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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
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137話 天へ昇る流星群

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 黄金色に輝く黄金のブレスと、白銀に煌めく氷のブレスが激突する。


「……くっ!」


 凄まじい衝撃に体が煽られる。

 立っているのもやっとだ。


 ドラゴン同士の戦いを目の当たりにしたのはルゥシール対シルヴァネールの時以来二度目だけれど……今回は本気同士のぶつかり合いだから迫力が桁違いだ。

 この二頭の争いに私が参戦したところで、何も出来はしないだろう。

 私は私に出来ることをやる。


 戦いは、まだ中盤戦なのだから。


「……シルヴァネール、そいつのことは任せたわよ」


 私は、吹き荒れる突風をかいくぐるように空へと飛び立つ。

 ……魔力を随分と消費してしまった。

 こんな時、心底【搾乳】が羨ましく思える。魔力の吸収能力。私も欲しいものだ。


「……ない物ねだりを言っても始まらないわね」


 気を引き締め直して、私はその場を離れる。

 まるで歯が立たなかったアイスドラゴン。

 そいつに私は、背を見せて逃げるのだ。

 けれど、恥ずかしくはない。この撤退で、得られるものもあるはずだから。

 手に出来るものを確実に手中に収める。今の私には、そのことの方が何倍も重要だと思える。


 負けず嫌いで、卑怯な手を使ってでも『勝つこと』にこだわっていた私が……随分と代わったものだと思う。

 無鉄砲で無計画で無神経な【搾乳】といたせいか……

 そんな時間を悪くないと思ってしまった私のせいか……


 目的のためになら、いくらでも負けても構わない。

 どこまでもみっともなくあがいて見せる。

 私は、私と私の大切な物を守るために、いくらでも格好悪くなってやると決めたのだ。


 それから私は、仲間に頼ることを覚えた。

 頼られることの嬉しさも、同時に覚えた。


「……トシコ、待っていなさい。すぐに行くわ!」


 二頭のドラゴンが生み出す衝撃を利用して、私はさらに加速する。

 私たちが戦っていた場所より、さらに外へ進んだ場所で、トシコとグリフォンが孤軍奮闘していた。


「鳥さぁ~ん! もっと魔力ば貸してくれろぉ~!」

「これ以上魔力を使ったら飛べなくなるわ! こっちも限界だよ!」

「こぉんの、根性無しぃ!」

「お互い様だろう!?」


 元気そうで何よりだ。


 空に浮かぶドラゴンは、いまだ数百頭……七百くらいか……

 恐ろしい光景ではあるが、アイスドラゴンの闘気を嫌というほど浴びた後だからだろうか、全然大したことがないように見える。

 ふふ……完全に感覚がマヒしている。

 まるで、【搾乳】になったみたいだ。

 恐怖や絶望といった感覚がマヒしているようにしか見えない、頼れる背中。あの背中に、何度助けられたことか……


 今の私は簡易版【搾乳】なのだ。

 この背中で、トシコたちを助けてあげたい。


 もし、【搾乳】なら、こんな時はどうするだろうか…………とりあえず…………登場のインパクトはド派手にっ!


「……燃え尽きなさいっ!」


 解放し拡散させた魔力に、炎の魔法を引火させ火炎流を巻き起こす。

 大きくうねる大蛇のように、巨大な火炎流が辺りにいたドラゴンを次々飲み込んでいく。


 ここにいる千十八頭のドラゴン全部と、アイスドラゴンは同等の強さだと感じた。

 なら、ここのドラゴンは全員、アイスドラゴンの千分の一の強さでしかないのだ。


 ……そう考えると、全然大したことがないように思えるから不思議だ。

 これも、【搾乳】式の思考に感染した結果なのだろうか。


「フランカッ!? 助かっただ!」

「もう! もう! なによ、あんた! 助けに来るならもっと早く来なさいよねぇ!」

「……助けに来たわよ、トシコ!」

「……………………………………………………私はぁぁああっ!?」


 長い沈黙の後、グリフォンが泣き叫ぶ。

 まったく、騒がしい魔神だ。


 ……ふふ。

【搾乳】と出会うまでは、魔神なんて畏怖の対象でしかなかったというのに。こうして冗談を交わせるようになっているなんてね……


「……トシコ、残りの矢は?」

「あと十二本だべ。一本で三十本分の攻撃ばぁ出来るだ」

「……あと二本でケリをつけましょう。テオドラの相手がもっとも危険な相手だから、十本は残しておいて」

「分かっただ!」

「……グリフォン」

「なによ!? 私はもう限界だからね! これ以上魔力を使ったら死んじゃうから!」

「……じゃあ、死ぬ直前までは魔力を使って」

「鬼なの、あんたっ!?」

「……あと、口調が凄くオネェっぽくなってるわよ」

「私は女! 女子なのっ!」


 おそらく、これがグリフォンの素なのだろう。

 これまでの固い口調は、自身に威厳を持たせるために無理をしていたのだ。


「……今の口調の方が、私は好きだと思える」

「ぅえっ!? な、なによ、急に!?」

「……力を貸してほしい。仲間として、頼むわ」

「仲間………………し、しょうがないわねぇ! もうこうなったら乗りかかった船よ! とことんやってやろうじゃないのっ!」


 乗りかかった船……

【搾乳】なら「揉みかけた胸」とか言いそうね…………と、何を考えているの、私は?


「なぁなぁ、フランカ。『乗りかかった船』ばぁ言うたら、お婿はんやったら『揉みかけた胸』ち言いよるやろうねぇ」

「……ぶふっ!」

「ど、どがんしたと!? そがん面白かったと!?」

「……いや…………違…………」


 私とまったく同じことを考えていたようだ。

 まったく……【搾乳】は、つくづく【搾乳】だ。


「……行きましょう。私たちの乗りかかった船が沈まないように」

「んだな!」

「よぉし! 私、頑張っちゃうんだからぁ!」


 短い話し合いの後、私は、トシコとグリフォンを残し上空へと昇っていく。

 逆にトシコたちは下降を始める。


 だが、ドラゴンを二手に分けるつもりはない。

 すべてのドラゴンを私の方へ引きつけるのだ。



「……余所見している者から順に叩き落とす」


 紫電が翻り、ドラゴンの首元を的確に撃ち抜いて行く。

 逆鱗と呼ばれる鱗のある付近だ。

 そこに狙いを定め、威力を抑えたイカヅチを放ち続ける。


 仕留める必要はない。私は、注意を惹きつければそれでいいのだ。


 ルゥシールに聞いたのだけれど、逆鱗に触れられることは龍族にとって最大の恥辱なのだそうだ。……【搾乳】は何度も触っていたようだけれど……

 その逆鱗を的確に狙い撃ちにされれば、龍族は激怒して私に狙いを定めてくるはず。


 その読みどおり、すべてのドラゴンが目の色を変えて私に襲いかかってきた。

 下降したトシコ達を追いかける者は誰もいない。


 これでいい。

 これでトシコは、地上に降りて矢に魔力を込めることが出来るだろう。

 魔力が込められた矢は、威力を増し、そして三十本の矢として空へ放たれる。

 その三十本の矢にグリフォンがさらに魔力を送り込む。それにより、三十本の矢が各々三十本ずつに増える。これでトシコの放つ矢は九百本になる。

 既に七百にまで数を減らしたドラゴンなら、九百の矢で十分対応出来る。


 ただし、そのためには、トシコとグリフォンが十分に集中できる時間と、標的のドラゴンを一か所に集めておくことが必要になる。


 その囮役を、私が引き受ける。

 危険は百も承知。

 ドラゴンの攻撃に加えて、乱れ飛ぶトシコの矢もかわさなければいけない。

 だからこそ、これは私にしか出来ないことなのだ。


 さぁ、来なさい。

 怒りに我を忘れたドラゴンたち。


 そして、遠慮なく全力を放ちなさい、トシコ!

 手加減をして勝てる相手でないことは理解しているでしょう。

 私に遠慮などしたら……容赦しないから。


 しかし、そんな心配が杞憂であることはすぐに分かった。

 地上から湧き上がってくるトシコの魔力は轟々と渦を巻き、うるさく飛び交う獲物を一飲みにしようとしている……トシコの本気を窺わせる凄まじい魔力だった。


 地上からの魔力に、何頭かのドラゴンが反応を示す。

 しかし、そういう者には漏れなく逆鱗へイカヅチを落とし、ドラゴンどもを挑発し続ける。


【搾乳】に例えるなら、余所見をしている巨乳美女のおっぱいを揉んでは逃げ、揉んでは逃げしている状態…………【搾乳】で例えると、途端にバカバカしくなる。


「……そろそろ頃合いね」


 私は、両腕を天高く掲げ、盛大にイカヅチを放った。

 無軌道に暴れ狂うイカズチが空を覆い尽くす。遠くへ行くほど無軌道に激しく。

 そして中心部は比較的穏やかに……


 広がっているドラゴンの群れを、私のもとへと集めるようにイカヅチを張り巡らせる。

 さながら、ドラゴンを捕らえる檻のように。


 そして、ドラゴンが一ヶ所に集まったそのチャンスを、トシコは逃すことなく、確実に突いてきた。


 それはいきなりだった。

 地面が低く唸ったかと思うと、高速の矢が一斉に襲いかかってきたのだ。

 逃げ場などないほど密集し、その一本一本に強烈な破壊力を纏って。

 触れた者は漏れなく貫かれ、貫かれた者は例外なく地面へと墜落して行く。


 そして、その恐ろしい矢の群れは、私をも容赦なく飲み込んでいく。


 鼓膜に、風を切り裂く音が響く。

 私の結界と、ドラゴンの結界に大差はない。

 そのドラゴンが貫かれているのだから、直撃すれば私もただでは済まないだろう。


 それでもいい。

 それはただ、私の力が至らなかったという結果だから。

 ドラゴンの群れを殲滅出来る『私たちの切り札』の一翼を担えたことを、私は誇りにすら思える。


 あとは、運を天に任せて…………



「……え?」



 私は、その光景に見とれ、しばらくの間身動きが取れなかった。

 呼吸も忘れていたかもしれない。


 魔力を纏った矢が、『私を避けるように』天へと昇って行く。

 流星群が空へと帰っていくような、幻想的な美しさに魅入られた。

 矢が空を斬る音だけが耳に響き、それ以外の音は何も聞こえてこなかった。

 足元では、ドラゴンどもが悲鳴を上げているはずなのに。


 そんな些末なことには気を向けていられないほどに、私はその光景に魅せられていた。


 数分間世界を覆っていた美しい光景は、やがて静かに終焉の時を迎える。

 心の中で拍手喝さいを送る。


 そして、意識を切り替える。


「……トシコ」


 私は、トシコたちが待っている地上へ、ゆっくりと下降していく。

 地面には、無数のドラゴンが横たわっていた。

 完全に脱力している者もいれば、ふらつきながらも立ち上がる者……諦めたように寝転がって不機嫌な表情を晒す者。


 こちらの任務は完了したようだ。


「フランカぁ! 無事だったべや?」

「……あなたが上手く外してくれたんでしょう?」

「いやぁ、まぐれだべ。鳥さんが仕出かさんち保証もなかっただべなぁ」

「私、そんな信用されてないのっ!? それくらいのコントロール余裕だよ!? 超余裕! むしろ人間なんか足元レベルだよっ!?」


 どうやら、あれだけの数のドラゴンを相手にしながらも、トシコもグリフォンも、私に当てないようにコントロールしてくれたらしい。


「……数百のドラゴン相手に、よく手加減なんて出来たわね……全力出しても勝てるかどうかというレベルなのに……」

「何言うてるだ? オラ、めったくそ本気だったべよ」


 そうは言うが、本気の一射にそんな微調整をしている余裕などあるはずが……


「本っっっ気で、仲間のことばぁ助けちゃる思うとったべ!」

「………………」


 その発想は、無かったわ。


「……そう。確かに本気だったようね、あなたたちは」

「んだ!」

「もちろんよ! 仲間ですもの!」


 これも……【搾乳】がくれたもの。

 彼に出会えたことで、私が得られたかけがえのない宝物……


「……それじゃあ、もう一度本気を出してもらうわよ」

「んだ! 次はテオドラを助けに行くべ!」

「んんんん~! 私ってば、今ならエンペラードラゴンにも勝てちゃいそうな気がしてるっ!」

「……さすがにそれは気のせい」

「打ちどころばあ悪ぅかったべか?」

「どこも打ってないわよ!? ちょっと言ってみただけでしょ!?」


 グリフォンが嘴を限界まで開いて泣きわめく。

 この騒々しさが、どことなく心地よく思えるようになってきた。


 トシコが愚痴るグリフォンに跨り、私たちは飛び立つ体勢に入る。


「あ、そうだべ、フランカ」

「……なに?」

「もし、こん次……今回みたいに『私はどうなってもよか』っち態度とりよったら……」


 美しい瞳が私を射貫く……


「オラん矢ぁば一本、尻っこさ突き刺して反省させちゃるでな。覚悟ばぁ、しときんしゃいや」


 諌める様な厳しい表情で私を見つめるトシコ。

 改めて思う。彼女は美人だ。

 触れる事すら躊躇う様な……神聖なる森のごとき神秘性をもった、澄んだ美しさを湛えた顔立ちは、女の私から見ても思わずため息が出るほどに美しい。


「分かっただな」


 ただ、この酷い訛りが玉に瑕だ。

 …………いや、それがあるからこそ、トシコはトシコなのだ。

 私は、…………うん、嫌いじゃない。


「……心しておくわ」

「そんだら、ええだ」


 そう言ってトシコは、私の髪の毛をふわっと撫でた。

 ……なぜだか、叱られたような気がして…………これもまた何故だか……とても嬉しかった。


 その時、里の方角で大きな爆発が起こる。


「……シルヴァネール」


 視線を向けると、ゴールドドラゴンとアイスドラゴンが激しい空中戦を演じていた。

 ブレスが衝突し、巨体をぶつけ合い、二頭のドラゴンが空中で暴れ回っている。

 その度に大地は震動し、空は泣き、空間が圧縮されたように歪みを生じさせる。


 それはもはや、想像を超える次元の戦いだった。


「あればぁ、割って入るんは無理だべな……」

「そうね。下手にうろついたら邪魔になっちゃうわね」


 トシコたちも、私と同じ解にたどり着いたようだ。


「……私たちは私たちの出来ることを」

「んだな」

「じゃあ、早く行ってあげましょう」


 私とグリフォンは揃って飛び立つ。


「……今行くわ、テオドラ!」


 テオドラは、ここからさらにブレンドレル側へと移動していった。

 龍族の里からは遠く離れている。姿が見えないということは、相当遠くまで行っているのだろう。


 急がなければ。


 テオドラが相手しているのは、アイスドラゴンなんかよりも、もっとずっと手強い相手なのだから。








いつもありがとうございます。



強さを求める人は、

どんどんレベルアップしていく中で、

いつしか自分の限界に気が付くといいます。


その多くが、

自分には超えられない相手を見つけた時に、

そう感じるのだとか。


どんなに頑張っても超えられない相手。

自分よりも随分と先へ進んでいる相手。


そんな出会いが、

「自分の限界はここなのだ」と、

感じさせるのだそうで……



ですが、

本当に努力をして、

その努力をちゃんと見ていてくれた人がいる、

そんな幸運な方は、きっとそこでは終らない。


自分が「こんなもんだろう」と定めた限界に対し、

ちゃんと見ていてくれた人が、


「お前は、こんなもんじゃないだろう」

「まだまだ出来る」

「もっと遠くまでいける」


と、背中を押してくれるんです。


そうなると、

「ここが限界だ」と思っていた場所から、また前に進めることがあるようです。



そして実際進んでみると、

「あれ? あんなところで立ち止まっていたのか」

と、その時の限界をまるで大したことのない、

全然余裕で超えられる、壁とも呼べない壁だったと、

気が付いたりするのです。




私も、

自分の限界を勝手に決めて、

立ち止まっていた一人でした。



巨乳、

谷間、

貧乳、

スポブラ、

横乳に下乳、

パイスラに至るまで……


ありとあらゆるおっぱいを楽しみ尽くし、

おっぱい観賞に関してはもう打ち止め。

これ以上の可能性などないのだと、そう思い込んでいました。



しかし、

私はある時、こんな言葉を目にしました。




「内乳っていいよね」



う……


うぅ……


うちちち!?



曰く、ぶつかり合い、締め付けることでその魅力を増す谷間を、

あえてかき分けて、

そうしてようやく拝むことが出来る、

それが『内乳』


外部からは決して見ることの出来ない、

乳房と、下着と、インナーと、アウターに守られた、

秘部中の秘部。

例えるならばそれは、深層に佇むお姫様のような儚さで、

または、心の憶測にこっそりしまい込んだ淡い恋心の様で……


おっぱいのなかでもピュアで、シャイな、

穢れを知らない聖域。



真の変態紳士ならば、嗜んでおかなければいけない、

通好みのおっぱい。



それが、『内乳』




私は、まだまだ甘かった。

てんで未熟でした。


こんなザマでは、変態紳士には程遠い。

精々、変態中年がいいところだ! ……いや、変態中年は、なんだか色々アウトだな……



とにかく!

私の限界はまだまだ先だということが分かりました。

私にはまだ、可能性がある!


そう、

おっぱいに、無限の夢と希望があるように……!






次回もよろしくお願いします。


とまと

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