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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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43話 オルミクル村-魔神襲来!?

「うわぁあああっ! バケモノだぁ!?」


 王国の外れに存在するのどかなオルミクル村。

 夕暮れが迫るその村に、突如巨大な魔物が出現した。


「ギルドに連絡をっ! ドーエンギルド長を呼んでこい!」

「女子供を避難させろ! 戦える者は武器を持て!」

「あんなデカいヤツと戦えるかよ!? 全員逃げるんだ!?」

「村はどうなる!?」

「命には代えられないだろう!?」


 村人たちはパニックを起こし、村全体が阿鼻叫喚に包まれる。


 村に現れたのは、全長が8メートルにも及ぶ巨人。

 村人たちが、これまで見たどんな生物よりも大きく、禍々しい存在だった。


 その魔物の名は……


「おい、ミーミル。お前すっげぇ怖がられてるぞ」

「ムゥ……不本意であるな」


 俺たちは今、ミーミルの肩に乗って帰還中なのだ。


 全員が疲労困憊で歩くのもやっとな状況だった遺跡の地下で、このデカいジジイだけが戦闘にも参加せずに引き籠って本を読んでいやがったのだ。

 それも、あの魔法陣のあった大部屋の、隣の部屋で。……手伝いに来いっての。


 ルゥシールを待っている時に、ひょっこりと廊下へ顔を出してきたこいつを掴まえ、村までの運搬を命じたのだ。『動けるヤツは親でも使え』という、俺が生み出したことわざもあるしな。


 それにしても、このデカいジジイが通れる通路が用意してあってよかった。

 魔法陣の隣から、巨大な通路が伸び、遺跡の地下を通って地上へ出る抜け道があったのだ。

 それはきっと、あそこで召喚した魔物を地上へと運ぶためにバスコ・トロイが造らせたものなのだろう。造りが新しかったし、遺跡に使われている石材とは質も違った。

 魔槍サルグハルバの在処を突き止めたバスコ・トロイは、魔槍のダッシュと同時進行で魔物召喚の準備を進めた。

 そうして誕生したのがあの地下の巨大魔法陣ルームと、巨大通路だ。

 魔物を連れて地上に出る際に、遺跡を破壊させたくなかったのだろう。


 バスコ・トロイの魔法でプロテクトされた巨大通路は、マウリーリオの結界をもはねのけるようで、あそこを使えば自由に行き来が出来そうだ。

 ……くっそ。じゃあ俺がこれまで、遺跡に入るためにしてきた努力は何だったんだ?

 先に教えとけよ、そういう裏ルートは。


「なんじゃコリャーッ!?」


 遥か下方から、耳に覚えのあるしわがれ声が聞こえてくる。

 見下ろしてみると、ギルド長のドーエンがフル装備で村の入り口に立っていた。

『魔物が出たからとにかく来い』的なことを言われたのだろう。ドーエンの後ろには、これまたフル装備のギルド職員たちが整列してミーミルを見上げていた。


 いやいや……

 絶対勝てないからな、お前らじゃ。


「ドーエン! 俺だー! 攻撃するなー!」


 ミーミルの肩の上から、遥か下へ向かって声の限りに叫ぶ。


「その声は、【搾乳】かぁー!?」

「おーう!」

「なんのつもりじゃー!?」


 なんのつもりもなにも……


「お友達だー!」

「ふざけるなー!」


 まぁ、これだけデカい魔神を連れて村に帰ってくるとか、普通有り得ないよな。


「ミーミル。お前、ちょっと縮め」

「ふざけるナ」


 お前もかよ。……ったく、世のジジイどもは。


「ガウルテリオのとこの小童ヨ」


 ミーミルのバカでかい声が鼓膜を揺るがす。

 至近距離だと辛い。これでも、最大限に声を抑えてもらっているのだが……


「ワシは、コノママ魔界へ帰るとシヨウ」

「そうか」

「ウム……読みかけの魔術書があってナ…………もっとも、人間界の書物も、イクツか欲しかったところではあるがナ……」


 この巨体では、どこの町に行っても買い物など出来ないだろう。


「ウチにある本でよかったら、あげるけど?」


 エイミーが、俺の背後からひょっこりと顔を出す。

 エイミーは妙にミーミルに懐いている気がする。ミーミルの魔法をふたつも覚えたからか?


「オォ、そうか。それはアリガタイ。そうしてくれると嬉しいゾ、人間の娘」

「エイミー。あたしはエイミーっていうの。名前で呼んでよね」

「ウム……エイミー。覚えたゾ」

「じゃあ、降ろしてくれる? すぐに持ってくるから」

「イヤ、それには及ばぬ。ワシが取りに伺おう」

「……やめてね、割とマジで」

「ムゥ……ソウか」


 こんなデカい生き物がやってきたらヤギがショックで全滅してしまうだろう。


 ミーミルは俺たちを手に乗せ、地面へと降ろす。

 すぐにエイミーは走って家に戻っていった。


 で、ドーエンがちょっと寂しそうな顔をしていやがった……


「あぁ……戻ってきたんだな。村に」

「ご主人さん、あんなもので村を懐かしまないでください。アレは別にこの村の名物ではありませんよ」


 けどな、ルゥシール。あそこまで見事な変態は、他の村では見られないものだぞ?

 まぁ、見たくもないけどな。


「おい、コゾー」


 と、そんなことを考えていると、村の名物がこっちに歩いてきた。

 ……来ちゃったか。


「説明をしてもらおうか」

「だから、知り合いの魔神だ」

「……それが何の説明にもなっていないことに気が付いていないようじゃの……まぁ、お前なら魔神に知り合いがいても不思議ではないがの……」


 ドーエンには、俺が魔界に捨てられたことを話している。

 なので、理解も早いのだろう。


「しかし、じゃ。聞きたいのはそのことだけではない」

「まだなんかあんのかよ?」

「アレじゃよ」


 ドーエンがデリックたちに視線を向ける。

 ミーミルから降ろされたデリックは、ジェナによって地面へと寝かされている。

 ……おのれ、ここでも巨乳を独り占めか…………


「あの筋肉ゴリラが巨乳を独占している件についてだな?」

「違うわ!」

「それに関しては、俺も非常に憤りを感じているのだ。飯でも食いながら語ろうじゃないか!」

「だから違うと言っておるじゃろうが!」


 ドーエンは俺の頭を「ぐゎしっ!」と両手で掴み、強引にデリックに顔を向かせ固定させる。

 ……く、くそ、この角度ではジェナの巨乳が視界から見切れてしまう! もう少しっ! もう少しだけ顔を横に……っ!


「どうして、王都へ輸送したはずの犯罪者を連れておるんじゃ!? しかも、一人は相当酷い怪我をしておるではないか」

「あぁ。それなら、『ぱいぱいもみもみ』というわけでだな……」

「ご主人さん。『かくかくしかじか』です」

「なるほどのぅ……魔導ギルドがのぉ……」

「なんで伝わっちゃうんですか!? なんですか? 変態特有の波長とかあるんですか!?」


 俺とこんな変態を同じカテゴリーに入れんじゃねぇよ。


「それで、ワシらには手出しをするなと言うつもりか?」

「この村を戦渦に巻き込みたくなければな。魔導ギルドがどう出るかは分からんが、下手に刺激すれば戦争の火種になりかねん」

「王国の息のかかった組織は、何をしても目を瞑っていろってわけか? えぇ、コゾー?」

「あぁ、そうだ」


 お前が一人で気に入らねぇ体制をぶっ壊すってんなら文句は言わねぇ。

 だが……


「『この村に被害をもたらした』という理由で喧嘩を吹っかけるなら止めざるを得ないな。それは、『この村がなくなれば問題が揉み消せる』と相手に言っているようなものだ」


 魔導ギルドが正攻法で来るわけがない。

 俺を十年近くもねちっこくいじめ続けている組織だぞ?

 俺に協力する者を攻撃するという方法でな。


「……もう、この村に被害は出ないんじゃろうな?」

「さぁな」

「さぁなって……!?」


 魔導ギルドの考えてることなど分かるかよ。

 俺はあそこまで捻くれた思考回路はしてねぇしな。

 だが、もし、魔導ギルドがバスコ・トロイの弔い合戦(社会的に、奴は死んだのだ。死因は『M字開脚だ』)を仕掛けてきたりした場合は……


「そん時は全力で守ってやれよ。大切な村なんだろ?」


 その時こそ立ち上がる時だ。


 敗走兵を刈り取るような真似は、この村には似合わない。


「……そう、じゃの」


 ドーエンは、言いかけた言葉をなんとかかんとか飲み込んで、不満げな表情で呟く。

 そして、背後を振り返り、そこに広がる村の景色を眺める。


「この村に血の匂いは似合わんよな」


 こちらへ向き直ったドーエンは、厳ついジジイには似合わないほど、朗らかな笑みを浮かべていた。


「明後日にはキャラバンも来るからのう。魔導ギルドのバカタレ共の相手をしておる暇などないわ」


 よし。

 とりあえず、これでこの村は大丈夫だろう。

 魔導ギルドの考えなど分からない。が、これくらいは分かる。


 魔導ギルドにとって、この村にはなんの価値もなくなった。


 魔法陣が破壊され、そこの責任者だったバスコ・トロイが敗北、戦意喪失。

 遺跡の地下施設は封鎖されることだろう。

 抜け道を把握された秘密施設など、危険で使っていられないからな。


 それに、あの遺跡にはもう、魔槍サルグハルバはないのだ。

 魔導ギルドが古の遺跡にこだわる理由はなくなった。


 ここで冒険者ギルドが魔導ギルド狩りなどを始めてしまえば話は別だが、見過ごしてやるというのであれば報復合戦に発展することもないだろう。

 むしろ、見逃してやったと一つ貸しを作れたのだ。


「あぁ、そうそう。この村で騒ぎを起こした【破砕の闘士】に関してだがな」


 俺の言葉に、ジェナとフランカが反応を示す。ルゥシールも不安そうに俺を見つめている。

 ドーエンが顎を上げ、俺に続きを話すよう促す。


「デリックおよび仲間の二名は、文字通り体を張ってこの村に迫っていた危機を防いだ」


 俺たちがあの遺跡に突入しなければ、いつかは召喚された魔物がこの村を破壊していただろう。

 明確な悪意はなくとも、『餌場』として、この村は荒らされていたはずだ。


「つーわけだから、もう罪は十分償った。釈放を求める」

「……【搾乳】…………」


 フランカの呟きが聞こえ、その後、俺たちの間を静寂が包む。

 腕組みをし、難しい顔をしてドーエンが俺を見据えている。


「…………ふん」


 鼻で笑ったのか、ため息を漏らしたのか、判別しかねるような微妙な息を漏らしてドーエンは組んだ腕を解き、鼻の頭を指でカリコリとかいた。


「まぁ、おぬしらがそれでいいなら、よかろう」


 ジェナが息を呑み、「……よかった」と呟く。

 そして、ルゥシールもどこかホッとした表情を見せていた。


「…………【搾乳】」

「ん?」


 フランカが俺の隣まで歩いてきて、俺を見上げる。

 フランカの身長はルゥシールより少し低い。

 俺と比べると随分低く感じる。


 なので、こうやって見上げられると自然と上目遣いをされているような気分になるし――


「…………あの」


 ――こうして俯かれるとつむじがばっちり見えるのだ。


 しばらくの間俯いていたフランカがゆっくりと顔を上げる。

 そして、落ち着きなく視線をさまよわせ、風にかき消されそうな小さな声で呟いた。


「…………ありがとう」


 それだけ言うと、フランカはデリックのもとへと足早に歩いていき、デリックに回復魔法をかけてやる。

 帰りの道程で、多少は魔力が回復していたようだ。

 しかし、デリックの怪我は酷く、その程度では回復しきれない。

 どこかで休んで、魔力の回復を待たないと。

 デリックも、どこかちゃんとした場所で寝かせてやった方がいいだろう。


 と、思っていたのだが。

 ジェナとフランカは二人がかりでデリックを抱き起こすと、デリックを引き摺るようにして歩き始めてしまった。

 デリックを挟むようにして二人で肩を貸し、投げ出されたデリックの足を引き摺って歩を進める。身長差があるため引き摺ってしまうのは避けられない。


「おい、どこ行くんだよ?」


 呼び止めると、二人は立ち止まり、ジェナがこちらを振り返った。


「どこか、野宿が出来る場所を探すよ」

「いや、村に泊めてもらえよ。宿なら空いてると思うぞ」

「いや、いいや」

「金がないなら貸すぞ? ツチノコを掴まえたから割と余裕があるんだ」

「そうじゃなくてさ……」


 ジェナは少しばつが悪そうな表情をして、そして自分の考えを語ってくれた。


「あたしらは、どうやったってデリックのパーティーなんだよ。けど、あんたはデリックより強いし、リーダーだった……だからさ、これ以上一緒にいると、あたしら、あんたのパーティーになっちゃうから」


 冒険者というのは、信頼で成り立っている。

 それは、ギルドと冒険者の信頼関係、顧客と冒険者の信頼関係、そしてパーティーメンバーとの信頼関係、そのすべてが揃わなければやっていけないものなのだ。


 デリックがリーダー。

 それが、あいつらにとって、どうしても譲れないラインなのだろう。


 俺といれば、きっと俺がデリックの傷を治し、ジェナやフランカの危機を救うだろう。

 それでは、デリックがリーダーとは言えない。

 それは、あいつらのパーティーの終焉を意味する。


「分かったよ」


 俺が了承したことに、ルゥシールは驚いたようだが、何も言ってこなかった。


「もうすぐ暗くなるからな。早く寝床を見つけろよ」

「分かってる」


 ジェナは不安げながらも、満足げな笑みを浮かべていた。

 もしかしたら、これが最後になるかもしれない。

 世界は広い。

 そして苛酷だ。

 またいつか、こいつらに出会える。そんな保証はないのだ。どこにも。


「フランカも。色々とありがとな」

「…………いい」


 ジェナとは対照的に、フランカはずっと俯いたまま、こちらを見ようとはしない。

 別れる者に情を移さない。それは、冒険者の間では当然のこと。常識だ。

 だからフランカは視線を合わせないのだろう。


 それは、俺たちに少なからず思い入れが出来ていますと言っているようなもので、俺としては少し嬉しいことなのだがな。


 ほら、俺。友達いないじゃん? って、やかましいわ!


「……【搾乳】………………」


 俺の名を呼び、フランカは口を噤む。

 吐き出される呼吸が長く尾を引き、微かに震えている。


「…………また、ね」


 意外な言葉だった。

 短い言葉だった。

 けど、なんだかストンと胸の中に落ちてきて、俺も自然な感じで返事をしていた。


「おう。またな」


 軽く手を上げてみるも、フランカは結局こちらを向かなかった。

 ただ、前髪に隠れて顔はよく見えなかったのだが、……微かに、笑っていたような気がする。


 キャパ以上の戦闘を気力だけで戦っていたデリックは、戦闘が終わると同時に意識を失っていた。今も、まだ目は醒めていない。

 まぁ、たっぷり寝れば、あいつなら大丈夫だろう。


 なにせ、常人の三人分くらいはダメージを与えないと死なないヤツだからな。


 俺たちが見送る中、デリックを連れたジェナとフランカは村を出て行った。

 遠ざかる背中が夕やみに飲み込まれていき、やがて見えなくなる。


「なんだか、寂しいですね」

「出会いがあれば別れもある。そういうもんだよ」

「…………です、よね」


 無理矢理笑みを作ろうとして見事に失敗しているルゥシール。

 なんだかんだと、ヤツらといるのが楽しかったのだろう。

 きっと、こいつも友達がいなかったんだろう。俺みたいに。って、やかましいわ!


 まぁ、だからってわけじゃないけども、ちょっとくらい励ましておいてやってもいいだろう。


「ただまぁ。別れがあれば、再会もあるけどな」


 ルゥシールの顔がパッと明るくなる。

 実に単純なヤツだ。


「そうですよね! うん! そうですよ!」


 そこが、こいつの最大の長所なのかもしれんがな。


「おまたせー!」


 そこへ、何やらデカい書物を抱えたエイミーが駆け戻ってきた。


「あれ? デリックたちは?」

「あぁ、実は『つるつるぺたぺた』でな……」

「……射るわよ?」

「ご主人さん、『かくかくしかじか』ですよ!」


 歴戦の殺し屋も真っ青の鋭い視線を向けるエイミーにいきさつを説明してやる。


「なによ。あたしにも挨拶くらいしていけばいいのに」

「また会えることもあるさ」

「……そうね。なんなら、こっちから会いに行ってやってもいいもんね」


 こいつ、確実に冒険者になるつもりだな……


「そうだ。ミーミル! これ、お父さんがあげてもいいって! 持って帰って!」


 はるか上空にいるミーミルに向かってエイミーが声を張り上げる。


「ウム。それはありがたい」


 ミーミルはデカい手をゆっくりと下ろし、エイミーから数冊の本を受け取る。

 そして、ミーミルの手には小さ過ぎるその本を握ると、人差し指を器用に動かして、優しくエイミーの頭を撫でた。


「フフ……おかしなものだナ。人間の娘が、とても愛おしく感じるゾ…………」

「なにっ!?」

「そんなっ!?」


 ミーミルの爆弾発言に、俺とルゥシールは驚愕の声を上げる。


「まさか、ミーミルまでもがドーエン化してしまったというのか!?」

「伝染ですか!? ウツるんですか、ドーエンさんのご病気は!?」

「なんと恐ろしい!」

「みなさん! 逃げてください! この村から早く逃げてぇー!」

「……テメェら、後でギルドへ来い。話し合おうじゃねぇか」


 額に青筋を浮かべるドーエン。

 ギルドに来い?

 嫌だね! ロリコンがウツる!


「ナァ、エイミーよ。あの小童は何を騒いでおるのダ?」

「気にしなくていいんじゃない? どうせアシノウラのすることだし」

「ウム。そうか」

「そうそう」


 なんだか仲良く会話を交わすエイミーとミーミル。

 ミーミルがエイミーを見る目が、心なしか優しげに見える。


「エイミーよ。もし、ワシの力が必要な時は、いつでも呼びかけるとイイ。惜しみなくワシの力を貸してやろうゾ」

「うん。じゃあお願いするね。」


 ……え?

 おいおい、これって…………

 ミーミルの魔法限定ではあるが…………


 エイミー、無詠唱で魔法が使えるようになったのか?


 無詠唱魔法を使用する条件。それはただ一つ。

 魔物に認めてもらうこと。


 …………あ~ぁ。

 エイミー、レベルアップの速度が半端じゃねぇぜ。

 こいつは、マジで将来化けるかもしれないな。


「デハ、皆の衆。達者でナ!」


 ホクホクとした笑みを浮かべて、ミーミルはその巨体を宙に浮かせると、高速で飛び去ってしまった。

 魔界のふた。魔法陣のある方向を目指して。一直線に。


 魔法陣は一方通行。

 つまり、こちらからなら、いくらでも通過することが出来るのだ。


 お前とも、また会えるのかね。

 まぁ、いつかまた顔を見せにいくから、それまでは達者に暮らせよ。


 これで、デリックとジェナにフランカ、そしてミーミルと、各々が各々の進むべき道へと戻っていった。期間限定のごちゃまぜパーティーも、これで解散だ。

 やるべきことはやった感じがする。


「じゃ、俺たちも宿に戻るか」

「そうですね。流石にくたびれました」

「ね、ねぇ!」


 宿に戻ろうとした俺たちを、エイミーが呼び止める。

 いやに、深刻な顔をしている。


「こ、今夜、ウチに泊まらない?」

「いや、お前もゆっくりしろよ。会うんなら明日だって……」

「そうじゃなくて!」


 エイミーの視線が地面を見たまま、上がってこない。

 今にも泣きそうな表情を見せる。


「………………怖いの。その……言われそうで…………」


 エイミーの家の牧場は経営が悪化している。

 そしてエイミーは、それを理由に自分が売られると思い込んでいるのだ。

 そんなことはないと思うのだが…………エイミーの真剣な表情を見る限り、こいつの悩みは本物なのだろう。


「分かったよ」


 だとしたら、放ってはおけないからな。


「ホント?」

「あぁ。その代わり、うまい飯を食わせろよ」

「うん! 任せて! あたしが取って置きの料理を作ってあげる!」

「では、わたしもお手伝いを……!」

「お前は何もするな、ルゥシール」

「……えぇ~…………」


 土の中に生息する巨大ガエルを「甘そう」とか言うやつに食事を触らせたくない。

 エイミーに丸投げでいいんだよ。


「美味しいのたくさん食べて、今日はゆっくり寝て、明日はいよいよ狩りに行くからね!」

「え…………明日、行くの?」

「当たり前でしょ? キャラバンは明後日に着くんだよ。沢山狩ってお金に変えなきゃ!」


 エイミーが燃えている。

 そして、俺は燃え尽きている。


 明日、狩りとか…………正直メンドイ。


 明日はもう休みにしようぜ~。

 が、俺のそんな希望はあっけなく却下される。


「言いたいことは口に出して言った方がいいわよ、アシノウラ」

「じゃあ、とりあえず、その構えている弓を下ろせ。矢をこっちに向けるな」


 そんな、無邪気な子供の脅迫に、明日の狩りが決定させられてしまう。

 あぁ、……せめて、今日はたらふく食って体力を少しでも回復させてやろう。


 うまいもんが出てくればいいなぁ。などと思いつつ、俺とルゥシールはエイミーの家に向かって歩き始めた。


 途中まで素知らぬ顔でついてきていたドーエンを道中にある冒険者ギルドの詰所に押し込んで……「ワシも! ワシもお泊まりに行きたい! エイミーちゃんの家にお泊まりしたい!」「こっち来んなハゲ!」そんなやり取りの末、無事閉じ込めて、牧場へたどり着いた。


 その頃には、外はすっかり夜になっていた。










いつもありがとうございます。



◇今回のまとめ~週刊誌の見出し風~◇


・のどかな村に魔神襲来!?

・ドーエン? ………………あぁ、あの変態の人!

・急がれる『巨乳独占禁止法』及び『巨乳均等分配法』の設置!

・古の遺跡攻略パーティー 電撃解散!!

・うっかり間違いやすい言葉 『かくかくしかじか』

・ドーエンの病気は伝染するっ!? 来訪者に初の感染報告

・エイミーピックアップ☆ おすすめの書物は『初めての搾乳~ヤギ編~』

・「怖いの……」 とある王国の王子、幼女の実家に招かれる! 



次回は牧場でお泊まりです。



次回もよろしくお願いいたします。


とまと

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