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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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52話 そいつが俺の怖いヤツ

 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!


 聞き覚えのある咆哮。しかし、その声には迫力が少し欠けている。


 それもそのはず。

 目の前に出現したダークドラゴンは、実物よりも二回り以上も小さいのだ。

 おそらく、「遠くから見たドラゴン」が恐怖の対象として具現化したからだろう。

 ドラゴンのあの巨大さを間近で目撃して、生き延びられる人間など、そうはいないからな。


「馬車が起きたらすぐに出発しろ! 後ろは振り返るな! 森を抜けることだけ考えろ!」


 商隊長の檄が飛び、構成員たちが死に物狂いで馬車を起こし、そして走り出す。

 馬車は今にも壊れそうな音を響かせながら森の中を駆けていく。

 去り際に、商隊長がこちらに視線を向けてきたが、さっさと行けと手を振ってやった。


 商隊長は取り乱すカイルを脇に抱え、一礼した後で、俺たちに背を向け全力で駆け出した。


 さぁ、これで、邪魔者はいなくなった。

 あとは、目の前のドラゴンを何とかするだけだ。


 が、その前に……


「フランカ! 少し頼めるか?」

「…………ん。分かった」


 詳しく話さなくても、フランカは理解してくれたようだ。

 正直、助かる。


「ルゥシール」

「…………」

「ルゥシールッ!」

「……え? あ、はい!」


 呆けていたルゥシールが我に返りこちらに視線を向ける。


「ボーっとするな。どこに変態が潜んでいるのか分からんのだ! 揉まれるぞ!」

「え? なんの話をしていたんですか!? そんな話してました? あぁ……ちゃんと聞いていなかったから強く否定出来ない……! たぶんそんな話してないと思うんですが……八割くらい自信あるんですが…………否定出来ないっ!」


 なんだかとても悔しそうだ。


「ルゥシール」

「……なんですか?」

「大丈夫か?」

「え…………」


 すとん――と、ルゥシールの表情が抜け落ちる。

 意表を突かれたというような、驚いていることに気が付いていないような、そんな間の抜けた表情を晒す。


 そして、次の瞬間には下瞼が持ち上がり、目の輪郭が歪む。


「……ひぅっ………………っ!」


 じわりと、瞳を覆うように輝く水の膜が湧き上がってくる。

 それを零さないように、ルゥシールは慌てて腕で拭い、俯いた。

 目じりが微かに赤く染まる。


 俺は一歩、ルゥシールへと近付いて、俯いた頭にポンと手のひらを載せる。


「あいつはお前じゃない」


 ぽんぽんと二度叩き、手を放す。

 そして、顎を摘まんで俯いた顔を持ち上げてやる。

 大きな目は細く歪み、けれど閉じまいと瞼を震わせて、ジッと俺を見つめている。


「スグにいなくなるよ。『偽物』は」


 そう言って、ルゥシールに背を向ける。

 あんまり、こんな顔は見せたくないからな。

 たぶん……相当酷い顔をしているはずだ。



 こんなにムカついたのは久しぶりだからな。



 ゆっくりと歩を進め、フランカの背後に近付く。

 フランカは魔法で結界を張りドラゴンたちからの攻撃を防いでくれていた。

 ドーム状に俺たちを覆う結界に、ドラゴンが何度も攻撃を仕掛けるが、結界はビクともしない。頑丈な結界だ。



「フランカ、すまないな。助かった」


 声をかけるとフランカは、姿勢は前を向いたまま首だけでこちらを振り返る。

 そして、口を開きかけて、息を呑む。


「…………っ」


 たっぷりと数秒間、俺の顔を凝視したあと、少し寂しそうな表情で瞼を閉じた。

 再び開かれたフランカの目は、落ち着いた透き通るような色をしていた。


「……これくらいは平気」

「そうか」


 フランカに感謝の意を伝えたい。

 が、上手く笑えているか自信はない。

 まぁ、そこは後で埋め合わせておくか。


 今は、やるべきことをやらなきゃな。


 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!


 目の前に浮かぶダークドラゴンは、一丁前に牙を剝き、威嚇などをしてきやがる。

 俺に牙を剥く時点で、テメェはルゥシールじゃない。

 今、その証拠を見せつけてやる。


 俺は右足を強く踏み込み、速く高く跳躍する。

 一足飛びでダークドラゴンの懐に飛び込む。


 俺の動きについてこられないダークドラゴン。

 がら空きの胸に手のひらを押し当てる。


 硬く、冷たい。

 何も感じない鱗の感触。

 そして流れ込んできたのは、何とも生臭い、不愉快な魔力だった。


 やっぱり、こいつはどう転んでもルゥシールじゃない。

 似ても似つかない。

 まるで駄目だ。駄作だ。駄龍だ。


「半端な『偽物』が……」


 一瞬のうちに魔力を奪われたことを悟ったのか、ダークドラゴンは首を振り、俺を振り払う。

 その一撃をかわし、後方へと避難する。


 若干の距離が開き、ダークドラゴンが胸を大きく膨らませる。

 闇のブレスの構えだ。


「ご主人さんっ!?」


 自身のブレスの威力を熟知するルゥシールから悲鳴にも似た声が上がる。

 確かに、本物のブレスなら、この距離で受けるのは自殺行為だろう。

 だが、こいつは『偽物』だ。どうってことはない。


 それに。

 俺はこいつからは一歩たりとも逃げたくない。

 こいつは……

 コノヤロウどもは…………


「調子に乗り過ぎだ、クッソ『偽物』ヤロウども……」


 ダークドラゴンに呼応するように、他のドラゴンたちも一斉にブレスの構えに入る。

 ……アホどもが。


『偽物』が、俺の『本気』に勝てると思うのか?


 お前らなんざ、さっきの一瞬で掠め取ったこの生臭ぇ魔力だけで十分だ。


 覚悟はいらねぇよ。

 一瞬で片付けてやるからよ。


「……『偽物』ごときが…………」


 後悔しろよな。

 俺を、『本気』で怒らせたことを。



「ウチのルゥシールを泣かせてんじゃねぇーぞっ!」



 左肩に構えた右腕を一閃――真横へと薙ぎ払う。

 俺の腕の軌跡をたどるように青白い光の線が空間を走り、それを追うように大爆発が巻き起こる。

 森を埋め尽くすドラゴンの群を飲み込み、目も眩むような閃光が辺りを包む。


 轟音。


 鼓膜がおかしくなるほどの爆発音のせいで、ドラゴンどもの断末魔は聞こえてこなかった。


 光が止むと、そこには何もなかった。

 生き延びたドラゴンはもちろん、その死骸さえも。

 森の木々もあらかた吹き飛び、強引に押し広げられたような更地が目の前に広がっていた。


 ただ。

 いくら偽物とはいえ……ルゥシールにドラゴンの死ぬ様を見せずに済んだことには、ホッと胸をなでおろす。


「……ご主人さん」

「弱い。弱過ぎる」

「え?」

「こんなに弱いドラゴンなんかいるはずがない。所詮は『偽物』だな。紛い物だよ」

「…………ご主人さん」


 ……とすっ。


 と、背中に微かな重みを感じる。

 ルゥシールが俺の背中に額を押しつけているようだ。

 振り向く気にはなれないので、気配だけでそれを感じる。


「…………ありがとう………………ございます」


 小さな声だった。

 とても、小さな声だった。

 けれど俺の耳にははっきりと届いていた。


「……やはり、人間はドラゴンを恐れているのですね…………」

「……悲しかったか?」

「そんなことは…………いえ。……はい。少し」


 とても重い、長く深いため息が聞こえてくる。

 吐き出された息は震え、少し湿っぽかった。


「俺は紛れもなく人間だが……なぁ、ルゥシール」


 前を向いたまま、背後のルゥシールに向かって問いかける。


「お前には、俺がドラゴンごときを恐れているように見えるのか?」


 見当違いの方向へ飛んでいった言葉だが、ルゥシールの耳にはきちんと届いたようで、ルゥシールの口から「…………え?」という声が漏れる。

 そして、長い時間をおいて、短く、「いいえ」と言う言葉が聞こえてきた。


「当然だ。ドラゴンなんぞ、俺に言わせればただのデカい生き物でしかない。俺と比べれば弱く、知慮も浅く、イケメン度も断然低い」


 ルゥシールの額が背中から離れる。

 温もりが遠ざかり、その場所が寂しげに冷える。


「ドラゴンだなんだといったところで、結局は弱っちい存在なんだよ。俺にとってはな」


 ゆっくりと振り返る。

 すると、目をまん丸くしたルゥシールと視線がぶつかった。

 何を言われているのか、見当もついていないアホ丸出しの顔に向かって、俺は言ってやる。

 さも当然で、当たり前のこと。今更だが、言葉にしておいてやる。


「だから、お前は俺に守られとけ」


 瞬間、ルゥシールの顔がくしゃりと歪む。

 眉を寄せ、目じりが下がり、鼻の頭にしわが寄って、震える唇を食いしばる。

 けれど、そんな表情がなぜか、とても綺麗に見えた。


「ごっ……しゅじ……ん…………さんっ!」


 ルゥシールが胸に飛び込んでくる。

 額を胸に押し当て、ぐりぐりと顔をこすりつける。

 俺の匂いでも確認しているかのように、執拗に顔をこすりつけてくる。

 肩に置かれた手は強く握られ、俺の服をギュッと掴んでいる。


「…………わた…………し……は…………」

「いいから」


 後頭部を軽く撫でてやると、ルゥシールの言葉は完全な泣き声に代わる。


 縋りつくルゥシールを支えていると、フランカがそっと近付いてくる。

 そして、ルゥシールの背中を、そっと撫でる。ゆっくりと、何度も。

 フランカは、とても優しい表情を浮かべていた。


「……怖くない。怖いわけがない。ルゥシールは……いい子だから」

「フランカさん……」


 顔を上げ、フランカを見つめ、またルゥシールの顔がくしゃりと歪む。

 けれど今度は俯かず、必死に泣くのを我慢する。


 無理矢理笑おうとするルゥシールに、フランカは優しい笑みを向け、こんな冗談を言う。


「……ルゥシールに比べれば、【搾乳】の方が何倍も怖い」


 冗談を、言う。


「……こうしてそばにいるだけなのに、どさくさに肘で胸を触ってきている」


 冗談を……あ、本当に肘が触れてる。いや、ワザとじゃないんだけど……


「……最近は胸だけじゃなくて、太ももにも視線を感じるようになってきている」


 冗談……いや、違うんだよ。フランカって、実は足が綺麗でな、太ももから膝、ふくらはぎにかけてのラインが絶妙なんだよ。ローブで隠してるのが惜しいくらいに。いや、どこで見たって、たまたまだぞ? たまったま、フランカが寝ている時に寝間着が肌蹴ていて、チラッとな……いやいや! それ以上は見てないぞ!?


「……この前寝言で、『よぉ~し、フランカをぽいんぽいんにしちゃうぞ~』って」

「ホントごめんって!」


 その夢には覚えがあった。

 いや、違うんだ! 夢の中でな、フランカがさ、こう、すっごく悲しそうな顔でさ、『……ルゥシールみたいにぽいんぽいんになりたい』とか言うから、「よし、それなら俺が一肌脱ごう」ってことになって、さっきの発言だよ! 俺悪いか? 悪くないよな!?


「うわぁ……」


 って、ルゥシールがドン引きしてるし!?


「……それから、『ルゥシールに挟まれてる時が一番幸せ』って寝言も……」

「それもごめんって!」


 それはな! 夢の中で、朝起きたら俺の体がすっごく小さくなってて、服も着れなくて、妙に寒くて、そしたらルゥシールがいつもの優しい感じの笑みで『わたしの谷間に挟まっていれば温かいですし、安全ですよ』って言ってくれて、で、挟んでくれて、それがもう、ぽっいんぽいんで気持ちよくて、この娘はなんて優しんだろうな、ありがたいなって感謝の気持ちが溢れてきて、で、さっきの発言だよ! 俺悪いか!? むしろ心温まるお話だよな!?


「うわっ、うわぁ……」


 超ドン引きしてるしっ!?


「なんというか……ご主人さんが一番怖いですね、今、この場においては」

「……同感」


 絵に描いたようなドン引きだった。

 そして……


 二人のそんな言葉が……きっと引き金だったのだと思う。

 失念していたのだ。

 俺たちはまだ、『恐れの森』の中にいることを……


「パ~イ……」

「オ~ツ……」


 森の奥から、『俺』が二体、ゆらゆらと現れたのだ。

 しかし、瞳に精気はなく、まるで獣のように見えた。


「あの……あれって…………わたしたちのせいですか?」

「……不本意だけれど…………認めざるを得ない」


『偽俺』たちは、ルゥシールとフランカを見つめ、にやりと笑みを浮かべる。


「パ~イ!」

「オ~~~~ツ!」

「あの……あの方たち、鳴き声が物凄く卑猥なんですが……」

「……仕方ない。【搾乳】がモデルなのだから」

「いや、待て! あれはお前らの中の勝手なイメージだろうが!」


 こいつらの中で、俺はどんな変態扱いを受けているんだ?


『偽俺』は両腕を上げ、十本の指をわきょわきょと動かし、「パイオツパイオツ」と繰り返し鳴いている。…………俺、こんなイメージなのか?


 そして、二体の『偽俺』は、そろってルゥシールをがっちりとロックオンする。


「「パイオツ・カイデーーーー!」」

「にゃぁぁぁぁあああああっ!?」


 ルゥシールが脱兎のごとく逃げ出す。

 速い。

 これまでで最もスピードが乗っているのではないだろうか。

 俺ですら、残像が辛うじて見える程度だった。


 目標を見失った『偽俺』たちは、しばらくキョロキョロと辺りを見回した後、そろってフランカを見つめる。


「……ルゥシール、後でお仕置き…………」


 ターゲットに成り得る二人のうち、一人が逃げれば、残った一人が狙われるのは当然だ。

 フランカの頬を汗が伝う。


「パイ……?」

「オツ……?」


 そんな、疑問形にも聞こえる鳴き声を漏らしたあと、小首を傾げた『偽俺』は、フランカの胸元を見るや、がっくりと肩を落とし、意気消沈してしまった。


「……【搾乳】?」

「俺に怒るなよ!? あいつらは、お前らのイメージだからな!?」


 フランカの瞳が深い闇の色に染まる。

 ほら! 『偽俺』たち!

 贅沢言ってないで、今目の前の現実を見つめろ! な!?

 あるだけマシだろ!? 世の中、そんなに甘くないんだぞ!


「パイ……」

「オツ……」


 俺の必死の思いが伝わったのか、『偽俺』たちがフランカに興味を示し始めた。

 ……こら、自分の胸をペタペタ叩くジェスチャーをやめなさい!

 スッカスカさせないの!


「…………【搾乳】?」

「だから、俺に怒んなって!」


 その時、『偽俺』たちは同時に頷き合い、そして、先ほどまでの意気消沈が嘘のように物凄い勢いでフランカに飛びかかってきた。


「「パイオツ・コッタンペーーーーーーーー!」」



 ドォォォォオオオオオオオーーーーーーーーーーーーーーー……………………ンッ!



 凄まじい大爆発が巻き起こった。

 もう、この大陸を破壊しようとしているんじゃないかと疑いたくなるような、そんな大爆発だった。

 森の木々がすっかり薙ぎ倒され、地面には巨大なクレーターが誕生していた。


 その爆心地にいたのは、真っ黒い衣装を身に纏ったシスター。

 当然、フランカだった。


「……【搾乳】、あとで話し合いたいことがある」

「だから! お前らの勝手なイメージだからなっ!?」


 フランカの全身を、どす黒いオーラが包み込んでいる。

 死神が無数浮遊している姿を幻視してしまうほどだ。


 と、そこへルゥシールが戻ってくる。


「何があったんですか!? 今の物凄い爆は…………あっと、用事を思い出しましたっ!」

「待て! 逃げんな!」


 もの凄い勢いでUターンしようとするルゥシールの首根っこを摑まえる。


「ふにゃぁあああっ!? く、首は! 首の後ろはダメにゃんれすってぶぁああああっ!?」

「なら大人しくしてろ!」


 体をビックンビックンさせて暴れるルゥシールを押さえつける。

 もう一人で安全圏になど行かせない。

 お前も、この死神と対峙しやがれ!


「…………コッタンペ…………コッタンペ…………っ!?」

「待て待て! 俺が言ったんじゃない! そうだ! この森におかしな仕掛けを作ったヤツが言ったんだ! 人の恐怖を形にする奇妙な魔法を発動させているヤツが! そいつがすべての元凶だ!」


 死神……もとい、フランカを何とか説得し、暗黒のオーラの払拭に努める。

 努力の甲斐があり、フランカの瞳に人間味が少し戻ってくる。


「……確かに。こんな危険なヤツは野放しにしておけない……」

「だろ? だから、おびき出してぶっ飛ばしてやろうぜ!」


 そして、『偽俺』の失言は忘れてくれ。


「けど、ご主人さん。どうやってぶっ飛ばすんですか? 本体がどこにいるのかも分かりませんよ?」


 確かに、『この魔法を掛けたヤツ』の正体は謎過ぎるのだ。

 そもそも、『ソイツ』は存在するのかどうかすら怪しい。

 魔力が集まり、空間を歪めておかしな現象を引き起こすことはままあることだ。

 この『恐れの森』が、そういう自然発生した魔力の吹き溜まりなのか、人為的に引き起こされたはた迷惑なトラップなのか。まずはそこから見極める必要がある。


「そのためには、もう一度『恐怖の対象』に出て来てもらわなきゃな」

「……けれど、また出てこられるとそれはそれで厄介」

「そこら辺は任せとけ」


 バカ正直に怖い物を想像するから面倒くさいことになるのだ。

 こういう時は、相手の能力を逆手に取ってやればいいのだ!


「俺はっ、巨乳が怖いっ!」


 声の限りに叫んだ。

『恐れの森』中に響き渡るように。


 さぁ、出てきやがれ!

 俺を怖がらせるほどの巨乳よ!


 ……むふっ。

 どんなダイナマイトな巨乳が出て来るか楽しみだなぁ~!


「……最低」

「ご主人さん……残念です」


 ふふん、何とでも言え!

 俺は、俺を恐れさせるほどの巨乳に、出会うのだ!


 その時、フランカが作ったクレーターのその向こう、未だ木々が残る森の奥に人影が現れた。

 距離があるためはっきりとは見えないが、肌色だ。

 全身が、肌色だ!

 は・だ・い・ろ・だっ!


「キタんじゃねぇのか、こいつぁーよぉっ!?」


 その人影が揺れるごとに、胸元がゆっさゆっさと揺れている。

 キタキタキタキタキタァァアアアアアッ!


「よぉし! 出迎えてくる!」

「ちょっと、ご主人さん!?」

「……独断先行は危険」


 制止する二人の声を振り切り、俺は肌色の巨乳ちゃんとの距離を詰める。

 俺がクレーターを超えようかという時、その肌色の巨乳ちゃんは木々の間を縫って、完全に姿を現した。


 彼女は、予想通り真っ裸だった。

 胸元の大きな乳房も露わになり、あっちもこっちも惜しみなく曝け出している。

 すらりと伸びた足に、肉付きのいい太ももに、くびれた腰に、なだらかな曲線を描くおなかに、白魚のような指先に、線の細い腕に、丸みを帯びた肩に、そして卵形の女性らしい顎のラインと桜色のほっぺたと小さめの可愛らしい頭に、それらすべてに…………巨乳がくっついていた。

 全身に、とんでもなくデカい乳房が無数にぶら下がっていたのだ。

 全身おっぱい人間!

 いや、おっぱいが積み重なって人の形をしたなんだかよく分からない生き物がそこにいた。


「ぎゃあああああああああああああああああああああっ!?」


 叫んだね。

 あぁ、叫んださ。


 だって、豚や牛みたいに乳首がいっぱいついてるとかじゃないんだぞ!?

 目の代わりにおっぱい。

 肩にも左右それぞれ二つずつのおっぱい。

 胸からお腹にかけて合計十二個のおっぱい。

 腰回り、お尻回りにぐるりとおっぱい。

 太ももに、膝に、脛に、そしてふくらはぎに、足首に、くるぶしにおっぱいおっぱいおっぱい!


 どれもこれも全部、そろいもそろって巨乳なのだ!


『ソイツ』が動く度に、すべての巨乳がゆっさりと揺れるのだ。


「んぎゃあああああああああああああああああああああああああっ!?」


 もう一回叫んだね。

 あぁ、もう一回叫んださ。


 何回見ても恐ろしい。


「逃げるぞ、お前ら!」

「え!? 『恐れの森』の究明は!?」

「あんなもんと戦えるかっ!?」

「でも、このまま放置は出来ないんじゃ!?」

「じゃあ、お前がなんとかしてこい!」


 俺が『アイツ』の方を指さすと……もう二度と視界に入れて堪るか……ルゥシールがそちらへと視線を向ける。


「いやぁぁぁあああああああああああああああああああああああっ!?」


 絶叫だった。

 あぁ、絶叫だったね。


「フランカさんっ!?」

「……無理」


 フランカは食い気味に拒絶し、俺と同じ方向へ走り始めていた。


「う、ぅぅううう………………逃げましょう!」


 最後の良心、ルゥシールも完全に折れてしまったらしい。

 それも仕方ないだろう。


 あれは、怖過ぎる。


 俺たちは全速力で『恐れの森』から逃げ出した。

 完全敗北だった。

 けれど、悔いはない。

 そして、二度と足を踏み入れたくない。







「怖いよ~怖いよ~……巨乳が怖いよ~……」


 キャラバンの構成員たちと合流した途端、俺の涙腺が決壊した。

 涙が止まらない。

 だって、男の子だもん。

 ……あの巨乳はトラウマものだ。


「ご主人さん。しっかりしてください」


 蹲り、両手で顔を覆う俺の背中を、ルゥシールが優しい手つきで撫でてくれている。


「もういませんから。怖いのは、もうどっか行っちゃいましたからね?」

「……るぅしーるぅ~…………」


 顔を上げて、体をひねり、ルゥシールに抱きつこうとして、固まる。

 ルゥシールの胸には、それはそれはご立派なお巨乳様が鎮座ましましておられたのだ。


「ぎゃーーーーーっ!」

「ご主人さん! 大丈夫です! この巨乳はいい巨乳ですよ!」


 ……いい巨乳?


「ほら、怖くないですよ?」


 両腕を広げ、優しい笑みを浮かべるルゥシール。

 心なしか、お巨乳様もほほ笑んで御座すように見える。


 ……いい巨乳。

 怖くない、巨乳…………


 …………むふっ。


「ルゥシールゥ~! リハビリに協力しておっくれぇ~!」

「はい! 喜んで!」


 いやっほぉぅ~~~~い!


 俺は満面の笑みでルゥシールのお巨乳様にダイブ!

 ……するつもりだったのだが、寸でのところでがっしりと頭を掴まれた。


「……騙されないで、ルゥシール。この顔は完全にトラウマを克服しきっている顔。混じりっ気なしの下心100%の顔よ」

「ほにょっ!? …………あ、ホントですね」


 フランカによって固定された俺の顔を覗き込み、ルゥシールが納得してしまった。


 あぁ……俺の楽しい楽しいリハビリタイムが…………


「……車輪に使う木材は私が用意しておいた」

「そ、そうか、ご苦労だったな」

「今すぐにでも本体へ合流するべき」

「そうだな。じゃあ、帰り道がてら、俺はリハビリを……」

「……今回の責任を感じていないの?」

「いや、別に俺が悪かったってわけじゃ…………性質の悪い森だったよなぁ。ははは」


 ミシッ!


 フランカの指に力がこもる。

 あの細腕の、どこにこんな力が隠れているのかと思うような怪力だ。

 頭蓋骨が、凹む…………っ!


 これ以上は、レッドゾーン……いや、デッドゾーンだ。


「……ねぇ、【搾乳】……まだ、巨乳が怖い?」

「い、いや…………」


 背後から流れ込んでくる夥しい量の暗黒オーラを全身に浴び、俺の心は完全に折れてしまっていた。

 これはシャレにならん。

 もう、巨乳が怖いなんて言えない。


 だから、素直になろうと、思った。



「今度は、……貧乳が怖い」








いつもありがとうございます。



『饅頭怖い』という落語がありまして。

まぁ、そんな感じです。



さて、結局『恐れの森』とはなんだったのか?

実際のところ、設定上は『恐れの森』は、作中マーヴィン(ご主人さん)が言った通り、

魔力が集まり空間を歪めておかしな現象を引き起こす、

自然発生した魔力の吹き溜まりなのでした。


が、そんなことはどうでもいいんです!

そんなことよりも!



おっぱいは、多ければいいってもんじゃないんです!

適度ってもんがあるんです!

「大は小を兼ねない!」


あと、フランカを仲間にした以上、

ちっぱいも全力で推していきますよっ!

「小には小の良さがある!」

「コッタンペ、コイサー!」


ちなみに……

若人たちはご存知ですかね?

所謂業界用語と呼ばれるヤツなんですが……


『ドンギュウのルーシーで、シーメーが、超ムースースー』

的な奴です。(訳:牛丼の汁で飯が超進む)


『スーシーでーも、食ーべーに、行-こーかー』

的な奴です。(訳:寿司でも食べに行こうか)


では、

『パイオツ、カイデー』

『パイオツ、コッタンペー』

は、なんという意味でしょうか!?


正解者の方の中から抽選で数名の方に、

『ルゥシールが夢に現れてボインをぽいんしてくれるおまじない』をかけたいと思います。

(あくまでおまじない。出て来るかどうかは、あなたの妄想力次第!)



というわけで、

カイジーも、シークーヨーロー!



次回もよろしくお願いいたします。



とまと

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