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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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61話 カジャの町 入門待ち

「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああーーー!?」


 カジャの町に着いた俺は、絶叫した。

 町の入り口に全長10メートルにも及ぶ、巨大なミスリル像が建っていたのだ。

 流石ミスリル鉱山と鍛冶の町。その技術は大したものだ。


 大したものなのだが……そのミスリル像のモデルが…………


「ご主人さん、これって…………ドーエンさん、ですよね?」

「あぁ、どう見てもドーエンだな」

「……オルミクル村のギルド長……いや、変質者」


 おい、フランカ。なんで言い直した?

 まぁ、間違ってないから訂正はしないけれど……


「なんじゃ、ヌシら、あやつを知っておるのかや?」


 誠に遺憾ながら、顔見知りだ。

 物凄く遺憾だがな。


「なんでこんな縁起でもない物が町の入り口に……」

「なに。そやつが重役どもからカジャの町を解放してくれた英雄じゃからの。敬意をこめて長老が建てさせたんじゃよ。むろん、反対する者はおらなんだがの」


 幼い子供を奴隷としてこき使い、そして幼女に酷いことを繰り返していたウジンたち。

 そんな現状をあの重度のロリコン末期患者が目撃すれば……どうなるかなど、考えるまでもない。

 ウジンたちが『悪魔』と呼ぶのも頷ける。

 そして、その『悪魔』がブチ切れた原因である『胸がぺったんこな女』に激しいトラウマを抱くのも納得出来るというものだ。

 まさかとは思うが……ドーエンが【暴走原始人】なんて二つ名を獲得したのは、この時なんじゃないだろうな?


「凄まじかったぞ、その男は。鍛冶場にあったミスリル製の武器を備えた兵団に安物の武器で挑み、その武器が壊れるや、素手で暴れ回ったのじゃからな。見ていて胸がすく思いじゃったわ」


 確定だな。


「その日から、こやつが世間様になんと呼ばれておるか知っておるかや?」

「たしか、【つるぺたハァハァ】だったかな?」

「おゃ? 今はそう呼ばれておるのかぇ?」


 あぁ。俺はそう呼んでいる。むしろ、今後積極的にそう呼んでいく。


「あっ! オイヴィ様っ!?」


 突如、そんな叫びにも似た声が聞こえてくる。

 見ると、門の守衛がこちらに駆けてくるところだった。


 カジャに向かう途中でキャラバンに合流した俺たちは馬車に乗せてもらいここまで来ていた。が、税金関連のややこしい手続きがあるキャラバンとは門の前で別れていたのだ。

 最初から、同乗するのはこの町までの約束だったからな。


 カジャの町は高い外壁に囲まれた大きな町で、町の入り口には立派な門を構えている。

 そこには守衛が張りつき、出入りする人間を厳しくチェックしたり、税金を取ったりしているようだ。

 ミスリルを扱う町なら、当然の警備だな。


 俺たちは、キャラバンとは離れて入門の申請を行い、許可待ちをしていたところだ。

 そこへ、守衛がやってくる。

 身に着けた鎧に豪奢な勲章が付いているところを見ると、それなりの権力者か? 随分若いけれど。おそらく、十七~八というところだろう。


「この門を守護する守衛長じゃよ」

「えっ!? あの若いのが!?」

「老人と大人が追放されたこの町を発展させたのは、あやつら幼かった子供たちなんじゃ」


 オイヴィの話によれば、町の大人たちはほぼすべてカジャを追放され、残ったのは子供たちだけだったらしい。最年長でも十二歳ということだ。

 しかし、採掘から鍛冶の技術を身に着けていた子供たちは自分たちでカジャの町を盛り立て、ほんの数年で以前以上に町を発展してみせた。

 その際、オイヴィやドーエンといった協力者の存在は大きかったのだろうが、大したものだ。

 やっぱり、手に職をつけておくのって大事なんだな。


「ご無事でしたか、オイヴィ様!」

「うむ。心配をかけたようじゃの」

「はい。町の者もみな心配しておりました」


 泣きそうな表情を浮かべ、守衛長がオイヴィを見つめる。

 が、次の瞬間にはその視線は鋭く尖りテオドラを睨みつけた。


「よくものこのことこの町に戻ってこられたものだな」

「……ワタシは…………」

「これ、守衛長。ワの大切な友人に辛く当たらんでくりゃれや。今回の件、テオドラに責はないぞぇ」

「しかし、この乳腫れ女が来なければオイヴィ様は……!」

「むしろワは感謝しておるのじゃ。テオドラがおらなんだらワは今頃この世におらんやったかもしれんからの」


 この世にいなかった、というのは大袈裟だろうが、オイヴィがテオドラを大切に思っているのは確かだ。

 って、それよりもだ!

『乳腫れ女』ってなんだ!?


 オイヴィに諭され、守衛長は不承不承テオドラから視線を外す。

 そして、今度は俺たちへと視線を向ける。


「貴様は何者だ?」

「俺は……」

「ワの知り合いの子じゃ。ワが長年会いたいと思うておった小僧での。出来れば融通してやってくれんかや?」

「……オイヴィ様がそうおっしゃるなら」


 俺が口を開く前にオイヴィが話をつけてしまった。

 相当重要な人物なんだな、この幼女は。

 そんな幼女がしばらくの間行方知れずになったのだ。守衛が警戒を強めるのも無理からぬことか。

 だとすれば、オイヴィが口を利いてくれてよかったのだろう。これ以上もなきコネクションだ。


 そんな俺の心の内を知ってか知らずが、守衛長は「まだ完全には信用していないからな!」とでも言いたげな鋭い視線を向けてくる。

 そして、俺の隣に視線を移し、くわっ! と、目を見開いた。

 顔面に熱が集まり、額には血管が浮かび上がって……憤怒の表情を露わにする。


「貴様っ!」

「ふぇっ!? わ、わたしですかっ!?」


 突然槍を向けられたルゥシールが驚いた声を上げる。


「なんだその乳はっ!? どうなっているんだ!?」


 この子は、大声で何を言っているんだろう? こんな、人が大勢いる町の門の前で。

 まぁ、ルゥシールの胸がどうなっているのかは、俺も非常に興味のあるところではあるけれど。


「どういうつもりでそんなに腫らせているのだっ!? 我々に対する宣戦布告かっ!?」

「ど、どどど、どういうつもりも何も……自然とこんな感じにですね……」

「悪魔の申し子かっ!?」

「胸一つで悪魔認定ですかっ!?」


 この守衛長は巨乳に恨みでもあるのか?

 両親が巨乳に押し潰されて死んだりしたのか?

 ……何その死に方っ!? 俺の人生、そんな終わり方がいい!


「これ、落ち着かんか守衛長。すまんなルゥシールよ。こやつらは【英雄】の価値観を絶対的な正義として信じ込んでおるのじゃよ。少し度が過ぎておるが、よく言い聞かせておくゆえ、許してやってくりゃれ?」


 オイヴィは守衛長の持つ槍を手で下げさせ、守衛長とルゥシールの間に体を割り込ませるように立つと、「この通りじゃ」と深々と頭を下げた。

 自分の行動によってオイヴィに頭を下げさせてしまった守衛長は大いに慌て、オイヴィに取り縋る。


「オイヴィ様、おやめください! そのような真似は……!」

「ここにおる者はみな、ワの大切な客人じゃ。失礼があってはワの顔が潰れてしまいんす」

「わ、分かりました! すべての非礼をお詫び申し上げます! 町の者にも、そのように伝令を出します! ですから、頭をお上げください!」

「うむ。よしなに頼むぞぇ。大至急の」


 守衛長が笛を吹くと、門の隣にある小屋から二人の守衛が現れる。

 守衛長の指示を受けると、ピシッと敬礼をして、町の中へと走っていった。

 彼らもまた若そうに見えた。十二~三歳くらいか。


「最長老にも伝令を出しました。これで、町の中で問題が発生することはなくなると思います」

「うむ。あとで顔を見せに行くとしようかの」


 とりあえず、これで俺たちが町の中で絡まれることはないらしい。


 ……というかだな。


「お前らは勘違いしてるようだが、ドーエンのジジイは巨乳も大好物なんだぞ?」


 オルミクルのギルドでルゥシールの巨乳を凝視していたジジイの顔を思い浮かべる。

 あれは、巨乳嫌いの見せる表情じゃない。


「貴様っ! 我らが【英雄】を愚弄する気か!?」

「ご主人さん、彼らが【英雄】と崇める人に対して、『ジジイ』はマズいですよ!」

「そうか?」

「そうですよ!」

「我らが【英雄】が巨乳などという下劣なものに興味を持たれるはずがない!」

「そっちですかっ!?」

「【英雄】のつるぺた信仰は絶対だ! 不可侵なのだ! 揺るがない、世界の真理なのだ!」

「……物凄い信頼ですね。ドーエンさんのご病気」

「疑いようのないロリコンだと、第三者がこうまで強く証言してるんだもんな」


 まぁ、確かに。

 巨乳の周りにつるぺたがいれば、巨乳になど目もくれなかった可能性はあるな。

 この町は子供だけしかいなかったらしいし……巨乳の出る幕などなかったのだろう。


「……アルジージャでの私への反応も、カジャでのルゥシールへの反応も、すべてあの変態の責任…………今度会ったら消し炭にしてやる」


 フランカが暗黒のオーラを放出させる。

 アルジージャで浴びせられた罵声に関して、いまだに腹に据えかねているらしいな。


 と、そんな邪悪モードのフランカを見つめる守衛長に異変が起こる。


「は、はぅっ、はゎっ、はっ、はっひっ、はぅはふはぅわぅ…………」


 呼吸困難に陥ったように口をパクパクと動かし、体は硬直したように固まり、全身から大量の汗が噴き出している。

 なんだ? どうした?

 ルゥシールとの胸偏差値の落差に同情でもしているのか?


「なんて美しい女性なんだっ!?」


 叫ぶや、俺とルゥシールを押しのけて、守衛長はフランカの前に片膝をついた。そして、フランカの手を両手でそっと掬い上げる。


「……な、なに?」

「自分は、あなた様のように美しい女性を、これまで見たことがありません! いや、こうして目の前にしてもなお、信じることが出来ません! なんと美しく、神々しい……」

「……え、いや、あの…………」


 突然の大絶賛に、フランカが纏っていた邪悪なオーラは霧散してしまった。

 頬にほんのりと浮かぶ薄紅色は、照れというよりも戸惑いの表れだろう。


「…………こ、困る」

「あっ!? これは、いきなり不躾な真似を……失礼いたしました!」


 フランカが手を引くと、守衛長は慌てて立ち上がり、深々と礼をした。九十度を余裕で超える百二十度近いお辞儀だ。


「是非、お名前をお聞かせ願えませんか!?」

「これこれ、ワの客人をかどわかすでない」

「そ、そんなつもりは……っ!? 自分はただ、このような美しい女性に巡り会えた幸運に感謝し、願わくばお近付きになりたいと……!」

「それがかどわかしておると言うのじゃ。ほれ見ろ、困っておるではないか」


 オイヴィの言うように、フランカは非常に困っていた。

 どう対処していいものか迷っているのだろう、俯き、触れられていた手をこするように握っている。

 そして、ちらちらと俺の方を窺ってくる。

 俺の意見を仰ごうってのか?


「まぁ、名前くらい教えてやればいいんじゃないか?」


 俺が言うと、フランカの視線が一瞬鋭くなる。

 ……その一瞬で殺されるかと思った。スゲェ寒気が背中を駆け抜けていった…………なんで?


 鋭い視線を逸らすと、フランカは「ぷくぅ~っ!」と頬を膨らませ、「……ふん!」とそっぽを向く。……なんだよ?


「……ご主人さん…………ダメですよ、ちゃんと気付いてあげないと」


 ルゥシールが、俺を困った子を見るような目で見てくる。……だから、なんだよ?


「そ、それでは、お名前を伺っても!?」


 喜色満面で、期待を表情ににじませる守衛長。

 フランカはもう一度俺の顔を横目で窺ってくる。

 なんだよ? なんで俺を見る?


「…………【搾乳】、後で話がある」


 えぇ…………なんで怒ってるのぉ?


 俺を睨み、頬を膨らませ、不機嫌そうな顔をした後、フランカは目の前でわくわくと瞳を輝かせている守衛長に向き直り、伏し目がちに呟いた。


「…………フランカ」

「フランカさんか…………いい名だ」

「……そう」


 そして、再び俺をチラリと見る。

 ……なんだよ?


「………………呪う」


 だから、なんでだよ!?


「ご主人さん……残念です」


 だから、お前もなんでだよ?


「ほほぅ。おもしろいことになっておるのぉ」


 そして、相変わらずオイヴィだけが楽しそうに微笑んでいる。

 なんだかなぁ。


「……君」


 そっと、テオドラが俺の背後に近付き、耳打ちをしてくる。


「見ず知らずの男に、自分の連れ……特に異性の仲間が声をかけられているのだ。ヤキモチを焼く素振りでも見せてやってはどうだ?」


 俺がヤキモチを?

 フランカに?


「……なんで?」

「…………君なぁ…………」


 テオドラがやれやれと首を振る。


「もし、フランカがあの守衛長といい関係になって、仲間を抜けると言い出したらどうする気なのだ?」

「はっはっはっ、そりゃ有り得ねぇよ」


 フランカは俺の仲間をやめない。

 恋だ愛だで仲間を抜けるほど、フランカは薄情者ではないのだ。

 そもそも、あんな守衛長に、フランカが惚れるわけがない。


「……信頼しているならしているで、そういう素振りを見せてやらねば、不安になってしまうものなのだぞ、女という生き物は」

「お前もそうなのか?」

「ワタッ!? ワタシのことはどうでもいいのだ! とにかく! フランカが少し不安がっているのが見て分かるだろう? ヤキモチでなくとも、信頼の言葉でもいいから、一声かけてやってはくれまいか? 見ていて不憫になってくる」


 そんなものなのか……


 とりあえず、俺がフランカを信頼しているってことを言葉にすればいいんだな?

 じゃあ……


「フランカ」

「……な、なに?」


 フランカの名を呼ぶと、少し期待するような瞳がこちらを向く。

 じぃっと、熱い視線が注がれる。

 その期待に応えるように、俺はフランカに言葉をかけてやった。


「お前のツルペタはマニア受けするって、俺は信じてたぜ!」



 ピシィィ……ッ!


 ――と、世界が割れるような音が聞こえた、気がした。

 なんとなく、空間が歪んだような……空気が重いような……世界が薄暗くなったような、そんな錯覚に陥る。


「………………ありがとう……と、言えば満足かしら?」


 フランカの声が、深ぁ~い沼の底から響いてくるように鼓膜に届く。

 …………あれ?

 俺、何かマズいこと言ったか?


「…………【搾乳】…………」

「……はい」


 フランカはそっと俺の手を取り、手首をギュッと握りしめると、反対の手のひらを俺の顔面へと突きつけた。


「……呪う」


 そして、物凄い早口で詠唱を始める。


「 ラーラバード・イープリアル――黒き焔、混沌の弔歌、冥界よりの使者、果てることなき魂の追従者よ…… 」

「おぉい、やめろやめろ! お前、それゴヌーン・タァークルじゃねぇかよ!? デリックがスゲェ絶叫を残して意識不明に陥った呪いの魔法だろ!?」

「……大丈夫…………絶対逃がさないから」

「何が大丈夫なのか、さっぱり分からん!?」


 俺は助けを求めようと仲間の方へ視線を向ける。


「くふふ……ほんに不器用な男じゃの、小僧は」

「……今の発言は、ワタシでもフォローしかねるぞ」


 オイヴィは楽しそうに、テオドラは疲れきったような顔で俺を見ていた。

 そしてルゥシールは……


「ご主人さん…………残念です」


 心底呆れ返った様子でため息を吐いた。


 おぉう!?

 味方がいない!?


 仕方なく、本当に仕方なく、俺はフランカの胸を揉みしだいて魔力を根こそぎ吸収し尽くして難を逃れたのだが……その後で余計に怒られることになった。それも女子四人総出で、寄ってたかって。


 門の前の硬い砂利道に正座をさせられ、大勢の観衆に晒されながら、俺は小一時間説教を食らったのだ。


 カジャの町に入ったのは、日が傾きかけた頃、町の中から夕飯のいい匂いが漂い始める時間になってからだった。



……俺、何か悪いことしたんだろうか?








新年明けましておめでとうございます。


本年も相変わりませぬご贔屓のほど、

よろしくお願い奉ります。


ご来訪いただいた皆様の、

『初おっぱい』が今作であったならば、恐悦至極、

この上もない幸せにございます。


今年も縦にも横にも揺れる彼らの冒険譚をご笑覧くださいますよう、

心よりお願い申し上げます。



本年が皆様と私と今作にとって素晴らしい一年になりますように。


今年も頑張ります!


とまと

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