75話 四天王 風のメイベル(ロリ巨乳)
不敵な笑みを浮かべ、フランカへ向かって飛んでいく魔導ギルド四天王の一人、『風のメイベル』。
俺は言い知れぬ不安を覚え、焦燥感に駆られる。
……あいつを何とかしなければマズいことが起こりそうな気がする。
「ルゥシール! 加勢に行くぞ!」
「はいっ!」
地面が固まったおかげで走りやすくなった。
フランカとの距離はおよそ20メートル。すぐにたどり着ける。
……が。
俺たちが駆け出すと同時に、地面が大きく揺らいだ。
次の瞬間、俺たちの足元から固まった地面を突き破って巨大な魔物が顔を出した。
そいつはバプティストの生み出したストーンワームによく似た生き物で、この砂漠に生息するというサンドワームだ。
「くっそ、こんな時に!」
「ご主人さん、下がってください! わたしが行きます!」
ルゥシールがアキナケスを抜き、突然地面から生えてきやがった細長い化け物に斬りかかる。
しかし……ガキンッ! と、硬質な音がして、アキナケスが弾かれてしまった。
「にゃあっ!? か、硬いですっ!」
ルゥシールは腕が痺れたのか、右手を振っている。
その時、向こうで突風が吹き荒れる。
メイベルがフランカのもとへと到着し、魔法の撃ち合いが始まったのだ。
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」
「にゃははっ! なにそれぇ、おっそぉ~い! こうするんだよぉ!『 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― だよぉっ!』」
「……くっ。なら……『 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 』っ!」
「ぷぅ~、くすくす。『 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― だよぉっ!』『 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― だよぉっ!』おまけに『 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― なんだよぉっ!』っと」
「……きゃぁああっ!? …………はぁ、はぁ…………速い……っ!」
フランカの得意な怨嗟系の魔法も放たれてはいるが……高速詠唱を覚えたてのフランカには分が悪い。
なにせ、相手は魔導ギルド四天王を自称する高位魔導士だ。
レベルの差は大きい。
くそっ!
こんな魔物の相手をしている場合じゃないってのに!
俺のミスリルソードはオイヴィに預けたままだし、どうやってこいつを攻略するか……
「二人とも、下がれ!」
テオドラの声がして、俺とルゥシールは咄嗟にその場から飛び退く。
俺たちが退避するのと同時に、目に見えるほど濃厚な斬撃が空間を横切り、サンドワームの身体へと炸裂する。
ギジャァァアァァアアアアアアッ!
天を劈くような悲鳴を上げ、サンドワームが空を仰ぐ。
斬撃がぶつかった箇所はザックリと抉れ、ほぼ切断されている。
「これで、終わりだ!」
深手を負い、動きが緩慢になったサンドワームに、テオドラが大きく回転しながら接近し、遠心力を乗せた二撃を連続で叩き込む。
辛うじて繋がっていたサンドワームの胴体が千切れ、落下と同時に、とどめの一撃で頭を叩き割られる。
軽やかに着地すると、テオドラは優美な動作で剣を鞘へと納める。
キンッと音を鳴らし、刃が姿を隠す。
「割と硬いな。サフラージャンバリー製なのか?」
「いえ、おそらく、魔力を帯びた砂が、この防御力を生み出しているのだと思います」
砂のくせにやけに硬いサンドワームを倒し、テオドラは少し驚いたような表情を見せている。
軽く右手を振っているのは、想像以上に斬った時の抵抗が大きかったからだろうか。
それにしても鮮やかだ。
こんな巨大な、鉄並みの硬度を持つ魔物を二本の剣とカタナで切断してしまうなんて。
テオドラは、間違いなく一流の剣士なのだ。
「こいつも四天王の操る魔物なのだろうか」
サンドワームの死骸が崩壊し、砂へと還っていく。
固められた土の上に、大きな砂山が出来る。
「いえ。サンドワームはこの砂漠に生息する魔物だと、オイヴィさんが言っていました。なんでも、砂漠を荒らす者に攻撃を仕掛けてくるとか」
「なるほど。砂漠の砂を固めたりしたから怒って出てきたってわけか」
「にしても、タイミングが悪過ぎるのではあるまいか?」
テオドラの愚痴ももっともだ。
なにも四天王を相手にしている時に出てこなくても……
「とにかく、助かったよテオドラ」
「なに。こういうデカいのはワタシの担当だろう。あっちの魔導士は任せきりになると思うが」
たしかに、高速詠唱を使う魔導士相手では、テオドラは分が悪い。
そこは俺たちが受け持つべきところだろう。
「さ、ご主人さん! 早くフランカさんを!」
「あぁ! 行くぞ!」
「待てっ!」
駆け出そうとした俺の肩を、テオドラが強引に引き寄せる。
体が傾ぎ、後ろへ倒れそうになる。
なんだ? と、思う前に、目の前に太く巨大な砂の塔が突き出してくる。
……いや、塔じゃない。
「サンドワーム……二匹目か!?」
「いいや、違うぞ」
俺の言葉を訂正して、テオドラはアゴをクイッと持ち上げる。
視線を向けると…………土の中からサンドワームがぼこぼこと出現してくるところだった。
総勢八匹。
……どんだけいるんだよ、サンドワーム……っ!
「元が砂と魔力ですので、何匹でも出て来るはずです!」
おそらくオイヴィに教わったことなのだろう。
ルゥシールが頬に汗を伝わせながら、そう説明する。
「これでは埒が明かないな……」
静かに、落ち着いた声でテオドラが言う。
焦りは感じられない。
ただ純粋に煩わしいとだけ思っているようだ。
冷静なテオドラの手が肩に触れているせいだろうか……そこから冷静さが伝達するように、俺も落ち着いた心を保つことが出来た。
「こいつはワタシが引き受ける。君たちはフランカを頼む」
そう言って、俺の背中を軽く押す。
首を動かし視線を向けると、テオドラは二本の剣とカタナを抜き放ち、独特の構えを取る。
心なしか、その表情は嬉しそうだった。
「さぁ、存分に試し斬りをさせてもらうぞ!」
高らかに叫び、俺たちとフランカとの間を塞ぐサンドワームに斬りかかる。
両腕を振り上げ、全身の力を込めて振り下ろした二本の刃から、白く可視化された高圧力な空気の刃が発生する。
唸りを上げサンドワームに襲い掛かる空気の刃は、進行方向にある土と空気を巻き込んで己の通った道を地面に刻みつけていく。
刃が衝突すると、サンドワームの巨大な体が波打ち、数瞬後には砂へと還る。
「さぁ! 今のうちに!」
テオドラに促され、俺たちは切り開かれた道を駆け抜ける。
途中、俺たちを狙ってサンドワームが牙を剝くが、それらはことごとくテオドラの刃によって阻まれていた。
走りながら振り返ると、テオドラは舞うように空を翔け、二本の刃を自在に操り、無数の敵を瞬く間に蹂躙していく。
後方はテオドラに任せよう。
「ルゥシール! 先行してメイベルを牽制してくれ!」
「はいっ!」
ルゥシールが速度をグンと上げる。
「やぁぁあああっ!」
一瞬姿が消えたかと思うと、空中に浮かんだメイベルの足元に出現し、勢いよく地面を蹴って驚異的な跳躍を見せる。
頭上10数メートルの高度に浮かぶメイベルの背後に達すると、アキナケスを振りかぶる。
「なになにっ!?」
突然現れた気配に、メイベルは驚いて振り返り、そして反射的に口を動かす。
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― だよぉっ! 」
アキナケスが振り切られる前に、メイベルの高速詠唱が完了し、ルゥシールが分厚い風の層によって弾き飛ばされる。
「にゃうっ!?」
ルゥシールの悲鳴は、唸る風の音にかき消される。
上空高く吹き飛ばされたルゥシールは空中で体をひねり、くるくると回転しながらそっと地面へ着地する。
「……痛っ!?」
着地の際、地面に接した膝に痛みが走ったようで、慌てて膝を地面から離す。
痛みをこらえるように膝をがしっと握る。
痛みに顔が歪んでいる。
「大丈夫か、ルゥシール!?」
「すみません、失敗しました」
頭上を仰ぎ見ると、メイベルはさらに高度を上げ、フランカと俺たち、双方を視界に入れて見下ろしている。
フランカまで、後10メートル。
「邪魔しないでよぉ、もぅ、イライラしちゃうなぁ!」
頬を膨らませて憤慨し、メイベルが手のひらをこちらに突きつける。
激しい耳鳴りがして、背筋が粟立つ。
発火した空気の層が巨大な鎌のように俺たちに襲い掛かる。
一振り二振りではなく、何十何百という無数の刃が降り注ぐ。
風を圧縮して飛ばしている影響か、辺り一面の気圧が上がる。酷い耳鳴りがして、軽く眩暈を覚える。
魔力を探るが、突風にもみくちゃにされるように縦横無尽に暴れ狂う魔力の核は、捉えることが出来ない。
かわすしかないか。
俺たちは後退を余儀なくされる。
しかし、下がり過ぎるとサンドワームの群の中に突入することになる。
メイベルとサンドワームを繋ぐ直線状から離れるように、俺たちはその場から避難していく。
俺たち、フランカ、テオドラを頂点とした三角形が形成される。……厄介なことに、戦力が分散されてしまった。
「あんたらは後で殺してあげるからぁ、しばらく大人しくしてなよぉ!」
メイベルが両腕を広げると、一瞬空気が重くなったような錯覚に陥る。
そして俺たちの目の前に、向こうの景色が歪んで見えるほどの分厚い空気の層が出現する。
手を伸ばすと、激しい抵抗に腕が弾き飛ばされる。
凄まじい突風が、限定された空間に吹き荒れているような、空気の壁だ。指を近付けるだけで強風が発生する。この壁に飲み込まれたら無事では済まないだろう。
そんな空気の壁に、ぐるりと三百六十度取り囲まれてしまう。
「こんなもの、一っ跳びで……っ! やぁぁあああっ!」
ルゥシールが空気の壁を跳び越えようと跳躍する。
が、ルゥシールの体が壁の上に差し掛かった途端、荒れ狂うように風が吹き乱れ、ルゥシールの体を飲み込んではるか上空へと吹き上げていく。
「ルゥシールッ!?」
突風の中で体をひねり、何とかルゥシールが上昇気流から逃れる。
しかし、相当ダメージを受けたのか、空中で体勢を整えることも出来ずに、地面へと落下してくる。
「危ないっ!」
俺は、ルゥシールの落下地点で身構え、落下してきたルゥシールの体をがっちりと受け止めた。
「ぅ……っ、重……っ!」
落下の力が加わり、人一人分の体重を優に超える荷重が加わっている。
しかし、取り落とすわけにはいかない。
俺は体をルゥシールの下へと潜り込ませ、全身でルゥシールを受け止める。
ルゥシールを抱きかかえた状態で、俺の背中は地面へと叩きつけられた。
「痛っっっっっっっでぇっ!?」
背骨から全身に痛みが走り抜ける。
全身が感電したかのように痺れる。
悶絶していると、俺の腹の上でルゥシールがもぞりと動く。……よかった、無事か。
「…………重いなんて、酷いです」
「……他に、言うことないのかよ?」
いいんだよ、お前の体重の半分はおっぱいなんだから。それはいい重さだ。
「おっぱいの重さだ。気にするな」
「そこまで重くはないですよっ!?」
なんにせよ、無事なようでよかった。
そして、この空気の壁は跳び越えることも出来ないらしい。
「だとすれば、この空気の壁を突破する方法は一つしかないな……」
「え?」
砂漠の土を固めた、粘土質な大地の上に寝転がり、俺の上に横たわるルゥシールを見つめて、俺は宣言する。
「ルゥシール。変身だ!」
この空気の壁を突破するには、ダークドラゴンのパワーが必要だ。
メイベルは、フランカとの魔法合戦を再開させている。
一方的にフランカが押され始めている
やはり、高速詠唱の速度と、魔力の絶対値で分が悪いのだ。
魔導士としてのプライドか、己の地位や特異性に固執しているのか……メイベルはフランカの存在を完全に否定しようとしている節がある。
フランカの命が危ない。
「楽には殺してあげないよぅ? あなたみたいな勘違いしちゃった三流魔導士は、身の程知らずを嫌というほど思い知らせてやるんだからねぇ! じわじわ、じわじわ……苦しんで死んじゃえぇ!」
バプティストが『性格ブス』と言っていたメイベル。
なるほど……ほどよく性格がねじ曲がっているようだ。
「ルゥシール、行けるか!?」
すぐに脱出して、フランカを助けに行かなくては!
「あ…………ぅ……あの、フランカさんを助けたいのは、当然、やまやまなのですが…………」
しかし、ルゥシールが戸惑ったような表情を見せる。
目が合うと、みるみる顔を赤く染め、ついには俺の胸に顔を伏せてしまった。
「そ、外で、皆さんが見ている中でだと思うと…………は、恥ずかしいです……」
「いや、そんなこと言ってる場合じゃ……!」
その時、ひときわ大きな破裂音が響き渡った。
「ご主人さん、あれっ!」
顔を上げたルゥシールの叫びに、胸がざわつく。
飛び起きるように体を起こし、音のした方へと視線を向ける。
空を貫く程の巨大な竜巻が立ち上り、その中心部にフランカがまるで張りつけられているかのように浮かんでいる。
右腕をメイベルに向かって伸ばし、険しい表情で口を開く……が、言葉が出てこない。
苦しそうに何度か唇を開閉し、そして、左腕で首元をギュッと押さえつける。
呼吸が出来ないのか!?
「にゃははっ! 高圧力の中じゃ、言葉なんかしゃべれないよねぇ? おまけに、肺が押し潰されて息も出来ないでしょぉう?」
フランカは苦しそうに唇を歪ませ、必死に息を吸おうとしている。
しかし、うまくいかないのか……顔がどんどん青ざめていく。
「苦しそうだねぇ……うんうん、いいよいいよぉ!」
無邪気な声でメイベルが笑い、そして、幼い顔に邪悪な笑みを浮かべる。
「そのまま、死んじゃえ……」
小さな声で呟かれたその言葉に、背筋が凍る。
嫌なビジョンが脳裏に浮かぶ。
そして、俺の目の前で…………フランカの体が弛緩した。
いつもありがとうございます!
とまとです!
身長は大人で胸は子供サイズなフランカ
VS
背丈は子供で胸は大人サイズなメイベル
の対決です!
現状、フランカさんが非常に不利です!
(胸的なことも含めて!)
そして、気になる引きで……次回に続くです!
なんかすみません。
是非、次回もお越しいただければと思います!!
よろしくお願いいたします!!!
(いつも20時にアップなんですが、
今日はちょっと遅れてしまったので、あとがきが駆け足です!
次回は遅れません、えぇ、きっと!)
次回もよろしくお願いいたします!!
とまと!!!
 




