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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
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127話 残された者の出立

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 そこには、【搾乳】の姿はなく、代わりに巨大な魔神…………えっと…………


「……かさぶたマン?」

「カブラカンじゃあ!」


 そうそう。カブラカンが一人で立っていた。


「どないしたんや? あの兄ちゃんはどこ行ったんや?」


 私についてきたスコルが【搾乳】の居場所を尋ねると、信じられない答えが返ってきた。


「ガウルテリオの息子なら、一足先に人間界へ向かったぞ」

「…………私を置いて?」

「む? あぁ。ちと、ワケがあってなぁ。実は魔界にドラゴンが……」

「……この、私を、置いて?」

「む…………あぁ。じゃからの、それには理由が……」

「……魔界の奥深くで、死と隣り合わせの修業を続けていた、この、私を、置いて?」

「ス、スコルよ! このオナゴさんは何を怒っておるんじゃあ?」

「あかんで、カブラカン。姉さんの逆鱗はあっちこっちにあるんやさかい。姉さんの前では、兄ちゃんと胸の話はなるべくせぇへんのが安全…………ギャンッ!?」


 くだらない話を始めたスコルに八つ当た…………教育的指導を施し、私は次元の穴を見上げる。


「ね、姉さん、尻尾踏むんはやめてって、あれだけ言うたのに……」

「……私も行くわ」

「えっ!? もう行くんでっか? 他の仲間待たんでええのん? テオドラとか言う剣士とトシコとか言うエルフ」

「あぁ、トシコさんならガウルテリオの息子がお姫様抱っこで一緒に連れて行きおったぞ」

「…………『お姫様抱っこで』?」

「アホッ、カブラカン! なんでお前はそう何度も見えとる地雷を踏みまくるんや!? えぇか、姉さんはなぁ! 『ダーリン、早よぅ会いたいわぁ……せやけど、今は堪えて、ダーリンの隣に相応しい女になるさかい、待っててやダーリン!』言うて、必死に寂しさに堪えて修行を…………ぁぁぁああうちっ!?」


 面白くもないフィクションを揚々と語るスコルに折檻…………教育的指導を行い、私は【魔界獣】を召喚する。

 この三ヶ月で私の魔力を養分とし【魔界獣】は大きく成長していた。

 羽を広げると2メートル弱になる。

 体は体調40センチ程度と小さいので、ルゥシールのように背に乗ることは出来ない。  

 しかし、私の背中に【魔界獣】を取り付かせることで、その大きな翼を自在に操れるようになる。

 つまり、私は【魔界獣】の力を得て空を飛べるのだ。

 次元の穴をも飛び越えることが出来る。


 ……待っていなさい、【搾乳】。


 すぐに追いついて私もお姫様だっこを…………龍族との決戦に参加しなければ!


「……【魔界獣】、翼を頂戴」


 私の声に反応して【魔界獣】はその翼を広げる。

 美しい、純白の羽。

 ……これまでは黒ばかりを好んで身に着けていたけれど、これを機に白に傾倒してみようかと、そんなことを考えてしまうほどに美しく白い翼だ。

 この翼を見たら、【搾乳】はなんと言うだろうか?

 似合うと……言ってくれるだろうか……


「……じゃあ、スコル。行ってくるわ」

「気を付けてな、姉さん。手伝いには行かれへんけど、姉さんは絶対負けへんって、信じてるさかいな!」

「……この世に、『絶対』なんてないわ」

「ここ最近、魔界で『おっぱい!』言うて叫びまくっとったんは誰やと思う?」

「……絶対に【搾乳】ね」


 ……あ、『絶対』があった。


「な? 言葉やのぅて、重要なんは心や。ワイの心は、『姉さんは絶対負けへん』って思とるんや」

「……そう。それじゃあ、その期待を受け取っておくわ」

「ほな、武運を祈っとるで」

「……えぇ。じゃあ、行くわ」


 トン、と、地面を蹴ると【魔界獣】は大きく羽ばたき、私の体はぐんぐんと魔界の空を上昇していく。

 次元の穴を越え、そして、人間界へ――


 待っていなさい【搾乳】。

 あなたがどんなに遠くにいても必ず見つけ出す。

どんなに先に行っていても、必ず追いついて見せるから。


 私は、以前何度となく読み取った【搾乳】の魔力を探し世界を眺めた。

 スコルに教わって、少しは魔力の探知も出来るようになった。

 時間はかかっても……必ず見つけ出す!


「……あっち」


 狙いを定め、私は大空を翔る。

 大きな翼をはためかせ、真っすぐ彼のもとを目指して。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「なにぃ!? みんな、もう行ってしまったというのか!?」


 ワタシが集合場所に着いた時、他のみんなはもう既に人間界へと向かった後だった。

 酷いではないか!

 ワタシだけ置いて行くなんて……


「……もしかして、父の体臭が接近と共に強烈になり、みんな逃げたのか……」

「おいおい、我が娘よ。酷い言われようだな」


 へらへらと、しまりのない笑みを浮かべる男が一人。

 恥ずかしながら、ワタシの父だ。


「ソレガシは、魔界にて七色の体臭を手に入れたのだぞ? もはや臭さとは無縁の体だ」

「何故『無臭』を獲得しなかったのだ。余計に複雑になって不快感が留まる事を知らぬではないか!」


 父の提唱していた、『閉じられた魔界で魔神の体臭が気にならないのは、きっと体臭を無くす薬があるからだ』という推論は半分当たっていた。

 薬ではなく、魔界の食べ物にその答えがあった。

 魔界の食べ物を食べると、体からいい香りがするようになるのだ。この匂いにより敵味方を判断する魔獣も存在している。

 そして、父はありとあらゆる物を食し、七色の体臭を獲得したのだ。


 ……再会した瞬間、思わず切りかかってしまったワタシを、一体誰が責められようか。


「おヌシも、そしてそっちのシカさんも、臭いとは感じていないではないか」

「長時間そばにいたせいで嗅覚がマヒしているだけだ」

「……オイラ、シカじゃないっちゃ。百歩譲ってもヤギっちゃ」


 エアレーが控えめに反論する。


 父を探す旅に同行してくれたエアレーは、ワタシと共に父に挑み、完膚なきまでに叩きのめされてしまったのだ。無論、ワタシも惨敗した。

 父は、魔界で過ごすうちに、以前にもまして強くなっていた。

 その父に、また剣を一から教えてもらった。

 父にはまだ遠く及ばないが、ワタシも幾分強くなったはずだ。


「すまんな、テオドラ。ソレガシはいささか強くなりすぎた故、人間界へは戻れぬ。ここでシカさんと共におヌシらの戦いを見守っておるぞ」

「え……オイラ、見送ったらすぐに住処に帰りたいっちゃ……っていうか、一人にして欲しいっちゃ」

「水臭いことを言うでないぞ、シカさん! 遠慮せずとも、そなたはもう、ソレガシの家族なのだからな!」

「いやいやいや! テオドラの友人止まりでお願いしたいっちゃ! 家族は御免被りたいっちゃ!」


 全力の拒絶だ。

 エアレーが少し気の毒に見えてきた。


「ナニユエだ? ソレガシ、物凄くいい匂いがするのに……」」

「……本人が思ういい匂いは、他人にとっては不快なことが多いっちゃ」

「今はハンバーグの匂いだぞ?」

「他人の体から漂うハンバーグの香りは不快指数マックスっちゃ!」

「食べちゃいたくならぬか?」

「ならぬっちゃ!」


 エアレーに父の口調がウツっている。

 ……悪影響しか及ぼさない身内で恥ずかしい。


「それに、家族が増えるとしたらオイラじゃなく、もう決まった男がいるっちゃ。なぁ、テオドラ?」

「なっ!? な、なな、何を、言っ、言っているのだ、エアレー!? あ、主は、別に、まだ……未確定で…………」

「そんな弱気でどうするっちゃ!」

「どふっ!」


 エアレー、渾身の突撃がワタシのミゾオチに直撃する。


 ワタシの体は宙に浮き、凄まじい勢いで森の大木に激突する。

 大木が折れ、森にすむ魔獣たちが騒ぎだす。


 ……エアレー、やり過ぎだろう。


「ガウルテリオJrの周りには、ダークドラゴンや黒いシスター、おまけに家庭的なエルフまでいるっちゃ! 恋愛経験皆無のテオドラは、現在もっとも不利な位置にいるっちゃ!」

「そんなことはないだろう!?」


 腹の痛みなど忘れて、ワタシは高速でエアレーに接近する。

 角を掴み、超至近距離でその眼を睨みつける。


「ワタシだってな、主とは色々あったのだぞ! 命がけで守ってくれたりもしたし、ワタシはそのお返しに、ひ、ひざっ…………膝枕とか、したし…………」


 思い出す度顔が熱くなる。

 そう言えば、あの時からワタシは彼に惹かれていたのだ。

 もう、ずっと長い間恋をしているような気がする。


「だけっちゃ!」

「だ、だけとはなんだ!?」

「乳の一つも揉まれもせずに!」

「揉まれたさ! エンペラードラゴンとの決戦の時に! おまけに、足の裏を舐められたことまであるのだ、ワタシは!」


 どうだ!

 まいったか!


 と、胸を張った時、…………隣に父がいることを思い出した。


「……我が娘よ…………そんな不届きなことをしでかした男がいるのか?」

「ち、父!? いつからそこに!?」

「ずっと一緒だったっちゃ……」

「その男の名を教えてはくれまいか、我が娘よ。…………我が必殺の奥義『乱切り』をお見舞いしてくれる……」


 父が愛剣『轟』をさやから引き抜く。

 漆黒の刃が毒々しく輝く、禍々しい剣だ。


「ま、待つのだ父よ!」

「結婚前の大切な娘に、イケナイイタズラをする不届き者など、この世に存在する価値などない!」

「父だって、ワタシが四歳の頃に、ワタシの尻を撫でまわしていたではないか!」

「父親だからいいの!」

「よくないっちゃよ!? オイラは今、最低の父親を目の当たりにしてるっちゃ!」


 エアレーがドン引きしている。

 やはり、父が娘の尻を撫でまわすのは普通のご家庭では見られない光景だったのか……

どうやら、ワタシは父を倒さねばいけないようだ。


「父よ。ワタシと主は愛し合っている」

「いや、『合って』いるかは微妙なところっちゃよ……」

「ワタシたちの中を邪魔するというのであれば、たとえ父といえども容赦はしない! 真っ二つに斬り分けてくれる!」

「香ばしい焼き魚の匂いがするこの父をか!?」

「三枚に下ろす!」


 ワタシは主より預かったルスイスパーダを抜き、父と対峙する。

 ……相変わらず隙がまったくない。

 勝算は………………二割。


「いつでもかかって来るがよい」


 父が『轟』を正眼に構える。

 叩きつけるような殺気が父から放出されワタシの体を後方へ押し戻す。

 ……負けられない。負けてたまるか!


「ワタシが勝ったら、父には無条件で主を認めてもらう!」

「よかろう! ただし、ソレガシが勝ったら、今日から毎日一緒にお風呂に入ってもぎゃあああああああ!」


 その時、ワタシは初めて己の限界を超えた。

 世界の流れが緩やかになり……いや、まるで停止したかのように感じられ、間合いも隙も一切を超越した神速の一撃を放てたのだ。


 父の腹から噴き出す血……うむ。この程度なら唾をつけておけば治るだろう。なにせ、父は気持ち悪いほどに強いのだから。


「……シ、シカさん……お願い、唾つけて……ぺろぺろして……」

「い、嫌っちゃよ!?」


 父に勝った。

 ワタシはついに父を越えたのだ!


「……あぁ…………綺麗なお花畑が……」

「ダメっちゃ! そっちに行ってはいけないっちゃ! 戻ってくるっちゃ!」


 これで……主の力になれる。


「よかった……」

「よくないっちゃよ、テオドラ!?」


 エアレーが一人でわたわたしている。

 が、父はいつでもちょっとオーバーなのだ。

 これもきっと構ってほしいがための演技なのだ。


「父よ。ワタシはもう行く。また会いに来ることもあるかも知れぬが、その時はよしなに頼む」

「う……うむ。その前に、テオドラ、唾を……ぺろぺろ…………ぺろぺろを、テオドラたんぺろぺろ……」

「後八十年くらいしたら会いに来る。それまで、達者でな」

「いやいやいや! テオドラ、もう少し頻繁に顔を見せてやるっちゃ! 流石に気の毒っちゃ!」

「エアレー。そなたもありがとう。この一件が終結したら、結果を報告に来ると約束しよう」

「だから、その時に父親にも、ついでに会ってやれっちゃって!」

「そこら辺で飛べる魔獣を捕まえてくる。調教に時間がかかるかもしれんから、急ぐな。では、みんな、達者でな!」

「あっ! テオドラ! 父親が! お前の父親が泡を……! ちょっとハンバーグの匂いのする泡を……っ! テオドラァーー!」

「いやぁ、エアレーもなんや、えらい大変やったみたいやのぉ」

「そうじゃのぉ」

「お前ら、今の今まで一言も口を挟まず我関せずを貫いて、よくそんなことが言えるっちゃね!? この薄情者!」


 そんな賑やかな声に背を押され、ワタシは森へと突入した。


 森の中で四本足のワシを見つけ、剣による交渉の末、ワタシを乗せて飛んでくれることになった。実にいい魔獣だ。


「私は、魔神グリフォン……人間界へ出れば多大な影響を及ぼしてしまうが故、あまり派手には行動出来ぬ身……加減はしてくれよ」

「うむ。ちょっとドラゴンと戦うから、その間ワタシを乗せてくれるだけでいい」

「…………貴様、ガウルテリオの関係者だろう?」

「何故それを!?」

「………………やっぱりか…………まったく、あいつとあいつの息子が絡むとろくなことが起こらない…………まったく……本当に……まったく…………」


 小言の多い魔獣は、それでも素直にワタシを乗せてくれ、次元の穴へ向けて飛び立つ。


「おぉ、早いな! 魔獣の中ではトップクラスなのではないか?」

「私は魔神だ! 魔獣などと一緒にしないでもらおうか!」

「あっはっはっ! 魔神がこんなに弱いわけがなかろう! 冗談もほどほどにしてくれまいか?」

「…………魔神だって、泣くことはあるんだぞ?」


 肩を落とし、魔獣は次元の穴を通過する。

 そして、ワタシはついに人間界へと帰還を果たす。

 さぁ、戦場はどこだ?

 主は今、どこにいる!?


「向こうに大きな魔力の反応がある。そちらに向かうか?」

「そんなことも分かるのか?」

「魔神なら当然のことだ」

「そうか。凄いんだな、魔獣は」

「…………私はこれから修行して、絶対お前より強くなってやる。いいか、絶対にだ!」


 魔獣が何かをわめいているが、どうでもいいので聞き流す。

 魔力を追って行けるのであれば、合流することはたやすいだろう。


 だが、その前にやらなければいけないことがある。


「すまないが、先にブレンドレルへ向かってくれまいか?」

「人間の王国だな? そこに何かあるのか?」

「うむ。ワタシの尊敬する鍛冶師と、ワタシの新しい剣が、ワタシを待っていてくれるのだ」

「……そうか。では、少し飛ばすぞ! 振り落とされぬようしっかり掴まっておれ!」


 魔獣が加速し、空の上を四本の足で駆け抜ける。

 この速度ならあっという間に着きそうだ。


 ワタシは久しぶりの再会に期待を膨らませ、全身に風を感じて、そっと目を細めた。









いつもありがとうございます。



フランカとテオドラも出動です。


一堂に会した際の、この、何とも言えない、

「友達の友達感」が、なんとも……微妙な空気感ですよね。




そして、

父はやはり悩んでいた!


そして、悩みは解決された!


今では父はいい匂いです!(主に、ハンバーグやココナッツの匂いです!)



テオドラが少々冷たいですが、

父親に対する娘の反応なんてこんなもんです、きっと。


私は娘がいないのでなんとも言えませんが、

娘をお持ちのお父様方は、こういう態度とられると切ないでしょうねぇ。



どれくらい切ないのか……

少し、置き換えて想像してみましょう。




例えば、


ウチの近所に物凄く可愛らしい幼女がいたとしましょう。



最初は人見知りしていたその娘も、

何度も顔を合わせる内に少しずつ会話をするようになり、

いつしか大の仲良しに。


そして、その娘が六歳になる日。

私は得意のチーズケーキを作ってその娘の誕生日を祝ってあげるのです。

飾り付けにもこだわって、手作りだけれど精一杯の気持ちを込めて、

笑いの溢れる温かい誕生日会を開催するのです。


そうしたら、その娘はもう凄く喜んで、

「わたし、大きくなったらとまとにぃたんのお嫁さんになるー!」

とか言い出しちゃって。


その場にいたその子の母親も「とまとさんなら安心ねぇ~」なんて笑ってて、

「じゃあお義母さんって呼ばないとですねぇ」なんて言って、笑って。


で、それから私はしばらく忙しくなって、

仕事でずっと家を空けるようになって、その娘に会えなくなって。

深夜、フラフラになりながら自室にたどり着くと、倒れ込むように眠り、

早朝に目覚めて別の仕事へ向かう日々が続いて。


そんな生活が三ヶ月ほど続いたある日、

家の前でその娘に会って。

「とまとにぃたん!」

って、その娘は私に飛びついてきて、

「ずっと会えなくて寂しかった!」

って、ちょっと拗ねて、ちょっと怒って、凄く寂しがっていて。

「ごめんね」って頭を撫でて上げると、ぽろぽろ泣き出しちゃって。

「わたしのこと、嫌いになったの?」

って、凄く悲しそうな顔をして聞いてくるから、

「そんなことないよ」って、笑顔で言って。

で、ポケットに忍ばせていた小さな箱を取り出して、その娘に手渡して。


小さな箱は、綺麗にラッピングされていて。

青い包装紙に、赤いリボンが結ばれていて。

手のひらサイズのその箱は、とても軽くて。


その娘は、

「これ、なぁに?」

って、小さな頭を傾げて私を見上げてきて。

涙はもう引っ込んでいて、目尻にほんのり朱が差しているだけで。

「開けてごらん」って俺が言ったら、その娘は包装紙を破らないように丁寧に開け始めて。

「綺麗な紙だから大切にとっておくの」

って、お義母さんそっくりなこと言って。

私は思わず笑っちゃって。

「なんで笑うのぉ!?」

って、その娘は怒るんだけど、その時箱が空いて、中から小さなケースが出てきて。


その小さなケースをジッと見つめるその娘に、「開けてごらん」って言うんだけど、

その娘はなんでか開けようとしなくて、

ただ、目をウルウルさせていて、何かを感じ取っていたみたいで。


だから、私が代わりにそのケースを開けてあげて。


そしたら、その中には指輪が。


それはその娘の左手の薬指のサイズにぴったりで。


「これを買うために、とまとにぃたんずっと留守にしてたの?」

って聞くから、「そうだよ」って答えて。


そうしたらその娘はまたボロボロ泣き始めちゃって。

「ばかぁ、ばかぁ……」

って。全然泣き止まなくて。


私はその娘をギュッと抱きしめ、

「もう、寂しい思いはさせないからね」って言って、

指輪をその娘の指にはめて上げて……


そうして、その娘が小学校に上がるのを待って挙式を上げ、

その間に私は法律を変えるために政党を作って、

つるぺた信仰の同志を集めて与党になって、総理になって、

憲法を変えて、

無事、そのこと席を入れることが出来て。


今は、静かな片田舎で二人、幸せに暮らしています。


法律を変えるまでは警察がうるさかったけれど、

今ではそれもいい思い出です。


そうそう。

今日はその娘……ウチの嫁の鍵盤ハーモニカの練習に付き合う約束があるので、この辺で失礼します。


いつか、

みなさんも我が家に遊びに来てください。

得意のチーズケーキを、ご馳走しますから。

はっはっはっ……




……………………あっ!? しまった!


なんか、幸せな空気を壊したくなくてハッピーエンドを迎えてしまった!?

そうじゃなくて、

懐いていた幼女が成長して冷たい態度を取られた悲しみをシミュレーションするはずが……



でも、そんな悲惨な現実なら、見ない方が幸せですよね!



というわけで、今回はこれでよしとします!





今後ともよろしくお願いいたします。



とまと

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