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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
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114話 ボス前ミーティング

 ブレンドレル王城の真上に巨大な魔法陣が出現し、空に穴が開き、そこから、真っ黒で、ずんぐりとした体つきの、とても巨大なクモが這い出してきた。

 城の半分くらいもある、有り得ないサイズのクモだ。40メートル級のバケモノだ。


 そいつが、空の上を『歩いている』。


「カブラカン。あんた魔力残ってんだろ? エアレーとドラゴン娘の傷を治してやんな!」

「お、おぉ。了解じゃあ!」

「ガウ姉さん。あいつ、ほんまもんなんやろか?」

「どう見ても本体だろう、ありゃあ! 分かったならあんたも準備しな! 分身体であるあたしたちじゃ、ちょっと歯が立たない相手だよ!」

「あぁ、もう! アホちゃうの!? アホなんちゃうの、あの爺さん!? 世界終わってまうで!?」


 スコルがしかめっ面で舌を打つ。


「あいつは何だ? 知ってるんだろ、お袋!」


 俺たちをおいて動き始めたお袋の腕を掴まえて説明を求める。


「あいつは、ラ・アル・アナン。魔界に棲む、厄介な魔神さ。本来のあたしならどうってことない相手なんだけど……この分身体じゃあ……」


 今のお袋たちは本来の力の十分の一の力しかない影なのだ。


「魔力がデカ過ぎてこっちに出てこられないんじゃなかったのかよ?」

「あぁ、その通りだ。だが、あの魔法陣はそれを可能にしたんだろうね」


 ブレンドレルの上空を覆い尽くす巨大な魔法陣。

 ミーミルが作ったというガウルテリオの影を召喚出来る高位魔法陣。それを参考に更に高度な魔法陣を完成させたということか。


 長年研究を続けてきた連中にヒントを与えると、すぐさま結果に結びつけちまうヤツが現れるんだよな。天才には及ばない、桁外れの秀才ってやつが。


「……あの魔法陣へ吸い込まれていったのは、おそらく王女パルヴィの魔力」


 フランカが巨大な魔法陣を睨みながら呟く。

 そう。ラ・アル・アナンが出現する直前、魔法陣に真っ白な光が吸い込まれていったのだ。

 ゲイブマンがパルヴィのことを【上質なエサ】と言っていたことからも、パルヴィの魔力を使ってあのバケモノを召喚したことは間違いない。

 なにより、あんなバケモノをこっちの世界へ引っ張り出せる魔力など、パルヴィの中にしか存在しない。

 魔導ギルド魔導士が束になっても、パルヴィの魔力には及ばない。

 世界が依怙贔屓したような、選ばれた存在なのだ。


「……王女パルヴィの救出を急いだ方がいい。無限の魔力を悪用されれば、取り返しのつかない事態になりかねない」


 最悪、あのレベルの魔神がエンドレスで召喚されるとかな……

 そんなことになったら、パルヴィは自分を責めるかもしれない。

 そんなこと、させられるか。兄として。


「だども、あんクモのバケモンばなんとかせんと、城にも近付けねぇんでねぇか?」


 トシコが、不気味に空を歩くラ・アル・アナンを見上げて言う。


「そもそも、どがんして空ば歩いとると?」

「クモの糸さ」


 その問いに答えたのはお袋だった。


「ヤツはどこにでもクモの糸を張ることが出来るんだ。あれは、雲に糸を張っているのさ」

「雲って……固定出来ないだろう?」

「関係ないのさ。ヤツの糸は魔力の塊だからな。水にだって、炎にだって糸を張れる。ハエの背に糸をつけて、その力で空を飛ぶことだって出来るのだぞ?」

「いや無理だろ、あんなデカいクモをハエが……」

「それが出来るから、厄介なんだよ」


 無茶苦茶なヤツだ。


「……んん……すまんっちゃ。気を失っていたようだっちゃ」


 巨大角のヤギ、エアレーが目を覚ます。

 そして、泣いているテオドラを見て目を丸くした。


「どうしたっちゃ? なぜ泣いているっちゃ?」

「……なんでもない。もう大丈夫だ」


 まだ目は赤いものの、テオドラはお袋の慰めもあって泣き止んでいた。

 しかし、武器がないことに変わりはない……


「テオドラ、ルスイスパーダを持っていくか?」

「いや。その剣は主の物だ。ワタシは、ワタシの武器で戦う」


 そう言って、刃こぼれをした剣とカタナを掲げる。

 それで、あのバケモノを相手にするのか……


「オイラがサポートするっちゃ!」


 そう言いながら、エアレーがテオドラの隣に立つ。


「何があっても、オイラが守ってやるっちゃ!」

「……エアレー。かたじけない」


 テオドラがエアレーの巨大な角を撫でる。

 と、その巨大な角がウネウネと嬉しそうに蠢いた。


「ひぃっ!?」


 思わず叩いた。


「なにするっちゃ!?」

「す、すまん。ちょっといきなりで気持ち悪かったから」

「お前とは、前に一回会ってるっちゃ!」

「まるで記憶にない」

「…………最悪っちゃ……何のために窮屈なマントを着てたと思ってるっちゃ……これだからこの親子は…………」


 おそらく、お袋に魔界中を連れ回されている時に会ったのだろうが、あの旅の中出会った魔神や魔族は数えきれないほどいるのだ。いちいち覚えていられない。それに、俺子供だったし。


「……それじゃあ、スコル。あなたは、私の足になりなさい」

「姉さん。サラッと命令するもんなぁ……鬼畜やなぁ……」

「……黙りなさい、犬」

「…………わん」


 こいつら、一体どういう関係なんだよ?

 つか、フランカを姉と呼ぶヤツがまた増えたのか……


「ブタ! さっさとルゥシールさ治療するだべ!」

「ブ、ブヒィッ!」


 ……トシコとカブラカンのコンビは…………よし、ノータッチでいこう。


 カブラカンが巨大な体を必死に丸めて倒れるルゥシールの体力を回復させている。

 魔力を盛大に使ったことと、墜落のショックからか、今なお眠り続けているのだ。


「早く済ませるだ!」

「ブヒィッ!」


 ……やめて。

 こんなの、人命救助のシーンじゃない。


「……ん…………んん」


 ルゥシールの瞼がゆっくりと開く。

 うつ伏せだった体を、起こし、ルゥシールは辺りを見渡した。


「のぅっ!? なんですか、この大きな人は!?」


 目の前に、背中を丸めて小さくなっている巨人がいて面喰っている。


「怖がらんでよかよ。これば、ただんブタだべな」

「……ブ、ブタ、ですか?」

「ブヒィ!」


「ブヒィ」で返事したカブラカンに、ルゥシールが完全に引いている。

 うん。分かる分かる、その気持ち。


「……犬! お座り!」

「わ、わん! これでええんでっか!?」

「い、犬まで……」


 フランカが躾けているスコルを見て、ルゥシールがまたまた引いている。

 うん。仕方ないよな。


「こ、このヤギヤロウ!」

「……いや、オイラたちまで無理して会わせる必要はないっちゃよ」

「そ、そうなのか? なんとなく、求められているのかと……」

「……ヤギ、です、か、ねぇ?」


 とりあえず乗ってみたテオドラは置いといて、ルゥシールは巨大過ぎる角をうにうに動かしているエアレーを凝視して不思議そうな顔をしている。

 うん、だよねぇ。


「ほら、マー坊! あんたもあたしを口汚く罵るんだよ!」

「そういうショーじゃねぇから!」

「じゃあ、あたしが罵ってやろうか、このクソ虫がっ!」

「だから、やんなくていいっつってんだろ!」


 なんの順番だよ!?

 ねぇよ、「今度は俺の番」とか!


 どうせドン引きされているのだろうと、ルゥシールへと目を向けると……


「はぅわわわっ! ち、違います! 違うんです! わたしは決してそんなつもりではぁ!」


 ……なんか土下座してた。

 なんだなんだ? なんのマネだ?


「ご主人さんを騙して性感帯をまさぐらせて悦に浸るような変態ではないんです! 信じてください!」


 気絶前にしていた会話の続きらしい。…………今しなくても。


「……性感帯が、なんなのかしら?」

「まさぐるとか、聞こえたようなのだが?」

「まぁた、そういう話ばしよったとか?」


 三人娘からのプレッシャーが半端ない。

 誰か、俺のことも信じてください。


「おにぃたん様っ!」


 そこへ、よく通る声が飛んでくる。

 街門の方からこちらに向かって物凄い速度で近付いてくる者がいる。

 ウルスラが馬に跨ってやって来たのだ。


「ウルスラ!? お前、パルヴィのそばを離れて何やってんだよ!?」

「すまない! 宰相に嵌められたのだ」


 馬から飛び降りると、俺の前に立ち、悔しそうに顔を歪ませる。

 というか、こいつ一人だけか?

 いつもこいつの周りにはベイクウェル家の者が陰に日向に付き従っているはずなのだが……


「外堀を埋められてしまった。これでもう、法的に宰相に手出しが出来なくなってしまった」

「いや。ゲイブマンはもう、法とかで戦うつもりはなさそうだぞ」


 俺は王城の上を指さす。

 ラ・アル・アナンは、まるで王城を包み込む巣でも作ろうとしているかのように動き回っている。


「……おのれ、宰相め。好き勝手しおって!」

「これから、その宰相を『私的』に倒しに行くところなんだが、お前も来るか?」

「無論だ!」

「ならいっそのこと、宰相を見かけるなり斬りつけておけばよかったのにな」

「私はどこの野蛮人だ!? 城内でそんなことが出来るか!」


 まぁ確かに、城の中で事情もはっきり分からないまま宰相に斬りかかるなんてことは出来ないよな。


「……それに、宰相には魔導ギルド以外に恐ろしく強い影のような連中が四人も味方に付いたようで、私一人ではとても手出しが…………こいつらだぁー!」


 ウルスラが目の前に居並ぶお袋たちを指さして眼を剥く。

 なるほどな。この面々が揃っていれば、下手に特攻なんてかけられないだろうな。多少でも腕に覚えがあるものなら尚更。


「これは一体どういう状況だ!? なぜ、おにぃたん様とこいつらが一緒に!?」

「まぁ、落ち着け。ちゃんと話すから」


 興奮するウルスラを落ち着かせ、俺は改めて紹介をする。


「これ、俺のお袋なんだ」

「これのどこが先王妃様だ!?」

「あぁ、ごめん。育ての親の方」

「育ての……?」


 ウルスラがお袋をまじまじと見つめ、そして、小柄な体型には不釣り合いなほど立派に張り出した胸に視線を止める。


「血筋かっ!?」

「いや、パルヴィの巨乳とは因果関係ないから」


 どっちも小柄巨乳だけども。

 血のつながりはねぇよ。


「こら、マー坊。親に向かって『これ』とはなんだ! ちゃんと『こちらの美しい女性』と言いなさい!」

「自分で言うかな、そういうこと!?」

「『堪らんおっぱい』でも可」

「『可』じゃねぇよ!」

「『メルティエンジェル』でもいいぞ」

「なにとろけてんの!?」

「可愛いだろう?」

「いや、別に」


 誰が『メルティ』で誰が『エンジェル』か。


「……なるほど。よく分かったわ」


 俺たちのやり取りを見て、フランカが深々と頷き、確信を持った表情で言う。


「……【搾乳】がこんなことになったのは親のせい」

「おい、フランカ。『こんなこと』が具体的にどんなことなのか、詳しく説明してくれるかな?」


 まぁ、十中八九褒められてはいないんだろうけどな!


「ご主人さん。これからどうするおつもりですか?」

「そうだな」


 パルヴィを助けるのが最優先で、クモの撃退……ついでにゲイブマンをぶっ飛ばして…………


「お袋。こっちの魔神、借りていいか?」

「好きに使え」

「また勝手なこと言うてからに……」

「諦めるっちゃ。あぁいう親子なのは分かってたことっちゃ」

「ぶひぃ……」

「「『ぶひぃ』言うな」っちゃ」

「じゃあ、魔神は俺の仲間をサポートしてやってくれ」


 なんとなく、うまくコンビになっているようだし、連携も取れるだろう。


「ウルスラとフランカ。お前たちは城内へ戻ってパルヴィを救出してくれ。あ、ついでにシワだらけの禿がいたらぶっ飛ばして毛根を死滅させてこい」

「分かった」

「……毛根バスターズの力を見せてあげるわ」


 ゲイブマンの顔を知る二人を城内へ送り込む。

 ゲイブマンの人となりを多少なりとも知っていれば、ヤツの姑息な罠に引っかかる確率も減るだろう。トシコやテオドラには向かない相手だし、この二人に任せよう。


「お袋。どれくらい魔力が残ってる?」

「あいつの脚一本ふっ飛ばすくらいかねぇ。その代わり、あんたら全員の魔力は完全回復してやったよ」


 おふくろの魔力を分け与えられ、フランカやルゥシールを含め、全員の魔力が回復していた。流石魔人ガウルテリオ。十分の一でも尋常じゃない量の魔力を持っている。


「テオドラ、その武器でどこまで行けそうだ?」

「ワタシも、あの脚一本が関の山だろう」

「ほんだら、オラが二本請け負うべ」


 トシコが胸を張って言う。……出来るのか?


「カブラカン、決死の突撃でポキポキーっと折って見せるだ!」

「ちょっ、待てこらぁ!? なんでワシが決死の突撃なんぞせないかんのじゃあ!?」


 ――パシィッ!


「ブ、ブヒィッ!」


 完全にしつけられてるな、カブラカン……まぁ、分身体なら死んでも平気なのかもしれんし、死ぬ気でやってもらおう。


「ではご主人さん! わたしが残りの四本を担当します!」


 ルゥシールが胸を張って宣言する。


「挟むのか?」

「……挟んで折る気?」

「ルゥシールよ、思い切った作戦に出たな」

「まぁ、ルゥシールなら挟めんこともねぇべかね」

「よし、ドラゴン娘! 存分に挟んでやりな!」

「圧折っちゃ」

「圧折ってなんやねん!?」

「しかし殴打よりかは挟んだ方が折れやすいじゃろう」

「なんておにぃたん様好みの戦法だっ!?」

「みなさん、違いますよっ!? 挟みませんし、流石にあのサイズは挟めませんっ!」


 ラ・アル・アナンの足は、遠目に見て…………直径1メートルくらいか。


「いけんじゃね?」

「いけませんし、いきませんよっ!? ドラゴンの姿で戦うんです!」

「「「「「「「えぇーっ!?」」」」」」」

「『えぇーっ!?』じゃないですよっ!? なんですか、この団結力!?」


 フランカとトシコとウルスラ以外の全員が声を揃えた。

 いや、お前らも団結しろよ! …………あ、団結して声を出さなかったのか…………ぺったんこ同盟め。


「よし、じゃあ、行動に移るぞ!」


 俺の号令で、全員が一斉に動き出す。

 俺も駆け出す……つもりだったのだが、ルゥシールに服の袖を引っ張られてしまった。


「なんだよ?」

「……みなさんが行くまで、ここで待機です」

「待機?」

「…………変身、しなくてはいけませんので」

「………………あぁ、なるほどね」


 そうだよな。

 戦いながら出来ないもんな、アレ。


「ん~? なんだなんだ? なにか用事か? 母さんのことは気にせずにやってみるがいい」

「……そうね。私たちのことは気にしないで」

「うむ。気にするな。二人とも」

「オラ、詳しくは知らねぇでな。興味あるだ」

「陛下が気にかけていた『おにぃたんの秘密行為』というヤツだな。きっちりと観察し、陛下に報告差し上げねば」

「なんや? なんかおもろそうな展開やな」

「みんな無粋っちゃ。そっとしといてやるっちゃよ」

「アホかぁ、エアレー! こういうのは全員で楽しむもんじゃあ!」

「よぉし、テメェら、全員一列に並んで歯ァ食いしばれ!」


 一人ずつ順に殴ってやる。


「あ、あの、みなさんっ! わたしたちのことは放っておいて、早く持ち場へ! 王女パルヴィを救出し、ラ・アル・アナンを退治しましょう!」

「ウチの息子と二人っきりになりたければ、あたしを倒してからにしな!」

「うっせぇよ、お袋! お前が煽らなきゃすんなり行ったんだよ! いいから先陣切って突っ込めよ、魔神ガウルテリオ!」

「魔神に先陣切らせるとか……将としての資質を疑う采配だねぇ。まぁ、いいだろう。じゃあ、あんたたち、全員突撃! 完全勝利をもぎ取るよ!」

「「「オォーッ!」」」


 お袋が空へ駆け上がると、カブラカンがトシコを肩に乗せて走り出し、エアレーがテオドラを背に乗せて大きく跳躍し、スコルがフランカとウルスラを抱えて駆け出した。

 その場に残ったのは、俺とルゥシールだけだ。


「……気を、遣ってくださったんでしょうか?」

「いや、散々いじり倒して満足しただけだよ、あのバカ親は」


 戦う前にどっと疲れた。


「ルゥシール。二度目だが、いけるか?」

「はい。全然平気です!」


「むんっ!」と、両腕を曲げて力こぶを作るような仕草をする。

 そして、「えへへ」と笑う。

 ……戦いの前に和ませてどうするよ。まったく。


「あ、あの。目を、瞑っていていただけますか?」


 ルゥシールが服に手をかけながら言う。

 あ、なるほど……脱ぐのね。


 俺は目を瞑り、ルゥシールに背を向けた。

 さっきまで騒がしかったここも、今では急に静まり返っている。

 衣擦れの音がやけにはっきり聞こえる。

 ……な、なんか、異様に恥ずかしいんですが?


「な、なぁ!」


 堪らずに声を出す。

 無音の中衣擦れの音だけ聞いているのは心臓に悪い。


「お前の魔力を抑えている楔ってさ、シルヴァネールが打ち込んだんだよな?」

「は、はい。そうですけど……」


 ルゥシールの声がやや焦っている。

 着替えの最中に声をかけられて、なんとなく恥ずかしいのかもしれない。


「解除してもらうわけにはいかないのか? あ、いや。俺がこういうのを嫌がってるとか、そういうんじゃないんだが……いつでも好きな時にドラゴンに戻れる方が、お前も楽だろ?」


 それに対する解答は、なかなか返ってこなかった。


 マズいことを言ったかな? と、後悔し始めた頃、ようやくルゥシールが言葉を発した。

 ぽつりと、呟くように。


「……もう少しで、外れます」

「もう少し……?」

「この楔は、覚醒前のわたしの力を抑えるのが精一杯なんです。わたしが成人すれば、自然と壊れて、外れます」

「そうなのか……」


 ルゥシールに打ち込まれた楔は、光の【ゼーレ】で闇の【ゼーレ】のみを消失させるためのものだ。

 ただし、ルゥシールは絶対にその力を使わせない。その力を使えば光の【ゼーレ】は闇に飲み込まれ、シルヴァネールが消失してしまうと分かっているから。


「……わたしが成人すれば、シルヴァの力ではもう抑え込むことは不可能ですから」


 その、ルゥシールの成人は間もなくなのだという。


「おそらく、この楔が完全に外れ、消失すれば…………龍族はわたしが覚醒したと判断するでしょう」


 龍族は、お互いの【ゼーレ】の力を感じ合えるのだという。

 もし、ルゥシールの力が覚醒し、光の楔が消失すれば、闇の【ゼーレ】の相殺が失敗したとみなされるだろう。

 そうすれば、……ドラゴンの大群がルゥシールを狙って攻めてくる…………


「なので、下手に解除するわけにはいかないんです」


 急に明るい口調で、ルゥシールが言う。

 無理をしているのが分かり過ぎて辛い。


「ですので、お手数ですが、もうしばらくご協力をお願いしますね」

「おう! 任せとけ!」


 なので、俺も必要以上に明るい声で答えてやる。


「この先お前がどうなろうが、必要の有無に関わらず、いくらでも揉んでやるぜ!」

「にょにょっ!?」


 素っ頓狂な声と、ばさりと、衣類が地面に落ちる音が聞こえた。


「あ……いや、そういう意味じゃなくて、あれだ、あれ! おっぱいを揉むのは、俺の趣味だから」

「そ、その趣味は……ちょっとどうかと思いますが…………でも」


 不意に、背中に温もりを感じる。

 ふわっと、落ち着く香りが鼻腔をくすぐる。


 ルゥシールが、俺の背中に体を寄せ、抱きついてきたのだ。


「……この先、わたしがどうなろうと…………どうか…………ずっと一緒にいてください」


 俺の胸に回されたルゥシールの腕は、微かに震えていた。

 こいつは、不安なんだ。

 自分が、自分でなくなることが。

 成人することで闇の【ゼーレ】が覚醒し、その力に抗うことが出来なくなって……やがて、完全なる闇に飲みこまれてしまわないか、不安なのだ。


「……いるよ。ずっと」


 俺はルゥシールの手を取り、そして体を反転させる。

 閉じていた瞼を開け、ルゥシールの大きな紅い瞳を見つめる。


「そばにいる。いてやる。当然だろうが」

「…………ご主人さ……」


 そして、驚いた表情を見せるルゥシールの唇に、そっと口付けた。


「…………っ!?」


 ルゥシールが息を飲み、やがて、受け入れてくれた。


 唇を放すと、間髪入れずに俺の胸へと飛び込んでくる。


「……順番が違いますよ」

「いや、今のは……違うからよ」


 変身のための『仕方なし』ではない。


「………………ありがとう、ございます」


 胸に顔を押しつけたままルゥシールがしゃべるもんだから、胸のあたりがじんわりと温かくなる。

 あぁ……なんかいいな、この感じ。


「よし、じゃあ、さっさと終わらせるか!」

「はい!」


 体を離し、目を見つめ合い、そして力強く頷きを交わす。


 …………で、ルゥシールの格好に気付く。

 真っ裸だった。


「ありがとうございますっ!」

「にゃああー!? 目を! 目を瞑ってくださいっ! 大至急です!」


 ルゥシールに目を押さえつけられ、ギャーギャー騒ぎながらも、なんとかドラゴンへの変身を完了させる。


 ダークドラゴンの背にまたがり、空を不気味に歩き回る巨大なクモに接近する。

 ……俺は…………


 今なら、何だって出来る気がする!!



「待ってろ、ラ・アル・アナン! おっぱいの力を見せてやるっ!」

「きしゃあああ!」



 ルゥシールの威嚇は、目の前の巨大な敵に向けて…………では、ないような気がした。










ご来訪ありがとうございます!


今回はボス前のセーブポイント的なお話でした。

装備を整えて、アイテム整理して、

HP回復させて、パーティ組み直して……


MP回復アイテムは貴重だからイザという時のために残しておいて……ゲームクリア時に大量に在庫が…………使いまくればよかった……


みたいなことが多いです。

貧乏性なんですかねぇ。




さて、

ここ最近本編もあとがきもおっぱいの話ばかりしている気がしてきたので、

今回はおっぱいじゃない話をします。


そもそも、おっぱいってそんなに堂々と語るようなものでもないですしね。

あれは、「俺、全然そういうの興味ないですよ~」みたいな顔をしつつチラッと見るのが正しい嗜み方で、真正面からガン見する類いのものではないのです。


いうなれば、和の精神ですよね。


美しい梅の花が咲いたならば、それを折って持ち帰り独占するのではなく、遠くから眺め、その調和のとれた風景をそっと堪能する。そういうことです。


お茶で言うならば、ガブガブと常飲する緑茶や番茶などではなく、

特別な時にほんの少量いただくお抹茶のような、控えめだからこそ特別な、

そんな存在なのです。


多くの日本人が四季の移ろいを草花で感じているのは、

おそらく期間が限られているからなのだと思います。


さくらは春のほんのひと時、

朝顔は夏の朝、

紅葉は儚く散り行き、

雪に埋もれる枯れ枝もまたその時にしか味わえない趣を持っている。


多年草や常緑樹の美しさも素晴らしいものですが、

やはり、短い期間にパッと光り輝くその儚い美しさこそが人の心を惹きつけるのだと、私は思います。

それゆえのチラ見です。

胸チラ、最高です。

ぽろりでさえも、一瞬の出来事だからこそ素晴らしい。

予告なく、唐突に、そして一瞬だけ……

そこにこそ美しさや素晴らしさを見出すのが日本人なのです。


では、不変のものが素晴らしくないのかと言えば、決してそうではありません。

枯山水や石灯籠なども日本人の心を惹きつける素晴らしい風景です。

そこに求める美しさは、移ろい。


石灯籠のように普遍的なものであれば、それを取り囲む景色の変化が風流を演出してくれます。

雪や雨、日差しに日陰。変わらない物と変わりゆく物の対比もまた美しい。

Tシャツ、ブラウス、ビキニにスクミズ、体操服……分厚いコートを脱いだ下から現れる「おぉ、意外とダイナミック!」な膨らみ……こういう変化が、日本人の心を掴んで離さないのです。


そして、雪見障子。ご存知でしょうか?

障子の一部だけが開くようになっていて、雪景色を楽しめる建具なのですが、この雪見障子は日本人の趣の集大成と言っても過言ではないのではないか、私はそんな風に思います。


雪景色を見る時、大きな窓で眺めるのも美しいでしょう。

しかし、あえてその大部分を覆い隠すことにより、わずかに見える切り取られた風景に情緒が生まれるのです。

小さな小窓から見える外の世界は、無限の広がりを私たちに与えてくれます。

見えない部分を想像することで、そこから先に世界が広がっていくのです。

目に映るものがすべてではないと、教えてくれるのです。

下乳、横乳が素晴らしいのは、つまりそういうことなのです。

全部見せりゃいいってもんじゃない!

想像する余地があるからこそ、我々はそこに美しさと情緒を見出すのです。


それが、日本人のもつ、「和の心」なのです!!


つまり、何が言いたいのかというと……




日本人はみんなおっぱいが大好きだ!!




反論はないものと確信しております。


そんなわけで、たまには真面目なことも話してみようの回でした。



今後ともよろしくお願いいたします。


とまと

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