさと決着をつけよう」
まぁ、そうだな。全身ずぶ濡れで氷の上にいるのはきついよな……
水柱……もはや氷柱へと変わっているが……の方へと視線を向けると、柱の天辺でキザ男が何かを喚いていた。
「冷たいっ!? おのれ、また氷かっ!?」
またってなんだよ……
「うむ。ターゲットが動けないのであれば、勝負は決まったようなものだな」
テオドラが鞘にしまったカタナに手をかける。抜刀の構えだ。
「一撃で勝負を決める! ……寒いので!」
最後の一言いらなかったろう。締まらねぇなぁ……
「参るっ!」
ガッと氷を蹴って駆け出したテオドラは、二歩目で盛大に滑り、顔面から氷の上に倒れ込む。
「…………のぉぉぉぉぉ……っ!」
想像通り過ぎて悲しくなるぞ、テオドラ……
「おのれ…………卑怯な……っ」
いや、敵は何もしてきてないぞ。
真面目に戦えよ、そろそろさぁ。
あと一撃くれてやれば終わるじゃん。さっさと片付けて帰ろうぜ。流された分、戻らないといけないんだからさぁ。
そんな余裕をかましていたのが、まずかった。
突如、氷が振動を始め足元がぐらつく。
たまらず横転し、腰をしたたか打ちつける。……痛ぇ…………っ!
「甘い、甘いよ王子! この僕が、二度も同じ手で阻まれるはずがないだろう!?」
キザ男が氷柱に体半分埋まった状態で高らかに笑う。
だから、「二度も」ってなんだよ? 一度目を知らねぇよ。
「貴様が氷で来ることは想定済みだ! 故に、僕に死角はないっ!」
キザ男が両腕を広げると、氷柱がぐらぐらと揺れ始め、そして――腕が生えた。
「味わうがいい……アイスゴーレムの脅威をっ!」
キザ男が叫ぶと同時に、氷柱から手足が生え、そしてキザ男を包み込むように氷の頭部が完成する。
そこに出現したのは、体長3メートルほどのゴーレム。氷の巨人、アイスゴーレムだった。
ちぃっ!
アルジージャ以降、ゴーレムだのサンドワームだの、デカいヤツに遭遇しまくりだな!
「喰らえっ! 僕の美しい氷の魔法を!」
アイスゴーレムの中でキザ男が叫ぶ。
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 流麗氷塊弾! 」
高速詠唱とダサめの必殺技名の組み合わせ、キザ男スタイルの魔法が完成し、先端のとがった拳大の氷塊が凄まじい速度で飛来してくる。
「ワタシの背中に隠れて!」
テオドラが立ち上がりカタナを構える。
一本のカタナを両手で持ち、「はぁっ!」という気合いと共に横なぎに振り払う。
切っ先が空間を切り裂き、生じた歪みが刃となって飛来する氷塊に激突する。
かなりの数を撃ち落としたが、氷塊は後から後から発射されてくる。
最初の一撃以降、テオドラはカタナを振り回し、着弾しそうな氷塊を順に斬り落としていく。
凄まじい動体視力と反応速度だ。
テオドラの背に隠れながら、その光景を間近で見守る。
「ふははははっ! どうした、マイスウィート&ビターハニー!? 防戦一方では僕には勝てないぞ!?」
キザ男の声がアイスゴーレムに反響して辺りに爆音となって響き渡る。
なんちゅう大音量で恥ずかしいことを……で、ビターが追加されたのは何度か苦い目に遭わされたからか? つか、ビターハニーってなんだよ?
「たしかに、これでは埒が明かん……」
「テオドラ、ちょっといいか?」
「ふぁぁんっ!?」
耳元で囁くと、テオドラがやたらと色っぽい声を上げた。
一瞬力が抜けたのか、その直後氷塊の雨霰に見舞われ若干後退しつつ体勢を立て直す。
「きっ、君はっ!? 戦闘中にふざけないでくれまいか!?」
「俺、何もしてねぇだろ!?」
「耳に息を吹きかけるなぁ!」
「作戦があるんだよ! いいから耳貸せ! いいか、この氷塊を……」
「ふにゃぁぁああっ!」
途端にテオドラの力が抜け、氷塊がズガガガガガガガッ! と、足元にえげつない勢いで突き刺さっていく。
どんだけ弱いんだよ耳!?
俺たちは、氷塊から逃げつつ、作戦会議を行う。
作戦会議といっても、俺が耳元で作戦を伝え、テオドラがその際吐き出される息に「ふにゃあ」と色っぽい声を漏らすだけの、奇妙な意思伝達方法でしかなかったが……
「分かった! もう分かったから! 息を止めてくれまいか!? これ以上されると息の根を止めてしまいそうだ!」
サラッと怖いこと言ってんじゃねぇよ。
息の根を止められたくないので慌てて呼吸をやめる。
再び氷の上に両足をしっかりとつけて、テオドラはアイスゴーレムに向かい合う。
おそらく、さほど魔力を消費しないのであろう、氷塊は惜しみなく無尽蔵に発射され続けている。
こちらに向かってくる氷塊。
それに向かい合うテオドラは……カタナを返して握り直す。
「はぁぁあっ!」
そして、下段の構えから切り上げるようにカタナを振り抜き、氷塊を一つずつ、的確に、アイスゴーレムの方へと打ち返していった。
刃を返して峰打ちで氷塊を弾き返しているのだ。
打ち返された氷塊は新たに飛来する氷塊とぶつかり、空中で弾け飛ぶ。
その影響で、ほんの一瞬、氷塊の弾幕が薄まる。
「今だっ!」
わずかに生まれた、気合いを入れるだけの短い時間。
その時間でテオドラは両手に剣とカタナを持ち、気合いと共にそれらを振るう。
「二刀流…………ドイスドラガオンッ!」
足場がしっかりし、踏ん張りが利いたおかげか……先ほどとは比べ物にならない衝撃が氷上を駆け抜けていく。
つむじ風のようだった飛翔する斬撃はもはや竜巻のような規模となり、さながら二頭の龍が敵にくらいつくかのような幻覚に捉われる。
牙を剝く二頭の龍がアイスゴーレムに襲い掛かる。
分厚い氷の体に食らいつき、たちまちのうちに抉り取る。
最初の衝撃を辛うじて耐えたアイスゴーレム。だが、龍の体は荒れ狂う突風に包まれており、続け様に氷の体を削り取っていく。
「……っはぁ! とどめだっ!」
喉に詰まった空気を吐き出すように息を吐き、テオドラがカタナを構えて走り出す。
剣は鞘にしまっている。…………辛いのか?
両腕で支えるようにして握られているカタナの切っ先が微かに震えている。
……そうかっ!
俺は先行するテオドラの後を慌てて追いかけた。
泳ぎの時とは違い、走るのはテオドラの方が速いらしい。距離が開いていく。
急がないと…………テオドラのヤツ、気が付いていないんだ。
一流の剣士は、無意識のうちに体内の魔力を使用している。
精神を集中させることで、通常以上の破壊力を持つ攻撃を繰り出したり、常人離れした動きを見せたり……所謂、『究める』と呼ばれるものは、達人が無意識で使用している【内燃型魔法】なのだ。魔力により身体能力を強化しているというわけだ。
そして、達人たちは自分が『魔法を使えない』と思い込んでいることがほとんどだ。
だから、今のテオドラは気が付いていないはずだ。
俺に魔力のほとんどを持っていかれて魔力欠乏症になりかけているにもかかわらず、「なんだか体が重いな」程度にしか考えていないのだろう。
これは危険だ。
そんな状態で、もう一度必殺の一撃を……【内燃型魔法】を使用しようとすれば……
「……はぁ、はぁっ! これで…………っ、終わりだっ!」
分厚い氷を蹴り、テオドラが高くジャンプする。
蹲り、高さが2メートルほどになったアイスゴーレムのさらに頭上へ舞い上がる。
両手でカタナを上段に構え、気合いと共に振り下ろす。
キザ男もただ黙ってやられるわけがなく、大慌てで高速詠唱を行う。
だが、少し遅かった。
常時なら、この一撃で勝負が決まっていただろう。
キザ男が魔法を発動させる前にテオドラの一撃がキザ男を捉え、テオドラの勝利で幕が下りる。そうなるはずだった……
しかし。
「……うっ!?」
空中で、テオドラの体が傾いだ。
振り下ろされたカタナは、刃先を無軌道にさまよわせその力を失う。
そして、高速詠唱を終えたキザ男が特大の氷塊を生み出し、テオドラに目掛けて放つ。
「させるかぁ!」
間一髪で、キザ男とテオドラの間に体を割り込ませることに成功する。
アイスゴーレムの体を駆け上り、蹴り、両腕を広げて二人の間に割って入る。
キザ男に睨みを利かせて相対するか、意識を失いかけたテオドラを抱きとめてやるか、ほんの一瞬のうちに選択を迫られた俺は、迷うことなくテオドラを選んだ。
その結果、キザ男に背を向ける格好になる。
テオドラの体を受け止めた直後、後頭部に鈍い痛みが走る。
特大の氷塊が俺の頭から背中にかけた広範囲に激突したのだろう。
確認する余裕も気力もなく、俺の意識は薄らいでいく。
背骨が軋みを上げ顔面をぬるっとした生暖かい液体が這うような感覚だけが体に伝わってくる。
せめて、落下する際にテオドラの下敷きになってやれればいいんだがな……
そんな考えを最後に意識が途絶える……その間際に、俺を安心させてくれる声が聞こえてきたのは、きっと俺の日頃の行いがいいからなんだろうな。
「ご主人さぁーんっ!」
その聞き慣れた声に、この後のことをすべて任せて……俺は意識を手放した。
まいど! とまとはんやでっ!
いつもありがとうございます。
水の中で他人の靴を脱がせるなんて不可能だぁー!!
……そう、思うでしょ?
えぇ、私もそう思っていましたよ…………この話を書くまでは!
でもですよ、みなさん!
もしも!
もしもです!
いいですか、もしも、ですよ!?(たまにアメリカの映画でこういう物言いの人を見ると、「いいから早く言えよ」と思いますよね? 思った方はナカーマ)
もしも、
その靴が美少女の穿いている物であり、
なおかつ、
脱がせた後、その美少女の足をぺろぺろし放題だと言われたら……?
その時、あなたは実感するでしょう。
この世に、不可能などないのだとっ!!(ドンッ!)
そんなわけで、太ももの間に頭を挟まれたり、足の親指を咥えたりと、
やりたい放題のご主人さんでしたが、
最後の最後にまさかの大ダメージです。
実は、ここまでのダメージを受けるのは、初めてなんじゃないでしょうか?
川に流されている時に余裕かましてないで、さっさと撃退しておけば、
例えば最初の電撃の時に、もっとちゃんとした魔法を叩き込んでおけば、
きっとご主人さんは楽勝で勝てたでしょう……
でも、
しかしです、
こう考えてみてください…………
割と粘ったから、美少女の足の親指をちゅぱちゅぱ出来たのだと。
誰がご主人さんを責められるでしょうか?
その立場に立てば、きっとみんな楽な勝利よりも美少女の足の親指を選択するはず!
私ならそうします! えぇ、しますとも!
そうして、
物語的には「え、どうなっちゃうの」的なハラハラが生まれていくのです。
美少女の足の親指とは、それだけ尊いものなのです……
土踏まずも、いいけどね。
次回はキザ男との決着からその後の諸々、の予定です!
次回もよろしくお願いいたします。
とまと
 




