66話 【魔界蟲】の力 大地を操るバプティスト
カジャの町の奥へ奥へと進むと、鉱山へ続く道へ出た。
守衛が見張りをしており、オイヴィと二言三言会話を交わす。
そして、俺たちはミスリル鉱山へと足を踏み入れた。
この場所は、オイヴィの許可がないものは、たとえ一国の主であっても踏み入ることは出来ない場所だ。
の、はずなのだが……
「おい。あれはなんだ?」
「……人、ですかね?」
「……オイヴィの知り合い?」
「見たこともない顔じゃのぅ」
「この男が、ミスリル鉱山に細工をしている魔導士なのだろうか?」
ミスリル鉱山の採掘場。その洞窟の入り口に、大の字になって眠りこけている男が一人いた。
俺たちはその男をぐるりと取り囲み、真上からじぃ~っとその寝顔を覗き込んでいる。
「とりあえず、踏むか?」
俺の提案に乗ったのはフランカとオイヴィだけだった。
ルゥシールとテオドラは「普通に起こしてあげた方が……」と、何とも生温いことを言っていたが、こいつは不法侵入者である。
おまけにどう見ても魔導士ですよと言わんばかりの格好をして、額に茶色い刺青までしているのだ。カタギさんであるはずがない。
ならば、それ相応の対応で十分だろう。
てわけで、踏む。
「せ~のっ!」
「……っごぉっ!?」
俺の合図で、一斉に横たわる男を踏みつける。
俺は顔面を、オイヴィ―は腹の一番柔らかいところを、フランカは……狙ったのか偶然か……かなり『危険なところ』を踏みつけた。全力で。
男の口から漏れたのは、悲鳴とも呼べない、潰れたカエルのようなうめき声だった。
…………潰れたか?
体をくの字に曲げ、地面の上でぷるぷる震えている男を見つめる。
と、男はガバッと顔を上げ、長い前髪の奥からこちらをきっと睨みつけてきた。
「お、お前っ……な、なんで、ここに、いる……!?」
「いや、それはこっちのセリフだろう。つか、お前誰だよ?」
「スルー……してよ! ……なんで、今回に限って……!」
「いや、お前だろ? ここでおかしなことしてたの。そりゃ見に来るだろうよ。で、お前誰なんだよ?」
その男は「わけ分かんない……わけ分かんないよっ!」とぼやきながら頭をガシガシと掻き毟る。
額の茶色い刺青がチラチラと見え隠れしている。
「なぁ、その額の刺青なんだ? 『肉』って字に見えるんだけど?」
「違う……全然違う……なんで、か、理解出来ない……あ、いや、まるで意味が分からない……うん、分からないよ! ほら、見てよ……あ、見るがいい……これを……うん、これを見るがいい!」
そう言って男は前髪を持ち上げ、おでこをフルオープンにする。
「これは、『アルド』……土を現す……刻印で……【魔界蟲】を使役するために……いる……あ、必要な……紋章で…………あ、いや、これは、言う必要ないか……うん、ないな……忘れて」
なんだか言っちゃいけないことだったのか、男は前髪を下ろすと急にそわそわと落ち着きをなくす。
見ていて気の毒になるほど狼狽えている。
「しょうがねぇな。じゃあ、その額の『アルド』って刻印が【魔界蟲】を使役するために必要なもんだってことは忘れてやる」
「あ、ありがと…………って、完全に覚えて……忘れてない……よね?」
何ともとぼけたやつだ。
しかし、【魔界蟲】なんて聞いたこともないが……
と、その男の背中から、見たこともない気味の悪い虫が首にまとわりつくように姿を現した。
「危ないっ!」
叫んで、俺はその気味の悪い虫を叩き落とす。
「あぁっ!?」
男はその虫に気付いていなかったのか、俺が叩き落とした虫を見て奇声を上げた。
なぁに、礼などいらんさ。この男はどこか憎めないすっとぼけぶりだからな。話せば仲良くなれるかもしれん。
「な、なにす……なに、……なにするんだよぉ…………っ!!」
しかし、男は折角叩き落とした気味の悪い虫を抱え上げ、抱きしめ、そして労わるようにぷっくり膨らんだ頭部を優しく撫でた。
「大丈夫、だったかい? ハロム……痛かったね……」
「はろむ?」
「この子の……いや、こいつはもう成虫だから、正確には『子』ではないけれど……でも、ボクにとっては、可愛い子供みたいなもので……いや、子供そのもので……け、結婚は、まだ、だけど……というか、彼女とか、いたことないけど……でも、子供で、だから……この子はこの子で……つまり、この子の、名前だよ、ハロムは……!」
もごもごと話す男を見て思う。
「はっきりしゃべれよ、イライラすんなぁ」
「もう少し、整理してから口にしてみてはいかがでしょう?」
「……コミュ障の典型」
「あの、諸君らは、歯に衣を着せるということを……いや、まぁ、別に構わないのだが……」
言いたいことは言うに限る。ため込むのはよくないからな。
っていうか、あの気味の悪い虫を飼っているのか? 名前まで付けて?
うわ、ないわぁ……絶対仲良くなれない。まず話が合わない。
「友達にはなりたくないタイプだなぁ」
「ご主人さん、そんな本当のことをはっきりと言うのは流石に気の毒では……」
「……二人きりだと会話が持たず、三人以上いると無視しても支障がないタイプ」
「だから、諸君らは…………いや、もう好きにすればいいのだが……」
「ヌシらは徐々に息が合ってきたの」
などと話をしている俺たちを、虫友くんは黙って睨みつけている。
会話に入ってこいよ。だから友達出来ないんだぞ?
「そうだろ、虫友くん?」
「ボ、ボクは、虫友くんという名じゃない……バプティストっていう名前が……あ、バプティストだ! って、言い切った方がいいのか……とにかく、友達とか……別に……一人の方が楽……あ、絶対いいし、人の顔色窺ってまで、無理して会話したく……ないし、四天王とも……特に会話したいとも……思わない……あ、思ってないし……」
「お前、四天王のバプティストってのか?」
「な、なぜ、それを…………!?」
おぉ、こいつはバカなのか。
「ご主人さん。四天王って、一体なんなんでしょう?」
「知らん。仲良し四人組みたいなもんだろう」
「……それはない。虫友くんに『仲良し』なんていない」
「いや、ワタシのような者にも、諸君らのように仲良くしてくれる者がいるのだ……彼にだってきっと仲良しはいるさ。例えば…………虫とか!」
「テオドラよ、ヌシの一言で虫友くんの寂しさが三割増しになってしもうたの」
「ボ、ボクは、ギルド四天王……あ、魔導ギルド四天王だ! ……あ、違った……魔導ギルド四天王が一人、土のバプティストだっ! あ、あと……四天王はみんな【魔界蟲】を使役しているんだ……ボクだけじゃない!」
バプティストの言葉に、俺たちは一瞬声を無くす。
……こいつは今、なんと言った?
「……あんな虫が四匹もいるのか?」
「虫友くんが他に三人もいるということですね……」
「…………虫友サークル」
「う、うむ……その集いには、流石のワタシも参加したくないな……」
「いやいや、ヌシらよ。ここで驚くべきは『魔導ギルド四天王』のところじゃろうて」
魔導ギルド四天王?
初耳だ。
「つまりお前は、バスコ・トロイの仲間ってことか?」
「違う……ボクたちは、この【魔界蟲】の力を得て……バスコ・トロイをも超えた……魔導ギルド最強の四人……」
「【魔界蟲】ってのは、そんなに強力なものなのか?」
「【魔界蟲】があれば、ボクは……あ、ボクたちは、自然界に干渉することが出来……魔法の威力も、発動速度も、飛躍的に上がる……つまり、ボクは……あ、ボクたちは……うん、そうだ……最強!」
「親切な方ですね。全部教えてくれました」
「はっ!? ……し、しまった……! 誘導尋問か……!?」
「……違う。あなたが単純にバカなだけ」
「まぁ、そう言ってあげるな、フランカ。彼は嬉しかったのだろう、久しぶりの、人間との会話が……それでつい、張り切ってしまったのだ。な、そうだろう?」
「うぅうう、うるさい……!」
何気に、テオドラが一番酷いことを言っているかもしれん。
しかし、バスコ・トロイをも超える自然界に干渉する力……危険だな。
「ルゥシール!」
「はいっ!」
俺の呼びかけに返事をしたルゥシールの姿が、次の瞬間に立ち消える。
そして、瞬きをするより速く、バプティストの目の前に接近し、肩に乗った気味の悪い虫をアキナケスで弾き飛ばす。
ガキィン! と、硬質な音が響き、気味の悪い虫・ハロムが吹き飛んでいく。
「あぁっ!?」
バプティストが驚愕の声を上げるが、その時にはすでに【魔界蟲】ハロムはミスリル鉱山入り口横の壁に激突していた。
鋭い破砕音が鳴り、山壁に穴が開く。
「……っつぅぅ……痛いですぅ」
俺の隣に戻ってきたルゥシールがアキナケスを握っている右腕を押さえ、涙目になっている。
【魔界蟲】ハロムは、相当硬かったらしく、勢いよく斬りつけたルゥシールの腕の方が痺れてしまったようだ。
「……追撃する」
言うなり、フランカが腕を伸ばし、魔法陣を展開する。
「 ウーリエ・ガズルエト――怒れる魂の咆哮、猛々しく誇る炎獄の支配者よ、弱きを蹴散らし強きを挫き、ボナコンの凶器を持ちて我が前に立ち塞がる駑馬芥を蹂躙しつくせ――アリコ・スフェラ! 」
フランカの手から拳大の火球が発射され、山壁の窪みへと襲い掛かる。
石と石がぶつかり合う音がして、爆発が起こる。
あれは、ジェナが使っていた魔法だな。フランカも使えたのか。
【魔界蟲】ハロムが激突した場所が黒く焦げ、もくもくと煙を上げている。
これで退治出来たか?
しかし、バプティストは余裕の笑みを浮かべている。
「さ、最初は……おどろ、驚いたけど……そんな攻撃じゃ……ハロムは、倒せない……」
そう言って、腕を水平に上げる。
真横に伸ばされた腕の影が地面に映り、その影の中から、あの気味の悪い虫が姿を現した。
【魔界蟲】ハロムは健在だった。
地面から涌き出た【魔界蟲】ハロムは「ギッ!」と嫌な音を立て、バプティストの腕へと跳躍する。異様に長い脚をバネのようにして跳ぶ姿もまた、気味が悪かった。
「やぁっ!」
ルゥシールも気持ち悪く思ったのか、すぐさま【魔界蟲】ハロムを剣で叩き落とした。
再び硬質な音が響き、ルゥシールが腕を押さえて涙目になる。
「……痛いです…………」
「学習しろ。な?」
アホのルゥシールは、たまに感情的に行動を起こしてしまう残念な娘なのだ。
「おまっ、お前っ! ……あ、いや、貴様! ボクのハロムに、これ以上、酷いことを……あ、無駄な足掻きは、やめろ……あ、やめるのだ! うん、やめろ!」
再び、【魔界蟲】ハロムが跳躍し、バプティストの肩にとまる。
あの虫、ルゥシールの攻撃がまるで通じていないようだ。
随分硬そうな殻をしているし……物理攻撃はあまり意味がないのか?
「こうなったら……ボクたちの恐ろしさを……見ろ……あ、見せてやる……!」
「テオドラ、オイヴィを頼む」
「心得た!」
バプティストが動きを見せ、俺たちは臨戦態勢に入る。
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」
空気が擦れるような微かな音が聞こえる。
高速詠唱だ。バスコ・トロイのものよりも速いかもしれない。
バプティストは、ボーっとした印象だが、魔法に関しては本当に一流なようだ。
高速詠唱の直後、【魔界蟲】ハロムが鈍色に輝き、地面へと吸い込まれていった。
穴を掘るでもなく、すっと溶けるように、地面へとその気味の悪い姿を隠す。
次の瞬間、地面が隆起し、地面の中から巨大なワームが姿を現した。手も足も顔もない、細長いミミズのような体。頭に当たる部分には巨大な口だけが存在し、鋭い牙を剥き出しにしている。細長いと言っても、体の太さは人間の大人と同程度はあるだろう。とにかく長い。真っ直ぐ伸ばしてみないと分からないが、おそらく、20メートルはあるだろう。
そんな気味の悪いワームの体表面はごつごつとした岩で出来ていた。ストーンワームだ。
そんなもんがいきなり地面から出てきた……いや、地面から出てきたのではない。地面がこいつになったのだ。
自然界に干渉する力とやらで、あの【魔界蟲】ハロムがこの山の地面をストーンワームに変質させたのだ。
「なんにしても、気持ちの悪い虫だな!」
ストーンワームは牙を剝き、俺に向かって突進してきた。
寸でのところでかわし、ストーンワームの自爆を誘ったのだが、激突するかと思われたその巨体は、音もなく地面へと飲み込まれていき、ルゥシールの足元から勢いよく飛び出してきた。
「ぅにゃあっ!?」
間一髪、ストーンワームの奇襲を回避したルゥシールが俺の隣へ戻ってくる。
「気持ち悪いうえに厄介ですね」
「あぁ。気持ち悪いくせに厄介だ」
何か対策を立てなければと思っていると、フランカが魔法陣を展開させた。
直径1メートルはある、大きな魔法陣だ。
「 ラーラバード・イープリアル――黒き焔、混沌の弔歌、冥界よりの使者、果てることなき魂の追従者よ、禍なる者を、仇為す者を、常闇の地へ引きずり込め、ガルラの名の許に光を奪い去れ――ゴヌーン・タァークル! 」
魔法陣から霧のような黒い影が、怨嗟の悲鳴を上げながら姿を現す。
『ぬぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁ…………っ!』
聞く者の心を蝕むような悲鳴を上げ、嘆きの表情を浮かべた黒い影がバプティストに襲い掛かる。
対象の心を挫く精神攻撃。
これを喰らった魔導士は、しばらく魔法が使えなくなるだろう。
心を蝕み、肉体にまで多大なダメージを与える、恐ろしい魔法だ。
が――
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」
バプティストは慌てる様子も見せず、高速詠唱で対魔法障壁を展開、ゴヌーン・タァークルを跳ね除けた。
そして、続け様に高速詠唱を行う。
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」
バプティストが指を向けると、地面から石の槍が四本飛び出し、フランカに向かって高速で発射された。
フランカは魔法を放った直後で無防備だ。
回避は不可能。
「させませんっ!」
その石の槍よりも早く、ルゥシールがフランカの前に割り込み、アキナケスでそれらを叩き落とす。
「……ありがとう、ルゥシール」
「どういたしましてです」
言葉を交わす二人を、巨大な影が覆う。
長い体を上空まで伸ばしたストーンワームがルゥシールとフランカに襲い掛かる。
が、それは俺が妨害する。
ミスリルソードをストーンワームの胴体に突き刺す。
そのまま一気に振り抜いて、1メートル弱ある岩の体を切断する。
地面に接した下半身から、完全に切り離された上半身が、重力に引き寄せられて落下する。
今度は土に潜ることなく地面へ激突し、もくもくと砂埃を上げる。
ってことは、こいつの本体、【魔界蟲】ハロムはこっち側にいるってことか。
俺の予想は当たりなようで、切断した下半身が蠢き出し、すぐに上半身が再生した。
元がこの山の土で出来た魔物だ。材料さえあれば何度でも再生してしまうのだろう。
厄介なパターンだな。
ストーンワームがミスリルで出来ていれば、『魔法剣』をを使って崩壊させてやれるのに。
そのための対策なのか、こいつの素材は。
「ご主人さん!」
「……【搾乳】!」
ルゥシールとフランカが俺のもとへと駆けてくる。
そして、俺を見るなり、同時に口を開く。
「わたしをドラゴンにしてください!」
「……私の魔力を使って!」
ほぼ同時に言葉を発した二人は、ほぼ同時に口を閉じ、ほぼ同時にお互いの顔を見た。
「……それは、また【搾乳】に破廉恥な行為をしろという催促?」
「さ、催促だなんて、そんな!? わた、わたしはただ、純粋に、あの厄介な敵を退けるには強力な力が必要だと思っただけで……! そ、そういうフランカさんこそ、ご主人さんに胸を揉んでほしいという催促なんですか!?」
「……バ、バカ言わないでちょうだい! わた、私は、あの敵を退けるには【搾乳】の強力な魔法が必要だと判断したまでで、それに、このさほど広くもない環境ではドラゴンは存分に暴れられず、また、被害が大きくなると判断した上での発言であって、【搾乳】に何か思うところなど微塵もないわ!」
と、二人が言い争っている隙に、ストーンワームが襲い掛かってきた。
俺たちは全員同時に飛び退く。
が、フランカの跳躍が少し足りない。
ストーンワームが地面に潜り込む際、フランカの足が石で出来た体に接触し、弾かれたように足首があらぬ方向へと曲がる。
「……ぁうっ!」
地面へ倒れ込み、足を抱えるフランカ。
「フランカさん!?」
ルゥシールが叫ぶ。
俺はフランカのもとへと駆け出す。
「……平気。この程度の怪我、すぐに……」
言いながら魔法陣を展開するフランカだが、ストーンワームはそれを待ってはくれない。
フランカのいる真下の地面が盛り上がる。
「危ねぇ!」
地面に持ち上げられていくフランカの腕を掴み、何とか抱き寄せる。
地面の中から出現したストーンワームの牙がフランカの足を切り裂く。血飛沫が飛ぶ。
「……あぁうっ!」
苦痛に声を漏らすフランカ。
間髪入れず、ストーンワームが俺たちに牙を剝く。
体勢が悪い。
これは避けられない。
咄嗟にフランカの胸を掴み、魔力を拝借する。
「……んふぅ…………っ!」
先ほどまでとは、質感の違う声がフランカの口から漏れる。
思わず視線を向けると、赤い顔をしたフランカが俺を睨んでいた。
「……見ないで」
そして、顎でストーンワームを差す。
さっさとやれと言うことだろう。
俺は借りた魔力を込めて手のひらをストーンワームに向ける。
巨大な口が迫り、今まさに牙が俺たちを貫こうとしていた……のだが。
突然ストーンワームが砂のように崩壊した。
次の瞬間、遠くから金属同士がぶつかるような硬質な音が響いてくる。
そちらに視線を向けると、バプティストを守るようにストーンワームが鎌首をもたげていた。
そこに対峙していたのは、テオドラだった。
「この石ミミズは、この男が操っているようだ! こいつを斬ればすべてが終わる!」
テオドラは声を張り上げ、そして二刀流の剣とカタナを振り上げる。
鋭く斬りつけると、ストーンワームが三つに分断され、崩れ落ちる。
「覚悟!」
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」
しかし、テオドラが切り返すよりも早く、ストーンワームが再生する方が早い。
テオドラの二撃目は、またしてもストーンワームを切断するにとどまった。
「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」
続けさまに、高速詠唱が行われる。
バプティストの前にストーンワームが出現し、ほぼ同時に、テオドラの足元から尖った岩が突き出してくる。
テオドラは後方へ飛ぶことで回避するが、テオドラを追うように地面から鋭い石の牙が突き出してくる。
「……倒すべきは、あの男」
「だな」
俺は、フランカを抱えたまま、借り受けた魔力でフランカの足に回復魔法をかける。
切り傷と骨折でぐちゃぐちゃになっていた足が元通りになっていく。
「……ありがとう」
「いや。もともとお前の魔力だしな」
どこか恥ずかしそうに言うフランカ。
しかし、こんなところをカジャの町民に見られたら……俺、血祭りに上げられるんじゃないだろうか?
いや、しかし、ヤツらも俺の説教で目が覚めただろう。きっと大丈夫だ。
……とは思うものの、なぜだろう、背中に嫌な汗が流れていく。……とりあえず、町の中でくっつくのはやめとこう。
「……くそ、……王子以外の仲間も……手強い……いや、まぁ、本気を出せば勝てるけど……でも、……安全策を取ろうかな……」
バプティストが呟き、突如ストーンワームが姿を消す。
巨大な石のミミズが砂粒となり地面へと降り注ぎ、完全に消失した。
「チャンスです! 行きます!」
地面を蹴ってバプティストに突撃するルゥシール。
超高速移動を先ほど使ったせいで、桁外れの速度は出ていない。が、見る見るうちにバプティストに接近していく。
「……【搾乳】、私たちも!」
「あぁ!」
下ろすタイミングを逸して、俺はフランカをお姫様抱っこしたまま走り出す。
フランカも俺の首に腕を回しているから、この体勢に不満はないのだろう。
「ワタシも、参る!」
そして、先ほどの攻撃で随分と後方まで下がらされたテオドラも走り出す。
バプティストがどんな魔法を放ってきても対処出来るように、俺はバプティストを睨みつけていた。
「えっ……ふにゃあっ!?」
と、視界の隅でルゥシールが転倒するのが見えた。
そちらに視線を向けたまさにその時、俺の足が急に重くなった。まるで鉄球でも取りつけられたかのようにピクリとも持ち上がらなくなった。
全速力で走っていた俺の体は途端にバランスを失い、前へとつんのめって、抱えていたフランカを放り出してしまった。
「……きゃあ!」
フランカらしからぬ可愛らしい悲鳴に続いて、地面に強かアゴをぶつけた俺の喉の奥から「おどぅっぶっ!」と、声にならない音が漏れた。
……死ぬほど痛い。
「なんだこれはっ!?」
テオドラの悲鳴にも似た声が聞こえる。
顔を上げようとしたら、首が悲鳴を上げた。
顔が地面に張りついて取れないのだ。
なんだこれ!?
無理矢理引き剥がそうともがくと、何とか顔だけは地面から剥がれた。
しかし、うつぶせに寝転がった俺の体は、完全に地面にくっつき、身動きが取れなくなっていた。
首だけを動かし、周りの状況を確認する。
遠くでルゥシールが、右肩を下にして、横向きに倒れている。
顔はこちらを向いており、とても困った表情を浮かべている。
大きな右の乳房も、地面にくっついてしまっているようだ。……左は無事か。
そして、テオドラは大きく足を広げた格好で、何とか倒れずに踏みとどまっていた。
なるほど。急に足が重くなったように感じたのは、ああやって足が地面に張りついたからか。鉄球どころじゃない。この世界が足に張りついていたのだ。
テオドラは何とか踏みとどまったものの、大股開きで、腰を反り返らせ、相当無理な体勢をしている。背を反らせているせいで、胸の膨らみが強調されている。
……うぅむ。やはりテオドラは結構あるんだな。
そして、フランカだが……
「……こ、こっちを見ないで」
どういう飛び方をしたのかは分からんが、俺に足を向けて仰向けに倒れていた。
大の字になり、手足は完全に伸びきっている。
そして、放り出された時にめくれてしまったのだろうが……フランカの黒いローブが大胆にまくれ上がり、真っ白な太ももが露出している。
左足が俺の顔面に触れそうな位置にあり、頭が一番遠くにある。
つまり、このまま顔を上向けて地面にくっつければ…………フランカのスカートの中が丸見え状態だ!
「うっ……腕の力が、そろそろ限界に……」
「……こっちを向いて倒れたら呪う!」
フランカにはよく言われる言葉だが……なんだろう…………今なら別に呪われてもいい気がする!!
「ご主人さん! どうか、理性を保ってください! 今現在、私たちは絶体絶命の大ピンチに陥ってるんですよっ!」
ルゥシールの声で俺は理性を取り戻す。
そうだ。このまま地面に張りついているわけにはいかないのだ……
「ふふふ……ハロムは、大地に干渉し、土を、好きなように変質させられる……お前……あ、貴様らはもう、逃げられない……ふふふ」
土を変質させて、こんな粘っこい物質に変えたってのか。
……嫌な力だな。
「さ、さぁ……どうする、王子…………?」
バプティストがおどおどと不敵な笑みを浮かべる。
……勝ち誇る時くらい、堂々とすりゃあいいのによ。
で、なんだっけ?
『どうする、王子?』って聞いたか?
んなもん、決まってんだろう。
俺は、決まりきった答えをバプティストに言ってやった。
それはもう、堂々と、胸を張って、絶対の自信をもって。
「テメェをぶっ飛ばす」
――と。
いつもありがとうございます。
四天王の土と言えば、バックアタック!(FF4が発売されたのってもう24年も前なんですねぇ……)
というわけで、不意打ち気味な四天王との遭遇です。
不意打ちを食らったのは四天王の方ですが……
そして、胸の有る無しがピックアップされがちな昨今ですが、
女性の魅力は決してそれだけじゃあない!
フランカは美脚設定なんです!
普段は長いローブに隠されていますが、
長く、程よい肉付きの、色白な太もも!!
スラリとしていながらもっちりとした質感の、頬触りのよさそうな太ももなんです!
そこからふくらはぎにかけての緩やかなスロープがまた……くぅ~
っ……いいんですっ!
いつか、この真っ黒シスターにミニスカートを穿かせてみたいものです。
いつか、きっと……
次回もよろしくお願いいたします!
とまと
 




