134話 強敵襲来
「貴様は私と会ったことがあるだろぉー!?」
魔獣の声が谷の中に反響する。
ワシの頭と翼、獅子の体を持つこの魔獣は…………
「誰だ?」
「グリフォォォオォオオオオオン! フォォォォォォォオオオオン!」
「おぉ、なんだ魔獣。おヌシも来たのか?」
「魔神だ! 私は、魔神グリフォン! 強大な魔力を持つ空の王者! 魔界の空を支配する絶対の支配者だ!」
「……随分と誇張されている。表現が大袈裟。その割に魔力は大したことがない」
「だべなぁ。こんくらいの魔力だったら……ドラゴンの足元にも及ばんべなぁ」
「あ! わかった! お前ら全部ガウルテリオの関係者だろ!? それもずいぶんと深いかかわりを持ってるだろ!?」
なんだか知らんが、登場と共に怒り狂っているグリフォンは俺たちを指さして難癖をつけてくる。
まぁ、関係者というか。
「息子」
「……の、嫁候補」
「ワ、ワタシも同じくだ!」
「オラはお婿はんを婿にもらうだ」
「…………まったく、碌な教育をしていないなガウルテリオは……って、息子! お前は知ってる! 五~六回会ってるから!」
「……………………………………はて?」
「もぉぉおおおおおおおヤダァァァアアア、ガウルテリオ一族ぅぅぅぅぅうううううっ!」
グリフォンが涙をまき散らせて、地面に背中をこすりつけてじたばたともんどりうち始める。
物凄くデカい駄々っ子が地面を転がり回っている。
「すげぇ邪魔」
「……えぇ、邪魔」
「邪魔なヤツだなぁ」
「邪魔だでな」
『邪魔だね』
「ドラゴンまで!? ドラゴンまでソッチ派か!?」
登場からずっと叫びっぱなしのグリフォン。
「つかお前、そもそも何しに来たんだよ?」
「そうだ! テオドラ!」
「え? ワタシか?」
グリフォンは起き上がり、テオドラの顔を真正面から覗き込む。
『メンチを切る』というヤツだ。
「何故私を置いて行った?」
「ポリッちゃんが凄い魔道具をくれてな。これさえあればワタシは空を自在に飛ぶことが出来る」
「お前は魔界で、私に、この私にだ! この魔界の空の覇者であるグリフォン様に、『人間界でドラゴンと戦うから自分を乗せろ』と言ったよな!? 確かに言ったよな!? その小さいプルプルした薄桃色の唇で!」
「……表現がキモイ」
「キモイだなぁ」
「外野は黙ってて! 女同士なんだからよかろうが!」
「お前、メスか」
「メス言うなしっ!」
どこかしゃべり方のおかしい生き物だな。
興奮して我を忘れているのだろうか。
「しかし、あまり乗り気ではなかったではないか」
「私は貴様と戦い、貴様の力を認め、この私が認めてやったのだぞ!? 貴様の力を認めて同行したのだ! これで戦わずにおめおめと魔界に帰るなど……私の誇りが許さぬ!」
「うむ。それもそうか……」
「分かってくれたなら、よいのだが」
「では、勝者の権限で言う。魔界に帰れ」
「鬼かっ、貴様はっ!?」
嘴がもげるんじゃないかというほど大口を開けてグリフォンが吠える。
やかましいなぁ。一応、隠密行動中なんだけどなぁ。
「あっ! そうだべ!」
パシリと、トシコが手を鳴らす。
「ほだら鳥さん、オラのこと乗せてくれねぇだか?」
「誰が鳥だ!? 訂正しろ!」
「魔獣さん」
「魔じぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいん! 私、超、魔神っ!」
本当にうるさい。
少なくとも、俺の知ってる覇者や支配者はこんなに喚いたりはしない。
「おい三下」
「いきなりの暴言に度肝を抜かれたぞ、ガウルテリオの息子!? この私が抜かれたのだぞ!?」
あぁ、面倒くさい……
「暇なんだったらトシコを乗せてやれよ。そうすりゃ全員飛べるようになるんだし」
「ふん! 舐めるな! 私は崇高なる魔界の空の創造主!」
「……どんどんと位が上がっていっている」
支配者、覇者、創造主か……
位が上がってるかどうかは判断が難しいところだな。
「その完全強者の私の背に乗れる者など、この世に幾多も存在せぬわ! どうしても乗りたいというのであれば、私に貴様の力を示して見せるがよい!」
「ん~…………つまり、どういうことだべ?」
トシコが首を傾げる。
「な~んや、こん鳥さんばぁ、言うてる言葉がようわからんでぇ。意味を理解するのに苦労するだべなぁ」
お前が言うか!?
その場にいた全員が度肝を抜かれた。
「……要するに、グリフォンと勝負して勝って見せろと、そう言っているのよ」
「なんだべ。そっただ簡単なことだったべか? 流石フランカだべな。分かりやすいだぁ。オメさ、通訳さんにでもなればよかのになぁ」
「……ごめんなさい。いまだにあなたの言葉が理解出来ない時があるのよ。私には荷が重すぎるわ」
フランカ、早々の敗北宣言だ。
負けず嫌いのフランカにしては珍しい。
「……私は、無駄なことに労力を割きたくないだけ」
「さいですか」
俺の心を読んでフランカが答えてくれる。
まぁ、トシコとの会話は理解ではなく感じることが重要だからな。
「ほだら、一丁勝負するだべか!」
トシコが弓を構えると、グリフォンは不敵な笑みを浮かべた。
「よかろう……あっさりと死ぬなよ、人間……私も、少しは楽しみたいのでな……くくく」
グリフォンが翼を広げ空へ舞い上がっていく。
『では、中立な立場の私が合図をしよう』
「たのむだ」
「好きにするがいい!」
『では…………始め!』
グリフォンが上空から直下降してくる。
速いっ!
かなりの速度が出ている。
「ふははははっ! 人間にこの動きが捉えられるか!?」
一呼吸の間に、グリフォンはトシコへと肉薄し、鋭く尖った嘴がトシコの心臓を狙う。
が……
半呼吸の間にトシコは体を右にずらしグリフォンの突撃をかわす。そのままグリフォンの背後に回りこみ、立て続けに三発、矢を射った。
「いだぁぁぁあああっ!?」
グリフォンが直下降の速度のまま地面へ激突し、その後ゴロゴロと転がる。
「痛い! 痛い痛い! 痛い! 背中、超痛い! 痛い痛い痛い痛い痛い!」
背中の矢を抜こうとしているのか、グリフォンは巨大な体を地面にこすりつけるようにゴロゴロと転がり回る。
「すげぇ邪魔」
「……えぇ、邪魔」
「邪魔なヤツだなぁ」
「邪魔だでな」
『邪魔だね』
「さっき見たぞ、その流れ!」
体を起こしたグリフォンの目の前に、トシコが立ちふさがる。
「それで、どうするだ? 降参だべか?」
「ふ……ふん! 今のはほんの小手調べさ! これから私の本当の力を発揮して……」
「そうだか…………ほだら……」
ゆらり……と、トシコの肩から闘気が立ち昇る。
ゾッとするような、凄まじい圧迫感を感じる。
「……オラも、『本気』ば、出さんといかんかねぇ……?」
グリフォンの目が点になり、顔の筋肉は硬直し、全身を覆う羽毛から大量の汗がしたたり落ちていく。
「……………………ま、まぁ、今回は? 引き分け? 的な? ことでも? 私は、別にいいけど?」
「ブルードラゴンさ。第二ラウンド開始の合図ばぁよろしく頼む……」
「わぁ! ごめんなさい! 参りました! もう嫌です! 戦いたくないです!」
「んだら、オラのこと乗せてくれるだな?」
「…………喜んで」
一切喜んでいない風にグリフォンが吐き捨てる。
「…………これだから、ガウルテリオの関係者は…………どいつもこいつも非常識で……」
この鳥、一回しっかりと調教した方がいいんじゃないか?
性根が腐りきっている。
とにかく、これで先に進めるな。
トシコが落ちることももうないだろう。
「あ、そうだ」
俺はあることに気が付いて、隣に佇むブルードラゴンを見上げる。
「なぁ」
『なんだ、我ら龍族の宿敵よ』
「おっぱい揉ませてくれないか?」
突風に吹き飛ばされた。
『アホか、あんたは!?』
「……よく分かったわね」
「アホなのだよ、主は」
「なっかなか治らんでなぁ……」
「ガウルテリオの息子なら仕方ない」
おいおい。誰か一人くらい俺の身を案じろよ。
「お前らが思ってるようなことでは全然なくてだな! 今回の戦いで魔力を使い果たしたから分けてほしいと思っただけだ!」
『なんだ。そういうことか』
「あったり前だろう! 俺は人妻に興味はねぇんだ!」
『未亡人では?』
「………………」
『そこで黙るから信用されんのだ』
「……甘いわ、ブルードラゴン」
「うむ。まだまだ主のことを分かっていないな」
「だべな。黙るっくらいのことで勝ち誇ってもぅてからに……」
『どういうことだ?』
「……せーの」
「「「巨乳の美人未亡人なら?」」」
「有りだ!」
『……見下げ果てたヤツだな、あんたは』
はっ!?
なんと卑劣な誘導尋問!?
まるで俺が最低人間みたいじゃないかっ!?
「とにかく、下心などこれっぽっちしかないから魔力をくれ!」
『完全否定してほしかったぞ、そこは……』
そんなわけで、俺はブルードラゴンの胸に手を当て魔力を分けてもらう。
流石【ゼーレ】を五つも有する強化ドラゴンだ。
魔力の量も多い。
……なのだが。
「なんでドラゴンのままなんだよ?」
『人間に戻ると不都合があるんでね』
カッチカチの胸板を触っても全っ然楽しくない。
むしろ、ちょっと寂しい気分になって来る。
『もういいか?』
「あぁ。これくらいありゃ十分だ」
『まったく、遠慮なく持って行ってくれるな……少し足元がふらつくぞ』
「根性足りてねぇんじゃねえの?」
『……こいつの躾は誰の担当だ?』
「……ガウルテリオよ」
「ガウルテリオだな」
「ガウルテリオだべな」
なんだか、非難の矛先がお袋に向かっている。
きっと今頃魔界でくしゃみでも連発しているだろう。
『お前たちに出会えてよかった』
ブルードラゴンが俺を見つめてそんなことを言う。
『「あんな大人にはなるな」と、娘たちに教育できる』
ブルードラゴンが俺をジト目で見つめてそんなことを言いやがる。
失礼なヤツだ! トシコの村の言葉で言えば、『失礼ぶっこいちゃう』だ!
「んじゃ、行くか!」
「あ、主! ちょっと待ってくれまいか」
テオドラが俺の隣へと駆け寄ってくる。
そしておもむろに懐に手を入れる。
「……おっぱい、出すのか?」
「主よ……節操という言葉に聞き覚えはないか?」
ふむ…………聞いたことがないな。
「まったく、主は……そういうのは、また、別の機会に……」
「ん?」
「いや。なんでもない!」
テオドラが誤魔化すように言って、懐から何か丸い物体を取り出す。
そして、それを俺へと手渡してきた。
手のひらにすっぽりと収まるサイズのそれは、微かに温かく…………これ、今の今までテオドラのおっぱいに挟まってたのかな?
…………すんすん。
「匂いを嗅がないでくれまいかっ!?」
あ、微かにハンバーグの匂いが……
「そ、それは! ……こほん……、ポリッちゃんが主に渡してくれとワタシに渡してきたものなのだ」
『わたし』率の高いセリフだな……
しかし、ポリメニスが寄越してきた物ってことは、何かの魔道具か?
その丸い物体をじっくりと観察してみる。
薄オレンジ色をしていて、形状は真ん丸を少しだけ平らにつぶしたような形だ。手のひらによく馴染む。
中心部には小さな薄い桃色の円形が描かれており、その中心部に突起物が付いている。この突起物はスイッチになっているようで押せそうだ。
というか、これ……
「まんまおっぱいだな?」
手のひらサイズのおっぱいの模型だ。
ポリメニスは何を思ってこんなものを俺に? え、どこかのお土産?
「魔力が底を尽きて、もう無理だと思った時に、中心のスイッチを押すようにと、ポリッちゃんは言っていた」
「あぁ、ごめんテオドラ。その説明の前に、形状が気になるんだが」
「この形状にしておけば、主なら絶対に押すと……」
「必要ない時にも連打しちゃいそうだけど?」
「それだけはやめてくれと言っていたな」
ポリメニス……悪ふざけが過ぎるぞ。
なんだろう、この…………ウケを狙って盛大に滑っている感は……
「……ポリッちゃん、サイテー」
「最低だべな」
ほら、女性陣がドン引きだ。
この状況は、後日詳しく報告してやろう。
恥ずかしさに身もだえるがいい。
「じゃあ、まぁ、一応貰っておくよ」
「うむ。確かに渡したからな」
そう言って、テオドラはガーゴイルの背に跨る。
トシコもグリフォンに跨っているし、フランカも翼を大きく広げている。
みんな、準備は出来ている様だ。
なら、行くか!
そう思って空を見上げた時…………
…………あいつと目が合った。
「……なんで…………?」
思わず漏れた言葉には、誰も反応を示さなかった。
それどころではなかったからだ……
『…………うそ』
ブルードラゴンの呟きは、恐怖に震えていた。
『やはり来たな……人間よ』
その声は静かでいながら重々しく、容赦のないプレッシャーを与えてくる。
やはり、こいつは桁が違う。
どんなに複数の【ゼーレ】を有していても、こいつの【ゼーレ】には敵わない。
ナンバーワンであり、オンリーワンの【ゼーレ】
無の【ゼーレ】の放つ威圧感に、俺たちは全員言葉を失っていた。
俺たちの頭上に、エンペラードラゴンが出現していたのだ。
『まさか、我が一族を手懐けてしまうとはな……』
『ち、違…………私は……』
『弁解は聞かぬ』
その言葉の直後、エンペラードラゴンは白銀のブレスを吐き出した。
辺り一面が白銀に覆われていく。
『エ、エンペラードラ…………ッ!?』
ブルードラゴンの叫びは、そこで途絶えた。
俺も含め、その場にいた全員が……いや、その付近一帯が、透明な無の結晶に閉じ込められてしまったのだ。
動ける者は誰もおらず、ただ、上空に浮かぶエンペラードラゴンを見上げているだけだった。
『貴様らの死は、おそらくダークドラゴンの心を乱すだろう……だから、今は殺さぬ。闇の【ゼーレ】が意識を手放し、世界から隔離されたその時までは生かしておいてやる』
俺たちの死を、ルゥシールは感じ取る……というのか。
つまり、ルゥシールはまだ生きている。
精神もまた、きちんと生きているということだ。
朗報だな、これは。
『人間よ…………いや、マーヴィン・ブレンドレルよ』
エンペラードラゴンが、俺に向かって話しかけて来る。
『娘を愛してくれたこと…………感謝する』
それは、父親としての言葉だった。
『報われぬ哀れな生涯であったが……ほんのひと時だけでも、アレは懸命に生きた。その証左が、貴様だ』
報われない……哀れな……
『ある意味では……貴様の存在があったからこそ、闇の【ゼーレ】を封印することが出来たとも言える…………どうか、そのまま大人しく朽ち果ててくれ。貴様が動く度に、世界は波風を立てる……平穏を望む我らにとって、貴様は天敵なのだ』
エンペラードラゴンはゆっくりと体の向きを変え、優雅に飛び去っていく。
去り際に、こんな言葉を残して……
『マーヴィン・ブレンドレルよ…………貴様に、娘はやれん。諦めろ』
大きな羽音が遠ざかり、やがて静寂が辺りを支配する。
風の流れる音さえも遠慮しているように感じる、耳に痛い静けさだ。
『そのまま大人しく朽ち果ててくれ』……か。
もし、俺が大人しくしていることが、世界や、俺の仲間たちや、ルゥシールにとって平穏になるのだとしたら?
俺は、大人しく引き下がるだろうか。
全世界の総意が、俺にそうしろと言ってきたとしたら…………
答えは、「ノー」だ。
悪いな。
俺は、他人に押しつけられた解答なんざ信用しないんだ。
俺が選ぶ答えは、いつだって、俺自身の目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、鼻で嗅いで、舌で味わって、俺自身で考えて導き出す!
全世界が「そうすることが正しい」と言ったところで、俺が納得できなきゃ、それは「世界の方が間違ってる」わけであり、俺の回答は単純明快、「テメェらが意見を変えろ」だ。
そんなわけで、妙にしんみりしていたエンペラードラゴンには悪いが……
もう一波も二波も立てさせてもらうぜ。波風をな。
結界に閉じ込められたわけだけれども、「だからどうした」と言いたい。
俺は今、手のひらを開いている。
そして、俺は、『魔法を発動するために言葉を要しない』……分かるか?
つまりな……
無の結界がひび割れ、瞬く間に大きな亀裂が無数に走り、ついには崩壊する。
「こんな結界で俺を閉じ込めようなんざ、不可能だってことだよ!」
以前、一度ミーミルの協力で解除している結界だ。
どんなに新たな細工をしようが、高度な結界を作ろうが、活字バカのミーミルにかかれば『同じ系統の魔力が生み出した結界』であれば、どんなものでも解除可能なのだ。
つまり、エンペラードラゴンの結界は、金輪際、俺には通用しない!
「よし。他の連中も助けてやるか」
と、振り返ると……
パリン!
パリン!
と、結界が破壊された。
出てきたのは……
「……魔界でミーミルに会って、解除の魔法を教わっておいたわ」
「【ドラゴンスレイヤー】に、ドラゴンの結界など通用するものか」
フランカとテオドラだった。
こいつら……独自でドラゴン対策を取っていたってことか。
頼もし過ぎるだろ、マジで。
「それじゃあ、トシコも……!」
そう思って結界に閉じ込められたトシコを見つめるも…………反応はなかった。
心なしか、瞳が寂しそうに見えた。
まぁ、トシコは予防線とか、作戦とか、計画性とか、そういうのとは無縁そうだしな。
俺は無の結界を解除してトシコとグリフォン、そしてブルードラゴンを解放した。
「ぶはぁ……し、死ぬかぁち、思いよっただ……」
「……あのドラゴン……シャレにならない強さではないか……」
トシコとグリフォンが揃って地面にうずくまる。
……このコンビ大丈夫かな?
『すまない』
頭上から謝罪の言葉が降ってくる。
ブルードラゴンが俺に物悲しそうな目を向けている。
「いいって、いいって。気にすんなよ、このくらい」
『そうではなくて……エンペラードラゴンにこの場所が分かったのは、私の魔力が急激に減少したためだと思う』
そうか。
俺が魔力を借りたから、それで気付かれちまったんだな。
「だとしても、お前は悪くないだろう?」
『しかし……』
「いいって。お前に借りた魔力のおかげで結界を破れたんだし、感謝してるくらいだぞ」
『…………そうか』
「そうだ」
『……ふふ。やはり、嫌いじゃないよ、あんたのこと』
そう言って、ブルードラゴンの大きな顔が俺に接近してきて、ほっぺたにキスをされた。
『礼だ。取っておいてくれ』
「……唇、硬ぇよ」
『くははは! 牙を立てなかっただけ親切だろう?』
ったく。
つか……こいつの頭突きで、俺は背骨を折られてるんだよな。
急に接近するんじゃねぇよ。怖かったじゃねぇか。
『無事を祈っているぞ、我が龍族の宿て…………いや、マーヴィン・ブレンドレル』
「おう。あのわからず屋をぶっ飛ばして、お前ら親子が暮らしやすいようにしてきてやる。まぁ、ついでだけどな」
『ついででもありがたいさ。しっかりな』
穏やかな笑みを浮かべるブルードラゴンに見送られ、俺たちは空へと舞い上がった。
この山を越えれば敵の本拠地。
エンペラードラゴンのテリトリーだ。
待ってろよ、バカ親バカ。
テメェが間違ってるってこと、俺が教えに行ってやるからよ!
「さぁ、乗り込むぞ!」
俺たちは、切り立った岩壁を飛び越えて、山の向こうを目指した。
標高が上がり猛烈な寒さに晒されながらも、前進を続けた。
そしてようやく、龍族の里へとたどり着いたのだった。
いつもありがとうございます。
遂に出てきました、
グリフォン!
フォォォォォォォオオオオン!
……いや、お前でなくて。
エンペラードラゴン襲来です。
一応、娘想いな部分もありつつ、やはり一族の長としての役割を優先させているようです。
仕事は出来るけれど、家庭は顧みない……ベテランの刑事さんみたいな男ですね。
警部「ホシが潜んでいるアパートの情報を掴んだ。早速張り込みに行くぞ」
刑事「え、でも警部、今日は確か娘さんの入学式じゃあ……」
警部「バカヤロウ。俺がいなくても入学式は出来るが、ホシは俺たちが捕まえなきゃ誰も逮捕できないだろうが」
刑事「でも……」
警部「いいから行くぞ」
みたいな、そんなタイプなんでしょうかね?
じゃあ、結婚式の時に号泣するかもしれませんね。
それで、泣き過ぎてブレス吐いちゃって、辺り一面結晶に封印、みたいな。
大参事じゃないですかっ!?
ルゥシールを嫁にしたいと狙っている方、
結婚式の前に親族友人一同にミーミルの魔法を習得させた方がいいですよ。
たぶん、広辞苑とか渡しておけば大喜びで教えてくれますから。
そう言えば、
ご主人さんの辞書には『おっぱい』って言葉が二回出てくるみたいですよ、
たしか。
(『4話 遺跡の結界』参照)
そんな辞書を使っていれば、
きっと結婚式のスピーチとかでも…………
ご主人さん「結婚には、大切な『乳』が三つあります!」
ルゥシール「出だしからして既に不安いっぱいですよっ!?」
ご主人さん「まずは、『嫁の乳』」
ルゥシール「以外を大切にしちゃ大問題ですよっ!? 他の三つにしてください!」
ご主人さん「では……『右乳』『左乳』『横乳』」
ルゥシール「それらすべてをひっくるめて『嫁の乳』ですよねっ!?」
ご主人さん「そして、『下乳』」
ルゥシール「四つ目出てきちゃいましたけどもっ!?」
ご主人さん「新郎さん、どうか、新婦の乳を盛大に揉みしだいてください」
ルゥシール「二人の門出になんて言葉を贈ってるんですか!?」
……みたいなことになるんでしょうね。
ご主人さんのご友人の方々におきましては、
間違っても、ご主人さんを友人代表に選ばないようにしてくださいね。
不幸になりますよっ!
次回もよろしくお願い致します。
とまと