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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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28話 子供の成長

「……魔神、が…………お袋?」


 ルゥシールの声が、暗い部屋の中に響く。

 他の二人は黙り込んでしまった。


「…………え、変か?」

「変なんてもんじゃねぇだろ!?」

「あんた、魔神に育てられたの!?」


 デリックとエイミーが物凄い形相で詰め寄ってくる。

 思わず体を退いてしまうほどの迫力だ。


「ちょっ! こ、怖ぇよ! 顔が怖い!」


 鼻息の荒い二人を落ち着かせ、一呼吸入れる。


「親が有名人っていうのは、子供には選べないことだから」

「有名にも限度があるわよ……」

「っていうか、お前は……勇者マウリーリオの血を引いて、魔神ガウルテリオに育てられたってことか?」


 デリックの指摘を聞いて、そういえばそうだなと思い至る。


「おもしろい生い立ちだな」

「自分で言うなよ……」


 今まで深く考えたことはなかったのだが……

 魔神仕込みの無茶苦茶な魔法というのは、実はすごいことなのかもしれない。

 もっとも、その習得のためには、それこそ「死ぬような」試練に耐えてきたわけだが……


「ね、ねぇ……アシノウラ」

「ん?」


 過去の記憶に浸りかけた時、エイミーが声をかけてきた。


 しかし、エイミーの様子がおかしい。

 どこかそわそわとしたような、落ち着きのない感じだ。


「……漏らしたか?」

「違う!」


 叫んで、すぐに自分の口を押さえる。

 そして、小声で、物凄く早口でこんなことを言った。


「…………この部屋、何かいない?」


 通路の壁を避けるために咄嗟に飛び込んだ扉の奥。

 ここも通路のようだが、外の通路よりも幅が広い。そして、外の通路よりも一段暗くなっているので奥が見通せない。


 エイミーが気にしているのは、俺たちが入ってきたドアとは反対方向。

 闇が続く通路の奥だ。


「なんかさ…………獣の息遣いを感じるんだけど……」


 狩猟少女の敏感なセンサーに何かが引っかかっているようだ。

 言われて、俺も意識を集中してみる。


「………………確かに。何かいるな」

「マジかよ?」


 デリックは何も感じないようだが、俺も確かに気配を感じる。

 距離にして百メートルほど先だろうか。

 完全な闇に飲み込まれその姿を確認することは出来ない。

 が、何かいる。


 それにしても、よく察知したもんだ。

 田舎者の上に、森で過ごす時間が人一倍長いせいで感覚が鋭敏になっているのだろうか?

 そういえば、こいつは顔から心を読むのも得意だからな。


 獣たちからすれば、恐ろしいハンターだろう。


「ルゥシール」

「はい」


 ルゥシールを呼ぶと、ルゥシールはスッと俺に体を寄せてくる。

 大きな声は出さない方がいいと判断してのことだろう。


「お前は何か感じるか?」

「はい。かなり大型の獣だと思います。けれど、獣の匂いを感じません」


 言われてみれば、通路の中は湿った空気の匂いだけで、獣臭さのようなものは漂っていない。


「ってことは、またぶにぶにみたいなガーディアンってことか?」

「おそらくは」


 この先にいるのも、遺跡への侵入者を排除するための作り物の生命体というわけだ。


 この遺跡のトラップは実にいやらしい。

 真っ白なぶにぶにに、あからさまな弱点を用意しておきながら、そこを攻撃すると臭い液を浴びせられたり、それを回避したと油断したところに天井が落ちてきたり。かと思えば、万歳することまで見越して壁のトラップだ。

 人間がどう動くかを見透かしたようにトラップを仕掛けてやがる。


 となれば、壁を避けてこの通路へ飛び込むこともそいつの狙い通りなのだろう。


 つまり、この先にいるガーディアンは、『かなり』面倒くさい相手なのだろう。


「よし、引き返そう」


 壁の罠が作動し終えた外の通路に出て、その通路を進もう。

 あからさまに危険なものに付き合ってやる必要もない。


「それが、ご主人さん……」

「どうした?」


 ルゥシールが気まずそうな声を出し、俺たちが入ってきた扉を指さす。

 内開きの扉のその向こう、外の通路へ通じる出口は……分厚い壁で完全にふさがれていた。


「ちょうど、出口をふさぐ場所で止まるようになっていたみたいですね」

「……ホンット、性格悪いよな、ここ造ったヤツ」


 まぁ、おそらく、この遺跡を造ったのは俺のご先祖様であり、この遺跡に神器を安置したマウリーリオなんだろうけど。


「性格の悪い先祖だこと」

「しっかりと遺伝子を引き継いでるみたいね」


 エイミーが失礼なことを言う。

 俺ほど素直で心優しい人間もいないだろうに。

 まぁ、先祖のせいで受ける非難だ。甘んじて受けておいてやろう。


「じゃ、獣を倒すか」


 先祖の嫌がらせ、受けて立ってやろうじゃないか。


「待って」


 腕をまくって闇の中へ歩き出そうとした俺を、エイミーが呼び止める。

 ジッと俺を見つめる目は、何かを訴えかけるような真剣みを帯びていた。


「やってみたいことがあるの。試してみていい?」

「何をする気だよ?」

「村であんたと追いかけっこしていた時から感じていたんだけど……あたし、出来るかもしれない」

「だから、何を?」

「もし失敗して、面倒くさいことになったら、その時はよろしくね」

「よろしくって、何を? おい、答えろよ」

「じゃ、やってみるね」


 俺の質問は一切無視して、エイミーは弓を構える。

 若干楽しそうな顔をしている。

 こいつ、冒険を楽しんでやがるな。


「……まぁ、子供の失敗をフォローするのは大人の役割だからな。好きにしろよ」


 そんないい顔をされては止められない。


 そういえば、お袋もよく呆れたような顔をして俺を見ていたっけな。

 あの頃の俺は、こんな顔をしていたのかもしれないな。


 俺が許可を出すと、エイミーは矢を番え、そして瞼を閉じた。

 静かに呼吸を整え、精神を集中させている。


「……ご主人さん」


 エイミーが精神集中を始めると、ルゥシールが小さな声で話しかけてきた。


「質問なんですが、いいですか?」

「ん?」


 こちらはこちらで真剣な顔をしている。

 そして、思いつめたような表情を見せた後、意を決した風に口を開く。


「ご主人さんは、人間界と魔界、どちらにいた時が幸せでしたか?」


 真剣な目が俺を見つめている。


「すみません。ご主人さんがご自分の話をされるとき、あまりに感情が読み取れなかったもので…………ただ、少しだけ、魔界の話をされた時の顔は楽しそうでしたので」


 俺を見つめていた目がそっと伏せられ、そして静かに一歩距離を縮める。

 耳に口を近付けるように接近してきたルゥシール。

 髪が揺れ、ルゥシールの香りが鼻をくすぐる。


 耳元で、ルゥシールが囁く。


「ご主人さんは、魔界へ『帰りたい』んですか?」


 思いもしなかった言葉だった。


 魔界へ……『帰る』。


 魔界にいたのは四歳から九歳までの約五年間だったが、魔界にいた頃は人間界へ帰ることだけを考えて過ごしていた。


 そして、人間界へ帰還した今、俺にとって魔界はどんな場所になっているのだろうか。


 あそこは、『帰る』場所なのか?


 体を離したルゥシールが、真正面から俺を見つめている。

 やや不安げな瞳が、ひどく心をザワつかせる。


「出来た……行くわよ」


 ルゥシールの問いに答えられずにいるうちに、エイミーが精神集中を完了させる。

 エイミーの構えた矢の先端には赤く揺らめく魔力が宿っていた。


「喰らいなさいっ!」


 叫ぶや、張り詰めた弓の弦が解放され、空気を切り裂くような速度で矢が発射される。

 高速で放たれた矢は炎の魔力を帯びて闇を切り裂いていく。

 そして――


 ドスッ!


 と、鈍い音を発して百数メートル先の獲物に突き刺さる。

 その瞬間、矢が燃え上がり闇を照らす。


 闇の中には、真っ白な獅子がいた。

 痛みを感じるのか、叫ぶように大きな口を開いてもがいている。

 が、声は発せられていない。声帯がないのかもしれない。


 矢が燃え尽きると、再び辺りは闇に包まれる。

 炎を見つめたせいで、闇が一層深く感じられた。

 目が眩む。そのほんの一瞬のうちに、白い獅子はこちらへ向かって突進してきた。


「来るぞ!」


 おそらく、接近するまで息をひそめて一気に命を刈り取る仕組みだったのだろうが、先制攻撃を喰らい激怒しているようだ。

 作り物のくせに、殺気が凄まじい。


 凄まじい速度で足音が迫ってくる。


「くそっ! 目が眩んで何も見えねぇ!」


 デリックが苛立った声を漏らす。

 闇に完全に呑まれてしまっているようだ。

 戦力としては期待出来ない。


「ルゥシール! 二人を頼むぞ!」

「はいっ!」


 俺は迫る足音に向かって走り出す。

 目なんぞ見えなくても、これだけ殺気を放っていれば、どこにいるかなんて手に取るように分かる。


『いいか、マー坊』


 不意に、お袋の声が脳内に蘇る。


『勢いよく突っ込んでくる敵はザコだと判断していい。先手必勝とか言ってるヤツは先手を取らなきゃ勝てないヤツだからな。速さで上回ってやればいいのさ』


 さばけた声で、当然のように言ってのける。


『あ? どうやって速さで上回るのかって? そんなもん決まってんだろ』


 そして、最後には決まってこう言うのだ。


『頑張れ!』


 なんの回答にもなっていないそんな言葉で、いつも俺の背中を押した。

 よく生きて魔界を出てこられたものだと思う。

 何体、いや、何千体か?

 夥しい数の魔物と闘わされて、それをお袋は楽しそうに眺めていた。

 絶対手助けなんかしないくせに、俺が死なないように細心の注意を常に払っている、そんな優しいドSだったお袋。


 無茶苦茶なヤツだった。

 けど……


「おかげで強くなれた」


 認めてほしくて必死に勉強と剣術を学んだ幼少期。

 そんなころとは比べ物にならないほどに。

 魔法も、剣術も、体術も格段にレベルを上げられた。


 戦術なんざ何もない。

 あるとすれば、ただひとつ。


『頑張れ!』だけだ。


 そんなわけで、闇の中だろうが、相手が自分よりでかい獅子だろうが……


「お前程度は、敵じゃねぇ!」


 ミスリルソードを抜き放ち、暗闇の中へと振り下ろす。

 そこには、俺へと飛びかかってきていた白獅子の喉があり、ミスリルソードの切っ先は喉を切り裂きそのまま白獅子の腹を通過して闇の中へと振り抜かれる。


 首から下を真っ二つに切り裂かれた白獅子は、ベチャリと嫌な音を立てて地面へ落ちる。

 殺気が霧散し、機能停止を確認する。


 暗闇に潜むガーディアンには、臭い汁を飛ばすような子供じみた仕掛けはないようだ。


「ご主人さん!」


 闇の中をルゥシールたちが駆けてくる。

 エイミーの手のひらに小さな炎が揺らめいている。

 魔法使いまくりだな、こいつ。倒れるなよ?


「大丈夫か、エイミー?」

「えっ!? なんであたしなのよ? 心配されるのはあんたの方でしょ?」

「俺は大丈夫だよ。強いもん」

「ま、確かにね……」


 エイミーが足元を照らすと、動かなくなった白獅子の残骸が闇に浮かび上がる。


 と、そんなことよりもだ。


「エイミー。よくやったな」

「え、なにがよ?」

「武器に魔力を帯びさせるってのは、かなり難しい技術なんだぞ。感性だけでやってのけるなんて、正直驚いたぞ」


 素直な賞賛を送る。

 事実、魔法剣などの特殊な技術は一部の冒険者にしか扱えない。

 魔法と武器の熟練、両方が揃わないと難しいのだ。

 エイミーが日ごろ、いかに真面目に狩りをしているかが窺える。


「で、でも……そのせいでみんなの目が眩んじゃったし……」

「そんなもんはどうでもいい」


 確かに、命の危険がある冒険の最中に思いつきで新しい技術を試すのは得策ではない。

 下手をすれば全滅を招きかねない。

 特に、自信たっぷりの時は危険だ。その先の落とし穴に気付かないことが往々にしてあるのだから。


 だが、今はいい。

 ここには俺がいる。


 俺がいる以上、お前らに危害は加えさせない。


「今は、自分の成長を喜べ。誇れ。で、俺に褒められてろ」


 素直に嬉しい。

 たった一回とはいえ、すっかり教え子に接する気持ちになってしまっている。

 こいつや、他の子供たちの成長が楽しみでしょうがない。


 俺が頭を撫でてやると、エイミーは嬉しそうに微笑んだ。


 村での宣言通り、こいつは遺跡の中でどんどん強くなっていく。

 たくましい限りだ。


「嬉しそうですね、ご主人さん」

「ん? そうか?」


 ルゥシールが俺の顔を見て言う。

 そんなに顔に出ているのだろうか?


「まるで子供のような、無邪気な顔をしています」

「おいおい。俺は先生として教え子の成長を……」

「いいえ」


 ルゥシールは首を振って、そっと、俺の頬に手を触れる。


「白い獅子を倒した時から、ご主人さんはとても楽しそうな顔をしていました。まるで……褒めてほしい時の子供のような顔でしたよ」


 言われて、気が付く。


 白獅子を倒した時の充実感。

 視覚を奪われた状況での、ハンデを負った戦闘の緊張感とは別に、確かに俺は高揚していた。


 記憶の中で、お袋の声を聴いたからか?


 やはり俺は、あの時間を……

 お袋と過ごした日々を楽しかったと思っているのか。


「ご主人さん」


『帰りたいですか』と聞いてきたルゥシール。

 今、俺を見つめる瞳が寂しそうなのは、勘違いでは、ないのかもしれない。


「お疲れ様です」


 俺に向けられる無防備な笑みに、俺は「お、おぅ」と、そっけなく返すしか出来なかった。








ご来訪ありがとうございます!


なんとか有言実行出来ました。


またのんびり更新していきたいと思います。

今後ともよろしくお願いします。


あ、でも、

毎月1日はアップしたいと思いますので、

明日もアップします。


よければまたご笑覧いただけますように。


とまと

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