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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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64話 新たな火種

「おかしいのじゃ」


 夜、採掘場から戻ってきたオイヴィが首をひねっている。


 オイヴィが言うには、採掘場の土がおかしなくらいに硬くなり、掘れないのだという。

 つるはしやスコップを使っての土は掘れず、テオドラの剣も通用しないらしい。


「あれは、斬った先から高速で修復しているような、そんな手応えだった」


 テオドラは、その時の土の様子を振り返りそんな感想を漏らした。


「修復……ということは、またミスリルゴーレムをアルジージャに貸した何者かが関係しているんでしょうか?」


 アルジージャでの戦いが想起される。

 もしそうなのだとしたら、ミスリル鉱山すべてがゴーレムのような魔物になってるということか?

 だとしたらいつの間に……


「ミスリル鉱山がまるごと魔物化するなど、可能なのだろうか……」

「まぁ、無理だろうな」


 テオドラの問いに、俺は簡潔な解を明示する。

 無理だ。

 まず、ミスリル鉱山に細工をする意味がない。

 ミスリル鉱山をまるごと魔物化させて出来る工作と言えば、ミスリルの採掘を阻止するくらいのものだが、そんな巨大な魔物を操れる魔導士が存在するなら、直接こちらの命を狙った方がはるかに楽で確実だ。

 マウリーリオの技術だと考えるならば……ま、それもないだろう。

 山をまるごと改造するには、その山に色々な細工をしなければならず、そんな暇があったならば、もっと他の手が打てるはずだからだ。


「では、考えられるのは……?」


 テオドラが視線で俺に問いかける。

 そうだな……一番ありそうな可能性は…………


「そのミスリル鉱山に誰かが潜んでいる、ってことかな?」


 採掘しようとした箇所を硬化したり、斬られた場所を修復するだけなら、俺にでも出来る。


「しかし、不審な輩は見当たらんだがのぉ」

「ですね。ワタシも見ていません」


 現場にいた二人は不審な者を見ていないという。


「じゃあ、俺が行って見てみるか」


 ここで話していても埒が明かない。

 可能性は、考えればきりがないし、否定しようと思えばいくらでも出来る。

 現場を見て、何が可能で何が不可能かを見極めることが必要となる。


「あの、でもご主人さん……もう夜ですよ?」


 すぐにでも現場に向かおうと立ち上がった俺に、ルゥシールが心配そうに声をかける。


「明日まで待った方が……」

「いや、早い方がいいだろう。俺たちだっていつまでもここに留まるわけにはいかないんだし」

「でも、でもですね、……罠、ということはありませんか?」


 罠?

 俺が首を傾げると、ルゥシールは取り繕うように言葉を並べる。


「ですから、オイヴィさんたちに『あれぇ、おかしいなぁ』と思わせておいて、ご主人さんが『じゃあ、俺が見てくる』と鉱山に行くように仕向けて、それで、『ぐへへ、よく来たな! 実は罠だったのだ!』と、何かしらの巧妙な罠でご主人さんを亡き者にしようとしている魔導ギルドの関係者がいるかもしれないなぁ、と……」

「頭悪そうな刺客だな」

「……『実は罠だったのだ』は、ある意味親切」

「も、もう! そのあたりはどうでもいいんです! どうせわたしにはボキャブラリーがありませんよっ! 放っといてくださいっ! そうではなくて……!」


 そっと、ルゥシールの手が、俺の指先を摘まむ。

 不安の表れなのか、ルゥシールの指はひんやりと冷たかった。


「……あの、心配……なんです」


 不安げな瞳と、触れた指先が、俺の鼓動を速くする。

 昼間のことを思い出し、顔に血液が集まってくる。


 な、なんだよ?

 なんで急に心配なんかするんだよ?

 俺、今まで危なかったことなんか一度もないだろう?


「なんだよ、変なヤツだな。俺、これまで敵の罠にはまったことなんかあったか?」


 ほんの少し、ルゥシールの指先を摘まみ返す。


「マウリーリオさんの罠には、百発百中で引っかかってました」


 摘まみ返した指先を、さらに摘まみ返された。


「あれは、ウチのクソ先祖が嫌な性格だったからで……」


 負けじと、ルゥシールの人差指と中指を掴んでやる。


「ですから……今回も、そのマウリーリオさんの関係者が仕掛けた罠かもしれないじゃないですか……」


 ルゥシールの指が俺の手の中から逃げ、仕返しとばかりに俺の指を包み込んでくる。


「ちょっと様子を見に行くだけだ」

「そのちょっとが危険なんです」

「俺は、魔力が見えるんだぞ?」

「けど、ミスリルゴーレムの接近には気が付きませんでしたよね?」

「あれは突然だったから……」

「罠はいつでも突然襲い掛かってくるものなんです」


 手を掴まれ、掴み返し、さらに掴み返され、またやり返す……

 気が付けば、俺とルゥシールはがっちりと手を繋いでいた。


「……いつの間にそんな関係に……」


 ゆらりと、部屋全体に漆黒の影が舞う。

 発生源はフランカだ。フランカの背後からどす黒いオーラがもりもり立ち昇っている。


「あ、いや、これはっ!?」

「にょっ!? いつの間に!?」


 指摘されて、俺たちはつないだ手をパッと放す。

 知らないうちに繋いでいた。

 なんというか……デートの終わりに手を離した時に「あ、もう終わりなんだ」的な、妙に寂しい気持ちになったものだから……だから、まぁ、ついだな。つい。


「ほぅ。どうやら多少は進展したようじゃの、ヌシら」

「……ワ、ワタシが真面目に働いている間に…………不公平ではあるまいかっ!?」

「違う! そういうんじゃない! ちょっと町をぶらついていただけだし、何があったわけでもねぇよ!」

「そ、そうですよ! まぁ、ちょっといいことはありましたけども……」

「……その時私は、町民たちに崇め奉られていたわけね……」

「いや、崇め奉られていたのは俺たちのせいじゃねぇだろ」


 フランカの発生させた黒いオーラを換気して、話を再開させる。

 不機嫌なフランカを宥めるために、現在ルゥシールがフランカを腕に抱き髪の毛を撫でている。

 テオドラは、どこか不機嫌そうな表情を見せつつ、オイヴィに背をさすられている。

 そして俺は、どの女子にも近付かないようにと、部屋の隅へと追いやられた。

 ……何、この仕打ち?


「とにかく、過去千年間、このような事態は起こったことがないのでの、何者かの仕業であろことは間違いないじゃろう」


 オイヴィが改めて話を始める。

 これまで、ミスリルが奪われることはあっても、採掘を妨害されたことはないらしい。


「ルゥシールの言うように、罠である可能性も否定出来ないの」


 何者かが関与しているのであれば、その可能性は高いだろう。


「で、じゃ。ミスリルなら、アルジージャの元重役どもが隠しておったミスリルがワのもとへ返還されることになっておる。早ければ明日の夜には届くじゃろう」


 現在、カジャの自警団が運送部隊を組織して、これまでアルジージャがミスリルゴーレムを使ってくすねていたミスリルを採りに向かっているらしい。盗まれたミスリルはすべてオイヴィのもとへと運んでくれるそうだ。

 それがあれば、俺たちの武器は鍛え直してもらえるだろう。

 そして、それ以後しばらくの間、オイヴィは鍛冶をするつもりはないらしい。


「運送部隊を待てば、採掘場の異常現象は無視出来るんじゃが……ヌシよ、どうしたいかぇ?」


 オイヴィが、含みのある笑みをこちらに向ける。

「答えは既に決まっておるのじゃろう?」と、そう言われているような気分だ。

 まぁ、その通りなんだが。


 無視すれば楽だろう。

 が、明らかに俺たちに対する妨害工作を働いている何者かが存在するんだ。

 それを放置していいわけがない。

 何を企んでいるのかは知らんが……俺に喧嘩を売って無事で済んだヤツはいない。


「ぶっ飛ばしてやるさ」


 俺の返答に、オイヴィは満足そうな笑みを浮かべて大きく頷いた。


「なら、山への通行許可を出してやろう。ただし、自然の綺麗な場所じゃ。あまり破壊はせんでくりゃれの」


 オイヴィが認めた者以外、立ち入ることを禁じられた場所。

 さぞ綺麗な自然が残っているのだろう。

 なるべく破壊しないようにしたいな。


「で、今すぐ行くのかや?」


 オイヴィの問いに、「あぁ」と答えようとして……ルゥシールと目が合った。

 不安そうな目で、俺を見つめていた。

「じぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~………………っ」っと、見つめていた。

 …………そんな目で見んなよ。


「……あ、明日の朝にしようかな」


 俺がそう言うと、パッと顔を輝かせて、ルゥシールは嬉しそうな表情を見せる。

 まぁ、多少はゆっくりしてもいいか。


 ……今日はデートしかしてないんだよな。

 のんびりしてるよなぁ、ホント。


 ほんの少しだけ反省をしつつ、明日に備えて早く眠ることにした。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ごめんなさい、ご主人さん。

 わがままを言ってしまって……困らせてしまったでしょうか?


 でも……けれど…………


 今日は、ダメなんです。

 きっと、わたしは、今日、使い物になりません。


 思わずとはいえ、手を繋いでしまったわたしは……わたしの心臓は、どんなに頑張っても普通の状態に戻ってくれないんです。

 ご主人さんを見ているだけで、どきどきと胸が高鳴って……とても冷静ではいられません。

 時折、熱に浮かされたように周りの音が聞こえなくなり、ご主人さん以外何も見えなくなってしまう時があるんです。


 そんな状態では、いざという時にご主人さんを守れません。

 きっと足を引っ張って、ご主人さんに迷惑をかけてしまう。


 それよりなにより困った問題が……

 今、わたしは、ほんの少しでもご主人さんに触れると…………



 きゅんっ!



 はぅっ!

 触れることを想像しただけで、この有り様です。

 心臓が締めつけられて、どうにかなってしまいそうになります。


 もし、こんな状態で戦闘に入ったら……

 ご主人さんに魔力を分け与える際に、胸に触れられでもしたら…………


 死にます。

 確実に死にます。

 心臓が破裂して木端微塵です。


 流石のご主人さんもどん引きしてしまうに違いありません。


 無理です無理です。

 今は不可能です。


 ましてや…………ドラゴンの姿に戻らなければいけない強敵と遭遇してしまったとしたら………………



 きゅぃぃんっ!!



 はぅぅっ!!

 そんな敵が現れたら、アノ行為に及ぶ前から心臓が持ちません!

 想像だけで木端微塵です。

 戦ってる間中ずっと、心臓がきゅんきゅん言っちゃいます!


 そして、追い詰められて、いざアノ行為に及んだ場合…………



 わたしの心臓は、この星を巻き添えにして吹き飛んでしまうかもしれません。

 この世界の半分くらいは消し飛ばすほどの大爆発が起こるでしょう。

 想像だけでこの暴れっぷりなのですから。


 灯りの消えた部屋。

 オイヴィさんにお借りしている一室には、布団が敷かれ、わたしとフランカさんが並んで寝ています。

 フランカさんはもう眠っているでしょうか?

 静寂が部屋を包み、ともすれば、わたしの鼓動が部屋の外まで聞こえてしまいそうな気がして落ち着きません。


 今も、こうして瞼を閉じていると、ご主人さんの顔が浮かんできてしまうのです。

 そうして、想像の中だというのに……ご主人さんの顔を見るだけで、切ないため息が漏れるのです…………


「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっふふっふふっふふっふふっふふっふふふふふふふふっ」

「……ルゥシール、何事?」

「ほにゃっ!? お、起こしてしまいましたか!? き、気にせず寝てください」

「……気にせずって……難しいことを要求するのね」

「大丈夫です。もう、声を出しませんから。わたしも、もうすぐに寝ますから」

「……そう。じゃあ、おやすみ」

「はい。おやすみなさい」


 ……危ないところでした。

 こんな気持ちでいることを、誰かに知られたらわたしは終わってしまいます。

 わたし終了のお知らせです。


 やはり、今日のわたしは普段通りのわたしじゃありません。

 もう眠りましょう。

 そして、明日の朝にはいつものわたしに戻りましょう。


 だから……今日だけは……

 今晩、一晩眠れば、きっと元通りになっていると思うんです。


 寝て起きれば、元通りに…………だから、それまでは…………わがままを言って、すみません、ご主人さん……


 ご主人さん…………


「うふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

「……ルゥシール?」

「はぅっ!? ごめんなさいですっ!」


 フランカさんが暗闇の中、こちらをじぃ~っと見つめていたので、わたしは大人しく眠ることにしました。

 眠るまで、じぃ~~~~~~~~~~~~っと見つめられ続けていました。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 カジャの町に接するようにそびえる大きな山脈。

 その中の一つは、良質なミスリルが採れるということで部外者の立ち入りがきつく禁止されている。

 その採掘場に、一人の男が佇んでいた。


 長い前髪のせいで目が隠れている。

 額には茶色い刺青が施されているが、滅多に人目に付くことはない。

 青年は一人、暗闇に包まれる山の中で空を見上げていた。


「やっぱり……うん、王子は……直接的な……あ、以前直接的な妨害でも無視されたんだけど……それ以上の……えと……つまり、あの……目の前に敵が現れるくらいのことがないと……ボクたちとは……戦ってくれない……あ、戦わない……のかな?」


 答えるものが誰もいない山の中で、魔導ギルド四天王の一人、土のバプティストは呟く。


 以前、四天王全員で王子抹殺計画を実行し、華麗にスルーされた苦い経験があり、今回もきっとスルーされるのだろうなと、半ば確信めいたものを感じている。

 なにせ、自分は、総スルーされた四天王の中で最も影の薄い『最薄』の存在なのだ。それくらいは自覚しているし、自分の人生はこんなものだと達観している。悟りの境地である。


「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」


 高速で詠唱を行い、極限まで細く光を収束させた魔法陣に魔力を送り込む。

 太陽の下では、その極限まで収束された魔法陣は視認出来ないかもしれない。クモの糸のように細く、そして強力な魔法陣だ。


 魔法陣が鋭い光を放つと、何もない地面から一匹の『蟲』が姿を現した。


【魔界蟲】と呼ばれるその蟲は、四天王のもつ最強の武器であり、切り札でもあった。

 魔界から召喚し、自分たちが自由に使えるように調教した魔物の一種。

 対象物に憑依し、自身の魔力を吐き出す性質を持つ特異な魔物。

 扱うには相当量な魔力と、強靭な精神力が必要とされるが、【魔界蟲】を自在に操れるようになった者は、かつてない強大な力を手に出来るのだ。

 その力で四天王は、魔導ギルドを牛耳っていたかつての幹部たちを圧倒し、トップの座を実力で奪い取ったのだ。

 この【魔界蟲】こそが、彼ら四天王のすべてと言っても過言ではない。

 これさえあれば、悪名高い【搾乳の魔導士】ことマーヴィン・ブレンドレルにすら勝てる。負けるはずがない。そう自負している。


 ……相手になってくれさえすれば。


「今回も……だぶん…………スルーされるんだろうなぁ……」


 容姿の醜い【魔界蟲】だが、自分によく懐いているこの相棒を、バプティストは可愛がっていた。

 膝に抱き、冷たく硬い外殻を撫でてやると、「キシィシィッ」と、牙をこすり合わせて鳴く。それがまた、たまらなく愛おしいのだ。


 異様に長い六本の足。

 ぷっくりと膨らんだ巨大な頭部には、太く強靭な二本の牙が生えている。

 小さい瞳は黒く、まん丸で愛嬌があると思える。

 胸と腹を合わせて頭部と同じ大きさという不均一なバランスも、慣れれば愛くるしくさえある。

 羽はなく、移動は遅い。

 基本的に腕に張りついているだけで移動はめったにしない。

「こいつは、俺がいなきゃダメなんだ」と思うと、愛情を惜しみなく注がずにはいられない。


 そんな愛くるしい相棒を撫でて、バプティストは、誰も来ない漆黒の闇の中、寂しさを紛らわせて眠りに就くのだった。


「…………来ないんだろうな、王子……たぶん…………まぁ、いいけど……あ、よくないか……うん、よくないな…………おやすみ」




 それぞれの思惑を抱きつつ、夜は更けていく。






いつもありがとうございます。


今回は、

ご主人さん「俺に喧嘩を売って無事で済んだヤツはいない」

読者諸氏「お前、四天王無視したやんけー!?」


というお話でした。


というわけで、

いよいよ出てきました四天王!


バスコ・トロイ以上の力を持つ四人。

当然、バスコ・トロイが使った高速詠唱などお手の物です。

さらには、【魔界蟲】を使役して……


どんな戦いになるのか乞うご期待!

(お、なんか、普通に予告っぽい!)


今度の戦いは、誰のおっぱいを揉んで勝利するのか!?

(あ、やっぱりいつも通りだ……)



次回もよろしくお願いいたします!


とまと


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