76話 迫るリミット フランカを救え!
砂漠に突如発生した巨大竜巻。
フランカは張りつけられたように竜巻の中心部に捕らわれ……動かなくなった。
高圧力により、魔法の詠唱も、呼吸すら阻害されてしまったのだ。
「フランカッ!?」
飛び起きるが、俺たちの周りにも高圧力な分厚い空気の壁が存在し助けに行くことも出来ない。
……まずい。
まずいまずいまずい!
フランカが…………死ぬ。
俺たちを足止めしている空気の壁は、ダークドラゴンのパワーでもない限り突破出来そうもない。
しかし、今からルゥシールの封印を解いている時間はない……
テオドラは、俺たちからさらに離れた位置で、砂漠への侵入者を排除するために大群で現れたサンドワームと交戦中だ。
くそ!
サンドワームが一匹でもこっちに来れば、メイベルにけしかけて魔法を妨害出来るかもしれないのに……強力な魔力にビビってこっちには出てきやがらねぇ!
どうする!?
考えている時間すら惜しい!
どうする!?
ダメだ、焦れば焦るほど思考がまとまらない……
どうする!?
くっそぉ、どうにかしろよ、俺!
「ご主人さんっ!」
不意に、背後から声をかけられ、俺は無意識で振り返る。
――と。柔らかい感触が唇に触れた。
ルゥシールが、俺にキスをしてきたのだ。
そっと、優しく触れるように。
俺の右肩に両手を添え、軽く背伸びをして……閉じられた瞼が微かに震えている。
頭の中がパニックに陥って……逆に冷静に周りの状況が見えてくる。
そっと触れるような優しい感触とは裏腹に、怒涛の勢いで凄まじい量の魔力が体内に流れ込んでくる。
ふっと……ルゥシールが瞼を開け、唇が触れあったまま、ほんの一瞬見つめ合う。
それだけで、心が驚くほどに落ち着いた。
ルゥシールの唇が離れると、物悲しい涼しさを唇に感じた。
遠ざかっていくルゥシールから、微かに甘い香りがした。
「行ってください」
静かな声で、けれど力強く、ルゥシールは俺を真っ直ぐ見つめて言う。
真剣な表情なのだが、頬が紅潮しているのが、妙に可愛らしく見えた。
「フランカさんを救えるのは、ご主人さんだけです!」
「あぁ……任せとけ!」
のぼせあがりそうだった脳みそに喝を入れ、思考を切り替える。
体内にみなぎる魔力のすべてをかけて、フランカを助け出す!
二つの壁を突破するために、借り受けたすべての魔力を一気に燃焼させる必要があった。
出し惜しみはなしだ!
すぐそこにいるのに手が届かなかったフランカのもとへ、一直線にたどり着いてやる!
「行くぞっ!」
【魔界蟲】の厄介さは、バプティストのハロムで体験済みだ。
油断なく、最初から全力で……
「 ――悪ぃな……また、力を貸してくれ、お袋っ!―― 」
圧縮した空気を踏み台に空へと跳び立ち、貫通力抜群の雷を全身に纏い突撃する。
イカヅチの速度で、破壊力で、強靭さで、俺は俺を阻む空気の壁を突破し、フランカを捕らえる巨大な竜巻に激突する。
轟々と唸りをあげる突風が俺の侵入を拒むように激しい抵抗を見せる。……が。
「魔神の魔法を舐めるなぁ!」
気合いで分厚い突風の壁を突き破る。
ガウルテリオのイカヅチを、どこぞの蟲ケラごときが防ぎきれるかよ!
「フランカッ!」
突風の壁を突き破った勢いのまま、吹き荒れる強風をぶっ千切ってフランカのもとへとたどり着く。
ルゥシールに借りた魔力は使い切っちまったが……来てやったぜ、ここまでな!
フランカの体を抱き寄せる。
呼吸はしていないが、俺が触れると微かに反応を示した。
まだ生きているようだ。
「……っ!」
俺が突き破った突風の壁が修復されると同時に、有り得ないほどの圧力が全身にのしかかってくる。
鼓膜を押し破りそうなほどの耳鳴りと、三半規管をひしゃげさせるような眩暈……そして、肺と気管が押し潰されるような息苦しさが同時に襲い掛かってくる。
息が……出来ない。
「にゃ~はっはっはっ! 飛んで竜巻に飲み込まれる夏の蟲だねぇ!」
メイベルの高笑いが聞こえてくる。
耳鳴りのせいで遠くに感じる。
「その中じゃ魔法も使えないし、息も出来ない……すぐに死んじゃうかもねぇ!」
吹きつける風のせいで瞼もろくに開けていられないが、竜巻の向こう側で勝ち誇った表情をしているのは確認出来た。
メイベルと…………ルゥシールが。
確信しているのだ、ルゥシールは。
俺が、必ず何とかすると。
フランカを助け、敵を打ち負かすと。
信じて疑っていない。
あいつのあの顔は、そういう表情だ。
「これで、あたしたちは名実ともに、魔導ギルドのトップになるんだよぉ!」
メイベルが両腕をこちらに向けて伸ばす。
と、風の勢いが増し、俺とフランカの体をさらに上空へと押し上げていく。
全身にかかる圧力も強くなる。
このままではフランカが危ない。
俺も、他人事ではないが……
ルゥシールの魔力は突入のために使い果たした……
空っぽになった俺の体にあるのは、わずかばかりの酸素だけだ。
言葉には出来ないが、心の中でフランカに語りかける。
魔力を文字列に変換して読むことが出来るフランカだ。もしかしたら伝わるかもしれない。
待たせて悪かったな。
今、助けてやるからな。
だから、まぁ………………怒るなよ?
そう伝えると、フランカの瞼がピクリと動いた……気がした。
俺はフランカの白い頬に手を添え、……そっと唇を重ねた。
俺の肺に残っていた酸素を、フランカの肺へと送り込む。
強力な抵抗に負けないように、しっかりと。
「…………んっ」
微かに、フランカの喉の奥から声が漏れる。
よし、意識はまだあるな。
もう少しだから頑張れよ。
フランカに酸素を送り込むのと同時に、フランカから大量の魔力が流れ込んでくる。
……後は、任せろ。お前は、少し休んでろ。
な、フランカ。
唇を話すと、フランカがうっすらと瞼を開ける。
微かに顔色がよくなっている気がする。頬に朱色が差している。
頬に手を触れると、ほのかに温かい。
俺の指の感触を楽しむように、フランカの目が緩やかに弧を描き、再びそっと閉じられる。
なんとなく……フランカの笑顔が嬉しそうに見えた。
安心したのだろうか。
なら、それに応えないとな。
俺はフランカを抱き寄せ、メイベルへと視線を向ける。
突風が吹き荒ぶ中、瞼を開けて、全開の殺気を叩き込む。
「ひゃぅっ!?」
メイベルがビクッと肩を震わせる。
おそらく、これほどの殺気を浴びたことがないのだろう。
お袋曰く、俺の全力の殺気は、そこらの魔神と同じレベルで強烈らしいからな。
メイベルの言動を見ていれば分かる。
努力をしている自分を、誰も見ていないと嘆いていたのだろう。
何をしても、何を成しても、認められなくて拗ねてしまったのだ。
だから、誰かと比較して優位に立つしか出来なくなったのだ。
あいつの唯我独尊な態度は、そういう環境から生まれたねじくれた心の表れなのだろう。
しかし、そういうヤツは大抵、本物の挫折を知らない。
挫折する前に逃げてしまうからだ。
挫折しそうなことには手を付けないからだ。
何もしないことで、出来ない現実から目を背ける。
その甘えも、メイベルの言動から感じ取ることが出来る。
他人の存在が鼻について仕方ない。
思い通りに行かないと癇癪を起こす。
そして、切り札の使いどころが甘い。――激戦を経験していないから、戦闘のプランが甘いのだ。
メイベルの切り札は、この竜巻なのだろう。
魔法の詠唱も防ぎ、呼吸すら出来なくする。
そうすれば、どんな相手にでも勝てると。
この竜巻から抜け出せるものなどいるわけがないと。
……そう、思い込んでいたのだろう。
それが、メイベルの見通しの甘いところだ。
俺に突破された段階で、次の切り札を切れなかったのはヤツの敗因となる。
その切り札を用意出来なかった詰めの甘さが、ヤツの弱さの証明だ。
教えてやるぜ、絶対的な強者に対する畏怖の念と、自信過剰の愚かしさを……
そして……、世の中には、絶対に喧嘩を売っちゃいけない相手がいるってことを。
俺は、メイベルに向かって腕を伸ばし、手のひらを向ける。
「な、なんだよぉ! 何をやったって、その竜巻からは逃れられないんだからねぇ! 無駄な抵抗はやめて、大人しく死んじゃえばいいんだよぉ!」
フランカに感謝だな。
これだけの強風だ…………この砂漠の砂粒が舞っていたら、俺たちは勝てなかっただろうよ。
息が吸えなくとも、声が出なくとも……
そんなもんは、無詠唱で魔法が使える俺にはなんの障害にも成り得ない!
フランカから借り受けた全魔力をこの一撃に込める!
腕を突き出したまま、拳を握る。
そこへ全魔力を集約させる。
針の先ほどの小さな一点に、大量の魔力を凝縮していく。
無色の魔力は、圧縮される度に輝きを増していき、いつしか俺の拳には眩い輝きを放つ魔力の塊が出来ていた。
圧倒的な存在感を放ち、夥しい熱量を持ち、小指の先ほどに集約された魔力が俺の拳の中で静かに息衝いている。
確かな鼓動を感じ、俺は拳を高く掲げる
そして……足元の地面目掛けて、その高濃度に圧縮された魔力の塊を叩きつける。
音もなく落下していく魔力の塊は、夜空を切り裂く流星のように白く輝く尾を引いて一直線に地面へと降り注ぐ。
そして、地面へと突き刺さり……その瞬間大爆発を起こす。
大地を揺るがし、渦巻く巨大な竜巻を吹き飛ばすほどの大規模爆発。
吹き飛ばされそうな衝撃を生む爆音が轟き、数瞬後には世界の音をすべて飲み込む静寂が広がる。
周りにあるすべてのものを吹き飛ばし、爆炎が迸り、爆煙が立ち上る。
10メートルほど離れた場所にいたルゥシールは、耳を塞ぎ、目をまん丸く見開いてこちらを見ていた。
そこからさらに10メートルほど離れた場所でサンドワームと戦っていたテオドラも、驚愕の表情を見せている。
爆風に煽られて、サンドワームが何匹か吹き飛ばされている。
そして、メイベルは爆風に煽られて【魔界蟲】の背から放り出され、粘土質に変質させられた砂漠の上へと落下していた。
両耳を押さえて両目を瞑り、頭を抱えるような格好で丸まっていた。
世界に音が戻ってくると同時に、俺は静かに言葉を発する。
「チェックメイトだな」
「ひっ……!?」
顔を上げたメイベルと目が合う。
蹲るメイベルの頭付近に立ち、俺はジッとメイベルを見下ろす。
相当迫力があったのだろう、幼い顔をした少女は、両目に涙をいっぱい溜めていた。
可哀想か?
……とんでもない。
こいつはフランカを殺そうとした。
そして、事実、フランカはかなり危ない状況に陥った。陥れられたのだ。他ならぬ、こいつにな。
「ミ……ミェチター! どこにいるのぉ!?」
青い顔で叫びながら、きょろきょろと辺りを見渡すメイベル。
しかし、残念だったな。
【魔界蟲】は、さっきの爆発でまとめて処分しておいた。
ほどなく、メイベルは黒焦げになったミェチターの亡骸を発見する。
【魔界蟲】は、例外なく処分させてもらうぞ。危険だからな。
これで、高速詠唱の速度は半減し、風を操る力も、さっきほどの威力は出ない。
しかし、こいつらは普通の状態でハイクラスの上位魔導士だ。
徹底的に叩きのめさなければ、何をしてくるか分からない。
「よ、よくもぉ! 殺してやるぅ!」
メイベルは両目を吊り上げ、唾を飛ばして絶叫すると、巨大な魔法陣を展開させた。
直径が5メートルはあろうかという、規格外のデカさだ。
こんな魔法を使われたのでは、俺はともかく、他の連中は怪我では済まないだろう。
なので、この魔法を使わせるわけにはいかない。
高速詠唱を封じる方法は一つ。
魔力を空にしてやることだ。
と、いうわけで。
えい!
「いっ………………ひゃぅわぁぁぁあぁあああああっ!?」
両手を限界まで広げ、メイベルのたわわな両のおっぱいを、むんずっと鷲掴みにした。
遠慮なく、容赦なく、躊躇いなく!
幼い体に不釣り合いな、大きく張り出した胸は、言うなれば、メイベルの『持つところ』だ。
これほど持ちやすいところがあるだろうか、いや、ない!
「や、やめぇ……っ!」
「お前が魔力を残していると、ろくな使い方をしないからな」
俺は両手の指という指を総動員して盛大に揉みしだく。
そして、メイベルにもはっきりと敗北が伝わるように、不敵な笑みと共に宣言しておく。
「お前のおっぱい……、吸い尽くさせてもらうぞ!」
「ひっ…………………………いやぁぁぁあああああああああああああああああっ!?」
メイベルの絶叫が遮るものの何もない遥かな空へと響き、やがて吸い込まれていく。
流石は魔導ギルド四天王とでもいうべき尋常ではない魔力をすべて吸い尽くすために、俺は優に十数分もの間、メイベルの弾力のあるはち切れそうな胸を揉みしだき続けた。
粘土質の土の上に仰向きで寝転ばせ、逃げられないように全体重をかけて押さえつけ、覆いかぶさるような格好で、メイベルの両手足の自由を奪ったうえで、無防備になったぷるぷるのおっぱいを遠慮なく揉みしだき続けたのだ。
「え~ん…………ひっくひっく…………ぐず……っ」
メイベルが泣いている。
そして、俺は正座をさせられている。
「いいですか、ご主人さん。相手は幼い女の子なんですよ。お気持ちは分かりますが、ある一定は配慮するということも覚えてください。傍から見る限り、確実に変質者にしか見えませんでしたよ、さっきのご主人さんは」
おかしい。
なぜか四天王を倒したあとはお説教されている気がする。
「ほら、泣いちゃっているじゃないですか」
「ぐすっ…………ごめんなさい……もうしません……言うことも聞きます……いい子にします……だから……もうもまないでくださぁい…………うぇぇぇぇぇえええ……っ!」
ふむ。
性格の悪さが滲み出していた小生意気な少女が、きちんと反省してまっとうな謝罪をするようになったじゃないか。
やっぱり俺、間違ってないんじゃね?
「今の彼女を見て、何か思うことはないんですか?」
「ふむ…………若さのせいなのか……やはりまだ未成熟な感じがしたんだよな。張りと弾力はすごいんだよ。押した指を押し返してくる力が凄くてな、揉み応えで言えばこれまで揉んできた中ではピカイチだった」
「なんの話をしてるんですかっ!?」
「おっぱいだが?」
「分かってますよ! ここにいる全員が理解していましたよ!」
「でもやっぱり、張りや弾力だけではいけないと思うんだ。おっぱいの魅力は丸みと柔らかさだろ? 好みはあるかもしれんが、俺なんかはもっとぷるぷるに柔らかいほうがいいと思うんだよなぁ。ルゥシールの半生おっぱいみたいに、他とは違う、格別な柔らかさが好みというか……」
「その説明は求めてませんので、そこまで詳しく語らなくていいですっ! あと、半生じゃないです、完全に生ですよっ! ……って、何言わせるんですか!?」
尋ねられたことに真摯に向き合い誠実に答えたつもりなのだが……どうもお気に召さないらしい。
ルゥシールの機嫌が悪いようだ。
たぶんあれなんだろうな。
幼い女の子を泣かせたのがまずかったんだろうな。
命がけの戦いとはいえ、女の子を泣かせるのは、ルゥシール的にはNGなのだろう。
あくまで紳士的に、一人の犠牲者も出さずに完全勝利をしなければ納得しないのかもしれない。
……まったく、俺に対する要求が高過ぎるヤツだ。
けどまぁ、ルゥシールの機嫌が悪いのも嫌だし、泣いている女の子を見ているのも心苦しいし。……慰めてやるか。
「メイベル」
「ひっ!?」
名を呼んだだけで、この怖がられ方……失礼なヤツだ。
けど、俺が大人になって……
「そんなに泣くな。なに、心配しなくても、年頃になればきちんと熟れて、いい感じの柔らかさになるさ」
「うゎ~ん!!」
なぜ泣く!?
硬いだの未成熟だの言われたのが悔しくて泣いたんじゃないのか?
「大人になって、いい具合に熟れてきたら、もう一回揉んで今度は褒めてやるから。な?」
「いやぁぁぁああああっ!」
絶叫された。
なんなんだよ?
俺の評価が辛口過ぎたから泣いてるんじゃないのか?
「まったく……子供ってのは、何を考えているのかさっぱり分からんな」
「何を考えているのかさっぱり分からないのは君の方だよ」
テオドラが呆れ顔で俺を見る。
隣にはフランカも立っていて、同じように冷たい視線を俺に向けている。
メイベルから奪った大量の魔力を使い、フランカの回復と、テオドラが相手にしていた無数のサンドワームを撃退した。
大規模の魔法を連発したおかげか、臆病だというサンドワームは、あれ以降姿を見せていない。
メイベルとの戦闘が終わった時点で空は茜色に染まっており、俺たちは砂漠の上で一泊することにした。
俺もテオドラも体力的に限界で、ルゥシールとフランカの魔力が底を尽いていたからな。
それで、ルゥシールが泣きじゃくるメイベルをあやしている間に、テオドラとフランカで野営の準備をしてくれていたのだ。
その間俺は、ルゥシールをはじめ、フランカ、テオドラの三人による連名で正座を言い渡されていた。……なぜだ? 頑張ったからゆっくり休んでいればいいよ、ということでもなさそうだし。何より、正座辛いし。
で、現在。
テントを張り、夕食の準備をあらかた終わらせたテオドラとフランカが俺たちのもとへと戻ってきており、メイベルはルゥシールにしがみついて泣いている。
ルゥシールは幼い妹を労わるかのようにメイベルを抱き、頭を優しく撫でている。
なんなんだよ?
もともと、メイベルが俺たちの命を狙ってこなければこんなことにはならなかったんだろ?
それを、ちょっと幼女だからって……泣けば許されるとか思いやがって…………なんかだんだんムカついてきた。
「あのなぁ、メイベル!」
ここは一言言ってやらねばいかん!
これから大人になるメイベルのためにも、言うべきことは言ってやらなければ!
メイベルが泣いている理由は、自分のおっぱいがルゥシールの『半生とぅるんおっぱい』みたいに柔らかくないからとか、おそらくそんなところだろう。
わがままも大概にしろと言いたい!
「たとえどんなおっぱいだろうと、あるだけマシだと思わないのか!? フランカなんかなぁ……っ!」
「……それ以上しゃべると、呪う」
背後から首筋にあてられたフランカの指先が、恐ろしいほどにひんやりしている。
レベルアップした魔法で、骨の髄まで呪われそうだ……
「……でも」
俺の首筋に触れていた指先がゆっくりと曲げられ、包み込むような柔らかさで俺の肩口を撫でる。
背後から正面へと回り込んで、フランカは俺の顔を見つめる。
そして、いつもはさほど変化のない表情を、今だけははっきりそれと分かるほど微笑みの形に変える。
氷が解けるような、温かい息吹を感じさせる笑みを浮かべ、フランカは俺を見つめて言う。
「……ありがとう、ね」
鼻の奥がムズッとして、喉の奥がキュッと締まる。
なんというか……反応に困る。
ちょっとだけ……ドキッとさせられた。
「あ、あぁ、そうだ!」
仕方のない状況だったとはいえ、先ほどフランカとキスをしたのだ。そのことも手伝って、妙に意識してしまっている自分に気が付く。
なんとなくテンパってしまって、俺は慌てて言葉を吐き出す。
ちゃんと謝っておかなければと思っていたことを、折角なのでこのタイミングで謝っておく。
「その……いくら切迫した状況だったからって……お前の許可もなくいきなり……え~っとつまり…………とにかく、悪か……」
「悪かったな」と、言おうとした俺の唇を、フランカの人差し指が軽く押さえる。
謝罪の言葉を封殺された。
「……謝らないで。あなたは何も悪いことをしていないわ…………私は、本当に感謝しているの。だから、謝らないでほしい…………お願い」
「お、おう……」
俺が頷くと、フランカの指が静かに離れていく。
唇に残った熱が夜風に晒されて、少しだけ寒く感じる。
「……じゃあ、ご飯にしましょう。テオドラ」
「うむ、そうだな。今日の料理はちょっと自信があるのだ。野菜をトマトベースのスープで煮込んでだな……」
テオドラが滔々と語る本日の献立を聞きながら、フランカの視線がちらりと俺を見る。
目が合うと、軽く、微笑みをくれた。
なんだか、とても機嫌がいいように見える。
まぁ、みんな無事だったし…………な。
フランカも、危なく死にかけて、でも助かったし…………そりゃ、機嫌も良くなる……よ、な?
面倒見のいいテオドラが、まだしゃくりあげているメイベルを連れて、少し離れた場所に設置された食卓へと連れて行く。
フランカも後に続き、辺りがほんの少し静かになる。
そのおかげで、微かな衣擦れの音も鮮明に聞こえた。
「……ご主人さん」
ルゥシールが俺の目の前に立ち、俺を見下ろしている。
「あぁ。ちょっと待ってくれ。足が痺れて、立てないんだ。すぐに行くから……」
なんとなく、ルゥシールの顔を見ることが出来なくて、俺は俯いたまま必要以上に明るい声を意識して言葉を発する。
……何してんだ俺?
何に気を遣ってるんだよ?
自分の中に芽生えた理解しがたい感情に戸惑う俺を、ルゥシールは微動だにせず見つめ続けているようだ。
視線だけを感じ、でもそちらには向けず、無言の時間が続く。
「…………ごめんなさい」
不意に、思いがけない言葉がもたらされ、俺は思わず顔を上げる。
「…………え?」
何がかを問おうとしたのだが、俺と視線が合う前に、今度はルゥシールが視線を逸らし、俺を残して食卓の方へと歩いていってしまった。
ルゥシールの背中は何も語らず、歩く度に揺れるポニーテールは……気のせいかもしれないが……どこか寂しそうに揺れていた。
「…………なんなんだよ?」
そう呟いてみたものの……答えてくれる者はどこにもいなかった。
ご来訪ありがとうございます。
今回はご主人さんがとても頑張ったお話です!
まぁ、最後は正座でしたが……
これで四天王二人目撃破です
次回は、夜の砂漠のお話になります。
夜。
何もない砂漠の夜。
……何かが起こりそうな予感です。
そして、気になるルゥシールの変化……
次回も、是非お立ち寄りくださいますよう
よろしくお願いいたします。
魔導ギルド四天王が一人『ロリ巨乳のメイベル』(……あれ、なんか違った気もするけれど……ま、いいか)は、
次回以降少しずつ可愛く変化していくのではないかと、
『ロリ巨乳を遠巻きに観察しつつ大切に育む会・副会長補佐』である私は、そのように思うわけです。
大切に、そう、大切に育んでいきたいものです。
次回もよろしくお願いいたします。
とまと




