表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/150

32話 巨大な魔法陣

「ご主人さん」


 遺跡内の廊下を歩く最中、ルゥシールが小声で話しかけてくる。

 視線は、俺の胸に半分埋まった光の球体に向けられている。


「その魔法を解除する方法はないんですか?」

「ない。あ、いや、あるけど……難しい」


 シレンシオ・ジュラメントは、バスコ・トロイの魔力を送り続けることで起動し続けている。

 意識的にシレンシオ・ジュラメントを維持しようとしなければ、この枷は緩み、解除される。

 つまり、バスコ・トロイがこの魔法を維持出来ない状態になれば枷は消滅するのだ。

 すなわち、バスコ・トロイが気絶するか、深い眠りに落ちるか……永遠の眠りに就くか。


「だから、この魔法を誰かにかけている間、ヤツは眠ることが出来ないんだ」


 仮眠程度なら可能かもしれんが、不眠を続けるのは辛い。

 もっとも、バスコ・トロイなら一ヶ月くらいは余裕でやってのけそうだが。


「それでも、永続的にかけ続けることは実質不可能なんだ。だからヤツは俺がガキの頃に、この枷を俺にはめることが出来なかった」


 王都を飛び出した俺が、いつ、どこに姿を現すか分からない以上、不眠のリスクを背負って生き続けるのは得策ではないからだ。


「ってことは、今その枷をテメェに付けたってことは……?」


 会話に割り込んできたデリックが、俺の胸元に視線を向けて尋ねてくる。


「あぁ。短期決戦でケリを付ける気なんだろう」


 少なくとも、何事もなく俺をここから出すつもりはないのだろう。


 にしても、デリックの視線が胸元に来ると、セクハラされている気分になるな。

 まぁ、俺も、広義で言えば『つるぺた』に分類されるわけだしな。


「人の乳を見るな、つるぺたマニア」

「はぁ!? バカかテメェは!?」

「胸元を見つめる視線ってのは、見られてる側にはもろバレなんだぞ、よく覚えとけ」

「俺が見てんのは、その光球だよ!」


 どうだか。

 胸元隠しとこっと。あ~、男ってやーねー。


 胸元と言えば。


「ルゥシール。傷は平気か?」

「は、はい。ご主人さんのおかげで、すっかり元通りです」


 と、言いながら、ルゥシールは慌てて胸元を腕で隠す。

 なんだ?

 何を隠した?


「まさか、傷がふさがってないんじゃないだろうな?」

「い、いえ! そんなことありませんよ」

「じゃあ何を隠した?」

「な、何でもありませんってばっ」

「何でもないなら見せろ!」

「あっ! ダ、ダメですよ、ご主人さん! ちょっと、待ってください!」


 俺は、胸元を押さえるルゥシールの腕を掴み、引き剥がしにかかる。

 ルゥシールは、それに対し必死の抵抗を見せる。

 ますます怪しい。


「見せろ!」

「違うんです! 傷とか、そういうのではなくて! ふ、服が! 爆発で服が大きく破れてしまって、今、その……腕を放すと……ま、丸出しになるんですっ!」

「見せろぉぉぉぉおおおおっ!?」

「さっきより力強くなってるじゃないですかっ!?」


 なんたることだ!

 俺としたことが、なぜ今の今まで気が付かなかった!?

 あんな爆発が胸元で起きたら…………そりゃあ、丸出しになるだろう!?


 しまった!

 さっきの真剣なシーンでなら、何回か目撃するチャンスがあったはずだ!

 なぜ俺はルゥシールを背後に置いて、一人で前に出てしまったのか!?


 隣に並んでさえいれば、よ、よこ…………横乳くらいは拝めたかもしれないのにぃっ!


「せめて、横乳だけでもぉ!」

「時と場所と状況を考えて発言してくださいっ!」


 はるか前方から、怨嗟の籠った視線が向けられていた。

 見ると、エイミーが物凄い形相で睨んでいた。


 あ、大丈夫大丈夫。ちゃんと助けるから。

 そこは、真面目にやるから。


「王子……」


 俺たちが騒がしくしたせいか、バスコ・トロイが足を止めこちらを振り返る。


「これ以上戯れを続けるなら……この娘を殺しますよ?」

「短気は損気だぜ」

「…………」

「…………チッ。分かったよ」


 俺が了承すると、バスコ・トロイは何か言うでもなくまた前を向き、再びすたすたと歩き始めた。


 と、その間に、ルゥシールが高価そうなローブを身に纏っていた。

 デリックがさっきの部屋で強奪したものだ。

 それを貸し与えやがったのか、この筋肉だるまは!?

 なにしてんだよ!?

 爆乳を隠すとか、お前、おま……正気か!?


「デリック…………殺す」

「ホンット、状況弁えろよ、【搾乳】……っ!」


 ルゥシールは恥ずかしそうに頬を染め、ローブの前をキュッと握りしめていた。

 これでは谷間も横乳も下乳も見えん…………あれ、変だな。目の前が滲んで…………くすん。


 が――


 実はさっき俺はひとつ、とても『いいもの』を目撃していた。

『ち』のつく首とかではなく、もっと別の『いいもの』だ。

 なんとか、してやれるかもしれない。

 まぁ、まだ今は、その時ではないけれど。


「それにしても、あんなに油断のなさそうな人を、よく蹴り飛ばしましたね」


 ルゥシールがバスコ・トロイの背中を睨みつけながら言う。

 こいつ、もしかしてバスコ・トロイの隙を窺ってエイミーを救出しようと目論んでいるのか?


 それはやめた方がいいだろうな。

 ルゥシールの言う通り、バスコ・トロイは油断のない男だ。


「なんでもいいが、下手に刺激はするなよ。最悪の状況になりかねないからな」

「ですから、よくもまぁ、躊躇いもなく顔面に踵を入れましたねと」


 あれ、非難されているのか?

 いや、むしろ「ある意味尊敬します」みたいな表情だ。称えられているのだろう。

 ならば胸を張ろう。


「見習うがいい」

「いえ……そこまでは。真似はしたくありませんし」


 まぁ、あいつを挑発するような行為は得策ではない。それは事実だ。

 バスコ・トロイが現れて以降、エイミーの生殺与奪はヤツに握られっぱなしだ。俺ですら下手に手出し出来ない。

 下手に手出し出来ないのならば、上手に手出ししてやればいいのだ。


 要は駆け引きだ。


 現在の俺は、あいつに逆らうことは出来ない。が、従順でいる必要もない。

 もし仮に、バスコ・トロイが俺の言動に腹を立て、エイミーに危害を加えるようなことがあれば、俺があいつのすべてを終わらせる。

 何があっても、どんな犠牲を払ったとしても、命をかけてでも、世界を滅ばすことになったとしても、絶対にだ。

 それを、バスコ・トロイも理解しているのだ。

 だから、今のところ、あいつはエイミーに危害を加えられないと、俺は理解していた。バスコ・トロイはバカではないから。

 なので、ギリギリセーフのラインを、俺は責めるのだ。


 こんな安い挑発に、あいつがまんまと乗っかってくれれば簡単な話なんだがな……

 まぁ、そううまくはいかないか。


「着きました。ここです」


 随分と長い廊下を進み、バスコ・トロイがひとつのドアの前で立ち止まる。

 幅の広いドア。高さも3メートルほどあり、高い天井にまで届いている。


 ドアの向こうから、夥しい量の魔力を感じる。

 ……どうやら、ろくでもない場所であるのは間違いなさそうだ。


「実はですね、私はどうしても見てみたいものがあったんですよ」


 バスコ・トロイが珍しく相好を崩す。

 そして、嬉しそうに…………殺意の籠った視線を俺に向けてくる。


「どうか、私の期待を裏切らないでくださいね」


 何を見せろってんだよ?

 セクシーショットだったら高くつくぜ?


 不敵な笑みを浮かべたまま、バスコ・トロイがドアに触れると、巨大なそいつは重低音を響かせてゆっくりとスライドし始めた。

 魔力で開閉しているのか。……中に入ったら、出てこられなさそうだな。


 慎重に行動しよう。

 と、思ったのだが…………クソ、王国関係者は嫌な奴ばかりか。これも計算か、バスコ・トロイ?


「フランカッ!? ジェナッ!?」


 ドアが開き、室内が見えた途端、デリックが中へと駆け込んでいってしまった。

 散々罠に引っかかったというのに、無警戒にもほどがある。


 しかし、こんな光景を見せられては仕方ないだろう。

 俺だって、バスコ・トロイをぶっ飛ばしてやりたい衝動に駆られている。


 ジェナとフランカが十字架に張りつけられ、部屋の中央にぶら下げられていたのだ。

 その胸には、光の球がめり込んでいる。

 シレンシオ・ジュラメントの枷が二人にも埋め込まれていた。


 やけに広い部屋は、頑丈な石壁に囲まれており、広さは縦横20メートル四方といったところか。

 部屋の中央に天井からつるされた十字架がある以外、余計な物が何もない。もしかしたら必要な物もないかもしれない。

 とにかく、何もないのだ。

 ただ広く、何もない部屋。


 あるのは、中心部頭上の十字架と、そこに拘束されたジェナとフランカ。

 そして、ぶら下げられた十字架の下に描かれた巨大な魔法陣のみだ。

 床を埋め尽くすほどの大きな魔法陣。

 あれは……、召喚魔法かっ!?


 魔導士の魔力をエサに、魔界から魔物を直接呼びよせる魔術。

 いや、これだけ大規模の召喚魔法となると、エサにされるのは魔力だけに留まらない。


 バスコ・トロイは、ジェナとフランカを魔物に奉げる生贄にするつもりなのだ。


「デリックッ!」


 ジェナが叫び、フランカも仲間の顔を見てほんの僅かに安堵の表情を漏らす。


「今助けてやるからな!」


 しかし、デリックが魔法陣へ向かって駆け出すと、二人の表情は一変する。


「ダメ、逃げて!」

「……魔法陣に触れてはいけない」


 二人の忠告には耳も貸さず、デリックは今にも二人の生贄を飲み込もうとしている魔法陣へ突撃していく。

 と――


「ぐわぁぁあっ!?」


 デリックの身体が突如現れた光の壁によって弾き返されてしまった。

 深い緑の光を放つ魔力の壁が、魔法陣の外周を覆うように展開され、一切の侵入を拒むようにそこに存在している。


「くっそ! 今のはなんだ、【搾乳】!?」


 両肩から煙を立ち昇らせ、焼けただれた両腕を握りしめて、デリックが俺に問う。

 相当痛いのか、デリックの腕は小刻みに震えている。


「魔法陣の防御結界だ。召喚魔法ってのは非常にデリケートなもんでな、外部からの干渉をとにかく嫌うんだ。だから、魔法が発動すると、それを妨害させないために魔法陣の周りに魔力の障壁が現れるんだよ」


「そうだよな?」という視線をバスコ・トロイへ向ける。

 バスコ・トロイは何も言わず、静かに笑みを湛えている。


「って!? なんで【搾乳】がここにいんのよ!?」

「……また、ろくでもないことをしに来たの?」


 ジェナとフランカが、十字架に張りつけられた状態で体をよじる。俺から胸を隠しているようだ。

 ……酷くないか、その反応。助けに来たのに。


「それで、【搾乳】! どうすりゃいい!? どうすれば、二人を助けられる!?」

「何もするな」

「はぁ!?」


 デリックは額に血管を浮かび上がらせ、怖い顔をしたままこちらに近付いてくる。


「二人を無事に助けたければ、何もするなと言ってるんだ」


 接近してくるデリックに、俺は再度、落ち着いた声で言ってやる。

 目の前まで来て、デリックは俺の顔を覗き込むようにしてにらみを利かせてきた。

 すぐ目の前で、鬼のような形相をしたデリックが牙を剝く。


「テメェ、何言って……っ!?」

「お前の力じゃ何も出来ないっつってんだよ!」


 その鬼を、黙らせる気迫を載せて、俺は言葉を発する。


 デリックでは無理なのだ。

 バスコ・トロイに勝つことも、召喚魔法を邪魔することも、あの二人を救うことも。

 デリックにどうこう出来るレベルではないのだ。


「俺が何とかしてやるから」

「……けどっ、あいつらのことは、それだけは、俺が……っ!」

「あいつらを助けて、それで終わりじゃねぇだろうが」


 確かに、デリックが命を懸けて、人生において最大の力を発揮出来たとすれば、バスコ・トロイに一矢報いることが出来るかもしれない。

 けど、それには相当な犠牲を覚悟しなければいけない。


「あの二人を助け出して、冒険者を引退するか?」


 五体満足で勝てるなど、奇跡的にも有り得ない。

 生きていることがすでに奇跡と呼べる、そのレベルの勝率しかないのだ。


「それでも俺は!」

「お前は、それでもいいだろう! だが、あの二人はどうだ!?」


 デリックの表情が固まる。

 ようやく気が付いたか。


 あの二人が、お前の人生を犠牲にして助かって、喜ぶわけないだろう。


 お前があの二人を大切に思っているように、あの二人もお前を大切に思っているのだ。

 仲間ってのは、そういうもんだ。


「お前が逆立ちしても勝てない敵を、俺がぶっ飛ばしたところで、あの二人がお前に何か言うかよ?」


 助かるのなら、それがどんな手段だっていい。

 重要なのは……


「守りたいもんが守れれば、格好いいも悪いもねぇ。むしろ、そんなことにこだわってる方がよっぽどみっともねぇよ」


 大切なものを守るために自分を犠牲にしましたなんて、ただの自己満足だ。

 俺なら認めねぇ。

 そんな押しつけの親切心なんざ欲しくねぇ。


 だったら、地べたに這いつくばってでも生き延びてくれと言いたい。


 ただし、全部他人任せで負んぶに抱っこってのは、違うけどな。


「お前はお前に出来ることをやれ。あいつらだって、相当参ってんだろ?」


 気丈に振る舞うジェナとフランカ。

 けれど、無事なわけがない。

 平気なはずがない。

 弱音を吐かないのは、仲間に心配をかけたくないからだ。

 無茶をしてほしくないからだ。


 そこんとこを汲み取ってやるのが、リーダーの度量ってもんだろうが。


「この戦いは俺が片付ける。だからお前は、この戦いが終わった後のことを考えとけよ」


 軽く拳を握り、割と強めにデリックの胸板を殴打する。

 鈍い音が鳴り響くも、デリックはどこか呆けたような顔をしていやがる。

 なので、もう一言だけ付け加えておいてやる。


「ゴリラみたいな顔をしてな」

「やかましいわ」


 軽い反論が返ってきた。


 気持ちの悪いことに、デリックの奴は、妙に清々しい顔をしていやがった。

 まぁ、悪くはない顔だ。


「お前には二つ指令を与えておく」

「指令? ルゥシールの嬢ちゃんを守れってのか?」

「ルゥシールやエイミー、ジェナとフランカを守るのは指令以前に当然だろうが、義務だ、バカが」

「じゃあなんだよ?」


 若干イラッとした声で言うデリックに、俺は人差し指を立てて説明してやる。


「ひとつ。無茶はするな。死ぬな。大怪我をするな。で、ふたつめは……」


 次いで中指を立て、二つ目の指令を伝える。


「ここぞって時は死ぬ気で無茶をしろ」

「矛盾してんだろ、それ?」

「してないが?」

「でもよ……」

「してねぇよ」


 言葉で捉えるな。

 俺の言わんとすることは、そんな上っ面では伝わらない。


 なぁに、大丈夫だ。

 ここぞって時になったら、頭じゃなくて体が理解する。


「ルゥシール」

「はい!」


 デリックに釘を刺したところで、ルゥシールを呼ぶ。

 こいつにも、伝えておくべきことがある。


「お前が魔法を使えないことは、おそらくバスコ・トロイに知られている」

「え?」


 目を丸くするルゥシールの胸元、現在はローブで隠されているそこを指差す。


「さっきお前が喰らった魔法は、シレンシオ・ジュラメントの簡易版だ。原理はほぼ同じで、魔力に反応して爆発する。威力は十分の一くらいだろうが」


 咄嗟のことで詠唱を簡略化したシレンシオ・ジュラメントだったからな。そんなもんだろう。


「けど、わたしは魔法なんか使っていませんよ?」

「魔法陣だよ」


 言われて、ルゥシールは首に手を当てる。

 ルゥシールが金ぴかのドラゴンに刻み込まれた、魔力を封じる魔法陣。

 あれも、原理はシレンシオ・ジュラメントに近いものだ。

 魔力の核に楔を打ち込み、その楔を中心に命令を実行させる魔法陣を構築する。シレンシオ・ジュラメントならば『魔力に反応して爆発する』、ルゥシールの場合は、おそらく、『魔力の流れを阻害する』。

 そして、起動した魔法陣を破壊されないようにその上にプロテクターを構成する。

 シレンシオ・ジュラメントの光の球体、ルゥシールの黒い魔法陣がそれにあたる。

 このプロテクターの解除が最も難しく、厄介なのだ。


 失敗すれば、確実に命を落とす。


「お前の封印は、常に稼働している魔法だったんだよ」

「それで、シレンシオ・ジュラメントに反応して爆発を……」

「それで気付いたんだろうぜ、このパーティーで戦力になるのは、俺だけだってな」


 その証拠に、バスコ・トロイはルゥシールにシレンシオ・ジュラメントを掛けようとはしない。

 もう一度魔法を掛ければ、ルゥシールは確実に絶命するだろう。

 そうなれば、俺が制御不能になると踏んでいるのだ。


 当然、そんなことになったら俺は暴走してやるつもりだしな。

 バスコ・トロイの読みは間違ってはいない。


「バスコ・トロイにとって、脅威なのは強力な魔法だけなんですね」

「そういうことなんだろうな」


 バスコ・トロイの余裕はそこから来ているのだろう。

 この中で、バスコ・トロイに匹敵する魔法が使えるのは俺だけだ。しかし、俺は魔力を持っていない。吸収することは出来るが、それを許してくれるほどバスコ・トロイはお人好しではない。


 実質、俺たちの状況は『詰んでいる』と言える。

 それ故に、バスコ・トロイは余裕なのだ。


「動きがないのが不気味ですね。わたしたちを好きにさせ過ぎていると思うんですが?」


 こうして相談や作戦会議をしている間、バスコ・トロイは余裕の笑みを浮かべでただ静観している。

 妨害するわけでもなく、焦れるわけでもない。


「さっき、『どうしても見たいものがある』とか言ってたろ?」

「はい、たしかに」

「あれな、俺が屈服する姿なんだと思うぜ」

「屈服……ですか?」

「あぁ。こうして入念に作戦を練って、小細工を沢山させて、それらをすべて凌駕する完全勝利を収める自信があるんだろうよ。そうなった時に、俺が絶望する顔でも見たいんだろう」

「……悪趣味です」

「あいつが、趣味のいいオッサンに見えるか?」


 バスコ・トロイへ視線を向け、ルゥシールは渋い顔で首を振る。


「だからよ。あいつが嫌がる勝ち方をしてやろうかと思う」

「なにか策があるんですか?」

「当り前だろう? 俺の頭の中は常に策だらけだよ。サクサクのマーヴィンって呼ばれてたんだぜ?」

「……それは、誇るべきことなんでしょうか?」


 まぁ、微妙かな。


「とにかく、あいつには屈辱的な敗北を味わわせてやりたい。そこで、お前に頼みがある」

「はい! 何でも言ってください! どんな危険なことでもやってのけます!」

「え…………危険な遊びやイケナイことを?」

「遊びじゃないです! あと、イケナイことは言ってません!」


 びっくりした。

 どんなエロいことをする気かと思った。


「危険なことはしなくていい。というか、するな。俺が集中して戦えなくなる」


 ルゥシールが危険な目に遭っていたら、何はなくとも助けに向かってしまいそうだからな。


「……ご主人さんは、少し優し過ぎると思います」


 そんな非難めいた言葉を向けてくるルゥシールの顔は、どこか嬉しそうに見えた。

 いいのか悪いのか、どっちだよ?


「では、わたしは何をすればいいんでしょうか?」


 先ほどよりも、幾分語気を強く、意気込みを強く、ルゥシールが尋ねてくる。

 なので俺はルゥシールに、対バスコ・トロイ撃退作戦の重要任務を与える。


「俺が合図をしたら……」

「合図をしたら……」


 ごくりと、ルゥシールの喉が鳴る。

 一度大きく息を吸ってから、俺は作戦内容を伝えた。


「部屋の真ん中で変な踊りをしろ」

「…………………………………………は?」


 ルゥシールと、その場の空気が同時に固まった。








いつもありがとうございます。


30話31話順番間違いに関しまして、

改めまして、申し訳ございません。


飛ばしてしまった方は、ご面倒ではございますが30話もご覧いただけますようお願い申し上げます。



さて、気になる(変な)セリフで終わっていますが、

次回は間違えずに、この続きを公開いたします。(当然ですけども)


次回もよろしくお願いいたします。


とまと

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ