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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
145/150

145話 一方その頃 × 3

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 陛下がご乱心だ。


「もっとです! もっと魔力を送るですよ!」

「落ち着いてください、陛下! 連射は出来ないのですよ!」


 私は失礼を承知で陛下を押さえつけている。


「離してくださいです、ウルスラさん! おにぃたんが私を、私の魔力を必要としているのです! おっぱい連打していたのです!」


 おのれ、おにぃたん様め!

 こうなることが目に見えていたから「連打はするな」とわざわざ伝えておいたというのに!


「陛下、気持ちはわかるけど、あんまりやると大砲壊れちゃうよ?」


 大騒ぎの砲台の間に、ポリメニスが飄々と現れた。いつものように軽薄そうな口調で、締りのない顔を晒している。

 まったく! 私が必死になって陛下を抑えているというのに……緊張感がないぞ!

 これは一言物申してやらねば!


「ぽっ、ぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」

「ど、どうしたの!? ウルスラさん、壊れた!?」

「ポリメニスル!」

「なんか一文字多いけど!?」

「今日は、いい天気だな!?」

「そんなのんきな会話している状況かな、これ!?」


 いけない……

 ここ最近、どうもおかしいのだ。

 ポリメニスを見ると……なんというかこう…………心が騒がしくなるというか……私が私じゃなくなるような、そんな気分にさせられる。


 くそ……なんだって私が…………

 だいたい、この忙しい時に何をしに来たというのだ!?


「ポリメニ!」

「今度は一文字少ないよ!?」

「プラマイ・ゼロ!」

「そういうもんかな!?」

「ところで! 何しに来た!?」

「いや、ちょっと様子を見に……騒がしかったし」

「ご飯か!?」

「聞いてた、私の話?」

「お風呂か!?」

「お~い、ウルスラさん?」

「それとも私か!?」

「誰かぁー! 救護班呼んできてー!」


 どうしてだ!?

 どうしてこうなる!?

 ガツンと物申したいのに!


 そもそも、おにぃたん様に渡すスイッチを、あんな卑猥な形にしたのが間違いだったのだ!

 あんなもの、「連打してくれ」と言っているようなものではないか!


「ポス!」

「真ん中ごっそり抜けてるよっ!?」

「おっぱいが悪い!」

「えっと……巨乳批判を今されても……」

「あんなスイッチを渡すから!」

「あぁ……マーヴィン君のことね…………確かに、あの形状は失敗だったかもなぁ」


 やった!

 言ってやったぞ!

 私はついに、ポリメニスに物申したのだ!


「あの人、折角作った装置を平気で無視とかしそうだからさぁ……あぁいう趣向を凝らしてみたんだけど…………やっぱり失敗だったかなぁ……」


 なんだか、ポリメニスが酷く落ち込んでいる。

 いや、待て! そうじゃない!


「ピョン!」

「誰!? もはや原型が残ってないんだけども!? たぶん、私のことだよね、それ!?」

「お前は別に悪くない!」

「え? ……あ、そう?」

「だから落ち込むな!」

「いや、落ち込んではないけども……」

「私も、本当のことを言えばちょっと欲しいなと思っていたくらいだ!」

「あのおっぱいスイッチを!?」

「ズルいぞ! 私にもくれ!」

「アレを女性に送る勇気はないんだけれど……それじゃあ私、ただの変態じゃない」


 ポリメニスを元気づけてやりたい。

 こいつは軽そうに見えて、これで繊細な部分があると思うのだ、たぶん。そういう目をしているし。私のようにしっかりした者が傍にいてやらなければ……キャー! 傍にって! キャー!


「あの……ウルスラさん? どうかした、の……かな?」

「鈍いですよ、ポリッちゃん」

「陛下……ポリッちゃんはやめてくれませんかねぇ?」

「おにぃたんがやめれば、私もやめますですよ」

「あぁ、じゃあ、やめないってことだねぇ……はは」


 私が床の上を超高速でごろごろ転がっていると、陛下がポリメニスに声をかけた。

 しまった! 陛下を押さえつけるのを放棄してしまった。

 またしても、ポリメニスのテンポに乗せられてしまったわけか。

 ……まったく、こいつはいつもそうやって私を弄ぶ…………罪な男だ。


「ウルスラさんは、あなたからの『とある』贈り物が欲しいと言っているのですよ」

「……それに関しては、気付いていないというか、懸命に気付いていないフリをしているというか……」

「給与三ヶ月分のおっぱいスイッチを送って差し上げたらどうですか?」

「欲しい!? ちょっと豪華なおっぱいスイッチ!?」

「もしくは、三ヶ月分のおっぱいでも……」

「一ヶ月の消費量が分からないよ!?」

「では、あなたのおっぱいを差し出しなさいです!」

「どっちかっていうと、私は差し出される側じゃないかと思うんでけどね!?」

「聞きましたですか、ウルスラさん!? ポリッちゃんがウルスラさんのおっぱいを揉みたいと!」

「んなっ!?」

「言ってない! 言ってないよっ!?」

「たとえぺったんこでも一切気にしないと!」

「それは本当に言ってない! それっぽいニュアンスの発言もしてないからね!」

「…………ぺった…んこ………」

「ちょっ!? 待って! それに関しては私は無実だからっ! 殴らないでっ!」


 頭を抱えて体を強張らせるポリメニス。

 …………そんな仕草もまた、可愛らしい。


「ぽ…………」

「……ぽ?」

「ポリメニスのエッチィィィイイーーー!」


 あぁ……ダメだ。

 こんな時だというのに…………


「いつでも恋はデンジャラスッ!」


 なんだかもう、龍族とかどうでもいい。

 どうせ、おにぃたん様がなんとかする。

 私たちはただ朗報を待てばいいだけだ。


 そんなわけで、適当に頑張れ、おにぃたん様。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「エイミー……今、ブレンドレル砲が発射されたようですが……」


 ナトリアが城の方向を向いて表情をこわばらせる。

 ……まったく、あの王女様は。

 流石と言うかなんと言うか……アシノウラの妹なだけはあるわね。


 王女の魔力は無尽蔵らしい。

 けれど、一日に使用できる量は決まっている。

 あまりに急激な魔力の増減は人体に悪影響を及ぼすからだ。

 たとえば、魔法を覚えたての初心者が「簡単な魔法だから」と素人判断で魔法を連発するのは避けた方がいい。最悪の場合、魔力を制御する器官がおかしくなって二度と魔法が使えなくなる可能性があるからだ。

 …………耳に痛い。あたしも最初はそんな感じだったな。


 で、あそこにも無茶をしている人がいるわけで……


「放っておきましょう。側近のウルスラとかいう人がなんとかするでしょう」


 あたしたちは今、王都の外へと来ていた。

 街を抜けて壊れた外壁の修復作業が進む現場へ来ているのだ。


「ふむ。こうも破壊されては修復に時間がかかるのぅ」


 鷹揚な口調でしゃべるこの幼女は、なんでも世界最高峰の鍛冶師で、千年も生きているとか。

 長生きしても、育たないところは育たないのね。……フランカ、可哀想。


「オイヴィ様。魔獣の反応があると、王女パルヴィが仰っていました」


 ルエラが、いまだ舌っ足らずな感が抜けきらない口調で報告をする。


「ふむ……この大穴から王都に侵入されると厄介じゃからの。しっかり見張っておいてくりゃれや」

「はぁい!」


 そう。

 あたしたちは、壊れた外壁の見張りに来ているのだ。

 魔力はブレンドレル砲の発射に使用し、もう残ってはいない。一日一回、あたしたちの魔力を総動員してようやく発射できるのだ。今日は朝のうちに一度使っていた。

 ……その後、アシノウラから催促するように何度も発射要請が来ていたけども……無視した。

 どうせ、おっぱいの形をしているから思わず連打してしまっただけなのだ。あいつはそういうヤツなのだ。

 そもそも、スイッチがあんなふざけた形をしているから悪いのよ……何考えているのかしら、ポリッちゃんは。

 やっぱり、アシノウラと同じ系列の血が流れているのね……気の毒だわ、ブレンドレル家。


「エイミー、見てください!」


 ナトリアが切迫した様子であたしを呼ぶ。

 なに? 魔獣!?


 と、視線を向けると……


「ぅわぁぁあぁあ! 恋と愛とがフォーリンラァ~ブッ!」


 王女パルヴィの側近、ウルスラが駆け抜けて行った。


 って!

 ここ、王都の一番端っこよ!?

 王城を出て、王女パルヴィを放置して何してんのよ、あの人!?

 っていうか、どこ行くのぉー!?


「……なんというか、アシノウラの関係者って、みんなあぁなのかしらね?」

「では、エイミーも『あぁ』な人たちのお仲間ですね」

「やめてよ、縁起でもない……」


 あたしは別。

 あたしだけは、アシノウラの知人の中でもまともな存在なの。良心よ、うん。


「のぅ、エイミーにナトリア。それからルエラよ」


 オイヴィがあたしたちを呼ぶ。

 なんだろう?

 とりあえず近くへ行ってみる。


 オイヴィはあたしたちをぐるりと見回すと、こんなことを言った。


「マズいことになったぞぇ」

「マズい……って、何が? あ、ですか?」

「あぁ、よいよい。敬語など、使いたい奴だけが使ぅておればよいのじゃ。楽に接してくりゃれや」


 オイヴィは凄く偉い人……というか貴重な人らしいのだが、偉ぶらずにとても話しやすい。

 お言葉に甘えて敬語は無しにする。


「で、何がマズいの? 外壁の修理に何か問題でも?」

「うむ。もしかすればじゃが……外壁を作り直すことになるやもしれぬわな」


 外壁を作り直す?

 基礎の部分に欠陥でも見つかったのだろうか?


「凄いのが来おった」

「……凄いの?」


 オイヴィは親指で外壁の向こう側を指さす。

 そちらに視線を向けた、……その時!



 ギョワァァァアアアーーーッ!



 修復中の外壁をぶち破って、巨大なカバが王都へ侵入してきた。

 禍々しい角を生やし、無数の牙が口からはみ出した、一目で獰猛とわかる魔獣。


「ベヒモスじゃ」


 オイヴィが眉根を寄せて言う。


「なんなの、こいつっ!?」

「ベヒモスじゃ」

「聞き直したんじゃないわよっ!」


 あぁ、この人もアシノウラの関係者なんだ……やっぱりどっかおかしい。


「エイミー、退避しましょう。魔法が使えない私たちでは、太刀打のしようがありません」

「うん、そうだよ、エイミーお姉ちゃん!」


 ナトリアとルエラの意見はもっともだ。

 そうするのが正しいのだと思う。

 けど。


「あたしたちが逃げたら、町の人はどうなるの!? アレは、誰が止めるのよ!?」


 何よ、あんなデカいだけの魔獣!

 あたしは、古の遺跡でカラヒラゾンとだって戦ったのよ。

 魔法なんてほとんど使えなかった、あの幼かった頃に!


 今だって、この弓さえあれば十分に……


「あたしは戦えるっ!」


 全力で弓を射る。

 だが、ベヒモスはその弓を角で弾き飛ばしてしまう。

 デカいくせに素早い……それに、反応もいい。あいつ、強い。


「ナトリアとルエラは街の人を誘導して、王城へ避難させて! あと、使えそうな人がいたら片っ端から声かけて応援要請をお願い!」

「で、でも……エイミーお姉ちゃんは……」

「ルエラ。こういう場面で『でも』は禁句です。エイミーを信じて、私たちは私たちに出来ることをやりましょう。全力で」

「う……うん」


 流石ナトリアだ。頭の回転が速い。

 あたしが残っても、ベヒモスを止めることは出来ない。

 けど、多少の足止めくらいなら出来る。

 その時間で、救われる人もいるはず……あたしは、それで十分だ。


「エイミーお姉ちゃん、怪我しないでね!」

「エイミー。無茶はしないでください」


 そんな言葉を残し、二人は王都へ駆けて行った。

 さて……どう足止めしたものかしらね……


 外壁の警備にあたっていた騎士団がベヒモスに斬りかかるが、相手は5メートル以上もある巨大な魔獣だ。まるでダメージを与えられていない。


「やっぱり、狙うなら眼かしらね……」

「うむ。よい判断じゃの」


 背後からの声に振り返ると、オイヴィがいた。


「何やってんのよ!? あんたも早く逃げなさいよ!」

「ヌシが残るのに、ワだけ逃げるなんて出来んせんがね。それに……」


 オイヴィはクスリと笑い、懐から鋭く尖ったヤジリを取り出した。


「ワは、役に立つぞぇ」


 手渡されたヤジリは軽く、でもしっかりとした硬度を持ち……少し熱かった。


「パルヴィの魔力を込めて打ったヤジリじゃ。威力は折り紙付きじゃで、眼なんてけち臭いことは言わず眉間を貫いて仕留めてやるとえぇぞ」


 凄い自信だ。

 けれど、それも納得してしまう。

 このヤジリは、有無を言わさぬ迫力がある。そしておそらく、それだけの力も。


 あたしは矢を一本取り出し、ヤジリを付け替える。工具はオイヴィが無言で渡してくれた。この人やっぱり凄い。絶妙のタイミングで一番欲しいものを的確に渡してくれる。

 おかげで、数分で付け替えが完了した。


「見事な手際じゃ」

「ありがと」


 なんだか、褒められたのが照れ臭かった。


 気を取り直して、矢を番える。

 狙いを定める……


 群がる騎士団に相当頭に来ているのか、ベヒモスは頭を振り乱して暴れている。

 外壁はボロボロだ。

 こうも暴れられては狙いがつけにくい……


「誰かそいつの動きを止めて! 脚を抑えるだけでもいいわ!」


 頭を振り乱す程度なら狙いは付けられる。

 けれど、前足を持ち上げたり後ろ足で蹴り上げたり、こうも動き回られると流石に無理だ。


「バスコ・トロイに四天王よ」

「はっ」


 オイヴィが呼び掛けると、どこに潜んでいたのか、バスコ・トロイと四天王が姿を現した。

 ……バスコ・トロイとグレゴールは絶対オイヴィ目当てよね…………もう末期だもの。


「ヌシらでベヒモスの足を止められんかぇ?」

「無理です」

「魔法が使えぬのでな」

「いやぁ、残念っす」

「魔力全~部ぅ、ブレンドレル砲に使っちゃったんだよねぇ」

「今のボクは、ただ美しいだけの青年さ」

「片っ端から使えないわね、あんたたち!?」


 バスコ・トロイ、グレゴール、バプティスト、メイベルにジェイル。

 こいつらもあたしと同じように魔力をすべてブレンドレル砲に費やしたのだ。四天王は魔力を温存しておけば、【魔界蟲】を介して魔法が使えたのに……王女パルヴィが、「おにぃたんの手助けが最優先です! 王都や王城が破壊されても構いませんです! ポリッちゃんが直しますので!」とか言って魔力を掻き集めるから……あの時のポリッちゃんの「えぇ~私がぁ~……」みたいな顔は一生忘れない。


「見て! なんか来るよぉ!?」


 メイベルが壊れた外壁を指さす。

 そこから、無数の魔獣がなだれ込んできた。

 小さな……と言っても、体長1メートルほどあるので十分に大きいが……トカゲだ。


「コカドリーユの群じゃ!」


 オイヴィの言葉に、一同に緊張が走る。

 コカドリーユと言えば、どんな武器もダメージを与えられない特殊な鱗をもち、猛毒を吐くと言われている魔獣だ。コカドリーユに有効なのは魔法。そのため、魔導ギルドにはコカドリーユの討伐依頼が頻繁に舞い込んできていたのだと聞いた。

 けど、今あたしたちは魔法が使えない。

 それも……あんな群れで…………どうすれば。


 と、そこへ……


「てぇぇええいっ!」


 一人の女性が巨大なハンマーを振り回しながら乱入してきた。

 露出度の高い服を身に纏い、大きな胸を揺らして…………あ、あの人っ!?

 オルミクルで見かけた……えっと、たしか、名前は……


「ジェナ!?」

「ん? あんた、誰?」


 一撃でコカドリーユを粉砕したジェナはあたしの顔をまじまじと見て、そして手を打った。


「あぁ! 古の遺跡で助けに来てくれた娘だぁ!」


 まぁ、彼女とはさほど接点もなかったので、その程度の認識なのは仕方ない。

 それよりも……


「今の、どうやったの? なぜコカドリーユを打撃で倒せたの?」

「へ? 武器に魔力を纏わせたからだけど?」

「魔力……」


 そうか。

 魔法陣の消失と共に、あたしたちは魔法が使えなくなった。

 けれど、魔法陣を必要としない『内燃型魔法』なら使用できるんだ!


 そう言えばアシノウラが、魔法を覚える前からあたしは矢に魔力を込められていたって言ってたっけ……あぁ、魔力が残っていればすぐにでも確認できたのに!


「のぅ、乳の大きな露出娘よ」

「誰が露出娘よ!? あと乳のことは言わないで! 気にしてるんだから!」

「おや? 大きいのに不満なのかぇ?」

「世の中には小さい方がいい人もいるのよ!」

「ふむ……それもそうかの」


 あぁ……いるわよねぇ……小さい方がいいって人…………


「ジェナ! 後ろから来るぞ!」


 あたしがある二人の人物の顔を思い浮かべた途端、その片方の人物の声が聞こえてきた。

 ジェナがその声に反応し、体を反転させながら巨大なハンマーを振るう。

 ジェナに襲い掛かろうとしていたコカドリーユは首を折られ地面へとくずおれた。


「デリック! どうかな、私のハンマー捌き!?」

「あぁ。随分と上達したもんだ」

「やった!」


 ジェナが少女のような笑みを浮かべる。

 あたしの背後に立つ男に褒められたのが嬉しいのだろう。……アレのどこがいいのか、理解に苦しむけどね。


 あたしは振り返り、想像通りの人物の顔を目にする。


「久しぶりね、デリック」


 筋肉ムキムキの巨体の持ち主。

【破砕の闘士】デリックだ。

 全身ボロボロになって戦線離脱していたようだけど、復帰できたようね。筋肉が以前より大きく成長している。


「お前は………………誰だ?」

「あんたは覚えてなさいよ! エイミーよ、エイミー! 一緒に古の遺跡を攻略したでしょ!?」


 ジェナは百歩譲って許すけど、あんたはダメだ!


「エイミー…………?」


 デリックの視線があたしの顔から……すっと下がる。

 そして、大きなため息と一つ……


「……大きく、なったなぁ」

「どこ見て言った?」


 あんたはアシノウラか? ベクトルは逆向いてるけども。


「あぁ……時の流れは無情だな。俺はこんな腫れた乳よりも、ペターンと、ストーンとした控えめな胸の方が好でゅるべぼぶっ!?」


 巨大なハンマーがデリックの右頬を殴打し、デリックは錐もみしながら地面へと沈んだ。


「デリック……どうかなぁ、私のハンマー捌き?」

「あ……あぁ……随分と、上達したもん……だ」


 何やってんの、この人たち?


「オーイヴィー!」


 と、もう一つ……さっきあたしが思い浮かべた人物の声が聞こえてきた。

 ……あぁ、いやな予感って、的中するものよね。


 駆けてきたのは、たくましい肉体をもつ老齢の男性。

 オルミクル村のギルド長、【暴走原始人】ドーエンだ。


「おぉ、ドーエン。久しいな」

「相変わらず可愛らしい! この世の奇跡だ! 生まれてくれてありがとう!」


 ……ドーエン、気持ち悪さに拍車がかかってない?

 でもまぁ、旧知の相手だし、挨拶くらいはしておくべきよね。


「お久しぶりです、ドーエンさん」

「ん?」


 ドーエンはあたしの顔を見て、視線を胸へ落とし、舌打ちをして、また顔に視線を戻す。


「エイミーか。元気そうで何よりじゃ」


 こいつ…………

 まだ『子供』というカテゴリーに入っているため邪険にはされなかったが……巨乳差別も甚だしい。


「お、おい! オイヴィって……まさか、あの伝説の!?」


 デリックが目を剥いてオイヴィに駆け寄る。

 かつては、武器破壊を趣味としていたデリックだ。伝説の鍛冶師の名を知っていてもおかしくはない。

 彼女の打つ武器は、この世界で最高峰の出来なのだから。

 まぁ、感激する気持ちは理解できる。


「伝説のロリっ子! 永遠のロリっ子、オイヴィ・マユラ!?」


 ……訂正。

 感激する気持ちが一切理解出来ない。


「ロリっ子という表現はどうかと思うがの……ヌシらちと頼まれてはくれんかや?」

「「喜んで!!」」


 ……あぁ、こいつら、ダメな大人だ。


「……ダメな大人ね」


 ジェナはあたしと同じ意見なようだ。

 呟きに殺意が込められていた。


「ベヒモスを止めたいのじゃ。ヤツの脚を抑え込んでくれんかのぅ?」

「「お安い御用だ!!」」


 わぁ、頼もしい。

 頼もしいバカだ。


「俺が右へ行く!」

「ならワシは左じゃ!」


 筋肉をムキムキ言わせながら、ロリコンの大男が輝く笑顔で駆けて行く。

 うん。たぶん取り押さえてくれるだろう。

 あの二人なら、どんなことでもやってのけるに違いない。


 変態は時に常識を覆す。


 アシノウラを見て学んだ唯一のことだわ。


「オラァ!」

「どっせいぃっや!」


 物の数分で、ベヒモスの動きは止まった。

 四本の脚に多大なダメージを受けたのだろう。


 ……まぁ、おかげで助かったんだけど…………素直に感謝したくないなぁ。


「ほれ、出番じゃ。しっかり決めてくりゃれ」


 オイヴィがあたしの背をポンと押す。

 言われなくても…………


「これで、決めるわ!」


 勢いよく放たれた矢は、狙い通りベヒモスの眉間へと突き刺さり、次の瞬間激しく燃え上がった。

 ベヒモスの巨体が一瞬で炎に包まれる。


 断末魔の叫びを上げ、ベヒモスが動かなくなった。


 …………なに、とんでもないものをサラッと寄越してくれてんのよ。

 オイヴィ・マユラの作る武器って……みんなこんななの? 怖いんですけど。


「上出来じゃな、エイミーよ」

「……上出来なのはあんたの武器が、でしょ?」

「武器は正しく扱える者に渡ってこそ威力を発揮するものじゃよ」


 まぁ、それはそうかもしれない。


 残りのコカドリーユは【破砕の変態】と【暴走変態】に任せておけばいいだろう。


「二人とも~! 頑張るのじゃ~!」

「「は~いっ!」」


 うん。オイヴィの一言がダメ押しになったようだ。

 はい、撤収撤収。


 ったく。

 アシノウラもアシノウラで、さっさと帰ってくればいいのに。

 おっぱいスイッチを連打して遊んでる暇があるんだし、どうせもう龍族の方は片付いているんでしょ?

 アシノウラだからなんの心配もしていない。あいつは、絶対に勝つから。

 だから、さっさと帰ってくればいいのだ。


 ……まだ、全然話出来てないしね。


「えっ!?」

「んっ!?」


 その時、あたしとオイヴィは同時に声を上げた。


 ずっと遠い空から……『何か』がやってくる。

 それも、凄まじい速度で……


 ベヒモスの時とは比べ物にならない…………『危険』な気配。


 自然と全身が震えだす。

 立っているのがやっとだ。



 ……なに?

 なんなの?

 何が来るっていうの?


 その気配が近付くにつれ、あたしの動悸は激しくなり、汗が拭き出してくる。


「……来るのぅ」


 オイヴィが呟いた、その直後――



 ゴゥッ!



 そこにあった空気が根こそぎ持って行かれたかと錯覚した。

 突風が吹き抜け、思わずあたしは尻もちをついてしまった。


 凄まじい高エネルギーな気配は瞬く間に……あたしたちの頭上を通り過ぎて行った。


「…………一体、なんなの?」


 震えと汗は止まったけれど、とてつもない疲労感が全身を襲う。

 そんなに緊張していたのか……

 もう、何もしたくない。そんな気分だった。


「……あやつが…………まさかのぅ…………だがしかし…………う~む……」


 オイヴィは、何か心当たりがあるのか腕を組んで首をひねっている。

 何かを知っているのか、問いただしたい気持ちはあったけれど……


「帰って休みたいわ……」

「そうじゃの。あとのことは騎士団に任せるとしよう」


 オイヴィに肩を借り、あたしは王城へと引き返して行った。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「ありがとー! パルヴィー!」


 流石に、ここからでは声は届かないだろうが、いいんだ。こういうのは気持ちだから。


 闇の【ゼーレ】がまき散らす闇のブレス。

 その中で、俺が展開する結界が、俺たちを守る最後の砦だった。

 その結界を維持する魔力が尽きかけ、もうダメだ……と思った時、空から光が降り注いできた。


 パルヴィから送られてきた魔力だ。


 すぐさま俺は魔力を吸収し結界を強化。

 同時に、魔力が枯渇しかかっていた仲間たちに魔力を分け与えた。

 ……そ、その…………みんなと…………チュ…………チューとか、しちゃって。


「……し、仕方ないわよね、こういう状況ですもの」

「は、初めて…………ワタシの…………初めてが主…………むふふふふ」

「なんべんしてもえぇもんだべなぁ……とろけてまいそうだべぇ」

「……なんだか…………ちょっとモヤモヤしますね、なんだか…………なんか……なんだか……むぅ」


 フランカはよそよそしくそっぽを向き、テオドラは緩む頬を両手で押さえて、トシコは唇に指を添えてうっとりとし、ルゥシールは頬を膨らませてぶつぶつ言っている。


 いや、仕方ないじゃん?

 状況が状況なんだし。

 闇の【ゼーレ】に横取りされる前にみんなに魔力分配したかったし。


「おニィちゃん。私にも!」

「いや、幼女はちょっと……罪悪感が」

「いいから! ばい~んのために!」

「ごめん、ちょっと何言ってるか分かんねぇ」


 シルヴァネールが唇を突き出してくるが……


「シルヴァにはしちゃダメですからね!」


 と、ルゥシールからきつく注意されてしまっては出来ない。


「私にも魔力をくれ!」


 などとエンペラードラゴン・ロッドキールが抜かしているが……顔面に拳骨をくれてやった。


「のぉっ!?」

「ふざけんな、オッサン」

「……私の、魔力が……回復しなければ、闇の【ゼーレ】を抑えることは出来んのだぞ…………あと、鼻はやめろ…………涙が出てきた……」


 お前にキスするくらいなら、世界が闇に呑まれる方を選択するわ。


「お婿はん。グリフォンさ魔力ん中継ばぁ出来るだよ!」

「マジでか!? じゃあ頼む!」

「やってるわよぉ! あんたとオッサンのラブシーンなんか見たくないからね!」


 グリフォンは、俺ほどの速度は無いにせよ、魔力を吸収して相手に送ることが出来るようだ。

 魔神はみな、魔力を与えることが出来るからな。吸収するヤツは珍しいけど。


「よっしゃ! じゃあ反撃開始と行きますか!」


 魔力も気力も十分。

 ルゥシールの迷いも晴れ……同時に俺の迷いも吹っ切れた。


 正直、ルゥシールのことが心配だったのだ。

 闇の【ゼーレ】なんて厄介なものを抱え込んで、こいつは幸せなのだろうかと。

 出来る事なら、闇の【ゼーレ】を取り外してやらなければいけないのではないかと


 けれど、ルゥシールは自分で選んだ。

 その選択が正しいのかどうかはまだわからん。

 もし仮に間違っていたとしても、ルゥシールが決めたことなのだ。それでいいと思う。

 それで不都合な事態に巻き込まれるってんなら、そん時にまた、一緒に乗り越えていきゃあいいんだ。


 あってるか間違ってるかなんて、悩む必要なかったんだ。


 正解にしてやればいいんだ、俺たちの手で。俺たちの行動で。


 吹っ切れた俺は強いぜ?

 迷いのなくなった俺は、どこまでも突き進むからな。


「まずは、闇のブレスの前にアイスドラゴンとヤマタノオロチの【ゼーレ】を排除してくれ」


 ロッドキールが魔力の回復に努めながら言う。


「闇の【ゼーレ】には、私とルゥの二人で立ち向かう。他の者はアイスドラゴンとヤマタノオロチの【ゼーレ】に当たってくれ」

「……でも、闇のブレスを先に抑えてくれないと、結界から出た途端魔力を奪われてしまうわ」

「しかし、闇のブレスを抑えるためにも、他二人を抑えなければいけないのではないか?」

「んだらもう、せーのでやればえぇんでねぇだか?」

「あんたたちの作戦て、いっつもざっくりしてるわねぇ」


 フランカたちの話し合いにグリフォンがため息を漏らす。

 でもまぁ、それしかないだろうな。


「シルヴァネール。アイスドラゴンを頼めるか?」

「任せて。……次は負けない」


 シルヴァネールが闘志を燃やす。


「フランカ、テオドラ、トシコとグリフォンは真龍を頼む。で、みんな真龍で統一してくれ、ややこしくて敵わん」

「……了解真龍」

「分かった真龍」

「OKだべ真龍」

「いや、語尾に『真龍』つけろってことじゃねぇから」


 大丈夫なのかねぇ、こいつら。


「で、ロッドキールとルゥシールは俺と一緒に闇の【ゼーレ】担当だ」

「貴様も来るのか?」

「当り前だろう!? どこの馬の骨とも分からんヤツとルゥシールを二人きりに出来るか!」

「それはこっちのセリフだろ!? 父です! この立派な乳の立派な父です!」

「父上! 立派さが微塵も感じられませんよっ!?」


 こんな父親と二人ではルゥシールが危険だ。

 何より、ルゥシールは現在ニヒツドラゴンなのだ。

 俺がサポートしてやらなきゃ。


「……まだ勝負は決まっていない」

「そ、そうだな!? ワタシたちも関係は前進したわけだし! ワ、ワタシなど、は、初めてを捧げたわけだし!」

「んだ! お婿はんの心はまだ固まってねぇべ! まだいけるだ! 突き崩せるだ!」

「……すべては」

「この戦いが」

「終わった後だべ!」


 フランカたち三人が頷きを交わしている。

 なんだか、強い絆で結ばれているようだ。

 戦いへの意気込みだろうか? 頼もしい限りだ。


「んじゃまぁ!」


 俺は手のひらをパンと打ち鳴らす。


「最終決戦…………いくぞっ!」

「「「「「「「 おぉーっ! 」」」」」」」


 全員の声が揃う。

 そして、俺たちは結界から飛び出した!








ご来訪ありがとうございます。



『128話 王家の者たち』にて、

ポリメニスが調整し、

『139話 切り札』にて、

ご主人さんに「魔力をお届け☆彡」したマッスィーンが登場です。


ブレンドレル砲。

まんまの名前ですが、意外と高性能です。


距離、位置、角度、気温、気候その他、

ありとあらゆる条件下に置いて、外的影響を一切受け付けない、

高純度な魔力を寸分たがわず送り届けることが可能な大砲です。


唯一の欠点は、発射スイッチがおっぱい型ということくらい。

あと、何度も押していると「矢文」が飛んできます。





あとは、

恋するウルスラ劇場でした。


恋する乙女って可愛い……です、かね?






そして、

エイミーたちは、

ブレンドレル砲で魔力を使い果たし、城の外の警備に当たっていました。


グリフォンが魔界から出てきたこともあり、

また、遠く北方から、龍族が戦う本気の魔力が漂って来て……

ブレンドレル近郊は魔獣が頻繁に出没するようになっていました。


ちょうど、

古の遺跡から漏れ出た魔力に魔獣グーロが寄って来たような感じです。



そんな魔獣から街の人を守らねば!

ということで、エイミーたちと四天王などが街の警備にあたっているのです。



そこに!

ボインちゃんことジェナと、

変態二人が再登場です!


ジェナは魔法が使えなくなったため、

デリックにハンマーの使い方を教わっていました。


……イチャイチャしやがって。


筋がいいようで、(胸に同じような錘付けれるからバランスとれてんじゃねーのー!?)(← ヤジ)

今ではいっぱしのハンマー使いです。(おっきなおっぱいの方が武器になんじゃねーのー!?)(← おヤジ)(← 丁寧に「お」を付けてみた結果)


そして、変態二人は……まぁ、いいでしょう。



こういうメンバーだとオイヴィが頼もしく見えますね。

流石年の功!

ロリでも年の功!




そして、

ご主人さん、リア充化です!


あの男、その場にいた女子に片っ端からチューしましたよ!?

なんてヤツザマショ!?


だったらロッドキールのオッサンにもしろっつうの!



ちなみに、ロッドキール(人間ヴァージョン)初登場の時が、

ルゥシール視点だったために、ロッドキールの外見を一切描写していませんでした。

なんというか、ルゥシールが今さら、しかもあの場面で、

「わたしの父は白髪をオールバックに決め、骨格がしっかりとした掘りの深い系ちょいダンディオヤジです」とか言うのもどうかなぁと思って。


ザックリ言うと、リチャード・ギアみたいな感じです。


そんな渋いオッサンが、ご主人さんに弄ばれているのです。


「げ、逆鱗をあんな乱暴に…………ポッ」


です。





オッサン。


年の功。


と、いえば……


まったく関係ないんですけど、

そして凄く私的なことなんですけど、


我が家に「大人用紙おむつ」のDMが届くようになりました。


……なぜ?

私、まだ大丈夫ですよ?

枕もまだお爺ちゃん家の匂いしてませんよ?

夜、一人でオチッコ行けますよ?


何故送って来たし、紙おむつ会社?


一体私は、どこの何に個人情報を提供してしまったんでしょうね?



あぁ、あれかなぁ?

老後は美幼女に介護して欲しくて、そういう施設ないかなぁって探してた時かなぁ?

よくないですか?

美幼女介護。

周りからも、微笑ましい目で見られると思うんです、

幼女と老人が仲良くしているのは。


なので、老後はそのような施設に入ります。

無ければ作ります。



ですが、それはまだ先の話。

とりあえず、あと二十年は必要ないです「大人用紙おむつ」。

そういうプレイの予定も……今のところないですし。



みなさんも、

ちょっと変わった調べものをする時は気を付けてくださいね。






次回もよろしくお願いいたします。


とまと

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