53話 別行動 ※クリスマスイヴ特別ショートショート付
苦労して手に入れた『恐れの森』の木材を使い、壊れた車輪を何とか修復し、馬車は広大な平野を抜けた。
修復したと言っても、乾燥もろくにさせていない生木を削って軸に使用している応急処置であり、はっきり言ってその場しのぎの間に合わせだ。いつまでも持つわけがない。
どこか近場の町か村にでも寄って本格的な修理が必要になるだろう。
「カジャの前にアルジージャに寄るか……」
今後の方針を決めるミーティングで、商隊長が渋い顔で意見を口にする。
その言葉に、ミーティングに参加していた構成員たちが揃って渋い表情を見せる。
「アルジージャって、どんなところなんでしょうね?」
「さぁな。聞いたこともない名前だな」
「……けれど、みんなの顔を見る限り、あまりいい場所ではなさそう」
ミーティングの輪の隅っこに、俺たちは陣取り固まって座っていた。
平野を抜けたあたりで車輪から異音がし始め、急遽本日はこの場所でテントを張ることになった。
土が顔を出し、大きな岩が散見される大地は、野営にはもってこいかもしれない。
平野を抜けた先は岩肌が覗く高山地帯だった。
気付かないうちに、徐々に登ってきていたようだ。岩肌が目立ってきたと思ったら、突然眼下に崖が広がっていた。かなり高い。
連なる山々が遥か彼方に見える。
ずっと下の方に街道らしきものも見受けられる。
崖を超えれば、割と栄えた町にたどり着きそうな雰囲気がし始めていた。
と、いうところで今日の移動は打ち切られた。
車輪がもう限界なのだ。
途中から凄まじい音を上げて馬車の荷台がガタガタと揺れ始めたもんな。
少しでも負荷を減らそうと、しばらくの間、俺と数人の乗客は馬車を降り、速度を落とした馬車の隣に並んで歩いたほどだ。ガタガタと激しく上下する荷台に座ったルゥシールの、暴れ狂う腕白おっぱいを目線やや上程度のベストポジションで楽しみながら。
気が付いた時には、ルゥシールとフランカを除く全乗客が荷台を降りていた。
女性に席を譲るジェントルマンを気取ったド変態どもめ!
あれは俺のだからな!
まぁ、こんな大勢の前では言わないけども。
そんな経緯もあり、少し早いが野営の準備に取りかかることになった。
その間に、商隊の幹部が集まってミーティングをしているというわけだ。
『恐れの森』での活躍から、俺たちもミーティングへの参加を求められていた。主に、対魔物用の安全確保係りとして。
「アルジージャっていうのは、今目指しているカジャの町から独立した……というか、捨てられた者たちが作った村でね……」
商隊長が俺たちに向かって説明をしてくれる。
捨てられたとは穏やかじゃないな。
「十年前になるかな? カジャの町でちょっとした事件があってな。その時に町を追われた者たちが、そのアルジージャの住人なんだが……なかなか面倒くさい連中でなぁ」
商隊長は非常に分かりやすい男だ。
アルジージャの連中が相当嫌いなのだろう。顔が盛大に歪んでいる。しかめっ面のお手本みたいな表情だ。
「カジャと確執があるから、カジャとの取引をしている俺たちを嫌ってるってのもあるが……なんつぅか…………被害者意識の塊みたいな連中でな……」
アルジージャは、この場所から一日半の距離にあるらしく、カジャはそこからさらに三日ほど進んだ先にある。
カジャに関しては俺も聞いたことがあり、その存在を知っていたが、アルジージャという村は初耳だ。
十年前のカジャでの事件というものにも覚えはない。
十年前というと……俺が魔界から帰ってくるちょっと前くらいか……じゃあ、知らねぇよな。
「車輪が持つようならアルジージャは飛ばしてカジャに直接向かいたいんだが……」
馬車の車輪は、もうすでに限界に達していた。
ただでさえ、徒歩の速度に合わせて大幅に時間をロスしているのだ。これ以上の遅延はキャラバンの信用と売り上げに関わる。最悪、存続すら危ぶまれかねない。
「俺たちがアルジージャに行って、軸に使えそうなものを手に入れてこようか?」
「おぉ、そうしてくれるか!?」
俺の申し出に、待ってましたとばかりに商隊長が飛びつく。……ま、これしかないからな。
キャラバンの構成員ではない、加えてアルジージャが何の感情も抱いていない俺たちがアルジージャに向かうのが最も安全で効率的だ。
その間、キャラバンの連中は低速ながらも先へと進んでもらう。
車輪の軸に使えそうな素材を手に入れたら俺たちも徒歩でカジャを目指し、やがて合流する。
馬車は連続走行に耐えられそうにない。休み休み移動することになるだろう。
それなら、寄り道をした後、徒歩ででも追いつける計算だ。
「硬い木か、出来れば鉄の棒を手に入れてきてくれ。アルジージャは元々カジャの職人だった者たちが多くいる村だ。鍛冶は盛んなはずだから、いい品が手に入るかもしれない」
カジャでは鍛冶が盛んで、ブレンドレル国最大の技術を誇っている。
そして、カジャの町の背後には、巨大なミスリル鉱山が控えているのだ。
ミスリル鉱山と鍛冶の技術で、相当金をため込んでいるはずだ。
にもかかわらず、カジャは町を広げることも、移民を受け入れることも頑なに拒んでいる。
ミスリル鉱山もほぼ独占状態だ。
そのため、資金と技術と発言力は相当なものを持っていながら、町としての規模は極めて小さい。
このようなキャラバンに物資を運んでもらわなければいけないほど、流通の便が悪い。
実によく分からない町だ。
「聞いた感じですと、カジャって町もあんまりいい印象がないですね」
「……職人の町なんてそんなもん」
フランカの言う通りだ。
職人で、しかも下手に歳をとっていると厄介この上ない。
頑固ジジイの相手は、誰だってしたくないだろう。
カジャにアルジージャ。
どちらも、そういう石頭が跋扈している、煩わしい場所なのかもしれないな。
「それじゃあ、これは軸の代金だ。足りなければあとで請求してくれ、不足分を支払うからよ」
商隊長から代金の入った革袋を受け取る。
ずしりと重い。
車輪の軸ってのは、そんなに高価な物なのかねぇ。
「で、俺らを信用していいのか? 金を持って逃げるかもしれんぞ?」
キャラバンの構成員には、各々仕事があり、誰も俺たちには同行しないのだという。
「なぁに、心配ないさ」
商隊長は見てるこっちが晴れ晴れするようなカラッとした笑みを浮かべて豪快に言い放つ。
「あれだけのドラゴンの群から俺たちを逃がしてくれたんだ。これであんたを信用出来なきゃ、俺たちは商人じゃねぇや」
他の構成員たちも同じ意見のようだ。
そういえば、カイルの姿が見えないが……寝込んでいるのかもしれないな。
ルゥシールのこともあるし、会うのはやめておこう。
「んじゃ、いっちょお遣いに行くとするか」
「はい!」
「……久しぶりにベッドで眠りたい」
ミーティングを終え、俺たちは荷物をまとめてキャラバンを離脱する。
キャラバンの進行ルートと、アルジージャまでの道順を書き記してもらったフランカの地図を手に、俺たちは徒歩でアルジージャを目指す。
俺たちとは違うルートで山道を迂回していく馬車がやがて見えなくなるころ、俺たちはかなり険しい崖を下っていた。
「フランカさん、大丈夫ですか?」
「……平気。いざとなったら【搾乳】の上に落下する」
「顔面でお尻を受け止めるぞ、コノヤロウ」
「……最低」
いや、お前だろう、最低の発言をしたのは。
なのに、ルゥシールも俺を非難がましい目で見てきやがる。
腑に落ちない。
傾斜40度、高さ30メートル程度の崖にへばりついて、ゆっくりゆっくりと下降していく。
荷物はルゥシールが背負っている。……力持ちだなぁ。
崖を降り始めて三時間ほどが経ち、残りはまだ半分以上もある。
かなり蛇行しながら、休憩を挟みつつ移動していく。
俺とルゥシールはこの程度の崖なら余裕なのだが、やはりフランカがネックとなった。
現在はフランカに合わせた速度で降りているのだが……こんなに遅いと、キャラバンに追いつけなくなってしまうな。
なにより、フランカの手足がそろそろ限界に来そうだ。プルプル震えている。
「フランカ。抱っこしてやろう」
「……ふぁっ!?」
つむじから抜けたような、甲高い音を発し、フランカの頬が赤く染まる。
「少し急がないと日が暮れちまう。俺がお前を抱えて降りる」
「…………足手まといで、ごめんなさい」
「いや、こういうのはしょうがないだろう。得手不得手ってやつだ。気にすんな」
「……うん」
取り合えず、両足で直立出来る場所へと移動する。
崖の中腹に張り出た岩の上。そこに三人で並ぶ。
そこから崖下を見つめて、ふと思う。
「抱っこよりも負んぶの方が安全か?」
いざという時に手が使えた方が安全面ではいいかもしれない。
体を倒せば、手を使わなくてもそこにフランカを乗せることだって出来るしな。
「……負んぶ…………は、……その…………お尻に触られるから………………いや」
「いや、『いや』って……」
そんなことを言っている場合じゃないだろう。
何を恥ずかしがってるんだよ、尻くらいで。
「ルゥシールなんかな、俺にお尻枕をしてくれたこともあるんだぞ?」
「してませんよっ!? サラッと嘘つくのやめてくださいね!」
それでも難色を示すフランカ。
そんなにお尻が嫌か?
「…………胸が密着するから…………無さがはっきり分かっちゃうし……」
もじもじしながらぶつぶつ言うフランカ。
「なんなら、わたしが代わりましょうか? ご主人さんに荷物を持っていただくことになってしまいますが……」
そんなことをルゥシールが言い始める。
「あのなぁ。状況を考えろよ。俺がそんなに信用出来ないか?」
二人揃ってそんなこと言うなんて、俺は悲しいよ。
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「……そう。これはとてもデリケートな問題」
「言っとくが、俺はな……!」
聞き分けのない二人にはっきりと言っておいてやる。
「ちょっとしか揉むつもりなかったからな!」
「フランカさん。さぁ、おぶさってください」
「……うん。よろしくね、ルゥシール」
「って、おおい!」
「あ、ご主人さんは荷物をよろしくお願いします」
「……そして先行して。おぶさっている姿を背後から見られたくない」
なんだよ、なんだよ、もう!
二人して俺を変質者みたいに!
手のひらに柔らかいぷにっとしたものが触れたら揉むでしょうが、普通!
「分かった。荷物は引き受けよう。けどな! これだけは言っておくぞ! 下心なんかな、これっぽっちしかなかったからな!」
「あったんじゃないですかっ!?」
「……早く行け、変態」
まったく!
まったくもってまったくだ!
こいつらは何も分かっていない!
男が女の子のお尻に触れたいと思う気持ちは、リスペクトです!
「まったく! 女子って何考えてんだか分かんないっ!」
捨て台詞を吐き、俺は先行して崖を飛び下りる。
しばらくして、後方から、「こっちのセリフですよーっ!」という声が聞こえてきた。
俺が考えていることなんか分かりやすいだろうに。
基本、柔らかいもののことを考えているんだよ。
突き出た岩につま先をつけ、視線は次に飛び移る岩場に向けている。
勢いがついて、かなりの速度で下降している。
スピードが乗った状態で接近すると衝突の危険が出て来るので、ルゥシールはもう少し遅れて降りてくるのだろう。よく分かっているじゃないか。
「よっ! ほっ! いぇい!」
さっきまでとは違い、サクサク進む爽快感がある。
余裕もあり、意味もなく前方宙返りなどを決めてしまう。
「ご主人さーん! 調子に乗っていると怪我しますよー!」
はるか後方から、ルゥシールの声が飛んでくる。
はっはっはっ、何を言ってるんだ。
こんなことで足を取られるほど軟弱な体じゃないさ。
怪我なんか……
……と、思った時、そいつは急に現れた。
「覚悟っ!」
鋭い声をと共に、突然『何か』が突進してきて、俺が着地した岩場に衝突したのだ。
凄まじい音と、砂埃を巻き上げて、その『何か』は、崖を盛大に抉った。
間一髪、空中で体をひねり二段ジャンプを決めることで難を逃れた俺は、その威力に背筋に寒いものを感じた。
……ふざけてて怪我をするところだった。
「ご主人さん!」
凄まじい速度でルゥシールが俺に接近してくる。
怖い怖い怖い!
たった今、そういう感じのヤツに殺されかけたところだから!
そう。
先ほどの一撃には、明確な殺意が込められていた。
ルゥシールと共に崖を駆け下り、地面へと降り立つ。
俺は荷物を下ろし、ルゥシールはフランカを下ろす…………つもりだったのだろうが、急な加速に驚いたフランカの腰が抜けてしまったらしく、しばらくは負んぶのままでいることにしたようだ。
そりゃあなぁ、いきなりルゥシールのトップスピードを経験したら、そうなるだろうなぁ。
俺はフランカと荷物をルゥシールに任せ、崖の中程に出来た巨大な亀裂に視線を向ける。
もうもうと立ち上る砂埃。
よく見ると、その亀裂は『×』の形に長い溝を崖に刻み込んでいた。
それが薄れていくと、徐々に人影が見えてくる。
「その身のこなし、敵ながら見事である!」
雷鳴のような迫力を持つ声が、抜けるような青空に響く。
砂埃の中から現れたのは、一人の少女だった。
すらりと長い手足はバランスがよく、華奢な印象を与えるが、重心がしっかりと中心に据えられており力強さがある。
炎のように燃える真紅の髪は短くカットされており、快活なイメージを醸し出している。髪と同じ色のライトアーマーを身に纏ってはいるが、武骨さよりも洗練された美しさが目立つ。
鋭い視線に隙は無く、深いグリーンの瞳がこちらをつぶさに見つめている。
そして、特に気になるのは腰。
なだらかで引き締まったウェストライン……ではなく、彼女は腰に二本の剣をぶら下げていたのだ。
一本は柄の形から見て両刃のロングソード。柄頭にドラゴンの意匠が施された高価そうな剣だ。
そしてもう一本が……俺もあまり見たことがないのだが……あれは、『カタナ』と呼ばれる片刃の剣だ。
そんな、異なる二つの剣を腰に下げた少女は、険しい表情で俺を見下ろしている。
魔導ギルドの者か……いや、魔導士には見えない。では、王国が差し向けた刺客か。
なんにせよ、相当な手練れだ。おそらく名のある冒険者なのだろう。
剣がどちらも鞘にしまわれているところを見ると、一応は話をする気があるということか……
相変わらず、少女は全身から凄まじい覇気を放出させている。
俺の殺気といい勝負なんじゃないか?
大きく切り裂かれた岩壁。
あんな攻撃をまともに喰らえば、いくら俺と言えど無事では済まない。いや、助からない。
ヤツの目的は何だ?
『敵ながら』と言ったか……なら、敵なのは確定なのだろう。
ったく。煩わしい。
どこの所属でも構わん。
俺に敵対する者は潰すのみだ。
すっげぇ美人だから、勿体ねぇけどな。
どんな理由で動いているのか知らんが…………まぁ、理由なんか聞きたくも…………
「貴様っ! 幼女を誘拐しただろう!?」
二刀流の少女の言葉に、俺の周りの空気が凍りついた。
少女は凄く真剣な瞳をしている。
真剣な怒りを、その瞳に湛えている。燃え滾らせている。
ただ一言だけ……
濡れ衣もいいとこだっ!
いつもありがとうございます。
クリスマスイヴという特別な日にまで見に来てくださる皆様に、
ささやかな贈り物を……
楽しんでいただければ幸いです。
そう、私たちは決して独りぼっちじゃない!!
次回もよろしくお願いいたします。
とまと
☆クリスマスイヴ特別ショートショート 『ルゥシールへのプレゼント』☆
雪に覆われた、とある北方の町に、俺たちは来ていた。
町の中央広場には、大きなモミの木が立っていて、そのモミの木には赤や黄色のオーナメントが無数飾りつけられている。カラフルな飾りと葉の深い緑が、輝く白い雪に覆われてなんとも美しく調和している。
年の瀬迫る町の広場で、そんな飾りを見上げていると、とある母娘の会話が聞こえてきた。
「ママー! サンタさん、わたしのとこにも来てくれるかなぁ?」
「いい子にしていれば、眠っている間にお部屋にやってきて、枕元にプレゼントを置いていってくれるわよ」
「わーい! じゃあ今日は早く寝るね」
「枕元に靴下を置いておくのよ」
「うん!」
にこにこと笑みを振りまき、母娘は手をつないで雪深い夕方の居住区へと消えていった。
「聞いたか、ルゥシール」
「はい。なんとも素敵な伝承ですね」
「まったくだ。今夜は、美少女の部屋に忍び込んでも怒られないどころか、歓迎されるらしいぞ!」
「どこをどう聞いたら、そういう解釈になるんですかっ!?」
ルゥシールが、「もぅ! もぅ!」と抗議をしてくる。
そんなにこの町の伝承が気に入ったのだろうか。
だったら……
俺は一つのことを思いつき、そして夜になる。
宿屋にて、俺たちは各々別々の部屋に通された。
なんでも、年の瀬のこの時期、雪に覆われるこの町は訪れる者も少なく暇なので大サービスとのことだ。一室分の料金で三室も貸してくれた。
ただ、宿屋の主人が言っていた、「クリスマスに男女で同じ部屋に泊まるなんて許さない。リア充は爆発しろ」という言葉の意味がよく分からなかったが。
そんなわけで、俺は今、ルゥシールの部屋の前に来ている。
時刻は深夜。
背中にはプレゼントの入った袋を抱えて。
真っ赤な服に身を包み。
この町の伝承に乗っかてみたのだ。
なんでも、プレゼントを贈ると称して美少女の寝室に潜り込んでくる変質者は、真っ赤な服に身を包んだ髭面のジジイらしい。……とんだ危険人物だな、おい。
しかも、美少女の脱ぎたて靴下が大好物とか……色々酷いな。
とにかく、その真っ赤っかジーさんにちなんで、俺も真っ赤でド派手な服を着込んでいる。
昼間にルゥシールたちと買いに行ったのだ。
ルゥシールたちも何かを買っていたようだが、結局俺には見せてくれなかった。なんだか女性店員と女三人で盛り上がっていたようだが……
「さて、忍び込むか……」
若干高鳴る心臓に「落ち着け。そういうイベントだから。今日は『そういうことしてもいい日』だから」と言い聞かせ、ゆっくりとドアを開ける。
ガチャリというドアの音がやけに大きく感じて、ドキリとさせられる。
「犯罪じゃない、犯罪じゃない」と自分に言い聞かせ、ルゥシールのベッドへと向かう。
そこには……
「ふぉぉおぉおおおおおおおおおおおおおぅううっ!?」
ルゥシールがいた。
それは当然なんだが……
『前開きの寝間着が肌蹴て大きな胸が露わになった』ルゥシールがいたのだ。
しかも、その大きな大きな胸には、真っ赤な乳バンド――胸用女性下着が装着されていたのだ!
ズボンが『ややズレ』で、白いお腹の下……腰の付近までが丸見えになっているのだが、そこにもまた真っ赤な下着が顔を覗かせていた。
上下真っ赤!
なんだか、凄くセクシーですっ!
「つぉうっ!?」
凄まじい勢いで鼻血を噴きそうになった。まぁ、赤だからかかってもバレないかもしれんが……いやいや、そういうことじゃない。……これはマズい
俺はプレゼントを枕元に置いて、引き換えにルゥシールの脱ぎたて靴下を手に入れた。
「聖夜の赤いジーさんよ……あんたの気持ち、初めて理解出来たぜ」
靴下…………いいかもっ!
そして、赤い下着…………最高っ!!
素晴らしい思い出を胸に。
素敵な贈り物を手に。
俺はルゥシールの部屋を後にした。
「ご主人さん!」
翌朝。太陽が昇ると同時にルゥシールが部屋に飛び込んできた。
俺が贈ったプレゼントを抱え、満面の笑みで頭を下げる。
「プレゼント、とても嬉しいです! どうもありがとうございます!」
感動に瞳を潤ませ、微かに赤く染まる頬。その赤が、昨日の光景を思い起こさせる。
「いえ、こちらこそっ! どうもっ、ありがとうございましたっ!!」
「はい?」
キョトンとするルゥシールに、俺は敬語で腰を九十度に折り曲げる最敬礼をおくった。
そんな、素敵なクリスマスの朝だった。




