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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
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123話 遥かなる上空へ

「こっちだよ! さぁ、早く乗って!」


 王都を出て、外壁の外――森の中のひらけた場所に、まるで人目を避けるように巨大な石の箱が置かれていた。

 ……これが、飛ぶのか?


 ポリメニスが俺たちを手招きしてその箱へと誘導する。

 長さが15メートルほどの大きな箱で、車輪の無い荷車のような形をしている。

 そして、それを引くためなのか……箱の両サイドに各二体ずつ、羽の生えたゴーレムが鎮座していた。

 ガーゴイルか?


「行先はこのガーゴイルにインプットしてあるから、君たちはただ乗っていればいいよ」

「操縦は?」

「君たちに任せるなんて、そんな危ない賭けしないよぉ。全自動だから、心配しないで」


 全自動は全自動で、ちょっと心配なんだが……不測の事態が起こった時とか。


「それじゃあ、四天王は準備して」


 ポリメニスに言われ、四天王がそれぞれガーゴイルの前に立つ。


「なにをするんだ?」

「彼らの魔力で飛ぶんだよ。【魔界蟲】を介して、魔力を注ぎ込むんだ」

「ゴーレム単体では飛べないのかよ?」

「君らを乗せるから、普段よりパワーが必要になってるんだよ。それに、守りも固めなきゃいけないしね」


 ポリメニスは俺に顔を近付け、小声で言う。


「……宰相派の人間が君たちを狙って、必ず動きを見せるはずだよ」

「それで、こんな時間に出発するのか」

「まぁね。と言っても、目くらましにもならないだろうけど」


 無駄だと分かりつつも、その無駄なことをやらなければいけないことってのはあるものだ。

 宰相派ってことは、魔導ギルドがまるごと出て来るってことなんだろうな…………あれ?


「そう言えば、バスコ・トロイは?」


 目覚めてから一度も見ていない。


「彼なら、仲間に合流すると言っていたよ」

「仲間?」


 新しく作ったという組織のことか。


「彼と四天王、それに王女パルヴィとウルスラさん、他王女派の官吏たちには私を手伝ってもらうよ」

「おう、くれてやるから好きにしろ」

「……その言葉、君が言うとどうも胡散臭いんだけど……君、王位を貰える確率ゼロだったじゃない」


 ぶつぶつと不満を漏らすポリメニスを無視して、俺はガーゴイルと車輪の無い荷車を見つめる。


「こいつ、何か名前付いてるのか?」

「飛び箱とかでいいんじゃない?」

「雑だな、おい!?」

「じゃあ、飛空艇」

「……そんないいもんか、これが?」

「ほら、文句言うじゃない。だから飛び箱でもなんでもいいの」

「分かった。分かったから膨れんなって。じゃあ、この飛空艇借りていくぜ」

「お好きにどーぞ」


 何故かへそを曲げてしまったポリメニス。

 こいつは思い通りに行かないことがあるとすぐへそを曲げる。王様に向かないんじゃないかな、こういうこらえ性のないヤツは。


「じゃ、乗り込むぞ」


 まず俺が箱へと乗り込む。

 周囲を囲うヘリは腰の高さまである。それだけだ。屋根もなければ幌もない。

 石で出来た箱。そこにガーゴイルが付いているだけだ。


「椅子もないのか……」

「観光用じゃないからね」

「運搬用ってわけでもねぇだろうが」

「最悪、壊れちゃってもいいように作ってあるから」

「……壊れたら俺らが真っ逆さまじゃねぇかよ」

「君らを送り届けた後壊れてもいいように、だよ」


 ポリメニスはこの飛空艇を回収するつもりはないようだ。

 そんなに魔力を消費するのだろうか? こいつは片道専用、行ったら行きっぱなしの様だ。


 俺に続いて、フランカ、テオドラ、トシコ、シルヴァネールが飛空艇に乗り込む。

 魔界へ行くのはこのメンバーのようだ。


「カブラカンはどうするんだ?」


 体長が5メートルもあるカブラカンが乗るとなると、流石に不安になる。

 だが、カブラカンは乗り込んでこず、テオドラの前へと立った。


「ガウルテリオから言われとるんじゃ。ワシの魔力をくれてやれとな」


 言うなり、カブラカンの体が発光する。


「次元の結界を塞ぐ魔法陣は、強力な結界じゃあ。破壊には相当な魔力が必要になるからな。ワシの魔力を残ってるだけくれてやるわぁ」


 輝きを増すカブラカンの体が魔力へと変換されていき、テオドラの持つ剣――ルスイスパーダへと吸い込まれていく。

 ルスイスパーダの許容量を大きく超える魔力量。だが、ルスイスパーダが吸収しきれなかった魔力は、まるで薄いベールのような形状となりその刀身を包み込んでいく。


「それじゃあの。無事を祈っとるぞ。それからトシコさん、もしよければワシの本体に会いに……」

「んじゃ、行くだべか!」


 カブラカンの姿が消え、最後にメッセージを残す。が、トシコはテンションが上がっているのかそのメッセージには気付かずに、拳を振り上げて気勢を上げる。

 ……カブラカン、どんまい!


「ポリメニスの旦那! 魔力の充填完了っす!」


 バプティストの言葉に、他の三人も頷く。

 準備が整ったようだ。


「それじゃ、しっかりね」

「ん? あぁ、そうか。魔法陣の破壊はお前の悲願でもあるんだっけな」

「ふふふ……まぁ確かに、私は魔法陣が破壊されれば後のことはどうなっても構わない立ち位置にいるんですがねぇ」


 ポリメニスが道化のような笑みを浮かべて言う。


「でも、ついでだから『お友達』の悲願達成のお手伝いもしてあげるよ」


 小憎たらしい顔を見て、皮肉のひとつでも言いたくなる。


「誰が友達だって?」

「あれ、もう親友にまでランクアップしてたっけ?」


 憎たらしい笑みが俺を見つめている。


 俺もそうだったが、生まれだの宿命だのを背負わされていると、ただの友達ってのが出来にくいものなのだ。

 まぁ、いいかな、別に。友達で。


「じゃ、借りてくぜポリッちゃん!」

「その仇名、なんかイヤー!」


 おぉ、その顔面白いな!

 よし、正式決定だ。


「……ありがとう、ポリッちゃん」

「では行ってくるぞ、ポリッちゃん!」

「魔法陣さ、きっちり壊してくるでな、ポリッちゃん!」

「おニィちゃんのことは私に任せて、ポリッちゃん」

「だから、やめてってばぁ!」


 愉快な泣き顔を晒して叫ぶポリッちゃん。

 その向こうには、俺たちを見送るパルヴィやウルスラの姿があり、四天王は地面の上で転がっていた。魔力欠乏症だろうか。


 ガーゴイルが石の翼を広げる。

 いよいよ跳び立とうかとした、その時――


「……っ!?」


 高速でこちらに接近する魔力を感知した。


「トシコ、そこ退け!」

「え!? なんだべ!?」


 慌てて飛び退くトシコに代わり、飛空艇最後部から外へと身を乗り出す。

 そこへ巨大な火球が飛んできた。


 魔法で攻撃されているのだ。


「お袋、試させてもらうぞ!」


 腕を伸ばすと、接近する火球の魔力が俺の手の中へと流れ込んでくる。

 核に直接触れることなく魔力を吸収することができた。

 これ、スゲェ!

 これで、ほとんどの魔法が防げるじゃねぇか。


「……敵襲?」


 フランカとテオドラが身構え、辺りを見渡す。

 シルヴァネールは俺の腰へとしがみ付く。……守ってくれているつもりのようだ。


「あそこ! 人がいるぞ!」


 テオドラが指差す方向へ視線を向ける。

 森の木々に隠れるように無数の人間が蠢いている気配がする。……が、空はまだ薄暗く、森の中なので余計に暗い。人影を確認するのも困難だ。


「……うっぷ」


 先ほど魔力を奪ったせいで、少し気持ち悪くなってきた……ルゥシールの魔力以外は、まだ気持ち悪くなるんだな……


 吐き出すついでに、俺は頭上へとまばゆい光を放つ。

 薄暗かった森の中が照らし出され、そこに数百人の魔導士の姿を確認した。

 ……あんなにいるのかよ。


「あれだけの集中砲火に、こいつは耐えられるのか?」

「……少しは、私たちで防がないといけないかもね」

「なんということだ。なるべく無駄な力は使いたくないのだが……」

「しょうがねぇべや。ほだら、まずはオラが……」


 トシコが弓を構える。


「……待って、おニィちゃん! 何かあったみたいだよ?」


 シルヴァネールの言う通り、何かがあったようで、森の向こうが騒がしくなる。魔導士たちが取り乱しているようだ。

 ……一体何が…………


「あんたたちは無駄な魔力を使わなくていいわよ!」


 騒がしい喧騒をかき分けて、俺の耳に飛び込んできたのは、そんな明朗な、聞き覚えのある声だった。


「こいつらは、あたしたちに任せて。アシノウラ」

「……エイミー!?」

「私たちもいます」

「いるよー!」


 森の中から、エイミーとナトリア、そしてルエラが姿を現した。

 その後ろから……バスコ・トロイが姿を見せる。


「バスコ・トロイ……じゃあ、新しい組織って?」

「そう。あたしが作った『魔女っ娘連盟』よっ!」


 おぉう……名前がダサい。


「っていうか…………」


 俺は、胸を張るエイミーをまじまじと見つめる。

 ……あぁ、そうか。

 なんだかんだで、オルミクル村を出てから一年近く経ってるのか……だからだろうか。


「お前…………変わったなぁ」


 幼く、こまっしゃくれた生意気な子供という面影は消え失せて、今では一人の美しい少女へと成長していた。

 赤い髪は伸び、美しく艶めいている。

 そして、何より驚いたのが…………


「エイミーに、おっぱいがある……」

「まっ、前からあったわよ、バカッ!」


 エイミーの胸元に、立派な膨らみが存在したのだ。


「……裏切り者ぉ…………」


 フランカが全身から真っ黒な怨念を噴き出させる。

 怖ぇ、怖ぇって!


「ま、魔法の勉強を始めてから、なんだか急に育ってきたのよ。魔力と関係あるのかしらね?」

「……じゃあ、何故私は育たないの?」


 エイミーを呪い殺さんとばかりに睨み付けるフランカ。

 だから、相手はまだ十三歳の子供だからな? な?


「子供の頃は大きくなって欲しいって思ってたけど……実際大きくなると邪魔なだけね。重いし、肩凝るし……」

「……それは宣戦布告ととってもいいのね?」

「誰だかしんねぇけんども、オラもそのケンカ買うちゃるべや!」

「私も……、参戦してあげる」


 トシコとシルヴァネールまでもが殺気を放つ。

 つかエイミー、お前わざとやってるだろ!?


 エイミーは、胸の膨らみを強調するように体を逸らせ、「やれやれね」と髪をかき上げる。

 胸もさることながら、手足もすらりと伸びて、すっかり大人っぽくなっている。


 ナトリアも落ち着いた雰囲気に磨きがかかり、もう立派な女性になっていた。……まだ十二歳のはずなんだが。

 ルエラも大きく成長しており、背がグンと伸びていた。


「……ルエラは可愛い」

「んだな、あの子は可愛いだ」

「可愛い、ルエラ」


 お前ら、胸のサイズで差別すんのやめてやれよ。


「まぁ、本当はもっといろいろ話を聞きたいところなんだけど……」


 そう話し始めたエイミー。その背後に、一人の騎士が突撃してくる。

「危ない!」と、こちらが叫ぶ前に、エイミーは慌てるそぶりも見せず淡々と魔法を発動させる。


「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」


 エイミーに襲い掛かった騎士が、逆に吹き飛ばされる。

 体の上で起こった爆発によって、鋼の鎧が粉々に砕け飛んでしまった。


 エイミーが高速詠唱を…………


 チラリと視線をスライドさせると、バスコ・トロイが大きく頷いていた。

 やっぱりお前が教えたのか……エイミー、どこまで成長していくんだよ。


「この騎士にも、枷を」

「はいなの、エイミーお姉ちゃん!」


 ルエラが元気よく言って、騎士の体を指さす。


「 ―― ・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ―― 」


 ルエラが詠唱を終えると、騎士の体に、光のロープが巻きつけられた。


 ……ルエラも高速詠唱を?

 チラリと視線をスライドさせると、バスコ・トロイがだらしない笑みを浮かべて大きく拍手していた。……あ、ロリコンがツルペタを贔屓してやがる。


 拘束した騎士を近くの木にもたれかけさせるナトリア。

 エイミーがルエラの頭を撫で、ルエラは嬉しそうに微笑む。

 ……なんか、ちょっと見ない間にこいつら本当に成長したなぁ。マジで組織じゃねぇか。


「時間がないみたいだから、話を聞くのは帰ってからでいいわ」


 エイミーが俺の前へと歩いてくる。


「絶対、帰って来なさいよね」

「あぁ。約束する」

「そっか……なら、よし」


 ニコッと笑うその顔は、幼さを残した以前のままの笑顔だった。


「こいつらはみんなあたしたちが抑えておくから、心配しないで出発しなさい」

「抑えるって……魔導士どももか?」

「そうよ。騎士はこの光のロープで。で、魔導士は……アレでね」


 エイミーが森の奥へと視線を向けると、エイミーの仲間らしき少年少女たちが魔導士を引き連れて森から姿を現した。

 その魔導士の胸には光の弾が埋め込まれていた……


「シレンシオ・ジュラメントか?」

「そうよ。私たち、全員あれをマスターしたから」


 全員?

 そう言われ、改めてエイミーの仲間らしき少年少女を見渡す。

 自信に満ち溢れた顔付き……こいつら、全員魔導士なのか?

 それも、全員がシレンシオ・ジュラメントを使える……いや、マスターしているってのか?


「一番下手っぴな子で四人までだったかな?」

「……なにがだ?」

「シレンシオ・ジュラメントで魔法を同時に封じられる数よ」


 一番下手な子で四人?


「……お前は?」

「あたし? そうねぇ……数えたことないけど……三千人くらいじゃない?」

「バケモノか!?」

「失礼ね! アシノウラに言われたくないわよ!」


 シレンシオ・ジュラメントは、かつて魔導ギルドに属する全魔導士に恐れられた魔法なんだぞ?

 それを、初級魔法みたいに軽く扱いやがって。


 バスコ・トロイが夢中になるのも頷ける。

 これはもうアレだ。

 新時代の組織なのだ。

 魔導ギルドは、もう古い。


 こいつらなら、ほんのわずかな人数で魔導ギルドを壊滅に追いやれるだろう。


「これでもまだ成長途中だから! いつか絶対、あんたより強くなってやるんだからね!」

「俺と張り合ってどうするんだよ?」

「いいの! あたしはあんたより強くなって……で、冒険に『連れて行ってあげる』わよ」


 こいつ……古の遺跡になかなか連れて行かなかったことをまだ根に持ってるのか?


「それから……胸だって…………」


 エイミーは一年足らずで急成長した胸を、両腕で押さえつけるように圧迫して、その状態で首だけをこちらに向ける。


「そのうち、ルゥシールを超えてやるんだから」


 なんてこった……

 上目づかいが様になっているじゃないか。

 でもな……


「あのおっぱいは、龍族でも規格外らしいぞ。魔神ガウルテリオよりデカいんだから、相当手ごわいぞ」

「うっさいわね! あたしはやると言ったことは絶対やるの!」


 ふんとそっぽを向く。

 その仕草は昔のままで、なんだかおかしかった。


 しかし、そうか……

 いつの日か、魔神にも龍族にも負けない最強のおっぱいが人類から誕生するかもしれないのか……

 楽しみにしておこう。


「エイミー」

「ん?」


 振り返ったエイミーに、俺は素直に言う。


「ありがとな。助かったよ」

「え…………あ、ま、まぁ、当然よ!」


 素直じゃないところも相変わらずだ。


「ナトリアとルエラもな!」

「皆様のご無事を、遠くよりお祈り申し上げております」

「帰ってきたらまた遊ぼうね、おにぃた~ん!」


 ナトリア……お前、前にもまして言葉が硬くなったな。

 あとパルヴィ。ルエラは子供だから、そんなマジ睨みしないでやってくれな。


「それじゃ、行ってくる」


 魔導士どもの邪魔は、もう入らないだろう。

 ポリメニスに視線を送ると、ポリメニスは片手を上げた。

 それと同時に、ガーゴイルが翼をはためかせ、飛空艇は上昇を始める。


 大きな羽音を響かせて、巨大な石の箱が浮上していく。



「行くぜ、魔界へ!」



 パルヴィが大きく手を振り、ウルスラは胸を張ってこちらを見上げ、ポリメニスは小憎たらしい笑みを浮かべ、エイミーたちは三人固まって、四天王は寝転がったまま手を振って、俺たちを見送ってくれていた。


 飛空艇が森の木よりも高く上昇していく。

 城の尖塔をも超える高度に達し、そして、水平移動を開始する。

 ガーゴイルが羽ばたき、俺たちを乗せた石の箱を運ぶ。


 朝陽が顔を出し、暁が美しく輝く。


 みんな緊張しているのか、口数は少なかった。


 そして、そのまま空を移動すること数時間。

 ついに、俺たちは次元の穴――魔法陣へと到着した。


 接近すると全貌が見えなくなるくらいに巨大で、煌々と紅い光を放つ魔法陣。

 見上げていると分からないが、傍で見る魔法陣には無数の術式が刻まれている。

 この全てが結界であり、その一つ一つが器用に折り重なって絶対的な防御壁となっているのだ。


「魔神の魔力にも耐えうる、史上最強の結界。ミーミルでも解除できない、究極の結界だ」

「……こんなに複雑な魔法だったのね」

「これは……龍族でも突破は不可能かも」

「なぁ、お婿はん。触ったら危なかと?」


 触れる分には問題はない。

 ただ、触れた瞬間に引きずり込まれる危険はあるが。


「行けそうか、テオドラ」

「うむ…………」


 テオドラが難しい顔で結界を見上げている。


 俺のルスイスパーダはテオドラに渡してある。

 俺が持つよりも、ずっと有意義だろう。


「オイヴィの談によれば、施錠の術式を破壊すれば結界は解かれるということだったのだが……」

「……施錠の術式なら…………」


 フランカが魔法陣に刻まれている無数の文字へと視線を走らせ、やがてその一点を指さす。


「……あれよ」


 そこには、『錠』と書かれた文字があった。

 魔法陣の規模からすれば考えられないほどに小さい、親指の先ほどの文字だ。


「なるほど……あれか」

「だが、あの文字だけ物凄い魔力を感じるぞ」


 俺の目には、圧縮された魔力がどろどろと渦巻いて見えていた。


「ワタシにも感じられる。あれで間違いなさそうだ」

「いけるだか?」

「………………」


 テオドラは黙って目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をした。


「……大丈夫だ。オイヴィの剣と、カブラカンの魔力があれば…………斬れる」


 開かれたテオドラの眼はとても鋭く、ただ一点のみを見つめていた。


「参るっ!」


 短く言って、床を蹴り、魔法陣へ向かって高く跳躍する。


「はぁぁあああっ!」


 ルスイスパーダを抜き放ち、『錠』の文字へと魔力を纏った刃を振り下ろす。


 ガッ……と、鈍い音がして――――魔法陣が消失した。

 霧が晴れるように、煌々と輝いていた魔法陣がその姿を消し去ったのだ。




 結界が、決壊した。…………なんつって!




「……【搾乳】」

「……ごめんて。ちょっと言ってみたかっただけなんだって」


 俺の心を読み取れるフランカに、物凄く冷たい目で見られてしまった。


「よっしゃ! ほだら、こっからは別行動だでな!」


 トシコが弓を肩に担ぎ直し、ぽっかりと口を開いた次元の穴を覗き込む。


「帰ってきたら、どこさ行けばええだか?」

「……そうね、とりあえずブレンドレル王城でいいんじゃないかしら」

「そうだな。全員が分かる場所と言えば、そこしかあるまい」

「したらば、オラも安心だ。他の街さ行ったこともねぇだでな」


 帰ってきたら、ブレンドレルへ――か。


「お前ら」


 俺の声に、フランカ、テオドラ、トシコがこちらを向く。


「帰って来いよ」

「……もちろんよ」

「一回り大きくなって帰ってくるさ」

「お婿はんこそ、しっかりするだでよ」


 全員でうなずき合う。

 次に会うのは、三ヶ月後だ。


「んだら、オラが一番乗りだで!」


 そう叫んで、トシコが次元の穴へ飛び込んでいった。


「主の剣、必ず返しに行く。待っていてほしい」


 テオドラはルスイスパーダを大切そうに抱きしめ、次元の穴へと飛び込んでいく。


「……忘れないでね。あなたには、私たちが付いていることを」


 涼やかな瞳が俺を見つめ、そして、フランカも次元の穴へと飛び込んでいった。


「おニィちゃん」


 ずっと俺の腰にしがみ付いていたシルヴァネールが不安げな声を漏らす。


「……絶対、ルゥを助けようね」

「あぁ。絶対だ」


 シルヴァネールの頭を撫で、そして、俺たちも次元の穴へと飛び込む。



 課題は山積みだ。


 魔法陣消失後の魔法の使用方法の確立。

 エンペラードラゴンに対抗する力の獲得。

 どうやって魔界からブレンドレルまで行くのかとか、食事はどうするのかとか、どこで寝るのかとか……細々したことまで含めれば本当に沢山ある。


 だがまぁ……

 まずは…………里帰りだな。



 次元の穴を越えると、とても懐かしい風の匂いがした。








ご来訪ありがとうございます。



成っ長っ期っ!

成っ長っ期っ!

成っ長っ期っ!

成っ長っ期っ!

成っ長っ期っ!


夢が大きく膨らみました。(YUMEとMUNEはよくにているよNE☆!!)


エイミー、13歳です。


初登場時は12歳。


この一年で、グッと大人になるのです、女子は!



髪留めも、大きいふわふわしたものから、

シックでおしゃれな、お姉さんっぽいものへ。

休み時間も、鉄棒でぐり~んから、

教室でのおしゃべりへ、

乳バンドも、スポブラから、

フロントホックブラへ!

……あ、フロントホックはまだ早いっすか?


「前で外すブラ」って言うと、高確率で「前で『留める』ブラ!」って言い直されるアレです。


ちなみに、まぁ、参考までにお聞きしたいのですが、

「中学に入るタイミングでスポブラ卒業したよ~」という方、挙手を~…………あ、男性の片は手を上げないでもらえますか? いや、いいから、座ってろオッサン。な?


ちなみに、

私がスポブラを卒業したのは…………あ、いけない。東京都の職員が……っ! 逃げなきゃ!





次回もよろしくお願いいたします。



とまと

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