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どうも。先日助けていただいたダークドラゴンです  作者: 紅井止々(あかい とまと)
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109話 蠢く野望 トシコと巨人

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 王城最上部。王都を一望出来る砲台の間にて、ゲイブマンはほくそ笑んでいた。

 すべてがうまく運んでいる。

 すべてが、己の思うままに動いているのだ。


 ウルスラが退場し、この部屋には自分の息のかかった配下と、『現王女』しかいない。

 間もなくその王位から突き落とされる、『現王女』パルヴィだ。


 悪魔の妹のくせにのうのうと玉座に就いていた、厚顔無恥な世間知らずなお嬢様だ。

 これまで、自分の意のままに操ってきた、扱いやすい人形だ。


 ここ数年は、可愛らしい反抗心に目覚め裏工作とも呼べぬ根回しをしていたようだが、所詮は子供の浅知恵。それを逆に利用されているとも知らずに盛大に踊ってくれた。


 ゲイブマンは、自然と緩む己の口を一度撫でつけ、きつく引き結ぶ。

 まだだ。

 まだ終わってはいない。

 相手はあの悪魔の子、マーヴィン・ブレンドレルなのだ。

 化け物じみた魔力を持つパルヴィよりも、欠陥品であるヤツの方が数倍、いや、数百倍は危険だ。

 ヤツは先王の野望を打ち砕き、バスコ・トロイを撃破した。


 油断ならぬ男だ。


 しかし、まぁ……と、ゲイブマンはにやりと口角を上げる。

 ゲイブマンは完全なる勝利を確信しているのだ。

 長年研究を重ねてきた召喚魔法がついに完成したのだから。

 これで、世界は自分の思うままだ。ゲイブマンはそう確信し、知らぬ内にまた頬を緩める。


 召喚魔法最大の欠点である、『魔物の反乱』を抑制する魔法陣がつい先日完成したのだ。

 ほぼ無名だった魔導士が、ちょっとしたきっかけで生み出したこの魔法陣は凄まじい効力を発揮した。

 その魔法陣を通って召喚されたものは、召喚主には逆らえない。忠実な下僕となり、己にかしずくのだ。


 その魔法陣で最初に召喚されたのが、今、マーヴィン・ブレンドレルと交戦中の小柄な影だった。

 ヤツの魔力は、これまで召喚されたどんな魔族よりも強大で、魔神にも匹敵するほどのものだった。いや、あれこそが『魔神』と呼ぶべき恐ろしいまでの力を有していた。

 もし、ヤツが本能のままに暴れたならば、この国は一瞬で消し飛んでいただろう。

 しかし……ヤツはかしずいた。

 魔法陣の上で膝を折り、頭を垂れ、服従の意を表したのだ。


 最強の下僕を手にした瞬間だった。


 一度の召喚で多くの高位魔導士がその魔力を根こそぎ奪い取られてしまった。

 次の召喚には、数年かかると予測された。

 悪魔の子がブレンドレル国内に潜入したという知らせを受け、次の召喚は諦めざるを得なかった。

 しかし、一体とはいえ魔神レベルの忠実なる下僕を手に入れたのだ。


 すぐにでも王国へ戻り悪魔の子を亡き者にしてくれる。

 ――そう思ったゲイブマンを止めたのは、アノ小柄な影だった。


 小柄な影は、召喚に必要な魔力を提供すると言った。

 そして事実、無限とも思える莫大な魔力をヤツは惜しげもなく提供してきたのだ。

 それにより、強力な影が三体召喚出来た。


 みな、一様に黒いマントをはおり、存在があやふやなおぼろげな姿をしていた。

 希薄な存在感に反し、強烈な魔力を持つ魔神の影たち。

 もはや、ゲイブマンに敗北の二文字はあり得なかった。


 召喚を行っていたため、悪魔の子の入国には間に合わなかった。

 しかし、そんなことはどうでもよくなっていた。作戦など、何度でも練り直せばよいのだ。

 今はただ、確実に勝利を手に出来る駒が揃ったことに酔いしれたい気分だった。

 悪魔の子の消息を隠そうと躍起になる『現王女』が可愛らしくすら思えた。


 最強の下僕が四体。万に一つも敗北などありえない。


 しかし、念には念を……この臆病とも思える周到さこそが、今日のゲイブマンの地位を確固たるものにしているのだ。


 影が新たな影を召喚している間に……もうひとつの魔法陣を用意しておいた。


 最上級の『エサ』も、用意してある。


 ゲイブマンは、砲台に座る『現王女』をちらりと窺う。

 側近のベイクウェルもいなくなり不安であろうに、そんな素振りはおくびにも出さない。冷静な顔をしてそこへ座っている。大した玉だ。


 絶対なる自信から、ゲイブマンは素直に称賛を贈った。むろん、心の中で。



 王都のあちこちから爆煙が巻き上がる。

 町民たちの手前、あの影は神の御使いということにしてある。

 その御使いが悪魔の子を打ち滅ぼしてくれれば結構。もし敗北したとしても……


 その時は、さらなる悲劇が幕を開けるだけだ……


 ゲイブマンはもう一度緩む口元を押さえつけ、遠くで繰り広げられている戦いを眺める。

 確実なる勝利が約束された、殺戮のショーを。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 まず最初に動いたのは、シャドーと呼ばれた小柄な巨乳だった。

 シャドーが素早く後退すると、ルゥシールと『彼』がその後を追うように駆けて行った。


「お婿はん。きばりなね」


 トシコは心の中で『彼』の無事を祈った。

 フランカとテオドラも、他の影に誘導されるように遠くへと離れていく。


 影四人の合体魔法により周りの建物がすべて吹き飛ばされたこの場所は、瓦礫が散乱する広い空地へとその姿を変えていた。

 元食堂があった場所に立ち、トシコは少しだけ罪悪感を覚える。


「オラたちがここに隠れんかったら、この店ば壊れんで済んだがかやろうか? 気の毒なことしてまっただな。再建したら、頻繁に通ってお金ば落とすけぇ、勘弁してな」


 見も知らぬ食堂の店主に頭を下げ、トシコは目の前に『そびえたつ』不気味な影に目を向けた。


 巨人の影。

 真っ黒なマントを頭からすっぽりと被り、目だけがらんらんと輝いている。

 巨人の影がどんなに動いてもその中身を窺い見ることは出来ない。

 目の前にいるのに、本当にそこにいるのか不安になってくるような希薄な存在感。

 見ていると心がざわつく、不気味な存在だった。


「オメェ様よ! なして悪モンに手ぇば貸しよると!?」

「はぁ!? なんじゃてぇ!? ぬっしゃあ、訛りが酷ぉてよぅ聞きとれんのじゃあー!」

「訛りん酷かは、お互い様だべや!」


 トシコはぷりぷりと怒る。

 自分的に、あそこまで酷くはないと自負している。なにより、「じゃーじゃー」とがなりたてるような言葉は品が悪いと、トシコは感じていた。

 そして、あのがなるような言葉を、「じゃーじゃー弁」と名付けることにした。

 ……なんだろう、ちょっと美味しそうな響きだ。


「いいも悪いもねぇだろが! わしゃあ、強ぇヤツと戦いたいんじゃあ!」

「オラは、あんま戦いば、好かん」

「なんじゃあ、ぬしゃあも腰抜けか!?」

「…………土下座して、頭ば踏まれて喜んどったドMのくせして」

「誰が喜んどったかぁ! ふざけたこと抜かすとドツキ回すぞ、ぬしゃあ!」


 巨人がどすどすと地面を踏みしめる。

 その度に、地面には亀裂が走り、小さな振動が辺り一帯を襲う。


「暴れて地震ば起こすっち、ナマズみたいな男やね」

「誰がナマズじゃあ!?」

「ほだら、ブタけ? こんブタァ! ブヒーち鳴かんね! ブタァ!」

「…………なんで、ワシがブタなんじゃ?」

「なんでち、嬉しかろ?」

「…………いや?」

「またまたぁ! 恥ずかしがらんでよかんべや」


 トシコが口元を押さえて、「ぷぷぷ」と笑う。

 さも、「大丈夫、みなまで言わなくても分かってるよ」とでも言いたげな表情だ。

 そんな仕草を見て、巨人の影は奥歯を軋ませる。


「……ぬしゃあ……どうやら死にたいようじゃのぅ。ワシをコケにするとは大した度胸じゃ」


 巨人の影の瞳が、ギラリと輝く。

 ありったけの殺意が込められた恐ろしい視線がトシコに向けられる。


「……もう、『ヤツ』はおらんからのぉ……こんなマントもいらんじゃろう」


 巨人の影が全身を覆っていたマントを乱暴にはぎ取る。

 漆黒のマントが脱ぎ捨てられると、そこに現れたのは太い眉に巨大な二本の牙を持った、厳つい顔をした大男だった。二本の牙は下あごから突き上げるように伸び、口の外にまではみ出している。

 マントを脱いでも、巨人の体はどこか希薄で、全体的に黒くもやがかかっているように見えた。


「ワシは、魔山に棲むカブラカン! その影じゃあ!」

「影ち、なんだべ? 影だけで存在出来るわけないろうが」

「分身だとでも思っておけ。本体はまだ魔界におるんじゃ。魔力が強過ぎてこっちに出てこれんかったんでのぉ! ガッハッハッハッ!」


 カブラカンという巨人は、その強大過ぎる魔力のせいで魔法陣を通ることが出来ず、仕方なく分身と言うべき影をこの世界に送り込んできたのだ。

 力は、本体の十分の一程度。

 それでも、十二分に驚異的な魔力を有している。


「魔力が強過ぎるっち……オメ様の魔法、ショッボショボやったでねぇか」

「じゃかぁしぃわぃ、だらぁあ! 放出系だけが魔法じゃないんじゃあ! ワシの魔力は肉体強化に特化しとるだけなんじゃあ! 嘘じゃ思うなら、その体で試してみんかぁい!」


 カブラカンは、怒鳴りながら地面に腕を突き立てる。そして、地面を抉り取り、トシコに目掛けて放り投げてきた。

 巨大な岩と化して地面の塊は、凄まじい速度でトシコへと接近する。

 しかし、トシコは慌てることなくそれをかわす。

 地面へ落下し破砕した岩のかけらも、最小限の移動でかわしていく。


 トシコの動体視力は、長年の狩猟生活のおかげで異常に鍛え上げられているのだ。

 この程度の速度ならば止まっているのと大差はない。


「あんまり道に穴ばあけんとってやるだよ。修理ばぁするんは、街の人たちだでな」

「ワシの知ったことかぁ、そんなもん! 喰らえやぁ!」


 カブラカンは、手当たり次第に地面を抉り取ってはそれを次々に投擲してきた。

 巨大な岩が飛来し、地面に激突して細かい石礫が後方、左右から無軌道に襲い掛かってくる。

 しかし、そんな滅茶苦茶な攻撃も、トシコにはかすりもしない。


「……えぇ加減に、するだっ!」


 石礫をかわしながら、トシコは矢を番えカブラカンの肩に打ち込む。

 石で出来たヤジリが、カブラカンの肩に激突して弾き飛ばされる。

 カブラカンの体は、魔力によりコーティングされているのか、石のように硬かった。


「ガッハッハッハッ! 効くわけないじゃろうが、そんなオモチャが!」

「オモチャ……?」


 トシコの表情がすっと色を失う。


「…………オモチャ未満の石投げしか出来んヤツに言われたくねぇべや」


 ぞくっとするような冷たい視線をカブラカンへと向ける。

 弓はエルフの誇り。幼いころからずっと共にあり、もはや体の一部、命の次に大切と言っても過言ではない。

 そんな自慢の弓を馬鹿にされて、トシコは静かに…………キレた。


 トシコは無言で次の矢を番える。


「ガハハハハ! ムダムダァ! 何度やっても同じじゃぁあ!」


 大口を開けて笑うカブラカン。

 そんな馬鹿笑いを無視して、トシコは先ほどとまったく同じ場所へと矢を放つ。


 ――トスッ!


 と、小気味よい音を立てて矢がカブラカンの肩に突き刺さる。


「んなっ!? なんじゃとぉお!?」


 よほど自分の防御力に自信があったのか、傷を付けられたことにカブラカンは酷く驚いているようだった。

 ダメージと呼べるようなダメージこそ負っていないものの、己の肩に突き刺さった矢を、信じられないものを見るような目で見つめている。


「……思ったより硬いがぁやね」


 トシコはトシコで、納得のいっていないような表情を浮かべている。


「…………ふ…………っざけやがってぇ!」


 驚きが怒りに変換されたのか、カブラカンは己の肩に突き刺さった矢を乱暴に引き抜くと片手でバキバキとへし折った。


「ワシを本気にさせたこと、後悔させちゃるわぁ!」


 カブラカンは両足で地面を踏みしめ、両腕を目いっぱい広げて地面へと突き立てた。

 そして、まるで世界の栓でも引き抜くかのように、地面をズリズリと持ち上げたのだ。ちょっとした岩山ほどもある巨大な岩の塊が地面から抉り取られる。

 地面には底が見えないほどの大穴があいていた。


 岩山を持ち上げる腕力もさることながら、地面を引っこ抜いた非常識さがカブラカンの驚異的な強さを物語っている。

 まさに規格外。ここまで非常識な魔物は地上には存在しない……

 だが、今回は相手が悪かった。


 トシコは、その異常な光景を目の当たりにしても驚くどころか、呆れたように嘆息するのみだった。

 そして、ぼそりと呟く。


「……また、オラの忠告さ無視して…………」


 トシコは静かに矢を二本取り、二本とも弓へと番える。


「ぺちゃんこにぃぃ……なりゃぁぁぁぁがれぇぇぇぇぇえええっ!」


 岩山が空へと放り投げられ、宙を舞い、隕石のようにトシコ目掛けて落下してくる。

 これほど巨大だというのに、凄まじい速度で飛来する岩山。

 客観的に見れば、生存確率はほぼゼロに近い、絶望的な状況だ。


 だが、トシコは取り乱す様子も見せず、一度、深く息を吐いた。

 すると――トシコの息が、光の粒となり、ヤジリへとまとわりつく。


 青く澄んだ瞳を真っ直ぐ標的に向け、トシコは美しい姿勢で矢を放つ。

 少しの間を置き、連射された矢が光の尾を引きながら駆け抜ける。


 飛来する巨大な岩山に一本の矢が突き刺さる。


「バカめ! そんな矢が何の役に立つんじゃい!?」


 カブラカンが吐き捨てる。

 その直後、世界が大きく振動した。


「なんじゃぁいっ!?」


 岩山が大爆発を起こしたのだ。

 岩山に突き刺さった矢は細かい振動をしながら岩山の中心部まで突き進み、岩山の『核』を破壊した。

 すべての物体には、それを構成する『核』が存在し、その『核』を破壊すれば、物質は崩壊する。


 トシコは、その『核』を正確に見定め、寸分の狂いもなく射貫いたのだ。

 放った矢に魔力を纏わせて。


 大爆発を起こした岩山は、石にすらならない砂粒へと破砕され煙のように空中へと飛散していく。

 煙幕のように辺りに広がり視界を完全に覆い尽くす。


 そんな中、空気を切り裂くような音だけが鳴り響く。


 トシコが放った二本目の矢が、砂埃の中を突き進み、カブラカンの肩へと突き刺さる。

 またしても、先ほどと『まったく同じ場所』だ。

 正確無比なコントロール。

 そして、必ず射貫くという執念。


 そんなトシコの強い想いがカブラカンの防御力を凌駕した。


 カブラカンの肩に突き刺さった矢は、細かく振動をし、纏った魔力を推進力へと変え、カブラカンの肩を爆砕した。

 巨大な肩で大爆発が起こる。

 カブラカンの右肩が吹き飛んだ。


「嘘じゃろぉぉおおっ!?」


 吹き飛ばされた己の肩を見て、カブラカンは顔色を変える。


「……一撃目、二撃目は明らかに手加減がされとった…………ほんじゃあ、この三撃目は全力か?」


 カブラカンは呟くように自問し、そして自答する。


「そんなわけがねぇ! あいつはまだまだ力を抑えてやがる!」


「戦いば好かん」と、トシコは言っていた。

 それは本心であり、トシコは常に最小限の力しか出さないようにしているのだ。

 それこそ、カブラカンが言ったのと同じように……自分の力が強過ぎると思っているから。


「十分の一になったとはいえ、このワシの防御が、あんなチンケな弓矢ごときに!? ありえんじゃろう!? ありえんじゃろうぉがぁあ!」


 カブラカンは気が触れたように叫ぶ。


「また、オラん弓さ馬鹿にしゆっとや?」


 囁くような声が聞こえ、カブラカンが言葉を止めた。

 巨大な岩山が作り出した砂埃の煙幕の中を、トシコはゆっくりと前進している。

 澄んだ瞳を、カブラカンに固定したまま。


「……ふ…………ざ、けんな…………ワシが…………震えとるじゃと?」


 カブラカンの足が、ガクガクと震えていた。

 トシコの全身から、静かに覇気が放たれている。

 絶対的な力を持った者が纏う、殺気とも違う、戦いの気。


「ワシは、魔山に住まうカブラカンじゃ! たとえ十分の一の魔力に成り果てようとも、ワシの魂は不滅じゃ! 屈せぬ! 敗北など、有り得ぬ!!」

「……弱ぇレッサードラゴンほど、よぅ牙さ剝くだでな…………」


 トシコは弓を肩にかけると、背中に手を回した。

 そして、そこから一本の鞭を引っ張り出す。

 レッサードラゴンの調教用に使う、強靭な魔獣の腱で作った強烈な鞭だ。

 長さ2メートルの一本鞭だ。


 その鞭を振り抜くと、「パシィッ!」と、乾いた音が鳴り響く。


「……オラの言うことさ無視して、道ば穴ぼこだらけにしてもうてからに…………悪ぃ子だ」

「お、おい…………やめろ……来るなっ、来んじゃねぇ!」


 ――パシィッ!


「ヒッ!?」


 澄んだ瞳が、カブラカンを射貫く。

 先ほどの矢よりも、鋭い。心を砕くような、研ぎ澄まされた瞳。


「……オラが、きっちり調教ばしてやるだでな…………」

「ま、待て…………待って……くだ、さい…………あの、……ごめ…………ごめんなさい」

「違ぇだべ? オメさが言う言葉は、そがん言葉じゃねぇはずだべ」

「…………え? いや、……あの………………」

「分からんがか? さっきも言うたろうが…………」


 ――パシィッ!


 鞭を構えたトシコがカブラカンを冷たい瞳で見つめる。

 カブラカンは、もはや声も出せずに地べたに尻もちをついて震えていた。

 目尻に、微かに涙が浮かんでいる。


「ブヒーち鳴かんね! こんブタがぁ!」

「ブッ…………ブヒィーッ!」



 乾いた鞭の音と、カブラカンの絶叫が、荒廃した街の中に悲しくこだました。








いつもありがとうございます。


トシコに新しい属性プラスです!


いえ、

レッサードラゴンを飼い慣らしている一族ですので、

きっとこういう一面もあるんじゃないかなぁと。

ジロキチなんて8メートルもあるのに、エルフの言うことならなんだって聞くいい子ですからね。

きっと、凄まじい調教がなされていることでしょう。


もしかしたら、「ブヒィ」って鳴くかもしれません、ドラゴンなのに。



そして、

トシコ…………一人称、無理でした。

地の文をトシコでやると、翻訳家が必要になります。


なので、三人称でお送りいたしました。

ほとんど一人称ですけども。



トシコは放出系の【具現化魔法】が苦手で、

【内燃型魔法】を得意としております。

そうです、奇しくもカブラカンとまったく同じタイプの戦士なのです。


トシコは当初から謎なまま実は強い人にしようと思っていました。

後半に仲間になる人ですし、

ゲームで言うと、最初からレベル20とか、最初から上級職とか、

そういうノリです。


ただし、破壊は好まず、とことん平和主義、そんな性格をしております。


なんというか、

エルフと言えば冷静沈着、

魔法のエキスパート、

そんなイメージがありますが

トシコはことごとく違う道を歩いている娘ですね。

田舎娘で鞭使いで魔法が苦手。おまけに偽パイ。追加で女王様ですよ。

弓矢はエルフのイメージに合いますけどね。


でもエルフらしく絶世の美少女です。

それがまた、なんとも言えない台無し感というか……

この勿体なさこそがトシコの長所なのではないかと、こう思うわけです。


そもそも、なぜトシコが訛りのきつい田舎っ娘設定になったのかというと……





~ある日のオーディション~


とまと「エルフは絶世の美少女がいいですね」

プロデューサー(以下P)「今日はきゃわう~ぃ娘集めちゃってるよ!」

とまと「ゲイブマン呼んできたのあんたでしょ?」

P「ゲロゲロ! とまとちゃん、エスパー?」

とまと「感性がまったく同じですよね」

AD「最終面接の準備、整いました~!」

P「んじゃ、きゃわう~ぃ娘ちゃん、入れちゃって! You入れちゃいなよ!」

AD「1番の方、どーぞ」


――ガチャ。


とまと・P「おぉ~! めっちゃ美少女ーっ!」

トシコ「はずめますて。オラ、トシコっちゅいますだ。ほんじづは、よろしゅうお願いいだしますべ」

とまと・P「わぁ~お…………すげぇ訛ってる」

トシコ「特技は、イノシシさ捌けます!」

とまと「ダイナミック!?」

P「でも、エルフっぽい可憐さがあるよね」

とまと「いや、こんな訛ったエルフいないでしょう?」

P「いないなら作っちゃえばいいじゃん!」

とまと「はぁ!?」

P「いいね! 君、凄くいいよ!」

トシコ「ホンマですか!? あぁ~よがっだぁ。いんやね、おっとぉもおっかぁも、『オメみてな田舎もん、誰が相手っくさするがいなぁ!』言うて、オラんことさバカにするでぇ、オラもうアッタマきてもて、『バカにするでねぇ! もし合格出来んかったら、オラ一生イノシシの世話してやっが!』ち、大見栄きってきてもたがよぉ。ほんなこつ、合格ばさしてもらわんと、オラ困ってまうところだったがやぁ」

P「OK、OK! 八割方何言ってるか分かんなかったけど、Youきゃわう~ぃから合格! 採用しちゃう! Me採用しちゃえばいいじゃん!」

とまと「ちょっと待ってくださいよ! こんな訛ったエルフ登場させるんですか!? この娘、本編では標準語話すようになるんですよね!?」

P「とまとちゃん!」

とまと「なんですか!?」

P「ガ・ン・バ!」

とまと「だから、センスが80年代なんだよ、オッサン!」

トシコ「はぁ~、やっぱギョーカイん人ば、面白かねぇ~!」

P「あ、でもトシコちゃん、おっぱい悲惨だから、偽パイ詰め込んでね」

トシコ「悲惨っ!? な、なん言いよるかぁ!?」

とまと「ホントだ。背景が透けて見えそうな程薄い」

トシコ「そがん薄かなかやろう!?」




――と、こうしてエルフが偽パイの訛りっ娘になったのです。


信じるか信じないかはあなた次第!!




次回もよろしくお願いいたします。


とまと


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