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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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48話 最後の夜と旅立ちの朝 

「眠れねぇ……」


 ベッドに入ってから、どれくらいの時間が過ぎただろうか。

 急速な心臓の高鳴りは、なんとかようやく落ち着きを見せ、呼吸が普通に出来るまでには回復した。……新種の病気かと疑いたくなる苦しさだった。


 ずっと横になっているのも辛くなり、俺はそっとベッドから起き出す。


「……むにゅう…………」


 不意に、ルゥシールの声が聞こえてビクッとしてしまう。

 見ると、無防備な寝顔を晒してルゥシールが気持ちよさそうに眠っていた。


 ……「無乳」って、エイミーの夢でも見てるのか?


 ぷにぷにしていそうな頬を緩ませて、幸せそうな寝顔ををしている。

 ……ちょっと、突いてみたい衝動にかられてしまう…………ちょっとだけ………………はぁ、はぁ、はぁ…………ぬぉあっ! 危ない! 危うく変態になるところだった!


 ルゥシールの寝顔を見ているとイケナイ気持ちになってくる。

 これはよくない。

 今後のことも考えると、とてもよくない。


「外の空気でも吸いに行くか……」


 幸い、ここはド田舎の牧場。

 新鮮な空気だけは豊富にある。


 俺は足音を忍ばせて、そっと寝室を後にした。







「アシノウラ?」


 庭に出ると、エイミーがいた。

 昨日と同じ寝間着姿で、庭と牧場を分ける木製の柵に腰かけている。


「眠れないの?」

「ん……まぁな。お前もか?」

「うん……まぁね」


 大きな半月と、降るような満点の星に照らされて、夜の庭は少し明るい。

 そこは、闇の中に光が溶け込んだような、幻想的な世界だった。


「……座れば?」


 自分が腰かけている場所のすぐ隣をぽんぽんと叩くエイミー。

 俺はそれに従い、エイミーの隣まで行き、柵に腰を掛けた。


 並んで座り、今にも落ちてきそうな星たちを見上げる。


「なかなか詩的なことを言うじゃない」


 エイミーがからかうような視線を向けてくる。 

 また心を読んだのか。


「言ってねぇよ」

「顔がそう言ってるのよ」

「よくしゃべる顔だな、俺は」

「不愛想よりよっぽどいいわ」


 くすくすと、エイミーは楽しそうに笑う。

 けれど、視線がぶつかると、不意に表情が消えてしまう。

 ほんの一瞬消えた表情は、すぐに子供らしい笑みに変わり、ワザとらしいくらいに大きな動きで今度は空を見上げる。


「星って、何も考えてないのかな?」

「星が?」

「うん。だって、見つめてても、何も聞こえないんだもん」


 エイミーは見上げた空に浮かぶ、数えきれない星たちに手を伸ばす。


「なにも考えてないんだよね、きっと」

「……ま、星、だしな」

「いいなぁ……」


 呟いた声は、頼りなくて。


「なんにも考えてないのに、あんなに輝いてさ……」


 静かに下ろされた視線は、物憂げで……


「どんなに遠く離れても、『あたしはここにいるんだ』って、気付いてもらえる」


 俺を見つめる少女の顔は儚げで、泣き出す直前のような危うさを湛えていた。


「アシノウラ」


 呼ぶ声は、耳に馴染んだ心地のいい音で……


 ……何も言えなくなる。


「行くんでしょ?」

「……あぁ。明日の朝、キャラバンと一緒に出発する」

「………………そっか」


 膝を持ち上げ、勢いをつけてぴょんと飛び降り、こちらに背を向けたまま、エイミーは大きく伸びをした。

 満点の星空に向かって真っ直ぐに。

 遍く星々をかき集めるかのように。


「ねぇ。あたしに、ついてきてほしい?」


 こちらを見ないままで、エイミーは問いかけてくる。

 声音は明るく、からかうような口調で……でも、真剣な響きを持って。


「そりゃ、ついて行ってほしいわよね。だってあんた、魔力なければ魔法も使えないし、ルゥシールと二人きりじゃきっと遊んでばっかりで全然先に進めないだろうし。だいたい、頼りなさ過ぎるのよね、あんたは。あんたみたいなヤツにはね、あたしみたいにしっかりした人がそばにいて『あれしろ』『これしろー!』ってせっついてやんなきゃダメなのよ。うん。もう全然ダメ。ダメダメだもん、あんた」

「……ふふ。ひでぇ言われようだな」

「当然でしょ? あんた、あたしにどれだけ迷惑かけたと思ってんの?」


 首をこちらに向けてジトッとした目で睨んでくる。


「けどまぁ……」


 くるりと、軽やかに体を反転させてこちらを向き、親指と人差し指をくっつくかくっつかないか程度の隙間を開けてこちらに見せつける。


「ほんのちょ~~~~~っっっとだけは、いいところもあったけどね」


 いたずらが成功した子供のような……実に子供らしい笑みを浮かべる。

 そんなちょっとだけかよ……ったく。


「いいとこか……顔以外に思いつかねぇな」

「はぁ!? バッカじゃないの? ……ふふふっ」


 堪え切れず、そんな感じでエイミーはくすくすと肩を震わせる。

 俺も笑って、二人してけたけたと笑う。

 笑って、笑って、ひとしきり笑ったあと、エイミーが真面目な顔で言う。


「あたし、ついて行かないからね」


 突然の決別宣言だ。

 エイミーは、この村に残ると言う。


 まぁ、なんとなくそんな気がしていたけどな。


「ウチの牧場が危ないって聞いた時、あたしはあたしに出来ることをしようと思ったの。それが、狩りだったんだけどさ……」


 そう言ったエイミーは照れ臭そうな、悔しそうな、そんな表情を浮かべた。

 腕を後ろで組み不満そうに身をよじる。


「あたしは見当違いなことしてたって、思い知らされちゃった」

「見当違いか? 外貨を稼ぐには手っ取り早いだろう。俺の殺気で獲物が逃げてさえいなければ」

「違うの。そうじゃなくて…………」


 組んだ手を解き、思いを代弁させるかのごとく力強く振り回す。


「あたしは、お父さんとお母さんにこの牧場を続けてほしかったの」

「続けられそうでよかったじゃないか」

「そうじゃなくてっ! もう! なんで分かんないの!?」


 話すたびに身振りが大きくなっていく。


「あたしのやり方じゃ、全然牧場じゃないじゃない! あたしは、牧場を救いたかった。牧場の手伝いをしたかったの! ……けど、あたしがやったことは、全然、牧場の仕事じゃなかった」


 言って、今度は胸の前でもじもじと指を絡め始める。

 視線が逃げ、頬が膨らんでいる。

 なにか、言い難いことを言わなければいけない時の顔だ。分かりやすい顔をしている。


「だから、あんたが、ウチのミルクで新製品を考えてくれた時にさ………………『あぁ、くやしいなぁ』って、思ったの。『あたしがしたかったのって、こういうことじゃない』って……」


 牧場を助けるために牧場を出て、外から支援をする。

 それはきっと間違いではない。

 けれど、エイミーはこと『家族』というものにこだわっていた。

 牧場という枠から外れてしまえば、牧場で頑張っている両親とは別の枠組みにいることになる。


 仮に今回、狩りによって経営難を克服したとしよう。

 その後、エイミーはどうなるのだろう。

 資金に困る度に狩りに赴くのだろうか?

 今はまだ両親が若いからいい。いつか、両親が年老いて牧場を続けられなくなった時、エイミーはまた狩りで牧場を支えるのか…………では、その牧場は誰が守っているのだ?

 別の人に狩りを頼むのか? 誰が他人の牧場のために狩りをしに森に籠ってくれるというのか。

 結婚して、どちらかが狩りに? それこそ有り得ない。

 エイミーはずっと見てきたのだ。そして憧れてきたのだ。

 牧場で共に、仲良く仕事をする両親の姿を。それを素敵だと思っているからこそ、こいつはそうまでして牧場を守りたいと思ったのだろう。

 結婚して、夫婦が別々に過ごすなど、エイミーが考えるはずがない。


 エイミーの理想は、あの偉大なる両親に他ならないのだから。


「あたしって、まだまだ子供なのかなぁ……」

「そうだな……まだ真っ平……」

「 ザウラゲイト・エバ・ホヌプス…… 」

「待て! シレンシオ・ジュラメントはしばらく見たくないんで控えてくれ」


 突如浮かび上がった魔法陣が消失する。

 つい先日まで魔法陣の展開すら出来なかった小娘とは思えない……バスコ・トロイよりおっかない。


「あたしね、もっと勉強したいんだ。牧場のことも、魔法のことも。それに、あんたが話してくれた魔界や、この世界のことも……」


 そして、俺の目の前に立ち、背筋を伸ばして顎を上げて、真っ直ぐに俺を見つめてくる。


「いつか、あたしもあんたみたいな人間になりたい」


 エイミーの瞳には、降るような満点の星空が映り込み、キラキラと輝いていた。


「絶対なってやるから、楽しみにしててよね……………………先生」


 縁ってのは、本当に奇妙で複雑で、何がどうなるかまるで分らない厄介なものだな。


 ……こんなお子様に泣かされそうになるなんてな。

 先生か……引き受けてよかったな。

 あぁ、くそ。

 なんでドーエンみたいな変態のオッサンにちょっととはいえ感謝しなきゃいけねぇんだよ、チキショウ。


「なぁ、エイミ……」


 先生として、人生の先輩として、何かいい言葉のひとつでもかけてやろうかとしたのだが…………言葉を封じられた。


 エイミーは俺の肩に手を乗せ、踵を上げると、そっと、俺の頬にキスをした。

 柔らかい、瑞々しい感触が頬を撫でる。


 すとんと踵を落とし、後ろ手に腕を組んで、俯く。

「はぁ~……」と、大きく、震える息を吐いて、勢いよく顔を上げる。


 再びこちらを向いた顔は、零れるような笑みで、真っ赤で、でもどこか幸せそうで……

 素直に可愛いと思えた。


「い、一応さ、新品だから……それなりに価値はあると思うんだ…………だから、その……お礼、の……つもりなんだけど……」


 耳の先まで真っ赤に染め、エイミーは震える唇を横に引き伸ばしぎこちなく話す。


 ……こいつは、まったく…………


「ありがとな。謹んで頂戴しておくよ」

「……うん。大事にとっといて」


 照れ隠しにだろうが、エイミーは「にひひ」とらしくない笑い方をする。

 意外な一面に思わず笑みがこぼれる。


「じゃ、じゃあ! あたし、もう寝るね。あんたも、早く寝なさいよ」


 早口で言い、足早に俺の前を通り過ぎる。

 ぐるりと柵を迂回し、玄関へと向かう。

 玄関のドアに手をかけたエイミーは、ふと動きを止め、もう一度こちらを振り返る。


「そうだ。たぶん、あんたはもう忘れちゃってると思うけどさ……」

「デートだろ?」

「え……?」

「ちゃんと覚えてるよ」


 エイミーがバスコ・トロイに捕まった際、俺はエイミーに解呪の魔法『シュタリーシフルール』を教えた。

 その時に約束したのだ。

『うまく出来たらデートしてやる』と。


「そっか……覚えててくれたんだ」

「俺は約束を守る男だからな」

「何年経っても?」

「あぁ」

「何十年経っても?」

「もちろん」

「何百年経っても?」

「生きてりゃな」

「そっか……………………ふぅん、そうなんだ」


 エイミーは嬉しそうにはにかむと、今まで見た中で一番の、眩しい笑みを浮かべた。


「じゃあ、この次までとっとく。それまでには、あたしも大人になって、あんたに文句言われないくらい胸も大きくなってるんだから」


 そして、今までで一番小憎たらしい、アッカンベーをして見せた。


 大人にねぇ……そいつは楽しみだ。


「エイミー」


 ドアを開けたエイミーに声をかける。

 きっとこれが最後になる。

 こうやって、二人で話をするのは。

 この次は、再会した時になるだろう。

 ……それがいつになるのかは、誰にも分からない。

 だから、最後にきちんと言っておいてやりたかったのだ。本当のことを……


「この世には遺伝っていうのがあってな?」

「うっさい! 早く寝ろ!」


 全力でドアが閉じられ、静かな夜の空に「バタンッ!」と詫びも寂びもない無骨な騒音が響く。

 ありゃあ、大人になるのに時間がかかるぞ……


 そんなことを考えながら、俺はもうしばらくの間夜の風に吹かれていくことにした。







 明けて朝。

 ……結局一睡も出来なかった。


「ふぁわ~……おはようございます、ご主人さん。早いですね」


 寝るのがすげぇ遅いとも言えるけどな。


「…………わたし、昨日全然眠れなかったんですよねぇ」


 むにゃむにゃと、完全に寝ぼけながらルゥシールが言う。

 なんだ? 当てつけか?

 こっちは一睡もしてませんけどね!


「とにかく、準備をしろ」

「はいです」


 俺は、いまだ寝ぼけ眼のルゥシールに服を一式手渡してやる。

 昨日も寝間着を借りたため、まずは着替えなければいけないのだ。

 ルゥシールが着替えるだろうと、俺は部屋を出ようとする。

 が、その前に、ルゥシールが手渡された衣服を広げ、朝っぱらからデカい声を出す。


「ゴッド・モー様セットじゃないですか!?」


 ルゥシールが広げているのは牛柄のビキニ、牛耳に尻尾だ。


「ベルムドの好意でな、一式もらえることになったんだ!」

「いりませんよ! 着ませんからねっ!?」


 ルゥシールはゴッド・モー変身セットを投げ捨てて、いつもの服を引っ張り出してくる。

 ……やっぱ着ないか。

 まぁ、寝間着にでもすればいいか。うん、いいね、寝間着! 牛寝間着!


「なにを考えているのかは知りませんが、絶対嫌です」


 内容を知らないままに拒絶されてしまった。

 まぁいい。機会はいくらでもあるだろう。

 とりあえず、謹んで頂戴しておこう。これこそ、謹んで。


「じゃあ、行くか」

「はい!」


 そうして、荷物をまとめて、俺たちはキャラバンが待機している中央広場へと向かった。

 この村で過ごした様々な思い出を胸に。







 ガタゴトと、馬車は広い街道を進む。

 幌を取り外した開放的な荷台に座り、よく晴れた空を眺める。

 山の芽吹きが、穏やかな風に乗ってここまで香ってくる。


 まさに、外の世界という感じだ。


「餞別、沢山いただいちゃいましたね」


 俺の隣に座っているルゥシールが受け取った餞別を覗き込みながら言う。


 馬車の荷台には、六人程度が並んで座れる長椅子が二脚備えつけてあり、俺とルゥシールは並んでほぼ真ん中に座っていた。


 村の見送りは盛大なものだった。

 宿屋のオヤジや、武器屋のオヤジ、ギルドからはドーエンと部下が数名駆けつけ、教会の司祭やシスターもわざわざ見送りにきてくれていた。

 授業で魔法を教えた子供たちは「行くな」「残れ」と騒がしかったが、エイミーとナトリアが説得してくれた。

 ルエラが泣いてしまっていたのが可哀想だったが、ナトリアがいれば大丈夫だろう。


 そして、沢山の餞別をもらい、簡単なあいさつを交わして村を出たのだ。


 エイミーたちとは、また会う約束をしているしな。そんなに悲しいという気持ちでもない。

 むしろ楽しみが増えたと喜ばしいくらいだ。


「ご主人さん、小さいリンゴです!」


 袋の中から小ぶりなリンゴを発掘し、瞳をキラキラ輝かせるルゥシール。

 そんなに食いたいか?


「一緒に食べましょう!」

「いや、俺はいいから」

「え~、美味しそうですよ?」

「一個をどうやって二人で食うんだよ?」

「ナイフで切ります!」


 そう言って、アキナケスを抜き放つ。


「お前は、リンゴ相手にどこまで本気出すんだよ!?」

「え、でも、よく切れますし?」

「切れ過ぎるっての! ほら、馬車の中でそんな危ないもんを振り回すな!」


 と、アキナケスを没収しようとした時、ガタン! と、馬車が大きく揺れた。


「にゃっ!?」

「ぅおっ!?」


 ルゥシールがバランスを崩し、俺の方へと倒れ込んでくる。

 アキナケスを握りしめたまま。


「危ねぇっ!?」


 間一髪。

『馬車の上殺人事件~被害者は見られていた、割と大勢のキャラバン構成員に~』に、なるところだった。


「あぅ……すみません」


 ルゥシールがぺこりと頭を下げる。


「リンゴがそちらに転がってしまいました」


 俺とは反対の、真っ黒いローブを着た女性に向かって。


「って! 俺に謝れよ!」

「へ?」

「いや、『へ?』じゃなくて! 俺、危うく犠牲者第一号になるところだったよ!」

「大丈夫です。ご主人さんは強いので!」

「強くても刺されれば死ぬよ!?」


 俺が必死の抗議をしているところへ、黒いローブに包まれた白い腕が伸びてくる。

 細い指に、小さなリンゴが握られていて、赤と白のコントラストが目に眩しい。

 フードを深く被っているため顔は見えないが、なぜか、その人が笑っているように見えた。可笑しくてくすくすと、と言うよりかは、嬉しそうに。


「……いつ見ても、賑やか」


 聞き覚えのある声と口調に、俺とルゥシールは顔を見合わせる。


「……公共の場所では、もう少し静かにするべき」


 そう言いながら目深に被っていたフードをゆっくりと脱ぐ。

 はらりと長いブロンドの髪が胸元へ垂れてくる。


「フランカ?」


 そこにいたのは紛れもなく、フランカだった。

 周りを見渡してみるも、あのデカい筋肉ゴリラと、爆乳魔導士の姿は見えない。


「……デリックとジェナは私たちの故郷に戻った。デリックの傷を治すには時間が必要と判断したから」


 やはり、相当無茶をしていたようで、体内の腱や筋、血管や神経がかなりやられていたらしい。


「……ジェナが心配してついて行ったから、問題ない。そのうち元気になる」

「いや、でも……じゃあ、お前はどうするんだよ?」


 デリックの看病はジェナに任せておけば問題ないらしい。だとしても、フランカ一人でどこに行こうというのだ?

 怪我をしたデリックも心配だが、いくら強い魔法が使えるとはいえ女の子の一人旅は危険過ぎる。


「……私は、あなたたちについて行く」

「はぁっ!?」


 思いもよらない答えに、思わず叫んでしまった。


「……【搾乳】、しぃ!」

「い、いや、だってよ!?」


 だいたいが、デリックがそんなこと許すわけがないのだ。

 フランカにベタ惚れのデリックが。


「……話し合いで了承させた」

「マジでか!?」


 再び絶叫。


「……【搾乳】…………」

「す、すまん。つい」


 他の乗客、キャラバンの構成員の視線が冷たい。

 いい加減自重しなくては。


「けど、よくデリックが許可したよな……だって、デリックは、その…………お前のことを」

「……凄く好き」

「そうそう。……って、知ってたのか?」

「……あの人のことは気にしなくていい。あの人はただの病気だから」


 デリックの恋心、意中の相手に一刀両断。

 ……デリックよ、静かに眠れ。


「……それに、少しは離れた方があの人のためになる。少しは矯正されればいい、あの極度のシスコンは…………」


 まぁまぁ、確かに多少時間をあけてみるのも一つの手…………『シスコン』っ!?


「え……じゃあ、なに? お前って、デリックの……?」

「……実の妹」


 ……似てない。

 似てないにもほどがある。


 あぁ、そう言えば、『ウチの妹はどこに出したって恥ずかしくないほど美人だ』とか言ってたっけ…………にしてもだ、だとするならば。


「あいつの妹好きは異常だな」

「……身内として、申し訳なく思う」


 そうか、妹好きだからつるぺた好きなのか……


「ならなおのこと、よく別行動なんか許したよな」

「……それは、あの人が、デリックがあなたを認めたということ」

「俺を、認めた? デリックごときが偉そうに」

「…………もらう方とあげる方では、あげる方が立場が上だから……」

「ん? 何をもらうって?」

「……なんでもない」


 よく分からんが、つまり、フランカは俺たちと一緒に来たいと言っているわけか……どうすっかな?


「ルゥシール。どうするよ?」

「え? あ、わたしは、ご主人さんの決めたことに従いますよ」


 突然の質問に一瞬面食らったようだが、ルゥシールらしい回答だ。

 ではどうするか……う~ん…………


「……ルゥシール。リンゴを剝いてあげる」


 言うなり、フランカは懐から取り出したナイフで器用にリンゴを斬り分けていった。

 そして、あっという間に、可愛らしいうさぎさんリンゴを完成させた。


「ふぉぉぉぉぉおおっ!? な、なんですか、これは!? レッドドラゴンのような形ですね!?」

「…………うさぎ」

「うさぎですか!? なるほど!」


 初めて見たのか、ルゥシールの目が眩いばかりにキラキラと輝く。


「ご主人さん! フランカさんの同行に賛成です!」


 って、こら。

 俺の決めた方に従うんじゃなかったのか?


「わたしとご主人さんでは、野宿の際の食事に不安が残ります。フランカさんは料理が出来そうですよ!」


 確かに、野営が得意なメンバーは必要不可欠だ。

 それに、魔導士としての技術も申し分ないし、何より回復魔法は目を見張るものがある。

 断る理由は、まぁ、ないか。


 ……それに、このまま二人っきりが続くと、きっと俺、不眠症で倒れる。


「じゃあ、フランカ。よろしく頼むな」


 フランカの加入を認め、握手を求める。

 と、フランカの頬に朱色が差し、嬉しそうに何度も頷いた。

 俺と握手をした後、フランカはルゥシールとも握手を交わす。

 これで、新しい仲間の誕生だ。


「これで、戦力がグッとアップですね、ご主人さん!」

「そうだな。代わりに、平均バストサイズはグッと下がるけどな」

「……うふふ。【搾乳】?」

「なんだ?」

「……私は今、ナイフを握っている」

「ちょっ! やめろ! ナイフをこっちに向けるな!?」

「……かわいいうさぎにしてあげる」

「まてまて! 公共の場所では騒ぐなと言ってたろうが!」

「……私は、過去は振り返らない主義!」


 その心意気には共感出来るが、馬車の中でナイフを振り回すな!


「ご主人さん!」

「おぉ、ルゥシール! フランカを止めて……」

「このリンゴ、凄く美味しいです!」

「お前は、のほほんと何をやってるんだ!?」

「……【搾乳】、覚悟!」

「もう、やめぇい!」


 こうして、非常に騒がしく、メンバーが一人増えた。

 馬車は相変わらずガタゴトと道を進む。


 いや、先ほどよりも若干ガタゴトを激しくしながら、長い街道をひたすら進んでいく。

 次なる目的地を目指して――








ご来訪ありがとうございます。



エイミーとのデートの約束は

『33話 バスコ・トロイの願いとルゥシールの変な踊り』

で交わされています。


デリックの妹に関しては

『27話 お袋のこと』

で話しています。


以上、

気になっちゃう人のために補足でした。

ちなみに私は「あれ、それってどこだっけ?」と必死に探しちゃうタイプです。

……時間かかるんですよね、探すのって。



さて。


ようやく、オルミクル村を離れることになりました。

そして仲間が一人増えました。


ゲームで言えば、


戦士

シーフ(獣人)

白魔導士


みたいな構成になるんでしょうか……微妙なメンバーですね。


今作的に言えば、


魔導士

魔族

魔導士


です。

……なんだ、この中二臭いメンバーは……【魔】が多い。



ちなみに、

破れちゃったルゥシールの服は、

お裁縫が得意なアーニャさんによって完全修復されております。


そしてニューアイテム。

ゴッド・モー様セッ…………いや、こっちはどうでもいいです。


というわけで、

次の町を目指します!


次回もよろしくお願いいたします。


とまと


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