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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)


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23話 もたらされる情報・敵の影

 バキバキと枯れ枝を踏み折り、鬱蒼と茂る草木をかき分けて、常人より一回りも二回りもデカいクマのような生き物が姿を現した。

 俺たちが来た方向から、ゆっくりとこちらに向かってくる不気味な生き物。

 まだ十分距離はあるが、その異様さはありありと伝わってきた。


「魔物ですかっ!?」


 ルゥシールが叫び、エイミーを背中に隠すように身構える。


「……ぁあっ…………ぐぉぅ……」


 うめき声を上げながら、体を引きずるようにゆっくりとした速度でこちらに向かってくるソイツは、よく見ると全身が傷だらけだった。

 特に、顔が酷い。

 焼けただれ、赤黒く変色している。

 ぬらぬらと光を反射しているのは、血、だろうか?


「…………ゅう…………く…………ゅう……」


 不気味な姿のソイツは、奇妙な音を発しながら、こちらへゆっくりゆっくりと近付いてくる。

 なんだ?

 なんなんだ、こいつは!?


 耳を澄ませると、その音が『声』であることが分かった。

 その声が発している言葉は……


「……くにゅう……っ! …………ぁくにゅ…………うぅ…………!


 俺は、俺に身を寄せるルゥシールを見やる。


「お前を呼んでいるみたいだぞ、【爆乳】」

「わたしは、誰かに【爆乳】呼ばわりされる覚えはありません!」


 とすると…………


「さ……くに……ゅう…………っ!」


 ……俺か?


 のろのろと近付いてくるソイツは、俺に向けて腕を伸ばす。

 そして、焼けただれた顔面の中でぎょろりと黒い目玉をこちらに向けた。


「搾乳…………見、見づげだ…………」


 よくよく見てみると、そいつが身に着けている鎧に見覚えがあった。

 この鎧……どこかで。


「はぁ…………はぁ…………」


 ついにソイツは俺の目の前までやって来て、巨大な体で俺を見下ろしてくる。

 乱れた荒い息は、まるで獣のようだ。


「いきなり人の目の前で欲情するな、気持ちの悪いヤツめ」

「欲情なんが、じでねぇ…………っ!」


 口を開いたかと思うと、ソイツは苦痛に顔を歪める。

 口の中がズタボロなのだろう。顔面、酷い有り様だしな。


「【搾乳】…………、お前を、探じでいだ……ぜ…………」

「お前は俺を知っているのか?」

「バガヤロウ! 俺だよ、俺! デリックだ!」

「デリック……」


 俺の目の前に佇むソイツは、自分のことをデリックだと名乗った。


「………………………………………はて?」

「でめぇ! 忘れでんじゃねぞ! 村で決闘をじだだろうがっ!」


 ギャンギャンと叫び、その直後に口を押さえてもだえる。

 口の中がズタボロなのだろう。顔面が酷いことになってるし。


「あぁ、そういえば、その鎧には見覚えがあるな」

「……鎧かよ………………」


 口が痛いのか、今度は控えめな声で非難の声を上げる。


「で、何してんだよ、こんなところで? お前、王都に移送されたんじゃないのか?」

「……ごの傷を見で、分がんねぇのがよ?」


 傷。そう言って、デリックは己の顔面を指さす。


「…………整形失敗?」

「違うわっ! …………痛でででっ!」

「ご主人さん。これでも成功なんですよ、きっと」

「ぞういうごどでもねぇっ! ……………痛でっ痛ででっ!」

「ユニークなオッサンね」

「……ユニークなのは俺じゃねぇ……っ!」


 デリックが一人で騒いでは一人で痛がっている。


「な、なぁ、【搾乳】……お前、回復魔法は使えねぇのが? 礼はずる。頼まれでぐれねぇが?」

「いや、無理だ。魔力がねぇ」

「姉ぢゃんが嬢ぢゃんのどっぢががら分げでもらえばいいだろうが!」

「お前は……私利私欲のために乙女の胸を弄べというのか? 最低だな!」

「お前は、ウヂの仲間の胸を散々弄んだだろうがっ! ……んぁあっ! 痛っでぇぇえええっ!」


 デリックが口を押さえて悶絶する。

 怪我をしいてるなら無理しなければいいのに。


「あの、ご主人さん」


 悶絶するデリックを尻目に、ルゥシールが俺に耳打ちをしてくる。

 随分と警戒したような表情だ。


「ご主人さんが魔力を持ってないことや、吸収出来ることを、敵であった【破砕の闘士】さんに簡単に教えちゃっていいんですか?」

「大丈夫だろ」

「でも……」

「一番厄介な魔導ギルドに知られてるんだ。今更誰に知られても変わらねぇよ」

「そうですか……なら、いいんですけど」


 やや不満げに、ルゥシールは身を引く。

 しかし、視線だけは何かを言いたそうに俺を見つめていて、結局我慢しきれなかったのか、最後に一言付け加えた。


「ご自分の身の安全も、ちゃんと考えてくださいね…………心配しちゃいますから」


 ごふぁっ! ………………な、なんだ、今のは?


 凄まじい衝撃が俺の身体を突き抜けた。

 これが、かの有名な胸キュンか!?

 なに、お前、俺を胸キュンさせてどうするつもり!?

 めっちゃ可愛いんですけど、今の!?


 よし、分かった! 俺、自分の身の安全も考えちゃう!


「俺の身の安全も少じは考えろや、デメェらぁぁぁぁあああっ!」


 いい雰囲気で見つめ合っていた俺とルゥシールの間に、顔面が酷いことになっている大男が割り込んでくる。

 なんて空気の読めないヤツだ。

 叩っ斬ってやろうか?


「もういい! もう頼まん! ごれば命令だ! 俺の魔力を使え! で、俺を回復じやがれ!」

「おっと、そいつは御免だね!」

「やれよ!」

「男の魔力など、デリケートな俺の体が受けつけないんだよ!」


 ただでさえ、他人の魔力は気持ち悪いというのに……男の魔力など…………


 両手を広げて肩を竦め、「やれやれ」のポーズを取る。

 ……が、それが間違いだった。


 広げた俺の腕を、デリックの武骨な手が乱暴に握り、おもむろに、気持ちの悪ことに、おのれの胸元へと誘導しやがったのだ!


「のゎおぅいっ!? テメェ、何しやがる!?」

「ほぅら、魔力だ! 持っでいぎやがれぇ!」

「やめろぉ! 魔力が、勝手に流れ込んでくるぅ!」


 デリックの胸に密着させられた俺の手のひらから、荒々しい魔力が大量に流れ込んでくる。

 心なしか、ちょっと汗臭い気がする。


「臭っ! お前の魔力、汗臭っ!? 漢臭っ!」


 俺がどんなにもがいても、デリックの腕は俺を放さない。

 ……ダメだ、これ以上は………………吐くっ!


「吐く吐くっ! 吐くぞ! もう限界だ!」

「なら、俺を回復じやがれ!」

「ふざけるな! 誰が、お前の頼みなどっ!」

「足の裏を舐めざぜるぞ、ゴノヤロウウ!? ぞれども、俺の乳を吸うが!? あぁん!?」


 言いながら、デリックはブーツを足で脱ぎ棄て、おのれの胸元をはだけ始めやがった。


「やめろぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ! お前は、俺に一生モノのトラウマを背負わせる気か!?」

「ならやれ! 回復じろ!」

「分かった! やる! やってやるから! だから、離せぇぇぇぇえええええっ!」


 森の中に、魂の叫びがこだまする。


「……なに、この気持ちの悪い光景」

「わたしにも分かりませんが…………とりあえず、見なかったことにしましょう」

「そうね」

「お前ら、あとで覚えてろよ!?」


 薄情な女二人の処罰は後にするとして、今は一秒でも早く、体内に押し込められた汗臭い魔力を吐き出したい。


「食らいやがれ、露出狂筋肉ド変態っ!!」


 俺は、クリティカルなダメージでも与えられそうなほど強力な回復魔法をデリックに叩きつけた。

 どうだ! これで文句ないだろう!?


 そこいらの魔導士では完全な治癒が出来なかったであろう、崩壊したデリックの顔面も綺麗さっぱり元通りだ。……元が綺麗じゃないのは俺のせいじゃない。


 痛みが引いたのか、デリックは驚きと歓喜の入り混じった表情を浮かべる。


「おぉ……さすが、言うだけのことはあるな。【搾乳】!」

「やかましい……話しかけるな、変態」

「テメェに変態呼ばわりされると死にたくなるな、おい」

「じゃあ死ね」


 これほどまでに精神をすり減らされた魔法の行使は初めてだ。


「あの、ご主人さん。ご自分の体力は回復されたんですか?」

「いいや。こいつの汗臭い魔力なんかで回復したくないからな」


 下手したら呪われかねない。


「なんだ【搾乳】、遠慮すんなよ! 足りないなら、もっと貸してやるぞ?」

「いらんと言っている! 片乳を放り出してこっちに向けるな! 肌蹴た衣服を整えろ、この変態筋肉!」

「いいや、断る」

「断るなよ!」

「断るんですか!?」

「露出狂なのね……」

「違うわ! お前ら、本当に息ぴったりだな!?」


 デリックが咳払いをし、真剣な顔で俺を睨む。


「フランカとジェナが連れ去られた」


 思いがけない情報に、ルゥシールは息を呑み、エイミーは目を見開いた。


 そして、俺は…………

 ……腹の底に言いようのない感情がくすぶり始めていた。


「お前に協力したことが魔導ギルドに知られたらしい。偉そうな魔導士が二人を攫っていきやがったんだ」


 ルゥシールが不安げな目で俺を見る。

 俺は、それには応えずに、じっとデリックを見つめ続けていた。


 魔導ギルドがジェナとフランカを連れ去った。


「どんなヤツだった?」

「俺は見たこともねぇ男だったが、フランカたちは知っていたらしい。酷く怯えていやがった」


 魔導士の二人が酷く怯える、魔導ギルドの男…………


 思い当たる男は一人いるが……そいつだと非常に面倒くさいことになるな……

 で、こういう時の嫌な予感ってのは当たるから始末に負えない。


「ヤツらがこの遺跡に入っていくのを見たんだ。だが、俺が入ろうとしても門が開かなかった」


 結界に阻まれていたのだろう。

 それで、デリックは村へと引き返していったらしい。


「お前に会えば、何とかなると思ってな」

「じゃあなんで森の中で待ち伏せなんかしてたんだ? 村に戻ればいいだろう」

「戻ろうとして、途中で気絶しちまったんだよ」


 デリックの怪我は相当酷かった。

 普通の人間なら命を落としていたかもしれない。

 そんな状態で動き回ったのだから、気を失ったとしても仕方がないことだろう。


「お前にこんなことを頼むのは、癪なんだが…………」


 言って、デリックはガバッと頭を下げた。


「頼む! 力を貸してくれ!」


 全身全霊の頼みだった。

 それこそ、こちらの居心地が悪くなるほど、真剣な。

 絶対に譲れない思いのこもった、そんな頼みだった。


「あの魔導士が相手じゃ、俺に勝ち目はねぇ! けど、お前なら何とかなる気がするんだ!」

「過度な期待を寄せてんじゃねぇよ」

「じゃあ勝てなくてもいい! 勝てなくても、協力はしてくれ!」

「無茶苦茶だな」


 グッと、デリックが奥歯を噛む。

 そんな真剣な目を向けるな。背中がむずむずする。

 馬鹿正直な頼み方をしやがって……もっと狡猾な方法も取れるだろうに。


「『お前のせいで連れ去られたんだ、責任もって助けに行け』と、なぜ言わない?」


 そういう言い方をすれば、俺が断りにくくなるのは明白だろうに。

 デリックのような、力に物を言わせるようなタイプは、そういう交渉をするものだ。


「……あの二人は、俺にとって、マジで大切な仲間なんだ」


 しかし、デリックは静かな声で訴えかけてきた。 

 瞳が、不安げに揺れている。


「下手な駆け引きをして、お前の協力を得られなくなっちまったら……もう手がねぇ……それだけは避けたい」


 こんなデカい男が、筋肉の塊で力しか取り得のないような男が……不安で泣きそうな目をして俺を見ているのだ。

 ……似合わねぇだろ、どう考えても。


「頼む! 力を貸してくれっ!」


 地面に手をついて、巨体を縮こまらせて頼むのだ。

 柄にもなく、泣きそうな声を上げて。

 ……似合わない。究極に。


「ご主人さん……」


 そして、ルゥシールが、その真摯な思いに心を動かされて援護をするのだ。

 エイミーも、何か言いたげな目で俺を見ている。


 やれやれ。

 まったく嫌になる。

 俺が頼りだってのか?

 どうかしてるぜ。



 全部、俺のせいじゃねぇかよ。



 ジェナとフランカに魔力を借りた。

 たったあれだけで、王国は反逆者だと認定するのか。

 あれしきのことで、ジェナとフランカは連れ去られたのか。

 デリックは、あんな大怪我を負わされたのか…………


 腹の奥から、言葉に出来ない感情が湧き上がってくる。


 心のど真ん中を震わせるような…………激しい、怒り。


「……汗臭い魔力で我慢してやる」


 俺の呟きに、全員の視線が集まる。


「魔力を貸せ。万全の体調で乗り込んで…………ぶっ飛ばしてやる!」


 俺を怒らせたな、魔導ギルド。

 遺跡の中で何をこそこそやっているのか知らねぇが……

 目論見もろともぶっ飛ばす!


「ご主人さん!」

「ふん。アシノウラのくせにいい顔しちゃって。……ま、悪くないけどさ」


 ルゥシールがキラキラとした目で俺を見る。

 エイミーがそっぽを向きながらも楽しそうに口角を上げる。

 そしてデリックは……


「恩に着る!」


 もう一度、深々と頭を下げた。

 目尻には、一粒の光るものが浮かんでいた。


 あぁ、ちきしょう。しょうがねぇ…………やってやるぜ。


 もうそろそろ魔導ギルドのバカどもに、俺を敵に回すことの愚かさを教え込まなきゃいけない時かもしれないしな。

 これ以上、好き勝手はさせない。


 でなければ、ルゥシールに危害が及ばないとも、限らないしな。


「デリック、立て!」


 強い口調で言うと、デリックはつられるようにして立ち上がった。


 汗臭い魔力だろうが我慢だ。

 俺の体力を回復させて、今すぐ遺跡に乗り込むぞ!


 俺は怒り任せに、肌蹴たままのデリックの胸に、バチンと手のひらを叩きつけた。


「ぁんっ!」


 ――っ!?


「…………」

「…………」

「…………」


 俺、ルゥシール、エイミーの目が点になる。

 静寂の中、デリックがわざとらしく咳払いをする。


「……さ、触るなら触ると、先に言ってくれよ【搾乳】…………バカヤロウ」


 心持ち頬を赤く染め、俯き加減に顔を背ける。

 ――ってぇっ!


「気持ち悪いわ、ボケェ!」

「ぎゃあぁぁああっ!?」


 吸収した魔力で、思わず魔法をぶっ放してしまった。

 ルゥシールとエイミーが明後日の方向を向いて「わたしは知り合いじゃありませんよ~」的な他人のふりを決め込んでいた。

 たっく、このバカ筋肉。ここに置き去りにしてやろうか!?


 軽く意識を失った筋肉の胸に手を当て、俺はさっさと体力を回復させる。

 ……あぁ、汗臭い!


「じゃあ、まぁ、乗り込むぞ」

「はい!」


 倒れていたデリックを叩き起こしてから、石門の前に整列する。

 エイミーもやる気十分らしく、腕まくりをしている。危険だと知っても、ここに残る気はさらさらないらしい。

 まぁ、いざとなったらルゥシールとデリックに守らせればいいか。


「俺の予想が当たっていれば、敵の魔導士は相当頭のおかしなヤツだ。どんな危ないことを企んでいても不思議じゃない。油断するなよ」


 一同の顔に緊張が走る。

 ピリッとした表情になり、覚悟が窺える。


「よし…………乗り込むぞ!」


 俺はそう叫ぶと同時に石門に手をかけ、力任せに押した。


 ……………………

 …………………………

 ………………………………


「……………………………………開かない」

「結界を解除してからずいぶん時間が経ちましたからね……」

「もう一回やり直しなの?」

「……何やってんだよ、【搾乳】…………」


 全員の目が俺を見つめる。

 物凄~く、憐れむような目が。


「ご主人さん……残念です」


 いたたまれない空気が漂う中、先ほどの鼻血をかき集めて、エイミーに魔法を使ってもらい、結界を解除した。

 いやぁ、二度目だから手慣れたもんだ。あはははっ。


 ただまぁ……、意気込み的なものは、完全に霧散してしまっていたけどな。









ご来訪ありがとうございます。


これで遺跡攻略メンバーが揃いましたのでいよいよ遺跡に入ります!

(もうちょっと遊びますが、)

話を進めます!


また明日も更新頑張ります!


よろしくお願いします。


とまと

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