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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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51話 『恐れの森』 目の前に現れたアイツ

「うわぁぁぁあああっ!?」


 恐れの森に、恐ろしい悲鳴が響き渡る。


 そこには森なんてなかった。

 なかったはずなのに、気が付いた時、俺たちは森の中にいたのだ。

 わけが分からなかったが、ここが『恐れの森』であることはすぐに分かった。


 俺たちを取り囲む魔力が尋常ではなかったからだ。


「逃げろぉ! 殺されちまうぞ!」

「くそ! なんだってこんなところに!?」

「うわぁああ! 来るな、来るなぁ!」


 速馬車を全速力で走らせ、俺たちはソイツから逃げていた。



 ギァァァアアアアアアアアアアッ!



 全長50メートルはあろうかという、緑色をした、空を舞い飛ぶドラゴンから。

 俺たちは全力で逃げていた。


「みなさん、落ち着いてください! これは本物のドラゴンではありません! みなさんの心に思い描かれた『恐怖』の姿なんです!」


 カイルが声を張り上げるも、誰もその言葉に耳を貸さない。

 完全にパニックに陥っているのだ。


「これが『恐れの森』……ご主人さん、何か対処法はないのですか?」


 後方から迫りくるドラゴンを見つめながら、ルゥシールが尋ねてくる。

 騒がしい絶叫にかき消されないように顔を近付けて、耳元に声を届けてくる。


「おそらく、この現象を引き起こしている奴がどこかにいるんだろうが……魔力が濃過ぎて特定出来ないな……」


 俺の目をもってしても、敵が潜んでいる場所が特定出来ない。

 森内部の魔力が濃過ぎるのだ。黒の中に落とした深いグレーを探すようなものだ。一度見つけられれば逃しはしないとは思うが……


「……あのドラゴンは幻覚?」


 牙を剝き、馬車上空を旋回するドラゴンを見上げ、フランカが呟く。

 それも分からない。


「攻撃を食らってみれば分かるんだけどな。痛ければ本物、痛くなければ偽物だ」


 幻覚は実体がないため、攻撃を食らっても痛みはないはずだ。

 もっとも、そういう幻術使いは痛みを錯覚させる術も同時に使ってくるのがセオリーだが。


「……リスクが高いね」

「だな」


 ドラゴンの攻撃を無防備に受ければ、十中八九絶命するだろう。


「……なら、本物と判断して行動した方が賢明」

「そういうことだ。……っ!?」


 突然、馬車が激しく揺れる。

 そして、そのまま片側の車輪が持ち上がり横転してしまう。


「ルゥシール!」

「大丈夫、いけます!」


 咄嗟にルゥシールに確認を取り、俺はフランカを抱えて馬車を飛び出す。

 ルゥシールはカイルを抱えて飛び出したようだ。

 俺とは反対方向へ跳んでいく姿を視線の端に捉えていた。


 ……おっぱいに触ってないだろうな、カイル。いくら見た目が美少女だからって……


「……ありがとう、【搾乳】」

「ん? あぁ。無事か?」

「……うん。ルゥシールは?」

「あいつの身体能力は信用出来るレベルだ。問題ない」

「……そう」


 フランカがホッと息を吐く。

 と、体をもぞもぞさせ始める。


「……もう、大丈夫だから……離して」

「ん?」

「…………触ってる………………胸」


 よく見ると、思いっきりフランカの胸を鷲掴みにしていた。

 うゎおっ!

 俺がおっぱい触ってた!

 どーりで、魔力がわんさか流れ込んでくると思った。いやー、うっかりうっかり。


「……ワザと?」

「まさか。全っ然、これっぽっちも、まっっっっっったく触れていることに気が付かなかっただけだ」

「………………殺す?」

「だから、疑問形やめろって」


 フランカは俺の腕から逃れると襟元をただし、こほんと咳払いをする。

 胸の件は助けたことでチャラにしてくれるようだ。


「ご主人さん!」

「ご無事ですか、お二人とも!」


 ルゥシールとカイルが並んで走ってくる。

 俺は即座に立ち上がり、カイルへと駆け寄る。


「おっぱい触れ率は何%だっ!?」

「え?」

「どんくらい触った!?」

「……い、いや、ボクは……」

「ちょっと、ご主人さん!?」


 カイルに掴みかかる俺を、ルゥシールが宥めるように制止する。

 それでも俺は止まらない。止まれない。止まれるわけがない!


「正直に答えないとチューするよ!?」

「フランカさん、力を貸してください! ご主人さんを引き剥がします!」


 ルゥシールの指が肩にめりめり食い込んでくる。

 こいつ……全力か!?


「負けるかっ!」

「なんで張り合うんですかっ!?」


 カイルから引き剥がされ、距離を取らされる。

 フランカがカイルを俺から隔離し、俺の前にはルゥシールが立ちふさがる。


「もう! 変なこと言わないでください!」


 どれのことだ?

 変なことを言い過ぎて自分でも何を責められているのか分からない。


「大丈夫ですよ…………ご主人さん以外に……あ、いえ! その、無防備に触らせたりは…………とにかく、気を付けていますから!」


 そう言うルゥシールの胸を軽く突っつく。


「にゃぅっ!? な、何をするんですかっ、いきなり!?」

「全然防御出来ていないじゃないか! このように、不意を突いて触ってくる変態がいたらどうする!?」

「こんなことをする変態さんはご主人さん以外いませんよ!? それに……ご主人さんといると気が緩むというか……例外というか……別にいいや的なものがあるというか……」


 ぶつぶつと言い訳をしているルゥシール。

 やはり、不安だ。

 触られてんじゃねぇの!?


「やっぱチューしてくる!」

「なんでそうなるんですか!?」

「罰だ! 罰を与えるのだ!」

「ご自分で罰とか言って、悲しくならないですか!?」

「じゃあ、俺に対するご褒美だ!」

「それがご褒美になっちゃマズいですって! あの人男性ですからね!?」


 ルゥシールが全力以上の力をもって俺を制止させる。

 ぬぉぉおおおおおおおおっ! 負けるかぁぁぁぁああああああっ!


「……あなたたち、時と場所を弁えて」


 フランカがカイルを伴ってこちらにやってくる。

 その向こうでは、相変わらず構成員が大騒ぎをしていた。

 中には泣き叫んでいる者もいる。


「……馬車の横転はアレが原因だったみたいね」


「アレ」と、フランカが指差したのは、茶色い鱗に覆われた巨大なドラゴンだった。

 そいつが地面から顔を出したせいで馬車の車輪が乗り上げてしまったらしい。


 おいおい。

 ドラゴンの巣か、ここは?


「ドラゴンを見て、他の者がドラゴンに恐怖したせいだと思います」


 カイルがこの状況を解析する。

 そもそも、カイルはこの森のことを知っていたのだ。


「ってことは、さっきの話の通り……」

「はい。この森の中では、心に思い描いた『恐怖』が具現化し、現実のものとなって襲い掛かってきます!」


 馬車の中でカイルに聞いた話を思い出す。

 カイルの爺さんが、かつてこの『恐れの森』に迷いこんだ際、その場にいた者が心に描いた恐怖が次から次へと具現化したらしいのだ。

 カイルの爺さんたちは必死に恐怖をかなぐり捨て、必死に逃亡を図り、命からがら逃げ果せたとのことだった。


「……ドラゴン…………っ」


 カイルがドラゴンを見つめ言葉を漏らす。

 自身の腕を抱き、微かに震えている。


「大丈夫か?」

「え……あ、はいっ! ぼ、冒険者になると決めた時から、覚悟は……ドラゴンなんかに、負けないって…………!」


 声が震えている。

 相当無理をしているのがまる分かりだ。


 まぁ、カイル程度の浅い経験では、ドラゴンに対処するのは難しいだろう。

 出会いたくない魔物ナンバーワンに違いない。


 ……が、それだけか?

 なんというか……もっとこう、根が深い感じがするんだよなぁ……カイルの瞳に映る恐怖の色は。


「と、とにかく、恐怖心をなるべく抑えて、ここから逃げ出さないと……みなさん、なるべく目立たないように行動してくださ……」


 カイルの言葉が終わる直前――


 バインッ!


 と、俺の体から特大の火球が上空目掛けて飛んでいった。


「ご主人さんっ!?」

「いや、さっき、フランカから流れ込んできた魔力が……い、いやいや、これでも結構我慢したんだよ?」

「……タイミングが悪過ぎる」


 驚異的な火球の威力に、カイルは目を見開き、そして、上空のグリーンドラゴンと地べたを這うマッドドラゴンがこちらを凄い目で凝視している。

 ドラゴンどもの表情を文字で表現するとすれば、「ターゲット・ロック・オン」といった感じか。


「……こっちに来る!」

「まぁ、丁度いいんじゃね?」


 二匹のドラゴンが俺たちに向かって突進してくる。

 ルゥシールと目配せをして、俺がフランカ、ルゥシールがカイルを抱えて回避する。今度は同じ方向へ跳躍する。

 俺たちがいた場所でグリーンドラゴンとマッドドラゴンが頭を衝突させる。

 チラリと隣を見ると、確かに、胸に触れないようにカイルを抱えている。

 肩を組むようにして、ルゥシールがカイルの腰に腕を回している。よくもまぁ、あれだけデカい胸を避けられるものだと思うほど、器用に胸とカイルの接触を回避している。

 けど…………密着し過ぎじゃない!?


 思わず腕に力が入る。

 いや、別に、嫉妬とかヤキモチってわけじゃないけどな。


「……んっ…………」


 と、耳元で色っぽい声が漏れる。


「……【搾乳】……ちょっと、乱暴……っ」

「あ、すまん」


 いたんだっけな、フランカ。

 胸が触れないから俺のセンサーから外れてたよ。


「……それより、見て」


 フランカが、心なしか頬を赤く染めつつ、前方を指さす。

 その先には――


 夥しい数のドラゴンがいた。


 ドラゴンの出現に、構成員たちが恐怖した結果だろう。

 その恐怖が形となり、無数のドラゴンを出現させたのだ。

 赤や青、色とりどりのドラゴンが『恐れの森』に集結している。


「……なんとかなりそう?」

「あぁ……ドラゴンはなんとでもなるが……」


 心配なのは……


 俺は横目でルゥシールを見る。

 こいつは、この状況をどう思っているのだろうか。

 ルゥシールの瞳は、少し悲しそうに揺れていた。


「あ…………あぁ……っ」


 ルゥシールに抱えられているカイルが声を漏らす。

 全身が震え、少し、異常なほどに顔色が悪い。

 ドラゴンが怖い。それだけではなさそうな雰囲気だ。


「……ドラゴン…………あの時の…………ドラゴンが……くる…………」


 瞳孔が開き、額から汗が噴き出している。

 やはり、カイルの恐怖はなにか種類が違うように見える。


 この状況を打破しなければ、とんでもないことが起こりそうな気がする。


「フランカ、カイルとルゥシールを頼む!」

「……え? う、うん!」


 俺はフランカを離し、再びこちらに牙を剝けたドラゴンに向かって跳躍する。

 ミスリルソードで切り裂いてやろうかとも思ったのだが…………ルゥシールの手前、それは自重した。


 拳を握りしめて、頬骨を全力で殴りつける。


「どっ…………………………せぃっ!」


 竜骨と呼ばれる硬質な骨は、高価な防具に加工される一級品の素材で、その防御力は桁違いだと言われている。

 その竜骨を、素手で破砕する。


 グリーンドラゴンは悲鳴を上げ地面へと墜落し……姿を消した。

 溶けるように、すっと消えてなくなったのだ。


 実体のある幻覚。


 こいつらはそういう存在らしい。


 グリーンドラゴンを叩き落とした俺はまだ空中におり、足元にマッドドラゴンが迫ってきている。

 目を凝らすと……ルゥシールに教えてもらった場所に極端に高い魔力の反応を確認する。

 首の付け根だ。


 マッドドラゴンの背中に着地すると、その鱗に手を触れる。

 途端にマッドドラゴンが暴れ始めるが、拳骨で黙らせる。

『ギョンッ!』と、潰れた悲鳴を漏らし、マッドドラゴンが大人しくなる。

 その隙に、魔力の高い鱗から魔力を頂戴する。その際、マッドドラゴンが『ぎょ……んんっ!』と、ちょっとセクシーな声を漏らしやがった。……なんだよ、気持ち悪ぃな。


 マッドドラゴンから奪った魔力を、森を埋め尽くすほど現れたドラゴンどもに向けて放つ。

 大爆発が起こり、無数のドラゴンが一気に消滅する。


「おいお前ら! ここは俺が引き受けてやるから、馬車を起こして森の外へ逃げろ! なるべく無心でな!」


 俺が檄を飛ばすと、商隊長を中心に構成員たちが理性を取り戻し始め、馬車の復旧作業に取りかかった。

 あいつらがいなくなった方がやりやすい。

 俺たちが囮になり敵を引きつけて、構成員を全員逃がしてから俺たちも離脱する。それが最も効率的だと思う。


「カイル! お前も、他の奴らと一緒に……っ!」


 振り返って、思わず言葉を飲み込んだ。


 カイルがうずくまり、頭を抱えて、今にも壊れてしまいそうなほど震えていたのだ。

 異常だとしか言いようがない怖がりようだ。震え方が尋常じゃない。体の制御が出来ていないのか、無意識に暴れる自分の体を抑え込んでいるようにすら見える。


「うっ………………うぁぁぁぁぁああああああああああああああああああっ!!」


 絶叫が響く。

 頭を抱えたまま体が反り返る。天を仰ぐように吠えるカイルは白目を向き、口角から泡を吹いている。


「カイルッ!」


 カイルの異常行動にあっけにとられていると、後方から商隊長が駆けてきてカイルを力任せに抱きしめる。


「こいつは、グレンガルムの生まれなんだ!」


 何を尋ねたわけでもないのだが、商隊長がそんなことを大声で説明する。

 ルゥシールの肩がビクンと震えたのを、俺は見逃さなかった。


 グレンガルム。

 一年前、ルゥシールと出会った場所。


 そして、突如現れたドラゴンによって、恐怖の底に沈んだ町だ。


 ある時を境に、グレンガルムの町には無数のドラゴンが飛来するようになり、町にも被害が出ていた。

 そんな中、最も町の人々を恐れさせていた存在。

 それが、ダークドラゴン。――ルゥシールだ。


 詳しく話を聞いていけば、ダークドラゴンによる直接的な被害は発生していなかった。

 だからこそ、俺はそのダークドラゴンを見逃し、実害を出しているドラゴンを追い払うにとどめたのだ。


 だが、町の人間はこう言っていた。

『あのダークドラゴンがすべてのドラゴンを呼び寄せたのだ』と。


 頻繁に目撃される赤や青の鱗ではなく、全身を漆黒の鱗に覆われた巨大なドラゴンは、それだけで人々を恐怖させた。

 目にするだけで闇に飲み込まれそうになる、完全なる闇。

 ダークドラゴンは、そんな深い闇を全身に纏っていたのだ。


 カイルは冒険者になって一年未満だと言っていた。

 ならば、俺がグレンガルムの町に行った時、カイルはまだ町にいたのだろう。

 ダークドラゴンに怯えて、死んだように沈みきっていたあの町に。


「あいつがっ! あいつが来る! あいつがぁ!」


 無数のドラゴン。

 その背後にはダークドラゴンがいる。

 グレンガルムの住人は、そう言っていた。

 ダークドラゴンが、ドラゴンの頂点に君臨しているのだと。


 ……けど、実際は。


 ルゥシールは仲間に追われ、命を狙われていたのだ。

 押し寄せた無数のドラゴンは、ルゥシールを狙う刺客だったのだろう。


 それを知らない人間は、見たこともない漆黒のドラゴンを勝手に悪の親玉に仕立てあげてしまったのだ。



 きちんと誤解を解かなかった俺にも……責任がある、か……



 その負の産物が、今、形となって目の前に現れた。


「……あれは」


 フランカが息を呑む。

 ルゥシールは、……思わずなのだろうが……瞼を閉じ、俯いてしまった。



 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 聞き覚えのある咆哮が轟く。

 漆黒の闇よりもさらに深い黒。

 全身に闇を纏った一頭の巨大な魔物。



 ダークドラゴンが目の前に出現していた。








いつもありがとうございます。


かる~いノリで向かった森の中で、なんだかファンタジーな展開になってまいりました!


ドラゴンです!


ドラゴン沢山です!


ルゥシール(ドラゴンモード)は全長15mという設定なのですが、

今回現れたドラゴンたちはどれも2~4m前後の小柄なものばかりになっています。


これは、恐怖を抱いた構成員たちが、

「遠くから眺めていたドラゴンの記憶」を呼び起こしたことに起因しています。

間近でドラゴンを目撃して生き残っていられる人は、そうそういないのです。


というわけでミニサイズドラゴンがわんさかの回でした。

次回で決着(予定)です。



あと、たぶんマッドドラゴンはメスです。

人間の姿になったら妖艶な雰囲気を纏う女王様系の美人になるはずです。

――と、想像していただけると、ちょっとは楽しめるかもしれません。



P.S.

ルゥシールのおっぱいはご主人さん以外には触らせません!

絶対にです!

絶対に!



次回もよろしくお願いします。


とまと

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