138話 ヤマタノオロチ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
正直に言う。
格好を付けすぎた。
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
多頭のドラゴンは、ワタシの想像をはるかに超えて強かった。
たった数度の攻撃を受けただけで、ワタシはずいぶん遠くまで吹き飛ばされてしまっていた。
こいつは、動くだけで突風が巻き起こるのだ。
かつて、これほどまでに強力な多頭のドラゴンがいただろうか……
ルゥシールも歴代最強のダークドラゴンだと言っていたし、同じ【ゼーレ】であっても、固体差は生まれるのかもしれない。
この多頭のドラゴンは、ワタシの知る中ではずば抜けて強い!
それとも……
ワタシが未熟すぎるだけなのだろうか……
父や、先代の【ドラゴンスレイヤー】たちに比べて……
オイヴィの剣とカタナが無ければ、ワタシは二度目の攻撃で息絶えていただろう。
最初の攻撃をかわせたのはまぐれだった。
剣とカタナを盾にして、ワタシは一命をとりとめた。
多頭のドラゴンの頭突きは変幻自在で、どこから飛んでくるか分からない。
九つの首が上下左右、時には後ろからも襲いかかってくる。
しかも、九つの首それぞれ違ったブレスを吐きながらだ。
炎、水、吹雪、イカヅチ、毒、後は属性の分からない光線……光に触れた部分が爆発を起こす厄介なブレスだ……そして、衝撃波に…………後の二本の首はブレスを吐いていない。何か隠し玉でもあるのだろうか。
「とにかく、一本ずつ確実に仕留めていく!」
ガーゴイルを加速させ、多頭のドラゴンへと接近する。
……が、多頭のドラゴンが羽ばたいただけでワタシの体は吹き飛ばされてしまう。
なんて、攻撃的な風だ……ヤツは全身が凶器なのか……!?
「ん…………凶器?」
羽ばたいた時に風が起こるのはなんとなくわかる……が、動く度に突風が吹き荒れるのはどう考えてもおかしい……
ワタシは、まだブレスを吐いていない首に注目する。
注目したまま、再度接近を試みる。
すると……
「やっぱりか!」
接近したワタシは、多頭のドラゴンの羽ばたきにより再び飛ばされる。
しかし、確信を得た。
突風が巻き起こる際、ブレスを吐いていない首が大きく口を開けたのだ。
つまり、この突風がヤツのブレスなのだ。
どういう原理かは知らんが、体のどこからでも風を発生させることが出来るらしい。
ならば、狙うのはまず突風の首だ!
「……狙いは、一点のみ………………」
吹き飛ばされ、距離が空いた。
ヤツはワタシが接近するのを待っているのか、翼を大きく広げて待ち構えている。
恰好の的だ。
神経を集中させて、剣とカタナを交差させる。
「喰らえ! ルプトゥラ・ドラガオンッ!」
振り抜いた剣身から圧縮された魔力が打ち出される。
空を翔る剣撃が多頭のドラゴンへと襲いかかる。
龍族の【ゼーレ】を無効化する、【ドラゴンスレイヤー】の必殺技だ。
これで、突風の首を無効化出来れば…………と、思ったのだが。
ルプトゥラ・ドラガオンは、他の首たちが一斉に吐き出した複数のブレスによって打ち消されてしまった。
届かなかったか……っ。
「……マズイな。目の色が、変わった」
多頭のドラゴンの目が、燃え上がるような赤に染まっていく。
九つの首が一斉にワタシを睨み、牙を剥いて威嚇してくる。
先ほどまで浮かべていた余裕の表情は消え去り、全身から殺気を放つ……
ルプトゥラ・ドラガオンが、ヤツを本気にさせてしまったようだ。
……せめて、一本でも首を落とせていれば戦況も変わったかもしれないのだがな。
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
その咆哮が、悪夢の始まりだった。
多頭のドラゴンが姿を消したかと思うと、一瞬でワタシの目の前に出現した。龍族の使う高速移動だ。
そして、急接近してきた多頭のドラゴンは、首を広げて一斉にブレスを浴びせかけてくる。
……回避は、出来ないっ!
オイヴィの剣を盾に、なんとかブレスを受け止める。
魔石で作られた新しい剣は、魔力を弾く盾の役割を担ってくれる。剣身から魔力を放出し結界を張ってくれるのだ。範囲は直径1メートル強。……だが、それも万能ではない。
剣の周りに展開された結界が軋みを上げ、やがて崩壊する。
その間際、ワタシは突風のブレスの前に飛び出し、全身にその風を浴びる。勢いよく体が吹き飛ばされ……おかげで他のブレスから逃れることが出来た。
「………………がはっ!」
しかし、致命傷を避けられたというだけに過ぎない。
まともに浴びたドラゴンの突風は、巨大な鉄球をぶつけられたような凄まじい衝撃をワタシに与えた。全身の骨にヒビでも入ったようだ。呼吸するだけで全身が悲鳴を上げる。
「……ガーゴイル、すまないが……しばらくの間、逃げ続けてはくれまいか……」
ガーゴイルにしがみつくのが精一杯だった。
高性能のガーゴイルは、難しい操作をしなくてもワタシの意志を汲んで飛行してくれる。
今回も、それに頼り…………
「――っ!?」
激しい衝撃が走り、ワタシはガーゴイルもろとも地面へ墜落する。いや、叩きつけられたと言うべきか。
最高速度で飛行していたガーゴイルだったが、多頭のドラゴンはそれよりも速かった。
すぐさま捕捉され、巨大な尻尾の一撃により地面へと叩きつけられたのだ。
本気になった多頭のドラゴンは、一切の容赦もなくなっていた。
地面に穴を穿つほどの勢いで墜落したワタシは、身動きが取れなかった。
そこへ、容赦なく電撃が落とされる。
「――――っ!」
声にならない悲鳴というものを、初めてあげた。
喉が裂けるほどに叫んでいるのに、それは一切声にならなった。
ただただ、抗いようのない苦痛が全身を蹂躙して……意識があることを恨みそうなほどだった。
このまま意識を失えば、ワタシは楽になれる……そんな考えが頭の中を支配していった。
すまない、主……みんな…………ワタシは、勝てなかった。
もう、みんなに会えない。
もう、主に会えない……
そう思うと、涙が出そうになった。
そんな涙ですら一瞬で蒸発させる高温に曝されて、ワタシは……ワタシの命も後わずかだと自覚していた。
「…………ある……じ…………」
せめて、最後にもう一度……美味しいご飯を作ってあげたかった…………
剣とカタナを握りしめていた指から力が抜けて行く……
これを取り落としたら……剣から手を放したら……その瞬間、ワタシは終わるのだろう。
分かっているのに抗えない……
抵抗しようにも……もう……
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
突然多頭のドラゴンが悲鳴をあげた。
同時に、ブレスが止む。
……なんだ?
「……テオドラ! 生きているわね!?」
……フランカ?
「……よかった。すぐに治療するから!」
純白の翼を広げ、空から舞い降りてきたフランカは、本当に天使の様だった。
ワタシに駆け寄ってきて、体を優しく抱き上げてくれる。
全身に優しい温もりが広がっていく。
フランカの魔法がワタシを癒してくれているのだ。
……あぁ、助かった。
助けられたのだと理解した瞬間……涙がこぼれ落ちてしまった。
「……テオドラ?」
「く…………っ、不甲斐…………ないっ!」
ワタシが相手をすると、自分で仕留めると、そんな大見得を切った挙句に惨敗だ。
なんと未熟なのだ、ワタシは。
なんと弱いのだ、ワタシはっ!
「…………みんなに、……主に、合わせる顔がない……っ!」
こんな状況だというのに、涙が止まらなかった。
これほどの力の差を見せつけられた惨敗は初めてだ。
悔しくて悔しくて、どうにかなってしまいそうだった。
おのれの不甲斐なさに、弱さに、脆さに……どうにかなりそうだった。
「……そんなこと言わないで」
優しく、フランカがワタシの頭を抱き寄せる。
そして、ぽんぽんと……撫でてくれた。
「……誰でも、一人では出来ないことがあるものよ」
「……フランカでも、か?」
「……私なんて、一人では何も出来ない……。さっきだって、アイスドラゴンに歯が立たなくてシルヴァネールに丸投げしたのよ」
シルヴァネール…………そうか、シルヴァネールが来てくれたのか。
たしか、ガウルテリオが魔界で面倒を見るとか言っていたはずだ。戦えるようになったのだな。
それは、この上もなく心強いな。
それにしても……
フランカの話は意外だった。
フランカはしっかりしているし、責任感も強い。
だから、フランカに出来ないことなど何もないと思っていた。
そうか。
フランカも、一緒なんだな。
「なんだか、母のようだな。フランカは」
「……こんな大きな子を持つには、私はまだまだ未熟だわ」
「確かに……ぺったんこだもんな」
「……テオドラ…………あなたは最初が純粋だった分【搾乳】汚染が酷過ぎるようね」
成長の話ではないのか?
「……心や、人間性の話よ」
「あぁ、なるほどな」
「……まだまだ、自分のことで手いっぱいだから」
「確かに……」
フランカの胸に抱かれていると、心が落ち着く。
不思議なものだ。
こんな感覚は、久しく味わったことがなかった……
「ありがとう、フランカ。もう大丈夫だ」
体の痛みも消えている。フランカの魔法のおかげだ。
これならば、いける。
ワタシはまだ、戦える。
「フランカ。ヤツのことを挑発してはくれまいか!?」
「……挑発?」
「うむ。そうすれば、きっと勝機をつかめる!」
「……そう。有効打でなくでもいいのね?」
「あぁ。ヒットアンドアウェイで削ってくれればいい!」
「……分かったわ」
フランカは立ち上がると、純白の翼を大きく広げた。
四天王の【魔界蟲】とは違い、フランカの【魔界獣】はとても綺麗だ。
「……トシコ、グリフォン! そいつを引きつけて!」
「そがんこと言われてもっ!?」
「こいつ速いし強いし、もう限界よぉ!」
トシコとグリフォンは、ワタシの傷が癒えるまでの間多頭のドラゴンを引きつけておいてくれたようで、もうボロボロだった。
「六本目、喰らうだっ!」
トシコが放った矢が空中で三十本に増える。徐々に加速度を増し、高速の矢が多頭ドラゴンに襲い掛かる。
しかし、それらはみな、ドラゴンのブレスによって消滅させられた。
だいたい見えてきた……
普段の攻撃は、炎、水、イカヅチ、衝撃波、爆裂光線が行い、接近してきた敵に対して吹雪と毒で対応している。
突風の首はいつも水と衝撃波の首に守られており、いまだブレスを披露していない最後の首を吹雪と毒の首が守っている。
あの守られている二つの首が多頭のドラゴンにとって重要なものに違いない。
正体不明の首は……不確定要素が多すぎる。最悪、あの首にダメージを与えると自爆する、等という可能性もある。下手に手は出せない。
なんにせよ、戦況が不利になれば正体を現すだろう。
なら、最初に狙うのは、やはり突風の首だ。
その一点に意識を集中する。
『ルプトゥラ・ドラガオン』と『ヤマタノ・オロチ』は同時に使用することが出来ない。
ワタシの魔力では、ルプトゥラ・ドラガオンを九つ同時に発動出来ないからだ。
なので、まずは一つずつ【ゼーレ】を無効化していく。
フランカとトシコが左右に分かれ、多頭のドラゴンの戦力を分散させている。
フランカが無数のイカヅチを放ち、トシコが数多の矢を射る。
大きなダメージは与えられていないようだが、それでも、多頭のドラゴンにとっては煩わしい攻撃だろう。
追いつめられると、ヤツは必ず……
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
多頭のドラゴンが咆哮し、フランカとトシコが突風に吹き飛ばされる。
ワタシの立っている所まで突風が押し寄せる。
しかし、十分な距離があるここに至るまでに若干風が弱まっている。この程度なら耐えられる。
突風を放つ時、多頭のドラゴンは、癖なのか、それともそうしなければ突風が放てないのかは知らないが……突風の首の周りから他の首がいなくなるのだ。
わずかに間隔が空き、突風の首が孤立する。
この時を待っていた!
「ルプトゥラ・ドラガオンッ!」
神速の斬撃が空を翔る。
一直線に多頭のドラゴンへと到達し、突風の首を派手に切り裂く。
巨大な首から鮮血が吹き出し、そこかしこでスパークが起こる。
ルプトゥラ・ドラガオンに込めた魔力が牙を剥いたのだ。
決まった!
見事に炸裂した!
突風の首は二度三度と痙攣した後、力なく項垂れた。
突風は封じた。
これで随分と楽になるだろう。
「…………えっ?」
助太刀に向かおうと、ガーゴイルを浮かせたワタシは、そこでとんでもない光景を目の当たりにした。
これまで、一度もブレスを吐かなかった首が、ブレスを吐いたのだ。
それも、今しがた機能を停止した突風の首に向かって。
そして、次の瞬間には、突風の首は垂直に持ちあがり……さらに、突風を撒き散らした。
倒したはずの首が復活した!?
しかも、【ゼーレ】の封印さえも解かれてしまっている。
最後の首は、回復のブレスなのか!?
どうして、先代たちが九本同時攻略にこだわっていたのか、初めて理解した。
一本ずつ撃破して行くのは、あの回復の首がいる限り無理なのだ。
そして、その回復の首は、吹雪と毒という近付くことすら危険なブレスを吐く首が守護している。……特攻をかけようものなら、他の首も全力で阻止しに来ることだろう。
参ったな……
全力で攻めてようやく首一本を落としたら、一瞬で回復されてしまった……
「……テオドラ」
フランカとトシコがワタシのもとへ戻ってくる。
「ありゃダメだべ! 桁が違い過ぎるだぁ!」
三人集結したところに、すかさず炎のブレスが飛んでくる。
揃って上空へ避難し、そのまま並んで多頭のドラゴンから逃げ回る。
「……九つの首すべてにさっきの技を使うしかなさそうね」
「すまないが、それは無理なのだ。ワタシの魔力の量では……」
「んだば、鳥さんの出番だでな!」
「無理よ! 無理!」
「なんでだべ? 鳥さん、自分の魔力ばぁ人に分けてやることが出来っとやろ?」
「千頭のドラゴンの時に使いはたしてすっからかんなのよ!」
「そがんこと、根性で乗り切れば問題ねぇべ!」
「死んじゃう! 私、死んじゃうわよ!? 割とマジで!」
エアレーやカブラカンもそうだったが、魔神は自分の魔力を人や物へ与えることが出来るのだ。
しかし、それは『自分の魔力』に限られている。
グリフォンに魔力が残っていない以上、私は魔力を得られない……
くそ……こんな時に主がいてくれたら……
「……【搾乳】の魔力吸収能力があれば、私の魔力を分けてあげられるのに」
フランカも、ワタシと同じことを考えていたようだ。
しかし、主はいない。
魔力の譲渡は出来な…………
「それなら、私が出来るわよ?」
グリフォンが、何でもないことのように言う。
全員の視線がグリフォンに注がれる。
「な、なに? う、嘘じゃないからね!? 私、人から魔力を奪ったり、人に魔力を与えたり出来るタイプの魔神なのよ! ……なんでそんなに見るの!? ホントなんだってば!」
グリフォンの言うことが本当なのだとしたら、それは、まんま主と同じ能力ではないか!
「私ね、本当は、魔界の中ではって括りの話なんだけど……その、強さ推しじゃない魔神でさ……、だからね、アホみたいに強い魔神がはびこってる魔界だと、ちょ~っとだけ目立たない存在って言うのかな? 野蛮な感じないじゃない、私って? スマートで、お洒落で、エレガント系だしさ? だからね、結構苦労とかあって……襲ってきた魔神の魔力を奪って逃げだしたり、逆に「魔力をあげるから見逃して~」とかって交渉したりして…………これまで、何とか生き延びてきたのよね……………………ギリッギリのところでさ………………ははっ、私ってなんなんだろうね、ホント……」
グリフォンの顔に真っ黒な影が落ちる。
鷲の顔が引き攣り、瞳が虚ろになっている。
だが、それが真実だとすれば……
「凄いではないか、グリフォン!」
「……えぇ、見直したわ」
「オメェさ、なんちゅう役に立つ魔神だべ!」
ワタシたちの惜しみない称賛にグリフォンは「えっ!? えっ!?」と戸惑いを見せる。
主と同じ能力を有している者が他にもいたなんて驚きだ。
これで、多頭のドラゴンに太刀打ち出来るかも知れない!
「グリフォンが腰抜けの魔神でよかった!」
「……へタレでも、役に立つ時があるのね!」
「鳥さん! ナイス腰抜け! ナイスへタレだべ!」
「褒めてる!? ねぇ、それって褒めてるの!?」
褒めているとも!
魔力吸収能力は、ワタシの知る限り最強の能力だ。
なにせ、あのマーヴィン・ブレンドレルと同じ能力なのだから。
どんな困難も必ず切り抜ける、神の想像をも越えてしまうであろう、あの主とだ。
「希望が見えてきたな!」
「……頼りになる仲間に感謝ね」
「鳥さんの株ばぁ、急上昇だべな!」
「ぃや、いやいや! そんな、急に褒められても……え、そう? 私凄い?」
「凄いべ!」
「あぁ、たいしたもんだ」
「……見直したわ」
「あ、そう!? あぁ、そう!? いやまぁ、私くらいになるとねぇ、これくらいはねぇ! っていっても、波長が合う魔力限定って縛りもあるし、やり取りする相手が暴れたりしないで大人しくしててくれないと失敗しちゃうこともあって、結構大変なだけどねぇ」
「なんね? お婿はんの劣化版と?」
「そうか、劣化版か」
「……まぁ、仕方ないんじゃないかしら、劣化版でも」
「あんたたち、ホンットそういうとこ鬼よね!?」
主のような能力はそうそうあるものではないのだろう。
しかし、様々な制限があるとはいえ、魔力の伝達が可能だと言うのであれば勝機はある。
ただ……一つ懸念があるとすれば…………伝達方法だ。
主流のやり方を思い起こしてみる…………
…………うわぁ。
「…………ワタシは、この鳥と接吻をするのか……」
「……この鳥に胸を触られるのね……」
「なに!? 何の話!? よく分かんないけど、私が凄く傷付きそうな空気出てるんだけど!?」
グリフォンが不服そうな顔を見せるが……不服なのはこちらも同じだ。
「まぁ、フランカもテオドラも鳥さんとは違って乙女だでなぁ」
「私も乙女なんだけど!? なんなら見せようか!? 私の身体、調べてみる!?」
「羽毛、剥ぐだか?」
「そこまでしなくても調べはつくでしょうよっ!?」
なんだか、トシコとグリフォンはすごく仲がいいようだ。
よかった、グリフォンをトシコに譲って。ワタシは、このテンションはちょっと……
「フランカのおっぱいさ揉んで、テオドラとキスばぁするっとやろ? そらぁちょっと抵抗あるだべよ」
「おっぱい? キス? ………………なななななな、何言ってんのよ、あんた!? し、しししし、しないわよ! 私まだ誰ともキスなんてしたことないのにっ!」
「「「ないんだ……」」」
「なんで声揃えるのっ!? 無いわよ! まだ綺麗なクチバシのままよ!」
グリフォンが羽毛を真っ赤に染める。
「なんでそんな話になるの!?」
「なんでって……そうしないと魔力は伝達出来ないのではないのか?」
「そんなことしなくても、魔法陣を使えば吸収も貸与も出来るわよっ!」
「「「そのやり方を、是非教えてやって欲しい!」」」
「……【搾乳】に!」
「主に!」
「お婿はんに!」
やり方はあるのか。
主には、是が非でも習得してもらわなければ。
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
多頭のドラゴンが咆哮し、突風がワタシたちを襲う。
懸命に逃げ回っているが、そろそろ限界だ。
ワタシはいいが、フランカとグリフォンが辛そうだ。
「……グリフォン、私の魔力をテオドラに移すのに、どれくらいかかる?」
「一分…………いや、三十秒でやって見せるわ!」
「……じゃあ、十五秒と計算して……」
「鬼でしょ!? あんた間違いなく鬼よ!」
「……テオドラ、ルプトゥラ・ドラガオン発動まではどれくらい?」
「三十秒だ」
「……四十五秒間、無防備になるわけね…………」
「テオドラには優しいだね、フランカってさぁ!?」
フランカが腕を組み難しい顔をしている。
「……トシコ」
「任せるだ! オラ以外にいねぇからな!」
トシコが一人で多頭のドラゴンを一分近くも足止めするというのか……グリフォンも抜きで…………
「無謀ではないか?」
「んだども、それしか勝ち目がねぇってんなら、しょうがねぇべよ」
トシコは弓を担ぎ、そして、腰の矢筒に視線をむける。
「残りは二本…………オラの全力、見せてやるだよ」
トシコが男前だ……
「何が何でも生き延びてくれ……必ず、ワタシが仕留めて見せる!」
「わかっただ! 信じてるだよ、テオドラ!」
言うが早いか、トシコはグリフォンから飛び降りた。
現在の高度は低かったが、それでも着地の衝撃は大きかったようで、トシコは地面に着くなりゴロゴロと転がって行った。
「トシコォ!」
「大丈夫だ~ぁ! オメさは、早ぅ、技の準備にかかるだよ~ぉ!」
トシコの叫びに、ワタシとフランカ、そしてグリフォンは視線をかわし、頷き合った。
「……一分はもたないはずよ」
「だろうな。グリフォン、すまないが大急ぎでお願い出来まいか?」
「任せなさいよ! トシコを失うなんて、私は御免なんだからね!」
ワタシ、グリフォン、テオドラの順で並び地面へと降り立つ。
グリフォンが魔法陣を展開させ、フランカがそこへ魔力を送る。
ワタシは、剣とカタナを構えて精神を集中させる。
少しずつ、フランカの魔力がグリフォンを介してワタシに流れ込んでくる。
……遅い。
もっと早く…………トシコはそんなにもたないぞ。
気が急く。
集中しなければいけないというのに…………
「よぉし! こうなったら出し惜しみ無しだべ! オラの取って置きばぁ見せちゃるべ!」
トシコが多頭のドラゴンに向かって矢を放つ。
その矢は瞬く間に三十本に増え、そして、すべての矢が一気に燃え上がった。
「『火ぃば出るすンごか矢』だべぇ!」
…………今のは、技の名前だろうか?
炎を纏った魔力の矢が多頭のドラゴンに容赦なく突き刺さる。
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
多頭のドラゴンが悲鳴を上げる。
効いている!
凄い技だ!
……だからこそ、名前が惜しまれる。
「……行けるかもしれないわね」
フランカの漏らした呟きに、ワタシも賛同する。
これなら、一分くらいは…………と、思った矢先だった。
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
激しい咆哮と共に、多頭のドラゴンが八つの首から一斉にブレスを吐き出したのだ。
破壊的な魔力が折り重なりトシコに襲い掛かる。
……あれでワタシは死にかけたのだ。
「ぅっひゃぁぁああっ!? こがん攻撃、なしだべぇぇぇえっ!」
叫びながら、トシコが最後の矢を放つ。
『火ぃば出るすンごか矢』が迫りくるブレスと激突し、その大半を吹き飛ばす。
瞬間的な破壊力は互角ということか。
しかし……
「あかぁぁぁーーーーーーああああああんっ!? 最後の矢ぁば、使うてしもうたぁ!?」
トシコの武器が尽きた。
多頭のドラゴンは健在だ。
トシコが危ない!
「時間がない! もう使うぞ、ルプトゥラ・ドラガオン!」
「……ダメよ! 不完全な状態で使って、もし通用しなかったら? 私の魔力は、これ一回分しか残っていないのよ!?」
「しかし、それではトシコがっ!?」
「……冷静になって! すべてを無駄にするつもり!?」
「しかし……っ!」
フランカの言うことも分かる……分かるのだが…………っ!
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
「くっ! ダメだ! もう待てない!」
「……ダメよ、テオドラ! グリフォン、急いで!」
「もうすでに限界まで頑張ってるわよぉ!」
「ルプトゥラ…………」
「……待ちなさい、テオドラ!」
咆哮した多頭のドラゴンは、回復以外のすべてのブレスを一斉に吐き出す。
もう無理だ!
ワタシは行くぞ!
たとえ、返り討ちに遭おうとも、仲間を見捨てるなんて出来るものか!
「……テオドラッ!」
堪らず駆けだしたワタシをフランカが呼び止める。
けれど、ワタシは……っ!
「ちょっと! アレなによっ!?」
そんな緊迫した場面で、グリフォンが素っ頓狂な声を上げる。
グリフォンの声に反応するより早く、どこか耳に馴染んだ咆哮が聞こえてきた。
ジャシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!
この声は……
「……シルヴァネール?」
里の方角から金色に輝くゴールドドラゴンが、凄まじい速度で飛来してきた。
そして、今まさにトシコに襲い掛かろうとしていた多頭のドラゴンのブレスに、黄金のブレスを浴びせかける。
「ぅわぁぁああっ!?」
ブレス同士が激突し、大爆発を起こす。
トシコはその爆風を諸に浴び、ぽ~んと空高くに吹き飛ばされた。
「……グリフォン! キャッチ!」
「わっ、わかったわ!」
グリフォンが慌てて飛び出す。ぐんぐんと空を翔け、舞い上がったトシコをキャッチする。
「……シルヴァネール……来てくれたのね」
アイスドラゴンと戦っていたシルヴァネールがここにいるということは……アイスドラゴンに勝ったのか?
流石だな、シルヴァネール!
「みんなぁ~!」
グリフォンに跨って、トシコが戻ってくる。
よかった、無事なようだ。
「すまねぇだ。肝心な時に大ポカしでかしてしもうぅて!」
「気にするな。トシコはよく頑張ったさ……無事でよかった」
「……お疲れ様、トシコ」
「そう言うてもらえると、救われるだ」
しかし、安心している場合ではないのだ。
まだ戦いは終わっていない。
「グリフォン! 早くさっきの続きを!」
「……そうね。急ぎましょう」
魔力の受け渡しを再開させようと催促すると……グリフォンはアゴをクイッと動かし、前方を指示した。
その先では、ゴールドドラゴンが多頭のドラゴンを追い詰めていた。
吐き出される多頭のドラゴンのブレスは、ことごとく黄金のブレスによってかき消されている。
黄金色に輝くドラゴンが、多頭のドラゴンを圧倒している。
「私たちさ~ぁ……いる?」
グリフォンが痛いところを突く。
「……一応、準備しときましょう」
フランカの号令に従い、ワタシとグリフォン、フランカは横一列に並んだ。
そして、ゆっくりゆっくりとフランカの魔力が流れ込んでくる。
その間、多頭のドラゴンは、ゴールドドラゴンにボッコボコにされていた。
ゴールドドラゴン、強過ぎる。
悪魔の様だったあの多頭のドラゴンが、まるで子供扱いだ。
これがゴールドドラゴンの力か……?
それとも、シルヴァネールが魔界で得た強さなのか……
どちらにせよ、……なんだか、ワタシたち必要とされていないっぽい。
「……どうする? 帰る?」
グリフォンがとんでもないことを言う。
けれど、それも有りな気がする……
「あっ! ゴールドドラゴンばぁ見てみっ!? なんや、こっちばぁ見よるべや!」
トシコが前方を指さして言う。
言われてみれば、先ほどから何度か、シルヴァネールはこちらを窺うようにチラ見をしてる。
……なんだというのだ?
「……【ゼーレ】を封印したいのかもしれないわね。待って、魔力で会話をしてみる……シルヴァネールが読み取れればいいのだけれど……」
そう言って、フランカはシルヴァネールと通信を試みる。
たまに主と二人でやっているヤツだ。……ワタシもマスターしたいものだな、その力。
「【ゼーレ】ばぁ、封印したかって、なしてなん?」
「おそらく、封印せずにドラゴンを仕留めてしまうと、【ゼーレ】が次のドラゴンへと移ってしまうからだろう」
ここはドラゴンたちの住処だ。
【ゼーレ】が解放されれば、新たな多頭のドラゴンが誕生するかもしれない。
今回に限って言えば、ドラゴンたちは全員戦闘不能程度にとどめておくのが望ましい。
こちらがドラゴンを倒すたびに、新たな【ゼーレ】持ちドラゴンが誕生していては埒が明かない。それに、主の戦いを邪魔されかねない。
「……なるほど、そういうことなの」
どうやら、シルヴァネールと意志の伝達が出来たらしい。
フランカがシルヴァネールから得た情報を話してくれる。
「……アイスドラゴンは倒してきたようよ。トドメは差していないけれど、あと十数時間は動けないだろうって」
アイスドラゴンを倒した後に、まだこれだけ力が残っているのか。
本当に、桁違いなんだな、ゴールドドラゴンというのは。
「……でも、そのせいで九つ首のドラゴンを一気に消滅させるほどの魔力は残っていないって。だから、トドメは任せたいって」
シルバネールは【ゼーレ】のことなど考えてはいなかったのか。
しかし、倒すよりも封印する方が都合いいのは確かだ……
「よし、準備にかかろう! フランカはシルヴァネールに少し待つように伝えてくれまいか!?」
「……分かったわ、任せて」
ワタシたちは、先ほど中断した魔力の伝達を再開させる。
ルプトゥラ・ドラガオンを使う。
そうして、終わらせてやるのだ。
フランカの魔力がグリフォンを介してワタシに流れ込んでくる。
……よし、これで使える…………【ドラゴンスレイヤー】究極の奥義、『ルプトゥラ・ドラガオン』と『ヤマタノ・オロチ』の複合技……『ヤマタノ・ドラガオン』が!
「いつでもいいぞ、フランカ!」
「……伝えるわ!」
フランカが合図を送ると、シルヴァネールは一声大きく咆哮して、多頭のドラゴンに向かい盛大にブレスを浴びせかけた。
ジャシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
二頭のドラゴンの声が折り重なる。
「……テオドラ、今よ!」
フランカがそう言うのと、シルヴァネールが飛び立つのはほぼ同時だった。
ワタシの視界の先に、無防備な多頭のドラゴンが捉えられる。
これで、決めるっ!
「ヤマタノ・ドラガオンッ!」
九つの斬撃が飛ぶ。
獣を討つ獣のように。
空気を切り裂き、空間を切り裂き、目の前にあるすべての物を切り裂いて、斬撃が多頭のドラゴンへと突き刺さる。
ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
九つの斬撃が、九つの首を同時に貫く。
一際大きな悲鳴を上げ、多頭のドラゴンは………………その巨体を地面へと横たえた。
地響きのような音が轟き、砂埃が舞い上がる。
そして、そのまま、多頭のドラゴンは動かなくなった。
「…………勝った、のか?」
実感がわかない。
「……えぇ。私たちの勝ちよ」
フランカがワタシの肩に手を置く。
「やっただな、テオドラ!」
トシコが抱き付いてくる。
「私たちの勝ちよぉおおおおっ!」
グリフォンが歓喜の声を上げるの聞いて、ようやく実感がわいてくる。
勝ったのだ。
ワタシたちは、あの多頭のドラゴンを倒したのだ!
「やったぁ!」
ワタシは両腕を突き上げ天に向かって吠える。
その時……
グアァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
銀色の鱗をしたドラゴンが空から舞い降りてきて、動かなくなった多頭のドラゴンを抱き、そして連れ去って行ってしまった。
それはあっという間の出来事で、ワタシも、誰もそれに反応することは出来なかった。
……今のは、アイスドラゴン?
「……どういうこと? アイスドラゴンはシルヴァネールが倒したんじゃないの?」
「けど、今んはどう見てもアイスドラゴンだったべ」
ワタシたちの視線は、自然とシルヴァネールへと注がれる。
注目を浴びたシルヴァネールは、飛び去ったアイスドラゴンの背を見送ったあと、こちらに顔を向けた。
そして、黄金色に輝くその顔を「てへぺろっ!」という具合に歪めた。
「「「倒せてないじゃんっ!?」」」
油断し過ぎだぞ、シルヴァネール!?
「アイスドラゴンばぁ、里の方さ向かっただよ!」
「主たちの……エンペラードラゴンのもとへ向かったに違いないな!」
「……とにかく、私たちも向かうわよ!」
「んだ!」
「あぁっ!」
ワタシたちは、逃げたアイスドラゴンを追って、もう一度龍族の里を目指した。
随分と遠くまで押し戻されてしまった。
急がないと……主が危ない。
少しヘコミ気味のシルヴァネールと、「まだこき使うつもりなぉおお!?」」とぶーたれるグリフォンを引き連れて、ワタシたちは飛び立った。
いつもありがとうございます。
RPGをやっていて、
「伝説の勇者様なのに、一人の魔王を複数でボコるとか……苛めか!?」
と、思っていたのですが……
しょうがないですね、これは。
相手、強いですから。
ヤマタノオロチ(テオドラは一貫して多頭のドラゴン呼びでしたが)やアイスドラゴンは、
人間の手に負える相手ではないようです。
ただし、この世界の人間は、
逃げるのが超上手い。
ルパン張りにいい逃げっぷりです。
一瞬で至近距離まで詰め寄れる速度を持つ龍族から、
楽しそうにいボケツッコミしながら逃げ遂せましたからね。
アレです。
龍族は、攻撃力高いけど命中率低い系なんです。
クロマティみたいな?
野球あんまり詳しくないんで分かりませんけど。
当たればホームラン、みたいな。
女三人寄れば姦しいといいますが、
メンバーが揃うと会話が弾みますね。
イジラレ役もいることですし。
すっかりテオドラよりもトシコに懐いたグリフォン。
「私はグリフォン。名前はまだない」状態ですけども。
このまま名前を付けてもらう流れになれば、
確実にトシコが発言力を増して、「アキコ」とか「セイコ」とかになる可能性が高いですね。
いや、トシコはニヒツドラゴンの女の子に「タメキチ」ってつけましたからね……
「ヨシオ」とかになるかもしれませんね。
そして、数百年後……
この世界には「タメキチキール」という名の最強ドラゴンと、
「ヨシオ」というオネェ言葉の空の覇者が存在している……かも、しれません。
ちなみに、
フランカ四天王や、エイミー&バスコ・トロイたち新組織の魔導士たちは、
現状フランカよりも弱く、(フランカ、バスコ・トロイを超えましたっ!!)
龍族との戦いには参戦しませんでした。
「餃子はオレが置いてきた、修行はしたがハッキリいってこの闘いにはついていけない」状態です。
最早クリリン、ピッコロ級の三人娘。
バランス型フランカに、
高威力広範囲攻撃のトシコ、
超高威力攻撃のテオドラ。
強さを比較すると……
フランカ
攻撃力 B(強力な魔法はあるが、決め手に欠ける)
射程 A(遠距離、広範囲、同時攻撃可能)
機動力 S(陸海空どこでも)
魔力 A(パルヴィのような特別を除けば人類最高峰)
乳 A
テオドラ
攻撃力 S(龍をも切り裂く最強の矛)
射程 C(SLGだと射程は一マス、目の前の敵にのみ有効)
機動力 B(空は不可、泳ぎも苦手)
魔力 C(魔力強化無しでも身体能力でカバーできる)
乳 C
トシコ
攻撃力 A(貫通力高い)
射程 A(射程距離、攻撃範囲ともに魔法並)
機動力 A(空以外は森育ちの運動神経で縦横無尽)
魔力 B(魔力より先に矢が尽きる程度には)
乳 A
ちなみに、ご主人さんは、
攻撃力 A(素手でゴールドドラゴンをぶっ飛ばす)
射程 C(魔力があればSランク)
機動力 B(魔力があればSランク)
魔力 -(なし、だが吸収可能)
乳 大好き(ギネスに申請中)
というように魔力に大きく左右されます。
で、魔力満タン時のご主人さんは、
攻撃力 S(古代魔法も魔神の魔法もなんでもござれ)
射程 S(射程、範囲共に最高ランク、しかも瞬時に魔法発動)
機動力 S(どこにでも行ける、空も飛べる)
魔力 ∞(吸収する限り無限)
乳 超好き(パワーアップ)
このような結果です。
そんなわけで、
次回はギネス申請中のご主人さんのターンです!
次回もよろしくお願いいたします。
とまと