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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
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117話 テオドラを守る者

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「主っ!?」


 思わず叫び、ワタシは崩壊した壁へと足を向けた。


「ダメだ! 行くなっちゃ!」


 走りだしたワタシを、エアレーが体を張って止める。


「邪魔をしないでくれまいか! 主が!」

「ガウルテリオが向かったから心配するなっちゃ! それよりも……っ!」


 エアレーの言葉はそこで途切れた。

 頭上から夥しい量の隕石が降り注いできたのだ。

 いや、隕石ではない。ラ・アル・アナンが吐き出した毒の塊だ。

 拳大ほどのどす黒い塊は、ゲル状の毒の集合体のようで、触れたものを瞬時に溶解してしまう。


 エアレーも首をやられ、大量の血を吐いた。


「エアレー!?」

「……ゴブッ! だ、大丈……夫っちゃ…………それより……いったん……逃げ……」

「二人とも! 走るだ!」


 トシコの声に、咄嗟にその場を離れる。

 考える暇も、状況を確認する暇もなかった。

 ただ、ワタシの勘が訴えた方向へとエアレーを抱いて全力疾走した。


 次の瞬間、さっきまでワタシたちが立っていた場所に、黒い巨大な物体が降ってきた。

 ラ・アル・アナンの本体だ。

 脚をすべて失ってもなお、糸を器用に使って自在に移動している。

 むしろ、脚を失った今の方が捕らえにくくて厄介だ。


「カブラカン、あの巨体を押さえられんがか!?」

「無理じゃあ! ありゃあ、いくらなんでもデカ過ぎるわ!」


 カブラカンの肩に乗り、トシコがラ・アル・アナンを見つめる。


「テオドラ、エアレー! おめさん方はジロキチん背中ば乗ってけろ!」


 トシコの命に従うように、ジロキチという名の巨大なレッサードラゴンがワタシたちの前にやってきて、膝を折る。よく躾けられた利口なレッサードラゴンだ。


「すまない、ジロキチ。よろしく頼む」


 大きな顔を撫でてやると、ジロキチは嬉しそうに目を細めた。

 重症のエアレーをなんとか押し上げ、ワタシもその背中に乗る。


 ラ・アル・アナンは、先ほど墜落した場所にとどまり辺りを見渡している。

 ぎょろぎょろと、不気味な目玉が蠢く。


「トシコ! エアレーの傷を治してやってはくれまいか!?」

「そうしたいのは山々だども……オラん魔力さ、さっきの二発で打ち止めんなってしもうたがよ」


 トシコは先ほど、ラ・アル・アナンの脚を二本も撃破した。魔力が底を尽いていてもおかしくはない。


「カブラカンは!?」

「ワシも似たようなもんじゃあ!」

「……そんな」

「……テオド……ラ」


 また、エアレーが血を吐く。


「もうしゃべるな、エアレー! 必ず助ける! ワタシがなんとかしてみせるから!」


 エアレーは、本気で戦った好敵手であり、共に強敵に立ち向かった戦友だ。見捨ててなど置けない。


「……ゴブ…………そんな、ことよりも…………ラ・アル・アナンを……討て……ちゃ」

「しかし!」

「……この、角を貸してやるっちゃ…………」


 エアレーは、二本の大きな角を、ワタシの方へと向けた。エアレーの誇りとも呼べる立派な角だ。


「……オイラはもう……ダメっちゃ…………」

「そんなことを言うなっ!」


 思わず、両の目から涙があふれる。


「泣くな……っちゃ…………ダメっちゃ言っても……これは影っちゃ……本体は……魔界でピンピン……してるっちゃ…………」


 そうだった。

 魔力が大きすぎるエアレーたちは、自身の分身を影としてこちらの世界へと送ってきているのだ。

 魔力を十分の一ほどに落として。


「……オイラの残りの魔力を…………すべて角に集めるっちゃ…………体は消えて……しまうっちゃ……けど…………角だけは……魔力が続く限り……残る……はず…………っちゃ」


 そしてまた、エアレーは血の塊を吐き出す。

 ……血液が凝固し始めている…………これはもう……助からない。


「……欠けた剣に……この角を…………そうすれば……魔法剣の…………ように……」

「分かった、エアレー! だから、もうしゃべるな!」


 これは影だ。本体は無事だ。

 ……分かっているのに…………分かっていても、エアレーが消えてしまうことが悲しくて…………


「……泣くなっちゃ…………もし、ラ・アル・アナンを……倒せたら……魔界に……遊びに来るっちゃ…………その時は……オイラの本体が…………稽古を、つけて……やるっちゃ……」

「あぁ……それは、楽しみだ」

「……ふふ…………こっちに来てよかったっちゃ…………テオドラ…………勝つ……っちゃ…………」


 エアレーが瞼を閉じる。

 首から力が抜け、エアレーの体がだらりと弛緩する。


 泣きそうになる。

 けれど、それをグッと堪える。


 泣くな。

 エアレーとの約束を果たすまでは。


 ラ・アル・アナンを倒して……魔界へ会いに行くのだ。

 絶対に!


 エアレーの魔力がその巨大な角へと集まっていく。

 体が薄くなり、透けていく。

 それに反し、角だけがくっきりと存在感を増していく。

 発熱するように、エアレーの角が赤銅色に輝き出す。


「……エアレー…………借り受けるぞ!」


 ワタシは欠けた剣とカタナを抜き、エアレーの巨大な角の、その根元を切断する。

 巨大な二本の角がごとりと重い音をさせて落下する。

 それと同時に、エアレーの体は霞のように消えてしまった。


「エアレー。そなたの角……使わせてもらうぞ」


 角の切断面に剣とカタナを突き立てる。と、まるで角が吸い付くように刃と一体化していく。

 鍔に対して不格好なほどに巨大な刃……しかし、バランスはむしろ良い方で、重さもまるで感じない。まるで、最初からこの形であったかのような不思議な一体感を感じる。

 ……これならば、元の剣や刀と同じように……いや、もしかしたらそれ以上に使いこなせる。


「ジロキチよ。すまぬが、今一度あのバケモノのもとへと赴いてはくれまいか?」


 ジロキチの背に手を乗せ語り掛ける。

 言葉が通じたのか、ジロキチは短く鳴くと、ラ・アル・アナンのもとへと進行方向を変えた。ゆっくりと、確かな足取りで近付いていく。


「もう、これ以上の勝手はさせんぞ、ラ・アル・アナン!」


 ジロキチとラ・アル・アナンとの距離が縮まっていく。

 ラ・アル・アナンがこちらに視線を向ける。ぎょろりと、不気味な瞳が一斉にワタシを捉える。

 そして、大きな口からどす黒いゲル状の塊を吐き出した。

 エアレーに致命傷を与えた猛毒だ。


 だが……


「分かるぞ、エアレー……この角…………毒に耐性が出来ているのだろう?」


 エアレーが命がけでその体に、象徴たる角に、ラ・アル・アナンの毒を打ち破る秘策を与えてくれた。

 毒に侵された体で、その毒を無効化する抗体を生み出したのだ。

 剣と一体化した角がワタシに教えてくれる。

 逃げる必要はないと。

 あの猛毒は……『斬れる』と。


 迫りくる巨大な毒の塊を一閃する。

 巨大な角が毒の塊に触れ、押し返す。

 押し戻されたそれは、ラ・アル・アナンの眼前で真っ二つに斬れ、猛毒の飛沫をまき散らす。


 ラ・アル・アナンが猛毒を全身に浴び、低い悲鳴を上げる。


 自分の毒に溶かされるがいい!


「今度はこっちから行くぞ!」


 ジロキチの背を蹴り、ワタシはラ・アル・アナンへと斬りかかる。

 軽い。

 この剣はなんて軽いんだ。


 いくぞ、エアレー。

 特大の剣撃を食らわせてやろうではないか!


 顔の前で腕をクロスさせ、渾身の力を込めて二本の角を振り抜く。


「ドイス……カブラ=シフレッ!」


 振り抜いた角は、まるでワタシの意志を汲むように大きくうねり、巨大なカマイタチを発生させる。

 空間が切り裂かれ、気圧の差により突風が吹き荒れる。

 真空の刃がラ・アル・アナンの巨大な体に激突し、十文字の裂傷を生み出す。

 切り裂けた!

 ラ・アル・アナンの防御を突破したぞ!


 これなら……勝てる!


 ワタシはすかさず第二撃目のモーションに移る。

 二本の角を交互に振り、反撃の暇を与えずに切り刻んでやるつもりだった。

 しかし、絶妙のタイミングで放ったはずの第二撃目は空を斬った。


 ……空振りっ!?


 ラ・アル・アナンは糸を使いその巨体を急上昇させたのだ。

 物理法則を無視するような速度と変則的な動きで、ワタシの斬撃をかわす。


 仕留めるつもりで大きく振り抜いたため、空振りをしたワタシは隙だらけになっていた。


 背筋が凍る。

 汗が拭き出しては瞬間的に蒸発していく。

 眼の奥がチカチカと、何かの警告のように明滅し、酷い頭痛に襲われる。


 生涯において、数度しか経験したことのない死の感覚……


 それは決まって、自身の中に生まれた驕りによって引き起こされていた。

 今回も、そうだ……

 ワタシは、エアレーの敵を討ちたい一心で……エアレーの角の威力に浮かれて……


 己の強さを見誤った。

 敵の力を過小評価した……



 ……仕留められると…………自惚れた。



 そして、ワタシはおそらく死ぬのだ…………


 時間が酷くゆっくり流れていく。

 なのに、体を動かすことは出来ない。

 それでも視線だけは、勝手にラ・アル・アナンへと向いていた。


 ラ・アル・アナンが大きな口を開く。

 おぞましい牙が無数に生え、口が開かれるのに合わせて唾液が糸を引く。

 そして、喉の奥から吐き出されてきたのは……灼熱の炎。


 毒に耐性が出来たのはただの幸運だった。エアレーの力を借りて……そうだ、ワタシは守ってもらったに過ぎなかった。

 この炎を防ぐことは……今のワタシには不可能。


 赤からオレンジに、そして黄金へと光り輝いていく炎。

 見ただけで分かる……摂氏数百度以上……人間が耐えられる熱量ではない。


 嫌なものだな……逃れられない死というものは。

 妙に頭が冴えてはいるが、これはほんの一瞬の出来事なのだ。


 ラ・アル・アナンが炎を吐き出す。

 渦を巻き、夥しい量の炎が世界を焼いていく。

 視界のすべてが、荒れ狂う狂暴な業火に覆われる。


 迫りくる炎。

 忍び寄る……死。


 脳裏に浮かぶのは、もう一度会いたいと心から願う人たちの顔……


 主……結局、ワタシは何も言えなかったな。

 もし、次があるのなら……その時こそは…………


 父よ……どこにいてもおそらくは元気でやっているのだろう。

 あなたよりも先に逝くことを、どうか許してほしい。


 そして……


 小柄で、屈託のない彼女の笑顔が脳裏に浮かぶ……


 そこで、時間が尽きた。

 あれほどゆっくりだった時間の流れが一瞬で元通りになり、灼熱の業火が瞬く間にワタシを包み込んだ。


 パチパチと、空気の焼ける音が耳元で聞こえる。

 これが、この世界で聞く最後の音になるのか…………そう思ったのだが。


「……まったく」


 不意に聞こえたその声は、有り得ないような業火の中にあって、有り得ないほどに落ち着いていて……有り得ないことだけれど…………また会いたいと心から願った相手の声に似ていて…………たまらなく、心が温かくなった。


「ワの大切な『娘代わり』を、丸焼きにでもするつもりかえ?」


 ワタシを包み込んだはずの業火は、一向にワタシの身を焼くことはなく……ワタシの前に突如現れた、小柄な少女の手によって握り絞められていた。


「名も知らぬそこのバケモノよ。おヌシ、覚悟は出来ておるんじゃろうの?」


 世界を包むような業火を、小さな右手一本で掴み、そして、種火をもみ消すような手軽さで完全に消し去ってしまう。


「テオドラを傷物にしたら容赦はせんぞ……のぅ、バケモノよ」

「オ……オイヴィ…………」


 そこにいたのは、紛れもなく、オイヴィ本人だった。

 どこから現れたのか、ワタシの前に立ち、ラ・アル・アナンと向かい合い、そして、その小さくも頼れる背中でワタシを守ってくれた……


「久しいの、テオドラ。大事ないかえ?」


 首だけでこちらへ振り返ったオイヴィは、変わらない優しい笑みを浮かべていて……ワタシは…………


「ほれほれ、泣くでない。ワが来たからにはもう大丈夫じゃ。誰にもヌシを傷つけさせはせんぞえ」

「オイヴィ……どうして…………ここへ…………ぐすっ……」


 涙に詰まって、上手く言葉が出ない。

 ここまで張りつめていた緊張の糸が、オイヴィの顔を見た途端に切れてしまったようだ。

 後から後から涙があふれ出てきてしまう。

 きちんと話をしたいのに……

 ラ・アル・アナンを倒さなければいけないのに……


「…………オイヴィッ!」


 けれど、無理だった。

 ワタシは駆け出し、オイヴィの小さな体に縋り付く。

 胸に顔を押し付けて泣きじゃくる。

 恥ずかしさなどない。

 オイヴィの前でなら、ワタシは……飾らない本当のワタシになれるのだ。


「おぉ、よしよし。怖かったのぉ。ワが来たからにはもう安心じゃ」


 小さな手がワタシの髪を撫でる。

 その時気が付いたのだが、この時、ラ・アル・アナンはずっと炎を吐き出し続けていたのだ。

 それをオイヴィは、何事もないかのように防ぎ続けていた。


 炎を操る天才鍛冶師……その力は計り知れない。


 ワタシたちの後方では、トシコとカブラカンが突然現れたオイヴィを見て目を丸くしている。


「だ、誰だべ、あん小さか幼女は?」

「わ、わからんが…………とんでもないガキじゃあ」


 そんな会話をかき消すように、吐き出した炎をことごとく防がれたラ・アル・アナンが怒りの声を張り上げる。

 世界がビリビリと振動し、鼓膜が破れそうに張り詰める。


「……うるさいバケモノじゃのぅ」


 オイヴィが耳に指を突っ込んで顔をしかめる。


「テオドラを泣かせた分、ワが鉄槌でぶん殴ってやりたいところじゃが……まぁ、あとはあやつに任せるとするかの」

「あやつ……?」


 オイヴィは、得意げな笑みを浮かべ、そして空を指さした。

 その指が差し示す方向へ視線を向けると…………


「あ……っ」



 ジャシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 遥か上空に、黄金色に輝くドラゴンがいた。


「シルヴァネール……っ!」

「あやつも相当怒っておったからの。バケモノよ、覚悟することじゃな」


 そう言い残すと、オイヴィはワタシの手を引き、ジロキチのもとへと移動した。


「ほれ、デカい魔物よ、ワとテオドラを背に乗せてくりゃれや」


 オイヴィの命に、ジロキチは大人しく従った。

 心なしか、少し怯えているように見えた。……野生の本能がオイヴィを強者と認めたのだろうか……


「シルヴァネールがルゥシールと連絡を取り合っておっての。こちらの状況は把握しておったのじゃよ」


 オイヴィたちは、王都で何か良からぬことが起こると踏んで、応援に来てくれたのだそうだ。

 オイヴィとシルヴァネールをここまで運んでくれたのは、もちろんポリメニスだ。

 オイヴィが突然目の前に現れたのは、ポリメニスのゴーレムの仕業か。



 ジャシャァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!



 シルヴァネールがラ・アル・アナンへ体当たりを喰らわせる。

 ラ・アル・アナンが苦悶の声を上げる。

 炎を吐いて抵抗するラ・アル・アナンだが、その炎はシルヴァネールの翼が生み出した突風によって押し返される。

 灼熱の炎が辺り一帯を焼いていく。


 ジロキチは素早く後退し、ワタシたちは間一髪のところで炎の被害を免れる。


「こんどはゴールドドラゴンだべ!?」

「なんちゅう、出鱈目な戦い方をするんじゃあ!? こっちまで焼かれてしまうところじゃあ!」


 カブラカンとトシコも同様に逃げおおせたようだ。

 ジロキチもさることながら、シルヴァネールやラ・アル・アナンと比べると、カブラカンが小さく見えるのだからおかしな話だ。

 巨大な魔物が、殺意を剥き出しにしてぶつかり合う。

 小細工などない、正真正銘、力と力のぶつかり合いだ。


 糸を吐き、移動をしようとするラ・アル・アナンだが、それは地面から生えるように出現した無数のゴーレムによって阻まれる。

 ワタシたちもさんざん苦労させられた魔石ゴーレムだ。


 ……これは、勝てるかもしれない。


「そうだ、オイヴィ! 主とルゥシールが……!」

「そっちは今、ポリメニスが向かっておるわな。心配せんでもよかろう」


 安堵が胸に広がっていく。

 あの二人がそう簡単にやられるわけがない。

 回復魔法が使える者さえいれば、きっと助かるだろう。


「なら、ワタシたちは……」

「うむ」


 ワタシとオイヴィは、目の前にデンと鎮座するラ・アル・アナンを睨み付ける。


「デカいヤツの相手は、デカいヤツらに任せておけばよいのじゃ。どれ、高みの見物といくかのぅ」


 オイヴィがくすりと笑う。

 その笑みに、ワタシは勝利を確信した。


 そうだ。

 オイヴィやシルヴァネール、ポリメニスのゴーレムまでいるのだ……負けるはずがない。

 ならば、ワタシはひたすらに主とルゥシールの無事を祈ろう。


 あとは、フランカたちが王女パルヴィを救出してくれれば、この一件は解決する。

 みんな無事で……みんな揃って、勝ち鬨を上げるのだ。


 そうしたらエアレーに教えてあげよう。 

「あなたの角は、あのラ・アル・アナンの硬い外殻を貫いたのだ」と。


 この戦いが終わったら……きっと。


「主、ルゥシール、そしてフランカよ……みんな無事に、元気な顔を見せてくれると、ワタシは信じているぞ」


 主たちのことはポリメニスに任せよう。

 なんだかんだと、頼りになる男だ。きっと大丈夫だろう。


 フランカたちの動向が気になるところだ。

 フランカなら、万が一ということもないだろうが…………どうか、無事でいてほしい。

 不測の事態が、起こってなければいいのだが……


 ワタシは、祈るような気持ちで王城へ視線を向ける。



 王城は、ラ・アル・アナンの糸によって包み込まれていた。

 巨大な繭のようなその姿は、ただただ不気味で……まるで…………




 ラ・アル・アナンの巣のように見えた。







いつもありがとうございます。


ピンチに駆けつけてくれるオイヴィ。

まるで、ナメック星人のごときタイミングの良さです。


ちなみに、

ポリメニス自身は戦闘に不向きなので、

遠くに身を隠してゴーレムを遠隔操作しております。

いつものことです。


だいたいいつも、

戦うみんなを、離れた物陰からジッと見守っています。


「飛馬……」


みたいな感じです。


それ以外でも情報収集のために、

みんなの行動を影ながら見守っていたりもします。


みんなに気付かれないように、

物陰から、

こっそりと…………



………………ストーカー?



いえ、違います。

諜報活動です。


そのたゆまぬ努力の結果、

何人の依頼であれど武器を打たぬと強固な守りで知られていたオイヴィ・マユラに友好的にコネクションを持つことが出来たのですから。


マウリーリオの技術を持ちつつも、

魔界とのコネクションを一切持たなかったポリメニスですが、

ご主人さんが魔界から生還したあたりからその存在に関心を持ち、

ずっと観察し続け、ついには接触に成功しています。


魔界へ行き、現在生きている貴重な人物とのコネクションを、

それも二人も、持つことが出来たのは、この諜報活動のおかげなのです。


ですので、決してストーカーではありません。


では、

そんなポリメニスの『ご主人さん観察記録』をご覧ください。




・マーヴィン誕生。

 ブレンドレルに魔力の無い王子が誕生する。

 サヴァスが王位について以降初めての出来事に国が揺れる。

 内心で「ざまぁみろ」と思う。

 それは、魔力を持たず今後ゴミ扱いを受けるであろう王子と、

 そんな子孫を持った王家の両方に向けられる。


・マーヴィン4歳

 王子、突然の失踪。

 次元の穴付近で行方不明になったとの発表が王家からなされる。

 「あぁ、消されたな」とすぐ分かった。

 魔力の多い妹が生まれたことで、完全に用済みとなったのだろう。

 同情はしない。だが、哀れだなとは思う。


・マーヴィン9歳

 行方不明になっていた王子がまさかの生還。

 これ以降、王家は次第に軋みを上げ始めることになる。

 そして、直感した……「あいつは、魔界に行ってきたのだ」と。

 非常に興味を引かれた。


・マーヴィン12歳

 王城が大破。王都にも甚大な被害が発生する。

 この爆発は王子が引き起こしたものだという。

 そして王子は国を追われるように再び失踪。

 そして、王子を追跡し観察する日々が始まる。


・マーヴィン17歳

 これまで各地の遺跡を回るも、魔力の欠如により攻略には至らず。

 生活費を稼ぐためにギルドの依頼などをこなし日々の生活を過ごす。

 幾度も魔導ギルドの刺客に狙われるも、おっぱい揉み揉み……もとい、

 魔力を奪い取りそれらを撃退。

 【搾乳の魔導士】という二つ名が定着する。

 そんな折、グレンガルムの丘に棲むドラゴンの討伐依頼を引き受ける。

 予想外なことに、ドラゴンは二頭いた。

 普通なら、そこで逃げ出し、『運が良ければ』生還できるレベルだ。

 しかし、王子は単身でドラゴンに立ち向かい、ウチ一頭を撃退。

 残りの一帯は酷い怪我をしていたために放置した。

 その後、ドラゴンの目撃情報はなくなる。

 とにかく非常識な男だ。


・マーヴィン18歳

 古の遺跡を攻略するためにオルミクル村に長期滞在する王子。

 しかし、あまりに進展がない。

 かくなる上は、……少々反則ではあるが……助け舟を出すことにする。

 行商に扮し、魔道具を譲渡することにする。

 入り口の結界くらいなら、それで突破できるはずだ。

 王子には、早く魔界への扉を開いてもらわなければ……


 と、ここでイレギュラーが発生する。

 王子に仲間が出来る。

 おっぱいばい~んの爆乳美少女……もとい、

 正体不明の女が王子に取り入り、行動を共にすることになったようだ。

 後に判明するが、彼女はあの時のダークドラゴンらしい。

 

 そして、ついに王子との接触に成功する。

 しかし、魔力を持つアイテムには一切興味を示さなかった。

 その代り、連れの女……ルゥシールという名前らしい……に

 盗聴機能の付いた髪飾りを持たせることに成功した。

 これで、ルゥシールたんの日常生活が丸裸に……もとい、

 王子たちの詳細な情報収集が可能になる。


・ルゥシールがポニーテールの意味をはき違える。

 うっは、めっちゃ可愛い。


・ルゥシールたんたち古の遺跡に突入

 王子は村の娘エイミーと、【爆砕の闘士】を仲間に加え

 古の遺跡へ到達する。

 そこで、驚愕の事態が起こる。

 ルゥシールたんのおっぱいが王子の手によって蹂躙され……もとい、

 ルゥシールがダークドラゴンへ変身したのだ、

 これは、味方に付ければ非常に心強い戦力になる。

 龍族は、魔界の魔族とは異なる進化を遂げた魔族だ。

 魔神と同等かそれ以上の力を持つ希少な存在。

 その種族とのコネクションは是非とも手に入れたい。


 そろそろ、接触を図る頃合いかもしれない。


・ルゥシールたん一行オルミクル村を発つ。

 次にルゥシールと王子が目指すのはカジャの街らしい。

 伝説の鍛冶師オイヴィ・マユラの住む街だ。

 もっともコネクションを持ちたい人物の一人だ。

 ルゥシールたちがうまく接触してくれればいいが……


 やはり、ここらで接触を図ろうと思う。

 オイヴィにうまく取り入るよう助言をするべきだろう……




ポリメニス「……よし、キャラバンの馬車が平原に差し掛かったら魔石ゴーレムで馬車を襲い、ルゥシールと王子をこちらの仲間に引き入れよう」


ご主人さん『あ~! やっと休憩か』

フランカ『…………吐く』

ご主人さん『待て待て! 堪えろ! 飲み込め!』

フランカ『……無理…………ちょっと、行ってくる……』


 ――タッタッタッタッタ……


ご主人さん『あ~ぁ、大丈夫かねぇ、あいつ』

ルゥシール『心配ですね』

ご主人さん『なんであんな遠くまで行くんだ?』

ルゥシール『そりゃ、見られたくないですもん』

ご主人さん『気にし過ぎだろう』

ルゥシール『デリカシーがないですよ、ご主人さん! 女の子は恥ずかしがり屋さんなんですから!』

ご主人さん『普段から恥ずかしい失敗を披露しまくっているお前もか?』

ルゥシール『わたし、そこまで酷くないですよっ!?』

ご主人さん『気付いてすらいないのかっ!?』

ルゥシール『そんなにですか、わたし!?』

ご主人さん『お前には、羞恥心というものがないのだと思っていたほどだ』

ルゥシール『ありますよ!? わたしなんか、特に恥ずかしがり屋な部類です! ……と、いうわけで、ちょっと失礼しますね』

ご主人さん『どこに行くんだ?』

ルゥシール『察してくださいよ! ……お花摘みです』

ご主人さん『……また拾い食いか?』

ルゥシール『人聞き悪いですよっ!? …………その、お、お手洗いです』

ご主人さん『あぁ、おしっこか』

ルゥシール『デリカシー皆無ですかっ!?』

ご主人さん『そこらですればいい』

ルゥシール『出来るわけないでしょうっ!?』

ご主人さん『まったく……しょうがねぇなぁ。あんまり歩きたくないんだけどなぁ』

ルゥシール『なんでついてくる気満々なんですか!? ご主人さんはここにいて、一歩も動かずに向こうを向いていてください! 耳を塞いで息もなるべくしないでください!』

ご主人さん『そんなに盛大にするつもりなのかっ!?』

ルゥシール『デリカシィーッ! この言葉を100回唱えておいてくださ!』


 ――タッタッタッタッタ……



ポリメニス「ははっ。王子は本当にダメですねぇ……」


ルゥシール『ここまでくれば大丈夫ですかね……』


ポリメニス「………………」


ルゥシール『平原って困るんですよね……ずっと我慢しなければいけないですし……』


ポリメニス「………………」



 ――ガサ ゴソ シュル、シュル……



ポリメニス「…………」


天使のポリメニス『何をしているのです!? 今すぐに盗聴器のスイッチを切りなさい!』

悪魔のポリメニス『いいじゃねぇかよ。どうせ向こうは気づいちゃいないんだ』

天使のポリメニス『この盗聴はそんな目的のためではなかったはずです!』

悪魔のポリメニス『硬いこと言うなよ。役得だよ』

天使のポリメニス『それでも王族ですかっ!?』

悪魔のポリメニス『王族だってエロイことくらいするっ!』

天使のポリメニス『……たしかに』

悪魔のポリメニス『むしろ、王族の方が遊ぶ時間が多い分、よりエロイことをする!』

天使のポリメニス『……一理ありますね』

悪魔のポリメニス『すなわち、盗撮盗聴痴漢露出狂は、王族のたしなみとすら言える!』

天使のポリメニス『では、極めなければ!』

悪魔のポリメニス『そのとおりだ!』

天使と悪魔のポリメニス『『この盗聴器、録音機能付いてないの?』』


ポリメニス「いや、何考えてんですか!?」



 ――盗聴器のスイッチ オフ



ポリメニス「…………私は、今……何をしようと…………」



 ――ドキドキ ドキドキ……



ポリメニス「……ルゥシー……王子たちとの接触はもう少し後にしましょう。……今会うと、心臓がどうにかなってしまうかもしれない……まともに顔見られないし……うん、カジャの街を出たら、接触をしよう。そうしよう……」





こうして、

オードゲオルの渓谷で接触することになったのです。


ね?

ストーカーじゃないでしょ?

ほんのちょっと、「ルゥシールたん、はぁはぁ」ってしてただけで、

全然ストーカーじゃないんですよ。

だって王族ですし!

……あ、王族はエロいのか…………う~ん。





今後ともよろしくお願いいたします。


とまと


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