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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
130/150

130話 懐かしい声

 俺は、何故反省しなかったのか……


「お婿はん。どんどん増えとぉよ!」

「だから分かってるって!」


 俺たちは今、切り立った岩山に囲まれた乾いた大地のど真ん中で……ドラゴンに囲まれていた。


 激しくデジャヴッ!


 場所が空から岩場に移っただけだ。


 次元の穴を出た後、偵察に来たと思しきドラゴンを見つけ、そいつを追いかけて行った結果、数百のドラゴンに包囲された。そいつらは返り討ちにしたけどな。

 その中の数頭が自分たちの住処へと逃げ帰っていったので、俺たちはそれを追いかけてきた。そして……数百のドラゴンに包囲されてしまった。


 ……俺のバカ!


 どうして、目の前にいる敵に夢中になっちゃうのかなぁ!?


「俺が夢中になってたら、お前が止めてくれなきゃダメじゃないか!」

「オラ、そういう、『こんとろーる』ばいうヤツはちぃっと苦手だべ。いつもはフランカやルゥシールがやっとることだでなぁ」


 そう。

 今、このパーティーには『しっかり者』がいないのだ!


 致命的だな、おい!


 今回は、空に地面にあらゆるところに、ドラゴンが溢れかえっている。

 深追いは危険だと知りつつも、前回ドラゴンの群れを返り討ちにしたのだから余裕で勝てるだろうとタカをくくっていたのも悪かった。


 敵の本拠地にいるドラゴンは、海上で戦ったヤツ等とは桁違いに強かった。



 ドラゴンの住処は、ブレンドレルをずっと北上したところにある、険しい山を越えた先にあった。

 人間では踏み入れないような厳しい自然環境。

 それが、龍族の繁栄を助けていたのだろう。


 俺が全速で飛ばして三日かかった。かなり遠い。


 ……一度ブレンドレルでフランカ達と合流するべきだったんだろうなぁ。

 でも、なんとなく、逃げたドラゴンを逃がしちゃいけない気がして……


 つうか……

 一秒でも早くルゥシールを助けてやりたくて…………


 いや、それも違うか……



 俺は、ルゥシールに会いたくて焦ってしまったんだ。



 トシコと二人で乗り込んだ龍族の住処は、岩山に囲まれ、外部からの侵入者を拒絶しているような場所だった。

 実際、この地に来てからドラゴン以外の動物を目にしていない。

 鳥でさえも、この厳しい環境の中には飛び込んでこないのだ。


 こんな厳しい環境で育ったからだろうか……

 ここにいるドラゴンはどいつもこいつも厳つい顔をしていた。

 笑顔なんて皆無だ。

 お客様を出迎えるつもりなど微塵もないのだろう。


「礼儀のなっていない店だな! 責任者を呼べ!」

「お婿はん、店でねぇだよ、ここ」


 そんなことは分かってる。

 ついでに、ここの責任者がエンペラードラゴンだってことも知ってる。

 ちょっと言ってみたくなっただけだ。


『丁重に持て成すよう、エンペラードラゴンから仰せつかっている』


 冗談で言ったつもりなのだが、目の前のドラゴンが俺の言葉に返事をくれた。

 翼はなく、他のドラゴンよりも足や胴体が太い。ずっしりとした印象の地龍だ。

 こいつは、目が八つあった。


 ……ん?

 四対?


「お前、【ゼーレ】を四つも持っているのか?」

『ほぅ。流石は我ら龍族の宿敵……もうそんなことまで調べがついていたとは』


 いや、お前らの仲間がベラベラベラベラしゃべってたぞ、自慢げにな。


『未熟なる者どもは、得た力に踊らされ力を使うことを忘れてしまっているが……ここにいる者はみな己を見失わず、種族のために死力を尽くす覚悟のある者たちのみ…………少々、手強いぞ』


 凄味のある声で地龍が言う。

 確かに、軽く攻防を交わしただけで海上の浮かれぽんちどもとはレベルが違うと分かった。

 海上のドラゴンどもは、得た力を惜しみなく全開放していた。


 それに比べ、個々のドラゴンたちは、得た力をきちんと己の物にしている感じがする。

 力の出し方も絶妙だ。過不足なく、先を見越した配分を心得ている。


 何より海上の連中と違うのは、一発一発が非常に重いということだ。


 威力の弱い一斉総射だった海上のドラゴンども。

 一方のこいつらは、エネルギーを一点に集中し、渾身の力で打ち出してくる大砲のような力の使い方をしてくる。

 命中率は下がるが、当たれば与えるダメージは大きい。そんな戦法だ。

 そして、その命中率の低さを完全包囲で補ってきやがった。


 こいつら、厄介だ。


 統率のとれた感じは、以前エンペラードラゴンが率いていたドラゴン軍に近しいものがある。

 追いこまれた今の状況は、結構マズい……


 地の利がない俺たちは、追い立てられるがままに岩場の奥へ奥へと逃げてきた。

 その結果、岩山に囲まれたこの場所へとたどり着いた……いや、誘き出されたのだ。


『我ら龍族の宿敵よ。そなたらに勝ち目はない。戦えば、エンペラードラゴンが出るまでもなく、そなたらはここで散り行くことになるだろう。大人しく退く気はないか?』


 その言葉には、正直驚いた。

 俺たちを見逃すというのだ。

 逃げたければ逃げろと。


 ただし、ルゥシールには近付くなという条件が付くのだろうが……


「連れを取り戻したら、すぐにでも帰ってやるよ、こんなとこ」

『ダークドラゴンは渡せぬよ』

「じゃあ、交渉決裂だな」

『致し方なし、か……』


 地龍は低く唸り、澄んだ瞳を覆うように瞼を閉じた。

 再び瞼が開かれた時、地龍の目は真っ赤に燃え上がっていた。


『では、排除する』


 怒号のような咆哮が轟く。

 空気が凶器になったように、俺たちの全身にビリビリと衝撃を伝えて来る。

 空気が無くなってしまったのかと錯覚するほどに息が詰まる。息苦しい。

 地龍の気迫に充てられて、全身の毛穴が開き、汗が滲み出す。


 咆哮一つで全身に鳥肌が立ってしまった。

 凄まじいな、強化ドラゴンは。


 けど、まぁ……

 攻略法は全く同じだ。

 こいつらの【ゼーレ】は魔力に大きく影響を受けている。

 魔力がなくなれば【ゼーレ】もその機能を停止してしまうのだ。


「マーヴィン・エレエレで一掃してやるぜ!」

『マーヴィン・エレエレは、こちらの魔力を奪い取る技であるな。魔法とはまた違う、我らが宿敵独自の技だ』


 詳しいな、おい!?

 こいつ、いつそんな情報を……


 海上で戦ったドラゴンから情報が流れたのだろう。

 こういう、冷静な奴は敵に回すと非常に面倒くさい。


 さっさと潰しておくか。

 こいつがエンペラードラゴンの補佐についたら、非常にやり難そうだからな。


「んじゃま、さっさと始末させてもらうぜ!」


 俺は両手を広げ、地龍に向けて突き出した。

 さぁ、魔力を寄越せ!


 ……が。


「…………あれ?」

「どがんしたと、お婿はん?」

「魔力が…………流れ込んでこない」


 俺の手には、一切魔力が流れ込んでこなかった。

 地龍のヤツ、何か結界でも張ってやがるなと、他のドラゴンへ手を向けるも、結果は同じ。魔力は、奪えなかった。


「……どういうことだ?」

『無駄だ。我ら崇高なる龍族が、一度舐めた苦汁を二度舐めることはない。敗因は解析され、即座に対抗策が打ち出されるのだ』


 対抗策だと?


 グッと目を凝らしてみると、地龍の体表面に薄く魔力の層が出来ているの7が分かった。

 薄く膜を張っているように、その場にいるドラゴン全員が魔力を纏っていた。

 ……これは一体?


『これは、エンペラードラゴンより授かった無の【ゼーレ】の力なり』


 無の【ゼーレ】の力?


『ダークドラゴンをも封印してしまう強力な結界だ。貴様のマーヴィン・エレエレを防ぐことなど他愛もない』


 無の【ゼーレ】の結界ってことは、俺が以前喰らった、あのやる気を根こそぎ持っていかれる様な結界か……こいつらが纏っている結界は、そういう悪影響は出ていないようだが。


『さぁ、どうする。我ら龍族の宿敵よ……そなたの切り札、マーヴィン・エレエレは封じられたぞ。マーヴィン・エレエレなしで、この数の龍族とどう戦う? くっくっくっ……』


 確かに、ちょっとヤバいかもしれないな。


「お婿はん……」


 魔力の枯渇をどう防ぐかを考え始めた俺に、トシコが声を潜めて話しかけて来る。


「あの地龍……」


 真剣な声音が、俺の耳に届く。

 何か気付いたことでもあるのかと、俺は耳をそばだててトシコの言葉を待った。


「凄か真面目ん顔で『マーヴィン・エレエレ』ち言いよるの、なんや、見てて滑稽だでな」

「お前、真面目にやれよ!」


 数百のドラゴンに囲まれ、俺は切り札まで抑えられたのだ、ふざけていられる状況ではない。


「ほだら、ここはオラが引き受けるだ」


 言うなり、トシコは矢を弓に番える。

 背筋が伸び、美しい姿勢で弦を引く。

 瞬間、トシコの全身から殺気が溢れだし、ドラゴンどもが一斉に威嚇の咆哮を上げる。



 ガァァァァァァァアアアアアアッ!



 短い音を上げ弦が弾かれる。

 一度に数十もの矢が放たれ、各々が狙い定めたように獲物へと接近していく。

 まるで生き物のように唸りをあげる矢がドラゴンどもへ襲い掛かる。


 危機を察した数頭は大空へと羽ばたき難を逃れたが、逃げ遅れたドラゴンどもはトシコの矢に貫かれ、悲鳴を上げて地面へと墜落した。                                                                                                                                                                                                                                                           

 数頭いる翼の無いドラゴンも足や肩を貫かれのたうち回っている。


「オラが矢でドラゴンば射ぬいていくだで、お婿はんはオラのことさ、しっかり守ってくんろ。さながら騎士様のように」


 騎士に守られる姫を想像でもしているのか、トシコはうっとりとした表情を見せる。

 こいつ、ホント余裕だよな……


『素晴らしい力だ、エルフの娘よ』


 地龍が素直に称賛の言葉を贈る。

 その顔に、余裕の笑みが浮かべて。


『だが、弓だけでは我ら崇高なる龍族には勝てぬよ……』


 地龍が突然土の中へと潜り込んだ。

 本当に一瞬の出来事だった。

 まるで、溶けてなくなったかのように地面へと潜り込んでしまったのだ。


 と、思った瞬間、トシコの足元から地龍が現れた。

 大きく口を開き、鋭い牙をギラつかせてトシコをかみ砕こうとする。


 間一髪、野生の勘でその奇襲をかわしたトシコだが、完全に姿勢を崩されてしまった。

 射るまでにある程度時間のかかってしまう弓は、この地龍相手には少し不利だ。


「トシコ! こい!」

「はいなっ!」


 トシコの手を取り、地面すれすれの低い位置を高速で飛ぶ。

 一度退いて体勢を立て直すのだ。

 接近戦はトシコには不利だ!


 しかし、移動を開始した直後、上空から大砲のように重みのある強烈なブレスが無数降って来る。

 あぁ、もう、煩わしい!


「ダメだべ! こがん仰山一気に来られたら、オラ一人では太刀打ち出来んだよ!」


 流石のトシコも、この猛攻には音を上げる。

 やつらは、統率が恐ろしいほどとれており、ドラゴンからの攻撃には隙が無い。

 その上で、逃がさないように俺たちの逃げ道を塞いできやがる。


 そうこうしているうちにも、俺の体内に蓄えた魔力がどんどん少なくなっていく。

 これらすべてがやつらの思惑通りなのだとしたら、ちょっとマズい。

 俺の魔力が尽きれば、俺たちは逃げることすら出来なくなってしまうのだ。

 魔力がなくなれば魔法は使えない。

 トシコの弓も封じられている。


 俺の魔力の枯渇は即、敗北を意味する。


 どうにかしなければ……

 しかし、どうにかって、何をどうすれば…………


 考えがまとまらない。


 トシコの魔力を貰うか?

 いや、違う。

 考えるべきは、魔力の供給源ではなくこの状況を打破する方法。

 魔力をトシコから貰ったとして、一時的な気休めにしかならない。

 無の【ゼーレ】を全身に纏ったこのドラゴンたちに、果たして魔法が通じるのかも怪しい。

 完全に防がれることがなかったとしても、威力は落ちてしまうだろう。

 これだけの数だ。一気に減らさないとこちらが押し切られてしまう。


 空を旋回し、俺の行動を監視するドラゴン。

 いくつかの部隊に分かれ、溜め、放出、退避を繰り返す連中がいる。そうすることで、唯一の弱点「攻撃後の空き」をカバーし補っているのだ。

 そして、足元には翼のないドラゴン。こいつらは、俺の意識が上空に向くタイミングで突進してきやがる。

 魔法攻撃の合間に繰り出される物理攻撃は、実に厄介だ。

 対魔法結界を張ったところで、ドラゴンの突撃には耐えられない。


 二重三重に、俺たちを追い詰める作戦だ。

 参った、付け入る隙が無い。


『我ら龍族の宿敵よ! この地で眠りに就き、永遠の平穏を手にするがよい!』


 眠りに就けば、そこから先はずっと平穏だろうな。

 何も感じることもないだろうしな。


 ふざけるなよ。


「テメェらの思い通りになんかなってやるかよ!」


 俺はルゥシールを連れて帰るんだ。

 トシコだって、こんなところで死なせはしない。


「俺は、俺が欲しいと思ったものは全部手に入れるし、やりたいと思ったことは全部やらなきゃ気が済まないんだよ! テメェらなんかに邪魔はさせねぇ!」

『欲深き人間め……』


 地龍が地面へと沈んでいく。


『我ら崇高なる龍族が、欲にまみれた貴様ら人間に引導を渡してくれる!』


 次の瞬間、地龍は俺の眼前にその姿を現した。

 大きな口を開き、鋭い牙をぎらつかせて…………俺の喉に喰らいつこうと迫って来る。


 このデカい口にキスすれば、魔力が奪えるだろうか?


 そんなことを考えた時だった。

 空が急に暗くなり、轟音と共に稲光が走った。


『ガァァァアアッ!』


 俺に接近していた地龍が悲鳴を上げ、そのまま地面へと逃げ込む。


 ……なんだ?

 何が起こった?


 思考が追い付かない俺の脳に、随分と懐かしい声が聞こえて来る。


「……まったく」


 その呟きは、懐かしさと共に安堵を俺にもたらしてくれた。

 思わず笑みがこぼれる。


 声のした方向へ視線を向けると、そこには白い翼を生やした、見慣れた顔があった。


「フランカ」

「……私がいないと危なっかしいんだから、【搾乳】は」


 なんで翼が生えているのかは分からんが、それは紛れもなくフランカだった。

 上空を旋回するドラゴンどものさらに上。

 誰よりも高いところから世界を見下ろすように、黒いシスターが浮かんでいる。


「……そこら辺にいるドラゴンども、よく聞きなさい」


 フランカは、自分の下にいるドラゴンを手で指示して、静かに言葉を投げる。


「……邪魔。どきなさい」


 不遜に。

 慇懃無礼に。

 平坦な声で。


 いつものフランカ、そのままに。



 ガァァァァァァァアアアアアアッ!



 数頭のドラゴンが威嚇の咆哮を上げる。

 しかし、フランカは意に介さない様子で、実にマイペースに下降を始める。

 ドラゴンの群の中へ、無防備な少女がゆっくりと突入していく。


 フランカが下降を始めると、ドラゴンが次々とフランカに襲い掛かる。

 が、そのドラゴンたちは地上から放たれた矢によって体を射貫かれ墜落していく。


「オラに背中ば見せるち、よほど余裕があるようやねぇ」


 トシコが嬉々として弓を構えている。

 波状攻撃さえ止めば、トシコはどこからでも矢を放つのだ。


 そして俺も……


「動揺している暇はねぇぞ! 喰らえ、マーヴィン・エレファント!」


 しかし、飛行しながら散々逃げ回ったせいで俺の中の魔力は尽きていた。

 手を翳し、必殺技を叫んだだけで、何も起こらなかった。

 まるで、使えもしない魔法を使おうとしたイタイ子の様だ。

 しかも、それを意図せぬ相手に目撃されたような恥ずかしさがこみあげて来る。


「……今のは、なに?」

「冷静に聞かないでっ!」


 ススーッと俺の目の前まで移動してきたフランカが真顔で尋ねてくる。

 耳まで真っ赤なんだから察してくれ!


「……エレファント?」

「どこまで追い込めば満足するのっ!?」


 おのれ、フランカめ。ここぞとばかりに……


「……【搾乳】」

「なんだよ!?」

「…………お待たせ」


 不意に零れたフランカの笑みはまるで天使の様で……思わず見惚れてしまった。


「…………なに?」

「いや……」


 いやいや……この真っ黒シスターが天使に見えるとか、俺も疲れてんのかな?


「……それはそうと、【搾乳】…………ど、どう、かしら?」

「どう、って?」

「……あの……何か、気が付かない? 変わったところとか……そういうの」


 言いながら、フランカはもぞもぞと体を揺する。

 肩を揺らしたり、背中をチラチラ見せたりしている。

 変わったところ………………


 俺の視線は、真っ先に胸へと向かい、そこで停止した。


「相変わらずだな」

「…………何の話かしら? 言えるものなら言ってみて?」


 ん。言わないけどね。

 相変わらずストーンだなぁって。


「二人とも、なぁに悠長に話こんどるだ!? オラ一人では無理があるだで…………おんや、フランカ。綺麗か翼やね。真っ白で天使みたいだべな。そういうのも似合うがよ」

「………………トシコ、何故あなたが全部言っちゃうの?」

「ん? あぁ、そうだな。トシコの言う通りだ」

「……ほら! 【搾乳】はこういうところで横着する男なのよ!? これで二度とこの話題には触れなくなったのよ!? なんてことをしてくれたの!?」

「オ、オラ、なんか悪いこと言っただか?」

「…………別に」


 フランカの背中からどす黒いオーラが立ち昇る。

 さっき天使に見えたのはやっぱり見間違いだったようだ……このオーラは悪魔か魔王……百歩譲っても堕天使のものだ。


 さすが、世界一黒が似合う女。


 と、フランカの前にドラゴンが急接近し、大きく口を開く。

 喉の奥から鮮烈に紅い炎のブレスが吐き出される。


 至近距離で浴びせかけられた炎のブレス。

 普通ならば回避は不可能。防御も間に合わないだろう。


 しかし、フランカはそれを凌いで見せた。

 一瞬で結界を張った。それも、強力なブレスを完全に防ぐような強度の結界をだ。


 こいつ、ついに無詠唱をマスターしたのか!?


「……詠唱はしているわ。少し、途方もなく速いだけよ」


 途方もない速度は「少し」とは言わねぇよ。


「お前は、どんどん凄くなっていくな」


 無詠唱や複数魔法の使用など、俺のアドバンテージだったものが、次々に追いつかれていく。

 フランカは、最早疑う余地もなく最高位の魔導士だ。


「……あなたの隣にいるには、これくらいでなければいけないのよ」

「そんなことねぇだろ」

「……あるわ。ルゥシールもテオドラもトシコも……みんな、手強いもの」


 なに、戦う気なの?

 仲良くしろよ?


「そんなこと言いながら、なんだかんだずっと一緒に居そうな気がするんだけどな、お前らとは」

「……ホント!?」


 凄い勢いで食いつきてきた。


「あ、あぁ。今のとこ、離れる理由もないし……一緒にいると、楽しいし?」

「………………そう」


 ぼそりと呟いて、乗り出していた体を引いていく。

 やや俯き、もじもじと絡めて遊ばせている指を見つめるフランカ。

 その頬が微かにほころぶ。


「……………………そう」


 今度の呟きは、少しだけ、嬉しそうに聞こえた。


 で……その間、フランカの向こうではドラゴンが轟々とブレスを浴びせかけ続けていたわけだけど…………気も座ってるなぁ、フランカは。


 俺たちが会話をしている間、ドラゴンたちはトシコが牽制してくれていた。


「終わっただか? 早ぅ手伝ってくんろ!」

「あぁ、悪い悪い」


 少し拗ねたような口調でトシコが言う。

 俺も加勢しなければ。


 なのだが、フランカはいまだにもじもじと指を絡めて何かを考え込んでいる。


「…………んふふふふふ」


 薄く弧を描く口から、聞くと呪われそうな笑いが漏れていく。

 怖い怖い!

 向こうのドラゴン込みで、なんか怖いって!


『おのれっ! 人間の分際で!』

「……はぁ。…………うるさい…………」


 炎のブレスを吐いていたドラゴンが、フランカ目掛けてその牙を剝く。

 ブレスは諦めて直接攻撃に移ったらしい。


 鋭い牙がフランカに迫る……が。

 そのドラゴンを、フランカは凄く冷たい目で睨み付ける。


「……邪魔しないで」


 呟いた直後、ドラゴンが氷漬けにされた。

 ……いつ詠唱したのか、まるで分らなかった。魔法陣も展開してないし。

 マジで……今勝負したら負けるかも……? いや、流石にそれはないか。ないない。……たぶん。


『何をしているのだ!?』


 少し離れたところで怒声が飛んだ。

 見ると、怒鳴っていたのはアノ地龍だった。


『我らは、選ばれた精鋭なのだぞ! 人間が一人増えたくらいで取り乱すな!』


 目を血走らせて怒鳴り散らしている。

 先ほどまでの余裕ある対応とは程遠い姿だ。


『連携を取れ! 畳みかけろ! 一人残らず、生きて返すな!』


 地龍が叫ぶと同時に、ドラゴンどもが隊列を組み、一斉に威嚇の咆哮を上げる。


「……【搾乳】、こちらも連携を」

「んだな! お婿はん、指示を出してくれろ!」


 フランカとトシコが俺を見つめる。

 指示、か…………


「よし、お前ら! なんかいい感じにやってくれ!」

「……いい感じに?」

「ザックリした指示だべなぁ……」

「あ、あれ? ダメか?」

「……いいえ。了解よ」

「んだな。なんかお婿はんらしくて逆によぅ理解出来たわな。任せるだ!」


 こちらも臨戦態勢を取る。

 戦闘の再開はすぐだった。


 上空を飛ぶドラゴンがブレスを吐き、地を這うドラゴンが突撃してくる。


「……トシコは上をお願い」

「はいな!」


 フランカが両手を広げると、こちらに向かって突進してきていたドラゴンの上に、次々とイナヅマが炸裂していく。

 世界が裂けるのではないかと思う様な爆音を轟かせ、凶悪なまでに強烈な魔法がドラゴンを蹂躙していく。


 そして、空に浮かぶものはすべてトシコの恰好の的になっていた。

 どこへ逃げようが、回避しようが、トシコの放った矢は確実にドラゴンを捉え次々と撃ち落としていく。


 …………ん?

 俺、いらない子?


 まるで出番がない。

 魔力もないし、仕方ないのだが…………今ここで二人のおっぱい揉んだら物凄く怒られるんだろうな……魔力欲しいだけなんだけど…………ダメなんだろうなぁ…………ちょっと突くだけなら…………ダメなんだろなぁ……


 と、暇を持て余していた俺は、あることに気が付いた。


 フランカのイナヅマに撃たれたドラゴンの表面を覆う魔力にムラが出来ていたのだ。

 これは…………無の結界が剥がれている?

 外部からの攻撃には耐えられないのか?

 そう思って空を見上げると、何本も矢を受けたドラゴンが落ちることなく必死に空に浮かんでいた。

 トシコの矢が刺さった部分の結界は破壊され、やはり魔力にムラが出来ていた。

 ちょうど、魔力という布に穴が開いているような感じだ。


 穴が開いているのなら……


 俺は両腕を広げ、声高らかにその名を叫んだ。


「マーヴィン・エレエレッ!」


 すると、広げた両手に魔力が集まり始めたのだ。

 予想どおり、無の結界のほころびからドラゴンどもの魔力が漏れ出ていたのだ。


 これで、俺、大活躍できる!


 フランカが広範囲を抑え、取り逃した標的をトシコが正確に射貫いていく。

 そして、俺はそんな二人の背に守られて、事態の収拾に乗り出す。


 なんだか、作戦通り『なんかいい感じ』になってんじゃねぇか。

 流石だな、俺たち。


 二人では苦戦したが、三人になった途端に形勢が逆転した。

 仲間って、いいもんだな。


 そうして、俺はその場にいたドラゴンが全員動けなくなるまで魔力を奪い取ってやった。



 そう!

 俺は、大活躍したのだった!








いつもありがとうございます。



最初は敵の、それも後方援護でしかなかったフランカですが……


ここまで強くなりました。



初登場時のフランカなんて、ドラクエⅢでいうところの『カンダタ子分B』みたいな素材でしたのに……

(子分Aは、当然胸の差でジェナです)


それが、仲間になってからは魔法を軸に好戦を繰り返し、

最初の「え~、こいつが仲間?」みたいな空気を払拭するほどキャラを発揮し、

そして、一度仲間から離れることで「あ、あいつがいないと結構不便かも!?」と思わせ、

そしてパワーアップをしてからの再登場!

満を持しての再登場です!



お前はカブキ団十郎かっ!?



…………あれ?

なんでしょう、この、イマイチ伝わってない感は?

1992年発売の、超ド級名作RPG天外魔境Ⅱ卍MARUですよ?

私の最も好きなRPGです。


そうそう。

カブキが抜けた後、極楽太郎と二人旅になった時の、

「回復まで全部俺の仕事かよ、つか、微妙に使いにくいんだよなぁ、いや、強いよ? 強いのは分かるんだけどさぁ」みたいな感じも、ご主人さんとトシコの二人旅とどことなくリンクする部分がありますよね!




……何故だろう、イマイチ伝わっている感じがしない。






というわけで!( ← 閑話休題と同義)


複数の【ゼーレ】をうまく使用している地龍に苦戦しかけましたが、

フランカと合流したことで状況が好転しました。


やっぱり必要ですよね『しっかり者』!


私も、そばにいてほしいです、『しっかり者』に。

そうすれば、変な時間に寝ちゃって、ハッと目覚めた時に、

夜の7時なんだか朝の7時なんだか分からなくて、

「えっ!? 遅刻!?」ってパニくって寝室を飛び出して、

「……あ、暗い…………夜だ」みたいなこともなくなるはずですし。


あと、休日に飛び起きて、

「ヤバい、寝過ごした!?」

って寝室飛び出して、歯を磨いてる段階で、

「あ、今日休みじゃん」ってなって、

よくよく時計を見てみたら早朝6時で、

寝過ごしてすらいない、とかね。


そういうのも、無くなると思うんです、『しっかり者』が傍にいてくれさえすれば。

しっかり者の美幼女がいたら、是非一緒に生活したい所ですね




え?


いえいえ、

今、注目すべきは『しっかり者』の方ですよ?

別に美幼女と一緒に暮らしたいとか、そういうことではないですよ?

やましいことなど何一つない、健全な発想に基づく妄想です。

ですので、東京都の職員のみなさん、スタンバイしなくて大丈夫です。全然で大丈夫ですので。






次回もよろしくお願いいたします。


とまと

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