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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
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142話 龍族の根源

 闇のように黒いエンペラードラゴンの瞳の奥で……揺ら揺らと紅蓮の炎がちらつく。


「ど、どうしたんだ……こいつ」


 さっきまで意識を失っていたかと思えば、突然首を持ち上げ、俺をジッと見つめている。

 だが、こいつからは「生き物の気配」がしない……


 まるで亡霊のような、薄ら寒さを覚える……


『…………ォォォォォォォォォ』


 半開きになった口から、低く掠れた声が漏れ出す。

 魔界の奥深くでもここまで気味の悪い音はしない、というような不気味な声……


「……【搾乳】、一度そこから退いた方がいいわ!」


 フランカが言うが……いや、しかし。


「いざとなったら、すぐに逆鱗を抑えられるようにしておかないと……」

「……何を言っているの!? 『ソイツ』にはもう、魔力なんてないじゃない!」


 フランカが酷く焦っているように見える

 言い知れぬ不安に駆られているような…………だからだろうか、珍しく声を荒げている。


「……いい、【搾乳】? よく考えて」


 諭すように、けど力強く、フランカは俺に向かって言う。


「……魔力を持たずに生命活動が出来る生物なんて、この世にいないのよ!」

「……いや、俺は?」

「…………【搾乳】は、普通じゃないもの」


 こいつ、マジで俺の存在忘れてやがった?

 言い逃れが雑すぎる。


 とはいえ……


 目を凝らしてみれば……なるほど、フランカの言う通りだ。

 今のエンペラードラゴンには魔力が欠片も残っていない。


 だというのに、全身に鳥肌が立つほどの『力』を感じている。

 得体の知れない『力』に、どうしていいのか戸惑ってしまう。


『…………ォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!』


 エンペラードラゴンから漏れ出る声が大きくなる。

 まるで、赤子が泣いているような……絶叫へと変化していく。


『ガァギャアアアアアアアアアアッ! グギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!』

「きぁああああっ!」


 ルゥシールがエンペラードラゴンに駆け寄り、頭と頭をくっつける。

 正気に戻そうとしているように、懸命に頭を寄せ合わせる。

 しかし、エンペラードラゴンはそれを嫌うように、首をぶんぶんと振り回す。

 接近するルゥシールに強烈な頭突きを食らわせる。


「ぎゃっ!」


 ルゥシールが短く悲鳴を上げ、よろよろと後退する。

 額から、血が流れ落ちていく。


 それを見て、俺の頭は一瞬で沸騰した。

 怒髪天を突くと言うやつだ。


「お前っ! いい加減に……っ!」

『ギャギャギャギャギャギャギャギャッ!』

「――っ!?」


 魔法をぶっ放してやろうと腕を伸ばした俺に、エンペラードラゴンは気味の悪い叫びと共にブレスを浴びせかけてきた。


 咄嗟に魔力を結界に変える。

 が、そのブレスはこれまでのものとはまるで違い……


 まとわりつくように俺を取り囲み始めた。


「なんだよ、こいつ!?」


 エンペラードラゴンが吐き出したものは、もはやブレスとは呼べない代物だった。

 どろどろとした粘液のようで、ウネウネとうごめきながら俺の展開する結界を覆い尽くしていく。

 中に入ってこようとしている様だ。


「……【搾乳】!」

「主!」

「お婿はん!」

「お前たち、来るな!」


 こいつに触れるととんでもないことになりそうな気がする。

 巻き込むわけにはいかない。


「安全な場所まで避難しておけ! どうせ魔力も底を尽きてるんだろう!?」


 俺の目で見たフランカたちは、魔力がほとんど残っておらず疲弊しているようだった。

 そんな状態でこんな厄介なヤツに近付いちゃいけない。


「……グリフォン」

「ほらね! 絶対言うと思ってたわよ!」

「お婿はんの一大事だで!」

「頼まれてはくれまいか!?」

「わぁ~かったわよぉ! じゃあみんな、ちゃっちゃと準備しちゃって!」


 みんなが何かをやり始めたようだ。

 だが、俺の視界はドロドロの粘着物のせいで遮られてしまっていた。

 俺を取り囲む半径2メートル程度の結界を、覆い尽くすどろどろ粘着物。

 不定形なこいつが光を遮り、結界の中は暗闇に包まれる。


 こんなことなら、さっさと避難しておけばよかった。


「あぁ、もう! 気持ちの悪い!」


 まるで生き物のように絡み付いてくるそいつは、見ていて不快感しか覚えない。

 こいつ、吹き飛ばしたら倒せるんじゃないか?

 どうも思考というものを持っている様に見える。

 ならば、こいつの『頭脳』もしくは『本能』を司る器官があるはずだ。

『脳みそ』や『核』みたいなものを破壊すれば、こいつは機能停止をするんじゃないだろうか?

 古の遺跡にいた白いぶにぶにの赤い核のように。


 ……アレみたいに臭い汁とか飛び散るのは御免だなぁ。


「……なら」


 俺は、結界の中で腕を伸ばす。狙いをつけて……結界の一部ごと黒いイカヅチで打ち抜く。

 結界の一部を破壊して外のドロドロを吹き飛ばしてやろうとしたのだ。

 ……だが。


「ぅわぁあああっ!? 入って来やがった!?」


 黒いドロドロは、破壊された結界の穴から中へと侵入してきたのだ。

 安全圏だった結界が、今度は逃げ場のない密室に早変わりだ。


 このままでは結界の中でこのドロドロ塗れになってしまう。

 それは嫌だ!


 俺は結界を解除して、……暗闇に閉じ込められたせいで、誰がどこにいるのか把握できていないので……真上に飛んだ。

 一瞬、黒いドロドロを通過しなければいけないが、まぁ、「閉じ込められてべったり」よりかはマシだろう。

 そう思い、全速力で空へ向かって飛び立った。



 だが、黒いドロドロに触れた瞬間…………全身に焼ける様な痛みが走り…………見たことのない景色が視界いっぱいに広がった。



 陸地のほとんどが森に覆われ、背の高い大木がところどころから空に向かって突き出している。

 俺はこの光景を眺めながら悠然と空を飛んでいた。


 辺りを見渡してみても、どこにも文明の影は見当たらない。


 こんな景色は見たことがない。

 これだけの高度から世界を見渡せば、どこかに人の住んでいる形跡が見つかるはずだ。

 街や城。灯台や、海をゆく船。

 街道や平地に広がる田園風景、

 土にくっきりと刻まれた馬車の轍。

 どこかの工房から立ち昇る煙…………


 そんなものが、何一つ見当たらないのだ。


 まるで誰もいない世界のようだ…………


 そこでふと思い至る。

 これは、人類がまだ誕生する以前の世界なんじゃないか、と。


 遠くの空を眺めると、数頭のドラゴンが悠然と空を飛んでいた。

 もし、ブレンドレルの上空を複数のドラゴンが飛行していたら……人類は総出でドラゴン討伐に乗り出すだろう。


 俺の知る世界では、ドラゴンにこれほどの自由などないのだ。


 すると俺は、翼をはためかせて、そのドラゴンたちの方へと飛んでいった。

 嬉しくて心が弾んでいる。

 一緒に飛びたい。純粋にそう思っている。



 どうやら俺は今……ドラゴンの記憶を追体験しているらしい。

 あの黒いドロドロに触れた瞬間、この映像が流れ込んできたのだ


 こいつはおそらく、あのドロドロに刻み込まれたドラゴンの記憶なのだろう。



 たしか、【ゼーレ】は本体が死ぬと、また新たな体の中に生まれてくる……って言ってたよな。

 ってことは、つまり……


【ゼーレ】ってのは、もう何年も……何千年も生き続けているってことか?

 それじゃあまるで、ドラゴンの中に【ゼーレ】が生まれるのではなくて……



【ゼーレ】がドラゴンの体を『器』にしているみたいじゃねぇか。



 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 その時、突然ドラゴンの咆哮が耳元で聞こえた。


 この声は……ルゥシールか?


 ルゥシールの咆哮は、どこか別の世界から聞こえてくるような感じがした。

 この世界の中からではなく……外の世界から俺の脳みそへ直接訴えかけてきているような、違和感を覚える。


 今見えている世界が本物なのか、さっき声が聞こえた世界が本物なのか……それが分からなくなるような………………いや、わかるな。

 何も迷うことはないんだ。

 気が付いたら一気に頭がさえた。

 目が覚めたと言ってもいい。


 今俺が見ているのは、黒いドロドロが見せている虚構だ。

 過去、この【ゼーレ】が見た実際の風景なのかもしれない。

 だが、こいつは偽物だ。

 はっきりわかる。自信を持って言える。


 だってよ。


 ルゥシールがいない世界が本物なわけがない。


 ルゥシールの声は外の世界から聞こえてきた……なら、外の世界こそが本物の世界だ。


「……ルゥ…………シール…………っ」


 声を出そうとするが、上手く言葉にならない。

 体も思うように動かせない。

 目に映る景色だけがどんどん先へ進んでいく。

 夕焼けを浴びて赤く染まる海の上を優雅に飛行する。そんな風景を見せられながら、俺は必死に体を動かそうともがいた。


 けれど、ダメだった。


 俺の体が、何者かに乗っ取られてしまったような……



 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 一際大きな咆哮の後、全身に衝撃が走った。

 燃えるのとはまた違う、熱さと痛みに似た苦痛が全身に広がっていく。

 ただ、その苦痛が広がると同時に、俺の意識ははっきりと覚醒していく。



 目を開けると、世界は真っ暗だった。

 さっきのドロドロの中か?

 ……いや、違うな。

 これは…………闇のブレスだ。


 俺は、ルゥシールの吐き出した闇のブレスに全身を包まれていた。


 さっきまで目の前に広がっていた海も森も空も大地も、すべてが消え失せ、激しい痛みと共に現実が俺のもとへと帰ってくる。


 何がどうなってんだ?


 闇のブレスが弱まり、やがて止む。


 俺の体は、どうやら地面の上へ寝かされている様だ。

 ……なにがあったんだ?

俺はなんでこんなところにいる?


 周りに視線を巡らせると、フランカやテオドラ、トシコたちみんなが、俺を心配そうにのぞき込んでいた。


「なぁ、これは一体どういう……」


 状況確認をしようとしたところで、巨大な影が俺を覆った。


『ご主人さん! 大丈夫ですかっ!? しっかりしてください!』


 ……ん?

 ルゥシールか?

 なんでお前、ドラゴンの姿でしゃべって……?


 取り乱すルゥシールに代わって、フランカが状況を教えてくれる。


「……あなたは、先ほどの黒いゲル状の物体に体を乗っ取られていたのよ」

「なんだと!?」


 乗っ取られていた?

 この俺が?

 嘘だろ?


「覚えていないのか、主? エンペラードラゴンの背中から飛び降りると、『きあきあ』言いながらそこら辺を走り回ってたのだぞ?」

「嘘だろっ!?」


 そんな、アホのルゥシールじゃあるまいし!


「ホントだべ。まるで絶好調ん時のルゥシールっぽかっただ」


 マジでかぁ!?


 つまり、俺の意識が過去の風景を見ていた時、俺の本体は意味不明な行動をとっていたというわけか。

 一体、何だったんだ、さっきの現象は?


『ご主人さん、体は平気ですか!? 緊急事態だったとはいえ……ご主人さんに……わたしは…………っ!』


 巨大なドラゴンが、グイッと俺に顔を近付けてくる。

 怖ぇよ、ルゥシール。


「いや、おかげで助かったよ。ありがとな」

『…………はい』

「……で、なんでしゃべれるんだ?」

『あぁ、これはおそらく、ご主人さんの体に憑依しようとしていた【ゼーレ】を吸収したせいだと思います』


 これまでのドラゴンで、複数の【ゼーレ】を持つものは人間の言葉を話すことが出来るようだった。

 ってことは、今ルゥシールは、【ゼーレ】を二つ持っているってことか。


「……【搾乳】、回復をする」

「あぁ、すまんな。フランカ」


 自分でやろうと思ったのだが、どういうわけか魔力が底を尽きていた。

 おそらく、ルゥシールの闇のブレスを浴びせられた際、【ゼーレ】と一緒に持っていかれてしまったのだろう。


 視線を巡らせると、遠くにエンペラードラゴンの姿を見つけることが出来た。

 相変わらず、力なく横たわっている。

 だが、口からは毒々しい靄が吐き出されている。


 ヤツの体内から【ゼーレ】が逃げ出しているのか?


「ルゥシール。教えてくれないか?」

『はい、なんでしょうか?』

「エンペラードラゴンに何が起こっている? 【ゼーレ】が逃げ出しているように見えるのだが」

『……おそらく、その通りだと思います』

「それはなぜ起こった?」

『それは……』

「俺がエンペラードラゴンの魔力を奪ったからか?」

「…………かも、知れません」


 これまでの話を総合すれば、分かりそうなものだったのだ。

 エンペラードラゴンは【ゼーレ】を扱えると言っていた。それも、龍族で唯一だ。

 そしてヤツは、無の【ゼーレ】を結晶化して俺のマーヴィン・エレエレを無効化したことがある。それは、どんな魔力をも通さない、強力な結界だった。


 ここから、エンペラードラゴンは【ゼーレ】に結界を張り、互いに干渉しあわないようして一つの肉体に複数の【ゼーレ】を吸収していたのだと推測できる。


 まぁ結界ではないにせよ、エンペラードラゴンしか使えない、何かしらの魔法は使用していたのだろう。

 そうでなければ、他のドラゴンが勝手に【ゼーレ】の奪い合いを始めてしまいかねない、


 で、だ……

 そんな状態のエンペラードラゴンから魔力を根こそぎ奪ってしまったらどうなるのか…………その答えがアレだ。


【ゼーレ】を体内に納めておくことが出来なくなり、やがれ【ゼーレ】は溢れ出す。



『…………ォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッ!』



 エンペラードラゴンの叫びが響く。

 そして、その口から黒いどろどろとした物体が多量に吐き出された。


「魔力が無ければ【ゼーレ】は機能しないんじゃないのか!?」

「それは、【ゼーレ】が正しく肉体と一体化している時の話だ」


 そう言ったのは、アイスドラゴンだった。

 もっとも、今は人間の姿をしているが。

 その隣には、これまた人間の姿をしているヤマタノオロチが寄り添っている。

 ヤマタノオロチは人見知りなのか、ずっとアイスドラゴンの背に隠れ、一言も口を利かない。


 そんなヤマタノオロチの分も、アイスドラゴンがすべてを語ってくれた。


「もともと、複数の【ゼーレ】を所有できたのはヤマタノオロチだけだった。ヤマタノオロチは、代々複数の【ゼーレ】を体内に宿すドラゴンなのだ」


 こいつだけは、エンペラードラゴンの力を借りずに複数の【ゼーレ】を所有していたのだ。


「この娘は幼いころからおのれの身を守ることだけが得意な子だった。それ故にヤマタノオロチに選ばれたのだ」


 あの、全身から凶悪な魔力を放っていたヤマタノオロチは、実は防御に重点を置いたドラゴンだったのか。

 意外だ。



 ジャシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 遠くで、シルヴァネールの咆哮が聞こえる。

 ゴールドドラゴンが一頭、エンペラードラゴンから吐き出された不定形な黒い塊に向かって黄金のブレスを浴びせている。


 時間を稼いでくれているらしい。


 早く加勢に行ってやらなければ。

 あいつは力を使えばその分体が縮んでしまうのだ。


「それで、つまりはどういうことなんだよ?」


 俺はアイスドラゴンを急かすように問いかける。


「ヤマタノオロチが複数の【ゼーレ】を所有できることについて、エンペラードラゴンは興味を持ち、長い年月をかけて研究を重ねていたのだ。そしてついに、【ゼーレ】の構造を解き明かすこと成功した」


【ゼーレ】の構造?


「【ゼーレ】は、生きている」


 それは、俺が推察してたどり着いた答えと同じだった。

【ゼーレ】は、意志を持っているのだ。


「それを結界で覆い、体内へ宿らせる。我々が魔力を使うのは、その結界の効力を弱めるためだ」

「結界の効力が弱まれば、【ゼーレ】の力が外へ向かって放出される、ってことか?」

「そうだ」


 つまり、エネルギーの塊である【ゼーレ】の力を結界で抑え込み、力を使いたい時にだけ結界の力を弱めて【ゼーレ】の力を借りていたというわけか。

 だから、魔力が切れると結界を弱めることが出来なくなり【ゼーレ】は沈黙する。

 テオドラのルプトゥラ・ドラガオンは、その結界をより強固にするものなのだろう。たしか、魔力と【ゼーレ】の結びつきを断ち切るとか、そんなことを言っていた気がする。


 魔法の形態としては、俺たちがかつて使っていたものに似ているかもしれない。


 魔法陣を介し、魔界の魔神たちに魔法を借りていた人類。

 一方の龍族は、体内に宿るバケモノに力を借りていたのだ。魔力を結界に送ることでその結界を緩めて。


 …………ってことは、今の状況って……


「スゲェ厄介な魔神を解き放っちまった状態……ってことか?」

「アレを『生き物』と定義するのであれば、そうだろうな」

「生き物じゃなきゃ、なんなんだよ、アレは?」

「……魂だ」


 そんな、スピリチュアルな……実体ないのかよ?


 しかし、さっき見せられた【ゼーレ】の記憶……

 触れるだけで乗っ取られてしまうあたり、精神に対する攻撃力は半端ないものがあるのだろう。

 確かに、魂と呼ぶにふさわしい存在かもしれない。


 なんにしても、厄介だ。


『ご主人さん……』

「あぁ。どんなに厄介な相手でも……いや厄介な相手だからこそ、放っておけないよな」

『はい』


 俺は立ち上がり、そしてルゥシールの背中に跨る。


 闇の【ゼーレ】が、【ゼーレ】たちには有効なのだ。

 悪さをしようってんなら、懲らしめてやる必要があるな。


「……私たちも行くわ」


 フランカ、テオドラ、トシコにグリフォンが一歩前に進みでる。


「……これ以上、好き勝手にはさせない」

「【ドラゴンスレイヤー】の剣技を見せてくれる」

「とんでもなくヤバい相手だで、ここは一発みんなの先頭ば立って目にもの見せてやるだ! ……グリフォンが」

「あんたはまた、そういうこと言って!?」


 賑やかに、俺たちは準備を整える。


「すまない。私たちは力になることが出来ない」


 エンペラードラゴンのために自らの【ゼーレ】を差し出したアイスドラゴンとヤマタノオロチが申し訳なさそうに言う。

 こいつらは、ドラゴンの姿には戻れないのだ。戦力にはならない。


「こんなことを頼めた義理ではないが……エンペラードラゴンを、助けてやって欲しい」

「まぁ、確かに。頼まれるいわれのない願いだな」


 深々と頭を下げるアイスドラゴンに、俺は軽い口調で言ってやる。


「ルゥシールの父親だろ? 守るに決まってんだろうが」


 俺の望みは、ルゥシールに笑っていてもらうことなんだからよ。


「……そうか…………頼む」


 そうして、アイスドラゴンはもう一度ゆっくりと頭を下げるのだった。

 律儀なヤツなんだろうな。



 ジャシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 再びシルヴァネールの咆哮が空に響いた。

 その場にいた者たちが一斉に声のする方へ視線を向ける。


 と、そこにはゴールドドラゴンと…………黒いドラゴンがいた。

 いや、アレは……


吐き出された【ゼーレ】が、ドラゴンの姿を成していた。

その姿は黒く、禍々しい。

 存在そのものが狂気のようなドラゴン。

 龍族が使用する力の源。つまり、ヤツこそが龍族の根源ってわけだ。


 真龍――


 そう呼ぶのにふさわしい、純粋な力の塊。


「ルゥシール、行けるか?」

『はい、ご主人さん』


 未知数の敵ではあるが…………仲間がいる。そう思うだけで強くなれる気がした。


「臆することはねぇ! 行くぞぉ!」


 突如現れた純粋な【ゼーレ】の塊、真龍。

 エンペラードラゴンがおのれの信じる正義のために無茶をした結果、そして俺がそれに対抗した結果もたらしてしまった最悪の敵。


 そいつをぶっ飛ばして、この一連のごたごたを終わらせる。

 そのために……俺たちは揃って飛び立った。



 さぁ、決着をつけてやるぜ!








いつもありがとうございます。


魔力を失ったエンペラードラゴンからなんか出てきたぁ!?

――の回でした。



【ゼーレ】の仕組みは、ダムとを想像していただけると分かりやすいかもしれません。


並々と溜まっている『水』が『力』です。

それを覆う壁が『無の結晶』。水門とかあります。


で、この水門を開くために『動力(魔力)』は使われるわけです。

門が開くと『水(力)』が流れ出ていくと。


『動力』がなくなると門は開かず『水』はダムの中に留まります。

そこにあるのに使えない。そういう状態になります。


そして、テオドラの使うルプトゥラ・ドラガオンは、

この門を開くためのシステムにロックをかけるような技なのです。

管理者権限がないとこのパスは使用できません。みたいな。


そうやって厳重に管理されています。


なのですが、

今回、エンペラードラゴンの魔力がなくなり『無の結界(ダムの壁)』が消失してしまったために、

【ゼーレ】、ダムで言えば『水』が外へと「制御不能な状態」で漏れ出してしまったと、そういうわけです。


はたして、

暴走する『力』を抑えることは出来るのか…………

ご主人さん、ガンバ!




話はまるっと変わりますが、

この前町でくしゃみをしてる人を見ました。

花粉の季節でしょうか?


ただその人……


「ブリオッシュ!」


ってくしゃみをしていたんです。たぶんパン屋です。


ちょっと強引に解釈すれば、

「ブルドッグ!」にも聞こえなくもないかもしれません。

かなり強引に聞けば、ですけども。


さらにさらに、

もっともっと強引に聞けば、

「ブリトニー・スピアーズ!」に……いや、それはないな。

スミマセン、嘘つきました。ブリトニーはないです。



でも、その人(たぶんパン屋)ははっきりと、

「ブリオッシュ!」ってくしゃみをしたんです。


「ぶぇっくしょん!」というくしゃみをする人もいますから、

「ぶ」は、まぁ分かるんですが、その後、

「り」になるのが分かりませんでした。

「り」って出ますかね? 意識してやってみても難しい気がします。


今度、くしゃみをしそうになったらチャレンジしてみてください。

「ブリオッシュ!」ってくしゃみが出来るかどうか。

もし「できたよ~」という方はご一報を!


…………はっ!?

もしかして、あの人(たぶんパン屋)もそうだったのかもしれませんね!?

友人か誰かに、

「くしゃみするとき『ブリオッシュ』って言えるか試してみてよ」と言われていたと。

そしてそのチャレンジを、たまたま私が目撃したのかもしれないですね。



世界って意外と、そんな感じで回っているものですものね。





次回もよろしくお願いいたします。


とまと

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