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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
126/150

126話 待ち合わせ場所にて

「三ヶ月の成果はどうだ、マー坊」

「その前に、なんだその体は?」


 俺の肩に、手のひらサイズのお袋がいる。


「シーたんの面倒を見るために家から出られない状態でね。お前の見送りは分身体で我慢しとくれよ」


 シーたんって……


「シルヴァネールは間に合わなかったのか?」

「なぁに、あと数時間ってところさね。あの子は凄いよ。今までどれだけ力を使い続けてきたのか知らないが、『器』が空っぽになっていた。その『器』のデカいことデカいこと。あたしのおっぱいよりデカいかもしれないね」

「比較対象が分かりにくいよ」


 お袋の乳は確かにデカいが、それを魔力の許容範囲と比べられてもな……


「ドラゴン娘との戦いが壮絶だったってことさね。あのドラゴン娘も、相当な魔力を持っている様だけど」

「ルゥシールは相変わらず『ドラゴン娘』なんだな」

「そりゃそうさ。恋敵だしね」

「いや、それは違うだろう」

「えぇ~! あたしは嫁候補から外れてるのかい!?」

「お袋はお袋だろうが!」

「あまいね! 昔から、幼女を育てて美味しくなったところをパックんちょする輩は多くいたのさ! あたしもそろそろパックんちょしてもいい頃合いじゃないかい?」

「アホか!? アホなのか!?」


 お袋相手にそんな気になれるか。

 ……つか、パックんっちょってなんだよ。


 そんなあほな会話をしている場所は、次元の穴の真下。

 大きな森を抜けた平地だ。

 見上げれば、魔界の空に次元の穴が大きな口を開けている。

 あの向こうは人間界だ。


 あの向こうに、ルゥシールがいる。



 ドラゴンどもに捕えられて……



「マー坊。魔法の方は大丈夫なんだろうね?」

「あぁ。全部とは言えねぇが、主要な魔神とは平和的に話をつけてきたぜ」

「魔界のあちこちで『おっぱい』という謎の絶叫を聞いたという証言があるのだがな」

「おいおい。人が真面目に修行してる時に、誰がそんなふざけたことを言ってやがったんだ? けしからんな」

「……なるほど。自覚は、なし……か」


 手乗りお袋は腕を組んで深く考え込んでしまった。

 なんだ?

 あ、わかったぞ。

 またお袋の知り合いの仕業なんだろう?

 まったく、くだらない知り合いばかり増やしやがって。息子として嘆かわしいぜ。


「お袋。付き合うヤツは選んだ方がいいぞ」

「お、それは絶縁宣言か? 悲しいこと言わないでおくれよ」


 なぜそうなる?

 俺みたいなまともなヤツとだけ付き合うようにしろと言っているんだが……


「仲間たちとは、ここで待ち合わせをしているのだったか?」

「あぁ。にしても、遅ぇなぁ」

「時間は指定したのか?」

「いや?」

「は?」

「俺が来る前にここにきてるのが普通だろう」

「……亭主関白かい、あんたは」

「ん?」

「いや……友達がいなかったから待ち合わせなんかしたことがないんだよね……酷いことを言ってしまったかねぇ」

「バ、バカ、お袋! とも、とと、友達くらい、くら、い、いい、いるわ!」

「片思いでなければいいな」

「えっ!?」


 まさか、仲間だとか友達だとか思ってるのは俺だけなのか?

 え、まさか、もうすでにみんなで先に行っちゃったのか? 俺を置いて!?


「いかん! 急がねば!」

「落ち着きな。まだ誰も来てないんだろうよ。調べてみればいいだろう」


 あ、そうだ!

 俺、魔力が見られるんだった!


 三ヶ月の修業で、その能力はさらに進化している。

 その魔力が誰のものであるかまで判定できるのだ。

 一度魔力を見て覚えておけば、そいつがどこにいたって探し出せる!


 この力があれば………………あっ!?


「……この力を手に入れてからあいつらに会っていない……っ!」


 あいつらの魔力がどんなのか、まるで分かりません……


「ずば抜けて強い魔力がまとまって歩いていればそれだよ。スコルたちは彼女たちに付いて回っているだろうからね」

「なるほど!」


 お袋のアドバイスを参考に、デカい魔力の反応を探る。


 大きな魔力が一緒に行動しているのは…………いた。


「あっちの方角に、凄まじくデカい魔力が二つ寄り添っている場所がある!」

「……そこは、あたしん家だよ」


 あぁ、お袋とシルヴァネールか。

 じゃあ、動いている反応を探すとするか…………あ、いた。

 南から大きな魔力が二つ、東から二つ、北からは三つまとまってこちらに向かって移動している。…………三つ?

 フランカ、テオドラ、トシコ。で、魔神はスコルにエアレー、カブラカン。……誰か増えてないか?


「ん?」


 その時、頭上に大きな魔力を感知した。

 見上げると、次元の穴から何かが降りて来る。……あれは。



 ガァァアアアアアアアアアッ!



「ドラゴン!?」


 次元の穴を越えて、三つ首のドラゴンがこちらに向かって飛んでくる。


「魔界まで攻め込んでくるとは、無謀なドラゴンがいたもんだね」

「あいつらは龍族の魔力を感知出来るらしいからな。シルヴァネールの魔力が大きくなっていくことに危機感でも覚えたんだろう」


 その証拠に、三つ首のドラゴンはお袋の家の方向へと向かって飛んでいく。


「まぁ、別に相手してやってもいいんだが……めんどうだねぇ」


 手乗りお袋が俺の手の上で腕を組んで「う~ん」とうなる。


「あたしが戦うとなると、シルヴァネールの準備がその分遅れちまう。マー坊。ちょっと行って追い返しておくれ」

「まぁ、そうなると思ってたけどな」


 三つ首のドラゴンを見上げる。

 もう随分と遠くまで飛んで行ってしまっている。

 首が三つもあるヤツは初めて見たな。突然変異か?

 ……いや、エンペラードラゴンのヤロウ……何かしやがったな。


 やつらの手の内を探るためにも、一丁相手してやるか。


「お袋、魔力をくれ」


 魔法陣抜きで魔法を発動できるようにはなったが、魔力は相変わらず持ち合わせていない。

 あるのは、お袋が固定してくれたルゥシールの魔力のかけらのみ。これでは戦えない。

 なので、お袋から魔力を分けてもらう。


「なんだい、マー坊。そんな大きくなっても、やっぱりママのおっぱいが欲しいのかい? まったく、いくつになっても乳離れできないんだから……いや、もしかしたら子としてではなくて男として……」


 アホなことをのたまう手乗りお袋をギュッと握る。

 お袋の分身体は全身が魔力で構成されているため、丸々吸収することが出来る。

 そんなわけで、小さなお袋の分身体は俺に吸収され、完全にその姿を消した。


 お袋の巨乳は、無い!


 まったく。相変わらずおっぱいを揉むことと揉まれることしか考えていないんだから、ウチのお袋は……ぶつぶつ。


「じゃ、行くかな!」


 お袋がルゥシールの魔力を核として俺の体内に構築した魔力貯蔵庫は、以前以上の魔力を長時間格納しておくことが出来る。

 長時間の戦闘も出来るようになったってことを、あの三つ首ドラゴン相手に試してみるのもいいかもな。


 空気中に無数存在する浮遊する魔力の粒子。

 これまでは見ることが出来なかった、世界を構成する魔力の大もととなる細かなその粒子を、俺は意識で捉え、そして点を線で結ぶように粒子の上を移動していく。


 俺の体は魔力の粒子をたどるようにして宙に浮き、高速で空を翔ける。

 これまで、お袋たちがどうやって空を飛んでいるのか分からなかったのだが、一度気が付いてみれば単純な仕組みだった。

 風で体を持ち上げるとか、ジェット噴射させて浮かび上がるという発想しかなかったのだが、それではお袋たちのように細かな軌道修正は出来ない。

 お袋たちは大気中に無数存在する魔力の粒子の上を移動していたのだ。

 世界を埋め尽くすように蔓延する魔力の粒子を起点に、自分の魔力を惹きつけたり反発させたりして三次元の移動を可能にしていたのだ。


 慣れるのに時間はかかったが、これでもう、空中戦での不利はなくなった。

 ドラゴンの優位性を一つ潰してやったぜ。


 速度も申し分ない。

 すぐ近くの粒子へ移動すれば小回りが利き、遠くの粒子へ移動すれば高速で移動することが出来る。


 俺は、遠く飛び去ってしまったドラゴンの、さらにその向こうの魔力の粒子を意識で捉えて一気にそこまで移動する。

 打ち出されるように加速し、一瞬でドラゴンの前へと回り込む。



 ガァァアアアアアアアアアッ!



 突然現れた俺に対し、三つ首のドラゴンは威嚇を行うが、そんなものに効果はない。

 てめぇらなんか、怖くもねぇからな。


「こっから先へは行かせねぇぞ」

『貴様は……あの時の』


 へぇ、驚いた。

 こいつ、会話が出来るのか。

 ドラゴンの状態で会話が出来るのはエンペラードラゴンだけだと思ってたぜ。


「俺を知っているのか? 残念ながら、俺はお前を知らねぇけどな」

『それはそうだろう。私は生まれ変わったのだからな』

「生まれ変わった?」

『そうだ。エンペラードラゴンの生み出した新たな力によってな!』


 エンペラードラゴンめ。

 用心深いオッサンだぜ、まったく。俺たちが仕掛けることを見越して下準備していやがったのか。

 そして、今目の前にいるこれが、エンペラードラゴンの隠し玉ってわけだ。


 三つ首のドラゴンは各々の顔に不敵な笑みを浮かべる。


『以前のような不覚は取らんぞ。私は、複数の【ゼーレ】を得て、伝説級のドラゴンへ進化した!』

「『伝説』ってのは、生きてる内に本人が嬉しそうに語るもんじゃねぇよ。死んでから誰かに語り継いでもらうもんだ」

『同じことだ。私は、誰にも負けぬ。貴様にも、……今となってはエンペラードラゴンにすらな!』


 エンペラードラゴンよりも強い……だと?


「それで、調子に乗って魔界にまで乗り込んできたのか」

『そうだ。手始めに、目障りなゴールドドラゴンを葬ってやろうと思ってな』

「要するに、『自分は強くなったけど、ゴールドドラゴンはもっと強くなりそうだから今のうちに始末しなきゃ怖くて仕方ない』ってことか?」

『愚弄するか!?』

「事実を指摘されてキレるなよ。みっともねぇぞ」



 ガァァアアアアアアアアアッ!



 三つ首が一斉に牙を剝く。

 それぞれの口から氷のブレスと紫のイカヅチ、そして灼熱の業火が吐き出される。

 本当に複数の【ゼーレ】を持っている様だ。


 が……


「軽いな」


 俺は障壁を展開してそれらを防ぐ。

 確かに、複数の属性攻撃は大したものだ。これまで、こんなタイプのドラゴンは見たことがない。

 だが、それぞれがどうしようにもなく軽い。

 せめてどれか一つだけでも強力な威力を有していれば、それなりに手ごたえのある相手にはなったかもしれんが……こいつは何を根拠にこんな思い上がりをしてしまったんだ?

 本当の強さってのに触れたことがないのか?

 エンペラードラゴンの背中に守られて、強敵と対峙することなく、傍から戦場を眺めて、それで自分が勝ったと思っていたのだろう。それで、自分も強くなったと錯覚していたのだろう。


 断言する。

 こいつは、まともに戦ったことがない。


 魔神が跋扈する魔界へ飛び込んできたのがその証拠だ。

 魔神はみだりに人間界へは出て行かない。

 ガウルテリオの魔力が漏れ出しただけで、全土でパニックがおこるような世界だ。

 スコルやガブラカンレベルの魔神がひょっこり外に出るだけで、付近の生態系は狂い、人間界は一気に荒廃していくことだろう。

 それを知っているから、一流の魔神は外へは出ないのだ。

 まぁ、外に出たがるのはカラヒラゾンのような『ド低レベル』の魔獣か、ミーミルのような学者タイプで戦闘は苦手な魔神くらいだろう。ホントにやばい連中は魔界に自分の縄張りを持っているし、わざわざ魔界を出ようなどとはしないのだ。


 それだというのに、外の魔獣が単身で魔界に乗り込んできて、我が物顔で空を飛びまわるだなんて。

 撃ち落としてくださいと言っているようなものだ。

 無知にもほどがある。


 もしかしたら、エンペラードラゴンはあえてこいつの暴走を見過ごしているんじゃないか?

 強くしてやったものの、精神の方が力に追いつかず愚かな行動に走るこいつを見放し、さっさと誰かに処分されることを望んでいるとか……ドラゴンの【ゼーレ】は絶対数が決まっているらしいし、こいつに預けておくくらいなら次の者へ託した方が戦力になるとエンペラードラゴンが考えたとしても、俺は別に驚かない。

 むしろ、その考えは正しいとすら思う。


 こいつはダメだ。

 まるで使えない。


 おそらく、シルヴァネール襲撃も、こいつの単独行動なのだろう。


 これでエンペラードラゴンに勝てるなどと、本気で思っているのか?


「……あぁ、めんどくせぇ」

『なっ!? 貴様、私を愚弄するのか!?』

「お前なんかのためにお袋の魔力借りちまった自分を盛大に罵ってやりたい気分だよ。こんな雑魚、放っておいたってお袋の元までたどり着けやしなかったんだ」

『ふざけるな! 私は伝説だ! 魔神共が束になってかかってきたところで返り討ちにしてくれるわ!』

「あ…………そ」


 ホント、呆れる。

 ……それはもう、ムカつくほどに呆れ果てる。


「じゃあ……見せてやるよ」

『っ!?』


 俺は魔力を全身に纏い、魔法発動の効率化を図る。

 これをすると、ただでさえだだ漏れの俺の殺気が一層溢れ出てしまって、付近が荒んだ空気になってしまうのだが…………この前、獰猛な魔獣にガチ泣きされたのにはちょっと傷ついた……いや、お前、散々暴れ回っといて泣くとか……みたいな?

 けどまぁ……


 こういうのぼせあがったバカにはいいお灸になるか。


『ひっ!?』


 三つ首のドラゴンは体を引き、わずかに後退する。


『ま、……魔神だったのか、貴様っ!?』

「人間だよ。ハンサムで、優しくて、ほんのちょっとおっぱいが大好きな、人間さ」

『普通の人間がこれほど巨大な魔力を持っているものか!』


 魔力はお前の方が持ってるだろうが。

 ただ、俺はその使い方が上手いだけで。

 テメェが魔力を百使ってやるところを、俺は一か二程度でやってのけちまうだけでな。

 それによ。


「普通だなんて言ってねぇだろ。俺は、特別製なのさ」


 生まれた瞬間からずっとな。


「……さぁ。本当に強いヤツの力を見せてやるぜ」


 右腕に魔力を集中させる。

 そして、大気中の魔力の粒子にその魔力を伝達し、一気に数十倍の大きさに膨れ上がらせる。


 粉塵爆発というものがある。

 大したことのない炎でも、空気中に舞った細かな粒子に次々引火していき巨大な炎へと急成長する爆発だ。


 それと同じ要領で、魔力は大気中の魔力の粒子に伝達されていく。


 さて特大の魔法をお見舞いしてやるかな。

 詠唱?

 必要ない。

 これは、もうすでに俺の魔法なのだから。


「喰らいやがれ!」

『わ、わぁぁあああっ!?』


 三つ首のドラゴンは俺の魔力を目の当たりにして完全に怖気づき、背中を晒して逃げ出した。

 遅い!

 そんな速度じゃ、俺の魔法からは逃げられないぞ!


 右腕を突き出し、手のひらを三つ首のドラゴンに向ける。

 そうだ! 何かかっこいい必殺技名でも叫ぼう! そしたらヒーローみたいでかっこいい!

 なんて名前にしようかなぁ?

 最初に付ける名前だから、やっぱかっこよくて、俺ならではって感じがいいよな。

 う~ん……何にしようかなぁ…………


「マーヴィン・エンドレス……いや、エレガント……エレファント? って、誰がエレファントだ!?」


 なんてことを考えていると……



 ガァァアアアアアアアアアッ!



 三つ首のドラゴンが悲鳴を上げて落下して行った。

 …………え?


 何が起こったのか理解出来ずに三つ首のドラゴンが落ちて行った先をジッと見つめる。

 と、そこにデカい魔神と、その肩に乗った見慣れた人物を見つけた。


「お婿はぁ~ん! オラ、ちゃ~んと仕留めただぞ~!」

「……トシコ」


 お前……俺のかっこいいシーンを…………よくも。


「喰らえ! マーヴィン・エレファント!」


 俺の右腕から黒い稲妻が迸り、トシコを乗せたカブラカンへと向かって飛んでいく。


「なにすんのじゃぁああああっ!?」

「カブラカン、頭さ低くして踏ん張るんだべ!」


 トシコは叫び、すぐさま矢を放つ。

 トシコの放った矢は、俺の放った黒い稲妻と衝突し激しいスパークをまき散らしたのち完全に消失した。

 ……互角だと!?

 いや、めっちゃ手加減したけども、完全に防がれるとは思わなかった。

 カブラカンが「あばばば」する姿を見て大笑いしてやろうと思っていたのに。


「なぁにするんだべか、お婿はん!?」


 トシコたちのもとへと飛んでいくと、トシコがぷりぷりと怒っていた。


「お前、強くなったな」

「んだべか?」

「あぁ。正直驚いたよ」

「そ、そうだべか? そがん驚いたがか?」

「トシコは頑張り屋だからな。大したもんだよ」

「な、なぁ~んね。そがん褒めたぁかて、なぁ~んもでんがよぉ! ヤんだぁ、もう! なんか小っ恥ずかしいだよぉ!」


 トシコは嬉しそうににやける頬を両手で押さえ、体をもじもじとくねらせる。

 うん、やっぱ三ヶ月あっても訛りは治らなかったかぁ。


「だども、いきなり魔法放つのは酷かでねぇだか?」

「いや、カブラカンをちょっと焦がしてやろうとしただけで、お前に危害を加えるつもりはなかったぞ」

「なんだべ。そんだけなら防ぐ必要なかったべな」

「オイ、コラァ! トシコさん、それはあんまりじゃあ!」

「黙るだ」

「……ぶ、ぶひぃ」


 うん。相変わらずだな。


「ほんで、だな……お婿はん」


 トシコが弓を置き、服装をただし、姿勢を整えて、淑やかに俺を見つめて来る。


「久しぶりやね」

「そうだな」

「そんで、オラを見て、どう思うと?」

「どうって?」

「久しぶりに見たら、女に磨きがかかったなぁとか、やっぱベッピンだべなぁとか」

「あぁ。訛りが酷いな」

「もう! お婿はんのいけずぅ!」


 トシコが俺の胸をぽかぽかと叩く。

 なんだなんだ、このシチュエーションは?

 なんか、物凄く甘えられてる気がするんだが?


「オラ、お婿はんに会えんかったこの三ヶ月、一度たりともお婿はんのこと忘れたことなどなかっただよ……」


 しだれかかり、俺の胸に「の」の字を書くトシコ。

 こいつ、そんなに俺のことを……


「だって、ずっと『おっぱい!』ちいう声ば聞こえとったしねぇ」

「なんで単語で俺を思い出すんだよ」

「アレば、お婿はんの声やろ?」

「お前なぁ。俺が魔界のあちこちで『おっぱい!』なんて叫ぶと思うか?」

「思うだ」

「おい」

「むしろ、お婿はん以外にはそんな人おらんと思うてるだ」


 まったく、お袋といいトシコといい……

 俺はそこまでおっぱいおっぱい騒いでねぇよ。ほんのちょっとだけだ。

 とにかく、魔界中でおっぱいとか叫んでいたヤツを見つけたらとっちめてやらなきゃな。


「んでね、お婿はん」

「まだ何かあるのか?」

「久しぶりだで、オラのご飯が恋しくなっとぉやないべか?」

「ん~、たしかに、トシコの飯を久しく食ってないよなぁ」

「だべ? ほだから、オラご飯さ作ってやろうかと思いよるとじゃ」


 まぁ、他の面々を待っている間に作ってもらう分には問題ないかな。


「それじゃあ、頼もうかな」

「んだ! あ、でもその前に……」


 パシリと手を打ちならし、トシコが服の裾を摘まんでもじもじさせながら上目づかいで俺を見つめて来る。


「ちょっと、聞きたかことがあるがぁ」

「聞きたいこと? なんだよ」

「ご飯にするだか? 先にお風呂? そ・れ・と・も、オラ?」

「ご飯」

「んもぉ~! お婿はんのいけずぅ~!」


 なんだよ。

 ご飯作ってくれるんじゃないのかよ。

 つか、お風呂って、どこで入るつもりなんだよ。


「ぬしゃぁら、そんなのんきなこと言うとってええんか?」


 カブラカンが呆れ顔で俺を睨む。


「龍族は仲間の【ゼーレ】を感知出来ると言うておったじゃろう」

「魔力に大きな動きがあると、場所とかまで分かるらしいな」

「で、さっきトシコさんが一頭撃ち落としたじゃろうが」

「「……あ」」


 俺とトシコはそろって声を上げる。

 あの三つ首のドラゴンを撃ち落としたことによって、俺たちの動きがエンペラードラゴンに知られたかもしれないのだ。


 いやいやいや。

 魔界へ侵入してきたドラゴンが撃ち落とされただけで、俺たちの仕業とは思うまい。

 なにせ、魔界には魔神が沢山いるんだからな。


「ゴールドドラゴンを狙って魔界に来た龍族が、逃げるようにして引き返し、その途中で打ち落とされりゃあ、誰がやったか大体の想像はつくじゃろうが」

「お前、なんであの三つ首がシルヴァネールを狙ってたこと知ってんだよ?」

「あっちはガウルテリオの住処があるほうこうじゃあ。ちょっと考えればわかるわい」

「へぇ~、頭悪そうなのに、凄いな。褒めて遣わす」

「全然褒めとらんじゃろう、お前!?」


 カブラカンが腕を振り回す。

 流石、本体。腕を一振りしただけで突風が巻き起こる。


「とにかく、急いで人間界へ戻った方がええじゃろう。出口で待ち伏せでもされりゃあ敵わんからのぉ」

「頭悪そうなのに、よく気が回るなぁ。褒めて遣わす」

「だから、褒めとらん!」


 少々心配性過ぎな気もするが、しかし、出入り口を押さえられるのは避けたいか。


「じゃあ、俺とトシコで先に行くから、お前は集合場所で待機してあとから来る連中に伝えてくれ」

「まかせろじゃあ」


 フランカがいれば、空を飛んで次元の穴を越えることも、その後俺たちの居場所を見つけることも可能だろう。

 俺たちは一足先に人間界へ戻るとするか。


「トシコ、俺に掴まれ」

「おぉ、これが『君の瞳ば逮捕する』っちゅうやつやね!?」

「……いや、違うけど?」

「村で一番トレンディなマツコおばさんが言うてたがよ。一度は言われてみたか、シビれるセリフじゃね~ぇ!」

「いや、だから……お前が自発的に俺に捕まるんだよ」

「あ! オラ、お姫様抱っこばされてみたか!」

「……お前な」

「お婿はん!」

「……なんだよ」

「させてあげるだ!」

「『してください』だろうが!」


 なんなの、こいつの若干上から目線!?

 いや、綺麗だよ? 物凄い美人なんだけどさ、トシコだからさぁ!

 料理も美味いし、家事も完璧だし、気遣いも出来るいい女だよ? でも、トシコだからさぁ!


「ほらぁ~、は・や・くぅ~!」


 なんだろう。イライラする。


「途中で落としたらごめんな」

「大丈夫だべ。……オラ、死んでもお婿はんを離さねぇべ」


 怖い怖い怖い怖い!

 なんか怖ぇよ、お前ぇのその目!


 がっしりと首を掴まれ、トシコが俺に全体重をかけて来る。

 この体勢はもう、お姫様抱っこ以外認めないという意思表示だろう。

 まぁ、いいけどな。


「それじゃ、行くぞ」

「んだ!」

「ガウルテリオの息子!」

「なんだよ……えっと……カサブタン?」

「カブラカンじゃ! ぬっしゃあ、ここにきて名前間違うか!?」

「冗談だよ、冗談」

「まったく」

「じゃあ、後のことは頼むぞ、コブタサン」

「カブラカン!」


 からかうと面白いカブラカンがダンダンと地面を踏み鳴らす。

 その度に魔界全土が微かに揺れる。

 ……バケモノだなぁ、こいつも。


「じゃ、行ってくる!」

「カブラカン、三ヶ月おおきにね!」

「トシコさん! ワシは手伝いに行けんが、無事を祈っとるぞぉ!」


 カブラカンに別れを告げ、俺はトシコを抱いて空へ舞い上がる。

 次元の穴付近の魔力の粒子を捉えて急上昇する。


 その速度が怖かったのか、トシコがギュッと俺に抱き付いてくる。

 喉元に頭をくっつけて、首を抱く腕に力を込める。


「……お婿はん」

「ん?」

「…………会いたかっただ」


 俯いたまま、視線を上げないまま呟いたトシコの声はなんだかとてもか細くて、そんな必要もないほどこいつの強さは知っているにもかかわらず……守ってやりたくなった。


「きっと、ルゥシールも同じこと、思いよるやろうね」


 寂しいと……

 会いたいと……


「絶対、助け出してあげようね」

「あぁ。絶対な」

「んだ。それでこそオラのお婿はんだべな」


 顔を上げたトシコはニカッと笑い、いつものような明るい表情をしていた。


 少しずつ、日常が戻って来る。

 こいつらが傍にいてくれる。

 そんな、俺の日常が。



 絶対に取り戻してやる。



 そんな思いを胸に元の穴を通り抜け、俺は人間界へと帰還した。








ご来訪ありがとうございます。



ようやく、修行を終え人間界へ向かいます。

ご主人さん、強くなりました。




作中に出てきた飛行方法なのですが、

磁石を思い浮かべてもらえれば分かりやすいのではないかなと思います。


板の下に無数の電磁石が設置され、その上に鉄の玉を置く。

それで、電気を流すと鉄の玉が吸い寄せられて移動を開始する。

次々にON・OFFを繰り返すことで自在に鉄の玉を操作する。


といった感じです。



・ ・ ・ 1 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


・ ・ ・ ↑ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


・ ・ ・ ○---3----ー-ーー→2


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・



↑上図のように、無数の点があり、

その中の点「1」をアクティブにすれば「○」は上昇し、

「2」をアクティブにすれば右方向へ移動します。


また、二点間を移動する際、次点へ到達するまでにかかる時間は一定となっており、

それ故に、「1」よりも距離のある「2」へ移動する方が速度が上がる。


さらに、一度「2」へ移動を開始し、途中で「3」をアクティブにすることで、

「2」へ向かう速度で「3」まで移動することが可能となる。

言い換えれば、「2」へ高速で向かった後「3」で急ブレーキをかけることが可能となる。


魔力の粒子の探知能力の強弱により、より微弱な粒子を感知することが可能となり、

その分小回りの利く移動が可能になる。

また、より遠くの粒子を感知することが出来れば更なる高速移動が可能になる。




――と、そんな原理になっております。



空を飛ぶ(宙に浮く)方法を考えた時、


・磁石の反発を利用する

・ジェット噴射で本体を浮かせる

・上から糸でぶら下げる


くらいしか思いつかなかったので、その中で最もありそうな、

上から糸でぶら下げる(=舞台に飛ぶための仕掛けが施されている)を採用しました。


ロリ巨乳メイベルが使っていたのは『ジェット噴射』による飛行でしたが、

これは、魔力の消費が大きいとこと、移動時の小回りが利かないこと、そして、真下に人がいると風で髪の毛がグチャグチャになる、といった問題点がありました。(ヅラは飛ぶ!)


しかし、魔界流の飛行術なら、室内でも静かに飛行が出来ます。(ヅラの人も安心!)




そんなわけで、ようやく本腰入れて再開と相成りました!

これからまた頑張ります!

どうぞよろしくお願いします!




一切の血縁関係の無い、育ての母のおっぱいは、有りっぱいなのか無しっぱいなのか、

大きな命題を残しつつ、龍族との決戦が始まります!


死闘の果てに、答えはきっとある。



………………いや、ないか。





今後とも、どうぞよろしく願いたします!!


とまと

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