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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
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128話 王家の者たち

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 宰相ゲイブマンの謀反から三ヶ月。

 バスコ・トロイやポリメニスという男の働きもあり、王都は一応の平穏を迎えていた。


 このポリメニスという男、おにぃたん様の話では王家の血を引く者らしいのだが……胡散臭い。


「あれぇ? ウルスラさん、なんだか目が怖いですよぉ? 私の顔に何か恨みでもあるんですか?」

「……別に」


 どうにもふにゃふにゃして頼りない。

 二代目国王サヴァス様の兄上の血筋らしいのだが……

 歴史上、不幸な事故で亡くなったとされる王族の末裔…………胡散臭い。


 そのような作り話をでっち上げて王族に取り入ろうとする輩はこれまでも多数いた。

 そうやすやすと信用するわけにはいかん。


 だいたい、王族であるならば、もっと気品や風格といったものがあるはずだ。

 この男のようにふにゃふにゃした頼りない男が王族などと……


 ……………………現王族に一人、とんでもない変態がいるので否定し辛い……


 現在はサポートに徹しているポリメニスだが、おにぃたん様たちが戻り次第王位を継ぐのだという。

 これは現王女である陛下が決定されたことで、私には意見をする権利すらない。


 ……そもそも、陛下も陛下だ。

 なぜこんな男に王位を…………いや、おにぃたん様も言っていたが、確かに陛下は王位を手放した方が幸せになれるだろう。それは分かっている。

 でも、だからといって、こんなふにゃふにゃした男に……


「ふにゃメニス……」

「どうしてこの国の人は、人の名前を正確に言えないのかなぁ?」


 ふん。貴様などふにゃメニスで十分だ。


「あ、そうだ。ウルスラさん。ちょっと陛下に伝言をお願いしたいのですが?」

「自分で行って来い」

「……いえ、私は『これ』の最終調整が残ってますので。そろそろ、期限も迫っていますし」


 ふにゃメニスは現在、王城最上部の砲台の間にて、砲台に細工をしている。

 ……王家が受け継いできた国宝を汚い手で触りまくって…………血が出ない程度にチクチクさしてやろうか?


「あの……レイピアに手をかけるのはやめてもらえるかな?」


 あぁ、いかん。つい無意識で……


「ウルスラさんも、陛下の傍にいたいでしょ? 私の傍にいても楽しくないよ?」

「貴様がおかしなことをしでかさないか、監視しているだけだ。気にするな」

「気になるよぉ……」


 そして、この男が本当に王位を継ぐに値する者かを見極めているのだ。

 もし、不適合だと判断した場合は…………私のレイピアで闇に葬ってくれる。

 そうすば、陛下が続投することになる。


 この国の平和のためにも、私はこの男から目を離すわけにはいかないのだ。


「そんなに見られてると、仕事がしにくいんだけどなぁ……」

「それで、陛下への伝言とはなんだ?」

「あ、言ってくれるの?」

「内容による。言え」

「……もうちょっと優しくしてくれても、罰は当たらないと思うんだけどなぁ」


 ふにゃメニスは汚れた手を乾いたタオルで拭い、洗浄液で洗ってから更に別の綺麗な布で拭い、最後に消毒液を振りかけて揉み洗った。……潔癖症か、貴様は。


「フランカさんにお貸しした【魔界獣】の反応が魔界から出てきたので、そろそろ事態が動き出したと思うんですよね。もっとも、陛下なら、もう気が付いているかもしれませんが、念のため報告をしておいた方がいいんじゃないかと……」


 そんなことを言いながら、ふにゃメニスは大きなカバンをガサゴソと漁っている。


「もし、おにぃたん様たちが魔界から戻って来たのであれば、陛下の『眼』でその動向はすべて把握されているはずだ。わざわざ言う必要はない」

「そうなんですけど、念のためというやつですよ。あと、魔力の供給の協力もお願いしておきたいですし」

「それこそ、貴様が直接赴くべきだ。その頭を地につけ、陛下に助力を仰ぐがいい」

「私は忙しいんですって。ウルスラさん、暇でしょ?」

「私も仕事中だ。貴様の監視というな」

「そこを何とか」

「くどい!」


 私が突っぱねると、ふにゃメニスは「う~ん、困ったなぁ」などと漏らし、鞄の中から一冊のノートを取り出す。とても貴重なものを慎重に扱うように、丁寧に取り扱う。

 そして、おもむろにそのノートを開き、中に書かれた文章を読み上げる。


「『恋はいつでもロンリネス』」

「ってぇ! 貴様が、何故私のマイポエムノートを持っている!?」

「マーヴィン君が、イザと言う時のためにと託してくれました」

「きちんとしまったはずだぞ、私は!?」

「やだなぁ。……彼は、相手が一番嫌がることを率先して、しかも平気な顔でやってのける男ですよ?」

「…………あの変態……今度会ったらぶっ飛ばす……」


 油断した……

 あの男が城内にいる間だけでも、もっと警備を厳重にしておくべきだったのだ…………


「あ、このポエム好きだなぁ。『ゆらゆら揺れるヤジロベー。私に向かってアッカンベー』」

「読むなっ!」

「では、伝言を……」

「わかった! 行ってくる! 伝言でもなんでもしてきてやるから、そのマイポエムノートを返せ!」

「あ、これ、複製版ですが構いませんか?」

「何故増やした!?」

「後世のために」

「なるか、こんなもんっ!」


 これはあくまで私の趣味だ。

 後世に残す気など微塵もない!


「では、任務を無事完遂された暁には、原本の返却を前向きに検討いたしましょう」

「絶対だぞ! その言葉、忘れるなよ!」


 仕方なく、私は砲台の間を後にする。

 ふにゃメニスめ……

 私は絶対にヤツを信用しない。しないったら、しないからな!


 私は激しい憤りを覚えつつ、陛下の自室へと向かった。







 尖塔の最上階に位置する陛下の自室にて、陛下は微かにほほ笑んでいた。

 瞼を閉じたまま、窓の外を眺めている。


「陛下……」

「ウルスラさん。おにぃたんが魔界から戻ってきましたですよ」


 私がふにゃメニスからの伝言を伝える前に、同じことを言われてしまった。

 やはり、陛下はすべてお見通しなのだ。


「…………どういうわけか、あの訛り丸出しの田舎者エルフをお姫様抱っこしているように見えたのですが……きっと『眼』の錯覚ですよね? うふふふ……」


 はたして、『眼』に錯覚など有り得るのだろうか……

 …………何をやっているのだ、おにぃたん様!?

 陛下の機嫌が荒れると、城内は蜂の巣をつついたような恐慌状態に陥るのだぞ!?


 なんとか、陛下の気を紛らわせなければ……


「陛下。ふにゃメニス……いえ、ポリメニスが魔力の供給を要請しております。いかがなさいますか?」

「それはもちろん喜んで協力しますですが……ウルスラさん」

「はい?」

「次期国王にたいして、そのような口の利き方はどうかと思うですよ?」

「構いませんよ、あんなふにゃふにゃ男。意思の疎通をしてもらっていることだけでも感謝してもらいたいくらいです」


 思い出しただけでもムカムカする。

 きっとそのイライラが顔に出てしまったのだろう。陛下は目を丸くして私の顔をジッと見つめてきた。


「喧嘩でもしたですか? いつもはあんなに仲がいいですのに」

「はぁあっ!?」


 陛下に対し、無礼な声を発してしまった。

 陛下が驚いて若干退いている……


「し、失礼しました!」

「い、いえ。ちょっとビックリしただけですので」

「あの、私とふにゃメニスが仲良く見えるのですか?」

「ふにゃメニス?」

「あの男の名前です。ポリメニスなんて立派な名前はもったいないので、私が命名しました」

「あぁ。二人だけの愛称というやつですね」


 違う! 

 なんだか、ニュアンスが全然違う!


「あ、あのですね、陛下! 私とあいつは、全然そういう感じではなくて……」

「そうなのですか?」

「そうですとも!」

「でも、ポリメニス様は、きっとウルスラさんのことを憎からず思っておいでだと思いますよ?」

「っ!? ……………………うそ、ですよね?」

「私の目にはそう見えるというだけのことですけれど……あ、『眼』ではなく、普通の目ですけども」


 そんな風に……見えるのだろうか?

 ふにゃメ…………いや、ポリメニスが……私を?


 言われてみれば、あいつはいつも私に甘えてきて、何かというと頼みごとをしてきたり……あれは、そういう感情の表れだったというのか?


「――っ!?」


 突然、顔中の血管が膨張し、熱を帯び始めた。

 鼻の奥に激しい圧迫感を覚え、少し息が詰まる。


 まさか……そんな…………いや、でも…………しかし…………


 ふと、ポリメニスのふにゃけた顔が脳裏に浮かぶ。

 ………………まぁ、悪くはない顔をしている。

 おにぃたん様に、ちょっと似ているし…………い、いや! 別に私はおにぃたん様のことなどどうとも…………思ってない…………わけでは、ないが………………


 …………いや。

 私は、おにぃたん様に惹かれている。

 認めたくはないが、認めざるを得ない。

 どうしても、彼の無事を祈らずにはいられないのだ。

 こんな気持ちは初めてで……これはきっと、巷で言われる『恋』という感情に違いないのだ。


 だから、ポリメニスには悪いが……私は………………


「ウルスラさんは、ポリメニス様のことをどう思っているですか?」

「私は…………」

「『おにぃたんを狙うよりも確実に可能性は高いと思うですけれど』、それを踏まえたうえで、どう思っているですか?」


 …………あ、圧力キターーーっ!?


 凄まじい圧力だ。

 ここでちらりでも『おにぃたん様に惹かれている』旨の発言をしようものなら…………私は明日の旭を拝めないかもしれない……


「おにぃたんは、ウルスラさんの手には負えないレベルの変態さんですし……」


 遠まわしに「諦めろ」と言われている気がする。


「胸の無いウルスラさんには手に余るです……」

「陛下、前後の文が繋がっていませんよ!? 後半はただの悪口です!」

「その点、ポリメニスさんはきっとつるぺたマニアです! アレはそういう顔です!」

「その発言は、私とポリメニスに失礼ですよ! あと、次期国王に対する敬意はどこ行ったんですか!?」


 陛下のボルテージが上がっている。

 おにぃたん様が帰還して、テンションが上がっているのかもしれない。


「私は、王女の地位を退いたのち、ウルスラさんともう一度、ただの幼馴染に戻りたいと思っているです」


 不意に、陛下がそんなことを言った。

 幼いころ、城の中庭で見せていた純真無垢な柔らかい笑顔で。

 未来のことなど何も考えていなかった、ただただ楽しいだけの毎日を過ごしていた、あの頃の笑顔で。


「私より一つ年上で、頼りになって、優しくて……ウルスラさんは、私の憧れの女性だったんですよ」

「ぅええっ!?」


 驚愕の事実だ。

 そんなこと、思いもよらなかった。

 陛下が、私を…………?


「あの頃のように、何にもとらわれず、おにぃたんも一緒に……三人で、お庭でお昼寝などをしたり……そんなことが出来ればいいなと、思っているです」


 それは、王女である陛下には絶対許されない行為。

 これまで、陛下がずっと我慢をしてきた、何気ない、『たいくつ』を満喫する行為。


 そんなものを、陛下は欲しがっているのだ。


 私に出来る事なら、どんなことでも協力したい。

 素直に、そう思った。


「なので、おにぃたんにちょっかいを出さないでほしいです」

「………………」


 ド直球で釘を刺された。

 ……陛下。


 倫理的にそれはアウトです。


「ウルスラさん」

「……なんでしょうか?」

「王女でなくなりさえすれば、兄妹での結婚はありですよね?」

「いや、無しですよ」

「では、おにぃたんには偽装結婚をしてもらう必要が……」

「めげませんね、陛下!?」


 彼女は、ここまでたくましい娘だっただろうか?


 幼き日に、私の後を付いて回っていた純真無垢な少女の面影が急激に薄れていく気がした。



 陛下が陛下でなくなったら……私がもう一度教育してあげよう。そうしよう。



「では、つるぺたヤロウ……もとい、ポリメニスさんのもとへ向かいましょうか」

「陛下。何気にポリメニスのこと嫌いですか?」

「いいえ。特に何の感情もわいてきませんですね。いてもいなくても構いませんが、まぁ、利用できそうなのでマクロな視点では好きですよ」


 ポリメニスが少しだけ、不憫に思えてきた。

 ……私くらいは、優しく接してやろうかな…………


「それでは、そろそろ行きましょう」

「そうですね」


 私は、陛下を先導するように砲台の間へと向かった。

 龍族との決戦に置いて、私たちには私たちの仕事があるのだ。

 おにぃたん様たちの勝利を、より確実なものにするために。







 砲台の間に戻ると、ポリメニスとバスコ・トロイが真剣な表情で話し込んでいた。

 しかし、陛下に気が付くと、すぐに二人とも姿勢を正し、敬礼をもって出迎える。


「ポリメニスさん、バスコおじ様。楽にしてください。これからは作戦を共に行う仲間ではありませんか」

「かしこまりました」

「陛下がそう仰るのであれば」


 ポリメニスは飄々と、バスコ・トロイは堅苦しく陛下の言葉に応える。


 ……バスコ・トロイとポリメニスが真剣な表情で話し込んでいた内容…………か。


 私は、ポリメニスをじっと観察する。怪しいところがないかを見極めるのが私の役目だからだ。

 と、ポリメニスがこちらを向く。不意に視線がぶつかり、私は思わず視線をそらしてしまった。

 ……何をやっているのだ、私は。逸らしてどうする。

 睨み返してやるくらいの気概でなければ……


「ポリメニス!」


 そらしてしまった視線を戻し、ポリメニスにグイッと接近する。


「え、え? なに?」


 グイグイ間合いを詰める私に、ポリメニスは身を引いて距離を取ろうとする。

 逃げるか!? 怪しい! やはり怪しいぞ!


 私は、先ほど入手した最新情報をポリメニスに突き付けてやる。


「貴様! つるぺたマニアらしいな!?」

「……は?」

「貴様の顔は、そういう顔だ!」


 陛下が言ったのだから間違いない!


 …………あれ?

 私は今、何を口走っているのだ?

 ポリメニスと視線がぶつかってから、どうも頭にもやがかかったような……脳がゆだっているようでうまく思考がまとまらない。

 感情が暴走しているような気分だ。


「やはりそうであったか!」


 バスコ・トロイが歓喜の声を上げ、同志に向けて右手を突き出す。

 固い握手を求めているのだ。


「つるぺたの世界へようこそ!」

「いえ、私は違いますんで……」


 ポリメニスがすすすと、バスコ・トロイから距離を取る。

 なん……だと…………?

 ポリメニスはつるぺたマニアではなかったというのか…………じゃ、じゃあ……


「貴様も巨乳が大好きな口か!?」

「なんでその二択しかないの!?」


 バスコ・トロイが汚物を見るような視線をポリメニスへ向ける。

 そして、唾を吐きポリメニスに向かって逆さに向けた親指を突きつける。


「……地獄へ落るがいい」

「極端だよね、この城の人、一人残らずさぁ!?」


 ポリメニスが取り乱し叫ぶ。

 ……そうだ、地獄へ落ちろ。巨乳以外を女と認めないような屑どもは、一人残らずに……


「ポリメニス様とバスコおじ様は、そんなくだらないお話を二人でされていたのですか?」

「いや、違うよ!? さっき話していたのはゲイブマンの話だから!」

「ゲイブマンの……っ!?」


 その名を聞いて、微かに背中が粟立つ。

 あの男は、陛下への反乱を企ててとんでもない魔神を召喚した。

 しかし、自身に危険が及ぶや否や、戦場に背を見せ逃走したのだ。


 すぐさま行方を追いたかったのだが…………我がベイクウェルの諜報員たちはみなゲイブマン側へと寝返ってしまっていた。

 脅迫されていたとはいえ、一度寝返った者を我々は決して信用することはない。

 私は、一気に仲間を失ってしまったのだ。


 その結果、戦闘のごたごたの中でゲイブマンにまんまと逃げられてしまったのだ。

 不甲斐ない。 

 消えることのない、不始末だ。


 そればかりか……これだけ近くに居ながら、ヤツの暴走を止められなかった……


「ゲイブマンが見つかったのか?」

「うん」


 ポリメニスがあっさりと頷いて見せる。


「では、引き渡してもらおうか。私自らの手下八つ裂きにしてやる!」

「あ~、それなんだけど、ちょっと待ってくれるかな?」

「むろん、陛下と国民に謝罪をさせ、懺悔を聞いてからにするさ。ヤツの首を跳ねるのは」

「いや、だから、それを待ってほしいんだけど」


 固く握りしめたワタシの拳を、ポリメニスがそっと包み込み、ゆっくりと下へ下ろす。

 ってぇ! 何を勝手に触っているのだ、貴様は!?


「や、やはり、貴様はつるぺたマニアなのだろう!?」

「……その言葉、自分に刺さってない?」


 ………………は?


「……やめて、そんな怖い目で睨むの……」


 ポリメニスは私から目を逸らし、ついでに一歩後退する。


「ゲイブマンは、私が王位を継いだ後、宰相として働いてもらうから処刑は無しで」

「はぁっ!?」


 何を言っているのだ、こいつは?

 陛下を裏切り、国民を騙し、国を滅茶苦茶にした真犯人を、再び宰相として採用するだと!?


「貴様は頭もおかしいのか!?」

「……他にどこがおかしいのか、ゆっくり説明してもらいたいところだね」


 ポリメニスの口が引き攣る。

 どこがだと? 全部だ、全部!


「私には人脈が無くてね。使える者は犬でも悪魔でも使いたいくらいなんですよ」

「だからといって、反逆者をそんな重役に……!」

「だからこそだよ」


 ポリメニスは笑みを浮かべる。

 ただし、その笑みはとても邪悪な…………逆らう気が根こそぎ削がれてしまう様な、不気味な笑みだった。

 そう、まるで道化の歪んだメイクのような、そんな不気味さがあった。


「私を欺けるのなら、是非そう画策してもらいたいものです。そうすることで、この国にはとりあえずの利益をもたらすことになるでしょうし」

「……しかし」

「ひょっとして、心配してくれてるのかな?」

「バッ、バカか、貴様は!?」


 誰が貴様の心配など!


「大丈夫ですよ。私には、信頼できる強力な助っ人が二人もいますから」

「……助っ人?」


 自信満々な表情で、ポリメニスが言う。

 一体、誰だというのだ?


「一人はバスコ・トロイ。彼には、王城に仕える者の教育を一から叩き直してもらう予定です」


 先王の信頼も厚く、多少行き過ぎるくらいに忠義に熱い男。バスコ・トロイ。

 なるほど。この男なら、教育係としては申し分ないか……


「それで、もう一人は?」


 バスコ・トロイと並び、ゲイブマンを抑え込める様な強力な人材に心当たりがない。

 あるとすればおにぃたん様くらいか…………でも、まさかな。


 考える私の目の間に、すっと指が突きつけられる。


「…………は?」


 視線を上げると、ポリメニスが私を見てにっこりとほほ笑んだ。


「あなたですよ、ウルスラさん」

「……………………はぁっ!?」


 私だと!?


「仕事熱心で、忠義に厚く、おまけに頭が切れて信頼も置ける。こんな完璧な人材、他にいないじゃない」

「ぅ、ぅううえぅっ!?」


 急に褒められて、思考回路がショートする。

 なんだ!?

 なんなんだ、こいつは!?

 一体何を考えているんだ!


 パニックを起こす私を見越してか、それとも意図せずか……ポリメニスは私の肩に手を置き、真っ直ぐに私の目を見つめてこう言ってきた……


「君には、私の一番近くにいてほしいと思っています」


 一番近くに…………


 こ、これは…………



 プロポーズッ!?



「ですので、私の秘書となり、右腕としてその手腕を…………って、あの、聞いてる?」

「き、きき…………ききききききき……」

「壊れた!? なんか、寂びたような音出てるけど、大丈夫!?」

「貴様っ! やっぱりつるぺたマニアなんじゃないかぁああああああっ!」

「なんで、そうなるのっ!?」


 気が付くと、私は走り出していた。

 自分が何を思い、何をしているのか、まるで分らない。

 だが、私は走らずにはいられなかったのだ。


 胸が高鳴る。

 息が詰まる。

 目の前が、涙で霞む。


 この感情は何だ?


 驚き?

 戸惑い?

 それとも…………歓喜?


 分からない。

 分からないが、とにかく恥ずかしかった。

 ポリメニスの前にいることが耐えられなかった。

 彼の姿を見ることも……

 彼に見られているということも……


 私は耐え切れずに逃げ出したのだ。


 他のことなどどうでもよかった。


 ゲイブマンを起用するというのであれば好きにすればいい。

 彼なら、きっとあいつをうまく使いこなすことだろう。

 バスコ・トロイにしても、きっとうまくやるはずだ。

 そんなこと、私が考える必要などない。


 私が今、もっとも考えなければいけないことは…………



「私…………お嫁に行くのか……?」



 顔から火が出た。

 恥ずかしすぎる。

 幼き日からずっと憧れていた、夢。


 王子様に見初められ、綺麗なドレスを身に纏い、幸せな家庭を…………



「にゃははあああああああああああああああっ!」



 抑えが利かず、変な声が喉を突き破って漏れ出してくる。


 恋はいつでもロンリネス……


 ううん。



 恋はいつでもハピネス!



 返事はもう決まっているのかもしれない。

 けれど、もう少しこの高ぶる不安定な感情を味わっていたい。

 ……女の子は、わがままなものだから。


 龍族との決闘?


 おにぃたん様がなんとかするだろう。

 きっと大丈夫。


 私は、そんなことにかまけている暇はないのだ。

 あとのことは、そっちで適当にやっていてくれ。

 じゃ、よろしく頼むぞ、おにいたん様。



「ポエムを……ポエムを書かねば! あふれ出してくるこの激情を、甘美な言の葉として紡ぎ出さねば! 今しか書けない傑作が書けそうな気がする! ポエムを……ポエムを書かねばぁぁあああっ!」



 私は自室へと戻り、それから夜通し、ペンを走らせ続けたのだった。








いつもありがとうございます。



今回は、人が恋に落ちる瞬間をお届けしました。


恋はいつでもロンリネスさんは意外と単純な人でした。

ポリッちゃんも王様になる以上、家柄のいいお嫁さんを貰わないといけませんしね。

その点、ウルスラは条件ピッタリです。


容姿端麗(貧乳だけど)

頭脳明晰(ちょっとアホの子だけど)

器量よし(謎のポエムを書くけども)


国王の妃になるのに、申し分ない女性です。


いや、よかったよかった。



今後は、

ポリメニスは別にそんな気はなかったのに、

ウルスラが一人で盛り上がって、

結構ぐいぐいアピールして、

そういう変化に敏いポリメニスはすぐに気がついて、

「……どうしよう、そんなつもりじゃなかったんだけどなぁ」などと思いながらも、

健気に頑張る姿にちょっと心揺れちゃったりして……



で、

いつの日か、ウルスラは自分が勘違いして一人で浮かれていたことに気がついたりして。



「はは…………なんだ、そういうことか……。一人で浮かれて…………私、バカみたいだ……」



みたいなシリアス展開になればフラグです。

リーチです。

チャックメイトです。


そこまできちゃったらもう、ポリメニスが取るべき行動は決まってきます。


「確かに、最初は勘違いだったけど……頑張る君をずっと見てきて、私は気がついたんだ」

「……何にだ」

「私は、君が傍にいないとダメだってことにだよ」

「……まぁ、王政の大半は私が手伝っているからな。いないと困るのは当然だろうが……」

「あ、いや、そういうことではなくて……君に、傍にいてほしいんですよ」

「いるさ。それが私の仕事だからな」

「だからね…………普段頭いいのに、何でこういう時だけ天然発揮するんだろう……」

「つまり、何が言いたいんだ? ハッキリしたらどうだ! 私のことなど、好きでもなんでもなかったと、ハッキリ言ってくれ!」

「確かに……好き……ではないかな」

「…………やはりな」

「好き、じゃなくて…………愛しているよ」

「ポリメニス…………」

「……ウルスラ」

「『好き』と『愛している』はほぼ同じ意味あいではないか?」

「そういうことじゃないでしょう!? ねぇ、なんで!? なんでどんな言葉も心に響かないの!? これでダメなら、もう私には君を感動させることは不可能だよ!?」

「急に愛していると言われても、一体なんのことだか…………え? 愛して? え? 私を? えぇ!? え、私を愛し……えぇぇぇええっ!?」

「遅っ!? 物凄く遅くない!?」

「恋はいつでもサプライズ!」

「……あぁ、うん。またポエムモードに入っちゃったんだね。こっから長いんだよなぁ……」




みたいな感じで、二人は結ばれていくのでしょう。


けれど、それはまた、別のお話。





二回続いてご主人さんがお休みでしたので、

次回からはご主人さんのターンです!



一足先に飛び出したご主人さんとトシコが一体どうなったのか……




次回もよろしくお願いいたします。



とまと


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