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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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31話 黒幕登場

もうしわけありません!


昨日30話と31話を間違えてアップしてしまいました。


ややこしいことをしてしまってもうしわけありません。

以後十分気を付けます。

 抱きしめたルゥシールの肩が少しずつ温かくなっていく。

 聞こえるのはルゥシールの呼吸だけだった。


 どれくらいの間、そうしていたのだろうか。


 異変が起こったのは、突然だった。


 ―― ヒュンッ! ――


 風を切る音を聞き、俺とルゥシールはお互いに後方へと飛び退いた。

 ついさっきまで俺たちがいた場所を、高速の矢が通過していく。


「……見せつけるつもりなら爆発させるわよ……アシノウラだけ」


 壁の向こうから、エイミーが物凄い形相でこちらを睨んでいた。

 どこかで聞いたことのあるセリフを口走っている。


「『若い男女がみだりに肌と肌を密着させるな』とか言ってたのはどこのどいつだ、【搾乳】!?」


 その後ろからデリックも顔を覗かせる。

 二人とも、高価そうなローブを肩にかけている。魔導士から強奪したようだ。

 と、そんなことはどうでもいい。


 こいつらは何かを勘違いしている。

 俺たちは別にやましいことをしていたわけではない。

 で、あるならば、ここは毅然と釈明をしておくべきだろう。


「にゃ、にゃにを言ふのだ、おまいたち!?」

「とりあえず落ち着け、【搾乳】……」


 自分でも驚くところから声が出た。

 頭蓋骨に穴でも開いたのかな、俺?

 音漏れが酷い。


「あ、あの、エイミーさん、デリックさん! さ、さっきのは、別に、そのやましいことではなくてですね……つまり、寒さ対策といいますか……温めてもらっていただけでして……深い意味などは、特に…………」


 ルゥシールが懸命に弁明を試みるも、エイミーとデリックの視線は冷たいままだ。

 こうなったら、俺が助け舟を出すしかないな!


「ルゥシールの言う通りだ! 俺は温めていたんだよ。ルゥシールを、孵化させるために!」

「温めたところで孵りませんよ!?」

「(話を合わせろ! あいつらバカだからきっと信じる)」

「(無理がありますよっ!)」

「(だったら、嘘でもここで孵ってみせろ!)」

「(無茶ぶりにもほどがありますっ!)」


 くそう。

 なんだこの微妙な空気は。

 えぇい、居心地の悪い。

 こうなったら、最後の手段。

『さり気にフェードアウト』だ!


「あ、いっけね! 俺、この後用事あるんだったわぁ」

「棒読みにもほどがあるわよ、アシノウラ」

「テメェは俺らをバカにしてんのか?」


 騙されないだとっ!?

 これまで8割以上の成功率を誇ってきた切り札だというのに……っ!


 俺が驚愕におののいていると、すぐそばでルゥシールがぼそりと呟いた。


「……ご主人さん、残念です」


 まぁ、良くも悪くも、普段通りの空気が戻ってきた。

 やっぱり、さっきの俺はどうかしていたのかもしれん。

 よし、なかったことにしよう。

 忘れよう。そうしよう。


「よぉし! そんな細かいことなど気にしてないで、先に進むぞぉ!」

「……まぁ、状況が状況だし、審議は保留にしといてあげるわよ」


 エイミーもデリックも、ようやく前向きになってくれたようだ。

 とにかく、普段通りで行こう。

 そんな思いを込めてルゥシールにも「行くぞ」と、声をかける。

「はい」と、いつものように頷いたルゥシール。

 うん。いい感じにいつも通りだ。


 と、思ったのだが。


 ルゥシールは静かに俺の隣に歩み寄り、そっと背伸びをして俺の耳元に口を近付ける。

 そして……


「さっきは、ありがとうございました…………嬉しかったです」


 そんなことを、俺の耳元で囁いてから、足早に遠ざかって行ったのだ。

 ほんの少し、照れたような余韻を残して、ルゥシールの声が鼓膜に響いた。


 ……っだよ。

 全然普通じゃねぇよ。


 …………くっそ、心臓痛ぇ。


 危うく再噴出しかけた鼻血を気力で堪えて、緩む口元を激しく手のひらで打つ。

 浮ついている場合ではない。

 魔導ギルドの連中を一掃したんだ。きっと気付かれた。

 すぐにでもやってくるだろう。

 ヤツが。

 最も厄介な魔導士が……


 その時。


「きゃあっ!?」


 エイミーの悲鳴が聞こえ、次いでデリックの雄叫びが響く。


「テメェ! その子を放しやがれ!」


 そして、次に聞こえてきたのは、大地を揺るがすような爆発音だった。


「エイミー! デリック!」


 俺は駆け出し、壁の向こうへと跳び出す。


 ルゥシールがこちらに向かって跳躍してくる。

 敵を察知して飛び退いたのだろう。

 俺の隣に綺麗に着地をする。


 デリックが前方の床にうずくまっている。肩から煙が上っている。

 そして、うずくまるデリックを見下ろしている男、その脇に抱えられるようにエイミーが捕らえられている。


「やっぱ、お前だったか……」


 俺は目の前に現れたいけ好かない魔導士を睨みつけ、その名を呼んでやる。


「バスコ・トロイ!」

「これはこれは、マーヴィン王子。お久しゅうございます」


 バスコ・トロイは恭しく頭を下げ、俺に薄気味の悪い笑みを向ける。


「その娘を放せ。それとも、お前までロリコンに走ったのか?」

「相変わらず、冗談に品がありませんなぁ。これ以上、ブレンドレル家の名を汚す行為はお慎みくださいませんかな?」


 感情が全くぶれない。どこまでも冷静な男だ。


「名を汚す行為ってのは、品のない冗談のことか?」

「もちろん、違いますとも」

「だろうな」

「えぇ、あなたが生きているだけで、ブレンドレル家の名は穢れていくのです。いい加減、おくたばりになってはいただけませんかな?」


 面と向かってくたばれとは……


「相変わらず、性根の腐りきった嫌なヤツだな」

「あなたに嫌われるというのは、私にとっては最高の褒美でございます」


 余裕の笑みを浮かべながらも、バスコ・トロイには隙がない。

 いつでも魔法を放てるように精神を極限まで集中させている。


 バスコ・トロイは魔導ギルドトップクラスの魔導士だ。

 ヤツほどのレベルになると、相手が魔法を起動させてからでもその対応が可能なのだ。

 より的確な魔法を、より的確なタイミングで放てる。

 それを可能にしているのが、尋常ではないほどの集中力と精神力だ。


 ヤツなら、臭汁を鼻の穴に流し込まれても平気で魔法を放ってくるだろう。


 けど、俺の無詠唱なら…………っ!


「おっと、その手を止めていただけますかな?」


 魔槍に触れようとした俺の動きを、バスコ・トロイが静止させる。

 人差し指と親指を伸ばし、右手で銃を形作る。

 その人差し指をエイミーのこめかみにあてがう。

 指先に、小さな魔法陣が展開している。


「あなたと私の魔法発動時差は0.58秒。撃ち合いでは敵いませんが、あなたの魔法が届く前にこの娘の頭をぶち抜くことくらいは可能です」


 涼しい顔で言ってのける。

 事実、一切の躊躇いもなく、あいつはやるだろう。

 目的のためになら、自分の命も投げ出すような危険人物だ。


 魔法の発動が早くても、到達するまでに、もっというならばバスコ・トロイを無効化するまでには数秒かかる。1秒あれば、バスコ・トロイはエイミーを殺せるのだ。


 手出しは出来ない。


「賢明な判断です、王子」


 落ち着き払った、かりそめの笑みがバスコ・トロイの顔に浮かぶ。

 気に入らない顔だ。


「いい加減、『様』くらいつけたらどうだ? 不敬だぜ、礼儀知らずが」

「ご冗談を。敬意を払う必要のない【不良品】に様付けなど……」


 バスコ・トロイの悪態が終わる前に、空気が揺らいだ。

 隣にいたルゥシールの姿が突如消え去っていた。


 俺が隣へ視線を向けた時には、ルゥシールは跳躍し、はるか前方、バスコ・トロイの頭上に迫っていた。


「ご主人さんを…………【不良品】なんて呼ぶなっ!」

「ばか、ルゥシール! やめろっ!」


 振り上げたアキナケスが黒い刀身を煌めかせる。


「――っ!?」


 流石のバスコ・トロイも驚愕の表情を浮かべる。

 鋼の精神が一瞬だがかき乱されたようだ。


 しかし、瞬きの半分の時間でバスコ・トロイの表情から動揺が消える。


 次の瞬間――


「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」


 微かな耳鳴り。

 そう思わせるほど小さく速く、バスコ・トロイの詠唱が完了する。

 瞬間、ルゥシールの首元で大爆発が起こる。


「ルゥシールッ!?」


 俺は駆け出すと同時に魔槍サルグハルバに手を触れ魔力を力任せに吸い上げる。


 爆発により吹き飛ばされたルゥシールは放物線を描くように、こちらに向かって滑空してくる。

 血飛沫が舞い、破れた皮膚の一部と、引き千切られた肉片が辺りへ飛び散る。


「嫌ぁあっ!?」


 甲高い悲鳴はエイミーのもので、デリックは息を呑むばかりで声を上げなかった。


 そして、俺は――


「 ――力を貸せ! 全力でだ! 頼むっ!―― 」


 久しぶりの『詠唱』有りの魔法を放つ。

 まだ空中にいるルゥシールに向かって、今出来る最大の回復魔法を浴びせかける。

 淡い薄紅の光が一点に凝縮し、激しい熱量をもって周りの空気に波紋を拡げ景色を屈折させる。その眩い光点から放射状に光が拡散してルゥシールの全身を包み込む。


 一秒でも早く。

 瞬きする暇もないほど、とにかく早く。


 ルゥシールを癒せっ!


 一度呼吸をするだけで、あいつは死んでしまうかもしれない。

 チラリと見えたルゥシールの身体は、首と胸が抉れ、赤黒く染まっていた。

 地面へ激突すれば、あいつの首はどこかへ飛んで行ってしまうかもしれない。


 長い……永い…………この一瞬が途方もなく長く感じる。

 なのに、時間がない。全然足りない!

 遅い!

 回復が遅過ぎる!

 時間というのは、こんなにも遅く流れているものなのか!?

 まだか!?

 魔槍の魔力を全部くれてやってもいい!

 俺の身体から必要なものを全部持って行ってもいい!


 ルゥシールを助けやがれ!


「ルゥシールゥーッ!」


 喉が裂けるほど叫び、時間が突然動き出す。

 光の洪水が世界を飲み込み、酔いそうな程の魔力が暴れ狂う。


 何も見えない。

 けれど、分かる。


 そこにいる!


 俺は腕を伸ばし、すべてを白く塗りつぶす光の中からルゥシールの身体を探り当てる。

 指先が触れた柔らかい感触を決して手放さないように、しっかりと掴み取る。


 グッと引き寄せ、その体を胸に抱く。

 絶対に離さないように、力強く。


 零れ落ちないように、慎重に。


 受け止めて、ルゥシールの身体ごと、俺は後方へ転倒する。

 背中をしたたかに打ちつけ呼吸が一瞬止まる。

 が、そんなことはどうでもいい。

 そんなことよりも……


「ルゥシール、無事か!?」

「うっ……は、はい……イタタタ。ご主人さん、ちょっと、痛いです」


 力任せに抱きしめた腕の中から、聞き慣れた声が聞こえてくる。

 腕を解くと、髪の毛をぐしゃぐしゃに乱した、のんきなアホ面が俺を見つめていた。


 首にはどす黒く変色した夥しい血液が付着しているが、きちんと繋がっている。


 ルゥシールは、生きている。


「………………っぁあ! …………よかった………………」


 脱力して、腕と頭を地面へ投げ出す。


 ……生きてた。

 間に合った………………よかった。


「……心配させんな」

「あぅ…………すみません」

「いや、いい。生きてたなら、それで……いい」


 ドッと疲れた。

 それと同時に、これまでに感じたことのないような安堵感が全身を満たしている。


 やばい。

 頭がくらくらして……泣きそうだ。


「素晴らしい」


 吐息に乗せるように、バスコ・トロイが称賛の声を上げる。


「凄まじい魔力だ。流石は、魔槍サルグハルバ! ……想像以上です」


 恍惚とした表情を見せたかと思うと、すぐに無表情が上書きされる。


「さぁ、王子……渡して、もらいましょうか」


 すっと、腕が差し出される。

 右手は相変わらずエイミーに突きつけられている。


 デリックの傷も、さっきの大型回復魔法で回復しているようだ。

 ついでに言えば、周りで倒れていた魔導士どもの体力も回復してしまっているだろう。

 中には、ぼちぼち目を覚ます者も出て来るかもしれない。


 俺としたことが、完全に我を忘れていたようだな。


 が、反省は後だ。

 今はバスコ・トロイのことに集中する。


 ざっと部屋を見渡すと、ここは遺跡の中の一室で、しかもかなり様々なギミックが仕掛けられた場所のようだ。

 その証拠に、魔導ギルドが持ち込んだのだと思われる様々な計器や器具があちらこちらに設置されている。

 何ヶ月もここに籠っていたのだろう、微かに生活の匂いも感じ取れる。


 それだけ必死に、魔槍が安置されていた部屋の扉を開けようとしていたわけか。

 そこへ、俺たちがすんなり侵入しちまって。さぞプライドが傷付いたことだろう。

 いや、実利主義のバスコ・トロイならば、魔槍が手に入れば誰がこの槍を引き抜いたって構わないというかもしれんな。


「魔槍を渡せばエイミーは解放されるのか?」

「これは取引ではありません。命令です」

「……クソヤロウ」

「なんとでも」


 俺は体を起こし、緩慢な動作で立ち上がる。

 さて、どうしたものか……


「時間を稼いだところで、良案も浮かびますまい。私も暇ではありませんのでね。お早く願います」


 ふん。

 嫌な奴だ。


「ルゥシール。お前はここに残ってろ」

「でも……」

「いいから」

「…………はい」


 ルゥシールにそう告げ、俺は一人でバスコ・トロイのもとへと歩いていく。


「デリック。変な気、起こすんじゃねぇぞ」

「…………ふんっ!」


 何かを企んでいたのがバレバレのデリックが……おそらく俺が魔槍を手渡す隙に飛びかかろうとでもしていたのだろうが……指摘を受けて渋い顔をする。

 お前の考えなんかお見通しなんだよ。俺も、バスコ・トロイもな。

 隙なんか出来ねぇよ。大人しくしてろ。


「お仲間思いなんですね。存じ上げませんでした」

「そりゃあ、王宮にはお前らみたいなクソヤロウしかいなかったからな。優しくしてやる相手がいなかっただけだよ」

「左様で」


 バスコ・トロイの目の前に立つ。

 真正面から睨みつけてやるも、柳に風と受け流される。


 クソジジイ……確か、今年で四十くらいだったか?

 俺の父親と同じ年齢だったはずだ。


 俺とは、まさに大人と子供の差があるわけだ。やりにくい。


「ほらよ」


 腕を伸ばし、魔槍をバスコ・トロイに突きつける。


「これはご丁寧に。ですが……」


 バスコ・トロイは魔槍を受け取る素振りも見せず、俺に向かって左の人差指を突きつけた。

 当然、右手はエイミーに向けたままだ。

 何をする気だ……って、アレしかないか。


 バスコ・トロイが魔導士連中から恐れられている理由。

 魔導ギルドでただ一人、こいつだけが扱える厄介な魔法。

 魔導士にとって、手足をもぎ取られるに等しい、最悪の魔法。


「 ザウラゲイト・エバ・ホヌプス――冥界の守護者よ、静寂と共に生きる者よ、荒ぶる魂を排し、摂理に背く者へ破滅を与えよ、メルセゲルの瞳により愚者を監視せよ―― 」


 高速詠唱を得意とするバスコ・トロイがしっかりと詠唱を行う。

 それだけ、難易度の高い魔法なのだ。

 普段の俺なら余裕でかわせる。

 が、今は甘んじて受けるしかないだろうな…………この枷を。


「 シレンシオ・ジュラメント 」


 バスコ・トロイが魔法の名を口にすると同時にヤツの指先に半透明の球体が発生し、その光の球体が俺の胸へとぶつかり、そのまま体の中へとめり込んでいく。

 球の半分が体内へ埋まったところで光球は動きを止め、一層眩い輝きを放つ。

 瞬間、俺の体内に言いようのない不快感が走り抜ける。

 いうなれば、全身に根を張られたような……神経を浸食されていくような気持ち悪さだ。

 その感覚が通り過ぎると、今度は両手足が鉛を巻きつけられたように重くなる。


 これが、バスコ・トロイの切り札。

 拘束の魔法、シレンシオ・ジュラメントだ。

 当然、手足を重くして動きを鈍くするだけの可愛らしい魔法じゃない。

 この魔法は体内へと根を張り、魔力を監視するのだ。

 この枷を付けられた魔導士は、もう二度と魔法を使うことが出来なくなる。


 もし、魔法を使用すれば、その魔力に反応して枷が埋め込まれた箇所…………心臓が大爆発を起こす。体内に存在するすべての魔力を吸い上げて、強制的に自爆魔法が発動させられるのだ。


「魔力を持たない王子には効果の少ない魔法ですが……虫のようにしぶとく煩わしいあなたのことです、小癪な方法で魔法を使おうとされるのでしょう」


 バスコ・トロイは嗜虐的な笑みを浮かべて、俺を見る。いや、見下す。


「あなたに魔法を使われると厄介どころの騒ぎではありませんのでね……六年前、王都を吹き飛ばした前例もありますし……用心にこしたことはありませんので」

「好きにしろよ」

「そのつもりです。最初からね」


 口元を歪め、実にいやらしく笑う。

 な?

 俺以上にいやらしい、嫌な奴だろう?


 バスコ・トロイは薄い笑みを浮かべて腕を伸ばし、俺の手から魔槍を奪い取る。

 悠然と。

 それが当然のことのように。

 魔槍の持ち主にでもなったかのような振る舞いで。


 その目の前で、俺は『反撃の意思なし』を示すように両腕を揃えて、だらりと垂らしている。

 バスコ・トロイの視線が一瞬そちらに向かい、満足げに目を細める。


 そこで俺は、盛大な後ろ回し蹴りをバスコ・トロイの顔面に叩き込んでやった。


 俺の左の踵がバスコ・トロイの左頬にめり込む。

 俺が魔槍を右手で持っていたために槍の刃が左上、柄尻が右下になっていたので、開いている空間を狙ったのだ。


 油断してんじゃねぇよ、バーカ。


 視線を外した一瞬を突いた俺の一撃はクリーンヒットし、バスコ・トロイは勢いよく地面へと倒れ伏した。

 しかし、右手だけはエイミーから外さず、人質解放にまでは繋がらなかった。


「ルゥシールを傷付けた分だ。大人しく受取っとけ」

「…………っかは! ………………貴様……」


 口の端から血を流しながら、バスコ・トロイが俺を睨み上げる。

 震える膝に手を添えてゆっくりと立ち上がると、乱れた髪もそのままに憎悪の視線を突きつけてくる。


「ようやく様付けを覚えたか?」

「ほざけっ! この小娘がどうなっても……っ!」


 言わせねぇ。


 バスコ・トロイへ向かって、遠慮なしの殺気を叩きつける。

 森中の魔物が尻尾を巻いて逃げ出した、荒れ狂うような俺の殺気だ。

 存分に味わえ。

 そして、その汚ぇ口を閉じやがれ。


「……いいか、バスコ・トロイ。その娘のことも丁重に扱えよ。かすり傷ひとつつけてみろ……前歯とあばらを全部折ってやるからな?」

「……ふふ。面白い冗談だ」


 バスコ・トロイは冷静さを取り戻したのか、口元の血を拭い、髪の乱れを手櫛で整えた。

 沼のような、底の見えない不気味さを湛えた瞳が俺を見つめる。


 そして、魔槍の先端を俺の喉元へそっと突きつけてきた。


「ここから先、反抗的な行動は慎んでもらう。貴様が行動を起こす前に小娘を殺すことなど造作もないのだからな」

「お前がエイミーを殺す前に、俺に出来ることがどれだけあるか、考えてから発言するんだな」


 微かに、バスコ・トロイが眉をしかめる。


「遺跡をまるごと破壊してやろうか? あの時の王都のように……」

「…………ふん」


 こいつが一番困ること。

 それは、こいつがここで行っている『何か』を妨害されることだ。


 何をしているのかは知らんが、この遺跡に固執していることは確実だ。

 あっけなくぼろを出しやがった。


「俺と対等になれるなんて、考えないことだな」

「もう黙れ、【不良品】」


 慇懃無礼な態度が、ただの無礼になった。

 バスコ・トロイは虫でも見るような目で俺を一瞥した後、「ついて来い」と、俺に背を向ける。


 エイミーの腕を掴み、強引に歩かせようとするが、エイミーが微かな抵抗を見せる。

 前進を拒み、足を踏ん張るエイミー。その瞳が俺を見つめる。


 俺はエイミーを見つめ返して、静かに頷いて見せる。


 下手に抗うと傷が増えるだけだ。

 必ず助けてやるから、今は大人しく従っとけ。


 視線でそう訴えると、エイミーは渋々といった表情ながらも、頷いた。


 そうだ。偉いぞ。

 まずは、バスコ・トロイの腹の内を探らないとな。


「お前たちも、行くぞ」


 振り返り、ルゥシールとデリックに声をかける。


 エイミーの腕を引き先行するバスコ・トロイを追いかけ、俺たちはその部屋を後にする。

 そこでようやく、ジェナとフランカに再会するのだ。


 最悪に、クソッタレな状況でな。








いつもありがとうございます。


RPGで対魔法使いの面倒くさい3大能力といえば

魔力強奪、魔法封印、魔法反射、

だと思います。


魔法封印を扱う敵の登場です。

全魔導士に嫌われている魔導ギルドの重鎮です。

当然オッサンです。

救いようがないです。


せめて美少女なら……

主人公に負けた後、主人公に惚れちゃってヒロインとして仲間になんて展開もありなのに……


いや、待てよ……


相手がオッサンでも………………………………………………有りか?


いや、ないな。うん、ないない。



またのご来訪お待ちしております。


とまと

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