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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
125/150

125話 それぞれの時間

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 すべての音が無くなり、すべての感覚がマヒしている。

 わたしは今、仮死状態へと陥っている。

 自らの意志で体力を限りなくゼロへと近付け、ついで魔力を限りなくゼロへと近付ける。


 そして、後に残るのは剥き出しの【ゼーレ】のみ。


 肉体が意識から切り離される間隔……

 今のわたしを包むのは、ただただ静かな空間。


 そこに、聞き慣れた声が響いてくる。

 心へ、直接語り掛けるように……



 ――ルゥシール。我が娘よ。


 はい、父上。


 ――これより、闇の【ゼーレ】を抑える。


 ……はい。父上。


 ――魔力を奪いし龍の楔を、これよりお前の体に打ち込んでゆく。


 はい。父上。


 ――仮死状態でも、痛みがあるとは思われる。堪えるのだぞ。


 ……はい、父上。


 ――では……


 うっ……


 ――辛いか?


 …………大丈夫です。これくらいなら……耐えられ……ます……


 ――我が娘よ。


 …………はい。


 ――ルゥ。


 ……はい。


 ――すまない。


 …………いいえ。仕方のないことですから。


 ――私が、もっと早くに朽ち果てていれば、お前は闇ではなく無の【ゼーレ】を得ていたことだろう。


 いいえ、父上。わたしに、エンペラードラゴンは荷が重すぎますよ。それに……


 ――それに?


 ……わたしのために誰かが犠牲になる姿は、もう見たくありません。


 ――ラミラか……あいつは、満足して死んでいったと思うぞ。


 それでもです。それでも、わたしは…………もう、嫌なんです。


 ――そうか。


 散々逃げ回って、色んな方にご迷惑をかけてきたわたしが言うのは、おこがましいことですが……


 ――お前は、少し他人を気遣い過ぎる。もっと、わがままでもよいのだぞ。


 わたしは、わがままでしたよ。最後の一年は、本当に…………本当に自由に生きることが出来ました。そのせいで、シルヴァや父上には心労をおかけしてしまいましたが……


 ――それをシルヴァに言えば、ヤツはお前を叱るだろう。私も、そうだ。


 ふふ……わたしは、叱られてばかりですね。


 ――ルゥよ。


 はい。父上。


 ――思い残すことは、無いな?


 思い残すこと…………




『ルゥシール!』




 瞼を閉じれば、浮かんでくるのはいつも同じ顔で……




『よろしくな、おっぱいーる』

『ルゥシールですよっ!』




 あんなにおかしくて、楽しくて、幸せな時間は、この先千年生きても、きっともう二度と味わえないと確信出来る。




『俺、お前のことが、好きだ』




 ……あんな、素敵な言葉を言ってもらえて……もう、思い残すことなんて…………


『どうした、ルゥシール? 泣いてるのか?』


 ……泣いて……ません、よ…………


『じゃあ、ちょっとこっち向いてみろよ』


 それは、現在ちょっと出来かねます。


『なんでだよ?』


 諸事情により、です。


『あ、あんなところにすげぇデカい木イチゴが!?』


 えっ、どこですか!?


『ふふん。引っかかったな』


 むぅ! 酷いです、ご主人さん!


『ほら見ろ、泣いてんじゃねぇか』


 泣いて、ませんもん……


『ルゥシール……ほら』


 え……ほら、とは?


『こっち来い。撫でてやるから』


 ぅえっ!? い、いい、いいえ、大丈夫です、そんな、子供じゃないんですから、泣いたから頭をいいこいいこしてもらうなんて……


『頭じゃない、乳を撫でてやると言ってるんだ』


 それ、ご主人さんが撫でたいだけじゃないですかっ!?


『なんなら、揉んでやってもいいぞ?』


 むぅ! むぅ! むぅ! ご主人さんはデリカシーに欠けます! こういう時くらい、優しく、スマートに、王子様らしく……!


『ルゥシール。もう泣くな』


 ………………急に、真面目な声を出すのは、ズルイです。


『俺がそばにいてやるから』


 そばに……


『ずっと、ずっと一緒にいてやるから。もう、泣くな』


 ずっと、一緒に……


 ……ありがとうございます。

 そうなれたら、どんなに素敵だったでしょうか。

 でも、無理なんです。


 わたしは、ダークドラゴンですから……


 もう、おしまい。

 わたしの時間は、これでもう、終わったんです。




『全部終わったら、二人で一緒に、美味いもんでも食おうな』




 …………ご主人さん。


 ありがとう、ございます。


 あなたのおかげで、わたしは最後の時まで、幸せでいられます。


 ご主人さん……



 ご主人さんは、今、何をしていますか?


 きっと、たぶん……


 また、おっぱいのことでも考えているのでしょうね。



 ふふふ……



 ご主人さん。

 ほどほどにしてくださいよ。


 わたしのことを思ってくれるのなら……あんまり、他の人のおっぱいを揉んじゃ、イヤ、ですよ。




 ご主人さん。


 おやすみなさい。



 ご主人さん。




 ご主人さ…………




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「うぉおりゃあああああ!」


 俺は叫ぶ。

 声の限りに、喉が裂けるほどに、力の限りに叫ぶ。

 目の前の魔神に向かって、魂の雄叫びをぶつける。


「お前のおっぱいを揉ませろぉぉおおおおおおおっ!」

「いやぁぁああ! くるな! 変態!」


 嫌と泣こうが、変態と喚こうが、俺は一切の容赦をしない。

 揉む!

 揉んで!

 揉んで!

 揉みまくる!


 デカパイ、ペチャパイ、チッパイにイッパイと、ありとあらゆるおっぱいを揉みまくりの魔界一周一人旅。


 触れることなく魔力を奪えるようになった俺は、触れれば従来の数十倍の速度で魔力を吸収出来るようになっていた。

 一瞬で、根こそぎだ。


「おらおら、魔神共! 揉まれたい奴から前に出ろ! 順に揉み倒してやるぜ!」

「へ、変態だぁ!? 変態が魔界を闊歩している! 【搾乳】という名の変態が!」


 魔力を視られる目と、ミーミルから得た知識で、俺は魔神共の使う魔方式を解読できるようになっていた。

 奪った魔力を糧に、やつらの魔法を勝手に拝借する。


 最初の一週間は出遅れた感満々だったが、ここ数週間はいいペースを維持している、これまでの遅れを巻き返す勢いだ。


 魔法の構造式を分解してゼロから組み直す。

 その理解に時間がかかってしまったが、一度分かってしまえばあとは応用の繰り返しだ。

 あとは一つでも多くこの『眼』で見て回るだけだ。


 故に、時間がな!

 故に、魔力が必要だ!


「よぉく聞け、魔神共! 男も女も、老いも若きも容赦しねぇ! 全員、乳を放り出して俺の到着を待ち構えていやがれ!」


 俺は、ルゥシールのために、魔界中のおっぱいを揉みつくす!


 揉んで!

 揉んで!

 揉んで!

 揉みまくってやる!


 そう、ルゥシールのために!


「おっぱいをぉぉぉ………………揉ませろぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」



 これが、後に『搾乳大行進』と呼ばれる歴史的事件として数千年後まで語り継がれていくことになるのだが……それはまた、別の話。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「おっぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい…………」


 魔界の空に、奇妙な声が響き渡り、私は思う。


 あぁ、【搾乳】は元気でやっているのね、と。


「どないしたんや、姉さん?」

「……なんでもないわ。さぁ、休憩は終わりよ。もう一本お願いするわ」

「えぇ……もうかいな……敵わんなぁ、ホンマ」

「……時間がないのよ。あと二ヵ月で、私はあなたたちレベルにならなければいけないのだから」

「へいへい。姉さんの頼みなら、どんなことでも聞きまっせ」

「……じゃあ、本気でかかってきて」

「ええんか? 今度は、『死にかけ』程度ではすまへんかもしれへんで?」

「……死んだら、その程度だったということよ」

「ほなら、行きまっせっ!」


 巨大な魔力の塊が私に向かってくる。

 それを視認できたのはほんの一瞬のこと。

 次の瞬間には、私の体ははるか上空へと突き上げられていた。


 まだだ……


 まだまだ、私は弱い……


 もっと……


 もっと強く…………


 あの人の、隣にいられるように……


 もっと、もっともっと、強くならなければ……



「……相変わらずバカで、安心したわ、【搾乳】」



 微かにでも声を聞いたせいだろう。

 今日は、限界を一歩越えられそうな、そんな気がした。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「おっぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい…………」


 魔界の空に、奇妙な声が響き渡り、ワタシは思う。


 主は、相変わらずだな、と。


「なんっちゃ?」

「気にすることはない。先を急ごう、エアレー」

「うむ。しかし、本当にいるっちゃか? 魔界に、それもたった一人で生きている『人間』なんて……」

「いる。目撃情報を聞く限り、間違いなくあの人はいる」

「伝説の【ドラゴンスレイヤー】……噂通りの男であればいいっちゃけど……」

「会えばわかるさ。極度の変人ではあるが、その強さはワタシが保証する」

「テオドラがそうまで言う人間か……オイラも会ってみたくなったっちゃ」

「ならば行こう! ワタシの父に会いに!」


 目の前には切り立った崖がそびえる。

 この向こうに父がいるというのなら、この崖を超えてやる。

 その先にさらなる試練が待ち構えているというのなら、それすら乗り越えてやる。

 ドラゴンに勝つには、【ドラゴンスレイヤー】の力が必要なのだ。

 ワタシにも、その血が流れているのなら、それを使いこなしたい。

 なんとしてでも見つけ出し、そして、ワタシはなってみせる。


【ドラゴンスレイヤー】に!


「主よ……楽しみししていてはくれまいか。次会う時には、もっと素敵なワタシになっていると約束するから」


 微かにでも声を聞けてよかった。

 ワタシは、どんな障害をも越えて行く。そう誓った。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「おっぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい……ぱぁーい…………」


 魔界ん空に、奇妙な声ば響き渡って、オラぁ思うただ。


 お婿はん、魔界でもエロっこいな、と。



「トシコさーん! どうしたじゃあ?」

「なんでんなかぁー! ほだら、もう一発行くだでなぁー!」

「おー! どんと来いじゃー!」


 魔力さ、鏃ん先端の、ほ~~~んに、ちまっこい一点へと集中ばさせる。

 ビリビリと肌ん焼くみたいな熱ば感じる。


 まだだべ……まだいけるべ……もっと…………もっとだ…………


 限界まで集中さして、意識ば途切れかかったその一瞬前に、ピンと張りつめた弦ば解放してやる。

 指先から弾かれた弦が矢を押し出し、魔力が燃え盛るように一筋の光線ごつなってカブラカンさ直撃する。

 だいたい、700メートルんほど先にいるカブラカンの腕ば吹き飛びよっただ。


「どがん~!?」

「まだまだじゃあー!」


 だども、あっちゅう間にカブラカンの腕ば修復されって、ダメージばゼロっちゅうことば思い知らされる。


 ほんに……カブラカンば、タフ過ぎて骨ば折れるべな……な~んぼ壊しても壊しても、す~っぐ元通りんなってまうだ。

 一定以上のダメージさ与えれば、修復ば起こらんち言いよるだども、一向にそがん現象ばおきやんと。

 カブラカンは、「貫けるだけ大したもんじゃあ」ち言うだども……オラ、『そこそこ強い』だけでは話んならんち。


 毎日、毎日、魔力ば空んなるまで矢ぁば射って、ぶっ倒れて、寝て、起きて、また矢ぁば射る。


 エルフん魔力ば多いんは、こういう地道で、無茶苦茶な修練ばしゆうからだで。

 オラ、もう一回基礎からやり直して……もっともっと強うならんと。


 ほうでなけりゃ……お婿はんの隣ば、おる資格ないもんの。



「お婿はん。こん次こそ絶対『オメさほんにえぇ女じゃなぁ』ち、言うわせてみせっけんね!」



 微かにでも声を聞けてよかった。

 オラ、今寝たら……ええ夢さ、見れそうだ……








ご来訪ありがとうございます。


ご無沙汰しております。

とまとです。




お待ちくださっていた方、ありがとうございます。


諸事情により一週間ほどお休みをいただいておりました。


ちょこっとバタバタとしておりまして……

でも「絶対一週間で戻ってきてやる!」と、心に誓った私は、

必死に、それはもう必死に「諸事情」に取り掛かりました。




「俺、このバタバタが終わったら、小説書くんだ」




そんなセリフが、フラグだったとは気付かずに……


なんやかんやあり、なんとかかんとか用事を片付け、

約束通り一週間で戻ってこれる!


そう思った時、それは発覚しました。




……諸事情を一週間で片付けたら、書いてる時間、ないじゃん。




つまりあれです。

悟空が界王様のとこでギリギリまで修行していて「帰りの時間計算にいれてなかったぁ!」というやつです。

アレと同じです。

つまり、私は悟空です。


オッス! オラ悟空!



というわけで、

申しわけありませんが、もう一回クッションを挟ませていただきます。


えっと、平たく言えば、





次回更新は日曜日です!!





ごめんなさい。 m(_ _;)m スミマセン ホント色々、スミマセン









前回、「次回は修行明け!」的な予告をしましたが、

今回は修行中をチラ見という感じでした。


ちなみに、魔神には人型以外の者もおりまして、

ブタや犬の姿の魔神のおっぱいはいっぱいあって、

それが、ご主人さんの言っていた『イッパイ』なのです。


デカパイ、ペチャパイ、チッパイ、イッパイ、どんとこい!


確実に、ご主人さんはパワーアップしています!

どんなおっぱいも許容できる、大きな男へと!!


次回こそ、修行明けからの再開になる……はず……です……たぶん。




最後に、

また間が空いてしまうので、こんなオマケを皆様に。







~ オ マ ケ ~




ご主人さん「ルゥシール」

ルゥシール「はい?」

ご主人さん「お前、父親のことを、『父上』って呼んでるのか?」

ルゥシール「はい。子供のころからそう呼んでいました」

ご主人さん「なるほど……つまり、それが『on the おっぱい』ということだな」

ルゥシール「違いますよっ!?」

フランカ「……ルゥシールの言う通りよ、【搾乳】」

ルゥシール「あ、フランカさん」

フランカ「『父上』なら、『バストアップ』と訳すべき」

ルゥシール「わたし、そんなこと言ってませんけどもっ!?」

ご主人さん「俺は強くなって、絶対に『on the おっぱい』に勝ってみせる!」

フランカ「……えぇ。目にもの見せてやりましょう、『バストアップ』に!」

ルゥシール「お二人とも、聞いてください、わたしの話をー!」

ご主人さん「なんだよ、乳の娘」

フランカ「……乳娘」

ルゥシール「悪口ですか? わたし、今、酷いこと言われてますよね!?」

ご主人さん「今、かっこよく意気込み的なことを叫んでいるところなんだから、ちょっと『し~』な」

ルゥシール「邪魔ですか、わたし!? 正論しか言っていないつもりなんですが!?」

ご主人さん「待っていろ、『サイドバスト』!」

ルゥシール「横乳になってますよ!?」

フランカ「……待っていなさい、『豊胸手術』!」

ルゥシール「バストアップからもかけ離れ始めましたよ!?」

ご主人さん「待っていろ……」

フランカ「……待っていなさい」

ご主人さん・フランカ「「おっぱい!」」

ルゥシール「人の父で遊ばないでくださいってばぁ! むぅ!」







それでは、またお会いできることを祈りまして……



次回もよろしくお願いいたします。



とまと

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