ゾッコン8
「よーし次はどこいく!?…あ!パフェーだよ!パフェー。」
「はいはい何ですかその発音。
待ってください。…ってお金もうないですけど、僕」
「いいって!私が出すから。誘ったのは私だし、なにより風俗は稼げるからね!」
二人のやりとりを見て望月は安心した。
(よかった、すぐに立ち直ってくれて。)
「あとは何処かなー…お酒飲みたいなぁ。」
「学園祭には流石にお酒は…帰り付き合います。まだ気にしてるんですよね、あのこと。」
京野のまさかの発言に東雲と望月は目を丸くした。
「え?いやいやでも梨々香、立ち直り早いし…」
「…うぐぅ…」
「ええええっ!?梨々香本当に気にしてたの!?」
「だって…リンくんに酷いことしちゃったし…私、関係ないのにクラスメートをリンくんから距離ができるようなことしてしまったし…」
そういいながら東雲はアイスコーヒーのストローを咥えた。
「あの…自分から話題を振っておいてですが、僕にはなんの慰めの言葉も出てこないです…ごめんなさい。」
京野はそこで言葉を区切り
「でも、梨々香さんが気にすることはないと思います、ほんとに。…そもそもあれなんですよ。風俗嬢と付き合うことになんで悪い偏見があるのかが理解できません!キャバクラもソープランドもどちらもちゃんとした三次産業じゃないですか!」
京野が息を切らしながら言い切ると東雲は顔を下げた。
「…フッ…フフッ…クスクス…アハハハハハッ!」
「り、梨々香?」
「なんで笑うんですか!」
笑っている東雲の顔には、それほど面白かったか嬉しかったのかは分からないが目に涙まで浮かべている。
「だ、だってリンくんがここまで感情的に怒ったのって初めて見たもん。」
「そ、そんなことないですよ!失礼ですね。もともとから僕は梨々香さんに振り回されてるんですから。」
京野は前半は怒ったような表情だったが、後半に連れて顔が朗らかになっていった。
「ふふふ本当だね、まだ付き合って間もないのにおかしいね。」
すると突然東雲は京野を抱きしめた。
京野は驚きで固まり、東雲の豊満な胸が当たっていることさえも意識できなかった。
「ななななななにを…」
ーーありがと
…
「え…今なんて…」
「あーもう惚気てないでさっさと行くよ、見てるこっちの身にもなってよ…ったく。」
「あああっ!恵里子先輩!いいとこだったのに…」
結局東雲は望月に引きとめられ、京野は東雲の言葉を知ることはなかった。
*
一方、津田はとある空き教室を使い、羽場を拘束していた。
「さて…お前はどういうつもりだったんだ…?」
「な、何がーー」
「口を挟むなっ!」
「理不尽っ!」
とは言っても、羽場は固定された椅子にさらに固定されているため動くことが出来ないでいる。
さらに、羽場は猿轡を付けられまともに話せなくなってしまった。
もちろんこんなことを生徒会がしていいわけない。が津田には関係ないことだった。
「さて…と、静かになったところで刑に移るとするか。なぁに大丈夫だ、わざとじゃないことくらい分かっている。だからこそ罪が重くなるのだがな。」
羽場は目に涙を浮かべながら声にならない悲鳴を上げた。
*
「…!り、梨々香さん!?何か聞こえませんでしたか?…何か猿轡を咥えながら叫ぶような声。」
「なにそれとても具体的。」
そんなどうでもいい会話をしながら廊下をブラブラしていると、京野は一人の少女に声をかけられた。
「あ、京野くん。こんにちはー。そちらの方はお姉さんですか?」
少女は平塚英美と名乗り、京野の所属する保険委員の先輩だと告げた。
「へぇーリンくん保険委員なんだぁ。」
「…疚しいこと考えてました?」
「別にー?」
東雲は京野のジト目を無視して口だけで笑みを作った。
「あ、ごめんね。平塚さんだっけ、私は東雲梨々香。リンくんのかのーー」
「そして、その先輩の望月恵里子です。よろしくね。」
望月は東雲の言葉を遮られたことに対する睨みを無視した。
「…?はい、宜しくお願いします。」
平塚は不思議そうに首を傾げたが、すぐに気持ちを入れ替えて京野に話しかけた。
「京野くんって美人のお姉さん居たんだねー。っていうよりも家ではリンくんって呼ばれてるんだ。」
「え、えっと…」
平塚の頬は京野を見るたびに赤くなっている。
東雲は平塚の気持ちに笑いそうになるのを堪えたが少しずつ息が漏れてしまっていた。
「ちょ、ちょっと梨々香!多分あの子…」
「分かってますって、それに黙ってた方が面白そうですよ。」
「何バカみたいなこと言ってるのよ。」
東雲は望月の言葉を流して悪い笑みを浮かべた。