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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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29話 忌々しい子孫とクソ先祖

 薄暗い通路を抜けると、広い部屋へと出た。

 白い壁に囲まれ、うすぼんやりとした光が差している。

 天井が高く、見上げると首が痛いほどだ。


「空間が歪んでないか、これ?」


 天井の高さは優に20メートル以上はある。

 こんなに高い天井なら、村の中からこの遺跡の天井が見えるはずだ。が、そんなことはなかった。

 どこかに飛ばされたか、もしくは、高く見せているだけなのだろう。

 転移魔法か、幻視魔法をかけられたようだが、いつ魔法を使われたのかまるで分らなかった。


「これも、マウリーリオの魔法アイテムの力なんですかね?」

「たぶんな」


 もしかしたら、この遺跡そのものがマウリーリオ作の魔法アイテムなのかもしれん。

 床のスイッチを踏み込んだら天井が……なんて原始的なトラップはフェイクで、もっと高度な技術で作られている可能性が高い。


「ご主人さんの目で、魔力は見えないんですか?」

「なにも見えんな。うまく隠されてるようだ」


 魔力の流れや核でも見えれば、即座に破壊してやるところなのだが……

 マウリーリオの魔法アイテムは俺の能力の上を行くらしい。

 忌々しい。


「おい、【搾乳】、なんか書いてあるぞ」


 デリックが指差したのは、部屋の中央にぽつんと立つ石碑だった。

 50メートル四方の広い部屋の真ん中に、これ見よがしに高さ2メートル程度の石碑が建っている。


 怪しいわ。


「ちょっと読んできてくれ」

「お前は……、人を囮に使うなよ」

「たぶんだが、デリックなら常人の三回分くらいのダメージを食らっても死なない気がする」

「じゃあお前ぇは百回分くらいだろうが」

「まさか。俺、乾燥肌なのに」

「関係ねぇだろ!?」


 肌が繊細なんだよ。

 王族だしな。


「『忌々しい子孫へ』って書いてあるわよ」


 エイミーが目をすがめて石碑に書かれた文字を読む。


「『忌々しい子孫へ』ってことは、俺みたいな可愛らしい子孫宛てではないってことだな」

「100パーお前宛てだから、読んでこい!」


 デリックが無遠慮に俺の背中を叩き飛ばす。

 繊細で華奢な俺は、その馬鹿力によって四歩も前進させられた。


 と、俺の目に魔力反応が映る。


 まるで俺が前進するのを待っていたかのように、足元から氷の刃が突き出してきた。

 剥き出しの魔力を纏った、原始的な魔法だ。


 手のひらを氷につけ、すべての魔力を吸収する。


 硬質な音が可聴域ギリギリの高音を響かせ耳鳴りを誘発する。


「とりあえず、あとでデリックは殴る」

「いや、ワザとじゃねぇから!」


 確実にあいつのせいで発動したトラップだ。

 というか、……このクソ先祖。


 もう何もないですよ~みたいな部屋を用意しておき、しかも天井が高くて「うわ~」的に頭上を見上げているところで足元を狙うとか、いちいちいやらしい仕掛けだ。

 しかも、その気になれば突破出来る難易度に抑えているところがムカつく。

 これで命を落としたら「お前のレベルが低いのが悪い」とでも言わんばかりだ。

 免罪符のつもりか、これは?


 やはり、この高い天井もトラップの演出だったか。


 俺は改めて部屋全体を見渡し、石碑の前へと歩いていく。

 さっきの氷の刃以降、魔法は発動しなかった。

 イタチの最後っ屁みたいなトラップだったな。


 石碑の前に立ち、そこに刻まれた文字を見上げる。


『 忌々しい子孫へ

  おい、子孫。

  テメェ、魔力がないだろ?

  だから、太陽と三日月の宝玉を手に入れられなかった、違うか? 』


 語り掛け口調かよ。

 残念だな、クソ先祖。そんな宝玉、最初から眼中にねぇよ。

 まぁ、魔力がないってとこは当たりだが。


『  で、壁のくぼみを無視してドアをこじ開けたらトラップが作動した。

   テメェ、せっかちだな?

   少しは反省したか?                     』


 またまた残念だな。

 冷静に判断し、絶対の確信をもってくぼみに爆乳を突っ込んだんだ。

 これを書いていた時のクソ先祖のドヤ顔を想像すると笑えてくるぜ。

 てんで見当違いだ。


「……さすがのマウリーリオさんも、ご主人さんの奇天烈さは想定外だったようですね」

「ぅおっと!?」


 突然、背後から声がして驚いた。

 気が付くと、ルゥシールがすぐそばにいた。


「気配を絶って近付くな」

「え? 普通に歩いてきましたけど?」

「スキップして来いよ」

「なんでですか!? そこまでテンション上がりませんよ」

「いや、お前がスキップすると揺れるし、ゆっさゆっさって音で俺も気付くし」

「そんな豪快な音は出ませんよ!?」


 ふん。俺の乳揺れセンサーを舐めるな。

 1キロ先で巨乳が揺れていたって察知するっての。


 振り返ると、デリックとエイミーもこちらに向かって歩いてくるところだった。

 エイミーはデリックにしがみつき、二人は恐る恐る、辺りを警戒しながらこちらに向かっている。


「わっ!」

「どわぁっ!?」

「きゃあ!?」


 不意に大声を上げると、デリックとエイミーはそろって尻もちをついた。

 うわ、めっちゃおもしろっ!


「ガ、ガキみてぇなことしてんじゃねぇよ!」

「あ、あんた、いい加減にしなさいよね、アシノウラ!?」


 ひとしきり笑った後で、改めて石碑を見上げる。


「さすがのマウリーリオも、アシノウラの奇天烈さは予測出来なかったのね」

「こいつの思考を理解出来る人間なんざいねぇんだろうな」


 エイミーとデリックがルゥシールと似たような感想を漏らす。


 失敬な。

 俺の崇高な思想が、常人には理解出来ないだけさ。


『  ここまでのトラップを潜り抜けてきたことだけは褒めてやる。

   テメェ、なかなか悪運が強いようだな。それとも執念か。

   魔力を持たないテメェが、この遺跡に来た理由は察しがつく。

   いいぜ、くれてやる。持って行け。

   ただし……                       』


「俺、石碑で『……』って初めて見た。こいつ、結構イタイよな? 自分に酔い過ぎじゃね?」

「ご主人さん、静かに読んでください」


 他の連中が真剣に黙読しているので、俺も仕方なく先を読む。


『  テメェが“魔槍サルグハルバ”を何に使うつもりかは知らねぇ。

   が、悪用だけはするな。

   ろくなことにはならねぇからな。


   もし、テメェ以外のヤツが悪用しているようなら全力で止めろ。

   これは、この石碑を見たテメェの義務だ。         』


 随分勝手なことを抜かす。

 何が義務だ。舐めてんのかと、小一時間説教してやりたい気分だ。


『  うますぎるエサには、必ず虫が寄ってくる。

   まぁ、テメェもその虫の一匹ってわけだ。

   精々叩き潰されんなよ。                 』


 長い。

 無駄に長いぞ、クソ先祖。

 高い位置に文字が書かれているから、いい加減首が疲れてきた。

 その割に重要なことが書かれていないし。

 誰が虫だ、誰が。


『  最後に忠告しておくが、

   永久不滅の魔力も、魔神共に渡ればその魔力を吸い尽くされちまうからな。

   そうなったら捨てろ。何の価値もねぇし、

   もう二度と魔力を復活させることは出来ねぇ。

   ただの槍だ。


   いいか、魔神にはくれてやるなよ?

   ヤツらは諸悪の根源だからな。

   もっとも、テメェが人間嫌いで、この世界を亡ぼしたいってんなら仕方ねぇ。

   好きにしろ。

   ただし、後悔はするな。


   俺の意志は、俺が死んだ後も受け継がれていく。

   ここの魔槍のようにな。


   世界に牙を剝きやがったら、そいつは俺への宣戦布告だ。

   容赦なく叩き潰してやるから、覚悟しとけよ。 


   じゃあな、忌々しい子孫。


   精々、人生の中であがきやがれ。



   マウリーリオ・ブレンドレル                』


「なんというか……」


 俺が、半ば飽きてきて飛ばし読みをしていると、ルゥシールがため息を漏らした。


「愛情が感じられませんね」

「ないんだろ、愛情が」


 会ったこともない子孫に愛情なんか注げるかどうかも怪しいしな。

 注がれたところで、気持ち悪いだけだ。

 ジジイはジジイらしく、頑固で偏屈で、若い世代に嫌われてればいいんだよ。


『忌々しい子孫』?

 そっくりそのまま返してやるぜクソ先祖。


 2メートル近くある石碑の上方三分の一くらいにそんな長い文章が細かい文字で刻まれていた。

 目の高さにあるのは、ブレンドレルの紋章だけだ。

 この位置に文章を書けよ、面倒くせぇ。

 本当に嫌な性格をしていやがる…………


「なんというか。本当にあんたのご先祖様なのね、マウリーリオって」

「あぁ、性格の悪さが文章から滲み出していやがる」

「俺とは似ても似つかない嫌な奴だよな」

「隔世遺伝かと思うほど、色濃く遺伝子を引き継いでるわよ、あんたは」


 不本意な評価だな、それは。

 この先祖に比べたら、俺なんか可愛いもんだ。

 だいたい、この先祖の回りくどいことといったら。

 人を陥れることを生きがいにしているとしか思えない。


 …………いや。

 こんな回りくどくも人を小馬鹿にしたようなトラップを仕掛けてきたやつだ。

 こんなあっさりと幕引きだなんてありえない。


 何かあるぞ。

 と、足元に視線を向けると、石碑の根本、地面すれすれに小さな文字を発見した。

 俺は慌ててしゃがみ込み、その細かい文字を読む。


『  あぁ、言い忘れてたけどよ。

   この部屋に入ってから一定時間が経つと……

   ……そうだな。だいたい、上の文章を読み終わるくらいの時間かな……

   ここの床、消えるから                     』


「なにっ!?」


 俺が叫ぶのと、部屋の床が消えるのはほぼ同時だった。

 突如襲いくる浮遊感。


「えっ!?」

「なんだ!?」

「きゃっ!?」


 各々が驚愕の声を上げるが、もう遅い。

 床が消失した部屋には、どこにも捕まる場所がないのだ。


 そうなれば、その後の展開は想像に難くない。


「落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 俺たちは重力に引き寄せられるように、ぽっかりと口を開いた闇の中へと落ちていった。

 落ちる際、どういう仕組みなのかは分からんがその場に建ち続けていた石碑の最下部にマウリーリオが刻んだ最後の言葉が、目に飛び込んできた。


『   体を大事にな。                      』


「テメェが言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 そんな叫びも、俺たちを包む闇の中へと吸い込まれていく。


「ご主人さん、どうしましょうか!? 深さも分かりませんし、最悪の場合、ここで全滅ですよ?」

「させるか、そんなこと!」


 あのクソ先祖の思い通りになんかなってたまるか。

 とにかく、床までの高さが知りたい。

 遺跡の一階にいて、現在落下しているんだから、地下に向かっているというわけだ。

 流石にそこまで深い穴など掘れるわけもないだろうが……あのクソ先祖の作った遺跡なら何があっても不思議じゃない。


「エイミー! もう一度魔法の矢で闇を照らせるか?」

「下に向かって射るのね。やってみる!」


 理解が早くて助かる。


「ダメ! バランスが取れない!」


 体重の軽いエイミーは、手足をばたつかせて体の芯が定まらない様子だ。

 ふわふわと浮いて、真っ直ぐ体を伸ばすことも出来ていない。


「俺が支えててやるから! 嬢ちゃんは弓に専念しろ!」


 デリックがエイミーの身体を背後から抱きしめる。

 比重が上がった分安定するだろう。


「行くわよ!」


 宣言すると同時に、エイミーの構えた矢が魔力を帯びて輝きを放つ。

 勢いよく放たれた光を纏う矢が真下に向かって闇を切り裂き飛んでいく。


 ヒュンッ!


 と、風切音を鳴り響かせて、高速で矢が闇の中を進む。


 ……………………………………………………………………………………カツン。


「深っ!? どんだけ深いんだよ!?」


 矢の速度と、音の返りからざっくり計算して、この穴は深さが50メートルはありそうだ。

 井戸なんか目じゃないほどに深い。

 これは、落ちたら死ぬな。


「ご主人さん、どどどっどどどっど、どうしましましましまっ!?」

「いいから落ち着け、ルゥシール!」


 穴の深さを知り、ルゥシールがパニックを起こす。


「ドラゴンに戻れさえすれば、皆さんを背に乗せて飛ぶことも可能でしたのにっ! 申し訳ありません!」


 泣きながら謝罪してくる。

 反省するようなとこでもないだろうに。


「ドラゴン!? ドラゴンってなんだよ!?」


 デリックが耳聡くルゥシールの言葉を聞きつける。

 スルーすればいいものを。


「ルゥシールの嬢ちゃん、ドラゴンなのか!?」

「え、そうなの!?」


 エイミーも声を上げる。

 いや、今はそれどころじゃなくないか?


「すみません! ドラゴンですみません! ドラゴンなのに飛べなくてすみません! 飛べないドラゴンなんてただの豚ですよね、すみませんっ!」


 ただの豚の意味が分からんが。

 どいつもこいつもパニックを起こしやがって。

 少しは落ち着けよ。


「そんなことはどうでもいい! もっと危惧すべきことがあるだろうが!」


 俺の声に、一同が口を噤む。

 わずかな時間、静けさに包まれる。


「だよな。とにかくなんとかしねぇとな」

「そうね……このままじゃ……」


 デリックとエイミーがようやくこの後起こる悲劇に向き合う。

 そう、このまま落下すれば……


「ルゥシールの持ってるぶにぶにの結晶が全部割れて、物凄く臭いことになっちまうぞ!」

「そんなことはどうでもいいですよ、ご主人さん!?」

「バカ、お前、バカ! あの量だぞ!? 四回くらい死ねる臭さになるぞ!?」

「臭くても死にませんよ!」

「その前に落ちたら死ぬだろうが」

「落ちて死ぬのと臭くて死ぬのなら、落ちての方が死因としてかっこが付くだろうが!」

「どっちもごめんよ! 何言ってんの、アシノウラ! バカなの!?」

「バカっていう方が貧乳なんですぅ!」

「関係ないじゃない、貧乳は!? って、誰が貧乳よ!?」

「あのっ! みなさん! 今はそれどころではないと思うんですがっ!?」


 ルゥシールの叫びが、ちょうどいタイミングだった。


「お前ら、首をすくめて衝撃に備えろ!」

「え、ご主人さん何をするつもりで……っ!?」

「急げ!」


 俺の声に、全員が息を呑む。

 その時、暗い視界の中に地面が見えてきた。

 もう何秒もしないうちに距離がなくなる。


「よし、行くぞ! 舌、噛むなよ!」


 俺は、先ほど足元を狙った氷の刃から吸収した魔力を使い、魔法を放つ。

 間近にまで迫った地面へ向かって、凄まじい質量の風を巻き起こす。

 縦に長い穴の中に突如発生した突風は、渦を巻きながら壁を駆け上り、同時に分厚い空気のクッションを俺たちと地面の間に生み出した。


「にゃあああああっ!?」

「ぅおっぷ!?」

「きゃあ!?」


 突然巻き起こった風に、一同が悲鳴を上げる。

 その声は一瞬だけ聞こえ、すぐに掻き消えてしまう。

 風圧によって息が詰まっているのだろう。

 かくいう俺も、少し息苦しい。

 体の落下が止まり、ふわりと浮かぶような無重力感を覚える。


 ほんのわずかの無重力状態から脱した俺たちは重力によって地面へと落下する。

 ただし、ベッドから飛び降りるくらいの、大したことのない落下だ。

 衝撃も、ちょっと痛い程度だ。


「にゃふっ!?」


 と、ルゥシールのように顔面から墜落すると、痛みはそれなりに襲ってくるだろうが……


「どんくさいヤツだな」

「…………ぅう……、やるならやるで、先に言ってくださいよぉ」

「そんな暇なかったろ?」

「臭いとかどうとか言ってる暇があったじゃないですか!?」


 怒るルゥシールの向こうで、エイミーが頭を押さえてふらふらと上半身を起こす。その下にデリックが横たわっている。

 どうやら、デリックを下敷きにしたおかげで怪我はないようだ。まぁ、怪我をしない高さを計算して魔法を使ったんだけどな。


「エイミー。早く退かないと、デリックがお前の尻の感触を堪能してるぞ」

「えっ!?」

「してねぇわ! いや、マジだぞ、嬢ちゃん! してないからな!?」


 飛び退き、尻を両手で押さえるエイミーに、デリックは必死の形相で訴える。

 あの必死さが逆に怪しい。


「テメェ、面倒くさいこと言ってんじゃねぇぞ!」


 八つ当たりされた。

 怖い怖い。


「それにしても、マジでギリギリのラインを攻めてくるトラップだな」


 あの氷の刃がなければ今の魔法は使えていなかった。

 エイミーやデリックは魔力が尽きかけているし、全員を無傷で助けることは難しかったかもしれん。

 ……狙ってやってるんだとしたら、ウチの先祖は侮りがたいヤツだな。


 と、頭上で「ゴゴゴゴ……」と、鈍い音が響く。

 見上げると、天井がスライドしてきて、俺たちが落ちてきた穴が自動でふさがっていた。


「天井が、少し明るいですね」


 ルゥシールの言う通り、スライドしてきた天井は、天井自体が微かに発光していた。

 この天井が隠れていたためにこの部屋は暗かったのだ。

 天井が完全に閉まると、部屋の中はやや薄暗い程度の光量で満たされた。


 明け方のような明るさだ。


「ご主人さん。部屋の中央に何かがありますよ?」


 ルゥシールの言葉に振り返ると、またしても部屋の中央に、今度は台座が設置されていた。

 エイミーとデリックが咄嗟に身構える。次なるトラップを警戒しているのだろう。


 が……


「おそらく、もうなんもないだろう。見てみろよ」


 俺が顎で台座を差すと、全員の視線がそこへと注がれる。


「…………槍?」


 言葉を漏らしたのはエイミーだった。

 その言葉の通り、台座には刃を地面に埋めるような形で一本の美しい槍が突き刺さっていた。


「武器の保管方法を知らなかったと見えるな、ウチのクソ先祖は」


 金をあしらった御大層な台座に立てかけられながらも、その刃を地面へと埋める槍。

 おそらく、その刃を解放すればそこから魔力があふれ出すのだろう。


「今のところ、魔力は全然漏れ出ていないな」


 見る限り、魔槍には何の異変も見受けられない。

 じゃあ、なんでこの周りの森にグーロなんて狂暴な魔獣が寄ってきたんだ?


 とにかく、抜いて確かめてみるか。


「あ、あの、ご主人さん!? ……抜くんですか?」

「ん?」


 振り返ると、俺以外の全員が壁際まで下がり、しっかりと壁の出っ張りを見つけては握りしめ、しがみついていた。

 さっきの落下が相当怖かったらしいな。


「たぶん、抜かなきゃ出られないと思うぞ」


 いつまでもこんな陰気な場所にいたくないしな。

 それに、またトラップが発動したなら、また何とかするさ。


「抜くぞ!」

「え、ちょっと待ってください!」


 全員が今一度しがみつけそうな場所を探し、何度も確認して、身構える。


「ど、どうぞ!」

「……お前ら、無防備な俺の立場は…………まぁ、いいか」


 俺は親指を下にして、槍の柄を握る。

 そして、力任せにそいつを引き抜いた。


 ズルッと、鈍い感触が腕に伝わり、ついでまばゆい光が足元から発せられる。

 刃が少し覗くたびに、その光は強さを増していく。


 そして、魔槍が完全に抜き放たれると、目も眩むような青白い光が部屋の中を埋め尽くす。


 視界が閃光に遮られ何も見えなくなる。

 しかし、そこから発せられる夥しいまでの魔力を、俺の身体はビリビリと感じ取っていた。

 こいつは、すげぇ武器だ。

 とんでもない。


 むき身の刃なんてもんじゃない。

 暴れ狂う魔獣そのものだ。

 この槍自体が一体の魔物みたいなものなんだ。


 とんでもないじゃじゃ馬だ。

 こんなもんを次から次に投入されりゃ、そりゃガウルテリオもお手上げだったろうよ。


 光が落ち着きを見せ始め、視界が徐々にクリアになっていく。

 俺の腕の中にある魔槍は、青白い刃を持った、氷の結晶のような美しい槍だった。

 刃を覗き込むと、向こう側が透けて見える。半透明だ。


 触れてみるが冷たくはない。

 見たこともない金属で出来ているようだ。


 何より、この刃からだだ漏れてくる魔力がどうしようにもない。

 今まで、よくこんな量の魔力を押さえ込んでいたなと感心してしまう。


 だからこそ、不思議なのだ。

 遺跡近郊で起こった一連の出来事が。


 魔槍サルグハルバが原因でないのだとすれば、一体…………


「きゃあっ!?」


 ルゥシールの悲鳴が聞こえ、そちらへ視線を向ける。

 それと同時に、鈍い重低音が部屋の中に響き渡る。

 そして、ルゥシールと、その隣の壁にしがみついていたエイミーとデリックとの距離が徐々に開いていく。

 あいつらのしがみついていた壁が、低い音を立てながら徐々に開いていっているのだ。


 しがみついた壁に引きずられるように離れていくルゥシールとエイミー・デリックペア。

 双方の中央に隙間が生まれ、そこから外の光が差し込んでくる。


 この壁が開ききれば、次の部屋へ行けるというわけか。


 さぁて。

 この次は何が出て来るのやら…………


「………………げ」


 どうせ、くだらなくも面倒くさい、最低な嫌がらせを受けるのだろうとは思っていたのだが…………想像を上回るクソッタレな展開になりそうだ。


「開いたぞ!?」

「秘宝の間が開いた!」


 壁の向こうはいやに騒がしかった。

 それもそのはず。

 壁の向こうには大勢の人間がいたのだ。

 どいつもこいつも高級そうなローブを身に纏い、難しい顔をしている。


 今開かれている壁を開けようと色々努力でもしていたのか、どいつもこいつもこちらを凝視してやがる。

 いやでも視線がぶつかる。


「…………」

「…………」


 お互いが無言で見つめ合う。


 台座の上の俺。

 開いた壁にしがみつくルゥシールとエイミー・デリックペア。

 その壁の向こうに二十人程度のローブを纏ったオッサンどもの群。


「な、何者だ、貴様らっ!?」

「それはこっちが聞きてぇな。あぁ、いいや、いい! やっぱ言わなくていい!」


 こんな偉そうな態度で、無駄に高そうなローブを身に纏って、こんなところにいるような連中なんか、聞かなくても分かる。ヤツらしかいない。

 ってことは、遺跡の周りに魔力を垂れ流すような危険な『何か』を行っていたのは、やっぱりこいつらだったってわけか。


 あぁ、ちくしょう。

 相変わらず最低だぜ、こいつらは。



 魔導ギルドの魔導士どもはよぉ!










いつもありがとうございます。


ご先祖様の斜め上行くご主人さんが真っ逆さまです。

危うく死因が『臭死に』になるところでした……



さてさて、

毎日更新を宣言して約一週間実施いたしましたところ、

ブクマしてくださった方が増えました!!


ありがとうございますありがとうございます。


遺跡攻略まではテンポよく行きたいなと思います。

ま、おっぱいが揺れれば確実に脱線しますが。

えぇ、確実に!


気長にお付き合いいただけますと幸いでございます。

おっぱい、だけにっ!


……………………あぁ、しまった! どこにもかかってなかった!?


と、とにかく!

またのご来訪心よりお待ち申し上げております。


とまと(ふぅ、うまく誤魔化せてよかった……)

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