133話 掟 そして、心
チャンス!
ブルードラゴンが、突如現れたテオドラに意識を向けている隙に、俺は全身に回復魔法を掛ける。
体が淡く発光して、バキバキに折れていた背骨も元通りくっつく。ただし猫背は治らない。
下の方でも似たような発光が確認できた。フランカも同じように、自分の傷を癒したのだろう。
「なぁ、ブルードラゴン。あえてもう一回言ってやろう」
俺は、これ見よがしにブルードラゴンの眼前で胸を張り、ドヤ顔満開で言ってやった。
「状況は、一つの変化で劇的に変わっていくんだぜ!」
『私のパクリか』
「バッ!? バカ、お前! 俺の方が先に思ってたっつったろう!?」
まったく!
なんでもかんでも自分の手柄にしようとしやがって!
「テオドラ~! ありがとだぁ! 助かっただぁ!」
「うむ! 間一髪だったな」
随分と下の方からトシコとテオドラの声が響いてくる。
間に合ったようだ。よかった。
ブルードラゴンも、明らかに「しまったぁ」みたいな顔をして下の方を覗き込んでいる。
こいつ、俺が話しかけると返事してくれて、それで思いっきり隙だらけになるんだよなぁ。もしかしてすげぇお人好し?
「……【搾乳】」
その間に、フランカが俺の隣へと飛んでくる。
「……テオドラが」
「あぁ、来てくれたようだな。これで状況が好転するだろう」
「……いや、そうじゃなくて」
「ん?」
フランカが浮かない顔をしている。いや、元々そんなに表情豊かな方ではないけども。
今は明らかに表情が曇っている。
何か気になることでもあるのか?
「……テオドラって、たしか……………………高所恐怖症だったわよね?」
「あ……」
出会った当初は、丘の上で動けなくなっていたほどだ。
「……滝からの落下、魔界での落下などから高所に耐性が出来たのかしら? だとしたらいいのだけれど」
「いや、待てフランカ。そのことは絶対に口外するな」
俺は、フランカの顔の前に手のひらを突きつけて発言を抑制する。
……あのテオドラのことだ。
「ここ最近ずっとなんだか忙しくて、単純に忘れているだけの可能性がある……」
思い出したとたん動けなくなるかもしれん。
「……いくらテオドラでも、そこまで間抜けなことは…………………………ある、かしら?」
ある意味、テオドラへの信頼はピカイチだ。
俺なんか、あいつなら絶対うっかりしているだけだ――と、確信を持っているもんな。
「……じゃあ、これは」
「二人だけの秘密ってことで」
俺の提案に、フランカは素直に頷いてくれた。
「……二人だけの、秘密………………ふふ」
なんか、嬉しそうに笑っているようだが…………悪だくみしているようにしか見えないから、その笑い方やめた方がいいぞ。
『まったく、次から次へと…………計算を狂わせる連中だ』
ブルードラゴンは忌々しそうに顔を歪め、妙に大人しく俺たちを見ている。
波状攻撃は、受ける方はもちろん、仕掛ける方も相応に魔力を消費する。
下手に乱発しない辺り、こいつは本当に冷静だ。これまで出会ったドラゴンの中で四番目に強いのは間違いない。
「主!」
「お婿は~ん!」
テオドラとトシコが戻って来る。
鉄のガーゴイルは、二人を乗せても移動にぎこちなさが出ない。
ただ、ちょっと窮屈そうではあるが。
あと、顔がスゲェ怖い。……俺は乗りたくないなぁ。
「酷いではないか! ワタシだけ置いていくなんて!」
さっそくクレームを受けてしまった。
「……テオドラ」
怒るテオドラに、フランカが静かな声で語りかける。
やはり、こういう時はフランカが頼りになる。宥めてやってくれ。
「……『だけ』ではないわ。私も置いて行かれたもの」
あれぇ!?
敵が増えた気がするぅ!
フランカの視線が鋭くなっていく。
「オ、オラは、お婿はんに連れていかれただけだで! 無罪だで!」
「テメっ!? トシコ!」
「お姫様抱っこばぁ、されよったら、……女子ば抵抗なんて出来やんけぇ」
「「お姫様抱っこ…………」」
テオドラとフランカの顔が超怖い。
門の両サイドに立たせれば悪霊だって逃げ出すかもしれない。
「ワタシは、主の力になりたいと必死に修行を行っていたんだぞ!? ……それなのに」
「テオドラ……悪かったな……」
俺は、ルゥシールのことばかりを考えて、一人で焦って……こいつらのことを蔑ろにしていた。
反省しなければ。
「……ワタシは、必要ないのだろうか?」
「そんなことない! あるはずがない!」
思わず、テオドラに接近して両肩を掴んでしまった。
テオドラが驚いた表情を見せ、肩に力がこもる。体が硬くなっている。
構わず、俺はテオドラの目を見てはっきりと言ってやる。
「俺には、お前が必要だ!」
この数日。特にそのことを痛感した。
テオドラは強くて優しい。
けれど、それよりももっと重要な部分で、俺には欠かすことの出来ない存在になっていたんだ。
接近し過ぎたのだろうか。
テオドラの香りが鼻腔をくすぐる。
……これは、この香りは…………
そして、俺は思わずテオドラを抱きしめていた。
力一杯に。
「あっ、主っ!? ど、どうしたのだ急に!?」
「テオドラ…………俺……、俺な!」
「は、はいっ!」
抱きしめたまま、テオドラの耳元で、素直な気持ちを吐き出す。
「お前のご飯が食べたい!」
「……ご飯?」
だって、あいつら、碌な飯作れないんだもん! いや、あれはもはや飯のカテゴリーからも外れている。炭と生だ。
「お前の飯が食いたいよぉ~!」
切実に!
俺、ここ数日ほとんど飯食ってないからね!
だって、食えないんだもん!
炭と!
生だから!
「ワタシのご飯が…………毎日、毎朝、毎晩……ワタシの手料理が…………『あなた、ご飯にします? ワタシにします? それとも、ワ・タ・シ』…………なんて……あ、ワタシ率が高いか…………ま、よいではないか、よいではないか、些細なことだ…………むふっ」
「テオドラ……ちょっとキモいべ」
「……完全に自分の世界に浸っているわね」
テオドラを抱きしめている俺からは見えないが、トシコとフランカの反応から察するに、人に見せちゃいけない表情をしているのだろう……見ないで置いてやろう。
「分かった、主! 置いて行ったことは水に流そう! そして、今スグにご飯の支度をしよう!」
「いや、今ドラゴンと戦闘中だから」
「では、あのドラゴンを甘辛く煮つけよう!」
「あぁ、うん。俺、ドラゴン食べられないんだ」
「宗教的な問題か?」
「あぁ、じゃあまぁ、それでいいや」
「なら仕方ないな……では、何を作ろうか……」
「……おかしいわね。助っ人が助っ人をする気がないわ」
「完全にご飯のことしか考えてねぇべな」
冷ややかなフランカとトシコの声が聞こえて来る。
まぁ、ほら、テオドラってこういう娘だし。
「……それで、いつまで抱き付いているつもりなのかしら、【搾乳】?」
「そうだべ! いい加減離れるだ!」
フランカとトシコから非難の声が飛ぶ。が……
「無理だ」
そう、無理なのだ。
俺はテオドラから離れたくない。
何故なら……
「テオドラの体からすげぇ美味しそうな匂いがしてるんだよ」
「えっ!?」
声を上げたのはテオドラだった。
「そうだか?」
テオドラの後ろに乗っているトシコが、テオドラの首元に鼻を近付けてクンクンと匂いを嗅ぐ。……何気に、顔が近くてドキドキするんですが?
「ホントだべ! なんかジューシーな匂いがするだ」
「えっ!? えっ!?」
テオドラが狼狽える。
俺とトシコはテオドラにくっつき、鼻をすんすん言わせる。
「……いい匂いとジューシーが結びつかないのだけれど……?」
敬遠気味だったフランカも、テオドラに近付いて鼻を鳴らす。
「あ、あのっ、みんな!? や、やめてくれまいか!?」
テオドラの訴えは棄却され、俺たちはみんなですんすんと匂いを嗅ぐ。
この匂い……これは…………
「…………ハンバーグ」
「そうだべ! ハンバーグの匂いだべ!」
「しかも、ドミグラスソースのハンバーグだ!」
「いやぁぁぁあぁああああっ!」
フランカの言葉で、トシコと俺は解答を得られてすっきりし、テオドラは両腕をバタバタさせて俺たちを引き剥がそうと暴れ始めた。
「ち、違うのだ! これは、そう! ウツされたのだ!」
「ハンバーグば全身に付けて魔界で生活してたと?」
「父だ! 父の匂いなのだ!」
「……あなたの父親、調理されちゃったの?」
「違う! 父は魔界に行き、体臭がハンバーグになっていたのだ!」
「何があったんだよ、お前のオヤジ?」
体臭がハンバーグになるってなんだ……
「とにかく嗅がないでくれまいか!」
「じゃあ、今度ハンバーグを作ってくれ」
「父を思い出すから嫌だ!」
「……だから、お前のオヤジどんなことになってんだよ……?」
理解出来ないことが起こるのが魔界という場所だが……ハンバーグの体臭って…………
『くふっ…………ふふ……ふはははは!』
突然ブルードラゴンが笑い出した。
『面白すぎるだろう、あんたたち』
「ドラゴンがしゃべったぁー!?」
あぁ、うん。そこに驚くのテオドラだけだから。
周りに「ね、見た今の?」みたいな視線向けなくていいから。
「エンペラードラゴン以外にもしゃべるドラゴンがいるのだな!?」とか、今さらな情報いらないから。
ちょっと空気が読めていないテオドラから、自然と体が離れていく。心持ち距離を置きたい気分になったのだ。
『あんたたちと戦うのが嫌になって来たよ』
「じゃあ通してくれ。俺たちもニヒツドラゴンの母親とは争いたくはない」
『そうもいかないんだよ。私は龍族の里が大好きだからね』
「荒らしはしねぇよ。ただ、仲間を助けに行くだけだ」
『それが、見過ごせないのさ』
ダークドラゴンの復活は、龍族にとっての脅威となる。
こいつの場合は、自分よりも娘たちの身を案じているのだろう。
「……聞かせて」
フランカが、ブルードラゴンの目を見て真剣な声で問う。
「……もし、ピッピ……あなたの娘たちがダークドラゴンやゴールドドラゴンになったら…………あなたはそれを、『仕方がない』で諦められる?」
ブルードラゴンの表情が、見て分かるほどはっきりと変わった。
それは、驚愕とも、動揺とも取れる表情で……ブルードラゴンの心の中が騒めいている様がよく表れていた。
『……仕方、ない…………じゃ、ないか。だって、掟だから』
「オラたちはそうは思わねぇだ」
「そうだな。仕方のないことなど、何もない」
トシコとテオドラがブルードラゴンを否定する。
俺はもちろん、フランカも同じ気持ちだろう。
「……世界の平和よりも大切にしたい人がいる。それは、決して悪いことではないわ」
「んだ。少なくとも、娘より秩序を守ろうとするような戯け者よりずぅ~っとマシだべ!」
「自分の心に嘘を吐くのは、もっとも愚かなことだと、ワタシは思うぞ」
『あんたら……』
ブルードラゴンの瞳が優しさを帯びる。
そうだよな。
みんな同じ気持ちなんだよな。
もちろん、ブルードラゴン。お前もな。
ブルードラゴンの目は、言いたいことを言えなかった自分を恥じている目だ。
大切なものを手放してもいいなどと、そんなバカなことを考えてしまった自分を恥じている目だ。
こいつは気付いた。
一度気付けば、二度と間違わない。
大切な人を失う辛さは、世界が滅亡することなんかよりもっとずっと重い。
味わいたくないものだな。もう、二度と
『……しかし、私には、ほかにも仲間が……仲間も大切で……』
「では、こうしようではないか」
煮え切らないブルードラゴンに、テオドラが提案する。
単純で明快な。そんな解決案を。
「ワタシとサシで勝負をして、ワタシが勝てばここを通してくれ」
『私が勝てば?』
「今すぐ引き返し、二度とこの地に足を踏み入れない」
テオドラの声は自信に満ち溢れていた。
確実な勝算があるのだろう。
ただ、ブルードラゴンは強い。
サシで戦って……テオドラに勝機はあるのだろうか?
「主よ、それで構わないかな?」
テオドラが俺に視線を向ける。
テオドラが負ければ、二度とルゥシールには会えない。
その勝負を、自分に預けてくれと、自分を信じてくれと、テオドラは言っているのだ。
俺は…………
「あぁ。いいぞ。俺は、テオドラを信じる」
「……ありがとう、主」
テオドラの柔らかい微笑みを見た瞬間、「これでよかったんだ」と確信した。
負けるヤツは、あんな顔で笑えない。
テオドラは、確実に勝つ。
『いいだろう。その勝負、受けた!』
ブルードラゴンも了承し、俺たちの命運をかけた戦いが始まる。
トシコはフランカの背に移動し、俺は最悪の状況に備えて魔力を少しトシコから貰っておく。
深い谷の真ん中で、テオドラとブルードラゴンが睨み合う。
速度でブルードラゴンを上回るのは難しいだろう。
おまけに、テオドラの武器は剣で、ブルードラゴンは自在に飛ばせるカマイタチだ。リーチの差は大きい。
あれ?
よく見ると、テオドラの腰には二本の剣とカタナがぶら下がっていた。
「オイヴィに鍛え直してもらったワタシの愛刀だ。油断していると命を落とすぞ」
『忠告ありがとう』
静かに言葉をかわし、互いに殺気を放つ。
吹き荒れていた風が止む。
辺りに静けさが広がっていく……
太ももでガーゴイルの胴を挟むように体を固定して、テオドラが二本の剣とカタナを抜く。
現れた刃は洗練された美しさと、内包された凶暴さが織りなす魅惑的な輝きを放っていた。
ポリメニスがいるから、魔石が大量に手に入ったのかもしれない。
二本の剣とカタナは、これまでに見たこともないような気品と狂暴性を併せ持っていた。
「参る」
『来るがいい』
会話は、それで終了した。
動いたのはテオドラだった。
ガーゴイルを前進させ自分は剣とカタナを構える。
ブルードラゴンから無数の風の刃が放出されるが、それを上半身の移動だけで避けていく、
そして、ブルードラゴンへ肉薄すると、テオドラは剣とカタナを交差させ、気合いと共に振り抜いた。
「ルプトゥラ・ドラガオンッ!」
向かってくる風の刃を気迫で弾き飛ばし、テオドラの剣とカタナから鈍色に輝く光が放たれる。
テオドラの必殺技、ドイス・ドラガオンと似ているが、威力がまるで違う。これが修行の成果か。
高速でそれを回避するブルードラゴンだったが……テオドラの放った鈍色の光は逃げるブルードラゴンを追いかけ、やがてその体を捉える。
ガァアッァアアアアアアッ!
ブルードラゴンの全身から鮮血がほとばしる。
断末魔を上げるブルードラゴンは、青い鱗が真っ赤に染まりそして谷底へと落下して行く。
「主、彼女を!」
テオドラが俺に振り返り、ブルードラゴンを助けに行けと言う。
そうだな。幼いニヒツドラゴンには、まだまだ母親が必要だろうからな。
俺はブルードラゴンの後を追い、谷の中を急降下していった。
それにしても、凄まじい威力だ。
それ以上に、斬撃が進行方向を変え、敵を追撃するなんて聞いたことがない。
ブルードラゴンが谷底へ激突する。という寸前のところで俺は追いつき、回復魔法を掛けてやることが出来た。
しかし、飛び立つことが出来なかったのか、ブルードラゴンはそのまま地面へと墜落してしまった。
大きな音が谷に響き、砂埃が舞い上がる。
「おい、大丈夫か!?」
谷底に出来た大きな穴に駆け寄り、中を覗き込む。
「…………あぁ、回復魔法が少しでも遅れていれば危なかったが……なんとか助かったよ」
穴の中にいたのは、おっぱいばい~んで真っ裸の、スゲェ美女だった。
「ありがとうございます!」
「へ? あっ!? きゃあ!」
おのれの姿に気が付いて、ばい~ん美女は体を隠すように蹲る。
俺も慌てて後ろを向く。いや、なんとなく、紳士として。
「なんでなんでなんで!? なんで人間の姿に!?」
「力を、使い果たしたからじゃないのか?」
「いや、だって、私、【ゼーレ】を五つも持ってるんだよ? 魔力切れなんて……」
そこまで言って、ばい~ん美女は口を閉じた。
何があったのかと振り返ってみる。
「こっち見ないで!」
「はいっ!」
怒られた。……ちぇ。
「【ゼーレ】が、反応していない」
「壊れたのか?」
「いや…………まるで、眠っている様だ」
【ゼーレ】が眠る……どういう状況なのだろうか。
「主!」
そうこうしているうちに、テオドラとフランカ、トシコが谷底へと降りてきた。
そして、俺とばい~ん美女の状況を見て、全員一斉にジト目になった。
「…………また、そういう破廉恥な行為を……」
「待て待て! 俺は助けに来ただけだろうが!」
まぁ、「ラッキー」とは思ったけども。
「なぁ、剣士よ」
ばい~ん美女がテオドラに話しかける。
「あんた、私に何をした? ドラゴンの力が一切出せないんだけど?」
「あぁ、それは【ゼーレ】と魔力を切り離したからだろう」
どういうことだ?
確かに、【ゼーレ】と魔力はお互いに干渉しあってドラゴンの力になっているとは聞いていたが。
「これが【ドラゴンスレイヤー】の力なのだ。【ドラゴンスレイヤー】は、ドラゴンの【ゼーレ】を無効化する技を編み出したのだ。今のがそれだ」
ドラゴンの【ゼーレ】を無効化する技。
無敵じゃねぇか。ことドラゴンに関して言えば。
「ちなみに、ダークドラゴンには通用しないらしい」
テオドラは俺を見つめながら言った。
「父が、昔ダークドラゴンと戦ってね。実証済みらしい」
だから、ルゥシールの闇の【ゼーレ】を無効化することは出来ない。
テオドラの目はそう語っていた。
「……では、ゴールドドラゴンやエンペラードラゴンには……」
「おそらく通用しないだろう。これが使えるのは、固体種以外の【ゼーレ】のみらしい」
固体種ってのは、闇や光、無みたいに、強力でその時代に一人ずつしか存在しない【ゼーレ】のことだろう。
それには利かないのか……
「まいった。降参だ。ドラゴンに変身できないのであれば、私に勝機など微塵もない」
ばい~ん美女は素直に負けを認めた。
「では、【ゼーレ】を元に戻そう」
言うなり、テオドラはカタナを抜いてばい~ん美女に斬りかかった。
って、えぇ~!?
「安心しろ。斬れてはいない」
言われて確認すると、ばい~ん美女の肌には傷一つ付いておらず、そこにはふくよかな膨らみと男心をくすぐる曲線がこの世界と調和するように存在し、まるで芸術のような美しさを発揮していた。
「なるほど……ばい~んバリアか」
「……トシコ、【搾乳】の目を塞いで」
「分かっただ!」
おい、バカ、やめろ!
矢をこっちに向けるな!
塞ぎ方が力任せすぎるだろうが!
「【ゼーレ】と魔力の結びつきを阻害していた結界を斬った。これで、自在に【ゼーレ】を使えるはずだ」
テオドラの言葉の直後、谷底に突風が吹き抜けていく。
『本当だ……ドラゴンになれた』
振り返ると、そこには巨大なブルードラゴンがいた。
……あぁ、俺のばい~んが…………
『まったく、おかしな連中だ』
ブルードラゴンは、少し笑いながらそんなことを言う。
『こちらの戦意を削ぐような戦術は初めてだ』
とても優しい眼が俺たちを見下ろしている。
『先に進むといい。その先に、お前たちの大切な人がいるだろう』
「いいのか?」
『勝負に負けたのだ。私に何かを言う資格はないさ。捨てるつもりだった命を拾うことが出来たんだ。感謝したいくらいだよ』
ブルードラゴンはくつくつと笑う。
『これで、もう一度娘たちと暮らせる』
そうか。
こいつは俺たちと戦って死ぬつもりだったんだ。
だから、娘たちをあんな場所に置いてきたのだ。
おそらく、敗北した者の娘として迫害を受けないように、あの子たちを逃がすために。
「なぁ。ニヒツドラゴンたちの本当の名前はなんていうんだ?」
戦いの最中であえてこいつらのことを、俺は覚えておきたいと思った。
『名は、まだない。もう少し大きくなってからつけるつもりだった』
ドラゴンって、そういう風習なんだな。
じゃあ、今はなんて呼んでんだろうな?
『けれど、あんたたちがもうつけてくれたっていうんなら、その名前を貰おうかな』
「……ピッピ」
「タメキチ!」
「……いいのか、こんなので?」
『あぁ。きっとあの子たちも喜ぶだろう』
タメキチはどうかなぁ……
『さぁ、早く迎えに行ってあげな。空を飛べばすぐだよ』
「けど、ドラゴンには魔力を感知する能力とかあるんじゃないのか?」
『そんなものはない』
無いのかよ……
『まぁ、勘は鋭いけどね』
じゃあ、飛行して山を越えた方がよさそうだな。
全員に目配せをすると、準備は出来ているようで、みんな頷いてくれた。
「じゃあ、いよいよ乗り込むぞ。エンペラードラゴンの膝元に!」
拳を振り上げ気勢を上げる。
この勢いのまま一気にルゥシール奪還だ!
と、思ったのだが……
「何か来るぞっ!?」
俺の目に、強力な魔力の反応が飛び込んできた。
はるか上空から、猛スピードで接近してくるヤツがいる。
誰だ……まさか…………エンペラードラゴンかっ!?
全員が空を見上げ、身構える。
緊張が走る。
巨大な魔力を隠そうともせず、脇目もふらずに俺たちのもとへ接近してくる『バケモノ』級の存在。
そいつが、姿を現した。
「こ、こいつは…………っ!?」
ワシの頭と羽に、獅子の体を持つ獣
こいつは……
「誰だっ!?」
そんな俺の声が、谷の中に反響した。
いつもありがとうございます。
テオドラが合流しました。
これで、美味しいご飯が食べられるぞー!
さらに、テオドラは【ドラゴンスレイヤー】の力を手に入れてきました。
ドラゴンの驚異的なパワーの源、【ゼーレ】を無効化する超必殺技です!
HPが3分の1以下になって点滅した状態で必殺ゲージが溜まっていればコマンド入力で発動です!
下手な人だと、画面の端っこの方でチョコチョコ動いたりしゃがんだりした挙句「パワーウェイブ!」で、「だぁ! それじゃねぇ!」って、コントローラー「パシーン!」です。
ちなみに、テオドラの超必殺技、「ルプトゥラ・ドラガオン」は、
【 ←(タメ) → ← → ↓ ← → + 強P+弱P 】です。
防御不可でヒット後はピヨピヨします。
嘘です。
HP満タンでも使える便利な必殺技です。コマンド入力もいりません。
ですので、十字キーで指が擦れて親指に水ぶくれとか出来ません。
親指で思い出しましたけど、
ハンバーグ美味しいですよね。(← さりげない話題誘導)
ハンバーグって、
なぜ、
目玉焼きが乗ってるだけで美味しそうに見えるんでしょうか?
「今日はエビフライ食べるぞ!」とファミレス行ったのに、
メニューの写真でハンバーグに目玉焼きが乗っていたら
「コレください!」って言っちゃう不思議。
誰か、科学的に解明していただきたいものです。
テオドラは、きっと料理にそういう派手な演出はしないんだろうなと思います。
味と栄養が最重要で、
でも彩りに気を使い、
小鉢などを使って品数を増やしたり、
そういう見栄えには気を使って、
というイメージがあります。
テオドラの料理は料亭で出て来るタイプですね。
逆に、
ハンバーグに目玉焼きを乗せてみたり、
オムライスにハートを書いてみたりするのは、
ウルスラかなと思います。
一個一個は美味しいのに、変にこだわり過ぎて毎日食べるのが重くなるみたいな、
そんな気がします。
お茶漬けでさらさらっと済ませたい気分の時にラザニア、みたいな。
悪くはないんだけど、米、食いたいです、みたいな。そんなイメージです。
ルゥシールはカエルです。
トシコは蛇です。
フランカは炭です。
この三人はないです。
上に目玉焼きを乗せられても無理です。
むしろ目玉焼き乗せた方が無理です。
いやぁ~、料理って、奥が深いですね。
次回もよろしくお願いいたします。
とまと