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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
135/150

135話 父親

 岩山を越えると、そこには緑あふれる豊かな大地が広がっていた。


 切り立った険しい岩山の下には、薄く色付く山々が連なり、花の香りが風に乗ってほのかに香っている。

 清らかな清流が大地を横断し、そこかしこに民家らしきものが散見される。


 小さいながらも、豊かな村。


 龍族の里は、そんな場所だった。


「……綺麗」


 隣を飛ぶフランカが思わず言葉を漏らす。


 魔法を究め目覚ましい大発展を遂げたブレンドレル。

 大自然と共に生き、雄大な木々に囲まれたエルフの村。

 そのどちらとも違う美しさが、そこにはあった。


 たとえば、龍族の里には人工的な水路が築かれている様で、治水政策がとられていることが窺える。

 けれど、里の中心に巨大な大木が立っていることからも、この里は自然を最大限尊重して形成されていることが分かる。

 自然とドラゴンが上手く共存しているのだ。


「いい里だべな」

「ワタシの故郷に、少し似ている」


 グリフォンに乗ったトシコと、ガーゴイルに乗ったテオドラが里の感想を述べる。

 見ていると、心が穏やかになる様な……どこか懐かしさを感じる風景だった。


「一度も来たことがないのに、なんだか懐かしいな」

「……私も、同じことを思っていた」

「ワタシもだ。川辺でのんびり過ごしてみたくならないか?」

「いいだな。お弁当ば持ってみんなでピクニックさ行きてぇだ」


 そんなことを話していると、眼下の里から次々にドラゴンが飛び出してきた。

 そして、あっという間に空を埋め尽くす。

 蜂の巣を突いた時のような迅速さだ。


「…………前言撤回。ここでのんびりは出来ないわ」

「……私も、同じことを思っていた」

「ワタシもだ。川辺てのんびりは出来そうにないな」

「んだな。お弁当は持って帰って食べるべな」

「……貴様ら、どんな状況でもマイペースなのだな」


 グリフォンが呆れたように言う。

 いや、俺は別に普通じゃないか?

 他の連中がちょっとアレなのは認めるが。


「……【搾乳】、来るわ」


 岩山の山頂を越えて里へ侵入した俺たちは、現在随分と標高の高い位置にいる。

 そんな空の上まで、わざわざ龍族ご一行様は昇ってきてくれたわけだ。

 里に被害が出るのを嫌ったせいかもしれないけどな。


『立ち去れ、人間どもよ』


 ドラゴンの群の中から、一頭のドラゴンが進み出てくる。

 そいつは、銀色に輝く鱗を持った美しいドラゴンだった。


『私はアイスドラゴン。エンペラードラゴンより、この地の守護を任されし者』


 アイスドラゴンと名乗ったそいつは、氷のように透き通った、冷たい声をしていた。

 そして……


「あいつ、強いな」

「さすが主。分かるのか……あいつは、周りのドラゴン全部を合わせたよりも強い」


 テオドラが息を潜めて言う。

 周りのドラゴン全部を合わせたよりも、か……

 アイスドラゴンの周りには、千頭近いドラゴンが集結している。

 飛行を使わなくても、あいつらの背中の上を歩けばどこへでも行けそうな程、空に隙間なく浮かんでやがる。


「全部で千飛んで十八頭おるだ」

「分かるのか、トシコ?」

「オラ、目ぇさ良いだでな」


 いや、視力だけでどうこうなるもんじゃないとは思うが……


「……【搾乳】!」


 突然、フランカが声を上げる。

 緊張に掠れて、切迫した声に視線を上げると……


「…………エンペラードラゴン」


 千十八頭のドラゴンの向こうにエンペラードラゴンが姿を現した。

 遠くで悠然と羽ばたき、俺たちを静観している。


『貴様たちに勝機はない。今すぐに立ち去れ』


 アイスドラゴンが冷たい声で言う。

 やつらとしても、里の上での争いは避けたいのだろう。

 今なら見逃してくれるってわけか。


「……【搾乳】」

「主……」

「お婿はん」


 全員が俺へと身を寄せる。

 さぁ、どうしたものか。


「……このまま総力戦になだれ込むのは避けたいわね」

「そうだな。この数にエンペラードラゴンが合わされば、ワタシたちに勝機はまずない」

「ほだら、こっちの雑魚チームと、エンペラードラゴンに分ければよかと?」

「……雑魚、と言っていいレベルではないけれどね、あのアイスドラゴンは」

「だが……アイスドラゴンと他の千十八頭を分ければ、なんとかなる」

「つまり、どういうことと?」

「ワタシがアイスドラゴンを抑える。その間に二人は千十八頭を相手してくれまいか?」

「まぁ、オラは複数相手ばぁ得意としとるけん、一頭の強か相手よりそっちの方がやりやすいべ」

「……一人で平気?」

「うむ。アイスドラゴン一頭ならなんとかなる」

「……じゃあ、それで行きましょう」


 と、俺以外の三人の間で話がついたようだ。


 ……ってことは、つまりだ。


「俺がエンペラードラゴンをぶっ飛ばしてくればいいんだな?」

「……ルゥシールを助けるついでにね」

「なるべく里に被害を出さぬよう、配慮を頼むぞ、主よ」

「んだべ。周りに気ぃ付けて、軽~くひねってくるだべ」


 ついでとか配慮とか軽くとか……エンペラードラゴンだぞ?


「……私たちは、あなたを信じているわ」

「主なら、きっとやり遂げてくれる」

「んだ。オラたちが見初めた御仁だでな!」


 あ~ぁ。信用が重たいこと……


「……それに、ルゥシールもきっと」

「あぁ。主のことを」

「信じて待っとるべな」


 ルゥシール…………


 エンペラードラゴンへと視線を向ける。

 相変わらずとんでもないオーラを纏ってやがる。

 殺気なんて生易しいものじゃない。覇気だな、あれは。

 覇者の気だ。


 エンペラードラゴンの足元へと目を向けると、里の最奥に大きな塔がそびえている。

 小さな里には似つかわしくないほど巨大で威圧的な塔は、一国の城がすっぽりと収まりそうなサイズだ。

 ドラゴンがあの中を行きかうのだとすれば、妥当な大きさか。


 あそこに、ルゥシールがいる。


 たどり着くには……



 エンペラードラゴンを突破しなければいけない。


「……【搾乳】は、フルパワーの状態でエンペラードラゴンへぶつかって」

「こっちらのことはワタシたちに任せておけ」

「ちゃちゃっと片付けて、すぐに手伝いさ行ってやるだで、心配せんでええべ」


 頼もしい仲間が背中を押してくれる。

 …………一番厄介なヤツを押し付けられているとも、解釈できるけどな。


「よし! じゃあみんな、絶対に死ぬなよ!」

「……当然」

「心得た!」

「了解だべ!」


 最後に一度、全員で頷きあって、俺たちは分かれた。


 俺はドラゴンの群を突っ切るべく、全速力で前進した。

 多少の妨害は覚悟の上だ。

 右手に魔力を集め、拳を固く握る。

 来るなら来い! 邪魔するヤツはみんなまとめてぶっ飛ばしてやる!


 が、突然目の前を埋め尽くしていたドラゴンたちが、道を開けるように左右へと別れて行った。


「えっ!?」


 思いがけない行動に戸惑っていると、突然そいつは現れた。


 俺の真下から、猛スピードで上昇してくる。

 一瞬の加速だけを見れば、そいつはルゥシールやエンペラードラゴンをも上回るかもしれない。

 突然の接近に、俺は身構えることも出来ず、そいつの起こした風圧によって盛大に吹き飛ばされた。


「うゎあっ!?」


 前進していた俺の背後を翔け昇り、さらに上空へと昇って行く。

 俺とフランカたちの間を引き裂くように突風が吹き荒れ、俺はエンペラードラゴン側へ押し出され、フランカたちは来た方向へと押し戻されて行った。


「くっ! なんなんだ、今のヤツは!?」


 うまくバランスが取れず、空中でくるくる回りながら、俺は突然現れたそいつを目で追った。



 ゲォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!



 そいつは、首が九つもある奇怪なドラゴンだった。


「あいつ…………強いぞ」


 俺の目に、ビンビンと魔力の反応が映りこむ。

 エンペラードラゴンほどではないが、アイスドラゴンが子供に見える様な強さだ。


 あいつらだけじゃ太刀打ち出来ない!


 俺は吹き飛ばされている体をひねって急ブレーキをかける。

 助けに戻る!


 だが……


『ここでの戦闘は避けたい』


 目の前に、エンペラードラゴンが立ちはだかった。


『場所を変えるぞ』

「ま、待てっ! 俺は……っ!」


 反論の余地もなく、エンペラードラゴンが放った突風により俺は再び吹き飛ばされた。


「くそ…………っ!」


 魔力を振り絞り何とかブレーキをかける。

 が、俺が止まった場所は、里から山を一つ越えた荒涼とした荒れた大地の上だった。


 遠くに切り立った岩山が見える。

 随分と飛ばされてしまったみたいだ……


 すぐに戻ろうとするのだが……


『思ったほどは飛ばなかったな』

「……エンペラードラゴン」


 白銀ののドラゴンが俺の目の前へと立ちふさがる。

 巨大な体を、悠然と浮かべて。


 こいつを掻い潜って助けに戻ることは不可能か……仮に戻れたとしても、みんなの戦闘にエンペラードラゴンを乱入させることになる。


 …………くそ。


 フランカ。

 テオドラ。

 トシコ。


 無事でいろよ……!


「エンペラードラゴン……テメェを、ぶっ飛ばす!」


 ビシッと指を差し宣言する。

 時間がねぇんだ。

 ちゃっちゃとケリを付けさせてもらうぜ!


『こい。今度こそ、二度と抗う気が起こらぬようにしてやる』

「ぬかせっ!」


 魔力を爆発させ、全速力で突撃する。

 一瞬で肉薄し、俺は右腕を大きく振りかぶる。

 拳を握りこれでもかと魔力を込める。


「喰らいやがれ!」

『貴様がな!』


 エンペラードラゴンが白銀のブレスを吐き出す。

 視界が白一色に覆われて何も見えなくなる。

 瞬く間に全身が、世界が無の結晶に覆われていく。

 が……こんなもん、もう効かねぇよ!


 左手で結晶を破壊し、爆裂の魔法でブレスを吹き飛ばす。


『むぅっ!?』


 そして、渾身の右ストレートをエンペラードラゴンの横っ面に叩き込む!


『ご……っ!』


 巨大な体が吹き飛び、地面へと落下して行く。


「どんなもんだ、このヤロウ!」


 しかし、エンペラードラゴンは墜落することはなく、空中で体勢を変え再び上昇してきた。

 俺の目の前に……いや、こいつっ! 体当たりする気か!?


 気付くのが少し遅れ、俺はエンペラードラゴンの突撃をかわし損ねる。

 身をひねったが、左半身に巨体のがかする。


 肌が割かれ、骨が軋み、腕が有り得ない方向へと折れ曲がる。


「がぁぁああっ!」


 高速で後方へ飛行し、距離を取る。

 ……ぐっ、腕が、痛ぇ……

 直撃をかわしてもこの破壊力かよ……かすっただけだぞ…………


 すぐさま回復魔法で傷を癒す。

 ……こいつは、魔力の消費が早そうだ……


 俺の十倍はありそうな巨体が、ゆったりとした羽ばたきで俺の目の前に近付いてくる。

 そして、ある程度の距離を開けて立ち止まり、ドヤ顔でこんなことを抜かしやがった。


『どんなもんだ、下等生物よ』


 ……んの、ヤロォ…………ッ!


「テメェはとことん気に入らねぇ! 絶対ぶっ飛ばす!」

『魔力が底を尽きたら何も出来ぬ人間が……もうそろそろ限界も近いのだろう?』

「テメェから貰ってやるよ、余ってるみたいだしな!」

『残念だったな。貴様のマーヴィン・エレエレは無の結界で防げることは実証済みだ』

「だったら、テメェの逆鱗から直接奪ってやるまでだ!」

『ゲキ……ッ!? き、貴様! それがどういうことを意味しているのか分かっているのか!?』

「あぁ、知ってるさ! とっても『ビ・ン・カ・ン』な所なんだろ?」

『お、おのれ、破廉恥な! この私を愚弄する気か!?』

「へん! テメェも、逆鱗こすこすして『にゃあにゃあ』鳴かせてやるぜ!」

『……「テメェも」…………「も」だとぉ!? 貴様、まさか我が娘の逆鱗を……っ!?』

「こすこすしちゃったもんねぇ!」

『殺ぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおすっ! 八つ裂きにしてもまだ足りぬ! 嫁入り前のわが娘を汚した罪、きっちりと払わせてやるからなっ!』

「上等だ! こちとら、ルゥシールに愛の告白までしてんだ! 腹ぁもう決まってらぁ! 責任でもなんでもとってやろうじゃねぇか!」

『戯けがぁ! 誰が貴様などに愛おしい娘をやるものか!』

「テメェ、この前『愛してくれてありがとう』とか抜かしてただろうが!」

『取り消しだ、あんなもの! 貴様のような不埒な男は認めん!』

「いい加減、娘離れの時なんじゃねぇのか、バカ親父!?」

『黙れ! 娘は何千歳になっても親の子だ!』

「その前に、俺の嫁になるんだよ!」

『認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん認めん!』

「聞き分けろよ、バカ親父! ダメパパ! 頑固お父さん!」

『だまれぇ! いいか! 何があっても、貴様に娘はやらん!』

「テメェこそ黙って俺の言うことを聞きやがれ!」

『聞きたくなぁい! 私は絶対聞かんぞぉ!』

「お父さん! 娘さんを、僕にくださいっ!」

『貴様にお父さんと呼ばれる筋合いはないわぁ!』

「パパッ!」

『そういうことじゃなぁぁぁあああいっ!』


 怒り任せに、エンペラードラゴンは白銀のブレスを辺り一帯にまき散らす。

 荒涼とした大地が一瞬で透明な結晶に覆われていく。

 こうして、生き物が住めない土地が増えて行ったのだろう。


「もう! わがまま言うなよ、パパ!」

『パパと呼ぶなっ!』


 クールだったエンペラードラゴンはもういない。


『貴様を、この世界から抹消してやる……多少はダークドラゴンの心が揺らぐやもしれんが…………いいや! そんなことはあり得ない! 我が娘は、こんな不埒ものに心など乱しはしない! そうだ! 貴様など、娘の生涯においては不要なものだ! ゴミだ! 塵芥だ! 貴様を葬ったところで、世界は何も変わりはしないのだぁ!』


 エンペラードラゴンの叫びが大地を震わせる。


 さっき俺たちがたどり着いた龍族の里。それを囲むように切り立った岩山が連なり、その周りを、生き物が棲まないこの荒れ果てた大地が取り囲んでいる。この先にまた険しい山脈が尾根を連ね、その向こうが人間たちの済む世界だ。


 つまりここが、龍族にとっての戦場なのだ。

 龍族の里を脅かすものを、ドラゴンたちが排除してきたのが、この荒れた大地の上なのだ。

 だから、ここは生物が棲めない土地になったのだ。


 こんな出鱈目な力で暴れられたら、そうなるよな。


『本気で行くぞ…………マーヴィン・ブレンドレル!』

「こいよ…………パパりん」

『嬲るなぁ!』


 一瞬のうちに巨体が消える。

 高速移動だ。


 気が付いた時にはエンペラードラゴンは俺の目の前にいて、大きな口を開けていた。


 おぞましいほどに尖った巨大な牙がずらりと並んでいる。

 これに噛みつかれれば、人間などひとたまりもないだろう。



 ……だが。



 ガキン!


 と、硬い歯がぶつかる音が響く。


『なにっ!?』


 エンペラードラゴンが噛み付いた場所に、俺は既にいなかった。

 俺はそこよりも数百メートル離れた場所へと避難していた。


『バカなっ!? 私の速度に対応したというのかっ!?』


 確かに、龍族の瞬間移動は驚異的だ。

 まともにやったのでは反応することすら出来ない。


 だから、まともじゃないやり方を選択したのだ。


 ルゥシールや他のドラゴンたちを見ていても分かるように、ドラゴンの特殊能力はさほど多くない。というか、属性のついたブレスくらいしかないのだ。

 それ以外の武器と言えば、生まれ持った強靭な肉体と鋭い牙、爪、そして高速移動。

 複数の【ゼーレ】を持つドラゴンなら分からんが、希少種である無の【ゼーレ】を持つエンペラードラゴンは、複数のブレスを使えない。

 そして、そのブレスは俺に二度も破られている。


 以上のことから、ヤツが次に仕掛けてくるのは高速移動を使ったものだと確信していた。

 なにせ、幾千もの魔法を扱える俺に対し、確実に有効なのが高速移動しかないのだからな。

 牙や爪、体当たりでもダメージは喰らうだろう。

 だが、俺はどんな深手でも瞬時に回復することが出来る。

 ヤツが勝利るすには、俺を『一撃で殺す』必要があるのだ。

 肉体強化や結界を自在に操り、さらにどんなダメージも一瞬で治してしまう。

 ヤツにとってはやり難い相手だろう。


 逆に言えば、こっちは高速移動にさえ注意を払っておけばいいのだ。


 俺は、俺の視覚に魔法のコードを連結させた。

 ミーミルに教わった、アッホみたいに複雑な術式なのだが……


 えっと、たしか……


 脳への伝達は電気信号で送られるものだから、神経に直接魔法の起動式を組み込んでおけば、条件反射の速度で魔法を発動することが出来る……だったか?


 よく分からんが、要するに。


 俺の視覚が『エンペラードラゴンが消えた』と判断したとき、俺の体は『自動的』に数百メートル後方へと移動するようになっているのだ。

 それは、俺の意志とは関係なく。

 俺の認識とは切り離された、完全なるオートマチックでだ。


 ただし、このオート魔法の発動にはひとつ条件があって……


『エンペラードラゴンを見ている状態から、エンペラードラゴンが消えた時』に発動するのだ。

 つまり、エンペラードラゴンが高速移動を行う前に、最低でも一分間はエンペラードラゴンを見つめている必要がある。

 よそ見している時にやられるとアウトだ。

 あと、エンペラードラゴン以外には通用しない。


 意外と制約が多いのだが……保険をかけておいて正解だったな。


『貴様……何をした?』

「お前より速く動いただけだよ」

『……人間が…………っ!』


 エンペラードラゴンの顔に余裕がなくなっている。

 憎悪に歪み、牙を剝き出しにしている。


 怒れ怒れ。もっと怒れ。

 そして冷静さを無くしてくれ。


 でないと……



 俺は、もう……ほとんど魔力が残ってねぇんだからよ。









ご来訪ありがとうございます。



父、現る。


なんだかご主人さんは、

流れで、

プロポーズの前に『娘さんを僕に』をやっちゃいましたね。


パパ龍ビックリです。



しかし、アレ、

『娘さんを僕に』の試練は緊張するんでしょうかね?

案外さっぱりしたもんなんじゃないでしょうか?



私「結婚するちょっ!」

父「マジッぽ?」

私「マジッちょ!」

父「わかたっぽ!」

私「ありがっちょ!」

父「よろしくッぽ!」



――と、こんな感じなんじゃないかと想像するんですが?


そもそも、

娘の幸せを願わない父親などいるはずもなく。

で、あるならば、もろ手を上げて歓迎するべきなのです。


なにせ、


「俺が愛してやるんだから、お前は幸せになるに決まってるだろ?」



……こんなセリフが許されるのは乙女ゲーの中だけでしょうか?


実は私には、理想のシチュエーションというものがありまして。


季節は夏がいいですかね。

二人で海に遊びに来ていて、

陽が高いうちは思いっきり遊ぶんです。

ビキニの谷間にドキドキしたりして、でも楽しいが勝っていて、

とにかくはしゃぎまくるんです。


そして、夕日が海の向こうへ沈んでいくのを二人ならんで眺めて、

空と海が真っ赤に染まって、まるで燃えているような風景を眺めて、

何もしゃべらないんだけれど、触れ合った肌からお互いの温もりだけは感じられている、

そんな状況で。


夕日が沈むと、空は群青色に変わっていき、

そろそろ帰らなきゃいけない時間になるんです。

でも、「もう少しだけここに居たいなぁ」とか言われたら、

「じゃあ、もう少しだけ」って返事しちゃうしかないわけで、

私も、もう少し一緒に居たいなとか、思ってるわけですよ、もちろん。


でも、陽が高い内に帰るつもりでいたから、

二人ともちょっと薄着してきちゃってて、

私は半そでで、向こうはキャミソールで、

「寒くない?」って聞くと、

「平気。…………あ、やっぱり寒い!」

って、私に引っ付いてきたりして。


さっきよりも触れ合う面積が広くなって、

なんだがドキドキして……


景色は綺麗で……


周りには誰もいなくて……


波の音だけが、静かな浜辺で聞こえていて……



どっくん……

どっくんって……

自分の鼓動を聞きながら、腹をくくって……


「あのさ! 言いたいことがあるんだけど!」

「……なに?」


で、向かい合って。

目を真っ直ぐ見つめて。

一度唾を飲み込んで、深呼吸して……



そして、ずっと言おうと思っていた言葉を伝える――






「お父さん、娘さんを僕にください!」







こんなシチュエーションで言いたいですよね、

『僕にください』って。



え?

一緒にいたの?

彼女の父ですけど?


えぇ、はい。

キャミソール着てますよ。

キャミにステテコです。


あぁ、ビキニですか?

そういう趣味なんでしょうねぇ。

谷間?

メタボなんでしょう。

私も気をお付けないといけませんね。




でも、

こんだけいい雰囲気だったのに、

「娘は君にはやらん!」

とか言われて、

「ちょっ! なんだよそれぇ~!」

みたいな感じになるんでしょうかねぇ。



もし、

近々『僕にください』をする人は、

参考にしてみてください。


「結婚するっちょ!」の方でもいいですけどね。



上手くいった暁には、是非ご報告を。

上手くいかなかった場合は…………強く生きてください。




今後ともよろしくお願いいたします。


とまと


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