68話 名声を欲す
魔導ギルド四天王、土のバプティストとの戦闘後、オイヴィ指導の下ミスリルを採掘し、俺たちはオイヴィの家へと戻ってきていた。
ミスリルはバプティスト一人に背負わせ、俺たちはのんびりと散歩気分で戻ってきた。
そんなわけで、家に着くなり大量の荷物を地面に下ろすと同時に、バプティストは地べたに倒れ込んだ。
「ボ……ボクは、肉体労働……には、向いて……ない、のに…………はぁはぁ……」
敗者に強制肉体労働は当然課せられるべき罰なのだ。
もう二度とおかしな気を起こさせないように、徹底的にな!
「いやぁ、思いがけず働き手が出来て、楽出来てよかったなぁ」
「ご主人さんは本当にご自分に素直な方ですよね」
しまった。本音と建て前が逆になってしまった。
「敗者に強制肉体労働は……!」
「……いや、言い直さなくていいから」
フランカは冷たく言い放つと、俺から離れた場所に腰を下ろした。
とても疲れているように見える。
そう言えば、テオドラも口数が少ない。
「どうした、二人とも? なんだか疲れてないか?」
「……おかげさまでね」
「君は…………いや、何も言うまい……」
なんなんだよ、そんなジト目で人を見て。
なぁ、ルゥシール?
「…………」
って、うわぁ、ルゥシールも物凄いジト目で見てるしっ!?
俺が何をしたというのか……
なんだか女子三人の様子がおかしい。まるで、俺が何か良くないことをしでかしたみたいな感じになっている。……なんもしてないよな、俺?
「土を操る魔導士とは、なかなかに便利なものよの。どうじゃ、今後もワの手伝いをせんかや?」
【魔界蟲】を失ってもなお、バプティストの土を操る能力は一流だった。どうも、元々土に特化した魔導士のようだ。【魔界蟲】を使役していた時に比べると遅くはなったものの、高速詠唱はバスコ・トロイ並みに速い。
オイヴィはその力をいたく気に入ったようで、勧誘を始めている。
まぁ、冗談半分なのだろうが。
「……ごめんなさい。ボク、ロリっ子は……ちょっと……」
お、巨乳派か?
この町に来てから初の遭遇だな。仲良くしようぜ。
「……四天王に一人、いるんだ……風のメイベル…………ロリで巨乳な、……性格ブスが……」
「ということは、顔は可愛いんだな?」
「顔は……まぁ………………超可愛い」
「可愛いロリ巨乳…………ふむ…………魔導ギルド四天王なる者は野放しには出来ないな、王子として! 今すぐ倒しに行かねば! 主に、風の魔導士を!」
熱くたぎる正義の心を振りかざし、仲間の方へと振り返る。
「「「じとぉ~~~~~~~~~~~~…………」」」
速攻で顔を逸らした。
物凄いジト目だった。
三人が三人、三人三様のジト目で俺を見ていた。
なぜあいつらはロリ巨乳という希少種の有用性を理解出来ないのか……
「のぅ、ヌシよ」
オイヴィが俺の肩に手を乗せ、神妙な顔で言う。
「己に素直なのは美徳でもあるが……大概にせんといつか刺されるぞ?」
「刺されるって……誰にだよ?」
そんな危険なヤツいるわけないだろう。
と、再び仲間の方へと視線を向けると……
ルゥシールがアキナケスを構えていた。
テオドラに至っては剣とカタナを両方構えている。
……わぁ、怖い。
フランカだけは刃物を持っていないようだが……魔法陣が展開されている。
「……スルブ・ハッドという魔法がある」
「あぁ、知ってる知ってる。鋼の刃を飛ばしてくる魔法だろ?」
あぁ、刺されるな、これは。
……わぁ、怖い。
「くふふ……ほんに、飽きない連中じゃの」
オイヴィが楽しそうに笑う。
「ヌシらのような連中に出会えたのじゃ、長生きも無駄ばかりではなかったようじゃの」
その言葉には、ほんの微かな自嘲が含まれているようで、胸の奥にざわりと波紋が広がった。
テオドラも同じものを感じたのか、どこか悲しそうな表情を見せる。
「オイヴィ……あなたは……」
「やゃっ、すまんの。おかしな空気になってしもうたの。テオドラよ、そんな顔をせんでくりゃれや?」
「……はい」
テオドラは剣をしまい、目を伏せる。
う~む、何かあるな。
「して、ヌシよ。この男はどうするのじゃ?」
空気を換えるようにオイヴィが明るい声で俺を呼ぶ。
こちらを向く顔が、どこかすがるように見えて……俺は、オイヴィの誘いに乗ってやる。
この話はここで終わらせてくれと、言われている気がしたからな。
「どうってなんだよ? 欲しけりゃやるぞ?」
「うむ。それも悪くない案じゃが……まずは処罰が先じゃろう」
オイヴィが、地面に座り込んでいるバプティストの頭に手を乗せる。
「悪いヤツではなさそうじゃが、曲がりなりにも敵対し罠を張っておった刺客じゃ。無罪放免ともいくまい?」
バプティストの肩が跳ねる。
不安げにオイヴィを見上げ、次いで俺へと視線を向けてくる。
ふむ……処罰か。
「半年間半ケツの刑でどうだ?」
「い、いやだっ! そ、……えぇ、そんな罰…………えぇっ!?」
バプティストが面喰って盛大に慌てふためく。
その様を、オイヴィはけらけらと笑って眺めている。
「誰の益にもならん処罰じゃの……くふふ。のぅ、ヌシよ。おぬし、真正のアホじゃろう?」
「失敬な!」
「……【搾乳】は自分が見えていないと見える」
「確かに。即答で否定出来るその神経はすごいとは思うが……」
「ご主人さん……否定出来る要素が少な過ぎます……」
くっそ、四対一か!?
こうなったら……巨乳同盟の再結成だ!
「おい、バプティスト!」
「なんだい……真正のアホ」
「くっそぉ! バプティスト、お前もか!?」
アウェーだ!
ここは敵地の真っただ中だ!
「冗談はさておき、難しいところですよね」
ルゥシールが腕を組んで眉根を寄せる。
「命を取るつもりはありませんし……かと言って無罪放免というのも……甘い判断を下すと今後厄介ごとがもりもり舞い込んできそうですし…………なにかいい落としどころは無いでしょうか?」
「ルゥシール」
「はい」
「『もりもり舞い込む』ってどういう舞い込み方だ?」
「そんなところに引っかかってないで、真面目に考えてください!」
「もぅ!」と、ルゥシールが頬を膨らませる。
なんだよ、可愛らしい顔して……膨らんだ頬を両側から押して「ぷしゅ」ってするぞ?
「……情報提供を乞うのが得策」
バプティストを持て余していると、フランカが静かに提案をする。
真っ直ぐにバプティストを見つめ、厳しい表情を見せている。
「……魔導ギルド四天王なんて、初耳。バスコ・トロイ以上の力を持った魔導士が、ギルド加盟者に知られていないなんて異常」
「確かになぁ……。俺も初めて聞いた名前だったし」
魔導ギルド四天王という名称も、バプティストという高位魔導士の名も、俺は耳にしたことがない。
情報が積極的に公開されるギルドという組織に置いて、ここまで秘匿された存在はそういないだろう。
「秘匿……されていたわけでは、ない……なくて……ボクたちが、勝手に名乗っているだけ……」
フランカに睨まれる中、バプティストはポツリポツリと話し始めた。
割りと素直な性格のようで助かる。
そういう態度でいてくれれば、危害を加えることもしなくて済むだろう。
「ボクたちは……ある日……ある時、偶然…………本当に偶然……【魔界蟲】に遭遇したんだ……」
バプティストの話によると、魔界四天王を含む高位魔導士のチームが、ブレンドレル国宰相ゲイブマンの指示のもと召喚魔法を研究していた施設において、不慮の事故が起こったのだそうだ。
【魔界蟲】の発生。
本来は一体ずつしか召喚されないはずが、その時は魔法陣から続々と魔界蟲が涌き出てきたらしい。
魔導士たちは必死に迎撃を行うが、【魔界蟲】の力は凄まじく、チームの半数が命を落としたそうだ。
「そんな中……グレゴールが……【魔界蟲】を…………使役することに成功したんだ……」
襲い掛かってきた【魔界蟲】がグレゴールの魔力と相性が良かったのだろう、と、バプティストたちは推測しているようだ。
「凄い……力だった…………炎を纏った【魔界蟲】を味方につけ、ボクたちは……いや、……グレゴールは【魔界蟲】を……殲滅した。……あぁ、違う……何匹かは捕らえたんだ……それを、ボクたちに与え…………適正検査を………………ボクは、運が良かった……」
捕らえた【魔界蟲】を、高位魔導士に与え、使役出来るかどうかを試したのだそうだ。
適性検査と言われたその行為は……聞く限りただの人体実験だった。
強大な力を得たグレゴール。その力に畏怖と憧れという両極端な感情を抱いた魔導士たちは、研究など放り出して【魔界蟲】の使役に躍起になった。
夢中で【魔界蟲】と向き合い、……そして、さらに多くの者が命を落としたのだそうだ。
「【魔界蟲】は……宿主の魔力を……吸う…………魔力がなくなると……今度は生命力…………命を、吸うんだ…………」
そして、多くの者が命を吸い尽くされてしまったらしい。
「完璧に……使役出来れば……『エサ』の量も、コントロール……出来るようになるけれど……多くの者は…………その前に…………」
数十人いた魔導士たちは多くが死に絶え、捕らえた【魔界蟲】もそのほとんどが絶命していた。
【魔界蟲】に関しては、コントロールの出来なかったものはその都度退治されていたようだ。
そして、生き残ったのは……四人の魔導士と四匹の【魔界蟲】。
「それが、魔導ギルド四天王ってわけか」
「まぁ、……勝手に名乗っている、だけ……だけどね」
「疑問なのだが、頭に『魔導ギルド』とつけているのは、ギルドに対する恩義ゆえなのか?」
テオドラの質問に、バプティストは首を振ることで否定を示す。
「ボクたちは……みんな…………目が出ない一流魔導士だったから……」
一流の魔力と知識と技術を持ち、高位魔導士と呼ばれながらも頭角を現せなかった魔導士たち。そんな魔導士は、何人もいる。千や二千では済まないくらいに。
「だから…………認めさせたかった…………ボクたちは……一流だって………………ボクたちの存在を…………っ!」
握られた拳が、バプティストの無念を如実に物語っている。
天才と呼ばれた先王とバスコ・トロイ。
この二人の名が大き過ぎて、それ以降の魔導士は必ずこの二人と比較され、そして下に見られてきたのだ。
力比べをすれば、結果は分からない。だが、名声というものは強力な武器となる。
皮肉なことに、他の魔導士が彼らを超えようと躍起になればなるほど、技術を磨けば磨くほど……バスコ・トロイの名ばかりが大きくなっていくのだ。
「あんなに強力な魔導士が所属する魔導ギルドを束ねる天才魔導士バスコ・トロイ」として。
「あの、ご主人さん……」
話を聞いて、ルゥシールが俺の隣まで来て、遠慮がちに尋ねてくる。
「魔導ギルドを抜けて、新しい団体を作ればよかったのでは?」
「それは無理だな」
ギルドが乱立すれば、必ず紛争が起こる。醜い潰し合いが延々と繰り返されることになるだろう。
そうならないために、国は一つの職業に一つのギルドしか認めない。
許可のない組織など、有名無実……いや、無名無実。存在しないものとみなされるのだ。
国の認可がなければ、国内で仕事が出来ない。何を行うにしても「不法行為」になってしまうのだ。
当然、ギルドによる討伐対象になる。扱いは、盗賊と同じだ。
「いくら実力のある魔導師が揃ったとしても、魔導ギルドに所属する何万にも及ぶ魔導士をすべて相手にするのは分が悪い。冒険者ギルドも国からの要請で討伐に動くことになるだろうし、何より金が稼げなければ生きていくことすら出来ん。反乱を起こそうにも、金は必要になるしな」
もし、新たな組織を本気で創るなら、既存の組織を乗っ取り、破壊し、内部から改革をして作り変えるしか方法はないだろう。
「……だからこそ、わざわざ『魔導ギルド四天王』と名乗って実力を鼓舞する必要があった…………バスコ・トロイの敗走が広まった今が絶好のチャンスと言うことね」
フランカが俺の説明に追加する形で補足説明をする。
バプティストはそれを聞いてこくりと頷く。
「バスコ・トロイを負かした王子を……、ボクたちが討てば、魔導ギルドは、ボクたちを認識せざるを得ない……認識さえされれば…………ボクたちの力があれば…………ボクたちは一番になれる……」
「認識、ですか?」
ルゥシールが投げた問いに、バプティストは静かに首肯する。
そして、ゆっくりとした口調で言う。
「ボクたちは…………死んだことにされているから……」
ルゥシールとテオドラが息を呑む。が、俺とフランカは妙に納得してしまった。
召喚魔法の失敗により、一つのチームが壊滅することなど、珍しくはない。
魔界から呼び出された魔物は、自由を得るために術者を最初に狙うからだ。
そして、絶滅寸前にまで追い込まれたこいつらのチームも、そんな数ある『不幸な事故』の一つとして処理されたのだろう。
下手に名乗り出れば……口封じに消されるかもしれない。
そう判断して身を潜めていたのであれば、四天王のリーダーは利口なようだ。
やるならば、実力を身に着け、絶好のタイミングで名を売る。
世間の注目を集めるくらいに。
魔導ギルドが無視出来ないくらい……いや、黙殺出来ないくらいに派手な売名行為が必要だ。
魔導ギルドと交渉出来るくらいに、大きな名前がな。
「もうすぐ……魔導ギルドの歴史が変わる……はず、だった…………王子さえ、倒せれば……」
「どうも好かない考え方だな。そこまでの意志があるのなら、そのバスコ何某に直接勝負を挑めばよいではないか!」
「魔導士は、バスコ・トロイには勝てないんだよ」
「そうなのか?」
シレンシオジュラメントを知らないテオドラは、俺の言葉に首を傾げている。
まぁ、そのシレンシオジュラメントも、もうすぐ切り札としての効力を失うだろうけどな……未来の天才魔導士の手によって。
「ボクたちは……死んでも、生きていても…………誰にも……見向きすらされない…………透明人間みたいな存在なんだ…………」
施設に籠り、誰にも知られることのない召喚魔法の研究を行うだけの人生。
魔法という才能を持ちながら、それを披露する場所を与えられない一流の魔導士たち。
失敗すれば死。
成功しても……その存在が知られることはない。
空しくもなるってもんだろうな。
「結構じゃねぇか。透明人間」
俺なりに、慰めてやりたくもなるってもんだろう、こんなの。
顔を上げたバプティストに言ってやる。
「女子の着換えとかお風呂が覗き放題じゃねぇか」
「ご主人さんが目立ちまくる、個性の塊みたいな人で本当によかったです」
ルゥシールがやや怒ったような目で俺を見る。
「君の……考えていることは…………本当に分からない……いや、……心底、羨ましい」
バプティストの漏らした言葉に、辺りが静かになる。
「ふむ。生まれた瞬間から否応無しに注目され続けたコゾーと、死の試練を乗り越えてもなお注目されない四天王かや……お互いに理解出来ぬとて、仕方のないことかもしれんの」
オイヴィが大人の顔で優しく言う。
千年の時を生き、酸いも甘いも知り尽くした、そんな彼女だから出来る慈愛に満ちた表情だ。
だが、しかしだ……
「バカかよ」
「なんじゃと?」
呆れて吐き捨てた俺の言葉に、オイヴィは反応を示す。
不快感は見せず、純粋に興味深そうに。
「理解出来ないわけないだろう?」
「ヌシは強いゆえ、そう思えるのであって、全ての者がそうであるとは……」
「マジでお前らないのかよ?」
知った風な顔で繰り出されそうになったオイヴィの説教を強引に止めて、俺の方から問いかける。
とても簡単な問いを。
当たり前の、問いを。
「『自分には何でも出来る』『今は無理でも、いつかきっとなんでも出来る人間になる』って思ったこと。あるだろ?」
ガキの頃、自分の将来には無限の可能性があると、誰もが信じていたはずだ。
「俺の頭の中は、あの頃から何も変わっちゃいねぇ。だから、お前らに理解出来ないことなんかあるわけねぇんだよ」
同じこと考えてたんだから。
「それは…………君が……強くて、王子だから……でも、ボクは…………頑張ったけど……」
「『けど』、なんだよ?」
「けど…………結局、勝てなかったし…………グレゴールにも、頭上がらないし…………限界っていうか…………ボクなんて…………」
「『ボクなんて』……………………なんだよ?」
「……っ!?」
バプティストが息を呑む。
俺の顔を見つめていたルゥシールも目を丸くしている。
テオドラも、驚いた顔をしている。
空気が固まる。
俺はジッとバプティストを見つめる。
ふざけたことを抜かしたら、即ぶっ飛ばしてやろうと思って。
けれど、バプティストは何も言わなかった。……言えなかったのかもしれない。
まぁ、いい。
口を噤んだということは、自分が間違っていたことにうすうす気が付いたということだろうしな。
「テメェの限界を、テメェが決めてんじゃねぇよ」
視界の隅でルゥシールがそっと自分の口を押さえる。
バプティストは、何も言わず、ただ俺を見つめている。
視線を外すことが出来ないでいるように。
「誰が出来ないって言ったよ? 誰かに言われたのか? 『お前には無理だ』って。だとしたら、そのバカを殴ってやれば済む話だ」
無理かどうかなんざ、誰にも分かるか。
魔法も使えないただのガキが、魔界に放り込まれて、生きて帰ってきたんだぞ?
人生の終わりを確信していたダークドラゴンが、その瞳に新しい光を宿らせたんだぞ?
とある地方の田舎娘が、有言実行してバスコ・トロイと同じ魔法を習得しやがったんだぞ?
ロリコンでシスコンのバカ兄貴を説得して俺の旅についてきたヤツだっている。
「それでもまだ、無理だとか言うんなら、俺を説き伏せてみろよ。ただし、『でも』『けど』『だって』『しかし』『せやけど』『ばってん』『とは言うけれど』は全部禁止でだ!」
無理なんかじゃない。
失敗して傷付きたくないだけだ。
自分を無力だと、痛感したくないだけだ。
死にたくなるような自己嫌悪を、乗り越えるのに疲れちまっただけだ。
決して、無理なんかじゃない。
「けど……」
「それは禁止だ」
「でも……っ!」
「それも禁止だ」
「…………もう、【魔界蟲】もいなくなったし…………」
「探しゃあいいだろうが、もう一回! なんなら、魔界にでも行って獲ってこいよ」
「そんなこと、出来るわけが……っ!」
「やろうとしてるヤツがいるんだよ! ここに、ゴロゴロとな」
俺は、俺の仲間たちを示すように腕を広げる。
言葉を失ったバプティストに教えてやる。
「テオドラにオイヴィ。俺らは、次元の結界をぶっ壊す。ちょっくら、魔界に用事があるんでな」
「……次元の結界…………魔法陣をっ!? ……そんなこと……」
「出来る! つか、やる!」
「そうじゃなくて……そんなことをしたら……」
「国が黙ってないだろうな。魔法が使えなくなると困るしな。……が、俺はやるぜ」
バプティストが目を丸く見開いて固まる。
こいつはしばらく動きそうもないな。
というわけで、話を違うヤツに振る。
「なぁ、オイヴィ?」
「む、うむ?」
悟りきった顔をして、大人の余裕醸し出してよ。
「ガキみたいに夢中になってなきゃ、こんな無謀なことやろうなんて思わねぇだろ?」
お前だって、本当は無茶を承知で行動してるんじゃないのか?
もう諦めているみたいな態度で、でも諦めきれなくて、微かな可能性にかけて、知らない振りをしながらもがいて……
誰にも剣を打たなかった。
けれど、テオドラの話に心を動かされた。
俺たちにかけてみる気になった。
「お前はどっちなんだ? 次元の結界を斬って魔界に行くなんて、『無理』だと思うか?」
「…………ヌシ」
微かに弱々しい表情を見せていたオイヴィだったが、口角が持ち上がると同時に長いため息を漏らした。
「……小生意気な小僧じゃの。ワに説教とは……千年早いわ」
そして、その容姿相応に、無邪気な笑みをパッと咲かせる。
「無理じゃと思うておった。……が、ヌシらに出会い、もしかしたらと思い始めた……往生際の悪い年寄りじゃの、自分でもバカかと思うわ…………」
自嘲したあと、挑戦的な瞳を俺に向け、オイヴィは気迫のこもった目で俺に言う。
「ワに『期待』をさせたんじゃ。裏切れば、タダでは済まさんぞ?」
「おう。ちょちょいと斬ってきてやるよ。ウチの仲間も、魔界に用があるようだし……な?」
と、テオドラに視線を向けると…………テオドラが泣いていた。
「…………ぅ! ……っ、き、君は…………いいな、バカで」
泣きながら、震える口を持ち上げ笑みを浮かべる。
体が震えるのか、自分の体を押さえつけるように、ギュッと抱きしめる。
「正直言えば……すでに半分以上……いや、もっとか……諦めかけていたのだ……出来っこない…………人間には不可能だと……けど…………」
徐々に俯きかけていた顔を、グッと持ち上げ、これまでで一番の笑顔を俺に向ける。
「出来る……かもしれないな、君が、一緒にいてくれれば……」
それだけ言って、蹲り、嗚咽を漏らし始めてしまった。
フランカがそっと歩み寄り、テオドラの背中を優しく撫でる。
ルゥシールは、口を押さえたまま、さっきと同じ格好で俺を見つめ続けていた。
こいつも、微かに泣きそうな表情だ。
「バプティストは、ワが預かる」
ルゥシールを見つめていると、足元からオイヴィの声がした。
そちらに視線を向けると、オイヴィはバプティストの方を向き、こちらには背を向けていた。
「こやつの力は、ワとヌシらの一助となろう。これから忙しくなるからの、精一杯ワの助けになってくりゃれや」
バプティストに言い、ゆっくりとこちらを振り返る。
オイヴィの顔は、これまでに見たこともないほど真剣なものだった。
いつもの、人を食ったような朗らかさはなく、凛として隙がない。
鋭い刃のように研ぎ澄まされた、洗練された表情だった。
殺気にも近い気迫が全身に浴びせかけられる。
「ヌシには最高の剣を打ってやる。じゃからの、ワの頼みを是が非でも聞いてくりゃれ」
反論が出来ないほどの圧迫感に、俺は黙って首肯する。
微かに笑みを零すオイヴィ。その笑みすらも、俺に圧力をかけてくる。
オイヴィは何を頼むつもりなのか……
その答えはすぐにもたらされ、そしてそれは、予想外のものだった。
「ワが、生涯最高の剣を打てた暁には、その剣で…………ワを殺してくりゃれ」
ご来訪ありがとうございます。
サザエでございま~す!
嘘です、とまとです。
最初、サブタイトルは
『68話 魔導ギルド四天王(内、一人はロリ巨乳です)』
にしようかと思ったのですが……ネタバレ? かと思いまして。
あと、割と(この作品にしては)真面目なお話なので、
真面目な感じのタイトルに変更しました。
いっそのこと、
『68話 巨乳』
でもよかったかもしれませんが……
でもそうすると、ほとんどの話が、
サブタイトル『○○話 巨乳』になってしまいますよねぇ……
『○○話 巨乳』
『○○話 巨乳』
『○○話 足の裏』
『○○話 貧乳』
『○○話 巨乳』
『○○話 太もも』
『○○話 巨乳』
『○○話 巨乳』
『○○話 横乳』
『○○話 巨乳』
『○○話 巨乳』
『○○話 谷間からの~脇の下』
『○○話 巨乳』
『○○話 巨乳』
『○○話 貧乳』
『○○話 やっぱり巨乳』
……みたいなことに。
なんじゃ、この話!?
運営さんに怒られるわ!
というわけで、
真面目なタイトルもつけたりするのです。
では次回、『69話 巨乳』でお会いしましょう!
(次回タイトルはいまだ未定です)
今後ともよろしくお願いいたします。
とまと
 




