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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
140/150

140話 声……

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 ……音が、聞こえました…………



 深い……とても深いところをたゆたうように、わたしの意識は静かな場所で眠っていました。

 そんな静寂の中に、小さな…………とても小さな波紋が…………



 ………………この感じ。


 これは…………



 まさか……




 ご主人……さん?





 いえ、そんなはずないですよね。

 だって、父上との力の差は歴然で…………

 いくらご主人さんでも、あれだけの差を見せつけられたら…………



『本当にそう思う?』



 不意に声が聞こえました。

 聞いたことのある様な……でもどこか、耳に違和感を覚える、表現しがたい、馴染みのある声……



『本当に来ないと思いますか?』 



 その声は、わたしに問いかけます。

 急かすではなく……

 攻めるではなく……

 ただ、淡々と。

 不思議そうに……



『アノ、ご主人さんですよ? 本当に、そう思いますか?』



 そう言われると、反論に困ります。

 だって、何でもありなのがご主人さんですから。


 でも……仮にご主人さんがやって来たとしても、里へたどり着けない。



『里には、アイスドラゴンがいるから?』



 はい。

 それに……ブルードラゴンや、他にも、沢山……



『だから、ご主人さんは里へは辿りつけない……?』



 そうです。

 仮にそのドラゴンたちを倒して里へたどり着いても、里には父上がいます。

 そんな無茶なこと、ご主人さんがするはず……



『ない?』



 ………………


 わたしは、答えられませんでした。

 すると、すぐに別の質問が投げかけられました。



『あなたの知っているご主人さんは、どんな人ですか?』



 わたしの知っているご主人さんは……

 無鉄砲で、無計画で…………


 そして……


 無敵です。



『もう一度聞きますね。しっかりと考えて答えてくださいね。これはあなた……いや、わたしにとってとても重要なことですので』



 わたし?

 あなたは、誰ですか?



『わたしはわたし。そして、わたしはあなた。だから、あなたはわたしですよ』



 あなたは、わたし? 

 わたしの中の、違うわたし……



『優しくて、仲間思いで、責任感が強い……あなたは本当にいい娘です』



 ……そんなこと。



『いいえ。とてもいい娘です。とても、とてもいい娘で、……だから、ご主人さんを失った』



 ――っ!?


 わ、わた、わたしは…………


 う、失ってなんて……いません。

 ご主人さんは……ご主人さんとの思い出は……

 何千年経とうと、わたしの中で色あせることなく永遠に生き続けるんです。


 それだけで……わたしは、この先の千年を生きていける。

 それから先は、また違うご主人さんとの思い出を思い出して……例えば、髪留めを買ってくれた時の優しかったご主人さんとか……わたしが木苺に夢中になって勝手な行動をとってしまって、それを叱ってくれた真剣な顔のご主人さんとか…………そういう、ご主人さんとの思い出は…………絶対に、何があろうとも消えません……



『あなたが、死んでも?』



 …………



『すでに、あなたの心は死にかけていました。何も感じず、何も思わず……ご主人さんのことすら、思い出さずに……』



 だって……

 だって…………


 思い出したら…………会いたくなっちゃうじゃないですか……


 ご主人さんに会って、いろんなお話をして、一緒にご飯を食べて…………ご主人さんの隣でご主人さんの夢を見て…………そんなことが、また……したく…………なって…………


 あの温かかった時間が、また欲しくなっちゃうじゃないですかぁ!



『そこで、質問です』



 ……質問…………



『ご主人さんは、本当に、来ないのでしょうか?』



 ……そん…………なの……………………わかりません、よ……



『本当に?』



 だって…………



『ご主人さんは、欲しいものは必ず手に入れる様な人です。魔力もないのに、魔法の結界が張られた古の遺跡に乗り込もうと何ヶ月も小さな村で粘り続ける様な人です。実の親によって魔界に捨てられても、這い上がってでもこの世界へ戻って来た人です』



 欲しいものは、必ず……



『とても強い人です。……そして、とても優しい人です』



 ……はい。

 それだけはもう、疑いようもなく。


 ご主人さんは、わたしがかけてほしい言葉を、いつも一番いいタイミングでかけてくれました。

 わたしが傍にいてほしい時に、ずっといてくれました。

 わたしが望むものを……誰かの隣にいられるという温かさを……ずっとずっと与え続けてくれました。



『あなたの望みを叶えてくれたご主人さんは、もうあなたの……わたしの……願いを聞いてはくれないのですか?』



 分かりません……



『本当に?』



 分かりませんよ、そんなの……そんなのは、本人でなければ……



『本当に?』



 …………分かり…………ま……



『言葉にしてみれば分かるかもしれませんよ。あなたが今、一番望んでいることを……』



 わたしが、今一番望んでいること…………



『その願いを、ご主人さんが聞いてくれるかどうか……』



 わたしの、願い…………

 わたしの…………

 わたし…………

 わたし、は…………


 わたしは…………




 ご主人さんに会いたいですっ!




 今すぐ会って、顔を見て、声を聞いて、……そして、出来る事なら……ギュッて…………

 ……会いたい…………です、よ……ご主人さん…………



『………………』



 え?

 なんて言ったんですか?

 聞こえませんよ。



『…………っ』



 なんですか?

 もっとハッキリ……

 ねぇ、そこにいますか?

 わたし……?

 違うわたし……あなたは、そこにいますか?



『……』



 待ってください!

 行かないでください!

 嫌です!

 嫌ですよ!


 だって……

 だって、あなたがいなくなると……

 わたしは、また…………また………………


「嫌ですよ……」


 もう……


「一人ぼっちは嫌ですよぉ!」


 寂しいですよ!

 辛いですよ!

 本当は、もっと、ずっとずっと、みんなと一緒にいたかったですよ!


 ご主人さんと、ずっと一緒に、ずっと傍に、一番近くに……



 これからもずっと、わたしは、そこにいたいんですよぉ!



『ルゥシールゥーッ!』



 ――――っ!?



 ……うそ…………


 いいえ。

 嘘じゃないです。

 だって、わたしが聞き間違えるはず、ないじゃないですか。


 あの声を……

 あの人の声を……


 ずっと近くで耳にしていた……あの日からずっと一緒にいた……何度もわたしの名を呼んでくれた、わたしに話しかけてくれた……大切なあの声を……わたしが間違えるはずありません!



 ……来て、くれたんですね、ご主人さん…………


『ルゥシールッ!』


 声が、すぐ近くで聞こえました。

 わたしが眠る、龍族の聖域。そこに、確実に、ご主人さんがいる。

 それが分かりました。


 塔の地下にある龍族の神殿。

 その中央の祭壇に、わたしはいます。

 美しい結晶を成す結界に、直立の状態で閉じ込められ、深い眠りに落ちていたのです。

 結晶は祭壇から少し浮かび、やや前へと傾き、ちょうど天井付近から神殿を見下ろすような格好をしています。


 だからでしょうか。

 神殿に入って来たご主人さんの存在を…………強く感じます。

 そこにいるのだと、はっきりわかります。


『待たせたな、ルゥシール!』


 目は、まだ開けられませんが……耳はちゃんと聞こえています。

 結界越しとはいえ、久しぶりに…………思い出の中でではなくて…………直に聞くことが出来ました……あぁ…………わたしは、やっぱり……ご主人さんが…………


『くっそ、エンペラードラゴンめ。こんな結晶に閉じ込めやがって。今すぐ出してやるからな…………って! お前裸じゃん!?』


 あ……いえ、はい。

 予定ではこの中で朽ちることになっていましたので服とか、必要ないかと……


『…………デケェなぁ…………』


 ……あの、ご主人さん?


『あぁ、くそ! なんだ、この結晶! 絶妙に光って肝心な所が一切見えない!』


 あんまり見ないでくれませんかね!?


『ルゥシールが起きない程度に薄~く結界壊してみようかな?』


 起きてますよ!?

 意識バッチリありますからね!?


『それにしても、硬い結晶に閉じ込められて尚、躍動するような大迫力の膨らみはその柔らかさと弾力を視界に訴えかけてくるなぁ…………………………いやぁ、見事だ』


 あのっ!?

 やるならやるで、早くしてもらえませんかねぇ!?


『っと、そんなことより早く結界をぶっ壊さないとな』


 まったく……ご主人さんは、いつだって、どん場所でもご主人さんなんですから……


『待てよ……この角度で、こういう体勢で結界をぶっ壊せば……ルゥシールは重力に従って落下してきて、丁度いい感じでおっぱいが俺の顔を挟むように…………よし! この角度だっ!』


 結界が壊れたと同時に体をひねりましょう。

 物凄い速度でひねりましょう。

 背中から落ちることにしましょう、そうしましょう。


『………………』


 ………………


『…………ルゥシール』


 ………………


『……………………会いたかった』


 ――――っ!?


 その瞬間、ご主人さんの手が結晶に触れ、無の結晶は砕け散りました。

 そして、わたしは……わたしの体は解放されて……


「ご主人さぁぁああーーーーーんっ!」


 涙があふれて、声が震えて……

 でも、体の奥から突き上げてくる衝動はどうしようもなく抗いがたく、わたしは本能のままにご主人さんに飛びつきました。

 重力によって落下したわたしの体はご主人さんの上に覆いかぶさり、胸の間にご主人さんの顔が挟まり、まんまとご主人さんの計画に乗せられてしまったわけですが……そんなこと、もうどうでもいいんです!


「……ごしゅっ…………ご………………主人………………さ………………ぅああああああああああああああっ!」


 ご主人さんの頭を抱き寄せ、力の限りに強く出し決め、声を上げて泣きました。

 伝えたかったことを、思うままに吐き出して……


「ごめんなさいっ! ごめんなさぁぁぁい……っ!」


 あなたのもとを離れてしまって……

 勝手な行動をとってしまって……


 バカなことをしてしまって、本当に、ごめんなさい。


「ルゥシール……」

「……ぐずっ………………はぃ…………」

「…………すげぇ、気持ちいい」

「にゃあっ!?」


 一瞬で状況を把握しました。


 思わず飛び退いて、両腕で体を隠しつつしゃがみ込みました。

 一方のご主人さんは、ついさっきまで顔の横にあったモノの感触を記憶に焼き付けようとでもしているかのような表情で、ぽわんぽわんと顔に押し付けるようなジェスチャーをしていました。

 やめてください、仮想おっぱいに顔をうずめるのは! 今すぐにです! やめてくださいってばっ!


「ルゥシール!」

「は、はい……なんでしょうか?」


 折角の再会だというのに、裸なわたしは何とも所在なく困り果ててしまっています。

 どうしましょうか、この状況?

 なんだか、凄く恥ずかしくて……泣いてしまいましたし……裸だし…………挟んじゃいましたし…………


 たまらず背を向け、背を丸め、縮こまってしまいました。

 すると…………


 ふわっと、ご主人さんの香りがして……

 ご主人さの腕がわたしを優しく抱きしめてきました。


 ギュッて…………されました。


 わたしの肩にご主人さんが顎を乗せて、同じ方を向いて、耳元にご主人さんの口があって……呼吸する音が妙に鮮明に聞こえて…………そんなご主人さんの『存在』を感じて……

 嬉しくて、恥ずかしくて……また泣きそうです。耳が、熱いです。


 静かに、数回……ご主人さんが呼吸を繰り返して……

 そして、一言……呟きました。


「悪い。待たせたな」


 …………もう、それだけで胸がいっぱいで…………


「……はい。待って、いました」


 そう答えるだけで、精一杯でした。

 何故なのか、分からないのですが……嬉しいはずなのに、涙が止まりませんでした。


「おかしいんだよなぁ……」


 ぼやくように、ご主人さんが言います。

 いつもの声で、いつものように。


「なんか色々と言いたいことがあったはずなんだが、なんか……全然出てこねぇや」

「くす……」


 なんだ……ご主人さんも一緒なんですね。

 そう思うと、なんだかおかしくて、思わず笑ってしまいました。


「胸が、いっぱいんなんですね」


 わたしも同じですよ、ご主人さん。


「何言ってんだよ、ルゥシール」

「へ……?」


 不意に、ご主人さんの声のトーンが変わり、思わず振り返ってしまいました。

 少し体を離し、首を回して、鼻が触れそうな距離で見つめあいました。


 そして……


「胸がおっぱいなのは当たり前だろう?」


 真顔で言われました。


「ご主人さん……」

「なんだ?」

「…………残念です」


 本当に、ご主人さんは…………ご主人さんなんですから。


「…………なぁ、ルゥシール」

「はい。なんですか?」

「……帰るぞ」

「………………はい」


 わたしは、ゆっくりと、明確に、頷いて見せました。

 もう、迷うことなどありません。

 この三ヶ月、ずっと考えてきました。

 深い深い眠りの中で、わたしの意識はずっと、ずぅ~っと……ご主人さんの隣にいました。

 瞼を閉じればご主人さんが浮かんできて、耳をすませばご主人さんの声が聞こえるような気がしていました。

 何も考えられなくなっていた間もずっと……わたしはご主人さんを感じていたんだと思います。


 だから結局……



 わたしの帰るところは、ご主人さんの隣にしかないんです。



「わたしは、もう迷いません。今度こそ、自分で決めました。もう、揺らぎません」


 今、目の前にはご主人さんがいる。

 こんなに素晴らしい日常を、手放そうとしていたなんて……わたしはなんて愚かだったのでしょう。


「まぁ、帰る前にやらなきゃいけないことが残ってんだけどな」

「なんですか?」

「……マジで言ってるのか?」

「え? …………あ、そうでしたね」


 なんだか、あまりにも今という時間が穏やか過ぎて、すっかり忘れていました。

 ご主人さんがここにいるということは、龍族の里は大パニックに陥っていることでしょう。

 戦況は分かりませんが、とんでもなくカオスな状態になっていることは想像に難くありません。


「お前のオヤジさんが大暴れしてるぞ」

「父上が……」

「ん? 鎖骨がどうかしたか?」

「あ、いえ。乳の上ではありません」

「On・The・おっぱい?」

「わたしの『父』です」

「みごとなもんだ」

「『乳』ではないですってばっ!」


 ダメです、伝わりません……これもブランクのせいでしょうか、いいや、前からこうでしたご主人さんは。


「帰る前に大仕事が残ってるんだよな。割と命がけのよ」

「お手伝いいたします」

「あぁ、頼む」


 くしゃりと、ご主人さんの手がわたしの前髪を撫で、体を離しました。

 立ち上がったご主人さんは、わたしに背を向けます。

 ついにご主人さんがジェントルマンに……かと思ったのですが、どうも様子がおかしいです。

 どこかそわそわと落ち着きがなく、何か言い難そうに、何度も言葉を飲み込んでいるようでした。


 ……なんでしょうか?


「あ、あぁ~…………で、だな……」


 こほんと、咳払いをして、ご主人さんはちらりとわたしへ視線を向けます。

 まるで、すがる様な、子犬のような目でした。

 なんでしょう……わたしをキュン死にさせる気ですか?

 なんて可愛らしい目をしているんですか?


「その……返事ってさ、まだ…………聞いてないなぁ、なんて……」


 ……返事?


「だからっ、俺言ったじゃん? その……お前のこと………………アレだって」

「あ……っ」


 思わず声が漏れ、それと同時に、ご主人さんは口を閉ざしてしまいました。

 そうです。

 わたしは、まだ明確に言葉にしていませんでした。

 嬉しい言葉を貰って、「嬉しい」と、伝えていなかったのです。


 ですが…………



『アレだって』とは……ちょっとあんまりではないでしょうか?



 そう言うのは、何度でも言って欲しいものなのに…………

 なので、とぼけます。


「どれでしょうか?」

「おまっ!? えっ!? なに!? 忘れたの!? 覚えてない!?」

「ご主人さん語録のメモリーは八割が『おっぱい』なもので……」

「いや、お前! この場面でおっぱいの話とかしないだろう、普通!?」

「偶然を装って挟まるように角度の調整とかしてましたよね?」

「何故それをっ!? いや、してないけど?」

「誤魔化すの下手過ぎですよっ!?」

「違うんだよ! アイスドラゴンとヤマタノオロチがド巨乳で驚いたんだけど、やっぱルゥシールは格が違うんだなぁって改めて思って……」

「本人目の前にして何の話してるんですか!?」

「おっぱいだが?」

「この場面でおっぱいの話、思いっきりしてるじゃないですかっ!?」

「だってお前が!」

「わたしがなんですかっ!?」

「お前が………………」

「わたしが……?」

「お前が好きだ」


 その言葉は、二度目でも威力を失わずに……わたしの心臓を打ち抜きました。

 ときめきが、とまりませんでした。

 嬉しいのに、また……泣きそうで…………懸命に笑顔を作りました。


「だからその……どこにも行くな」

「…………はい。どこにも行きません」

「傍にいろ」

「はい。傍に、います」

「あとは……」

「あとは?」


 唇をきゅっと結び、済んだ瞳で見つめながら、ご主人さんはわたしに問いました。

 聞くまでもない、当たり前の質問を。

 朝が来て夜になり、その夜がやがて明ける……それと同じくらいに、当たり前の質問を。




「俺のことを、愛してくれるか?」




 そんなの、答えは一つしかないじゃないですか。




「はい。あなたを、生涯愛します」




 だって、わたしは……


 ご主人さんは、力が抜けた様に肩を落として、ホッとした表情を浮かべました。

 そんなに緊張していたのでしょうか?

 最初から、勝ち戦だと分かりそうなものですが。


「あぁ…………緊張した…………」

「どうしてですか?」

「だってよ……あの時は、ちゃんとした返事、聞けなかったし…………」

「返事なんて…………」

「なんてじゃねぇよ。スゲェ大事だよ、返事」


 少し拗ねたように言うご主人さんが、たまらなく可愛くて、愛おしくて。

 思わず抱きしめてしまいました。


「大好きに決まってるじゃないですか……わたしは、出会ったあの日からずっと、ずぅ~っと……ご主人さんのことだけを想って生きてきたんですよ。……たぶん、これからもずっと」

「ルゥシール……」


 ご主人さんの手がわたしの背中に回され…………今、一瞬胸に行こうか悩みませんでしたか、この右手は? 悩みましたよね? こういうシーンでそういうことはやめていただきたいなとわたしは思うのですが?

 多少の迷いは見せつつも、ご主人さんの腕は無事わたしの背中に回され、ギュッと、抱きしめてくれました。


 あぁ……何故わたしはこれを捨ててしまえるなどと思ったのでしょうか。

 これを手放して平気だなんて……どうして勘違いしてしまったのでしょうか。


 こうして触れているだけで、こんなにも幸せな気分になれる、世界でただ一人の大切な人と離れられると、どうしてそんな間違った解を出してしまったのでしょうか。



 もう間違えません。

 絶対に。



 その時――



『追いついたぞ、ムシケラァ!』


 天井を突き破って父上――エンペラードラゴンが姿を現し……そして…………


『って、ええぇぇぇえええっ!?』


 ……目を剝きました。

 わたしが復活していることに驚愕したのでしょう。


『そういうの、まだ早いと父は思うなぁ!』


 ……あ、なんか違う感じです。

 なんでしょう……何度かご主人さんと会う内にウツったのでしょうか?

 ご主人さんの感染力、おそるべしです。


「残念だったな! たった今! 完っ全に! ルゥシールは俺のものになった!」

「ちょっ、ご主人さん!?」


 いえ、それを否定するつもりはありませんが……父上の前でそうハッキリ宣言されるのは……さすがに恥ずかしいです…………


「おっぱいに顔を挟んでもらったしな!」

「親の前でそう言う話はやめてくれませんかねっ!?」

『貴様ぁ! 私だってまだしたことないのにっ!』

「この先もする予定ないですよっ!? って、本当にどうしちゃったんですか父上!?」

『誰がOn・The・おっぱいだっ!?』

「もう完全に感染してるじゃないですか、ご主人さんが!?」


 大変です。

 ウチの父親が、重篤です。


『どういうつもりだ、我が娘よ。封印から解き放たれて、何をするつもりだ!?』

「父上……わたしは……」


 わたしは、父上を見つめてはっきりと言いました。

 自分の未来を決定づける一言を。


「わたしは、ご主人さんと生涯を共にします!」

『素っ裸で何を言っているんだっ!?』

「素っ裸は、今はどうでもいいんです!」

「そうだぞ! これは真っ裸だ!」

「どっちも一緒ですよ、ご主人さんっ!?」

『とにかく、そんなことは認めんぞ!』

「もういい加減認めろよお義父さん!」

『貴様にお義父さんと呼ばれる筋合いはない!』

「ダディ!」

『この前とちょっと変えてきたなっ!?』

「……仲いいんですか、お二人は?」


 なんだか、物凄く息が合っている気がしますが……


「とにかく、ルゥシールは貰って行く!」

『貴様にはやらぬと言っている!』

「黙れ! このおっぱいは俺のだ!」

『いいや、私のだ!』

「落ち着いてください、二人とも! 論点がずれていますよっ!? あと、これはわたしのおっぱいですのでっ!」


 やはり、とても仲良しに見えてしまいます。


『龍族の長として、娘を持つ父親として……やはり貴様にはここで死んでもらうぞ、マーヴィン・ブレンドレル!』


 父上が……いや、エンペラードラゴンが魔力を放出し、本気の戦闘モードに入りました。

 これは…………ヤマタノオロチの【ゼーレ】を吸収したのでしょうか……凄まじい魔力を感じます。

 こんな進化を遂げた父上が相手では…………


 ご主人さんが死んでしまいます!


「やめてください、父上! わたしは、龍族に危害を加えないと約束します! 闇の【ゼーレ】も、きっと押さえてみせます! 龍族の里にも近づきません! ですから!」

『もう遅いのだ、ルゥよ』

「遅いとは……!?」

『私は、そいつがなんか嫌いだ!』

「そんな理由で戦うんですかっ!?」


 父上は、もやは冷静な判断力を失っているようでした。

 こうなっては仕方ありません。

 大好きな父親ですが……龍族のみんなも大切なことに変わりありませんが……


 わたしは、ご主人さんに協力します!


「ご主人さん、わたしも加勢します!」

『寝返るのか、ルゥシール!?』

「父上は今、冷静ではありません! 目を覚まさせてあげたいのです!」

『ならば来るがいい! もう穏便には済まさんぞ! 逆らうと言うのであれば絶対的な力をもって叩き潰すまでだ! 龍族の長として、お前たちを屠る!』


 凄まじい剣幕でエンペラードラゴンが咆哮しました。

 全身に電撃を浴びた様に、体がすくみました。

 けれど……


 わたしたちなら……



 ご主人さんと一緒なら、絶対負けません!



『粋がったところで、貴様の魔力は殆ど残ってはいまい! 無の【ゼーレ】に三ヶ月も閉じ込められていたのだからな!』


 父上の言う通り、今のわたしにはダークドラゴンに変身するほどの魔力は残っていません。

 けれど……ご主人さんがいます。


「ご主人さん」

「あぁ。わかった」


 ご主人さんに身を寄せ、見つめあいます。


「……父上の前でだと思うと……ちょっと緊張してしまいますが……」

「まぁ、状況が状況だからな……」


 仕方ない。


 そういうことにして、わたしはそっと瞼を閉じました。

 直後、唇に柔らかい感触が広がり……懐かしい、わたしの大好きな匂いがしました。

 ご主人さんの、優しい匂いです。


 わたしの中に、魔力が流れ込んできます。


 力がみなぎっていくのが分かります。


 長らく魔力を切断され存在を希薄にしていた闇の【ゼーレ】が力強く息づき、躍動しているのを感じました。


 来ます……

 久しぶりに…………



 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 わたしは、ダークドラゴンへと変身しました。

 背中にご主人さんを乗せ、エンペラードラゴンと対峙します。


『ルゥシールゥ……』


 目と牙を剝くエンペラードラゴンは迫力満点で、少し怖かったです……

 一族に仇を成すダークドラゴン。しかも覚醒した、もっとも危険な存在。

 再びその姿になったことを、龍族の長として許すわけにはいかないのでしょう。


 父上の役目は十分理解しています。

 お気持ちも、十分理解出来ます。


 けれど、わたしもゆずれないのです。


 だから……全力で、その怒りと向き合いますっ!


『パパにはしてくれないチューを、他の男とぉ!?』


 ……なんだか、思ってたのと違う怒りをぶつけられてしまいました……それとは向き合いたくないのですが……


「ルゥシール、行くぞ!」


 え、行くんですか?

 こんな始まりでいいんでしょうか?


「おはようとおやすみのチューを勝ち取るためにっ!」


 それが目的ではなかったはずですがっ!?


『消し炭にしてくれる……』

「やってみろよ……」

「『さぁ、勝負だっ!』」


 勢いよくエンペラードラゴンが飛び立ち、塔の天井と壁は崩壊してしまいました。


「おい、どうしたルゥシール!? お前も飛ぶんだよ! 決着をつけるんだ!」


 ……わたしだけ、そのテンションについて行けていないのですが?


「勝てたらまた、……一緒に旅、しような」


 ご主人さん……

 ……それは、反則です。

 そんなことを言われたら…………



 キシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 張り切っちゃうじゃないですかっ!


 いいでしょう。

 どこまでもお供しますとも。


 わたしはもう迷わないと、決めましたので!


 鈍った体を叩き起こすようにわたしは全力で羽ばたきました。

 そして、一気に空へ翔け昇ったのです。


 この一歩は、ご主人さんとの冒険の、再開の一歩なのだと思ったから。

 その一歩は、きっと大きい方がいいと、そう思ったから。








いつもありがとうございます!




今回は、



チラリズムは素晴らしい!



というお話でした。


この世界でも、重要な部分には謎の光が入るんですね。

ただし、残念ながらパッケージ化はしませんので、光無しバージョンはございません。

DVDにでもなれば、光も取れたのでしょうが……残念です。


そんなわけで、

無の結界に封じ込められてチラリズム全開だったルゥシールが、

後半はモロリズムを発揮した今回。


いやはや、考えさせられてしましたね。



世間一般的には、


「モロ出しよしも、チラリズムの方がエロイ!」


という認識がはびこっていますが……

モロ出しもいいもんですよ。


想像してみてください。

もし、朝目が覚めて、自分の部屋に全裸の美少女がいたら……



プルルル……

「もしもし、警察ですか? すみません、私が犯人です……」



いや、待てっ!

違う!

身に覚えがない!

酔って意識が、とか、そういうのじゃない!


でも逮捕されるのは、全裸で不法侵入した美少女ではなく、私。


仕方ありません。

日本では、可愛いが正義なのです。




……モロ出しは怖い。

やはり、チラリズムが最強なのでしょうか…………


でもですね、

ミニスカ女子がいたとして、

男子的に楽しみにしているのはパンチラではなく、剥き出しの太ももですよね?


どちらが多いのでしょうか?

パンチラ派と太もも派。


太もも派として言わせてもらえば、

パンツは見えないことにこそ意味があるのだと思うのです。

ですので、見えちゃうと、それは違うんじゃないかと。


例えば、

スカートが短くてパンツがチラチラ見えるのがセクシーだと言うのであれば、

逆にパンツが長くて膝丈くらいのスカートの裾からチラチラ見えていてもセクシーだということになりませんか?

膝上くらいまである長いパンツを穿けば、そういうことが有り得るかもしれません。

……何のために穿くのかは、知りませんが。


股の下でプラプラ揺れるパンツを、

果たして人類は、可愛いと思えるでしょうか?



そんなわけで、

チラリズム代表・パンツと、

モロリズム代表・剥き出し太ももの一戦は、


モロリズムに軍配が上がると思うのです。



私くらいモロリズムに傾倒していると、

チラリズムに心を動かされることもそうそうないのですよ。


パンチラなど、

週に8~9回ほど見られれば十分ですし、

もし目の前でパンチラした美少女がいても、


チラ見、からの~、ガッツポーズ(小さく)


程度に留めますね。


「この前、町でパンチラしている美少女を見かけた時に作った曲です、聞いてください……『ハレルヤ』」


みたいなことにはならないですね。

私ほどのモロリズミストになると。




なので、今後はモロリズムも全面的に押し出しましょうよ、ねぇ日本!


私は、この国の本気に期待する!







今後ともよろしくお願いいたします!!


とまと

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